説明

めっき前処理液及びそれを用いたハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法

【課題】ハードディスク装置用アルミニウム基板の表面を無電解ニッケルめっきに適した表面とすることのできるめっき前処理液及びそれを用いたハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法を得ること。
【解決手段】ハードディスク装置用アルミニウム基板製造のめっき前処理に用いられるめっき前処理液は、鉄イオン濃度が0.1〜1.0g/lでかつ硝酸濃度が2.0〜12.0wt%である。このめっき前処理液を、ハードディスク装置用アルミニウム基板に無電解ニッケルめっきをするめっき工程の前処理に用いる。これにより、ハードディスク装置用アルミニウム基板の表面を無電解Niめっきに適した表面とし、めっき工程で無電解ニッケルめっきを行った場合に、めっき表面のうねり、ノジュール及びピットの発生を抑制して平滑なめっき皮膜表面を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置用のアルミニウム基板に無電解ニッケルめっきを行う前の処理に用いられるめっき前処理液及びそれを用いたハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置(HDD)の磁気ディスク基板を製造する方法として、アルミニウム基板に無電解ニッケルめっきを行う前にめっき前処理を行い、めっき前処理が行われたアルミニウム基板に無電解ニッケルめっきを施して、磁気ディスク基板を製造する方法が一般に知られている。
【0003】
めっき前処理では、脱脂処理、エッチング処理、脱スマット処理、ジンケート処理が行われており、ジンケート処理として、第一次ジンケート処理の後に、脱ジンケート処理を行い、その後に第二次ジンケート処理を行うダブルジンケート処理が知られている。
【0004】
無電解ニッケルめっき皮膜の表面に、うねりや、ノジュールと呼ばれる凸欠陥、またはピットと呼ばれる凹欠陥が多数存在する場合、研磨の工程で取りきることができずに、欠陥として残るおそれがある。したがって、より平滑なめっき皮膜の表面が得られる無電解めっきの方法を開発することが必要である。
【0005】
例えば、特許文献1には、凸欠陥のないめっき皮膜の表面を得るために、脱スマット処理で用いられる硝酸浴に周期律第IV族金属イオンを含有させることによって、めっき皮膜表面を平滑にする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−236476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、脱スマット処理やダブルジンケート処理の脱ジンケート処理に用いられる硝酸浴に鉄イオンを添加すると、ノジュールは減少するが、めっき皮膜表面にピット(凹欠陥)が発生しやすくなることを見出した。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アルミニウム基板の表面を無電解ニッケルめっきに適した表面とすることのできるめっき前処理液及びそれを用いたハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の処理液は、ハードディスク装置用アルミニウム基板製造のめっき前処理に用いられるめっき前処理液であって、鉄イオン濃度が0.1〜1.0g/lでかつ硝酸濃度が2.0〜12.0wt%であることを特徴としている。
【0010】
本発明のめっき前処理液を用いたハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法に、ダブルジンケート処理があり、その際に脱スマット処理と脱ジンケート処理の両方において、本発明のめっき前処理液を用いることができる。また、脱スマット処理と脱ジンケート処理のいずれか一方にのみ用いてもよい。本発明は、Ni-Pめっきに限らず、Niを含むめっきの前処理に用いることができる。例えば、Ni-B, Ni-W, Ni-P-In, Ni-P-Mo, Ni-P-W, Ni-P-Bなどのめっき前処理にも用いることができる。
【0011】
本発明のめっき前処理液により、アルミニウム基板の基板表面に鉄を極微量析出させることができ、その後のジンケート処理においてこの鉄を起点に亜鉛の均一な析出を促し、めっき表面を平滑化できる。また、硝酸濃度を制御することにより、鉄の過剰な析出を抑制し、アルミニウムへの侵食や硝酸による侵食を防ぐことでピットの発生が抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のめっき前処理液によれば、無電解ニッケルめっきにおいてめっき表面を平滑化することができる。また、めっき前処理液の硝酸濃度を2.0〜12.0wt%の範囲に制御することによって、ピットの発生を抑制することができる。
【0013】
したがって、アルミニウム基板の表面を無電解ニッケルめっきに適した表面とすることができ、無電解ニッケルめっきを行った場合に、めっき表面のうねり、ノジュール及びピットの発生を抑制して平滑なめっき皮膜表面を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態に係わるめっき前処理液は、ハードディスク装置用の磁気ディスク基板を製造するのに用いられるものであり、アルミニウム基板に無電解ニッケルめっきを行う前のめっき前処理に用いられる。無電解ニッケルめっきは、Ni-Pめっきに限らず、Niを含むめっきの前処理に用いることができる。例えば、Ni-B, Ni-W, Ni-P-In, Ni-P-Mo, Ni-P-W, Ni-P-Bなどのめっき前処理にも用いることができる。
【0015】
めっき前処理が行われたアルミニウム基板は、従来と同様に、基板表面に無電解ニッケルめっきが施され、無電解ニッケルめっき皮膜の表面が鏡面研磨されて、更に磁性膜、保護膜、潤滑膜が成膜されることで磁気ディスク基板とされる。
【0016】
上記しためっき前処理では、(i)脱脂処理、(ii)エッチング処理、(iii)脱スマット処理、(iv)ジンケート処理が行われる。なお、これら(i)〜(iv)の各工程の間には、水洗処理が実行される。
【0017】
(i)脱脂処理は、アルカリ浴によりアルミニウム基板の基板表面の油分を除去する工程であり、市販の脱脂液を用いて行うことができる。(ii)エッチング処理は、アルミニウム基板の基板表面の微小突起物を除去する工程であり、硫酸を含む公知のエッチング処理液を用いて行うことができる。
【0018】
(iii)脱スマット処理は、上記した脱脂処理のアルカリ浴によって基板表面に生成されたスマットを除去する工程であり、本発明のめっき前処理液、すなわち、鉄イオン濃度が0.1〜1.0g/lでかつ硝酸濃度が2.0〜12.0wt%であるめっき前処理液を用いて行われる。
【0019】
本発明のめっき前処理液を用いて脱スマット処理を行うことにより、アルミニウム基板の基板表面に鉄を極微量析出させることができ、その後の(iv)ジンケート処理においてこの鉄を起点に亜鉛の均一な析出を促し、めっき表面を平滑化できる。また、硝酸濃度を制御することにより、鉄の過剰な析出を抑制し、アルミニウムへの侵食や硝酸による侵食を防ぐことでピットの発生が抑制できる。
【0020】
(iv)ジンケート処理は、アルミニウム基板と無電解ニッケルめっき皮膜との密着性を向上させるために基板表面に亜鉛皮膜を析出させる工程であり、本実施の形態では、基板表面に亜鉛皮膜を形成した後に除去し、再び亜鉛皮膜を形成するダブルジンケート処理として、第一次ジンケート処理、脱ジンケート処理、第二次ジンケート処理が行われる。
【0021】
第一次ジンケート処理は、従来から用いられている公知のジンケート処理液にアルミニウム基板を浸漬して、基板表面に亜鉛を析出させて亜鉛皮膜を形成する工程であり、ジンケート処理液には、金属分として亜鉛を含む以外に、更に鉄等の金属塩や含有される金属の錯化剤を含んでいてもよい。
【0022】
脱ジンケート処理は、良好なめっきの密着性を得るために、第一次ジンケート処理で形成された亜鉛皮膜を除去する工程であり、本発明のめっき前処理液、すなわち、鉄イオン濃度が0.1〜1.0g/lでかつ硝酸濃度が2.0〜12.0wt%であるめっき前処理液を用いて行われる。
【0023】
第二次ジンケート処理は、従来から用いられている公知のジンケート処理液にアルミニウム基板を再度浸漬して、基板表面に、第一次ジンケート処理のときよりも、緻密で微細な亜鉛粒子を析出させて亜鉛皮膜を形成する工程である。ジンケート処理液には、金属分として亜鉛を含む以外に更に鉄等の金属塩を含んでいてもよい。
【0024】
無電解ニッケルめっきは、水溶性ニッケル塩、有機酸塩やアンモニウム塩等のニッケルの錯化剤を含有し、次亜リン酸又は次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸塩を還元剤として用いた公知のめっき浴、めっき条件を採用して行うことができる。
【0025】
上記しためっき前処理液によれば、鉄イオン濃度を0.1〜1.0g/lの範囲とすると、めっきの前処理においてアルミニウム基板の基板表面に鉄を極微量析出させることができ、その後のジンケート処理において、この鉄を起点に亜鉛の均一な析出を促し、無電解ニッケルめっきにおいてめっき表面を平滑化できる。したがって、めっき後の基板表面のうねりやノジュールの発生を抑制できる。
【0026】
また、めっき前処理液の硝酸濃度を2.0〜12.0wt%の範囲とすると、鉄の過剰な析出を抑制し、アルミニウムへの侵食や硝酸による侵食を防ぎ、ピットの発生を抑制することができる。この際、めっき前処理液に添加される鉄源の鉄イオンは2価もしくは3価を用いることができ、より好ましくは3価の鉄イオンを用いる。
【0027】
なお、鉄イオン濃度が0.1g/l未満の場合には、めっき処理後のノジュール及びうねりの低減効果が低くなり、鉄イオン濃度が1.0g/lよりも高い場合には、アルミニウム基板が腐食され、めっき処理後の表面にピットが発生すると考えられる。また、硝酸濃度が2.0wt%未満、あるいは12wt%よりも高い場合には、アルミニウム基板が腐食され、めっき処理後の表面にピットが発生すると考えられる。
【0028】
上記構成を有するめっき前処理液を用いて、ジンケート処理の前処理である脱スマット処理、及び、第二次ジンケート処理の前処理である脱ジンケート処理を行うことによって、アルミニウム基板表面に鉄を均一に析出させることができ、この析出した鉄を起点にジンケート処理にて亜鉛を均一に析出させることができる。このめっき前処理液は、脱スマット処理又は脱ジンケート処理の両工程に使用する方が効果的であるが、いずれか片方の工程にのみ使用してもその効果が得られる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例と比較例を示し、本発明の内容を具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に制限されるものではない。
【0030】
平均表面粗さRa=15nmの市販の3.5インチアルミニウムサブストレートを、公知のリン酸ソーダと界面活性剤からなる脱脂液を用いて50℃、2分間脱脂処理した後に、硫酸とリン酸を含有する公知のエッチング液を使用して50℃、2分間エッチング処理をした。
【0031】
その後、表1に示す組成の硝酸処理液(めっき前処理液)で脱スマット処理を20℃で30秒間行い、水酸化ナトリウムと亜鉛と鉄およびその錯化剤からなる公知のアルカリ性ジンケート処理液を用いて、20℃で30秒間、第一次ジンケート処理を行った。
【0032】
更に、表1に示す条件の硝酸処理液(めっき前処理液)で脱ジンケート処理を20℃で30秒間行い、水酸化ナトリウムと亜鉛と鉄およびその錯化剤からなる公知のアルカリ性ジンケート処理液を用いて、20℃で30秒間、第二次ジンケート処理を行った。
【0033】
次いで、公知のリンゴ酸−コハク酸系無電解ニッケルめっき液を用い、85℃、2.0時間、無電解ニッケルめっきを行った。
めっき表面状態の評価方法は、ノジュール、基板表面のうねり、ピットに基づいて行った。
【0034】
ノジュールについては、メディア表面検査装置(KLA−Tencor社製Candela5100)を使用して、めっき後のアルミニウム基板の基板表面に存在するノジュールの数を測定した。
【0035】
うねりについては、平坦度測定装置(KLA−Tencor社製Opti flat)を使用して、脱脂処理前と無電解ニッケルめっき後のアルミニウム基板について、基板表面の5mmの波長のうねりの高さを測定し、脱脂処理から無電解ニッケルめっきまでの間に増大したうねりを算出した。
【0036】
ピットについては、めっき後のアルミニウム基板の基板表面を、Nikon製光学顕微鏡を使用して40倍にて観察し、ピット量を測定した。
【0037】
以下の表1に、無電解ニッケルめっきによって、めっき皮膜の表面に発生するうねり、ノジュール、ピットの測定結果を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果より、硝酸処理液(めっき前処理液)に鉄イオンを適量添加した実施例1〜7では、鉄イオンを添加していない比較例1と比較して、ノジュールとうねりが低減されていることがわかる。一方、比較例1のように鉄イオン濃度が0.1g/l未満の場合、ノジュール及びうねりの低減効果は低くなり、比較例5、6のように鉄イオン濃度が1.0g/lよりも高い場合には、アルミニウム基板が腐食されて、めっき処理後の表面に発生するピットの個数が増加すると考えられる。
【0040】
そして、鉄イオンを添加した硝酸処理液(めっき前処理液)の硝酸濃度を2.0〜12.0wt%の範囲に制御することで、ピットの発生を抑制することができたことがわかる。特に、実施例2〜4のように、硝酸濃度を5.0〜10.0wt%の範囲に制御した場合には、ピット数が0.082であり、他と比較して最も少なく、特に好ましいことがわかる。
【0041】
一方、比較例2のように、硝酸濃度が2.0wt%未満、あるいは比較例1、3、4のように、12wt%よりも高い場合には、アルミニウム基板が腐食され、めっき処理後の基板表面に発生するピットの個数が増加すると考えられる。
【0042】
これらのことから、鉄イオンを適量添加した硝酸処理液(めっき前処理液)の硝酸濃度を適切な範囲に制限することによって、ピットの発生の抑制と、ノジュール及びうねりの抑制の両立が可能になったことがわかる。
【0043】
尚、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施の形態では、ジンケート処理としてダブルジンケート処理を行い、脱スマット処理と脱ジンケート処理の両方において、本発明のめっき前処理液を用いる場合を例に説明したが、脱スマット処理と脱ジンケート処理のいずれか一方に用いてもよい。また、ダブルジンケート処理に限られず、ジンケート処理と脱ジンケート処理を交互に繰り返しを行う場合には、少なくとも1回、上記した本発明のめっき前処理液を用いた脱ジンケート処理を行ってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードディスク装置用アルミニウム基板製造のめっき前処理に用いられるめっき前処理液であって、鉄イオン濃度が0.1〜1.0g/lでかつ硝酸濃度が2.0〜12.0wt%であることを特徴とするめっき前処理液。
【請求項2】
前記硝酸濃度が5.0〜10.0wt%であることを特徴とする請求項1に記載のめっき前処理液。
【請求項3】
アルミニウム基板に無電解Niめっきをするめっき工程を有するハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法であって、鉄イオン濃度が0.1〜1.0g/lでかつ硝酸濃度が2.0〜12.0wt%であるめっき前処理液を前記めっきの前処理に用いることを特徴とするハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法。
【請求項4】
前記前処理は、脱スマット工程であることを特徴とする請求項3に記載のハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法。
【請求項5】
前記前処理は、ジンケート工程の後に行われる脱ジンケート工程であることを特徴とする請求項3に記載のハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法。
【請求項6】
前記前処理は、脱スマット工程と、ジンケート工程の後に行われる脱ジンケート工程と、であることを特徴とする請求項3に記載のハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法。
【請求項7】
前記めっき前処理液の硝酸濃度が5.0〜10.0wt%であることを特徴とする請求項3から請求項6のいずれか一項に記載のハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法。
【請求項8】
前記無電解Niめっきは、Ni-Pめっきであることを特徴とする請求項3から請求項7のいずれか一項に記載のハードディスク装置用アルミニウム基板の製造方法。

【公開番号】特開2012−153930(P2012−153930A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13139(P2011−13139)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】