説明

めっき方法及び装置

【課題】電圧異常によるめっき不良を回避し得、かつ、めっき膜厚分布の均一性の悪化を防止することができ、アノードメンテナンス周期を伸ばし、めっきザラ等不良を低減することができる電気めっき方法及び電気めっき装置を提供する。
【解決手段】電気めっき液が収容されためっき槽内に、電気めっき液が流通可能でアノードスライムを通過させないアノードバッグ又は隔膜を配設してアノード室を区画形成し、このアノード室内にアノードを配置させると共に、アノード室以外に被めっき物を配置し、この被めっき物をカソードとして前記アノードとの間に電圧を印加し、被めっき物を電気めっきする方法において、前記アノードを振動もしくは搖動させるか、又はアノード室内の電気めっき液をアノードに対向して流動させ、このめっき液流をアノードに当てて、アノードに付着しているアノードスライムを強制的に離脱、除去させながらめっきを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気めっき中にアノードから生じるアノードスライムに基づくめっき不良を防止し、電流密度が3A/dm2以上のめっき速度が比較的速い場合や連続搬送めっき等に好適に採用される電気めっき方法及び電気めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気銅めっき等の電気めっきを行う場合、通常アノードとしては、電気めっきの金属種類に応じた銅等の金属アノードを用いる。この金属アノードは、電気めっきの進行と共にめっき液中に電気化学的に溶解していくが、この時同時にアノードスライムが生成する。このように生成したアノードスライムは、めっき液中に分散し、被めっき物に付着した場合には、めっきザラが発生し、めっき不良の原因となる。このため、従来は、めっき液を流通させるがスライムを通過させないアノードバッグや隔膜でめっき槽内にアノード室を区画形成し、アノードをこのアノード室内に配置してアノードから脱落したアノードスライムがアノード室外に分散することを阻止し、アノード室外に配置してめっきを施す被めっき物にアノードスライムによるザラツキが生じてめっき不良が起こることを防止していた。
【0003】
しかし、アノード室にアノードを配置し、アノードをカバーするだけでは、発生したアノードスライムがアノード室内に蓄積し、めっき膜厚分布の均一性を悪化させたり、アノード通電不良を発生させ易いという不具合があった。この問題を解決するため、アノード室内のめっき液を循環濾過することが行われていた(特許文献1:特開2002−97597号公報、特許文献2:特開平7−286299号公報)。
【0004】
しかしながら、アノード室内のめっき液を循環濾過することで、上記不具合におけるある程度の改善効果は期待できるが、循環濾過でアノードスライムを完全に除去することはできないため、電圧異常が発生し易かった。特に電流密度が3A/dm2以上のめっき速度が比較的速い場合には単位時間当たりのアノードスライムの発生量が多いため、また、めっき速度が遅い場合でも連続搬送装置のように電流遮断時間がない場合、常時アノードスライムが発生しており、再溶解する機会がないため、アノードスライムの堆積に循環濾過が追いつかず、電圧異常やめっき膜厚分布の均一性の悪化が発生し易かった。
【0005】
このような場合、アノード室をエアー攪拌するなどしてアノード付近の溶存酸素を強制的に高めてスライムを再溶解させることが行われる(特許文献3:特開平9−241894号公報、特許文献4:特許第3455705号公報、特許文献5:特開2004−143478号公報、特許文献6:特開2004−332094号公報)が、アノード付近をエアー攪拌するなどしてその付近の溶存酸素を高めると、アノード自体の化学的溶解も同時に生じ、めっき液中の金属イオン濃度が増大し、その管理濃度範囲を超えて急速に上昇してしまう。このため、部分更新が頻繁に必要になるなどの問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−97597号公報
【特許文献2】特開平7−286299号公報
【特許文献3】特開平9−241894号公報
【特許文献4】特許第3455705号公報
【特許文献5】特開2004−143478号公報
【特許文献6】特開2004−332094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、電圧異常によるめっき不良を回避し得、かつ、めっき膜厚分布の均一性の悪化を防止することができ、アノードメンテナンス周期を伸ばし、めっきザラ等の不良を低減することができる電気めっき方法及び電気めっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成させるため鋭意検討を行った結果、アノード室内に配置したアノードを振動もしくは搖動させたり、アノード室内のめっき液をアノードに向けて流動させてめっき液流をアノードに当て、アノードに付着しているアノードスライムを強制的に落下、除去させながらめっきを行うことにより、電圧異常によるめっき不良が防止され、めっき膜厚分布を長期に亘って一定に維持することができて、アノードメンテナンス周期を伸ばすことも可能であり、めっきザラツキも防止し得ることを知見すると共に、その効果は、電流密度が3A/dm2以上の場合や、連続搬送装置を用いためっきに採用した場合において特に効果が高いことを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記の電気めっき方法及び電気めっき装置を提供する。
請求項1:
電気めっき液が収容されためっき槽内に、電気めっき液が流通可能でアノードスライムを通過させないアノードバッグ又は隔膜を配設してアノード室を区画形成し、このアノード室内にアノードを配置させると共に、アノード室以外に被めっき物を配置し、この被めっき物をカソードとして前記アノードとの間に電圧を印加し、被めっき物を電気めっきする方法において、前記アノードを振動もしくは搖動させるか、又はアノード室内の電気めっき液をアノードに対向して流動させ、このめっき液流をアノードに当てて、アノードに付着しているアノードスライムを強制的に離脱、除去させながらめっきを行うことを特徴とする電気めっき方法。
請求項2:
アノードからアノードスライムを強制的に離脱、除去させる手段が、下記(i)〜(v)、
(i) アノードをバイブレーターに接続し、アノードを振動させる
(ii) アノードを搖動装置に接続し、アノードを搖動させる
(iii) アノード室内に攪拌羽を配設し、この攪拌羽をアノードに当接してアノードを振動させるか、又はアノード室内のめっき液をアノードに対向して流動させ、このめっき液流をアノードに当てる
(iv) アノード室内に超音波発生装置を配設し、この超音波によるめっき液の超音波攪拌流をアノードに当てる
(v) アノード室内にめっき液噴流をアノードに対向して噴出させ、この噴出しためっき液噴流をアノードに当てる
のいずれかの手段である請求項1記載の電気めっき方法。
請求項3:
アノードが多数の透孔を有するアノードケースとその内部に充填された多数のアノードボールとからなる請求項1又は2記載の電気めっき方法。
請求項4:
アノード室内に離脱したアノードスライムをめっき液と共に連続的又は間欠的にめっき槽外に吸引排出し、このアノードスライムを含むめっき液を外部貯槽に導入し、この貯槽内のめっき液に空気攪拌又は機械攪拌を与えてアノードスライムをめっき液に溶解させると共に、この貯槽内のめっき液をフィルターを介してめっき槽内に連続的又は間欠的に返送するようにした請求項1,2又は3記載の電気めっき方法。
請求項5:
アノード室内に離脱したアノードスライムをめっき液と共に連続的又は間欠的にめっき槽外に吸引排出し、このアノードスライムを含むめっき液が流通するめっき液循環配管内にエアーを吹き込んでアノードスライムをめっき液中に溶解させると共に、このめっき液をフィルターを介してめっき槽内に返送するようにした請求項1,2又は3記載の電気めっき方法。
請求項6:
電気めっき液が収容されるめっき槽と、このめっき槽内に電気めっき液が流通可能でアノードスライムを通過させないアノードバッグ又は隔膜を配設することにより区画形成されたアノード室と、このアノード室内に配置されたアノードとを具備する電気めっき装置であって、アノードに付着しているアノードスライムを強制的に離脱、除去する手段として前記アノードを振動もしくは搖動させる手段、又はアノード室内におけるめっき液をアノードに対向して流動させ、このめっき液流をアノードに当てる手段を備えたことを特徴とする電気めっき装置。
請求項7:
アノードからアノードスライムを強制的に離脱、除去させる手段として下記(i)〜(v)
(i) アノードに接続されてアノードを振動させるバイブレーター
(ii) アノードに接続されてアノードを搖動させる搖動装置
(iii) アノード室内に配設され、アノードに当接してアノードを振動させ、又はめっき液を流動させてアノードにこのめっき液流を当てる攪拌羽
(iv) アノード室内に配設され、アノードに超音波攪拌流を当てる超音波発生装置
(v) アノード室内に配設され、めっき液をアノードに対向して噴出し、アノードにめっき液噴流を当てるめっき液噴出ノズル
のいずれかを備えた請求項6記載の電気めっき装置。
請求項8:
アノードが多数の透孔を有するアノードケースとその内部に充填された多数のアノードボールとからなる請求項6又は7記載の電気めっき装置。
請求項9:
アノード室内に離脱したアノードスライムをめっき液と共にめっき槽外に吸引排出する、ポンプが介装された導出管と、このアノードスライムを含むめっき液を貯留する外部貯槽と、この貯槽内のめっき液を空気攪拌又は機械攪拌してアノードスライムをこのめっき液に溶解させるめっき液攪拌装置、前記貯槽内のめっき液をめっき槽に返送する、ポンプ及びフィルターが介装された返送管を更に具備する請求項6,7又は8記載の電気めっき装置。
請求項10:
アノード室内に離脱したアノードスライムをめっき液と共にめっき槽外に吸引排出する、ポンプ及びフィルターが介装されためっき液循環配管と、この配管のフィルター介装位置より上流側において設けられ、前記配管内を流れるめっき液にエアーを吹き込んでアノードスライムをめっき液に溶解させるためのエアー吹き込み装置を更に具備する請求項6,7又は8記載の電気めっき装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明のめっき方法及びめっき装置によれば、アノードスライムに基づく電圧異常を回避し、電圧異常によるめっき不良を防止し得る。また、めっき膜厚分布の低下を防止して均一なめっきを長期間に亘り可能とし、アノードメンテナンス周期を伸ばすこともできる。更に、めっきザラツキ等の不良を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のめっき装置は、電気めっき液が収容されるめっき槽と、このめっき槽内にめっき液が流通可能で、アノードスライムを通過させないアノードバッグ又はイオン交換膜等の隔膜により区画形成されたアノード室と、このアノード室内に配置されたアノードとを具備し、アノード室外に配置されたカソードとしての被めっき物とアノードとの間に電圧を印加することにより、被めっき物に電気めっきを施すもので、以上の構成は従来装置と同様である。
【0012】
この場合、本発明の装置においては、アノードに付着しているアノードスライムを強制的に離脱、除去させる手段を備えたもので、かかる手段として、アノードを振動又は搖動させる手段、又はアノード室内におけるめっき液をアノードに向けて流動させることにより、このめっき液流をアノードに当てる手段を有するものである。
【0013】
図1は、本発明装置の一実施例を示すもので、図中1は、内部に硫酸銅めっき液等の電気めっき液2が収容される電気めっき槽である。
【0014】
10は、めっき液は流通させるが、アノードスライムは通過させない公知のアノードバッグ又は隔膜11によりめっき槽1内に区画形成されたアノード室で、このアノード室10内にアノード12が配置されている。この場合、アノード12は、図1ではチタンバスケット等の多数の透孔が形成されたアノードケース13内に多数の銅ボールなどのアノードボール14が充填されたものであるが、アノードはこれに限定されるものではなく、銅板等の金属板にて形成することもできる。
【0015】
なお、図中15は、アノード室10の外側に配置されたカソードとなる被めっき物である。
【0016】
ここで、図1の実施例においては、アノード12からアノードスライムを強制的に離脱、除去させる手段20として、上記アノード12にバイブレーター21が接続され、このバイブレーター21の作動により、アノード12が振動するようになっている。この場合、バイブレーター21によるアノード12の振動条件は適宜選定されるが、振動数は5〜200Hz、特に20〜100Hzであることが好ましく、また振幅は0.01〜10mmで、特に0.1〜5mmの範囲が好ましい。
【0017】
また、図1の実施例では、アノード室10内のめっき液を循環させる手段30が設けられている。この手段30は、アノード室10内のアノードスライムをめっき液と共に吸引排出させる導出管31と、外部貯槽32と返送管33とを備えたもので、導出管31には循環ポンプ34が介装され、導出管31の一端吸引口33aが、アノード12の下方に配置され、ポンプ34の作動でアノード12の下側のめっき液が吸引されて、貯槽32に吸引されためっき液が送られるようになっている。貯槽32は、このように吸引されためっき液2aを貯留するもので、この貯槽32には、エアーポンプ35を備えたエアー配管36が配設されており、エアーポンプ35の作動で上記めっき液2aにエアーが送り込まれ、これによりこのめっき液2a中のアノードスライムをめっき液2aに溶解させるようになっている。上記返送管33には、フィルター37及びそれより下流側に循環ポンプ38が介装され、貯槽32で上記のように処理されためっき液2aは、ポンプ38の作動でフィルター37を通り、なお残存するスライム等の微粒子を除去した後、上記アノード室10に返送されるものである。
【0018】
上記のようなめっき装置を用いて電気めっきを行う場合、電気めっき液としては、硫酸銅めっき液等の公知組成の酸性めっき液が好適に用いられ、例えばプリント配線板等に対して効果的にめっきを施すことができる。この場合、めっき方法は、被めっき物をめっき槽内のめっき液に浸漬し、所定時間めっき後に被めっき物をめっき槽から引上げる通常のディップ法のほか、連続搬送めっき装置を用いる方法が有効に採用される。なお、連続搬送めっき法は、めっき槽中でプリント基板等の被めっき物に通電を行いながら連続的に被めっき物を搬送する方法であり、特に電流密度が3A/dm2以上の比較的めっき速度が速い場合や、めっき速度が遅い場合でも連続搬送めっき装置の場合に好適に使用することができる。なお、これらのめっき方法としては、公知のめっき方法を採用し得る。
【0019】
電気めっきは、その電気めっき液の種類に応じた公知の条件でアノード12と被めっき物15との間に適宜な電圧を与えることによって行うことができるが、この場合、本発明においては、上記バイブレーター21の作動で連続的又は間欠的にアノードを振動させ、アノード12に付着しているアノードスライムをアノード12より離脱、除去させながら電気めっきを行うものである。また、アノード室10内のめっき液を導出管31より連続的又は間欠的に吸引して貯槽32内に排出し、この貯槽32内のめっき液2aにエアーを供給することにより、このめっき液2a中の溶存酸素量を増大し、特に酸性めっき液の場合、めっき液中の酸と溶存酸素によりアノードスライムをめっき液に溶解させると共に、返送管33によりフィルター37を通してアノード室10内に返送させる操作を行いながら、電気めっきを行うものである。なお、図1の例では、貯槽32内のめっき液2aをエアー攪拌することによって、めっき液2a中の溶存酸素量を増大させるようにしたが、エアー攪拌の代わりにプロペラ攪拌等の機械攪拌を用いてもよく、要は、溶存酸素量を増大させる手段であればよい。
【0020】
これにより、アノード12から強制的にアノードスライムが除去されることにより、特に電流密度が3A/dm2以上の比較的めっき速度が速い場合や、めっき速度が遅い場合でも連続搬送めっき装置を用いる場合等多量のアノードスライムが生成する場合にあっても、アノードスライムに基づくアノード12の通電不良が回避され、電圧異状によるめっき不良が防止されるものである。また、アノードスライムを除去することで、アノード12底部へのスライム堆積による電流分布の変化が無いことから、めっき膜厚分布を常時一定に保持することができ、アノード12のメンテナンス周期を延ばすことができる。更に、アノードスライムは、めっき液と共に排出されて貯槽32に貯留され、ここでアノードスライムが溶解されためっき液2aがフィルター37を介してめっき槽1内に戻されるので、フィルター37に対するアノードスライム等の除去負担が軽減され、フィルターの交換周期を伸ばすことができる。更に、アノードスライムは、アノード室10外に通過することはないので、アノードスライムによるめっきザラツキが防止される。
【0021】
図2は、本発明装置の他の実施例を示すもので、この例にあっては、アノードスライム強制離脱手段20として、アノード12に搖動装置22を接続し、この搖動装置22の作動でアノード12を搖動させて、アノード12に付着されたアノードスライムを強制離脱させるものである。この場合、搖動条件も適宜選定されるが、1〜20rpm(1分間の搖動回数、1往復が1rpm)で搖動幅1〜100mmの条件とすることが好ましい。この装置を用いて電気めっきを行う場合は、アノード12を搖動装置22によって搖動させる以外は、図1の装置を用いて電気めっきを行う場合と同様である。
【0022】
図3は、本発明装置の別の実施例を示すもので、この例にあっては、バイブレーター又は搖動装置23に接続された攪拌羽24を、アノードスライム強制離脱手段20としてアノード室10内にアノード12と近接して配設し、攪拌羽24の羽根24aの先端をアノード12に当接させて、攪拌羽24の振動又は搖動を羽根24aを介してアノード12に伝達し、アノード12を振動させてアノード12に付着したアノードスライムを強制離脱させるものである。また、この場合、攪拌羽24の羽24a先端をアノード12に当接させなくとも攪拌羽24の振動又は搖動によりアノード室10内のめっき液を流動させ、このめっき液流によっても、アノード12からアノードスライムを離脱、除去させることができる。
【0023】
図4は、本発明のめっき装置の更に他の実施例を示すもので、この例においては、アノード室10内において、アノード12と近接して超音波発生装置25を配設し、この超音波発生装置25により発生させた超音波にてめっき液を振動的に攪拌させ、このめっき液流をアノード12に当てて、アノード12からアノードスライムを脱離させるものである。
【0024】
図5は、本発明のめっき装置の更に別の実施例を示すもので、この例は、噴流ポンプ26に接続された噴流ノズル27をアノード室10内にアノード12と近接して配設し、上述した貯槽32内のめっき液又はアノード室10外のめっき槽1内のめっき液を噴流ポンプ26によって噴流ノズル27に供給し、噴流ノズル27からアノード12に向けてめっき液を噴出させ、このめっき液流(噴流)をアノード12に当てて、アノード12からアノードスライムを脱離させるようにしたものである。
【0025】
なお、図3〜5のめっき装置を用いためっき方法も、アノードスライムの強制的脱離方法が相違する以外は、図1の例の場合と同様である。
【0026】
また、めっき液循環手段30としては、図1の例に限定されるものではなく、例えば、図6に示す方式であってもよい。この図6の例は、循環ポンプ39及びフィルター40が介装されためっき液循環配管41を配設したもので、この配管41の一端吸込口41aをアノード室10内のアノード12下方に配置させ、ポンプ39の作動でアノードスライムと共にめっき液を吸引し、フィルター40を通してめっき液中の微粒子を除去した後、めっき液がアノード室10に戻されるものであるが、この場合、フィルター40の介装位置より上流側において、エアーポンプ42が接続されたエアー導入管43を上記配管41に連結し、フィルター40より上流側で配管41内に流れるめっき液にエアーを供給し、アノードスライムをめっき液中に溶解させるようにしたものであり、その他の構成及びめっき方法は、図1の装置を用いた場合と同様である。
【0027】
なお、図1及び図6のめっき液循環手段30においては、いずれもアノード室10から吸引しためっき液を、アノード室30に戻すようにしているが、これに限定されるものではなく、めっき液槽1内のアノード室外側に戻すようにしても差し支えない。
【0028】
以上の本発明のアノードスライム離脱、除去及びスライム溶解手段はめっき処理中に行っても、めっき処理中以外に行っても良く、更には連続的に行っても、必要に応じて間欠的に行っても良い。間欠的に本発明のアノードスライム離脱、除去及びスライム溶解手段を行う場合は、0.1〜24時間毎に1〜60分間行うことが好ましく、更には0.5〜12時間毎に5〜30分間とすることが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0030】
下記組成の硫酸銅めっき液にてプリント基板のめっきを行った。表1にめっき条件並びに本発明のアノードスライム離脱、除去手段及びスライム溶解手段を示す。表1の条件でプリント基板にめっきを行なった結果を表2に示す。表2において、1000時間電解後の電圧異常発生の有無、アノードへのスライムの蓄積量、ザラ発生の有無、並びに電解前後での膜厚変化として3時間電解時及び1000時間電解後の膜厚を示す。1000時間電解後においてもアノードスライムによるアノード通電不良はなく、電圧異常もなく、良好なめっきを行うことができた。また、めっき初期(3時間電解時)、めっき1000時間後(1000時間電解後)の膜厚測定を行ったが、膜厚分布は一定しており、めっきザラツキも生じないものであった。
<硫酸銅めっき浴組成>
硫酸銅 100g/L
硫酸 200g/L
塩素イオン 60mg/L
ビス−(3−ナトリウムスルホプロピル)ジスルフィド 2mg/L
ポリエチレングリコール(平均分子量10000) 500mg/L
【0031】
比較のため、本発明のアノードスライム離脱、除去手段及びスライム溶解手段を用いることなくめっきを行った。その結果、アノードの不導体化には至らなかったが、本発明のアノードスライム離脱、除去手段を用いていないため、電圧が上昇し、設定値の電流が通電しないことが頻繁に起こった。この時、通電不良の度に一旦通電を止め、再度通電を再開させながら稼動を継続したが、稼動初期と最後で膜厚分布を比べると、最後は下側約5cmにかけて5〜20%めっき膜厚が薄くなっていた。アノードを引き上げてみると、アノードケース下側約10cmにスライムが堆積し、通電を阻害していた。また、スライム溶解手段を用いていない比較例1及び比較例4においては、フィルターを通過するスライムが原因によって生じるザラが発生した。
【0032】
【表1】

【0033】
なお、表1中のアノードスライム脱落方法及び条件は以下の通りである。
液流:上記(v)のアノードスライム脱落方法である。液量は、実施例1においては10L/min.、実施例6においては20L/min.とした。
攪拌羽:上記(iii)のアノードスライム脱落方法である。運転条件は、実施例2においてはON=10分間、OFF=5時間の間欠運転、実施例4においてはON=20分間、OFF=6時間の間欠運転とした。
超音波:上記(iv)のアノードスライム脱落方法である。超音波の周波数は17〜40kHzとした。
振動:上記(i)のアノードスライム脱落方法である。振動は、振動数:40Hz、振幅:0.5mmとして行った。
アノード搖動:上記(ii)のアノードスライム脱落方法である。搖動は、搖動回数:5rpm、搖動幅:20mmとして行った。
【0034】
表1中のスライム溶解方法及び条件は以下の通りである。
貯槽+Air攪拌:アノードスライム離脱、除去手段を用いてアノード室内に離脱したアノードスライムを貯槽内に吸引し、前記貯槽内にてエアー攪拌を行いアノードスライムを再溶解させる方法である。条件は、液温:25℃、エアー供給量:貯槽10Lにつき5L/min.とした。
貯槽+プロペラ攪拌:アノードスライム離脱、除去手段を用いてアノード室内に離脱したアノードスライムを貯槽内に吸引し、前記貯槽内にてプロペラ攪拌を行いアノードスライムを再溶解させる方法である。条件は、液温:25℃、常時プロペラ攪拌とした。
配管内Air攪拌:アノードスライム離脱、除去手段を用いてアノード室内に離脱したアノードスライムをめっき液循環配管に吸引し、前記配管内のフィルター介装位置より上流側において、前記配管内を流れるめっき液にエアーを吹き込んでアノードスライムをめっき液中に再溶解させる方法である。配管内へのエアー供給量:1L/min.とした。
【0035】
表1中に記載のめっき方法は以下の通りである。
DIP法:被めっき物をめっき槽内のめっき液に浸漬し、所定時間めっき後に被めっき物をめっき槽から引き上げる方法である。
連続搬送法:めっき槽中でプリント基板等の被めっき物に通電を行いながら連続的に被めっき物を搬送する方法である。
【0036】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の電気めっき装置の一実施例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の電気めっき装置の他の実施例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の電気めっき装置の別の実施例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の電気めっき装置の更に他の実施例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の電気めっき装置の更に別の実施例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の電気めっき装置の更に別の実施例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 めっき槽
10 アノード室
11 アノードバッグ又は隔膜
12 アノード
13 アノードケース
14 アノードボール
15 被めっき物
2 めっき液
2a めっき液
20 アノードスライム強制離脱手段
21 バイブレーター
22 搖動装置
23 バイブレーター又は搖動装置
24 攪拌羽
24a 羽根
25 超音波発生装置
26 噴流ポンプ
27 噴流ノズル
30 めっき液循環手段
31 導出管
32 外部貯槽
33 返送管
33a 吸引口
34 循環ポンプ
35 エアーポンプ
36 エアー配管
37 フィルター
38 循環ポンプ
39 循環ポンプ
40 フィルター
41 めっき液循環配管
42 エアーポンプ
43 エアー導入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気めっき液が収容されためっき槽内に、電気めっき液が流通可能でアノードスライムを通過させないアノードバッグ又は隔膜を配設してアノード室を区画形成し、このアノード室内にアノードを配置させると共に、アノード室以外に被めっき物を配置し、この被めっき物をカソードとして前記アノードとの間に電圧を印加し、被めっき物を電気めっきする方法において、前記アノードを振動もしくは搖動させるか、又はアノード室内の電気めっき液をアノードに対向して流動させ、このめっき液流をアノードに当てて、アノードに付着しているアノードスライムを強制的に離脱、除去させながらめっきを行うことを特徴とする電気めっき方法。
【請求項2】
アノードからアノードスライムを強制的に離脱、除去させる手段が、下記(i)〜(v)、
(i) アノードをバイブレーターに接続し、アノードを振動させる
(ii) アノードを搖動装置に接続し、アノードを搖動させる
(iii) アノード室内に攪拌羽を配設し、この攪拌羽をアノードに当接してアノードを振動させるか、又はアノード室内のめっき液をアノードに対向して流動させ、このめっき液流をアノードに当てる
(iv) アノード室内に超音波発生装置を配設し、この超音波によるめっき液の超音波攪拌流をアノードに当てる
(v) アノード室内にめっき液噴流をアノードに対向して噴出させ、この噴出しためっき液噴流をアノードに当てる
のいずれかの手段である請求項1記載の電気めっき方法。
【請求項3】
アノードが多数の透孔を有するアノードケースとその内部に充填された多数のアノードボールとからなる請求項1又は2記載の電気めっき方法。
【請求項4】
アノード室内に離脱したアノードスライムをめっき液と共に連続的又は間欠的にめっき槽外に吸引排出し、このアノードスライムを含むめっき液を外部貯槽に導入し、この貯槽内のめっき液に空気攪拌又は機械攪拌を与えてアノードスライムをめっき液に溶解させると共に、この貯槽内のめっき液をフィルターを介してめっき槽内に連続的又は間欠的に返送するようにした請求項1,2又は3記載の電気めっき方法。
【請求項5】
アノード室内に離脱したアノードスライムをめっき液と共に連続的又は間欠的にめっき槽外に吸引排出し、このアノードスライムを含むめっき液が流通するめっき液循環配管内にエアーを吹き込んでアノードスライムをめっき液中に溶解させると共に、このめっき液をフィルターを介してめっき槽内に返送するようにした請求項1,2又は3記載の電気めっき方法。
【請求項6】
電気めっき液が収容されるめっき槽と、このめっき槽内に電気めっき液が流通可能でアノードスライムを通過させないアノードバッグ又は隔膜を配設することにより区画形成されたアノード室と、このアノード室内に配置されたアノードとを具備する電気めっき装置であって、アノードに付着しているアノードスライムを強制的に離脱、除去する手段として、前記アノードを振動もしくは搖動させる手段、又はアノード室内におけるめっき液をアノードに対向して流動させ、このめっき液流をアノードに当てる手段を備えたことを特徴とする電気めっき装置。
【請求項7】
アノードからアノードスライムを強制的に離脱、除去させる手段として下記(i)〜(v)、
(i) アノードに接続されてアノードを振動させるバイブレーター
(ii) アノードに接続されてアノードを搖動させる搖動装置
(iii) アノード室内に配設され、アノードに当接してアノードを振動させ、又はめっき液を流動させてアノードにこのめっき液流を当てる攪拌羽
(iv) アノード室内に配設され、アノードに超音波攪拌流を当てる超音波発生装置
(v) アノード室内に配設され、めっき液をアノードに対向して噴出し、アノードにめっき液噴流を当てるめっき液噴出ノズル
のいずれかを備えた請求項6記載の電気めっき装置。
【請求項8】
アノードが多数の透孔を有するアノードケースとその内部に充填された多数のアノードボールとからなる請求項6又は7記載の電気めっき装置。
【請求項9】
アノード室内に落下したアノードスライムをめっき液と共にめっき槽外に吸引排出する、ポンプが介装された導出管と、このアノードスライムを含むめっき液を貯留する外部貯槽と、この貯槽内のめっき液を空気攪拌又は機械攪拌してアノードスライムをこのめっき液に溶解させるめっき液攪拌装置、前記貯槽内のめっき液をめっき槽に返送する、ポンプ及びフィルターが介装された返送管を更に具備する請求項6,7又は8記載の電気めっき装置。
【請求項10】
アノード室内に離脱したアノードスライムをめっき液と共にめっき槽外に吸引排出する、ポンプ及びフィルターが介装されためっき液循環配管と、この配管のフィルター介装位置より上流側において設けられ、前記配管内を流れるめっき液にエアーを吹き込んでアノードスライムをめっき液に溶解させるためのエアー吹き込み装置を更に具備する請求項6,7又は8記載の電気めっき装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−81777(P2008−81777A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261971(P2006−261971)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)