説明

めっき用水系防錆コート剤及びその製造方法

【課題】 クロムやリンや硫黄を含有せず、また、膜厚が薄くても耐食性に優れ、密着性の良い皮膜を作製することが可能なめっき用水系防錆コート剤及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 水に対してエポキシ基を有するシランカップリング剤、アミノ基を有するシランカップリング剤、ビニル基を有するシランカップリング剤、テトラアルコキシシラン及び酸を含有するめっき用水系防錆コート剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムやリンや硫黄を含有せず、また、膜厚が薄くても耐食性に優れ、密着性の良い皮膜を作製することが可能なめっき用水系防錆コート剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
めっきを施した鋼板や部材は自動車、電気製品等、様々な分野で用いられているが、多くのめっきは、海水等の塩分を含む水系環境下において短時間で表面に白錆が発生するために、従来、めっき上にさらに6価クロム酸塩水溶液を用いたクロメート皮膜による防錆処理が行われている。しかし、近年、地球環境に与える影響から、欧州を始めとして、毒性の高い6価クロムの使用を制限することが検討されている。そこで、めっき用クロメートの代替となりうる、安価で毒性が低く、しかも高い耐食性を有する皮膜を作製できる、非クロムめっき用水系防錆コート剤の開発が急務となっている。
【0003】
非クロムめっき用水系防錆コート剤としては、共重合等により様々な改質を行った水性分散有機樹脂や、あるいはこのような樹脂に対し、リン酸系を主とした防食剤、微粒シリカ、シランカップリング剤等を配合したものがある。
【0004】
しかし、こういった樹脂系のコート剤を用いた場合、樹脂が膨潤するために、高い耐食性を得るためには、数μmあるいはそれ以上の膜厚が必要となり、薄塗りが困難である。また、コート剤自身が懸濁状態の場合もあり、溶液の安定性に加えて、平滑性や均一性の優れた皮膜の作製が難しいことも多い。
【0005】
一方、無機皮膜のシリカ膜は、毒性が低く、原料も安価であることから、代替クロメートとして有力な候補となりうる。しかし、無機成分のシリカだけでは十分な耐食性を得ることは難しく、有機成分を含む無機−有機複合皮膜とすることが多い。例えば1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン等の2官能性シランがアルミニウム合金等の防食に効果があると云われているが、これまで検討されている金属材料上へのシリカを中心とする無機―有機複合皮膜の作製法では、有機溶剤を用いたものがほとんどである。そのために水系溶液で皮膜作製を行うクロメートと比較すると、作製方法の面でクロメート代替とはなり難い。
【0006】
このような中、種々の官能基を有するシランカップリング剤は、pHを調節すれば水にも溶解することから、無機-有機複合皮膜作製のための水系コート剤の原料として有効である。例えば特開2000−144020号公報には、シランカップリング剤を含む水溶液を用いた、電気亜鉛めっき鋼板上への皮膜作製について開示されている。しかし、この場合、コート剤に加えるシランカップリング剤が1種であり、また、シランカップリング剤のみでは十分な耐食性が得られず、ここにリン酸含有イオンと硫黄含有化合物もしくは硫黄含有イオンの両方を加えなければ高い耐食性を達成することができない。
【0007】
また、特開H8−73775号公報には、2種類のシランカップリング剤を用いた酸性水系コート剤について開示されているが、耐指紋性等の向上を目的としたものであって、亜鉛めっき上にクロメート処理した鋼板上へのコーティングを検討しており、亜鉛めっき上に直接皮膜を導入した場合の耐食性は大きく不足している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記のような問題に対して、クロムやリンや硫黄を含有せず、また、膜厚が薄くても耐食性に優れ、密着性の良い皮膜を作製することが可能なめっき用水系防錆コート剤及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、クロメート皮膜に代わる新しいめっき用のコーティングとして、シランカップリング剤を使用することを考えた。シランカップリング剤は有機、無機、金属材料等、様々な材料の表面改質剤として広く用いられており、また、種々の官能基を有するシランカップリング剤が安価で市販されている。これまでのシランカップリング剤の主な利用形態としては、樹脂に直接配合する場合や、有機溶媒に溶解させて他の材料に配合する等、有機溶剤系での利用が多かった。シランカップリング剤を含む水溶液の利用法が限定されている理由の一つとしては、塗布性の問題がある。例えば金属材料にこのような水溶液を塗布すると、はじいてしまって被覆できない場合や、被覆できても、得られる皮膜の均一性や密着性が著しく低下することが多い。この場合、シランカップリング剤の濃度等を変化させても塗布性等の改善には到り難い。しかし、シランカップリング剤が有する官能基を利用し、異なる官能基を有するシランカップリング剤を複数反応させて、新たなシランカップリング剤を系中で発生させることにより前記問題を克服することができ、めっき上に高い密着性及び耐食性を有する薄膜を作製できることを見出し、本発明に到った。
【0010】
すなわち、本発明のめっき用水系防錆コート剤は、エポキシ基を有するシランカップリング剤と、アミノ基を有するシランカップリング剤と、ビニル基を有するシランカップリング剤と酸とが水系の溶媒に含有していることを特徴とする。
【0011】
酸はシランカップリング剤をゾル化するための触媒として作用するものであり、酸の種類については特に限定はない。発明者らは、前記酸としてカルボン酸を用いれば、確実に前記課題を解決できることを確認している。
【0012】
各シランカップリング剤の適切な濃度範囲としては、エポキシ基を有するシランカップリング剤が0.1−10質量%、アミノ基を有するシランカップリング剤が0.1−10質量%、ビニル基を有するシランカップリング剤が0.1−10質量%、カルボン酸が0.1−10質量%であることが好ましい。特に好ましいのは、エポキシ基を有するシランカップリング剤が2−8質量%、アミノ基を有するシランカップリング剤が2−8質量%、ビニル基を有するシランカップリング剤が1−7質量%、カルボン酸が1−6質量%であり、さらに好ましい範囲は、エポキシ基を有するシランカップリング剤が4−7質量%、アミノ基を有するシランカップリング剤が3−6質量%、ビニル基を有するシランカップリング剤が3−6質量%、カルボン酸が1−3質量%である。
【0013】
本発明のめっき用水系防錆コート剤では、さらにテトラアルコキシシランを含有することが好ましい。これを加えることにより、得られる皮膜の表面を均一化することができ、ひいては耐食性をさらに高めることができるからである。また、ビニル基を有するシランカップリング剤の種類によっては、コート剤の安定性を高めることもできる。この場合において、テトラアルコキシシランの含有量の範囲は1−3質量%が望ましい。
【0014】
本発明のめっき用水系防錆コート剤は、エポキシ基を有するシランカップリング剤と、アミノ基を有するシランカップリング剤と、ビニル基を有するシランカップリング剤と酸とを水系の溶媒に混合することによって製造可能である。特に好ましいのは以下の製造方法である。すなわち、本発明のめっき用水系防錆コート剤の製造方法は、
エポキシ基を有するシランカップリング剤とアミノ基を有するシランカップリング剤と酸と水とを混合し第1ゾル溶液とする第1ゾル化工程と、
ビニル基を有するシランカップリング剤と酸とを混合して第2ゾル溶液する第2ゾル化工程と、
該第1ゾル溶液と、該第2ゾル溶液とを混合してめっき用水系防錆コート剤とすることを特徴とする。
【0015】
本発明のめっき用水系防錆コート剤の製造方法において、優れた耐食性皮膜ができる理由については明確ではないが、次のように考えられる。まず、第1ゾル化工程において、酸の存在下、エポキシ基を有するシランカップリング剤とアミノ基を有するシランカップリング剤とが水溶液中で反応する。これらのシランカップリング剤は、単独で用いるとめっき上への塗布性が悪いが、エポキシ基を有するシランカップリング剤とアミノ基を有するシランカップリング剤とを混合して用いることにより、塗布性を飛躍的に改善することができる。これは、エポキシ基とアミノ基との間で反応が起こり、系中で2官能性シランが生成することによるものと推定される。続いて、第2ゾル化工程として、前記エポキシ基及びアミノ基を有するシランカップリング剤と酸を含む水溶液に、ビニル基を有するシランカップリング剤と酸を含む水溶液が加えられる。これにより、めっき上に得られる皮膜の密着性を格段に高めることができ、ひいては耐食性を向上させることができる。
【0016】
第2ゾル化工程ではさらにテトラアルコキシシランを混合することが好ましい。第1ゾル工程で混合すると、均一なコート剤が得られない場合もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメトキシメチルシシラン、γ-グリシドキシプロピルジエトキシメチルシシラン、γ-グリシドキシプロピルエトキシジメチルシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、5,6―エポキシヘキシルトリエトキシシラン等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。配合量としては、水に対して6質量%程度加えることが望ましい。10質量%程度以上では、コート剤の安定性が低下する場合がある。
【0019】
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、γ-アミノプロピルエトキシジメチルシラン、N−フェニル−γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)―3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)―3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)―3−アミノプロピルジメトキシメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(ジエトキシメチルシリルプロピル)アミン、ビス[(3−トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。配合量としては、水に対して5質量%程度加えることが望ましい。2質量%程度以下では、コート剤の安定性が低下する場合がある。
【0020】
エポキシ基及びアミノ基を有するシランカップリング剤の配合量が多過ぎると、コート剤の安定性が低下する場合や、得られる皮膜の平滑性が悪くなる場合があり、少な過ぎると、得られる皮膜の膜厚が薄くなる。また、両シランカップリング剤の配合比に関して、例えばエポキシ基を有するシランカップリング剤を、アミノ基を有するシランカップリング剤に対して2―3倍モル量用いた場合、コート剤の安定性が低下するため、両シランカップリング剤を等モル量程度の割合で配合することが望ましい。
【0021】
ビニル基を有するシランカップリング剤としては、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルジエトキシメチルシラン、γ-メタクリロキシプロピルエトキシジメチルシラン、γ-メタクリロキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ-メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、α―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、α―メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。配合量としては、前記エポキシ基を有するシランカップリング剤とアミノ基を有するシランカップリング剤を合わせたモル量の半分以上が望ましい。すなわち、水に対して4重量%程度以上加えることが好ましく、2重量%未満では、得られる皮膜の密着性が低下する場合がある。
【0022】
テトラアルコキシシランとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシラン等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。配合量としては、水に対して2質量%程度、すなわち、ビニル基を有するシランカップリング剤と等モル量程度加えることが好ましい。配合量を減らす場合、高い耐食性を有する皮膜を作製するには、ビニル基を有するシランカップリング剤の配合量を増やすことが望ましい。ビニル基を有するシランカップリング剤の種類によっては、テトラアルコキシシランを加えない場合、コート剤の安定性が低下することもある。皮膜作製において複数回コーティングを行う場合、表面状態が均一な皮膜を得るためにはテトラアルコキシシランを加えておくことが望ましい。
【0023】
酸はシランカップリング剤をゾル化するための触媒であるため、その種類については特に限定しないが、カルボン酸を用いることが望ましい。配合量としては、全体量として水に対して2質量%程度加えることが好ましい。また、酸は、シランカップリング剤を水に加えてゾル化させる際に、シランカップリング剤の0.5―1モル当量程度をそれぞれ分割して加えることが望ましい。これにより溶液のpHがほぼ中性(約6-8)で、室温下において1ヶ月以上安定なコート剤を調製することができる。配合量が多過ぎると、めっき上への塗布性が低下する場合があり、また、コート剤が酸性になり、めっきに与える影響も大きくなりうる。一方、配合量が少な過ぎるとコート剤の安定性が低下する場合がある。
【0024】
エポキシ基を有するシランカップリング剤とアミノ基を有するシランカップリング剤と酸と水とを混合し第1ゾル溶液とする第1ゾル化工程では、加熱することが望ましい。室温下では、第1ゾル溶液に、ビニル基を有するシランカップリング剤と酸を含む第2ゾル溶液を加えると、白濁する場合もある。
【0025】
ビニル基を有するシランカップリング剤と酸とを混合して第2ゾル溶液する第2ゾル化工程は、室温下で行うことが望ましい。加熱した第2ゾル溶液を第1ゾル溶液に加えると、白濁する場合もある。また、テトラアルコキシシランを加える際には、第2ゾル溶液に加えることが望ましい。第1ゾル溶液に加えると、均一なコート剤が得られない場合もある。
【0026】
該第1ゾル溶液と、該第2ゾル溶液とを混合してめっき用水系防錆コート剤とする際には、加熱することが望ましい。これにより、より均一で安定なコート剤が得られる。室温下で混合した場合には、めっき上への塗布性が低下する場合もある。
【0027】
本発明のめっき用水系防錆コート剤は、各種の被覆方法でめっき上を被覆することが可能であり、その手法として例えばディップ、スプレー、ロールコーティング法等がある。塗布後は乾燥、加熱処理をすることが望ましい。例えば、加熱処理は90℃で30分程度行えば、密着性及び耐食性の高い皮膜を作製できる。得られる皮膜の膜厚は、コート剤の濃度やコーティング方法及び回数によって調整できるが、塩水噴霧試験において72時間後の白錆発生率が、面積比で約10%以下のような高い耐食性を発現させるためには、約0.5μm以上が望ましい。
【0028】
本発明の水系防錆コート剤を塗布するめっき鋼板としては、亜鉛めっき、亜鉛系合金めっき、アルミ系合金めっきなど、発錆性を有するものであれば特に限定せず、また、これらのめっき表面が化成処理されていてもよいが、特に亜鉛めっき上に用いることが望ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく述べるが、この発明は下記実施例に限定されない。実施例において述べるシランカップリング剤及び酸の配合量は、コート剤全体における水量に対する質量%で示した。
【0030】
(密着性評価法) 皮膜表面にテープを接着し、その後勢い良くテープを剥離して、皮膜の表面状態を目視で評価した。
【0031】
(皮膜の表面状態及び膜厚測定) 得られた皮膜の表面状態を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で観察した。膜厚に関しては、得られる皮膜が薄膜のため、膜厚測定のための試料の破断面をめっき基板において作製することが困難であった。そこで、参考値として、めっき上をコーティングする場合と同条件下でガラス基板をコーティングし、得られた試料を切断して破断面を作製した。これを走査型電子顕微鏡により観察し、その像から測定した。
【0032】
(防錆性評価法) JIS Z−2371規格の塩水噴霧試験機を用いて、35℃で5質量%NaCl水溶液の噴霧を行い、72時間後の皮膜の表面状態を目視で評価した。
【0033】
実施例1
エポキシ基、アミノ基及びビニル基を有する3種類のシランカップリング剤を用い、それぞれのモル量が等しいコート剤を作製した。第1ゾル溶液と第2ゾル溶液の水量の配合比は2:1とした。第1ゾル溶液は、容器に水と0.5質量%の酢酸(試薬、特級)及び4質量%のβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)を加えて、溶液が均一になるまで60−70℃で10−15分加熱攪拌した後、3質量%のγ-アミノプロピルトリメトキシシラン(ALDRICH社製)を加え、溶液が均一になるまで60−70℃でさらに10−15分加熱攪拌して調製した。第2ゾル溶液は、第1ゾル溶液とは別の容器に水と0.5質量%の酢酸を加え、ここに4質量%のγ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)を加えて室温下、溶液が均一になるまで攪拌して調製し、その後、これを先の加熱攪拌した状態の第1ゾル溶液に徐々に加えた。60−70℃で20−30分加熱攪拌した後、室温に冷却してコート剤を調製した。本コート剤は均一で、室温下において1ヶ月以上安定であった。
【0034】
前記コート剤を用いて、亜鉛めっきを施した鋼板を引き上げ速度4.0mm/sでディップコーティングし、大気中室温下で約1時間乾燥した後、90℃で約30分加熱した試料を作製した。さらに前記操作をもう一度行い、計2回のコーティングを行った試料も作製した。得られた皮膜は、共に密着性評価において全く剥離が観察されなかった。表面状態は共に均一で、膜厚は1回コーティングしたものが約0.4μm、2回行ったものが約0.6μmであった。防錆評価では、1回コーティングしたものの白錆発生が面積率で60%程度であったが、2回コーティングした場合は10%程度となった。
【0035】
実施例2
実施例1では、エポキシ基、アミノ基及びビニル基を有する3種類のシランカップリング剤をそれぞれ等モル量加えたが、実施例2ではエポキシ基、アミノ基及びビニル基を有する3種類のシランカップリング剤を1:1:0.5のモル比で加えたコート剤を作製した。第1ゾル溶液は、容器に水と1.7質量%の酢酸及び7質量%のβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを加えて、溶液が均一になるまで60−70℃で10−15分加熱攪拌した後、6質量%のγ-アミノプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社製)を加え、溶液が均一になるまで60−70℃でさらに10−15分加熱攪拌して調製した。第2ゾル溶液は、第1ゾル溶液とは別の容器に水と0.4質量%の酢酸を加え、ここに3質量%のγ-アクリロキシプロピルトリメトキシシランを加えて、室温下、溶液が均一になるまで攪拌して調製し、その後、これを先の加熱攪拌した状態の第1ゾル溶液に徐々に加えた。60−70℃で20−30分加熱攪拌した後、室温に冷却してコート剤を調製した。これを用いて実施例1と同様に引き上げ速度4.0mm/sで2回コーティングを行った。得られた皮膜は、密着性評価において全く剥離が観察されなかった。表面状態は均一で、膜厚は約1.1μmであった。防錆評価では、白錆発生率が20%程度であったが、評価後の皮膜の表面に複数の亀裂が観察された。本コート剤は均一で、室温下において1ヶ月以上安定であった。
【0036】
実施例3
実施例2に対し、ビニル基を有するシランカップリング剤であるγ-アクリロキシプロピルトリメトキシシランと等モル量のテトラアルコキシシランを加え、全体としてエポキシ基、アミノ基、ビニル基を有する3種類のシランカップリング剤とテトラアルコキシシランを1:1:0.5:0.5のモル比とするコート剤を作製した。シランカップリング剤とテトラアルコキシシランを併せた全モル量は、実施例2における3種類のシランカップリング剤の全モル量と一致させた。第1ゾル溶液は、容器に水と1.4質量%の酢酸及び6質量%のβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを加えて、溶液が均一になるまで60−70℃で10−15分加熱攪拌した後、5質量%のγ-アミノプロピルトリエトキシシランを加え、溶液が均一になるまで60−70℃でさらに10−15分加熱攪拌して調製した。第2ゾル溶液は、第1ゾル溶液とは別の容器に水と0.4質量%の酢酸を加え、ここに2.4質量%のテトラエトキシシラン(信越化学工業株式会社製)を加えて60−70℃で溶液が均一になるまで加熱攪拌した。その後室温まで冷却した後、0.4質量%の酢酸と3質量%のγ-アクリロキシプロピルトリメトキシシランを加えて溶液が均一になるまで室温下攪拌して調製した。これを先の加熱攪拌した状態の第1ゾル溶液に徐々に加えて60−70℃で20−30分加熱攪拌した後、室温に冷却してコート剤を調製した。このコート剤を用いて実施例1と同様に引き上げ速度4.0mm/sで1回のコーティングを行った。得られた皮膜は、密着性評価において全く剥離が観察されなかった。表面状態は均一で、膜厚は約0.5μmであった。防錆評価では、白錆発生率が10%以下となり、実施例2において見られた評価後の皮膜の亀裂も観察されなかった。さらに、引き上げ速度2.0mm/s、続いて4.0mm/sの2回コーティングを行った試料では、防錆評価において白錆発生率が5%以下となった。この場合の膜厚は約0.8μmであった。本コート剤は均一で、室温下において1ヶ月以上安定であった。
【0037】
実施例4
実施例1における第1ゾル溶液を用いて、実施例1と同様に引き上げ速度4.0mm/sで1回及び2回コーティングした試料を作製した。得られた皮膜は、共に密着性評価において全く剥離が観察されなかった。表面状態は共に均一で、膜厚は1回コーティングしたものが約0.2μm、2回行ったものが約0.55μmであった。防錆評価では、1回コーティングした試料の白錆発生率が80%以上、2回コーティングした場合は60%以上となった。
【0038】
実施例5
実施例1において、第2ゾル溶液を60−70℃で溶液が均一になるまで加熱攪拌し、これを室温まで冷却することなく第1ゾル溶液に加えると、溶液全体が白濁した。
【0039】
実施例6
実施例1において、第1ゾル溶液を一旦室温まで冷却した後、第2ゾル溶液を加えて室温下攪拌すると均一なコート剤が得られるが、亜鉛めっき上へのコーティングでは、コート剤の塗布性が悪く、均一な皮膜を作製することができなかった。
【0040】
実施例7
実施例6において、第1ゾル溶液と第2ゾル溶液を混合した溶液を60−70℃で20−30分加熱攪拌した場合、溶液全体が白濁した。
【0041】
実施例8
実施例6において、第2ゾル溶液を60−70℃で溶液が均一になるまで加熱攪拌し、これを室温まで冷却した後、室温下の第1ゾル溶液に加えた場合、溶液全体が強く白濁した。さらにこれを60−70℃で加熱攪拌したところ、溶液がゲル化した。
【0042】
実施例9
実施例3において、第1ゾル溶液を調製する際に、酢酸を実施例3の半分量以下とした場合、第1ゾル溶液と第2ゾル溶液を混合して加熱攪拌すると、溶液全体が若干白濁した。コート剤に含まれる3種類のシランカップリング剤の配合量を増やした場合、第1ゾル溶液の酢酸の配合量を減らすと白濁する傾向がさらに強くなった。
【0043】
実施例10
実施例3において、第1ゾル溶液を作製後、ここにテトラエトキシシランと酢酸を含む水溶液を加えて加熱攪拌し、その後、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシランと酢酸を含む第2ゾル溶液を加えて加熱攪拌してコート剤を調製した。しかし、この場合、固形浮遊物が生成し、均一なコート剤を得ることができなかった。
【0044】
実施例11
実施例1では、第1ゾル溶液のβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランとγ-アミノプロピルトリエトキシシランが等モル量配合されているが、これをβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン:γ-アミノプロピルトリメトキシシラン=2:1のモル比となるコート剤を実施例1と同様に調製した。引き上げ速度4.0mm/sで1回及び2回コーティングした試料を作製した。得られた皮膜は、共に密着性評価において全く剥離が観察されなかった。防錆評価では、1回コーティングした試料の白錆発生率が80%以上、2回コーティングした場合は60%以上となった。本コート剤は約3日で白濁した。
【0045】
実施例12
実施例1における第2ゾル溶液のγ-アクリロキシプロピルトリメトキシシランの代わりに、ビニルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)を用いて、実施例1と同様にコート剤を調製した。第1ゾル溶液は、容器に水と1.4質量%の酢酸及び6質量%のβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを加えて、溶液が均一になるまで60−70℃で10−15分加熱攪拌した後、5質量%のγ-アミノプロピルトリエトキシシランを加え、溶液が均一になるまで60−70℃でさらに10−15分加熱攪拌して調製した。第2ゾル溶液は、第1ゾル溶液とは別の容器に水と1.4質量%の酢酸を加え、ここに3.5質量%のビニルトリメトキシシランを加えて室温下、溶液が均一になるまで攪拌して調製し、その後、これを先の加熱攪拌した状態の第1ゾル溶液に徐々に加えた。60−70℃で20−30分加熱攪拌した後、室温に冷却してコート剤を調製した。これを用いて引き上げ速度4.0mm/sで1回のコーティング及び引き上げ速度2.0mm/s、続いて4.0mm/sの2回コーティングを行った試料を作製した。得られた皮膜は、共に密着性評価において全く剥離が観察されなかった。表面状態は共に均一で、膜厚は1回コーティングしたものが約0.5μm、2回行ったものが約0.9μmであった。防錆評価では、1回コーティングしたものの白錆発生率が60%以上であったが、2回コーティングした場合は10%以下となった。ただ、コート剤は約1日で若干白濁した。
【0046】
実施例13
実施例12において、実施例3と同様にビニルトリメトキシシランの配合量を半分量とし、ここにビニルトリメトキシシランと当モル量のテトラエトキシシランを加えたコート剤を調製した。これを用いて引き上げ速度4.0mm/sで1回のコーティング及び引き上げ速度2.0mm/s、続いて4.0mm/sの2回コーティングを行った試料を作製した。得られた皮膜は、共に密着性評価において全く剥離が観察されなかった。1回コーティングしたものの表面状態は均一で、膜厚は約0.4μmとなった。2回コーティングしたものは表面にいくつかの筋模様が見られ、膜厚測定が困難であった。そこで、別途ガラス基板上に引き上げ速度2.0mm/sで1回コーティングしたものを作製し、この膜厚を測定したところ約0.4μmであった。これから、引き上げ速度2.0mm/sと4.0mm/sの2回コーティングを行った皮膜の膜厚は約0.7−0.8μmであると考えられる。防錆評価では、1回コーティングしたものの白錆発生率が10%以下、2回コーティングした場合は5%以下となった。本コート剤は均一で、室温下において1ヶ月以上安定であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のめっき用水系防錆コート剤は、クロムを含まず、薄塗りで密着性及び耐食性に優れた皮膜をめっき上に作製することができるため、亜鉛を含むめっき用のクロメート代替として広く利用することができる。クロメート処理をしためっき製品を使用する自動車産業、電子産業等、様々な産業分野において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を有するシランカップリング剤と、アミノ基を有するシランカップリング剤と、ビニル基を有するシランカップリング剤と、酸とが水系の溶媒に含有していることを特徴とするめっき用水系防錆コート剤。
【請求項2】
前記酸はカルボン酸であることを特徴とする請求項1記載のめっき用水系防錆コート剤。
【請求項3】
配合割合は、前記エポキシ基を有するシランカップリング剤が0.1−10質量%、前記アミノ基を有するシランカップリング剤が0.1−10質量%、前記ビニル基を有するシランカップリング剤が0.1−10質量%、前記カルボン酸が0.1−10質量%であることを特徴とする請求項1又は2記載のめっき用水系防錆コート剤。
【請求項4】
さらにテトラアルコキシシランを含有することを特徴とする請求項1及到3のいずれか1項に記載のめっき用水系防錆コート剤。
【請求項5】
エポキシ基を有するシランカップリング剤とアミノ基を有するシランカップリング剤と酸と水とを混合し、第1ゾル溶液とする第1ゾル化工程と、ビニル基を有するシランカップリング剤と酸とを混合して第2ゾル溶液する第2ゾル化工程と、該第1ゾル溶液と、該第2ゾル溶液とを混合してめっき用水系防錆コート剤とする、めっき用水系防錆コート剤の製造方法。
【請求項6】
第2ゾル化工程ではさらにテトラアルコキシシランを混合することを特徴とするめっき用水系防錆コート剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−39715(P2007−39715A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222581(P2005−222581)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(591270556)名古屋市 (77)
【Fターム(参考)】