説明

めっき装置

【課題】 生産効率を低下させることなく、被めっき物に形成されるめっき膜の厚みのばらつきを低減できるめっき装置を提供すること。
【解決手段】めっき槽と、環状のバレル容器20と、アノードと、前記バレル容器20の中空部を中心として、前記バレル容器20を回転させる回転手段と、前記バレル容器20に振動を与える振動発生手段と、を有し、被めっき物が収容される前記バレル容器20内の空間が、仕切り板22によって、区画されており、前記バレル容器20の底面に、カソードが備えられていることを特徴とするめっき装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき装置に関し、さらに詳しくは、被めっき物に形成されるめっき膜の厚みのばらつきを低減できるめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チップコンデンサ、チップインダクタ、チップバリスタなどの小型電子部品では、外部電極がセラミック素子本体の長さ方向の両端側、あるいは、長さ方向とは異なる短手方向の両端側に端子として形成されている。また、外部電極が形成された端子を多く有する、いわゆる多端子の電子部品もある。このような外部電極は、通常、バレルめっき法を用いて形成されるのが一般的である。
【0003】
バレルめっき法としては、開口バレル方式、平行バレル方式などが挙げられる。どちらの方式であっても、バレル容器内部に、被めっき物である小型電子部品が投入され、バレル容器を回転させることで、被めっき物を撹拌し、めっき液に接触させて、被めっき物にめっきが施される。
【0004】
しかしながら、上記の方式によりめっきを施した場合、たとえば、撹拌運動の中心部においては、被めっき物が集合してしまい、周囲の被めっき物に取り囲まれめっき液にほとんど接触できず、めっきが不十分となる被めっき物が存在することがあった。このようにめっきが不十分な被めっき物が存在すると、形成されるめっき膜の厚みのばらつきが大きくなってしまう。
【0005】
このようなめっき膜の厚みのばらつきを低減させるために、たとえば、特許文献1には、振動により撹拌を行う振動めっき装置が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された振動めっき装置では、バレル容器内部全体を1つの空間としているために、被めっき物を多量に投入すると、上述したように、被めっき物が集合する傾向にあり、被めっき物の集合体内部に存在する被めっき物には十分なめっき液が供給されず、形成されるめっき膜の厚みにばらつきが生じてしまう。
【0007】
さらには、振動めっき装置であっても、バレル容器内において、被めっき物が水平方向に偏在してしまうことが考えられる。また、バレル容器内における被めっき物の存在位置が異なることで、アノードとの位置関係が問題となることが考えられる。このような場合にも、形成されるめっき膜の厚みのばらつきが大きくなってしまう。
【特許文献1】特開2002−129393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、生産効率を低下させることなく、被めっき物に形成されるめっき膜の厚みのばらつきを低減できるめっき装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るめっき装置は、
めっき槽と、
環状のバレル容器と、
アノードと、
前記バレル容器の中空部を中心として、前記バレル容器を回転させる回転手段と、
前記バレル容器に振動を与える振動発生手段と、を有し、
被めっき物が収容される前記バレル容器内の空間が、仕切り板によって、区画されており、
前記バレル容器の底面に、カソードが備えられていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るめっき装置においては、バレル容器の内部の空間が、仕切り板により、区画されている構成を有している。そして、このバレル容器を水平方向に回転(自転)させながら、さらにバレル容器に対して振動を与えている。このようにすることで、バレル容器内部を1つの空間とする場合に比べて、バレル容器内部の表面積(被めっき物との接触可能面積)が増える。そのため、各区画内へ分けて入れられた被めっき物に対し、バレル容器に与えられた振動と回転とが良好に伝わるので、各区画内におけるめっき条件を一定にすることができる。その結果、各区画内に投入された被めっき物(チップ状電子部品等)に対して、均一なめっき膜を形成することができ、めっき膜の厚みのばらつきを低減することができる。
【0011】
好ましくは、前記仕切り板が前記中空部を中心として放射状に形成され、前記バレル容器内の空間が均等に区画されていることを特徴とする。このようにすることで、バレル容器が中空部を中心として一周すると、各区画における被めっき物へのめっき条件が平均化されるので、本発明の効果をさらに高めることができる。
【0012】
好ましくは、前記振動発生手段は、鉛直平面内において楕円運動を発生させることを特徴とする。バレル容器に与える振動を、上記の楕円運動とすることで、鉛直面内で回転しようとする被めっき物の流動がさらに各区画の底面に直立する壁面に当たって水平方向にも撹拌されるため、効果的にめっき条件を一定にすることができる。
【0013】
好ましくは、前記アノードが前記バレル容器を囲むように等しく配置されている。アノードをこのように配置することで、バレル容器が回転しているときも、各区画とアノードとの位置関係をほぼ一定に保つことができる。その結果、被めっき物に形成されるめっき膜の厚みのばらつきをより低減させることができる。
【0014】
なお、めっき膜の厚みのばらつきを低減するため、被めっき物の撹拌を十分に行う方法として、バレル容器内に投入する被めっき物を少なくし、バレル容器内における被めっき物の堆積厚みを薄くすることが考えられる。しかしながら、この場合には、被めっき物の投入量が少なくなるため、生産性に劣る結果となってしまう。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るめっき装置のバレル容器は、その内部が、仕切り板により区画されている。そのため、仕切り板がない場合と比較して、各区画内に投入される被めっき物はバレル容器の壁面(外壁面、内壁面、底面、仕切り板)に接触しやすくなる。バレル容器は、上記の振動発生手段により、振動しているため、被めっき物がバレル容器の壁面に接触すると、被めっき物に振動が伝わり、被めっき物が十分に撹拌される。その結果、めっきが不十分となる被めっき物の発生を抑制し、被めっき物に形成されるめっき膜の厚みを均一にすることができる。特に、バレル容器の内部が均等に区画されている場合には、上記の効果はより大きくなる。
【0016】
また、バレル容器に与えられる振動の方向は同じであるが、バレル容器は回転しているため、各区画内に存在する被めっき物に対しては、振動の方向が常に変化する。したがって、振動により被めっき物の動きが促進され、被めっき物の集合を抑制し、撹拌効果をより向上させることができる。
【0017】
さらに、バレル容器が水平方向に回転することで、めっき槽内に配置されているアノードとの位置関係が平均化され、めっき条件を一定にすることができるため、被めっき物に形成されるめっき膜の厚みを均一にすることができる。
【0018】
また、バレル容器には貫通孔が形成されているため、バレル容器の回転による遠心力が作用すると、バレル容器内でのめっき液の循環が促進され、各区画内には常に新鮮なめっき液が供給されることとなる。そのため、めっき効率が向上する。
【0019】
また、バレル容器が回転することで、バレル容器内に供給されためっき液が撹拌され、各区画内におけるイオン濃度の分布が均一となる。その結果、均一なめっきが実現され、被めっき物に形成されるめっき膜の厚みを均一にすることができる。
【0020】
さらには、バレル容器に与える振動を、鉛直平面内における楕円運動とすることで、上記の効果を確実に得ることができる。また、アノードをバレル容器の周囲を覆うように等間隔に配置することで、バレル容器が回転しているときも、各区画とアノードとの位置関係をほぼ一定に保つことができる。その結果、各区画内におけるめっき条件を一定とすることができるため、めっき膜の厚みを均一にし、厚みのばらつきをより低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ここにおいて、
図1は、本発明の一実施形態に係るめっき装置の概略断面図、
図2は、図1に示すバレル容器の概略斜視図、
図3(A)および(B)は、図2のIII方向から見たバレル容器の各区画内における振動方向の違いを示す模式図、
図4は、本発明の別の実施形態に係るバレル容器を、図2のIII方向から見た模式図、
図5(A)は、本発明の別の実施形態に係るめっき装置において、アノードを等間隔に配置した鉛直方向概略図、図5(B)は、本発明の別の実施形態に係るめっき装置において、アノードを円環状に配置した鉛直方向概略図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係るめっき装置2は、被めっき物としてのチップ状電子部品(図示省略)が投入されたバレル容器20と、アノード6を備え、めっき液が充填されためっき槽4と、を有している。さらに、めっき装置2は、バレル容器20を図2に示すz軸方向に回転させるための回転手段10と、バレル容器20を図2に示すy−z平面において振動させる振動発生手段14と、を有している。
【0023】
バレル容器20は、めっき槽4に充填されためっき液に浸漬されており、バレル容器20の壁面には貫通孔が形成されているため、バレル容器20内部はめっき液により満たされている。貫通孔は被めっき物が通過できない大きさであり、めっき液を通過させる。また、バレル容器20の底面にはカソード8が配置されている。そして、電源から電流を流すことで、カソード8に接触している被めっき物に電流が流れ、被めっき物の所望の箇所にめっきが施される。必要に応じて、被めっき物と一緒にバレル容器20内へ導電性メディアを投入してもよい。
【0024】
本実施形態においては、バレル容器20は、図2に示すように、円環状である。バレル容器20の中空部には、図1に示す回転軸12が挿入され、バレル容器20の底部に固定されている。この回転軸12は図2のz軸方向(鉛直方向)に平行であり、バレル容器20は、x−y平面(水平面)において回転する。
【0025】
本実施形態においては、バレル容器20内の空間は、少なくとも2つ以上で区画されていることが好ましい。より好ましくは2〜36に区画され、さらに好ましくは上記の範囲で均等に区画されている。
【0026】
バレル容器20内の空間を複数に区画することで、バレル容器内が区画されていない場合に比べて、以下のような効果を得ることができる。すなわち、同体積の被めっき物を、区画されていないバレル容器内に投入する場合と、複数に区画されたバレル容器20内に投入する場合とでは、区画されたバレル容器20の方が、被めっき物が接触するバレル容器の壁面(外周面、内周面、底面、仕切り板)の面積が大きい。そのため、バレル容器20内に投入された被めっき物に対して、バレル容器20に与えられる振動が伝わりやすくなる。その結果、被めっき物を撹拌する効果が大きくなり、被めっき物をめっき液に十分に接触させることができる。
【0027】
また、バレル容器20の内部の空間を、均等に区画することで、各区画内において、被めっき物が接触する壁面の面積を一定とすることができる。そのため、各区画において、被めっき物に形成されるめっき膜の厚みのばらつきを低減することができる。
【0028】
なお、バレル容器20の内部の空間がより細かく均等に区画されているほど、めっき膜の厚みのばらつきを低減することができるが、バレル容器20の製作の難易度および被めっき物が流動可能な区画内体積を考慮すると、区画は上記の上限以下であることが好ましい。
【0029】
本実施形態においては、図2に示すように、バレル容器20の中空部から放射状に仕切り板22が等間隔に8枚形成されている。したがって、バレル容器20の内部の空間は、8枚の仕切り板22により、8つに区画されていることとなる。そして、これらの区画内に略同体積の被めっき物が投入され、めっきが施されることとなる。
【0030】
さらに、バレル容器20の外周面には貫通孔が形成されている。この貫通孔を介して、めっき液が区画されたバレル容器20の内部に供給される。本実施形態では、さらに、内周面、底面および仕切り板22にも貫通孔が形成されている。全ての貫通孔は被めっき物(チップ)を通過させない大きさで形成される。内周面、底面および仕切り板22にも貫通孔が存在することで、めっき液の循環が良好となり、めっき条件を一定にすることができる。特に、バレル容器20の回転により生じる遠心力の作用により、めっき液が循環しやすくなる。したがって、バレル容器20の内部に新鮮なめっき液を常時供給することが出来る。
【0031】
また、バレル容器20には、図1に示す振動発生手段14により振動が与えられる。本実施形態においては、図1に示す振動発生手段14は、回転軸12に接続されており、図2に示すy−z平面(鉛直平面)内において楕円運動を与えている。なお、図2においては、楕円運動の振幅を拡大して示しており、実際には振幅の小さい楕円運動により、バレル容器20に振動を与えている。
【0032】
図3(A)および(B)は、図2のz軸方向から見たバレル容器20を示している。バレル容器20の区画S1は、図3(A)に示す位置にある。バレル容器20が時計回りに45°回転すると、区画S1は、図3(B)に示す位置に移動する。このとき、y−z平面(鉛直平面)における振動に起因するx−y平面(水平面)における振動成分50が図3に示す方向に振動していると仮定すると、振動成分50の振動方向は、バレル容器20の回転に依らない。
【0033】
そうすると、図3(A)においては、振動成分50は、区画S1の一方の仕切り板から他方の仕切り板に向かう方向とほぼ一致しているのに対し、図3(B)においては、振動成分50は、バレル容器20の内周面からバレル容器20の外周面に向かう方向とほぼ一致することとなる。さらに、区画S1が回転すれば、回転に伴い、振動成分50が作用する方向は変わる。すなわち、バレル容器20が回転している間、バレル容器20の区画S1内に投入された被めっき物に対して、振動成分50が様々な方向から働くことになる。
【0034】
その結果、振動成分50が同じ方向から作用している場合に比較して、区画内において被めっき物が集合することを抑制し、めっき液に十分接触しない被めっき物の発生を効果的に防止できる。
【0035】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々改変することができる。たとえば、上述した実施形態においては、バレル容器20として、円環状のものを用いたが、図4に示すように、多角形環状(図4においては八角形環状)のものを用いてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0036】
また、アノード6が、図5に示すように、バレル容器20を取り囲むように等間隔に配置されていてもよい。アノード6が図5に示すように配置されていることで、バレル容器20が回転しても、各区画とアノード6との位置関係をほぼ一定に保つことができる。そのため、各区画におけるイオン濃度の分布や流れる電流などのめっき条件をほぼ一定にすることができ、被めっき物に形成されるめっき膜の厚みをより均一にすることができる。
【0037】
特に、アノード6が、図6に示すように、バレル容器20の外周面全体を取り囲む円環状として配置されている場合に、上記のめっき条件を一定にすることができるため、本発明の効果が大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るめっき装置の概略断面図である。
【図2】図2は、図1に示すバレル容器の概略斜視図である。
【図3】図3(A)および(B)は、図2のIII方向から見たバレル容器の各区画内における振動方向の違いを示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の別の実施形態に係るバレル容器を、図2のIII方向から見た模式図である。
【図5】図5(A)は、本発明の別の実施形態に係るめっき装置において、アノードを等間隔に配置した鉛直方向概略図、図5(B)は、本発明の別の実施形態に係るめっき装置において、アノードを円環状に配置した鉛直方向概略図である。
【符号の説明】
【0039】
2… めっき装置
4… めっき槽
6… アノード
8… カソード
10… 回転手段
12… 回転軸
14… 振動発生手段
20… バレル容器
22… 仕切り板
50… 振動成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき槽と、
環状のバレル容器と、
アノードと、
前記バレル容器の中空部を中心として、前記バレル容器を回転させる回転手段と、
前記バレル容器に振動を与える振動発生手段と、を有し、
被めっき物が収容される前記バレル容器内の空間が、仕切り板によって、区画されており、
前記バレル容器の底面に、カソードが備えられていることを特徴とするめっき装置。
【請求項2】
前記仕切り板が前記中空部を中心として放射状に形成され、前記バレル容器内の空間が均等に区画されていることを特徴とする請求項1に記載のめっき装置。
【請求項3】
前記振動発生手段は、回転軸の軸心を含む面において楕円運動を発生させることを特徴とする請求項1または2に記載のめっき装置。
【請求項4】
前記アノードが前記バレル容器を囲むように等しく配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−43329(P2010−43329A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208428(P2008−208428)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)