説明

めっき部材とその製造方法

【課題】 含Ge合金がめっきされているめっき部材とその製造方法を提供する。
【解決手段】 表面に、Geを必須成分として含有する合金のめっき皮膜が成膜されているめっき部材。このめっき皮膜は電気めっき法で成膜される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はめっき部材とその製造方法に関し、更に詳しくは、白金族元素またはAuとGeとの合金から成るめっき皮膜で表面が被覆され、とりわけ白金族元素がRhである場合は、青みがかった黒色の金属光沢を有し、高貴な感触を与えるGe−Rh合金のめっき皮膜で表面が被覆されている新規なめっき部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
装飾品業界では、眼鏡、ネックレス、指輪、イヤリング、ブレスレット、ネクタイピンなど人体に装用する各種の装身具に関しては、人体に無害であるだけではなく、更に進んで健康増進に貢献し、同時に外観が美麗で高級感のある使用価値を有するものの開発が進められている。
例えば、次のような装身具用の素材が提案されている(特許文献1を参照)。
【0003】
この素材は、Geの遠赤外効果や血流促進作用などに着目して開発された含Ge合金である。この合金は、Ge:1〜9質量%、In:Geに対して2〜20質量%、残部がAgから成るGe−In−Ag合金であり、Geの上記効能を発現すると同時に、Pt様の金属光沢を有している。
そして、この合金は各成分を所定量比で溶融・混合して合金化することにより調製され、その後所定形状に加工して使用される。
【0004】
しかしながら、この合金はGe含有量が増加するにつれて難加工性を示し、例えば薄片への加工や精密な装飾加工などが困難になる。
なお、このような問題は、精密加工された被めっき材の表面を電気めっき法で含Ge合金のめっき皮膜で被覆すれば解消することができる。そのようなことから、装飾品業界では、含Ge合金から成るめっき皮膜の成膜に関して鋭意研究が重ねられている。しかしながら、現在までのところ、含Ge合金から成るめっき成膜を電気めっき法で成膜することに成功した事例はない。その最大の理由は、適切なめっき浴が未だ開発されていないからである。
【0005】
また、装身具の分野では、表面色調が黒色で金属光沢を有するものに対する要求が強まっている。そして、それを電気めっき法で製造するための開発研究が進められている。
ところで、黒色めっきとしては、従来から黒色Crめっき、黒色Niめっきなどが知られている。しかしながら、これらのめっき皮膜は、いずれも金属光沢に乏しく、そして装飾効果にも劣る。しかも、これらのめっき皮膜の場合、Crは環境や人体に有害な成分として忌避され、またNiは例えば肌アレルギーを引き起こす成分として忌避されているという問題がある。このようなことから、次のような黒色めっき皮膜が提案されている(特許文献2を参照)。
【0006】
このめっき皮膜は黒色の鏡面光沢を有するRhめっき皮膜である。しかも、このめっき皮膜は被めっき材との密着性が優れ、耐食性も優れ、そして高硬度である。
このめっき膜は、硫酸ロジウムのようなロジウム塩、硫酸のような遊離酸および次亜リン酸ナトリウムのような次亜リン酸塩を含むめっき浴を用いた電気めっき法で成膜される。
【0007】
しかしながら、この特許文献2の技術の場合、用いるめっき浴は必ずしも安定であるとはいえず、またRhの析出効率も高いとはいえない。そのため、鮮明な黒色光沢を実現するために厚付けめっきを行ったときに、めっきに要する時間が非常に長くなり、生産性が低くなるといる問題がある。
【特許文献1】特開2000−144283号公報
【特許文献2】特公平1−43033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、含Ge合金の電気めっき皮膜で被覆された新規なめっき部材とその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明においては、
表面に、Geを必須成分として含有する合金のめっき皮膜が成膜されているめっき部材、とりわけ、前記合金におけるGeの含有量が1〜90質量%であり、また前記合金が、Ge−Rh合金、Ge−Ru合金、Ge−Pd合金、Ge−Pt合金またはGe−Au合金であるめっき部材が提供される。
【0010】
また、本発明においては、
Ge源、Geと合金を形成する元素源、有機酸、アルカリ成分、および遊離酸を必須成分として含む酸性めっき浴を用いて被めっき材に含Ge合金を電着してめっき皮膜を成膜することを特徴とするめっき部材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
このめっき部材は、そのめっき皮膜にGeが1〜90質量%含有されており、まためっき皮膜がGe−Rh合金の場合は高貴な黒色光沢を示すので、Geの人体への効能を有効に発揮する新たな高級装身具としてその価値は大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のめっき部材は、表面を被覆するめっき皮膜が含Ge合金で構成されている。具体的には、Ge−Rh合金、Ge−Ru合金、Ge−Pd合金、Ge−Pt合金またはGe−Au合金で構成されている。そして、これら合金におけるGe含有量は1〜90質量%になっている。
このめっき皮膜は、合金におけるGeの相手材の種類やGe含有量によって独特の色調を有するが、いずれの合金の場合であっても、鏡面光沢を備えている。
【0013】
例えば、後述する実施例の48.8%Ge−51.2%Rh合金から成るめっき皮膜の場合、青みがかった黒色光沢であり、高貴な印象を与える色調である。また50%Ge−50%Auから成るめっき皮膜の場合は、青みがかった黄金色である。
このめっき部材は、電気めっき法で製造される。
まず、めっき浴としては、Ge源、Geと合金を形成する元素源、有機酸、アルカリ成分、遊離酸を必須成分として含む酸性のめっき浴が調製される。
【0014】
Ge源としては、例えば硫酸ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム、硝酸ゲルマニウム、ゲルマニウム酸カリウム、二酸化ゲルマニウムなどを用いることができる。
合金元素源としては、次のような各種の化合物が用いられる。
Ge−Rhめっき皮膜の成膜を目標とする場合のRh源としては、例えば硫酸ロジウム、塩化ロジウム、リン酸ロジウムなどを用いる。
【0015】
Ge−Ruめっき皮膜の場合のRu源としては、例えば硫酸ルテニウム、塩化ルテニウム、スルファミン酸ルテニウムなどを用いる。
Ge−Pdめっき皮膜の場合のPd源としては、例えば硫酸パラジウム、塩化パラジウム、パラジウムのアンモニア酢酸塩などを用いる。
Ge−Ptめっき皮膜の場合のPt源としては、例えば硫酸白金、亜硝酸白金などを用いる。
【0016】
また、Ge−Auめっき皮膜のAu源としては、例えばシアン金カリウム、塩化金酸などを用いる。
めっき浴の調製時におけるGe源と合金元素源の濃度は成膜するめっき皮膜におけるGe含有量の目標値との関係で適宜に決めればよい。
めっき浴における有機酸としては、例えば、クエン酸、スルファミン酸、グリコール酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸などの1種または2種以上を用いることができる。そして、これら有機酸のめっき浴における濃度は、0.1〜200g/L程度にすることが好ましい。
【0017】
アルカリ成分としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどを用いることができるが、これらのうち水酸化カリウムが好適である。そして、これらアルカリ成分の濃度は5〜200g/L程度にすることが好ましい。このアルカリ成分は濃度5〜200Nの水溶液にして用いてもよい。
遊離酸としては、酸性めっき浴に常用されている酸であれば何であってもよく、例えば硫酸、塩酸、リン酸、スルファミン酸などを用いることができる。そして、その使用量は、めっき浴のpHを5.5以下の酸性に確保できる量に設定される。
【0018】
めっき浴のpHは5.0以下に設定されることが好ましい。pHが5.0より高い場合は、Geやその相手元素の水酸化物が生成するようになって目標組成のめっき皮膜を成膜することが困難になるからである。
めっき浴の温度は常温から60℃の範囲内の適宜な温度に設定すればよい。温度が常温より低いと析出効率が悪くなり、また温度を60℃より高くすると、めっき浴の蒸発が進んで浴組成の変動が激しくなるからである。
【0019】
また電流密度は0.1〜10A/dm2の範囲内に設定することが好ましい。0.1A/dm2より低密度の場合は、析出速度が遅くなり、また10A/dm2より高密度にするとヤケが発生して光沢のあるめっき皮膜が成膜できなくなるからである。
【実施例】
【0020】
実施例1
下記の成分を用いてめっき浴を建浴した。
二酸化ゲルマニウム:13g/L(Ge換算)、硫酸ロジウム:2g/L(Rh換算)、スルファミン酸:50g/L、グリコール酸:50g/L、クエン酸:50g/L、水酸化カリウム:40g/L、硫酸:80g/L。
【0021】
このめっき浴は強酸性であり、そのpHは、温度30℃で0.5になっている。
このめっき浴の温度を45±2℃に制御し、陽極としてTi製の不溶性電極、陰極として銅箔を配置し、電流密度3A/dm2で電気めっきを6分間行った。
銅箔の表面に、青みがかった黒色光沢のめっき皮膜が形成された。厚みは約1μmであった。
【0022】
銅箔のめっき皮膜面に対してX線を照射して、蛍光X線エネルギースペクトクルを測定した。測定には、フィッシャースコープX−RAY XDL(フィッシャー社製)を用いた。結果を図1に示した。
図1から次のことが明らかである。
(1)2θ:60°付近にCuのエネルギーピーク、2θ:75°付近にGeのエネルギーピーク、2θ:155°付近にRhのエネルギーピークが認められる。
【0023】
このスペクトル図において各成分のエネルギーピークの割合は、Cu:91.4%、Ge:4.2%、Rh:4.4%になっている。
(2)銅箔の表面には、Ge−Rhから成るめっき皮膜が成膜されている。そしてそのめっき皮膜は上記したエネルギーピークの計算から、Ge:48.8質量%、Rh:51.2%の合金組成になっている。
【0024】
なお、このめっき皮膜に対し、次のような人工汗浸漬試験を行った。
塩化ナトリウム:9.9g/L、硫酸ナトリウム:0.8g/L、尿素:1.7g/L、乳酸:1.7mL/L、アンモニウム:0.2mL/Lを含み、温度40℃、pH5.6の試験用水溶液に、めっき部材を48時間浸漬したのち取りだして、めっき皮膜の状態を目視観察した。
【0025】
めっき皮膜には、変色も腐食も認められず、このめっき皮膜は優れた耐食性を備えていることが確認された。
また、銅箔を硝酸で溶解したところ、めっき皮膜は粉体化することなく、細かいフレーク状になって残存した。そして、このフレークの集合体を充分に水洗いしたのち、温度100℃の乾燥器内に1昼夜放置して乾燥したところ、重量が30%程度増量するという現象がみられた。これは、例えば大気中の酸素を吸蔵したのではないかと考えられる。
実施例2
下記の成分を用いてめっき浴を建浴した。
【0026】
ゲルマニウム酸カリウム(Ge換算):10g/L、硫酸ロジウム(Rh換算):2g/L、クエン酸カリウム:20g/L、リンゴ酸:30g/L、水酸化カリウム:30g/L。
この浴のpHは約5.0である。このめっき浴の温度を50±2℃に制御し、陽極としてTi製の不溶性電極、陰極として銅箔を配置し、電流密度2.0A/dm2で電気めっきを6分間行った。
【0027】
実施例1のめっき皮膜と同じように黒色光沢を有するめっき皮膜が成膜された。膜厚は約1.0μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のめっき部材は、めっき皮膜が含Ge合金で構成されている。そして、めっき皮膜がGe−Rh合金の場合、その色調は青みがかった黒色光沢になっていて優れた装飾効果を発揮している。
そのため、このめっき部材は、Geの効能も併有する装身具としての有用性が大である。
【0029】
また、Geの相手材として触媒作用を有する白金族元素を選択することにより、このめっき部材に対しては、例えば触媒のような未知の用途も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1のめっき部材の蛍光X線エネルギースペクトクル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、Geを必須成分として含有する合金のめっき皮膜が成膜されていることを特徴とするめっき部材。
【請求項2】
前記合金におけるGeの含有量が1〜90質量%である請求項1のめっき部材。
【請求項3】
前記合金が、Ge−Rh合金、Ge−Ru合金、Ge−Pd合金、Ge−Pt合金またはGe−Au合金のいずれか1種である請求項1または2のめっき部材。
【請求項4】
Ge源、Geと合金を形成する元素源、有機酸、アルカリ成分、および遊離酸を必須成分として含む酸性めっき浴を用いて被めっき材に含Ge合金を電着してめっき皮膜を成膜することを特徴とするめっき部材の製造方法。

【図1】
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