説明

アイオノマーを含有するポリアミド組成物

ポリアミドと、モノカルボン酸およびジカルボン酸またはその誘導体を含むエチレン共重合体のアイオノマーと、スルホンアミドとを含むブレンドを含むかまたは当該ブレンドである組成物およびそれを用いた物品を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド、エチレン共重合体、および可塑剤を含有する組成物ならびにこの組成物から作製された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド(ナイロン)は多くの工業用途に幅広く利用されている。ポリアミドは目的の性能に適合するように特性を改質することが可能である。例えば、可撓性はポリアミド材料に本来備わっている特徴ではない。自動車用チューブやホース等のある種の用途においては可撓性は重要な特徴である。ポリアミドの水素結合を切断する可塑剤はポリアミドの可撓性を向上させるのに有効であることが周知である。N−ブチルベンゼンスルホンアミド等のスルホンアミドで可塑化されたポリアミド組成物が周知である(米国特許第4801633号明細書および米国特許第6190769号明細書)。可塑化されたナイロン−11およびナイロン−12には、チューブ、ホース、パイプ、フィルム、射出成形部品等の多くの用途が見出されている。
【0003】
ポリアミドの化学的性質によっては、ポリアミドを無機塩溶液に曝すとストレスクラックが生じることが周知である(「塩によるストレスクラック」、(M.G.WyzgoskiおよびG.E.Novak,Journal of Material Science,1707〜1714(1987);Stress Cracking of Nylon Polymers in Aqueous Salt Solutionsを参照されたい)。アミド対メチレン基の比率がより低いナイロン−11やナイロン−12等のポリアミドは塩によるストレスクラックが生じにくい。一方、ナイロン−6やナイロン−66等のアミド対メチレン基の比率がより高いポリアミドは塩溶液に曝すとクラックが非常に生じやすい。アミド対メチレン基の比率がより高いポリアミド中に可塑剤が存在した場合は塩によるストレスクラックが一層生じやすくなる。したがって、可塑剤で改質された非常に可撓性の高いナイロン−6は耐塩ストレスクラック性(salt stress crack resistance)に劣るため工業用途が非常に限られている。その代替として、耐塩ストレスクラック性が非常に優れた可塑化されたナイロン−11およびナイロン−12が使用されている。しかしながら、ナイロン−11およびナイロン−12をベースとする製品は、これらのポリマーのコストが高いため高価である。
【0004】
米国特許出願公開第2007/0083033A1号明細書には、融点が240℃以下であり、少なくとも30μeq/gのアミン末端を有し、かつ極限粘度が少なくとも1.2であり、可塑剤を含有していてもよい耐加水分解性コポリアミドが開示されている。
【0005】
ポリアミドに可塑剤を添加すると可撓性が得られる一方で他の幾つかの特性が損なわれる可能性がある。例えば、ポリアミドを可塑化しても低温衝撃靭性は依然として不十分である。ポリアミド組成物中の可塑剤の量が増加するに従い、可塑剤の逃散しやすい性質がより大きな問題となる。可塑剤は経時的に組成物中から浸出することが知られており、可撓性等の特性の低下を招く可能性がある。また、可塑剤が浸出することによって、可塑化された組成物と接触した物質が汚染される可能性もある。
【0006】
マレイン酸変性EPゴム等の耐衝撃性改質剤を用いてポリアミドを改質することは工業的に一般的に行われている。耐衝撃性改質剤で改質されたポリアミドは非常に優れた低温靭性を達成し得る。例えば、米国特許第5648423号明細書には、グラフト変性されたエチレン/1−ブテン共重合体で強靭化されたポリアミド組成物が開示されている。低弾性率の耐衝撃性改質剤(軟質改質剤(soft modifier))も可撓性を向上させるが、可塑剤を添加することと比較すると効果がはるかに小さい。また、軟質耐衝撃性改質剤が存在することによってポリアミドに本来備わっている望ましい属性である耐摩耗性および耐引っ掻き性が損なわれる可能性がある。
【0007】
可撓性および低温靭性に加えて可能であれば他の利点を達成するために、耐衝撃性改質剤および可塑剤の両方を添加することが報告されている。しかしながら、その代償の1つとして、改質されたポリアミドの不均質な性質により光学的透明性が低下する。米国特許第6913043号明細書には、海洋石油およびガス生産ならびに他の用途に用いられるパイプに有用な、PA−11やPA−12等のポリアミドと、可塑剤を4〜10重量%とを含み、かつニトリルブタジエンゴムを25重量%まで含んでいてもよい組成物が開示されている。これらの用途に用いる場合は透明性は問題にならないが、他の用途、例えば包装体や装飾面(床材等)上の耐摩耗層(wear layer)にとって透明性は非常に重要となる可能性がある。この手法でもやはり、良好な光学的透明性を有する非常に可撓性の高い強靱化されたポリアミドを得るには至らない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、良好な光学的透明性、高靱性、ならびに高い耐摩耗性および耐引っ掻き性を有する非常に可撓性の高いポリアミドを開発することが望ましい。この種の組成物が、ナイロン−6等のコストがはるかに低くより入手が容易なポリアミドを利用していることも望ましい。
【0009】
最近、新しいタイプのアイオノマーが米国特許第5700890号明細書に開示されており、ここでは、典型的なアイオノマーに用いられるモノカルボン酸に加えて、モノマーとしてジカルボン酸またはその誘導体を用いて、中和されたエチレン酸共重合体が調製されている。これらの「無水物アイオノマー(anhydride ionomer)」共重合体はさらにアクリル酸アルキルコモノマーを含む場合もある。
【0010】
米国特許出願公開第2005/0203253A1号明細書、米国特許出願公開第2005/020762A1号明細書、および米国特許出願第2006/0142489A1号明細書には無水物アイオノマーで強靱化されたポリアミドが開示されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
組成物またはブレンドは、組成物の重量を基準として、ポリアミドを約40〜約70%、アイオノマーを約60〜約30%、およびスルホンアミドを約2〜約20%を含むか、これらから基本的になるか、これらからなるか、またはこれらから製造されており、このアイオノマーは、エチレン、少なくともα,β−不飽和C3〜C8モノカルボン酸、少なくとも1種のエチレン性不飽和ジカルボン酸またはその誘導体、および場合により(メタ)アクリル酸アルキルエステル、のコモノマーを分子鎖内共重合(in−chain copolymerized)させることにより誘導された共重合体を含むかまたは当該共重合体であり、結合されたカルボン酸官能基の少なくとも一部は1種以上のアルカリ金属、遷移金属、またはアルカリ土類金属陽イオンで塩に中和されている。
【発明の効果】
【0012】
この組成物は、曲げ弾性率が50〜150kpsiの範囲にある、耐塩ストレスクラック性が非常に優れた可撓性ポリアミド組成物となることができる。これは、ナイロン−6やナイロン−66等のアミド対メチレン基の比率がより高いポリアミドの耐塩ストレスクラック性が劣ることに対処するものである。
【0013】
可撓性ポリアミド組成物は非常に優れた衝撃靭性を有する。
【0014】
可撓性ポリアミド組成物は非常に優れた耐塩ストレスクラック性、非常に優れた衝撃靭性、および良好な光学的透明性を有している。これは、アミド対メチレン基の比率がより高いナイロン−11やナイロン−12等のポリアミドが満たせない要求に対処するものである。
【0015】
同様に、この組成物を含むかまたはこれを用いて製造される物品も提供され、この物品はポリマーフィルムであり得る。ポリマーフィルムは1枚を超える層を含んでいてもよく、織布または不織布に接着されていてもよい。この物品は、チューブ、ホース、パイプ、射出成形部品等を含む。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特段の指定がない限り、百分率、部、比率はすべて重量による。さらに、量、濃度、または他の値もしくは変数が、範囲、好ましい範囲、または好ましい上限値および好ましい下限値の一覧のいずれかにより与えられた場合、これは、範囲が別々に開示されているか否かに拘わらず、任意の範囲の上限または好ましい上限値と任意の範囲の下限または好ましい下限値との任意の対から形成されるあらゆる範囲を具体的に開示するものと理解すべきである。本明細書において数値範囲が引用された場合、特段の指定がない限り、この範囲はその終点ならびにこの範囲内のあらゆる整数および分数を包含することを意図している。範囲を定める際に引用された特定の値に本発明の範囲を制限することは意図されていない。ある成分が0を下限とする範囲で存在することが示された場合、このような成分は任意的な成分である(すなわち、これは存在していてもしていなくてもよい)。もし存在する場合、このような任意的な成分は、好ましくは、組成物またはポリマーの総重量の少なくとも約0.1重量%の量で含有される。
【0017】
本明細書において材料、方法、または機械が「当業者に周知の」、「従来の」という用語または同義の単語もしくは語句と共に記載された場合、この用語は、本明細書を出願した時点で慣用されている材料、方法、および機械がこの記載に包含されることを示すものである。同様に、現時点で慣用されていないが、当該技術分野において類似の目的に好適であると見なされるようになる可能性がある材料、方法、および機械も包含される。
【0018】
本明細書において用いられる「共重合体」という用語は、2種以上のコモノマーを共重合させることにより得られる共重合単位を含むポリマーを指し、例えば「エチレンとアクリル酸を15重量%とを含む共重合体」のように、構成コモノマーまたは構成コモノマーの量を参照して記述される場合がある。このような記述は以下の点から正式なものと見なされない可能性がある。すなわち、このコモノマーを共重合単位と称していないこと;従来の共重合体の命名法(例えば、国際純正応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry)(IUPAC)命名法)で構成されていないこと;プロダクトバイプロセス用語(product−by−process terminology)が用いられていないこと;または他の理由からである。しかしながら、その構成コモノマーまたは構成コモノマーの量を参照しての共重合体の記述は、その共重合体が特定のコモノマーの共重合単位を含む(特定されている場合は特定の量で)ことを意味している。したがって、当然の結果として、限られた状況においてそのようなものであると明示されていない限り、共重合体は、所与の量の所与のコモノマーを含む反応混合物の生成物ではない。
【0019】
熱可塑性樹脂は、加圧下に加熱すると流動させることができる高分子材料である。
【0020】
本組成物中には、ラクタムまたはアミノ酸から製造された当業者に周知の任意のポリアミド(PAと略記、ナイロンとも称される)を使用することができる。ラクタムまたはアミノ酸等の単一の反応体から得られるポリアミド(AB型ポリアミドと称される)は、Nylon Plastics(Melvin L.Kohan編,1973年,John WileyおよびSons,Inc.)に開示されており、ナイロン−6、ナイロン−11、ナイロン−12、またはこれらの2種以上の組合せが挙げられる。1種を超えるラクタムまたはアミノ酸から調製されるポリアミドとしてはナイロン−6,12が挙げられる。頻用されるポリアミドとしては、ナイロン−6、ナイロン−11、ナイロン−12、およびナイロン−6,12、またはこれらの2種以上の組合せが挙げられる。好ましいポリアミドはAB型のものである。
【0021】
本組成物に有用な他の周知のポリアミドとしては、ジアミンおよび二酸の縮合により調製されるAABB型ポリアミドと称されるもの(ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−612、ナイロン−1010、およびナイロン−1212が含まれる)に加えて、ジアミンおよび二酸の組合せから調製されるナイロン−66/610等またはこれらの2種以上の組合せが挙げられる。ナイロン−66およびナイロン−6の混合物をベースとするポリアミドは、ナイロン−66が40重量%未満存在するポリアミド混合物が有用な可能性がある。
【0022】
ポリ(m−キシレンアジパミド)(Mitsubishi Gas Chemical America Inc.からのナイロンMXD6等)を含む非脂肪族ポリアミドまたはヘキサメチレンジアミンおよびイソフタル/テレフタル酸から製造される非晶性ポリアミド(E.I.du Pont de Nemours and Company(DuPont)からのSELAR PA)を使用してもよい。
【0023】
ポリアミドおよびこれらを製造するためのプロセスは当業者に周知であるため、本明細書においてはこれらの調製に関する開示は簡潔化のため省略する。
【0024】
(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸、メタクリル酸、または両方を指す。(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、または両方を指す。
【0025】
「シート」および「フィルム」は、本組成物が略平坦な形状(単層または多層のいずれか)に加工された物品を記述する際に互換的に使用することができる。本明細書において「シート」または「フィルム」のどちらの用語を使用するかには加工方法および/または厚みが影響する可能性があるが、いずれの用語もこの種の略平坦な物品を記述する際に使用することができる。
【0026】
アイオノマーは、エチレンの分子鎖内共重合単位と、α,β−不飽和C3〜C8モノカルボン酸の分子鎖内共重合単位と、少なくとも2個のカルボン酸基を有するC4〜C8不飽和酸、少なくとも2個のカルボン酸基を有するC4〜C8不飽和酸の環状無水物、および少なくとも2個のカルボン酸基を有するC4〜C8不飽和酸のモノエステル(ジカルボン酸部分の一方のカルボキシル基がエステル化されていてもよく、他方がカルボン酸である)から選択される、少なくとも1種のエチレン性不飽和ジカルボン酸コモノマーの分子鎖内共重合単位とを含み、少なくとも一部がアルカリ金属、遷移金属、またはアルカリ土類金属陽イオン(リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、もしくは亜鉛、またはこの種の陽イオンの組合せ等)で塩に中和されている。
【0027】
α,β−不飽和C3〜C8モノカルボン酸はアクリル酸またはメタクリル酸であってもよく、モノカルボン酸は、共重合体中に、共重合体の約0.5〜約20重量%、または約3重量%〜約20重量%、または約4重量%〜約15重量%の量で存在してもよい。
【0028】
アイオノマーは、エチレン性不飽和ジカルボン酸またはその誘導体を共重合体の約0.5〜約15%、または約3%〜約12%、または約4%〜約10%の量で含んでいてもよい。不飽和ジカルボン酸コモノマーには、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、およびマレイン酸、フマル酸、イタコン酸のC1〜C4アルキルモノエステル(マレイン酸水素エチル等)またはこれらの2種以上の組合せが含まれる。
【0029】
ジカルボン酸またはその誘導体は、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、イタコン酸モノエステル、またはこれらの2種以上の組合せである。
【0030】
アイオノマーはまた、アルキル基が1〜8個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル等)等の他のコモノマーを含んでいてもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルが存在する場合は、共重合体の総重量を基準として0.1〜約30%または約0.1〜約15%であってもよい。任意的な(メタ)アクリル酸アルキルエステルによってより軟質の樹脂が得られ、中和後により軟質のアイオノマーが形成される。
【0031】
特に重要なのは(メタ)アクリル酸アルキルエステルが0%のアイオノマーである。
【0032】
アイオノマーはエチレン酸共重合体から作製され、(メタ)アクリル酸およびジカルボン酸モノマーの合計は共重合体の総重量を基準として約4〜約26%とすることができ、コモノマー全体の含有量は50%を超えない。
【0033】
酸共重合体は、すべてのコモノマーを同時に添加することによりコモノマーをエチレンと直接共重合させる高圧ラジカル重合により得てもよい。このプロセスにより、モノマーから誘導された「分子鎖内」共重合単位を有する共重合体が得られ、この単位は、ポリマー主鎖骨格(backbone)すなわち分子鎖(chain)中に組み込まれている。これらの共重合体は、既存のポリマー鎖に酸コモノマーを後重合であるグラフト化反応(多くの場合はラジカル反応による)を介して付加するグラフト共重合体とは区別される。エチレン性不飽和ジカルボン酸コモノマーを含むいくつかの非中和型エチレン酸共重合体(例えば、米国特許第5902869号明細書)およびこれらのアイオノマー型誘導体(例えば、米国特許第5700890号明細書)が周知である。
【0034】
その例として、エチレン、メタクリル酸、およびマレイン酸水素エチルの共重合体(E/MAA/EHM)、エチレン、アクリル酸、および無水マレイン酸の共重合体(E/AA/MAH)、エチレン、メタクリル酸、マレイン酸水素エチル、およびアクリル酸エチルの共重合体(E/MAA/EHM/EA)、エチレン、アクリル酸、無水マレイン酸、およびアクリル酸メチルの共重合体(E/AA/MAH/MA)、またはこれらの2種以上の組合せが挙げられる。
【0035】
これらの共重合体は、1種以上のアルカリ金属、遷移金属、またはアルカリ土類金属陽イオンで少なくとも一部を中和することにより塩を形成することができる。
【0036】
エチレン酸共重合体の中和は、まず最初にエチレン酸共重合体を作製し、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および/または遷移金属陽イオンを含む1種または複数種の塩基性化合物で共重合体を処理することにより実施することができる。共重合体は、共重合体中の利用可能なカルボン酸基の約10〜約99.5%がリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、鉛、錫、亜鉛、アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属イオン、またはこの種の陽イオンの組合せで中和されるように中和して塩にすることができる。例えば、利用可能なカルボン酸基の約10〜約70または約35〜約70%を、ナトリウム、亜鉛、リチウム、マグネシウム、およびカルシウム、より好ましくはナトリウム、亜鉛、またはマグネシウムから選択される少なくとも1種の金属イオンを有する塩基性化合物で処理(中和)することによりイオン化することができる。その例としては、陽イオンとしてナトリウムまたは亜鉛を含む無水物アイオノマー(anhydride ionomer)が挙げられる。共重合体から無水物アイオノマーを調製する方法は当業者に周知である(例えば、米国特許第5,700,890号明細書)。
【0037】
本発明のブレンドは、ポリアミドを約50〜約70または約55〜約65%および無水物アイオノマーを約30〜約50、35〜約55、約35〜約45%(いずれもブレンドの総重量を基準とする)を含むか、これらから基本的になるか、これらからなるか、またはこれらから製造することができる。
【0038】
特に重要なのは、ポリアミドおよび無水物アイオノマーが約3:2または約1:1または約2:3の比で存在するブレンドである。
【0039】
スルホンアミドを可塑剤として使用することができ、これをポリアミドおよび無水物アイオノマーのブレンドに添加すると、使用条件下において特に高温に曝された場合に可撓性が維持される。スルホンアミドは、組成物の総重量を基準として約2〜約20%、好ましくは約5〜約15%の量で使用することができる。スルホンアミドはアルキル基が1〜4個の炭素原子を有するアルキルアリールスルホンアミド、例えば、n−メチルベンゼンスルホンアミド、n−エチルベンゼンスルホンアミド、n−プロピルベンゼンスルホンアミド、n−イソプロピルベンゼンスルホンアミド、n−イソブチルベンゼンスルホンアミド、n−ブチルベンゼンスルホンアミド、またはこれらの2種以上の組合せであってもよい。n−ブチルベンゼンスルホンアミドは容易に入手可能であり、本組成物から作製された物品に最適な可撓性を付与する。
【0040】
特に重要なのは、(1)ポリアミドと、(2)(a)エチレンの分子鎖内共重合単位、(b)α,β−不飽和C3〜C8モノカルボン酸の分子鎖内共重合単位、(c)少なくとも1種のジカルボン酸またはその誘導体の分子鎖内共重合単位を有し、かつ(d)アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルの分子鎖内共重合単位を有していてもよい共重合体を含むアイオノマーと、(3)スルホンアミドとから基本的になる、本明細書に記載される組成物であって、さらなる熱可塑性材料を一切含まない組成物である。
【0041】
本発明の組成物またはブレンドは、ポリアミド、アイオノマー、およびスルホンアミドとブレンドされるさらなる熱可塑性材料を含んでいてもよく、そうすることによって、組成物の特性の改質がより容易になる(エチレン酸共重合体中のモノマーの割合を変化させることに加えて、組成物中に存在するさらなる成分の量および種類を操作することによる)かまたは組成物の製造をより容易かつ低コストで行える(所望の特性を得るために後段で改質される可能性がある基体樹脂の調製を減らすことが可能になるかまたは組成物の一部をより安価な材料で置き換えることが可能になることによる)ようになる。この所望の利点を維持するために、組成物中にさらなる熱可塑性材料を、組成物全体の約30%までの量、例えば1〜10、15、または20%で存在させてもよい。使用してもよい他の熱可塑性材料としては、非アイオノマーおよび/またはアイオノマーが挙げられる。
【0042】
例えば、上述したアイオノマーの一部を従来のモノカルボン酸単位のみを有する1種または複数種のアイオノマーに置き換えることができる。組成物またはブレンドは、1種以上のE/X/Y共重合体(ここで、Eは、エチレンであり、XはC3〜C8α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸であり、Yは、上述した1種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルである)またはそのアイオノマーをさらに含むことができる。Xは、E/X/Y共重合体の重量を基準として約2〜約30%存在し、Yは、0〜約40%存在し、このカルボン酸を上述した1種以上の金属イオンで少なくとも一部を中和して塩にすることができる。特に重要なのは、Yが共重合体の約0.1〜約40重量%存在するE/X/Y三元重合体である。同様に重要なのは、Yが共重合体の0重量%であるE/X/Y共重合体(すなわちE/X二元共重合体)である。
【0043】
このようなE/X/Y共重合体またはアイオノマーを添加する場合、組成物の成分(2)中の1種または複数種のジカルボン酸から誘導された繰り返し単位を含むアイオノマーの半分(50重量%)までをE/X/Y共重合体で置き換えることができる。E/X/Y共重合体の非限定的な例示的な例(酸共重合体、酸共重合体のアイオノマー、またはこれらの組合せを含む)としては、E/15MAA、E/19MAA、E/15AA、E/19AA、E/15MAA、E/19MAA、E/10MAA/4iBA、E/10MAA/9.8iBA、E/9MAA/23nBA、E/15MAA/Na、E/19MAA/Na、E/15AA/Na、E/19AA/Na、E/15MAA/Mg、E/19MAA/Li、E/10MAA/4iBA/Na、E/10MAA/9.8iBA/Zn、およびE/9MAA/23nBA/Mg(ここで、Eは、エチレンを表し、MAAは、メタクリル酸を表し、AAは、アクリル酸を表し、iBAは、アクリル酸イソブチルを表し、nBAは、アクリル酸n−ブチルを表し、数字は共重合体中に存在するコモノマーの重量%を表し、原子記号は中和に用いた陽イオンを表す)が挙げられる。
【0044】
特に重要なのは、(1)ポリアミドと、(2)(a)エチレンの分子鎖内共重合単位、(b)α,β−不飽和C3〜C8モノカルボン酸の分子鎖内共重合単位、(c)少なくとも1種のジカルボン酸またはその誘導体の分子鎖内共重合単位を有し、かつ(d)アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルの分子鎖内共重合単位を有していてもよい共重合体を含むアイオノマーと、(3)スルホンアミドとから基本的になる本明細書に記載した組成物であって、少なくとも1種のジカルボン酸またはその誘導体の分子鎖内共重合単位を有する共重合体を含むアイオノマー(2)の一部が、モノカルボン酸の分子鎖内共重合単位を有し、かつジカルボン酸の共重合単位を有していない共重合体(上述したE/X/Y共重合体)を含むアイオノマーで置き換えられており、かつ他の非アイオノマー型熱可塑性材料を含まない組成物である。
【0045】
非アイオノマーとしては、コポリエーテルアミド、ポリオレフィンエラストマー、スチレンジエンブロック共重合体(例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS))、熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリウレタン(例えば、ポリウレタン)、ポリエーテルエステル、ポリアミドエーテル、ポリエーテル−尿素、PEBAX(ポリエーテルブロックアミドをベースとするブロック共重合体の1種、Atochemより市販)、スチレン(エチレン−ブチレン)スチレンブロック共重合体等、ポリエステル、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはエチレン/プロピレン共重合体)、(酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、エポキシ官能化モノマー、CO等、無水マレイン酸で官能化されたポリマー、またはエポキシ化等の1種以上のコモノマーとの)エチレン共重合体、グラフト化、、EPDM等のエラストマー、メタロセン触媒によるPEおよび共重合体、熱硬化性エラストマーの粉砕粉末、またはこれらの2種以上の組合せが挙げられる。
【0046】
組成物またはブレンドは、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解安定剤、帯電防止剤、染料または顔料、充填剤、難燃剤、潤滑剤、強化材(ガラス繊維やフレーク等)、加工助剤、ブロッキング防止剤、離型剤、またはこれらの2種以上の組合せ等の任意的な添加剤を、組成物またはブレンドの重量を基準として0.0001〜約10%含むことができる。特に重要なのは、(1)ポリアミドと、(2)(a)エチレンの分子鎖内共重合単位、(b)α,β−不飽和C3〜C8モノカルボン酸の分子鎖内共重合単位、(c)少なくとも1種のジカルボン酸またはその誘導体の分子鎖内共重合単位、および任意的な(d)アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルの分子鎖内共重合単位を有する共重合体を含むアイオノマーと、(3)スルホンアミドとからなる本明細書に記載した組成物であって、上述した少なくとも1種の添加剤をさらに含む組成物である。
【0047】
ブレンドは当業者に周知の組成物を製造するための任意の手段、例えば、ドライブレンディング/混合、押出、共押出により製造することができる。組成物は、当業者に周知の様々な手段により物品に形成することができる。例えば、組成物は、押出、ラミネート、成形(例えば、射出成形、吹き込み成形、またはオーバーモールド成形)、切断、粉砕等を行うことにより所望の形状および寸法を有する物品を得るかまたはキャスティングもしくはインフレーション成形によりシートまたはフィルムにしてもよい。
【0048】
また、熱可塑性組成物を含む物品をさらに加工してもよい。例えば、組成物(例えば、これらに限定されるものではないが、ペレット、スラグ、ロッド、ロープ、シート、および成形または押出品)の一部を、組成物に熱、圧力、および他の機械的な力を加える熱形成操作に付すことによって造形物としてもよい。さらなる加工の例として圧縮成形がある。
【0049】
フィルム等の多層構造体を、ポリアミド、無水物アイオノマー、および可塑剤組成物を含む層と、この組成物以外の組成物を含む少なくとも1つの他の層とから作製してもよい。この層は共押出することもできるし、あるいはこれらを独立に形成した後に互いに接着して物品を形成することもできる。例えば、さらなる層は、熱可塑性樹脂を含むかまたはこれから作製されていてもよく、ここに本組成物から作製された層を接着することにより、物品を保護するかまたは外観を改善するための構造層が提供される。その例としては、少なくとも1つのさらなる層として上に開示したアイオノマーまたは非アイオノマーを含む多層フィルムが挙げられる。
【0050】
溶融押出されたポリマーを当業者に周知の任意の技法を用いてフィルムに変換することができる。例えば、共押出に続いて1つ以上の他の層にラミネートすることによりフィルムを作製することができる。他の変換技法は、例えば、インフレーション押出、キャストフィルム押出、キャストシート押出(cast sheet extrusion)、および押出コーティングである。
【0051】
共押出により多層フィルムを作製してもよい。例えば、組成物またはその成分の顆粒を押出機で溶融して溶融ポリマー樹脂を生成させ、これをダイまたは一連のダイを通過させることにより、層流として加工される溶融ポリマーの層を形成する。溶融ポリマーを冷却することにより層状構造が形成される。
【0052】
フィルムを急冷またはキャスティングした後にフィルムをさらに延伸することができる。このプロセスは、溶融ポリマーの層流を(共)押出するステップと、(共)押出物を急冷するステップと、急冷された(共)押出物を少なくとも1方向に延伸するステップとを含む。フィルムは1方向に延伸してもよいし、あるいは機械特性および物理特性を十分に両立させるためにフィルム平面上の互いに垂直な2方向に引き伸ばすことにより二軸延伸してもよい。
【0053】
延伸(orientation、stretching)は当業者に周知であり、本明細書においては簡潔化のため説明を省略する。
【0054】
単層または多層フィルムをさらに熱成形により加工して造形物にすることができる。例えば、多層構造のシートを携帯通信機器用のケース部品に形成することができる。
【0055】
層の一部または全部を基材上に押出コーティングするかまたはラミネートすることによって物品を作製してもよく、そこではフィルムは表面層となる。これは、その表面の一方には他のいかなる物品も装着されていないことを意味する。物品の例としては、本組成物が透明な耐引っ掻き性を有する保護フィルムまたはシートまたは外(上)層に変形されて、引っ掻きに曝される物体に施された物品が挙げられ、例えば、自動車内装もしくは外装、床タイルもしくはシート、スポーツ用品、または乾燥した研磨性を有する物品の包装フィルムに用いるための透明耐引っ掻き性層がある。
【0056】
基材は、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンプロピレンジエン(EPDM)エラストマー、ポリプロピレン、エチレン共重合体、セルロース系材料、木質繊維、アイオノマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、スチレン系ポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、不織材料、非高分子材料(例えば、ガラス、紙、木、石、または金属箔)、またはこれらの2種以上の組合せを含むかまたはこれらから誘導されたフィルムまたはシートであり得る。
【0057】
基材へのフィルムまたはシートのラミネートは、例えば、共押出、押出コーティング、または任意のラミネート技法により行うことができる。
【0058】
フィルムまたはシートとしては、例えば、物品上で透明、半透明、および/または印刷された装飾用または耐引っ掻き性保護フィルムまたはシートとして使用することができる単層または多層フィルムまたはシートが挙げられる。
【0059】
装飾フィルムは多くの消費者用品を装飾および表面保護する表面処理として使用することができる。こうしたフィルムは、従来のコーティングと比較して適用が容易で耐久性を有することからコーティング、塗料、ラッカー等の他の表面処理の代替として用いられることが多くなっている。これにより、従来の多段塗工方法と比較してより経済的かつ環境に適した選択肢が提供される。装飾フィルムはまた、従来のコーティングよりも設計や受注製作の自由度が高い。これらは消費者用品に適用する前に印刷やエンボス加工等の装飾要素を付与してもよい。例えば、金属光沢を有するいわゆる「ラッカーフィルム(lacquer film)」または他の特殊効果フィラー(effect filler)等の多層フィルムを使用してもよい。
【0060】
造形物に多層構造体を接着させることによって保護層を付与することができる。例えば、多層構造体を熱および/または圧力によって熱成形することにより基材に接着させて自動車部品またはスポーツ用品を形成することができる。上に開示した多層構造体を備える物品の例としては、床材、家具用フィルム(furniture film)、スキー板の最上層、自動車内装の最上層、自動車外装の耐引っ掻き性最上層、または階段踏み面用カバーを挙げることができる。
【0061】
通常、床仕上げ材の最下層は、クレー、CaCO3、タルク等の充填剤を高充填(30〜95%)したポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸ブチル共重合体、またはEPDMとすることができる。表面層および最下層の間にポリエステルまたはポリプロピレン不織層が含まれていてもよい。充填剤が充填された最下層および表面層の間にガラス繊維を使用することができる。表面層は、表面層と基材との間に印刷可能なフィルム層を挟むことができるように無色透明とすることができる。多くの場合、印刷は表面層(すなわち裏面印刷)または最下層または充填剤が充填された最下層および表面層の間に挿入された中間層(ポリマーフィルムであってもよい)のいずれかに適用することができる。その場合、接着層を挿入してもよい。
【0062】
木質床材(例えば、パーケッツ(parketts))においては、最下層は何らかの色で印刷することができる天然材料(木材またはコルク)である。木材および表面層の間に、この色に接着することのできる接着層を挿入することが望ましい場合もある。任意の周知の接着剤を使用することができる。
【0063】
基材が木材または木質繊維または木粉である木質床材の表面被覆は、マレイン酸グラフトエチレン共重合体(エチレン酢酸ビニル等)、定番のSURLYN(登録商標)(すなわちジカルボン酸コモノマーを含まないアイオノマー)、またはエチレンアクリル酸メチルを含むことができる。表面層の厚みは100〜200mμであることができ、多層構造体全体の厚みは300〜600mμであることができる。
【0064】
家具の場合は、基材はMDF(ポリ塩化ビニルを使用したものなどの圧縮成形された木材)、圧縮木材、またはポリプロピレンフィルムもしくはシートで被覆したポリウレタンであることができる。このような多層構造体の厚みは最大200mμとなることができる。
【0065】
スキー板の最外層として使用する場合、多層構造体の厚みは1000mμまでであってもよい。表面層はスキー板基材と一緒に共押出してもよく、木材からABSまでいかなるものであり得る。
【0066】
自動車内装部品の最外層用途の場合、多層構造体をポリプロピレンまたは金属基材に接着させることができる。
【0067】
自動車外装用耐引っ掻き性最外層として、基材は透明または着色されたアイオノマーであり得、表面層は耐引っ掻き性または耐擦り傷性を付与するために透明である。
【0068】
多層構造体は階段踏み板カバーとして使用することもでき、表面層は、例えば感圧接着剤を用いてスタールケース(stir case)、木材、金属、岩、または石である基材に接着することができる。
【0069】
摩耗および引っ掻きに曝される他の物体、例えば、乾燥スープミックス等の硬質の研磨性物体を収容する包装構造体のシール層用に多層構造体を用いてもよい。ここでは、表面または層に他の基材または他のフィルムもしくはシート構造体をヒートシールすることができる。このような他の基材は金属表面、金属、金属箔、厚紙、石、皮革、または上に開示した基材のいずれかであることができる。
【0070】
装飾フィルムを、スキー板、スノーボード、ブーツ、シューズ、ラケット等のスポーツ用品に使用してもよい。織物、食器類、床材、家庭用電気製品等の他の多くの消費者用品に装飾フィルムを装着することもできる。自動車、オートバイ、および他の運搬車輌の部品を装飾フィルムで装飾することもできる。フィルムを看板、バス、トラック、鉄道車輌等に適用して広告媒体として使用することもできる。フィルムはまた、床または建物正面の大面積装飾として使用することもできる。
【0071】
ポリアミド−12およびポリアミド−12エラストマーは透明性、機械特性、および耐薬品性がうまく両立しているので、こうした装飾フィルム用途に好ましいこともある。
【0072】
本組成物はまた、造形された基材に射出成形、オーバーモールド成形、または圧縮成形により接着させてもよい。例えば、本組成物を含むフィルムを射出金型に載置し、部品用のポリマー材料のバルクをフィルムの裏側に射出してもよく、そうすると1回の操作で装飾された物品が得られる。
【0073】
本組成物は異形押出により造形することもできる。異形材(profile)は、特定の形状を有することおよび異形押出として周知の製造プロセスによって画定される。異形材はフィルムやシートではない。したがって、異形材を作製するプロセスにはカレンダー成形や冷却ローラーの使用も含まれないし、射出成形プロセスによって作製されるものでもない。異形材は溶融押出プロセスにより作製され、これは、溶融した熱可塑性樹脂をダイ(心棒を有する環状ダイ)のオリフィスを通じて(共)押出することにより、所望の形状を維持することが可能な押出物を形成することから開始される。通常、押出物は、所望の形状を維持しながら最終寸法に延伸され、次いで空気または水浴中で急冷することにより形状が固定され、それにより異形材が生成する。単純な異形材の形成においては、好ましくは、押出物の形状は構造補助を用いなくても維持される。異形材の一般的な形状はチューブまたはホースである。単層または多層チューブを作製してもよい。
【0074】
液体および気体を輸送するためのチューブ連結体は当該技術分野において周知である。チューブの透明性は輸送される流体を目視観察するために望ましい場合がある。さらに、チューブの用途によっては極低温および/または極高温に曝される場合がある。本明細書に記載される組成物は靭性、可撓性、および透明性がうまく両立しているため、チューブ等の異形材の作製に好適である。
【0075】
本組成物を異形押出することによって、空調装置、冷蔵庫、流体(飲食物、圧縮空気やガス、塗料、化学物質(溶剤、アルカリ性物質、希釈鉱酸、有機酸等)、石油製品、燃料、油等)の計量供給および輸送装置、冷媒ライン、グリースライン、油圧ライン、自動車用ホースまたはチューブ、実験室用途、計装等に用いるためのホース等の物品を提供してもよい。
【0076】
本明細書に記載するポリアミド組成物は、運転時の表面温度が最高約90℃になり得るホース用ポリマー組成物として使用してもよい。この組成物により、従来の組成物と比較して所望の曲げ弾性率が得られるとともに老化が改善される。
【0077】
幾つかの管状形状においては、形状維持を助けるため、繊維または金属強化等の支持手段を用いてもよい。強化は、組成物の基体チューブの外面周囲の編組強化層形態であってもよいし、あるいはポリマー材料の層の間に組み込んでもよい。強化層は編組されたポリエステル、ポリアミド、またはアラミド繊維を含んでいてもよい。強化層を組成物に接着させるために接着剤を使用してもよい。例えば、米国特許第4,130,139号明細書にはポリアミド−11をこのような強化層に結合させるための接着剤として使用される架橋ポリウレタンが開示されている。場合によっては、強化材料の撚り線または編組の空隙が充填されるように熱可塑性材料を溶融加工して、本組成物の層内に強化材料が埋め込まれるようにしてもよい。
【0078】
油またはガスパイプライン用の可撓性パイプまたはライナーにも本組成物を含有させてもよい。海洋石油およびガス鉱床における操業においては、プラットフォーム周辺の様々な装置に接続するために可撓性パイプを使用する必要がある。パイプは高温の油、ガス、水、およびこれらの産生物の少なくとも2種の混合物に20年間も耐えなければならない。これらの用途には耐塩ストレスクラック性が非常に優れていることも重要である。こうしたパイプは、異形材である金属ストリップをインターロックされたストリップのように螺旋状に巻回してパイプ形状を形成した不浸透性ではない金属内層と、この層の上に封止を供するように押出成形したポリマー組成物と、最後に施される他の保護層および強化層(層状の金属繊維またはゴム)とからなるものであってもよい。
【0079】
米国特許第6913043号明細書、国際公開第2004/052993号パンフレット、国際公開第2007/041722号パンフレット、および国際公開第2007/041723号パンフレットに従来のポリアミド組成物を用いた様々なパイプおよびチューブ用途および構成が記載されている。本明細書に開示された組成物は、これらの用途および構成に用いる代替的なポリアミド組成物として使用してもよい。
【実施例】
【0080】
以下の実施例は単に例示的なものであり、本発明の範囲を制限するものと見なすべきではない。
【0081】
材料
以下に列挙する材料の相対粘度(RV)はこれを市販する業者により報告されたものである。
N−12−A:ナイロン−12(押出グレード)、融点:180℃、Arkema IncよりRILSAN(登録商標)AESNO TLの商品名で入手可能。
N−12−B:ナイロン−12(成形グレード)、融点:180℃、Arkema Inc.よりRILSAN(登録商標)AMNOの商品名で入手可能。
N−6−A:ナイロン−6、RV:2.62〜2.83(ISO 307に準拠し測定)、BASFよりULTRAMID(登録商標)B27−E01の商品名で入手可能。
N−6−B:ナイロン−6、RV:3.09〜3.22(ISO 307に準拠し測定)、BASFよりULTRAMID(登録商標)B32の商品名で入手可能。
N−6−C:ナイロン−6、RV:3.19〜3.41(ISO 307に準拠し測定)、BASFよりULTRAMID(登録商標)B35の商品名で入手可能。
AI−1:エチレンと、メタクリル酸を11重量%と、マレイン酸水素エチルを6重量%とを含む無水物アイオノマー三元共重合体、利用可能なカルボン酸部分の60%(公称値)が亜鉛陽イオンで塩に中和された。
MAG−1:無水マレイン酸グラフト線状低密度ポリエチレン、密度:0.86g/cc、MFI:1.6、DuPontよりFUSABOND(登録商標)493Dの商品名で入手可能。
Ion−1:エチレンとメタクリル酸15重量%とを含む共重合体、利用可能なカルボン酸部分の60%(公称値)が亜鉛陽イオンで中和された。
ステアリン酸亜鉛(工業グレード):加工助剤として使用。
N−ブチルベンゼンスルホンアミド:Unitex Chemical Corp.からのUNIPLEX 214。
【0082】
押出/加工条件
すべての試料は、30mm二軸押出機を用いて、バレル温度を通常は260℃に設定し、スクリュー回転数を300rpmとして作製した。ポリアミド、改質剤、およびステアリン酸亜鉛(使用する場合)を押出機の後端から供給した後、押出機スクリュー内部の強力混練部でこれらの原料を分散させた。最初の混合部の後、押出機バレルに可塑剤を注入し、液体注入の後、さらに構成成分を強力に混合した。押出機からの溶融ストランドを水で急冷し、ペレットに切断して、後段の成形および評価用に回収した。
【0083】
射出成形
1.5oz Arburgまたは6oz Nissei射出成形機のいずれかで標準的なスクリューおよびノズルを用いて試験片を成形した。バレルは通常は260℃に設定し、射出圧力およびサイクルタイムは所与の試料の溶融粘度に適応するように調整した。
【0084】
試験に用いた方法
射出成形された試験片については、ASTM D790に準拠して曲げ弾性率を測定した。
【0085】
ASTM D1708、「Standard Test Method for Tensile Properties of Plastics by use of Microtensile Specimens」に準拠し、クロスヘッド速度を10インチ/分として引張強さおよび破断伸びを測定した。試験片の試験面積を幅0.185インチ×厚み0.125インチ×長さ0.875インチとした。
【0086】
射出成形された試験片についてASTM D256を用いてノッチ付きアイゾッド衝撃強さを測定した。「ゲート側(gate end)」(金型の溶融樹脂入口に最も近い)および「反ゲート側(far end)」(金型の溶融樹脂入口から最も遠い)から軟質の板状体(5インチ×0.5インチ×0.125インチ)を打ち抜き、ASTM D256標準に従い切り欠きを形成した。ゲート側および反ゲート側の試験片から得られたアイゾッド耐衝撃性の結果を平均したものをアイゾッド耐衝撃性として報告する。準大気圧の液体二酸化炭素チャンバー内で試験片を指定の温度で状態調整した後、速やかに測定した。
【0087】
光学試験には、押出キャストフィルムまたは圧縮成形フィルムのいずれかを用いた。バレルを260℃に設定した二軸押出機を使用して厚さ約10milの押出キャストフィルムを作製した。圧縮成形フィルムは260℃に温度設定された高温プレスを使用し、10milのチェス内で40,000psiで圧縮することにより作製した。表3および4において「C」はキャストフィルムを示し、「M」は圧縮成形フィルムを示す。
【0088】
ASTM D1003に準拠し、装置としてHunterLab Colorquest XE Spectrophotometerを使用し、透過モード;カラースケール:C.I.E XYZ;光源/角度:D65/10°として、光学特性を測定した。透過ヘイズは、ほぼ透明な試験片を透過観察した場合の表面からの光の前方散乱として定義される。ヘイズを測定する場合、式、
ヘイズ(%)=(Ydiffused/Ytotal)×100
に従い、拡散散乱した光の百分率を全透過光と比較する。
【0089】
環境ストレスクラック試験をASTM D1693に準拠して測定した。この試験の目的は、試料に入ったストレスクラックまたは「切り込み」を人為的に模擬することによりコンパウンドの耐薬品性を測定することにある。次いで試料を屈曲させ、化学薬品としての塩化亜鉛50%溶液に室温で168時間曝す。各組成につき10個の試験片を用いた。試験片の寸法は長さ1.5インチ×幅0.5インチ×厚み0.125インチとした。試験片に切り込みを入れ、次いで切り込みを上にして屈曲形状を維持するようにホルダーに装着した。試験片を塩化亜鉛の50重量パーセント水溶液に浸漬した。試験片の損傷を示す試験片の亀裂を定期的に検査した。168時間が経過した後、10個のうち損傷した試験片の総数の割合を記録した。例えば、80%は10個の試験片中8個が損傷したことを示す。
【0090】
実施例1〜11および比較例C1〜C3
表1にまとめた成分を使用してナイロン−6を使用した組成物を調製し、上述したように試験片に加工した。特性を表2にまとめた。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
可塑化されたナイロン6(比較例C1、C2、C3)は耐塩ストレスクラック性に劣るだけでなく耐衝撃性が室温下でさえも劣っていた。これらの材料は可塑剤を12%使用した場合でさえも曲げ弾性率が高かった。可塑剤を12重量%含む比較例C1およびC3はZnCl2塩試験において1時間以内に損傷が発生した。
【0094】
無水物アイオノマーAI−1および可塑剤で改質されたナイロン−6の実施例はすべて曲げ弾性率および靭性が大幅に改善された(ノッチ付きアイゾッドにより示される)。中量(10%以下)の可塑剤を含む実施例7、8、12、13、15、16、および17は特性のバランスがとれており、高い可撓性および低温における非常に優れた耐衝撃性を達成した。そして最も重要なのは、非常に優れた耐ZnCl2塩ストレスクラック性を達成したことにある。可塑剤の配合量が高い(12%)実施例18は低温でさえも非常に優れた靭性を示したが、耐ZnCl2塩ストレスクラック性が劣っていた。
【0095】
表3にまとめたように、無水マレイン酸グラフト共重合体またはモノカルボン酸コモノマーのみを含む従来のアイオノマーのいずれかで改質された可塑化されたナイロン−6から調製されたフィルムは非常に優れた低温靭性を示したが、光学的品質が損なわれ、ヘイズが高く透過光が減少していた。また、無水マレイン酸グラフト共重合体で改質された可塑化されたナイロン−6から調製されたフィルム試料を爪による引っ掻きで評価したところ、耐引っ掻き性に劣るようであった。これとは対照的に、実施例9は非常に優れた靭性および良好な光学特性を示した。
【0096】
【表3】

【0097】
実施例19
ナイロンN−6−Cを52.36%、無水物アイオノマーAI−1を34.98%、ステアリン酸亜鉛を0.66%、およびn−ブチルベンゼンスルホンアミドを12%を含む組成物を40mmの二軸押出機で配合し、急冷し、造粒した。この材料を約70℃で乾燥した後、汎用スクリューを備えた1.5インチ短軸押出機で直径0.5インチのチューブ(壁の肉厚0.043インチ)を約5.5フィート/分で押出成形した。押出機のバレル温度設定を210℃〜243℃とし、アダプタおよびダイの温度設定を240℃とした。溶融樹脂温度を測定したところ224℃であり、この材料は非常に優れた溶融強度を有していた。押出直後のチューブを短距離の空気中を通過させ、真空チャンバを通過させることにより真空サイジングし、水中で急冷した。チューブの外観は半光沢があり、耐引っ掻き性が非常に優れていた。表面感触に基づくと、可塑剤はポリマーから移行していないようである。
【0098】
実施例22、23、26、および27ならびに比較例C20、C21、C24、およびC25
ナイロン12を使用した組成物を調製し、表4にまとめた成分を用いて上述したように試験片に加工した。フィルムを調製し、これらの光学特性を上述したように測定した。「TLT」は光が完全に透過したことを意味する。機械特性を表5にまとめる。
【0099】
【表4】

【0100】
【表5】

【0101】
可塑化されたナイロン−12(C20およびC24)は良好な光学特性を有しており、ヘイズが非常に低く、光透過率が良好であったが、低温下における耐衝撃性に劣っていた。
【0102】
MAG−1および可塑剤で改質されたナイロン−12(比較例C21およびC25)は低温下で非常に優れた靭性を示したが、光学的品質が損なわれ、ヘイズが高く、光の透過率が低下していた。フィルム試料は基本的に不透明であった。また、このフィルム試料を爪引っ掻きにより評価したところ耐引っ掻き性にも劣るようであった。
【0103】
可塑剤を添加するとともに無水物アイオノマーで改質したナイロン−12(実施例22、23、26、および27)は可撓性が高く、耐引っ掻き性が良好であり、低温でさえも耐衝撃性が非常に優れているというバランスを示すと同時に低いヘイズおよび良好な光透過性を維持していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の重量を基準として、ポリアミドを約40〜約70%、アイオノマーを約60〜約30%、およびスルホンアミドを約2〜約20%を含むかまたはこれらから製造される前記組成物であって、
前記アイオノマーが、エチレン、少なくともα,β−不飽和C3〜C8モノカルボン酸、少なくとも1種のエチレン性不飽和ジカルボン酸またはその誘導体、および場合により(メタ)アクリル酸アルキルエステル、のコモノマーを分子鎖内共重合することにより誘導された共重合体を含むかまたは前記共重合体であり、
前記モノカルボン酸が、アクリル酸またはメタクリル酸を含み、かつ前記ジカルボン酸またはその誘導体が、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、1種以上のマレイン酸のC14アルキルハーフエステル、1種以上のフマル酸のC1~4アルキルハーフエステル、1種以上のイタコン酸のC1~4アルキルハーフエステル、またはこれらの2種以上の組合せを含み、かつ
結合された前記カルボン酸官能基の少なくとも一部が1種以上のアルカリ金属、遷移金属、またはアルカリ土類金属陽イオンで塩に中和されている、組成物。
【請求項2】
いずれも前記共重合体の重量を基準として、前記モノカルボン酸の前記共重合単位が約0.5〜約20%存在し、かつ前記ジカルボン酸またはその誘導体の前記共重合単位が約0.5〜約15%存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記共重合体中にアクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルの共重合単位が0.1〜約30重量%存在する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記共重合体の総重量を基準として、前記共重合体のアクリル酸またはメタクリル酸およびジカルボン酸またはその誘導体の総量が約4〜約26%であり、コモノマーの総含有量が50%を超えない、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記ジカルボン酸またはその誘導体が、1種以上のマレイン酸のC1~4アルキルハーフエステルを含み、かつ前記ポリアミドが、ナイロン−6、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン6,12、ナイロン−66、ナイロン−610、ナイロン−612、ナイロン−1010、およびナイロン−1212、またはこれらの2種以上の組合せを含む、請求項1、2、3、または4に記載の組成物。
【請求項6】
前記スルホンアミドがアルキルアリールスルホンアミドであり、前記アルキル基が1〜4個の炭素原子を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記スルホンアミドがn−ブチルベンゼンスルホンアミドである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記アイオノマーの一部がジカルボン酸の共重合単位を含まない第2のアイオノマーに置き換えられている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物がさらなる熱可塑性材料を含まない、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
非アイオノマー型熱可塑性材料をさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリアミドを約50〜約70重量%および前記アイオノマーを約30〜約50重量%を含み、好ましくは、前記ポリアミド対前記アイオノマーの重量比が約3:2である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
組成物を含むかまたは前記組成物より製造される物品であって、前記組成物が、請求項1〜11のいずれか一項において特徴づけられる通りであり、かつ前記物品が、単層フィルム、単層シート、多層フィルム、または多層シートであり、かつ少なくとも1層が前記組成物を含む、物品。
【請求項13】
高温下で可撓性を有する、請求項12に記載の物品。
【請求項14】
前記フィルムまたはシートが織布または不織布に接着されている、請求項12または13に記載の物品。
【請求項15】
前記物品が、ホース、チューブ、パイプ等の異形材である、請求項12または13に記載の物品。

【公表番号】特表2013−500356(P2013−500356A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521775(P2012−521775)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/042859
【国際公開番号】WO2011/011577
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】