説明

アイソレータ

【課題】 小型、かつ、薄型であって、放熱性に優れ、高電力に耐え得るアイソレータを提供する。
【解決手段】 外装体1は、少なくとも一端側を開口させた内部空間10を有している。容量基板2は、中心部に孔20を有し、孔20の周りの基板部に中心導体4の入出力端子に接続されるコンデンサを有し、外装体1の内部空間10内に配置されている。フェリ磁性体3は、孔20の内部に配置されている。中心導体4は、フェリ磁性体3の上に配置されている。永久磁石5は、フェリ磁性体3に直流磁界を印加する。基板6は、外装体1の開口側とは反対側に備えられている。終端用抵抗7は、反射電力を吸収すべく中心導体4の入力端子の一つに接続されていて、基板6の上に備えられている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アイソレータに関する。
【0002】
【従来の技術】アイソレータは、中心導体の入出力端子の1つを、特性インピーダンス(通常は50Ω)の抵抗体(終端用抵抗と称する)で終端させると共に、残りの2つの入出力端子間において、信号を一方向のみに通過させるものであり、高周波信号伝送において、インピーダンスマッチングのとりにくいところに使用されるのが常である。最近では自動車電話、携帯電話、コードレス電話等の通信システム等において移動体通信端末や、基地局に使用されることが多い。この場合、この種の通信システムでは、通信方式がデジタル化されたため、各チャンネルの出力電力は数十mWでも、複数チャンネルが重畳されることが多いので、アイソレータの出力電力は重畳チャンネル倍になる。
【0003】アイソレータは、移動体通信端末や基地局の小型化に対応すべく、小型化重視の中で、技術開発が進められており、現在では、7×7×4(mm)のサイズのものが主に使用されている。小型で、面実装の可能なアイソレータとしては、実開平3115406号公報、実開平677310号公報等に開示されているように、構成部品をモジュール化すると共に基板化し、これらの構成部品を積み重ね、得られた積層体を外装体内に組み込んで構成したものが知られている。この場合、終端用抵抗は、アイソレータの小型化に対応すべく、チップ抵抗を使用し、これを容量基板上に実装するか、または、容量基板上に厚膜印刷にて形成するのが一般的であった。
【0004】しかし、この種のアイソレータでは、小型化及び面実装の要請から、容量基板は外装体の内部に組み込まれるのが普通であるから、チップ抵抗や厚膜印刷抵抗を容量基板上に形成する従来構造では、反射電力吸収時に終端用抵抗の発する熱を、外装体の外部に放出することができない。
【0005】特に、終端用抵抗が容量基板上に厚膜印刷に設けられた場合、容量は使用周波数によって大きな値を必要とするため、容量基板の材質や厚さが優先的に決定されてしまい、放熱に寄与する終端用抵抗の位置や面積を優先させることはできない。このため、終端用抵抗の放熱性が悪くなり、その発熱温度が上昇してしまう。発熱温度をある許容限界値に押さえるためには、電力を押さえるほかはなく、このため、より高電力のアイソレータを実現することが困難になっていた。
【0006】しかも、上述したように、通信方式がデジタル化されたことに伴い、アイソレータの内部で、複数チャンネルが重畳され、出力電力が重畳チャンネル倍になるから、終端用抵抗で吸収すべき電力も重畳チャンネル倍になり、終端用抵抗の発熱がより一層増大する。
【0007】また、終端用抵抗の発熱により、部品相互間を接合するためのハンダが溶融するなどの問題が発生するため、この面からも、許容電力を抑制せざるを得なかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、小型、かつ、薄型のアイソレータを提供することである。
【0009】本発明のもう一つの課題は、高電力に耐え得るアイソレータを提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】上述した課題を解決するため、本発明に係るアイソレータは、外装体と、容量基板と、フェリ磁性体と、中心導体と、永久磁石と、基板と、終端用抵抗とを含む。前記外装体は、少なくとも一端側を開口させた内部空間を有している。前記容量基板は、中心部に孔を有し、前記孔の周りの基板部に前記中心導体に接続されるコンデンサを有し、前記外装体の前記内部空間内に配置されている。前記フェリ磁性体は、前記孔の内部に配置されている。前記中心導体は、前記フェリ磁性体の上に配置されている。前記永久磁石は、前記フェリ磁性体に直流磁界を印加する。前記基板は、前記外装体の前記開口側とは反対側に備えられている。前記終端用抵抗は、反射電力を吸収すべく前記中心導体の入出力端子の一つに接続されていて、前記基板の上に備えられている。
【0011】上述のように、中心導体をフェリ磁性体の上に配置し、永久磁石によりフェリ磁性体に直流磁界を印加し、終端用抵抗を反射電力を吸収すべく中心導体の入出力端子に接続してあるから、中心導体の入出力端子の一つを終端用抵抗の特性インピーダンスで終端させると共に、残りの入出力端子間において、信号を一方向のみに通過させるアイソレータが得られる。
【0012】容量基板は、中心導体の入出力端子に接続されるコンデンサを有するから、容量基板によって与えられる容量値に従った周波数特性を有するアイソレータが得られる。
【0013】外装体は、少なくとも一端側を開口させた内部空間を有しており、容量基板は外装体の内部空間内に配置されているから、容量基板を外装体の内部に配置して位置決めできる。外装体は、内部空間の少なくとも一端側を開口させてあるから、容量基板を開口部を通して、外装体の内部空間内に容易に組み込むことができる。しかも、外装体及び容量基板のそれぞれの厚みが互いに加算されることがない。このため、小型、かつ、薄型のアイソレータが得られるフェリ磁性体は容量基板に設けられた孔の内部に配置されている。この構造によれば、フェリ磁性体及び容量基板のそれぞれの厚みが互いに加算されることがない。このため、小型、かつ、薄型のアイソレータが構成される。
【0014】外装体の開口側とは反対側に基板が備えられており、終端用抵抗は基板の上に備えられている。したがって、反射電力吸収時に終端用抵抗から発生する熱が基板を通して外部に導出される。このため、放熱性に優れ、高電力に耐え得るアイソレータが得られる。電力が一定であるとすれば、発熱温度を低減させ、部品相互間を接合するためのハンダが溶融するなどの問題を回避することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】図1は本発明に係るアイソレータの分解斜視図、図2は本発明に係るアイソレータの平面図及び図3は図2のA3−A3線上における正面断面図である。図に示すように、本発明に係るアイソレータは、外装体1と、容量基板2と、フェリ磁性体3と、中心導体4と、永久磁石5と、基板6と、終端用抵抗7とを含む。外装体1は、少なくとも一端側を開口させた内部空間10を有している。 外装体1は、絶縁材料、例えば、絶縁樹脂で構成される。外装体1に備えられた端子12、14は入出力端子であり、端子13は接地端子である。端子11も接地端子として用いることができる。
【0016】容量基板2は、中心部に孔20を有し、孔20の周りの基板部21に中心導体4の入出力端子に接続されるコンデンサを有し、外装体1の内部空間10内に配置されている。フェリ磁性体3は、孔20の内部に配置されている。フェリ磁性体3は、YIG(イットリウム鉄ガーネット)などからなる。
【0017】中心導体4は、フェリ磁性体3の上に配置されている。本発明においては使用できる中心導体に特に制限がない。これまで提案され、これから提案されることのある種々のタイプのものを用いることができる。実施例では、中心導体4は、3つのストリップライン41〜43を有し、ストリップライン41〜43のそれぞれが互いに約120度の角度で交叉している。
【0018】永久磁石5は、フェリ磁性体3に直流磁界を印加する。実施例では、薄型化、小型化のために、1個の永久磁石5を有する場合を示しているが、2個の永久磁石を備えていてもよい。
【0019】基板6は、外装体1の開口側とは反対側に備えられている。終端用抵抗7は基板6の上に備えられ、反射電力を吸収すべく中心導体4の入力端子の一つに接続されている。基板6は熱伝導性の良い電気絶縁材料で構成する。具体例としては、アルミナまたはベリリア等を挙げることができる。
【0020】終端用抵抗7は、外装体1と対向する基板6の一面側に設けられている。終端用抵抗7は、通常は、酸化ルテニウム(RuO)等の抵抗材料、銀ーパラジウム(AgPd)等の電極材料を用い、これらの材料を基板6上に印刷することによって形成される。更に実施例では、図3に示すように、終端用抵抗7の表面に、レジストによって保護用絶縁膜71が形成されている。終端用抵抗7は、基板6上に形成された端子電極61ー62間に形成されている。
【0021】組み立てに当っては、基板6の上にヨーク8を載せ、ヨーク8の上に外装体1を載せる。基板6とヨーク8は接着または機械的結合手段によって、結合させる。外装体1の内部空間10の中に容量基板2を挿入し、容量基板2の孔20の内部にフェリ磁性体3を挿入し、フェリ磁性体3の上に中心導体4を配置する。更に、中心導体4の上方に、フェリ磁性体3に垂直に磁界を印加するように永久磁石5を配置し、更にその上にヨーク9を被せて、ヨーク9の止め金91、92とヨーク8の止め金81、82で外装体5を固定する(図2参照)。ただし、実際の組立順序は上記とは異なる。ヨーク9は、薄い鉄板にニッケルメッキしたものが使用でき、ヨーク8は鉄に銀メッキしたものにフッ素樹脂をコートしたものが使用できる。
【0022】図4は本発明に係るアイソレータの回路図である。図4において、端子14は、入力端子INとして用いられ、中心導体4のストリップライン43に接続されている。端子12は出力端子OUTとして用いられ、中心導体4のストリップライン42に接続されている。終端用抵抗7は、接地用端子13と中心導体4のストリップライン21との間に接続されている。
【0023】接地容量C01〜C03及び端子間容量C11〜C13は、容量基板2によって得られたコンデンサである。接地容量C01〜C03は、ストリップライン43から導かれた入力端子431と、接地用端子13との間に接続されている。接地容量C02は、ストリップライン42から導かれた入力端子421と、接地用端子13との間に接続されている。接地容量C03は、ストリップライン41から導かれた入力端子411の接続点と、接地用端子13との間に接続されている。端子間容量C11はストリップライン42の入力端子421と、ストリップライン43の入力端子431と間に接続されている。端子間容量C12はストリップライン42の入出力端子421とストリップライン41の入出力端子411との間に接続されている。端子間容量C13はストリップライン41の入出力端子411と、ストリップライン43の入出力端子431との間に接続されている。図1、図2に示したアイソレータにおいて、容量基板2、中心導体4及び基板6は図4に示すような回路構成が得られるように電気的に接続されている。かかる接続関係の具体例は、例えば、特開平6-163319号に開示されている。
【0024】上述のように、中心導体4をフェリ磁性体3の上に配置し、永久磁石5によりフェリ磁性体3に直流磁界を印加し、終端用抵抗7を中心導体4の入力端子に接続してあるから、中心導体4の入出力端子411を終端用抵抗7の特性インピーダンスで終端させると共に、残りの2つの入出力端子431 421間において、信号を一方向のみに通過させるアイソレータが得られる。
【0025】容量基板2は、中心導体4の入出力端子411 421 431に接続されるコンデンサを有するから、容量基板2によって与えられる容量値に従った周波数特性を有するアイソレータが得られる。
【0026】外装体1は少なくとも一端側を開口させた内部空間10を有しており、容量基板2は外装体1の内部空間10内に配置されているから、容量基板2を外装体1の内部に配置して位置決めできる。外装体1は、内部空間10の一端側を開口させてあるから、容量基板2を開口部を通して、外装体1の内部空間10内に容易に組み込むことができる。しかも、外装体1及び容量基板2のそれぞれの厚みが互いに加算されることがない。このため、小型、かつ、薄型のアイソレータが得られる。
【0027】フェリ磁性体3は容量基板2に設けられた孔20の内部に配置されている。この構造によれば、フェリ磁性体3及び容量基板2のそれぞれの厚みが互いに加算されることがない。このため、小型、かつ、薄型のアイソレータが構成される。
【0028】外装体1の開口側とは反対側に基板6が備えられており、終端用抵抗7は基板6の上に備えられている。したがって、反射電力吸収時に終端用抵抗7から発生する熱が基板6を通して外部に効率よく放熱される。このため、放熱性に優れ、高電力に耐え得るアイソレータが得られる。電力が一定であるとすれば、発熱温度を低減させ、部品相互間を接合するためのハンダが溶融するなどの問題を回避することができる。
【0029】基板6を、熱伝導性の良好なアルミナまたはベリリア等で構成した場合には、より優れた放熱特性を得ることができる。
【0030】表1は従来のアイソレータ(従来品)と、本発明に係るアイソレータ(本発明品)について、終端用抵抗の吸収反射電力と表面温度との関係を示すデータであり、図5はそれをグラフにしたものである。従来品は、終端用抵抗を容量基板の上に設けた構造のものである。


【0031】表1及び図5を見ると明らかなように、本発明品において、従来品の発熱温度198℃とほぼ等しい発熱温度196℃まで使用した場合、吸収できる反射電力は4.5Wであり、従来品の約3倍の反射電力を吸収できる。従って、本発明に係るアイソレータは高電力に耐えることができる。
【0032】また、1.5Wの反射電力吸収時の終端用抵抗の温度が、従来品では198℃にも達しているのに対して、本発明品では、84℃と、従来品の半分にも満たない。従って、電力が一定であるとすれば、発熱温度を低減させ、部品相互間を接合するためのハンダが溶融するなどの問題を回避することができる。
【0033】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば以下のような効果が得られる。
(a)小型、かつ、薄型のアイソレータを提供することができる。
(b)高電力に耐え得るアイソレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るアイソレータの分解斜視図である。
【図2】本発明に係るアイソレータの平面図である。
【図3】図2のA3−A3線上における正面断面図である。
【図4】本発明に係るアイソレータの回路図である。
【図5】従来のアイソレータと本発明に係るアイソレータとについて、反射電力吸収時における終端用抵抗の表面温度を、比較して示したグラフである。
【符号の説明】
1 外装体
10 内部空間
2 容量基板
20 孔
3 フェリ磁性体
4 中心導体
5 永久磁石
6 基板
7 終端用抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】 外装体と、容量基板と、フェリ磁性体と、中心導体と、永久磁石と、基板と、終端用抵抗とを含むアイソレータであって、前記外装体は、少なくとも一端側を開口させた内部空間を有しており、前記容量基板は、中心部に孔を有し、前記孔の周りの基板部に前記中心導体に接続されるコンデンサを有し、前記外装体の前記内部空間内に配置されており前記フェリ磁性体は、前記孔の内部に配置されており、前記中心導体は、前記フェリ磁性体の上に配置されており、前記永久磁石は、前記フェリ磁性体に直流磁界を印加しており、前記基板は、前記外装体の前記開口側とは反対側に備えられており、前記終端用抵抗は、反射電力を吸収すべく前記中心導体に接続され、前記基板の上に備えられているアイソレータ。
【請求項2】 請求項1に記載されたアイソレータであって、前記終端用抵抗は、前記外装体と対向する一面上に設けられているアイソレータ。
【請求項3】 請求項1に記載されたアイソレータであって、前記中心導体は、3つのストリップラインを有し、前記ストリップラインのそれぞれが互いに約120度の角度で交叉する集中定数型であるアイソレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平10−84205
【公開日】平成10年(1998)3月31日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−236129
【出願日】平成8年(1996)9月6日
【出願人】(000003067)ティーディーケイ株式会社 (7,238)