説明

アウトドライブ装置用操船システム

【課題】電磁比例弁のソレノイドが故障し、アウトドライブ装置の舵角度が制御不能となった場合に、該アウトドライブ装置の舵角度を舵中央にすることができる技術を提供する。
【解決手段】ピストンが摺動することによってアウトドライブ装置10を回動させる操舵用油圧アクチュエータ20と、ピストンの摺動方向を切り換える電磁比例弁30と、電磁比例弁30に制御信号を送信可能とする制御装置40と、を備えたアウトドライブ装置用操船システム100であって、電磁比例弁30は、作動油の油路を切り換えるスプールシャフトと、スプールシャフトを一方に摺動させる第一ソレノイドと、スプールシャフトを他方に摺動させる第二ソレノイドと、を具備し、制御装置40は、第一ソレノイド又は第二ソレノイドのいずれか一方が故障した場合、故障していない第一ソレノイド又は第二ソレノイドを作動させる、とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウトドライブ装置用操船システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、船体内部にエンジンを配置し、船体外部に配置されたアウトドライブ装置へ動力を伝達する船内外機(インボートエンジン・アウトボートドライブ)が知られている(例えば特許文献1参照)。アウトドライブ装置は、スクリュープロペラを回転することによって船体を推進させる推進装置であり、船体の進行方向に対して回動することによって該船体を旋回させる舵装置でもある。
【0003】
また、このようなアウトドライブ装置を二台備えた、いわゆる二軸推進方式の船舶が知られている(例えば特許文献2参照)。二軸推進方式の船舶は、アウトドライブ装置の舵角度が制御不能となった場合においても、左右のアウトドライブ装置の出力を独立して調節することで操船できる。
【0004】
しかし、アウトドライブ装置の舵角度が舵中央となっていない場合においては、左右のアウトドライブ装置の出力を独立して調節しても操船することは困難であった。そのため、作動油の流動方向を変更する電磁比例弁のソレノイドが故障し、アウトドライブ装置の舵角度が制御不能となった場合に、該アウトドライブ装置の舵角度を舵中央にすることができる技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−1992号公報
【特許文献2】特開平8−40369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題を解決すべくなされたものであり、作動油の流動方向を変更する電磁比例弁のソレノイドが故障し、アウトドライブ装置の舵角度が制御不能となった場合に、該アウトドライブ装置の舵角度を舵中央にすることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1に係る発明は、
シリンダスリーブに内設されたピストンが摺動することによってアウトドライブ装置を回動させる操舵用油圧アクチュエータと、
前記操舵用油圧アクチュエータの作動油の流動方向を変更して前記ピストンの摺動方向を切り換える電磁比例弁と、
前記電磁比例弁に制御信号を送信可能とする制御装置と、を備えたアウトドライブ装置用操船システムであって、
前記電磁比例弁は、摺動することによって作動油の油路を切り換えるスプールシャフトと、
前記スプールシャフトを一方に摺動させる第一ソレノイドと、
前記スプールシャフトを他方に摺動させる第二ソレノイドと、を具備し、
前記制御装置は、前記第一ソレノイド又は前記第二ソレノイドのいずれか一方が故障した場合、故障していない前記第一ソレノイド又は前記第二ソレノイドを作動させることによって前記アウトドライブ装置の舵角度を舵中央にする、ものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアウトドライブ装置用操船システムにおいて、
前記制御装置は、故障していない前記第一ソレノイド又は前記第二ソレノイドを作動させると前記ピストンが舵中央となる位置に近づくように摺動する場合にのみ、該第一ソレノイド又は第二ソレノイドを作動させる、ものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のアウトドライブ装置用操船システムにおいて、
前記ピストンの位置を検出する位置センサを具備し、
前記制御装置は、前記位置センサからの検出信号に基づいて前記ピストンの位置及び摺動方向を把握する、ものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、第一ソレノイド又は第二ソレノイドのいずれか一方が故障した場合に、故障していない第一ソレノイド又は第二ソレノイドを作動させる。これにより、アウトドライブ装置の舵角度を舵中央にすることが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、故障していない第一ソレノイド又は第二ソレノイドを作動させると操舵用油圧アクチュエータのピストンが舵中央となる位置に近づくように摺動する場合にのみ、該第一ソレノイド又は第二ソレノイドを作動させる。これにより、アウトドライブ装置の舵角度を舵中央にすることが可能となる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、位置センサからの検出信号に基づいてピストンの位置及び摺動方向を把握することができる。これにより、アウトドライブ装置の舵角度を確実に舵中央にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】アウトドライブ装置用操船システムの全体概要を示す図。
【図2】アウトドライブ装置用操船システムの構成を示す図。
【図3】アウトドライブ装置の構成を示す図。
【図4】アウトドライブ装置の取り付け構造を示す図。
【図5】操舵用油圧アクチュエータの構成を示す一の図。
【図6】操舵用油圧アクチュエータの構成を示す他の図。
【図7】電磁比例弁の構成を示す図。
【図8】電磁比例弁の動作態様を示す図。
【図9】アウトドライブ装置用操船システムの制御フローを示す図
【図10】アウトドライブ装置の回動を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、図1から図8を用いてアウトドライブ装置用操船システム100の全体概要及び構成について説明する。なお、図1及び図2は、アウトドライブ装置10を二台備えた、いわゆる二軸推進方式のアウトドライブ装置用操船システム100を示している。但し、一軸推進方式等であっても成立し、これに限定するものではない。
【0017】
アウトドライブ装置用操船システム100は、アクセルレバー2の操作に応じてエンジン5の運転状態を調節し、ひいてはスクリュープロペラ15の回転速度を変更させる制御システムである。また、アウトドライブ装置用操船システム100は、操舵ハンドル3やジョイスティックレバー4の操作に応じてアウトドライブ装置10を回動させる制御システムでもある。アウトドライブ装置用操船システム100は、主にアウトドライブ装置10と、操舵用油圧アクチュエータ20と、電磁比例弁30と、制御装置40と、で構成される。
【0018】
アウトドライブ装置10は、スクリュープロペラ15を回転させることによって船体1を推進させる。また、アウトドライブ装置10は、船体1の進行方向に対して回動することによって該船体1を旋回させる。図3に示すように、アウトドライブ装置10は、主に入力軸11と、切換クラッチ12と、駆動軸13と、出力軸14と、スクリュープロペラ15と、で構成される。
【0019】
入力軸11は、ユニバーサルジョイント6を介して伝達されたエンジン5の回転動力を切換クラッチ12に伝達する。入力軸11の一端部は、エンジン5の出力軸に取り付けられたユニバーサルジョイント6と連結され、その他端部は、アッパーハウジング10Uの内部に配置された切換クラッチ12と連結される。
【0020】
切換クラッチ12は、入力軸11等を介して伝達されたエンジン5の回転動力を正回転方向又は逆回転方向に切換可能とする。切換クラッチ12は、ディスクプレートを備えるインナードラムと連結された正回転用ベベルギア、ならびに、逆回転用ベベルギアを有し、入力軸11に連結されたアウタードラムのプレッシャープレートをいずれのディスクプレートに押し付けるかによって回転方向の切り換えを行なう。
【0021】
駆動軸13は、切換クラッチ12等を介して伝達されたエンジン5の回転動力を出力軸14に伝達する。駆動軸13の一端部に設けられたベベルギアは、切換クラッチ12に設けられた正回転用ベベルギア、ならびに、逆回転用ベベルギアと歯合され、その他端部に設けられたベベルギアは、ロアハウジング10Rの内部に配置された出力軸14のベベルギアと歯合される。
【0022】
出力軸14は、駆動軸13等を介して伝達されたエンジン5の回転動力をスクリュープロペラ15に伝達する。出力軸14の一端部に設けられたベベルギアは、上述したように駆動軸13のベベルギアと歯合され、その他端部には、スクリュープロペラ15が取り付けられている。
【0023】
スクリュープロペラ15は、回転することによって推進力を発生させる。スクリュープロペラ15は、出力軸14等を介して伝達されたエンジン5の回転動力によって駆動され、回転軸周りに配置された複数枚のブレード15aが周囲の水をかくことによって推進力を発生させる。
【0024】
なお、アウトドライブ装置10は、船体1の船尾板(トランサムボード)に取り付けられたジンバルハウジング7に支持されている。具体的には、アウトドライブ装置10は、該アウトドライブ装置10のジンバルリング16が喫水線wlから略垂直方向となるようにジンバルハウジング7に支持されている。なお、ジンバルリング16は、アウトドライブ装置10に取り付けられた略円筒形状の回動軸を構成し、アウトドライブ装置10は、該ジンバルリング16を中心として回動する。
【0025】
ジンバルリング16の上側端部には、船体1の内部に延設された操舵アーム19が取り付けられている。そして、操舵アーム19は、ジンバルリング16を中心にアウトドライブ装置10を回動させる。なお、操舵アーム19は、操舵ハンドル3やジョイスティックレバー4の操作に応じて連動する操舵用油圧アクチュエータ20によって駆動される。
【0026】
ここで、図4を用いてアウトドライブ装置10の取り付け構造について詳細に説明する。
【0027】
船尾板(トランサムボード)の前面側には、ブラケット8が取り付けられている。また、船尾板(トランサムボード)の後面側には、ジンバルハウジング7が取り付けられている。そして、ジンバルハウジング7には、回動軸17・17が略垂直方向に設けられ、ジンバルリング16は、回動軸17・17によって回動自在に支持されている。また、ジンバルリング16の中途部には、回動軸18・18が水平方向に設けられ、アッパーハウジング10Uの前上部は、回動軸18・18によって回動自在に支持されている。
【0028】
回動軸17の上側端部には、操舵アーム19が取り付けられている。操舵アーム19は、船体1及びブラケット8に設けられた貫通孔1H・8Hを通って船体1の内部に延設されている。そして、操舵アーム19の端部には、操舵用油圧アクチュエータ20が連結されている(図3参照)。従って、アウトドライブ装置10は、操舵用油圧アクチュエータ20が作動することによって、ジンバルリング16を中心に左右に回動するのである。
【0029】
なお、ジンバルリング16の下部とアッパーハウジング10Uとの間には、昇降用油圧アクチュエータ9が介装されている(図3参照)。従って、アウトドライブ装置10は、昇降用油圧アクチュエータ9が作動することによって、回動軸18・18を中心に上下に回動するのである。
【0030】
操舵用油圧アクチュエータ20は、アウトドライブ装置10の操舵アーム19を駆動して該アウトドライブ装置10を回動させる。図5に示すように、操舵用油圧アクチュエータ20は、主にシリンダスリーブ21と、ピストン22と、ロッド23と、第一シリンダキャップ24と、第二シリンダキャップ25と、位置センサ26と、で構成される。なお、本実施形態に係る操舵用油圧アクチュエータ20は、いわゆる片ロッド型の油圧アクチュエータであるが、図6に示すように両ロッド型であっても良い。
【0031】
シリンダスリーブ21は、ピストン22を摺動可能に内設する。シリンダスリーブ21の両端部には、周方向に突設された鍔部が設けられており、該鍔部には、第一シリンダキャップ24又は第二シリンダキャップ25が固設される。
【0032】
ピストン22は、油圧を受けることによってシリンダスリーブ21の内部を摺動する。ピストン22には、該ピストン22の中心軸と同軸に貫通孔22hが設けられており、該貫通孔22hには、ロッド23が挿通されている。また、ピストン22の外周面には、その周方向にリング溝が設けられており、該リング溝には、シールリングが環装されている。更に、各シールリングの間であってピストン22の外周面には、永久磁石222が取り付けられている。
【0033】
ロッド23は、ピストン22の摺動を操舵アーム19に伝達する。ロッド23の一端部には、該ロッド23の外径を縮径した縮径部23taが設けられている。そして、ロッド23は、ピストン22の貫通孔22hに縮径部23taを挿通した状態でナット231が螺合されて該ピストン22と固設される。また、ロッド23の他端部には、該ロッド23の外径を縮径した縮径部23tbが設けられている。そして、ロッド23は、クレビス27の貫通孔27hに縮径部23tbを挿通した状態でナット232が螺合されて該クレビス27と固設される。なお、クレビス27とは、ロッド23と操舵アーム19とを連結する連結部材である。
【0034】
第一シリンダキャップ24は、シリンダスリーブ21の一端部を密封する。第一シリンダキャップ24には、シリンダスリーブ21とピストン22で構成された第一油室Oc1に連通する第一油路24pが設けられている。また、シリンダスリーブ21に嵌入される周壁面には、その周方向にリング溝が設けられてシールリングが環装されている。これにより、第一油室Oc1は、所定の油圧に耐え得る耐圧室を構成している。
【0035】
第二シリンダキャップ25は、シリンダスリーブ21の他端部を密封するとともに、ロッド23を摺動可能に支持する。第二シリンダキャップ25には、シリンダスリーブ21とピストン22で構成された第二油室Oc2に連通する第二油路25pが設けられている。また、シリンダスリーブ21に嵌入される周壁面には、その周方向にリング溝が設けられてシールリングが環装されている。更に、第二シリンダキャップ25には、シリンダスリーブ21の中心軸と同軸に貫通孔25hが設けられており、該貫通孔25hには、ロッド23が摺動可能に挿通される。なお、貫通孔25hの内周面には、その周方向にリング溝が設けられており、該リング溝には、シールリングが嵌挿されている。これにより、第二油室Oc2は、所定の油圧に耐え得る耐圧室を構成している。
【0036】
位置センサ26は、ピストン22に取り付けられた永久磁石222の磁力を検出する。位置センサ26は、少なくともピストン22が摺動できる範囲内において該ピストン22の摺動方向に対して平行となるようにシリンダスリーブ21の外周面に取り付けられている。これにより、制御装置40は、ピストン22の位置を把握することができ、ひいてはアウトドライブ装置10の舵角度を把握することができるのである。また、制御装置40は、単位時間毎にピストン22の位置を把握することで該ピストン22の摺動方向を認識できる。
【0037】
なお、位置センサ26は、主に磁束密度の変化に応じて出力電圧を変換する、いわゆるホール素子で構成されている。ホール素子は、磁界と電流の相互作用によって電子にローレンツ力が作用することを利用し、ローレンツ力に起因する電位差(ホール電圧)から磁界の強さを検出する。なお、本実施形態においては、位置センサ26の主な構成要素としてホール素子を用いているが、磁界の強さに応じて電気抵抗値が変化する磁気抵抗素子を用いても良く、これに限定するものではない。
【0038】
電磁比例弁30は、操舵用油圧アクチュエータ20の作動油の流動方向を変更する。図7及び図8に示すように、電磁比例弁30は、主にバルブボディ31と、スプールシャフト32と、第一ソレノイド33と、第二ソレノイド34と、で構成される。なお、本実施形態における電磁比例弁30は、いわゆる直動形電磁比例弁であるが、パイロット形電磁比例弁であっても良く、作動形式を限定するものではない。
【0039】
バルブボディ31は、スプールシャフト32を摺動可能に内設する。バルブボディ31には、スプールシャフト32が内設されるバレル孔31hが設けられており、該バレル孔31hには、操舵用油圧アクチュエータ20の各油路24p・25pと連通される給排ポート31pa・31pbが設けられている。また、バレル孔31hには、作動油ポンプ50と連通されるポンプポート31pp、ならびに、作動油タンク60と連通されるリターンポート31rpが設けられている。更に、バルブボディ31には、スプールシャフト32が所定の位置にあることを条件として給排ポート31pbとリターンポート31rpを連通する油路31olが設けられている。
【0040】
スプールシャフト32は、バレル孔31hを摺動することによって作動油の油路を切り換える。スプールシャフト32には、該スプールシャフト32の外径を縮径した縮径部32ta・32tb・32tcが設けられており、該スプールシャフト32が摺動することによって各ポート31pa・31pb・31pp・31rpどうしを連通又は遮断する。
【0041】
第一ソレノイド33は、スプールシャフト32を一方に摺動させる。本実施形態における第一ソレノイド33は、いわゆる単動比例ソレノイドである。第一ソレノイド33は、スプールシャフト32の一端部に隣接されており、励磁された電磁コイルに可動鉄心が吸着することを利用してスプールシャフト32を摺動させる。なお、本実施形態において第一ソレノイド33は、スプールシャフト32を図7に示す矢印Rの方向へ摺動させる。
【0042】
第二ソレノイド34は、スプールシャフト32を他方に摺動させる。本実施形態における第二ソレノイド34は、いわゆる単動比例ソレノイドである。第二ソレノイド34は、スプールシャフト32の他端部に隣接されており、励磁された電磁コイルに可動鉄心が吸着することを利用してスプールシャフト32を摺動させる。なお、本実施形態において第二ソレノイド34は、スプールシャフト32を図7に示す矢印Lの方向へ摺動させる。
【0043】
制御装置40は、アクセルレバー2、操舵ハンドル3及びジョイスティックレバー4等からの入力信号に基づいて制御信号を作成するとともに、作成した制御信号を電磁比例弁30等に送信する。また、制御装置40は、全地球測位システム(GPS:Global Positioning System)からの情報に基づいて制御信号を作成するとともに、作成した制御信号を電磁比例弁30等に送信することも可能としている。つまり、制御装置40は、オペレータが手動で行なう操船のほかに、自らの位置と設定された目的地とから航路を算出して自動で操船を行なう、いわゆる自動航法を可能としている。
【0044】
次に、本アウトドライブ装置用操船システム100の制御態様について説明する。図9は、アウトドライブ装置用操船システム100の制御フローを示している。
【0045】
ここで、制御装置40が第一ソレノイド33又は第二ソレノイド34の故障を如何にして発見するかについて簡単に説明する。
【0046】
上述したように、制御装置40は、アクセルレバー2、操舵ハンドル3及びジョイスティックレバー4等からの入力信号に基づいて制御信号を作成するとともに、作成した制御信号を電磁比例弁30等に送信する。そして、制御装置40は、位置センサ26等からの検出信号に基づいてフィードバック制御を行なうとともに、本アウトドライブ装置用操船システム100に異常がないかを検討する。
【0047】
具体的に説明すると制御装置40は、例えば第一ソレノイド33を作動させる旨の制御信号を電磁比例弁30に送信した場合、ピストン22の摺動(図5、図6中に示す矢印R方向)に伴って位置センサ26からの検出信号が変化するものと認識している。しかし、制御装置40は、第一ソレノイド33を作動させる旨の制御信号を送信したにも関わらず、位置センサ26からの検出信号が変化しない場合に該第一ソレノイド33が故障したと判断する。
【0048】
同様に、制御装置40は、例えば第二ソレノイド34を作動させる旨の制御信号を電磁比例弁30に送信した場合、ピストン22の摺動(図5、図6中に示す矢印L方向)に伴って位置センサ26からの検出信号が変化するものと認識している。しかし、制御装置40は、第二ソレノイド34を作動させる旨の制御信号を送信したにも関わらず、位置センサ26からの検出信号が変化しない場合に該第二ソレノイド34が故障したと判断する。
【0049】
そして、制御装置40は、第一ソレノイド33又は第二ソレノイド34のいずれか一方が故障したと判断した場合、即ち、アウトドライブ装置10の舵角度が制御不能となった場合に、以下に説明する制御を開始する。
【0050】
まず、ステップS101において制御装置40は、本制御を実行するか否かを選択できる許否スイッチがどのような状態にあるかを判断する。つまり、制御装置40は、アウトドライブ装置10の舵角度が制御不能となった場合に、該アウトドライブ装置10の舵角度を舵中央にする制御を行なうか否かの判断を行なう。
【0051】
そして、制御装置40は、許否スイッチが入状態である、即ち、アウトドライブ装置10の舵角度を舵中央にする制御を行なう場合にステップS102へ移行する。一方、制御装置40は、許否スイッチが切状態である、即ち、アウトドライブ装置10の舵角度を舵中央にする制御を行なわない場合に本制御を終了する。
【0052】
ステップS102において制御装置40は、第一ソレノイド33又は第二ソレノイド34のいずれのソレノイド33・34が故障しているかについて再度判断する。つまり、制御装置40は、位置センサ26からの検出信号に基づいて第一ソレノイド33及び第二ソレノイド34の作動の有無を確認し、いずれのソレノイド33・34が故障しているかを判断する。ここでは、第一ソレノイド33が故障している場合を想定して説明する。
【0053】
ステップS103において制御装置40は、位置センサ26からの検出信号に基づいてピストン22の位置を把握する。そして、制御装置40は、予め記憶しているアウトドライブ装置10の舵角度が舵中央となるピストン22の位置と検出された実際のピストン22の位置との差異を算出する。
【0054】
ステップS104において制御装置40は、故障していない第二ソレノイド34を作動させるとピストン22が舵中央となる位置に近づくように摺動するかを判断する。つまり、制御装置40は、ステップS103における算出結果に基づいて、第二ソレノイド34が作動したことによるピストン22の摺動方向が舵中央となる位置に近づく方向であるかを判断する。かかる状況は、図10A及び図10Cに示す場合に相当する。即ち、図10Aに示す状況から第二ソレノイド34が作動したことによるピストン22の摺動によって、図10Cに示す状況となり得るかを判断するのである。
【0055】
そして、制御装置40は、第二ソレノイド34が作動したことによるピストン22の摺動方向が舵中央となる位置に近づく方向である、即ち、第二ソレノイド34を作動させるとアウトドライブ装置10の舵角度を舵中央にできると判断した場合にステップS105へ移行する。一方、制御装置40は、第二ソレノイド34が作動したことによるピストン22の摺動方向が舵中央となる位置から離れる方向である、即ち、第二ソレノイド34を作動させてもアウトドライブ装置10の舵角度を舵中央にできないと判断した場合に本制御を終了する。
【0056】
ステップS105において制御装置40は、電磁比例弁30に制御信号を送信することによって第二ソレノイド34を作動させる。これにより、第二ソレノイド34は、スプールシャフト32を所定の位置まで摺動させる(図8B参照)。その結果、操舵用油圧アクチュエータ20のピストン22は、図5、図6に示す矢印Lの方向に摺動することとなる。
【0057】
具体的に説明すると制御装置40は、第二ソレノイド34によってスプールシャフト32を摺動させることで給排ポート31paとポンプポート31ppとを連通させ、給排ポート31pbとリターンポート31rpとを連通させる(図8B参照)。これにより、作動油ポンプ50から圧送された作動油は、第二油路25pを通って第二油室Oc2へ供給され、第一油室Oc1内の作動油は、第一油路24pを通って作動油タンク60へ戻される。こうすることで、第二油室Oc2に掛かる油圧は、第一油室Oc1に掛かる油圧よりも高くなり、第二油室Oc2と第一油室Oc1とを隔てるピストン22は、第一油室Oc1側へ摺動するのである。
【0058】
ステップS106において制御装置40は、位置センサ26からの検出信号に基づいてピストン22の位置が舵中央となる位置にあるか否かを判断する。つまり、制御装置40は、予め記憶しているアウトドライブ装置10の舵角度が舵中央となるピストン22の位置と検出された実際のピストン22の位置に差異があるか否かを判断する。
【0059】
そして、制御装置40は、舵中央となるピストン22の位置と検出された実際のピストン22の位置に差異がない、即ち、ピストン22が舵中央となる位置にある場合にステップS107へ移行する。一方、制御装置40は、舵中央となるピストン22の位置と検出された実際のピストン22の位置に差異がある、即ち、ピストン22が舵中央となる位置にない場合にステップS105へ戻す。
【0060】
ステップS107において制御装置40は、電磁比例弁30への制御信号を停止して第二ソレノイド34の作動を停止させる。これにより、スプールシャフト32は、スプリングの付勢力によって所定の位置まで摺動される(図8A参照)。その結果、操舵用油圧アクチュエータ20のピストン22は、アウトドライブ装置10の舵角度が舵中央となる位置で停止することとなる。
【0061】
具体的に説明すると制御装置40は、第二ソレノイド34の作動停止によってスプールシャフト32を摺動させることで各ポート31pa・31pb・31pp・31rpを遮断させる(図8A参照)。これにより、作動油ポンプ50から圧送された作動油は、第一油室Oc1や第二油室Oc2へ供給されず、各油室Oc1・Oc2内の作動油も作動油タンク60へ戻されない。こうすることで、第一油室Oc1と第二油室Oc2とを隔てるピストン22は、アウトドライブ装置10の舵角度が舵中央となる位置で停止するのである。
【0062】
以上が電磁比例弁30の第一ソレノイド33が故障した場合の制御態様であるが、以下に電磁比例弁30の第二ソレノイド34が故障している場合の制御態様について説明する。
【0063】
ステップS103において制御装置40は、位置センサ26からの検出信号に基づいてピストン22の位置を把握する。そして、制御装置40は、予め記憶しているアウトドライブ装置10の舵角度が舵中央となるピストン22の位置と検出された実際のピストン22の位置との差異を算出する。
【0064】
ステップS104において制御装置40は、故障していない第一ソレノイド33を作動させるとピストン22が舵中央となる位置に近づくように摺動するかを判断する。つまり、制御装置40は、ステップS103における算出結果に基づいて、第一ソレノイド33が作動したことによるピストン22の摺動方向が舵中央となる位置に近づくように摺動するかを判断する。かかる状況は、図10B及び図10Cに示す場合に相当する。即ち、図10Bに示す状況から第一ソレノイド33が作動したことによるピストン22の摺動によって、図10Cに示す状況となり得るかを判断するのである。
【0065】
そして、制御装置40は、第一ソレノイド33が作動したことによるピストン22の摺動方向が舵中央となる位置に近づく方向である、即ち、第一ソレノイド33を作動させるとアウトドライブ装置10の舵角度を舵中央にできると判断した場合にステップS105へ移行する。一方、制御装置40は、第一ソレノイド33が作動したことによるピストン22の摺動方向が舵中央となる位置から離れる方向である、即ち、第一ソレノイド33を作動させてもアウトドライブ装置10の舵角度を舵中央にできないと判断した場合に本制御を終了する。
【0066】
ステップS105において制御装置40は、電磁比例弁30に制御信号を送信することによって第一ソレノイド33を作動させる。これにより、第一ソレノイド33は、スプールシャフト32を所定の位置まで摺動させる(図8C参照)。その結果、操舵用油圧アクチュエータ20のピストン22は、図5、図6に示す矢印Rの方向に摺動することとなる。
【0067】
具体的に説明すると制御装置40は、第一ソレノイド33によってスプールシャフト32を摺動させることで給排ポート31paとリターンポート31rpとを連通させ、給排ポート31pbとポンプポート31ppとを連通させる(図8C参照)。これにより、作動油ポンプ50から圧送された作動油は、第一油路24pを通って第一油室Oc1へ供給され、第二油室Oc2内の作動油は、第二油路25pを通って作動油タンク60へ戻される。こうすることで、第一油室Oc1に掛かる油圧は、第二油室Oc2に掛かる油圧よりも高くなり、第一油室Oc1と第二油室Oc2とを隔てるピストン22は、第二油室Oc2側へ摺動するのである。
【0068】
ステップS106において制御装置40は、位置センサ26からの検出信号に基づいてピストン22の位置が舵中央となる位置にあるか否かを判断する。つまり、制御装置40は、予め記憶しているアウトドライブ装置10の舵角度が舵中央となるピストン22の位置と検出された実際のピストン22の位置に差異があるか否かを判断する。
【0069】
そして、制御装置40は、舵中央となるピストン22の位置と検出された実際のピストン22の位置に差異がない、即ち、ピストン22が舵中央となる位置にある場合にステップS107へ移行する。一方、制御装置40は、舵中央となるピストン22の位置と検出された実際のピストン22の位置に差異がある、即ち、ピストン22が舵中央となる位置にない場合にステップS105へ戻す。
【0070】
ステップS107において制御装置40は、電磁比例弁30への制御信号を停止して第一ソレノイド33の作動を停止させる。これにより、スプールシャフト32は、スプリングの付勢力によって所定の位置まで摺動される(図8A参照)。その結果、操舵用油圧アクチュエータ20のピストン22は、アウトドライブ装置10の舵角度が舵中央となる位置で停止することとなる。
【0071】
具体的に説明すると制御装置40は、第一ソレノイド33の作動停止によってスプールシャフト32を摺動させることで各ポート31pa・31pb・31pp・31rpを遮断させる(図8A参照)。これにより、作動油ポンプ50から圧送された作動油は、第一油室Oc1や第二油室Oc2へ供給されず、各油室Oc1・Oc2内の作動油も作動油タンク60へ戻されない。こうすることで、第一油室Oc1と第二油室Oc2とを隔てるピストン22は、アウトドライブ装置10の舵角度が舵中央となる位置で停止するのである。
【0072】
このような構成により、作動油の流動方向を変更する電磁比例弁30の第一ソレノイド33又は第二ソレノイド34のいずれか一方が故障し、アウトドライブ装置10の舵角度が制御不能となった場合に、該アウトドライブ装置10の舵角度を舵中央にすることが可能となる。また、位置センサ26からの検出信号に基づいてピストン22の位置及び摺動方向を把握することができるため、アウトドライブ装置10の舵角度を確実に舵中央にすることが可能となる。
【0073】
なお、本アウトドライブ装置用操船システム100においては、一方のアウトドライブ装置10の舵角度が制御不能となった場合、他方のアウトドライブ装置10の舵角度も自動的に舵中央にする。つまり、電磁比例弁30の第一ソレノイド33又は第二ソレノイド34のいずれか一方が故障し、アウトドライブ装置10の舵角度が制御不能となった場合に、該アウトドライブ装置10の舵角度を舵中央にするとともに、隣接されたアウトドライブ装置10の舵角度も自動的に舵中央にするのである。
【0074】
このような構成により、一方のアウトドライブ装置10の舵角度が制御不能となった場合においても、両方のアウトドライブ装置10の舵角度を舵中央にできるため、各アウトドライブ装置10の出力を独立して調節することで操船可能となる。
【0075】
また、本アウトドライブ装置用操船システム100は、一方のアウトドライブ装置10の舵角度が制御不能となり、位置センサ26の検出結果から舵角度αであることを把握した場合、他方のアウトドライブ装置10の舵角度が−αとなるように自動的に制御する。つまり、一方のアウトドライブ装置10の舵角度を舵中央にできない場合に、船舶が回頭しないように隣接されたアウトドライブ装置10の舵角度を調節するのである。
【0076】
このような構成により、一方のアウトドライブ装置10の舵角度が制御不能となって舵中央にできない場合においても、制御不能となったアウトドライブ装置10の舵角度に応じて他方のアウトドライブ装置10の舵角度を調節するため、各アウトドライブ装置10の出力を独立して調節することで操船可能となる。
【符号の説明】
【0077】
1 船体
2 アクセルレバー
3 操舵ハンドル
4 ジョイスティックレバー
10 アウトドライブ装置
15 スクリュープロペラ
20 操舵用油圧アクチュエータ
21 シリンダスリーブ
22 ピストン
26 位置センサ
30 電磁比例弁
32 スプールシャフト
33 第一ソレノイド
34 第二ソレノイド
40 制御装置
50 作動油ポンプ
60 作動油タンク
100 アウトドライブ装置用操船システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダスリーブに内設されたピストンが摺動することによってアウトドライブ装置を回動させる操舵用油圧アクチュエータと、
前記操舵用油圧アクチュエータの作動油の流動方向を変更して前記ピストンの摺動方向を切り換える電磁比例弁と、
前記電磁比例弁に制御信号を送信可能とする制御装置と、を備えたアウトドライブ装置用操船システムであって、
前記電磁比例弁は、摺動することによって作動油の油路を切り換えるスプールシャフトと、
前記スプールシャフトを一方に摺動させる第一ソレノイドと、
前記スプールシャフトを他方に摺動させる第二ソレノイドと、を具備し、
前記制御装置は、前記第一ソレノイド又は前記第二ソレノイドのいずれか一方が故障した場合、故障していない前記第一ソレノイド又は前記第二ソレノイドを作動させることによって前記アウトドライブ装置の舵角度を舵中央にする、ことを特徴とするアウトドライブ装置用操船システム。
【請求項2】
前記制御装置は、故障していない前記第一ソレノイド又は前記第二ソレノイドを作動させると前記ピストンが舵中央となる位置に近づくように摺動する場合にのみ、該第一ソレノイド又は第二ソレノイドを作動させる、ことを特徴とする請求項1に記載のアウトドライブ装置用操船システム。
【請求項3】
前記ピストンの位置を検出する位置センサを具備し、
前記制御装置は、前記位置センサからの検出信号に基づいて前記ピストンの位置及び摺動方向を把握する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアウトドライブ装置用操船システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−10447(P2013−10447A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144935(P2011−144935)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)