説明

アキュムレータ

【課題】 火災等により高温となったときにシェル内部の圧力を逃がすことができるアキュムレータを提供する。
【解決手段】 アキュムレータ10は、シェル11と、ベローズ40と、セルフシール部材55とを有している。シェル11の内部は、ベローズ40によって、気室51と液室50とに仕切られている。セルフシール部材55は、金属製の基材56と、基材56の外面を覆う弾性部材57とを有している。基材56のシール面35aと対応する側に、平坦な第1の部分61と、溝からなる第2の部分62が形成されている。アキュムレータ10が火災等により高温にさらされ、弾性部材57が熱分解等を生じると、第1の部分61と第2の部分62の間に隙間が生じ、シール機能が喪失することにより、シェル11の内部の圧力が液流入口側に徐々に逃がされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば液圧制御装置の液圧回路等に用いられるアキュムレータに係り、特に、気室と液室が金属ベローズによって仕切られたアキュムレータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の液圧回路等に用いられるアキュムレータの一例は、円筒状のシェルと、シェルの内部に収容されたベローズを有している。このベローズによってシェルの内部が液室と気室とに仕切られている。気室には圧縮されたガスが封入され、液室に流入する液の圧力変動に応じて、前記ベローズが軸方向に伸縮するようになっている。
【0003】
この種のアキュムレータにおいて、ベローズが過度に伸長又は収縮することを防ぐために、ベローズの端部にセルフシール部材を設けることがある。このセルフシール部材は、ベローズが気室内のガスの圧力によって所定の軸方向長さに至った状態において、シェル内部の隔壁のシール面に密接することによって隔壁の連通孔を閉塞し、液室の内部に液を閉じ込めるようになっている。(下記特許文献1参照)
また、アキュムレータが火災等に遭遇したときに、気室の圧力が過度に上昇してシェルが破損することを防ぐために、液室を構成する壁の一部に薄肉部や、溶栓による脆弱部を設け、この脆弱部をアキュムレータ内部の圧力によって破壊させるリリーフ手段が提案されている(下記特許文献1参照)。また、ガス封入口や液室のシール部に熱溶融部材を設けることも提案されている(下記特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−172301号公報
【特許文献2】特開2000−283101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のアキュムレータは、圧力が過剰になったときの圧力トリガーによって脆弱部が破壊され、また温度の上昇により溶栓が溶融するようにしているが、脆弱部分の加工に手数を要し、溶栓の場合は部品点数が増加するという課題がある。
【0005】
特許文献2のアキュムレータは、設定温度を越えたときに熱溶融部材が軟化あるいは溶融することにより、圧力を逃がすものであるが、通常の使用時にアキュムレータの使用圧力が常に熱溶融部材に加わるため、熱溶融部材を設けた部位がガス漏れあるいは液漏れの原因になることがある。このため、アキュムレータの内部からガスあるいは液が漏れてしまうことにより、アキュムレータが所定の性能を発揮することができないおそれがある。
【0006】
従ってこの発明の目的は、火災等により高温となったときにアキュムレータの使用圧力を逃がすことができ、また、通常使用時に液漏れあるいはガス漏れの懸念のないアキュムレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、液流入口を有するシェルと、前記シェルの内部に軸方向に伸縮自在に収容され、該シェルの内部を気室と液室とに仕切るベローズと、前記液室と前記液流入口とを連通させる連通孔を有する隔壁と、前記ベローズが前記気室内のガスの圧力によって所定の軸方向長さに至った状態において、前記隔壁のシール面に密接することによって前記連通孔を閉塞して前記液室の内部に液を閉じ込めるセルフシール部材と、を有するアキュムレータにおいて、前記セルフシール部材は、金属製の基材と、該基材の少なくとも前記シール面と対応する側を覆う弾性部材とを有し、前記基材の前記シール面と対応する側に、前記シール面からの距離が互いに異なる第1の部分と第2の部分を形成し、該第1の部分または第2の部分が、前記液室と対応する位置から前記連通孔と対応する位置にわたって連続して形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の好ましい形態では、前記弾性部材がゴムからなり、該弾性部材が前記基材に接着されている。前記第1の部分の一例は平坦な面であり、前記第2の部分の一例は、前記液室と対応する位置から前記連通孔と対応する位置にわたって連続して形成された溝である。
【0009】
また、前記第1の部分が平坦な面であり、前記第2の部分が前記シール面に向かって突出する凸部であり、該凸部を除く部位が、前記液室と対応する位置から前記連通孔と対応する位置にわたって連続して形成されていてもよい。また、前記第1の部分と前記第2の部分とが、前記シール面までの距離が異なる凹凸面であり、該凹面または凸面のいずれか一方が、前記液室と対応する位置から前記連通孔と対応する位置にわたって連続して形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベローズが所定の軸方向長さに至ったときに、セルフシール部材の弾性部材が隔壁のシール面に密接することにより、自己シール機能が発揮される。アキュムレータが火災等により高温にさらされ、セルフシール部材の弾性部材が熱分解等を生じ、大部分の弾性部材が焼失するとともに、気室内のガスの圧力によってセルフシール部材が隔壁のシール面に押し付けられると、セルフシール部材の基材のシール面と対応する側とシール面との間に隙間が生じ、シール機能が喪失するという簡単な構造により、圧力をシェルの外部につながる液流入口側に徐々に逃がすことができる。さらに本発明では、アキュムレータの使用圧力(20MPa相当)ではなく、ガス封入圧(10MPa相当)のみがセルフシール部材に負荷される構造となっているため、従来技術のような溶融部材を設けた部位がガス漏れ、液漏れの原因となることがなく、アキュムレータが所定の性能を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の第1の実施形態について、図1から図5を参照して説明する。
図1は、例えば自動車の液圧回路等に用いられるアキュムレータ10を示している。このアキュムレータ10は、密閉された円筒状の圧力容器であるシェル11と、シェル11の内部に収容されたベローズアセンブリ12などを具備している。
【0012】
シェル11は、図1において下側に位置する第1のシェル要素21と、上側に位置する第2のシェル要素22とによって構成され、これらのシェル要素21,22の端部23,24どうしを、図1に2点鎖線で示す溶接箇所25において溶接によって接合することにより、円筒状に構成されている。溶接箇所25の内側には、溶接時に生じるスパッタや溶接バリなどからベローズアセンブリ12を保護するためにプロテクタリング26が設けられている。
【0013】
第1のシェル要素21の中央部に形成された孔30に、液流入口31を有するポート部材32が挿入されている。ポート部材32は、溶接部33において第1のシェル要素21に溶接されている。ポート部材32に形成された液流入口31は、図示しない液圧制御装置の液圧回路に接続される。ポート部材32には、シェル11の内部において共鳴箱を構成する筒状の壁34と、筒状の壁34の先端部に形成された隔壁35が設けられている。隔壁35に連通孔36が形成されている。隔壁35の端面は、下記弾性部材57が液密に接することが可能なシール面35aとなっている。
【0014】
ベローズアセンブリ12は、シェル11の軸方向に伸縮自在な金属製ベローズ40と、図1においてベローズ40の下端側に設けられたボトムシール部材41と、図1においてベローズ40の上端側に設けられたベローズキャップ42と、ベローズキャップ42の近傍に取付けられたベローズガイド43などを有している。ボトムシール部材41はポート部材32に設けられている。ベローズガイド43はシェル11の内周面に接することが可能であり、ベローズ40がシェル11の軸方向に円滑に直線移動できるように、ベローズ40の伸縮を案内する機能を有している。
【0015】
ベローズアセンブリ12の内側に液室50が形成される。また、シェル11の内面とベローズアセンブリ12の外面との間に気室51が形成される。液室50には、ポート部材32の液流入口31と隔壁35の連通孔36を介して、液圧回路で使用される液が出入りするようになっている。すなわちこの液室50は、連通孔36を介して液流入口31と連通する。
【0016】
気室51には、第2のシェル要素22に形成されたガス封入孔52から、不活性なガス(例えば圧縮された窒素ガス)が封入される。ガス封入孔52は、シェル11の内部に前記ガスが封入されたのち、栓部材53によって閉鎖される。
【0017】
図2に拡大して示すように、ベローズ40の端部に設けられたベローズキャップ42の内面側に、セルフシール部材55が取付けられている。セルフシール部材55は、例えば鉄系金属のように剛性と耐熱性を有する芯材としての基材56と、基材56の外面全体を覆う弾性部材57とを有している。
【0018】
弾性部材57の一例は合成ゴムであるが、使用条件によっては合成樹脂のエラストマが使用されてもよい。なお、本実施形態の弾性部材57は基材56の全周面を覆っているが、場合によっては、弾性部材57は基材56の一面、すなわち隔壁35のシール面35aと対応する側のみに設けられていてもよい。要するにこの弾性部材57は、少なくともシール面35aと対応する側に設けられていればよい。
【0019】
図3に示すように基材56は円板形をなし、金属製であり、前記シール面35aと対応する側に、シール面35aからの距離が互いに異なる第1の部分61と第2の部分62とを有している。
【0020】
第1の部分61は、実質的に平坦な面である。第2の部分62は、第1の部分61に形成された溝である。溝からなる第2の部分62は、例えば基材56をその平面方向から見て、放射状(例えば十字形)に形成されている。この第2の部分62は、連通孔36と対応する位置から、液室50と対応する位置にわたって連続している。
【0021】
このように構成されたアキュムレータ10のベローズ40は、液室50に流入する液の圧力変動に応じて、軸方向に伸縮する。弾性部材57の弁部57aは隔壁35のシール面35aに対して接離可能である。
【0022】
図1に示すように、ベローズ40が気室51内のガスの圧力によって軸方向に縮み、弾性部材57の弁部57aが隔壁35のシール面35aに当接した状態において、筒状の壁34の外面とベローズ40の内面との間の液室50に液Q(図2に示す)が閉じ込められる。すなわちこのベローズ40は、所定の軸方向長さに至った状態において、弾性部材57の弁部57aが隔壁35のシール面35aに密接する。このことによって連通孔36が閉塞され、液室50の内部に液Qが閉じ込められる。
【0023】
この液Qによってベローズ40が内側からバックアップされるため、ベローズ40が塑性変形したり損傷したりすることが防止されるとともに、ベローズ40が軸方向に過剰に縮むことが防止される。シール面35aと基材56との間には、充分な肉厚の弾性部材57が存在するから、シール面35aと基材56との間の面圧はほぼ均一となる。
【0024】
図4はこのアキュムレータ10が火災等により高温にさらされた状態を示している。このような高温状態では、気室51内で上昇したガスの圧力Pによって、セルフシール部材55が隔壁35のシール面35aに押付けられるとともに、セルフシール部材55の弾性部材57が熱分解等を生じるため、シール面35aと基材56との間に、弾性部材57が炭化することなどによって生じた滓物質57´がわずかに残っている。
【0025】
ここで、もし、基材56に溝からなる第2の部分62が形成されていないとすると、基材56の表面にはわずかな滓物質57´が密着しているだけなので、シール面35aと基材56の隙間は小さなものとなる。このため、アキュムレータの使用圧力をシェル11の外部に十分に逃がすことができなくなる。
【0026】
しかるに本実施形態のセルフシール部材55では、シール面35aからの距離が互いに異なる第1の部分61と溝からなる第2の部分62が基材56に形成されているため、溝からなる第2の部分62内部の弾性部材が炭化した後に滓物質57´が存在していても流通口62´が確保できる。
【0027】
すなわち図5に示すように、第2の部分62内部の弾性部材が炭化した後に液室50内の液Qおよびベローズが破壊(破壊個所は図示せず)することによりガス室外へ出る高圧ガスを通すのに十分な隙間が確保されるのでシール機能が喪失し、図4に矢印Fで示すように、液室50内の液Qが連通孔36側に排出される。このため、液室50の圧力をシェル11の外部(図1の液流入口31側)に逃がすことができ、ひいては気室51の圧力を徐々に下げることができ、ガスの突然の高速噴出が防止され、シェル11の破壊を防止できる。なお、液室50の圧力低下によりベローズ40が破損することは避けられない。
【0028】
図6は本発明の第2の実施形態の基材56を示している。本実施形態では、第1の部分61が平坦な面である。第2の部分63は、前記シール面35aに向かって突出する複数の凸部である。それ以外の基本的な構成と作用については第1の実施形態と同様である。
【0029】
このような凸形の第2の部分63を設けた場合、弾性部材57が高熱にさらされて炭化等を生じたときに、凸形の第2の部分がシール面35aと接する。第1の部分61の表面には、所々に滓物質57´が付着しているが凸形の第2部分63により、第1の部分61の表面と第2のシール面35aの間には液室50内の液Qおよび高圧ガスを連通孔36側へ排出するのに、十分な隙間が確保できる。
【0030】
また、第1の部分と第2の部分の他の形態として、前記シール面35aまでの距離が、場所によって異なる波形あるいは山谷等の凹凸面(図示せず)とし、弾性部材が高熱にさらされて炭化等を生じたときに第1の部分と第2の部分に隙間を生じさせることでシール機能が喪失するようにしてもよい。
【0031】
なお本発明を実施するに当たって、前記実施形態以外にも、シェルやベローズ、隔壁、セルフシール部材等をはじめとして、本発明の構成要素を、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施形態のアキュムレータを示す断面図。
【図2】図1に示されたアキュムレータに使われるセルフシール部材の一部を拡大して示す断面図。
【図3】前記セルフシール部材の基材の斜視図。
【図4】図2に示されたセルフシール部材が高温にさらされた状態の断面図。
【図5】図4中のV−V線に沿う断面図。
【図6】本発明の第2の実施形態を示すセルフシール部材の基材の斜視図。
【符号の説明】
【0033】
10…アキュムレータ
11…シェル
31…液流入口
35…隔壁
35a…シール面
36…連通孔
40…ベローズ
50…液室
51…気室
55…セルフシール部材
56…基材
57…弾性部材
61…第1の部分
62,63…第2の部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液流入口を有するシェルと、
前記シェルの内部に軸方向に伸縮自在に収容され、該シェルの内部を気室と液室とに仕切るベローズと、
前記液室と前記液流入口とを連通させる連通孔を有する隔壁と、
前記ベローズが前記気室内のガスの圧力によって所定の軸方向長さに至った状態において、前記隔壁のシール面に密接することによって前記連通孔を閉塞して前記液室の内部に液を閉じ込めるセルフシール部材と、
を有するアキュムレータにおいて、
前記セルフシール部材は、
金属製の基材と、
該基材の少なくとも前記シール面と対応する側を覆う弾性部材とを有し、
前記基材の前記シール面と対応する側に、
前記シール面からの距離が互いに異なる第1の部分と第2の部分を形成し、該第1の部分または第2の部分が、前記液室と対応する位置から前記連通孔と対応する位置にわたって連続して形成されていることを特徴とするアキュムレータ。
【請求項2】
前記弾性部材がゴムからなり、該弾性部材が前記基材に接着されていることを特徴とする請求項1に記載のアキュムレータ。
【請求項3】
前記第1の部分が平坦な面であり、前記第2の部分は、前記液室と対応する位置から前記連通孔と対応する位置にわたって連続して形成された溝であることを特徴とする請求項1または2に記載のアキュムレータ。
【請求項4】
前記第1の部分が平坦な面であり、前記第2の部分が前記シール面に向かって突出する凸部であり、該凸部を除く部位が、前記液室と対応する位置から前記連通孔と対応する位置にわたって連続して形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアキュムレータ。
【請求項5】
前記第1の部分と前記第2の部分とが、前記シール面までの距離が異なる凹凸面であり、該凹面または凸面のいずれか一方が、前記液室と対応する位置から前記連通孔と対応する位置にわたって連続して形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアキュムレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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