説明

アキュムレート装置の貯留長さ表示装置

【課題】簡単な装置でしかも故障の問題を生じることがなくアキュムレート装置におけるウェブの貯留長さを適正な精度で演算し表示できるようにする。
【解決手段】固定部材3に備えた固定ロール2と、昇降フレーム5に備えた昇降ロール4と、入側速度制御ロール7から導入されて固定ロール2と昇降ロール4に掛け回した後出側速度制御ロール9から導出されるウェブ8の入側速度と出側速度の速度差が生じた時にアキュムレートされるウェブ8の張力を一定に保持しながら前記昇降フレーム8を昇降させる牽引装置6と、を有するアキュムレート装置の貯留長さ表示装置であって、ウェブ8の入側速度viと出側速度voを入力してその速度差からウェブ8の貯留長さを演算する演算器15と、演算器15で演算した貯留長さを表示する表示器17とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡単な装置でしかも故障の問題を生じることがなくアキュムレート装置におけるウェブの貯留長さを適正な精度で認識し表示できるようにしたアキュムレート装置の貯留長さ表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりカレンダ装置には種々の方式のものが実施されており、一例としては、基布を搬送するラインの途中にカレンダロールを備え、カレンダロールに供給されたゴム、プラスチック等の可塑材を板状のシート原料にして前記基布に貼着することによりコーテッドファブリックを形成するようにしたカレンダ設備がある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようなカレンダ装置においてカレンダロールによりシート原料を基布に貼着する作業には連続作業が要求される。このため、カレンダ装置には、上流において基布ロールの基布を巻き出す巻出装置と前記カレンダロールとの間、及び、下流においてカレンダロールからのコーテッドファブリックをロール状に巻き取るワインダと前記カレンダロールとの間の夫々には、長尺材であるウェブを所要の貯留長さまで貯留できるアキュムレート装置が備えられている。
【0004】
この種のアキュムレート装置は、複数の固定ロールを備えた固定部材と、複数の昇降ロールを備えて牽引装置により吊り上げられた昇降フレームとを有しており、入側速度制御ロールから導入したウェブは、前記固定ロールと昇降ロールに交互に掛け回した後、出側速度制御ロールから導出されており、前記牽引装置は、アキュムレート装置内のウェブの張力が一定に保持される結果、入側と出側の速度差に起因して昇降フレームが昇降し、アキュムレート装置内にウェブを貯留し、又、払い出すようになっている。
【0005】
前記アキュムレート装置においては、貯留しているウェブの貯留長さを表示する必要があり、従来の貯留長さの表示は、一般に、昇降フレームを吊り上げるためのチェインが掛けられたスプロケットの軸にロータリ・エンコーダ(例えばインクリメンタル・エンコーダやアブソリュート・エンコーダ)を設け、このロータリ・エンコーダから位置情報を演算器で受け取り、ウェブの長さに換算して表示器に表示するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平03−065318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のようにカレンダ装置に備えられるアキュムレート装置の貯留長さの表示を、インクリメンタル・エンコーダによって行った場合には、インクリメンタル・エンコーダのパルスカウンタが電磁ノイズで誤カウントするトラブルが屡々発生しており、このような誤カウントが発生した場合にはアキュムレート装置におけるウェブの貯留長さが実際の長さと違ったものとなり、前記誤カウントが繰り返されると大きな累積誤差を生じるという問題がある。又、インクリメンタル・エンコーダを採用した場合には、パルスカウンタを必要とし、このパルスカウンタは高価であり、又、インクリメンタル・エンコーダとパルスカウンタの間の配線には電磁ノイズ対策を考慮した配線材及び配線ルートを配慮した設計が必要である。
【0008】
一方、アブソリュート・エンコーダを採用した場合には、アブソリュート・エンコーダ自体が高価であり、又、専用のケーブルやコンバータ・ユニットを必要とし、コントローラ側にはビット数分の多くのデジタル入力点数の取り込みが必要になる。
【0009】
又、前記インクリメンタル・エンコーダ及びアブソリュート・エンコーダは、いずれも、工事毎に、予備品の準備を含めた部品コストが掛かり、こうした特に脆弱な部品に対する配慮に関わる人件費が必要になるという問題がある。
【0010】
従って、マクロ的な観点からも、システムの信頼性向上のために、これらの部品点数を極力削減することが要求されている。
【0011】
本発明は、かかる課題に鑑みてなしたもので、簡単な装置でしかも故障の問題を生じることがなくアキュムレート装置におけるウェブの貯留長さを適正な精度で認識し表示できるようにしたアキュムレート装置の貯留長さ表示装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、固定部材に備えた固定ロールと、昇降フレームに備えた昇降ロールと、入側速度制御ロールから導入されて前記固定ロールと昇降ロールに掛け回した後出側速度制御ロールから導出されるウェブの入側速度と出側速度の速度差が生じた時にアキュムレートされるウェブの張力を一定に保持しながら前記昇降フレームを昇降させる牽引装置と、を有するアキュムレート装置の貯留長さ表示装置であって、
前記ウェブの入側速度と出側速度を入力してその速度差からウェブの貯留長さを演算する演算器と、該演算器で演算した貯留長さを表示する表示器とを有することを特徴とするアキュムレート装置の貯留長さ表示装置、に係るものである。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記昇降フレームの昇降移動範囲の側部に設けた近接スイッチからの検知信号が前記演算器に入力されており、該演算器は、前記近接スイッチからの検知信号が入力されると同時に前記貯留長さを原点の規定値に書き換える自動原点校正機能を有することを特徴とする請求項1に記載のアキュムレート装置の貯留長さ表示装置、に係るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアキュムレート装置の貯留長さ表示装置によれば、アキュムレート装置におけるウェブの入側速度と出側速度を入力してその速度差からウェブの貯留長さを演算する演算器と、該演算器で演算した貯留長さを表示する表示器とを有することにより、簡単な装置でしかも故障の問題を生じることがなく、ウェブの貯留長さを適正な精度で認識し表示できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のアキュムレート装置の貯留長さ表示装置の一実施例を示す正面図である。
【図2】本発明の貯留長さ表示装置の作動を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0017】
図1は本発明のアキュムレート装置の貯留長さ表示装置の一実施例を示す正面図であり、図1に示すアキュムレート装置1の主な構成は、種々のカレンダ装置に備えられているものと同様である。即ち、アキュムレート装置1は、複数の固定ロール2を横方向に並列に配置した固定部材3を有しており、前記固定ロール2の上部には、複数の昇降ロール4を横方向に並列に配置した昇降フレーム5が昇降可能に設けてあり、該昇降フレーム5は、スプロケット10に掛けられたチェイン11に接続されているシリンダ等の牽引装置6によってアキュムレートされるウェブ8の張力が一定に保持されながら昇降する。
【0018】
前記アキュムレート装置1の入側には、例えば2個1組の入側速度制御ロール7が設けてあり、該入側速度制御ロール7に挟まれて導入したウェブ8は、前記固定ロール2と昇降ロール4に交互に掛け回した後、出側に備えられる例えば2個1組の出側速度制御ロール9に挟まれて導出されるようになっている。
【0019】
図1中、12はドライブ制御器であり、該ドライブ制御器12は、前記入側速度制御ロール7の駆動モータ13を入側速度viで駆動すると共に、前記出側速度制御ロール9の駆動モータ14を出側速度voで駆動するようになっている。前記ドライブ制御器12は、アキュムレート装置1内のウェブ8の長さを調節して昇降フレーム5の位置を、図1に示すように下側の待機位置に設定し得るようになっている。
【0020】
又、前記ドライブ制御器12の入側速度viと出側速度voは演算器15に入力されており、演算器15では、入側速度viと出側速度voの速度差に基づいてウェブ8の貯留長さを演算している。即ち、入側速度viと出側速度voは不定であるから、例えば秒毎に、秒速値viとvoをサンプリングして規定値Laを積分のt=0の時の初期値として下記式1の積算を行うことによって貯留長さLを求めている。図1中、16は前記サンプリングのタイミングを与えるためのクロックパルス発生器である。
【数1】


L:貯留長さ
La:規定値
vi:入側速度
vo:出側速度
【0021】
前記演算器15で演算された貯留長さは表示器17に表示されるようになっている。
【0022】
又、前記昇降フレーム5が昇降する移動範囲の側部には近接スイッチ18(センサ)が設置してあり、前記昇降フレーム5が前記近接スイッチ18の前を横切ると、近接スイッチ18は原点検出を行ってその検知信号19を前記演算器15に入力するようになっている。前記アキュムレート装置1の昇降フレーム5は定期的に必ず大きな幅で昇降するため、前記近接スイッチ18は上記昇降フレーム5の昇降の範囲内に設けておけばよい。尚、近接スイッチ18の作動範囲は広いので、原点認識は一方向からの検出信号の立上りの瞬間とすることで、検出精度に配慮する。図示例ではvo>vi即ち、昇降フレーム5の下降時のみ原点検出を行うようにしている。
【0023】
前記演算器15に前記近接スイッチ18からの検知信号19が入力されると、演算器15は貯留長さを原点位置である前記規定値に書き換える自動原点校正機能を有し、以後は再びこの規定値を初期値として貯留長さの積算を行うようになっている。
【0024】
次に、上記実施例の作動を説明する。
【0025】
図1のアキュムレート装置1に備えられるドライブ制御器12は、上流側ラインのウェブ8の流れに応じて所要の入側速度viとなるように駆動モータ13を駆動してウェブ8を取り込むと共に、下流側ラインのウェブ8の流れに応じて所要の出側速度voとなるように駆動モータ13を駆動してウェブ8を繰り出している。従って、入側速度viと出側速度voの速度差によって、アキュムレート装置1内のウェブ8の張力は変動しようとする。しかしこの時、前記牽引装置6はアキュムレート装置1内のウェブ8の張力が常に一定に保持されるように(即ち、ウェブ8の張力に見合った所定の力で)昇降フレーム5を牽引するので、昇降フレーム5は結果的に昇降してウェブ8のアキュムレート量が変更される。
【0026】
前記ドライブ制御器12における入側速度viと出側速度voは演算器15に入力されており、演算器15は、入側速度viと出側速度voの速度差に基づいてウェブ8の貯留長さを演算している。即ち、入側速度viと出側速度voは不定であるから積分表現が望ましく、例えば1秒毎に、秒速値の入側速度viと出側速度voをサンプリングして規定値Laを積分のt=0の時の初期値として下記式1
【数2】


の積算を行うことにより貯留長さLを演算(認識)し、演算された貯留長さLを表示器17に表示する。近接スイッチ18からの原点信号が入った時にL=Laとし、時間積分はリセットして、時刻t=0から積算を再開させる。
【0027】
一方、本発明では、図2に示す自動原点校正を行う。
【0028】
図2に示すように、ウェブ8のラインが運転中であり、且つ、入側速度制御ロール7の入側速度viと出側速度制御ロール9の出側速度voが、vo>viの関係、即ち、昇降フレーム5の下降時であり、近接スイッチ18(センサ)による検知信号19が演算器15に入力された瞬間に、演算器15は、貯留長さを原点の規定値に書き換える自動原点校正を行う。Laは書き換えられた規定値であり、以後はこの書き換えられた規定値Laを積分のt=0の時の初期値として貯留長さLが演算されるようになる。
【0029】
上記によれば、規定値Laの原点復帰が頻繁に行われるので、演算器15によって演算される貯留長さが、実際の原点からの正しい値に対して宿命的な累積誤差を生じてしまうという問題を防止することができ、常に原点に書き換えられた規定値Laに基づいて正しい貯留長さLを求めることができる。
【0030】
上記したように、アキュムレート装置1に対するウェブ8の入側速度viと出側速度voの速度差から演算器15によって貯留長さLを演算し、演算した貯留長さLを表示部17に表示し、又、演算器15は、近接スイッチ17(センサ)からの検知信号19が入力されると同時に規定値を原点に書き換える自動原点校正を行うようにしたので、簡単な装置でしかも故障の問題を生じることがなく、ウェブ8の貯留長さを適正な精度で認識して表示できるようになる。
【0031】
尚、本発明のアキュムレート装置の貯留長さ表示装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0032】
1 アキュムレート装置
2 固定ロール
3 固定部材
4 昇降ロール
5 昇降フレーム
6 牽引装置
7 入側速度制御ロール
8 ウェブ
9 出側速度制御ロール
15 演算器
17 表示器
18 近接スイッチ
19 検知信号
L 貯留長さ
La 規定値
vi 入側速度
vo 出側速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材に備えた固定ロールと、昇降フレームに備えた昇降ロールと、入側速度制御ロールから導入されて前記固定ロールと昇降ロールに掛け回した後出側速度制御ロールから導出されるウェブの入側速度と出側速度の速度差が生じた時にアキュムレートされるウェブの張力を一定に保持しながら前記昇降フレームを昇降させる牽引装置と、を有するアキュムレート装置の貯留長さ表示装置であって、
前記ウェブの入側速度と出側速度を入力してその速度差からウェブの貯留長さを演算する演算器と、該演算器で演算した貯留長さを表示する表示器とを有することを特徴とするアキュムレート装置の貯留長さ表示装置。
【請求項2】
前記昇降フレームの昇降移動範囲の側部に設けた近接スイッチからの検知信号が前記演算器に入力されており、該演算器は、前記近接スイッチからの検知信号が入力されると同時に前記貯留長さを原点の規定値に書き換える自動原点校正機能を有することを特徴とする請求項1に記載のアキュムレート装置の貯留長さ表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−49140(P2013−49140A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186735(P2011−186735)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000198329)株式会社IHI機械システム (27)
【Fターム(参考)】