説明

アクセルペダル装置

【課題】ヒステリシスを安定して発生する。
【解決手段】アクセルペダル装置10では、ペダルアーム20が揺動される際に、第1スライダ42(又は第2スライダ46)の摺動に伴って、第2スライダ46(又は第1スライダ42)に作用する力がリンク48により車両前後方向と車両上下方向とで変換される。そして、ペダルアーム20と第1スライダ42との間では、ペダルアーム20が揺動される方向によって異なる大きさの力が作用する。このため、ヒステリシスは、第1スライダ42及び第2スライダ46の摺動抵抗と、ペダルアーム20と第1スライダ42との間で作用する力と、により発生する。さらに、第1スライダ42、第2スライダ46がPTFE等の良摺動材で製作されているため、当該摺動抵抗が小さくなる。これにより、ヒステリシスが、主にペダルアーム20と第1スライダ42との間で作用する力に依存するため、ヒステリシスを安定して発生できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセルペダル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載されたアクセルペダル装置では、下端部にペダルパッドが設けられたペダル支持シャフト(ペダルアーム)がペダルケース(ハウジング)に揺動可能に支持されている。このペダル支持シャフトの上端部には、ヒステリシス発生ブロックが係合されており、ヒステリシス発生ブロックは、コイルばねの付勢力によってペダルケースの摺動面側へ付勢されて、該摺動面に当接している。これにより、ペダル支持シャフトが揺動する際には、ヒステリシス発生ブロックが摺動面上を摺動して、ヒステリシス発生ブロックと摺動面との間に摺動抵抗(摩擦力)が発生する。このため、ペダル支持シャフトの踏力においてヒステリシスが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−114052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のアクセルペダル装置では、ヒステリシス発生ブロックと摺動面との間の摺動抵抗によって該ヒステリシスが発生されるため、該ヒステリシスは、ヒステリシス発生ブロックと摺動面との間の摩擦係数に依存する。
【0005】
この摩擦係数は、ヒステリシス発生ブロック及びペダルケースの材料、ヒステリシス発生ブロックとペダルケースとの間の接触状態、及び使用環境(温度や湿度)などによって、変化する。このため、安定した摩擦係数を得ることが困難な場合がある。これにより、アクセルペダル装置では、該ヒステリシスを安定して発生させる構造にすることが望ましい。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮し、ヒステリシスを安定して発生させることができるアクセルペダル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のアクセルペダル装置は、車体に固定されたハウジングに基端部側が支持されて休止位置と最大踏込位置との間で揺動可能に構成され、前記基端部とは反対側の端部にペダルパッドが設けられたペダルアームと、前記ペダルアームを休止位置側へ付勢する第1付勢部材と、前記ハウジング内に設けられると共に、前記ペダルアームの前記基端部と当接され、前記ペダルアームの揺動に追従して第1方向へ摺動可能に構成された第1摺動部材と、前記ハウジング内に設けられ、前記第1方向に交差する第2方向に摺動可能に構成された第2摺動部材と、前記第2摺動部材を前記第2方向に沿って前記第1方向と交差する方向へ付勢する第2付勢部材と、前記第1摺動部材と前記第2摺動部材とを連結すると共に、前記第1摺動部材又は前記第2摺動部材の摺動に伴い前記第1方向と前記第2方向とで荷重を変換可能な連結部材と、を備えている。
【0008】
請求項1記載のアクセルペダル装置では、ペダルアームの基端部側がハウジングに支持されており、ペダルアームは休止位置と最大踏込位置との間で揺動可能に構成されている。ペダルアームの基端部とは反対側の端部には、ペダルパッドが設けられており、ペダルアームは、第1付勢部材によって休止位置側へ付勢されている。これにより、ペダルアームが休止位置に保持されており、ペダルパッドに踏力が付与されると、ペダルアームが最大踏込位置側へ揺動される。
【0009】
また、ハウジング内には、第1摺動部材が設けられている。第1摺動部材は、ペダルアームの基端部に当接されると共に、ペダルアームの揺動に追従して第1方向に摺動可能に構成されている。
【0010】
ここで、ハウジング内には、第1方向に交差する第2方向に摺動可能に構成された第2摺動部材が設けられており、第2摺動部材は、連結部材によって第1摺動部材と連結されている。また、第2摺動部材は、第2付勢部材によって、第2方向に沿って第1方向に交差する方向へ付勢されており、連結部材は、第1摺動部材又は第2摺動部材の摺動に伴い、第1方向と第2方向とで、荷重を変換可能にされている。
【0011】
これにより、ペダルアームが休止位置から最大踏込位置側へ揺動される際に、第1摺動部材が摺動すると共に、第1摺動部材の摺動に伴って、連結部材によって第2摺動部材に作用する荷重が第1方向と第2方向とで変換される。一方、ペダルアームが最大踏込位置から休止位置側へ揺動される際に、第2摺動部材の摺動に伴って、連結部材によって第1摺動部材に作用する荷重が第1方向と第2方向とで変換される。そして、ペダルアームと第1摺動部材との間では、ペダルアームが揺動される方向によって、異なる大きさの荷重が作用する。
【0012】
したがって、ペダルアームの踏力のヒステリシスは、第1摺動部材及び第2摺動部材が摺動する際の摺動抵抗と、ペダルアームと第1摺動部材との間で作用する力と、によって発生する。
【0013】
そして、例えば、第1摺動部材及び第2摺動部材を摺動性のよい材料で製作して、第1摺動部材及び第2摺動部材とハウジングとの間の各々の摩擦係数を小さくする(低減させる)ことで、第1摺動部材及び第2摺動部材の摺動抵抗を小さく(低減)できる。これにより、ペダルアームの踏力のヒステリシスがペダルアームと第1摺動部材との間で作用する荷重に依存するようにアクセルペダル装置を構成できる。したがって、ペダルアームの踏力のヒステリシスを安定して発生させることができる。
【0014】
請求項2に記載のアクセルペダル装置は、請求項1に記載のアクセルペダル装置において、前記第1摺動部材を前記ペダルアームの基端部に当接させる方向へ付勢する第3付勢部材を備えている。
【0015】
請求項2に記載のアクセルペダル装置では、第3付勢部材が、第1摺動部材をペダルアームの基端部に当接させる方向へ付勢しているため、仮に第1付勢部材、第2付勢部材、及び第3付勢部材の何れか1つが破損した場合でも、2つの付勢部材によってペダルアームを休止位置へ復帰させることができる。これにより、アクセルペダル装置を2段階のフェールセーフを備えた構造にできる。
【0016】
請求項3に記載のアクセルペダル装置は、請求項1又は請求項2にアクセルペダル装置において、前記ペダルアームが前記基端部から車両下方へ向かうに従い車両後方へ延設され、前記第1方向が車両前後方向とされると共に、前記第2方向が車両上下方向とされている。
【0017】
請求項3に記載のアクセルペダル装置では、ペダルアームが基端部から車両下方へ向かうに従い車両後方へ延設されており、第1方向が車両前後方向とされると共に、第2方向が車両上下方向とされているため、第2方向とペダルアームの延設方向とを略一致させることができる。これにより、ハウジングの車両後方への突出量を抑制でき、アクセルペダル装置の大型化を抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載のアクセルペダル装置によれば、ヒステリシスを安定して発生させることができる。
【0019】
請求項2に記載のアクセルペダル装置によれば、仮に第1付勢部材、第2付勢部材、及び第3付勢部材が破損した場合でも、2段階のフェールセーフにできる。
【0020】
請求項3に記載のアクセルペダル装置によれば、アクセルペダル装置の大型化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るアクセルペダル装置を示す側断面図である。
【図2】図1に示されるアクセルペダル装置に用いられるペダルアームが最大踏込位置へ揺動された際を示す側断面図である。
【図3】図1に示されるペダルアームが休止位置から最大踏込位置へ揺動される際のペダルアームに作用する力を説明するための説明図である。
【図4】図1に示されるペダルアームが最大踏込位置から休止位置へ揺動される際のペダルアームに作用する力を説明するための説明図である。
【図5】図1に示されるペダルアームが休止位置と最大踏込位置との間で揺動する際のペダルアームの揺動(回転)角度に対するペダルアームの踏力のトルクを表したグラフである。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るアクセルペダル装置を示す側断面図である。
【図7】図6に示されるアクセルペダル装置に用いられるペダルアームが最大踏込位置へ揺動された際を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施の形態)
【0023】
図1には、第1の実施の形態に係るアクセルペダル装置10が側断面図にて示されている。なお、図面に適宜示される矢印FRは車両前方を示し、矢印UPは車両上方を示している。
【0024】
この図に示されるように、アクセルペダル装置10は、車体に固定されるハウジング14と、ハウジング14に支持されるペダルアーム20と、「第1付勢部材」としての第1リターンスプリング28と、ヒステリシス機構40とを含んで構成されている。
【0025】
ハウジング14は、略直方体容器状に形成されて、図示しないダッシュパネル(車体)にボルト及びナット等の締結部材によって固定されている。ハウジング14は、ハウジング14の車両後方上部を構成する第1収容部16とハウジング14の車両後方下部を構成する第2収容部17とハウジング14の車両前方部分を構成するアーム収容部18とを含んで構成されている。
【0026】
第1収容部16は車両前後方向に沿って形成されており、第1収容部16の車両前方の部分がアーム収容部18と連通されている。また、第1収容部16の長手方向中間部は、第2収容部17と連通されており、第2収容部17は車両上下方向に沿って形成されている。
【0027】
アーム収容部18は車両下方へ開放されており、アーム収容部18内には、略円柱状の回転軸30が設けられている。回転軸30は、車両幅方向を軸方向として延設されており、回転軸30の両端部がハウジング14に固定されている。
【0028】
アーム収容部18内には、ペダルアーム20の基端部(上端部)が配置されており、ペダルアーム20は基端部から車両下方へ向かうに従い車両後方へ傾斜して延設されている。ペダルアーム20の基端部には、支持部22が設けられており、支持部22は回転軸30に揺動可能に軸支されている。これにより、ペダルアーム20が、図1に示される休止位置(初期位置)と図2に示される最大踏込位置(全開位置)との間を揺動可能に構成されている。
【0029】
また、前述した回転軸30には、回転角センサ32が軸支されており、回転角センサ32はペダルアーム20と一体に揺動するように構成されている。このため、ペダルアーム20が回転軸30回りに揺動されると、それに伴って回転角センサ32が回転軸30回りに揺動して、回転軸30を基準としたペダルアーム20の揺動角(回転角)を回転角センサ32によって検出可能に構成されている。
【0030】
ペダルアーム20の基端部の先端(上端)には、車両後方の部分において、当接部24が設けられている。この当接部24は、側面視で車両後方へ突出された円弧状に形成されて、後述する第1スライダ42と当接可能に構成されている。
【0031】
また、ペダルアーム20の基端部の先端(上端)には、車両前方の部分において、ストッパ部26が設けられており、ストッパ部26は、ペダルアーム20の休止位置において、ハウジング14の前壁14Aと当接されるように構成されている。これにより、休止位置において、ペダルアーム20の最大踏込位置側とは反対方向(図1の矢印A方向)への揺動が制限されている。一方、ペダルアーム20の基端部とは反対側の端部(下端部)には、図示しないペダルパッドが設けられており、このペダルパッドに踏力が付与される。
【0032】
さらに、ペダルアーム20には、支持部22に対して下方の位置において、凹部27が設けられており、凹部27は車両前方へ開放されている。この凹部27内には、リターンスプリング(圧縮スプリング)28の車両後方の端部が配置されている。リターンスプリング28は、自然状態(付勢力が作用していない状態)から圧縮されて、リターンスプリング28の車両後方の端部が凹部27と当接されると共に、リターンスプリング28の車両前方の端部がハウジング14の前壁14Aに当接されている。これにより、リターンスプリング28は、ペダルアーム20を休止位置側(図1の矢印A方向側)へ揺動させる方向に付勢している。また、図2に示すように、リターンスプリング28とペダルアーム20との当接部位から回転軸30(支点)までの上下方向の長さが、長さ「b」に設定されている。
【0033】
次に、本発明の要部であるヒステリシス機構40について説明する。
【0034】
ヒステリシス機構40は、「第1摺動部材」としての第1スライダ42と、「第3付勢部材」としての第1スライダ用スプリング44と、「第2摺動部材」としての第2スライダ46と、「第2付勢部材」としての第2スライダ用スプリング50と、「連結部材」としてのリンク48とを含んで構成されている。
【0035】
第1スライダ42は、略直方体ブロック状に形成されて、ハウジング14の第1収容部16内に配置されている。また、第1スライダ42は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の良摺動材により製作されると共に、第1収容部16内を「第1方向」としての車両前後方向(図1の矢印C方向及び矢印D方向)に摺動可能に構成されており、第1スライダ42の車両前方の端部が、ペダルアーム20の当接部24と当接されている。また、図2に示されるように、当接部24と第1スライダ42との当接部位から回転軸30までの長さが、長さ「a」に設定されている。
【0036】
第1スライダ42とハウジング14の後壁14Cとの間には、第1スライダ用スプリング(圧縮スプリング)44が車両前後方向に沿って設けられている。第1スライダ用スプリング44は自然状態から圧縮されて、第1スライダ用スプリング44の車両前方の端部が第1スライダ42の車両後方の端部と当接されると共に、第1スライダ用スプリング44の車両後方の端部が後壁14Cと当接されている。これにより、第1スライダ用スプリング44は、第1スライダ42をペダルアーム20に当接させる方向(車両前方)へ付勢しており、第1スライダ用スプリング44もペダルアーム20を休止位置側へ揺動させる方向に付勢している。
【0037】
第2スライダ46は、略直方体ブロック状に形成されて、ハウジング14の第2収容部17内に配置されている。第2スライダ46は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の良摺動材により製作されると共に、第2収容部17内を「第2方向」としての車両上下方向(図1の矢印E方向及び矢印F方向)に摺動可能に構成されている。
【0038】
また、第2スライダ46と第1スライダ42とは、リンク48によって連結されている。具体的には、リンク48の長手方向一端部が、第1スライダ42に回転可能に支持されると共に、リンク48の長手方向他端部が、第2スライダ46に回転可能に支持されており、リンク48は車両後方へ向かうに従い車両下方へ傾斜して配置されている。これにより、第1スライダ42と第2スライダ46とリンク48とによってリンク機構が構成されて、第1スライダ42(又は第2スライダ46)の摺動に連動して、第2スライダ46(又は第1スライダ42)がハウジング14内を摺動するように構成されている。
【0039】
さらに、第2スライダ46とハウジング14の下壁14Dとの間には、第2スライダ用スプリング(圧縮スプリング)50が車両上下方向に沿って設けられている。第2スライダ用スプリング50は自然状態から圧縮されて、第2スライダ用スプリング50の車両上方の端部が第2スライダ46の車両下方の端部と当接されると共に、第2スライダ用スプリング50の車両下方の端部が下壁14Dと当接されている。これにより、第2スライダ用スプリング50は、第2スライダ46を車両上方へ付勢しており、第2スライダ用スプリング50の付勢力が、第2スライダ46及びリンク48を介して第1スライダ42に伝達されるように構成されている。したがって、第2スライダ用スプリング50もペダルアーム20を休止位置へ揺動させる方向に付勢している。
【0040】
次に第1の実施の形態の作用及び効果について説明する。
【0041】
ドライバーがペダルパッドに踏力を付与する前には、リターンスプリング28、第1スライダ用スプリング44、及び第2スライダ用スプリング50の付勢力によって、ペダルアーム20が休止位置に保持されている。
【0042】
リターンスプリング28、第1スライダ用スプリング44、及び第2スライダ用スプリング50の付勢力に抗してドライバーがペダルパッドに踏力を付与すると、ペダルアーム20が図1の矢印B方向へ揺動されて、ペダルアーム20の上端が車両後方(図1の矢印D方向)へ揺動される。これにより、ペダルアーム20の当接部24が第1スライダ42を押圧して、第1スライダ42が車両後方(図1の矢印D方向)へ摺動する。この際には、第1スライダ42の摺動に連動して、第2スライダ46が車両下方(図1の矢印F側)へ摺動する。これにより、ペダルアーム20が最大踏込位置へ揺動される(図2参照)。
【0043】
次に、ペダルアーム20が休止位置から最大踏込位置へ揺動される際のペダルアーム20に作用する踏力のトルクT1について説明する。
【0044】
図3に示すように、リターンスプリング28がペダルアーム20に作用する圧縮力(復帰力)を「Fs1」とし、第1スライダ用スプリング44が第1スライダ42に作用する圧縮力(復帰力)を「Fs2」とすると、トルクT1は、
【0045】
T1=(Fs2+F1)×a+Fs1×b・・・(1)
【0046】
となる。また、式(1)に示される力F1は、ペダルアーム20と第1スライダ42との間に作用する力fpressと、ハウジング14に対する第1スライダ42及び第2スライダ46の摺動抵抗ffrictionと、を加算した力となり、
【0047】
F1=(fpress)+(ffriction
【0048】
press=Fs3/(cosθ1×(cosθ2−μ×sinθ2))・・・(2)
【0049】
として示される。
【0050】
なお、式(2)で示される「Fs3」は第2スライダ用スプリング50が第2スライダ46に作用する圧縮力(復帰力)であり、「θ1」は第1スライダ42の摺動方向(車両前後方向)に対するリンク48の成す角度であり、「θ2」は第2スライダ46の摺動方向(車両上下方向)に対するリンク48の成す角度であり、「μ」は第1スライダ42及び第2スライダ46とハウジング14との間の摩擦係数である。
【0051】
上記(2)式について、具体的に説明すると、図3に示すように、力fpressがリンク48を介して第2スライダ46に作用する力f1(fpressのリンク48の軸方向における分力)は、
【0052】
f1=fpress×cosθ1
【0053】
となる。また、この力f1の車両上下方向における分力f1vは、
【0054】
f1v=f1×cosθ2=(fpress×cosθ1)×cosθ2・・・(3)
【0055】
となる。さらに、力f1の車両前後方向における分力f1hは、
【0056】
f1h=f1×sinθ2=(fpress×cosθ1)×sinθ2
【0057】
となる。このため、力f1hによってハウジング14の後壁14Cから作用する反力N1は、分力f1hと等しくなり、ハウジング14の後壁14Cと第2スライダ46との間で発生する摩擦力fr1は、
【0058】
fr1=μ×f1h=μ×(f1×sinθ2)=μ×((fpress×cosθ1)×sinθ2)・・・(4)
【0059】
となる。そして、車両上下方向における力の釣り合いにより、
【0060】
Fs3−f1v+fr1=0・・・(5)
【0061】
となり、式(5)に式(3)及び式(4)を代入して、式(2)が求められる。
【0062】
一方、ペダルアーム20が最大踏込位置から休止位置へ揺動される際には、第2スライダ用スプリング50の付勢力によって第2スライダ46が車両上方(図2の矢印E方向)へ摺動する。また、第2スライダ46の摺動に連動して第1スライダ42が車両前方(図2の矢印C方向)へ摺動する。この際には、第1スライダ用スプリング44の付勢力が第1スライダ42に作用すると共に、第2スライダ用スプリング50の付勢力が、第2スライダ46及びリンク48を介して第1スライダ42に作用する。これにより、ペダルアーム20が、第1スライダ42及びリターンスプリング28に押圧されて、休止位置側へ揺動される。
【0063】
また、この際のペダルアーム20に作用する踏力のトルクT2は、
【0064】
T2=(Fs2+F2)×a+Fs1×b・・・(6)
【0065】
となる。このF2は、ペダルアーム20と第1スライダ42との間に作用する力freleaseから摺動抵抗ffrictionを減算した力となり、
【0066】
F2=(frelease)−(ffriction
【0067】
release=Fs3×cosθ2×(cosθ1−μ×sinθ1))・・・(7)
【0068】
で示される。
【0069】
上記(7)式について、具体的に説明すると、図4に示すように、圧縮力Fs3から第2スライダ46及びリンク48を介して第1スライダ42に作用する力f2(圧縮力Fs3のリンク48の軸方向における分力)は、
【0070】
f2=Fs3×cosθ2
【0071】
となる。また、力f2の車両前後方向における分力f2hは、
【0072】
f2h=f2×cosθ1=(Fs3×cosθ2)×cosθ1・・・(8)
【0073】
となる。さらに、力f2の車両上下方向における分力f2vは、
【0074】
f2v=f2×sinθ1=(Fs3×cosθ2)×sinθ1
【0075】
となる。このため、分力f2vによってハウジング14の上壁14Bから作用する反力N2は、分力f2vと等しくなり、ハウジング14の上壁14Bと第1スライダ42との間で発生する摩擦力fr2は、
【0076】
fr2=μ×f2v=μ×(f2×sinθ1)=μ×((Fs3×cosθ2)×sinθ1)・・・(9)
【0077】
となる。そして、車両前後方向における力の釣り合いにより、
【0078】
release−f2h+fr2=0・・・(10)
【0079】
となり、式(10)に式(8)及び式(9)を代入して、式(7)が求められる。
【0080】
そして、式(1)、(2)、(6)、及び(7)から、ペダルアーム20に作用する踏力のトルクをグラフで表すと、図5に示すようになる(なお、図5では、横軸を休止位置からペダルアーム20が揺動(回転)される角度としている)。したがって、この図に示されるように、ペダルアーム20が最大踏込位置側へ揺動される際とペダルアームが休止位置側へ揺動される際との間でヒステリシスが発生する。
【0081】
ここで、上述したように、ペダルアーム20が休止位置から最大踏込位置側へ揺動される際には、第1スライダ42が車両後方へ摺動すると共に、第1スライダ42の摺動に伴って、リンク48によって第2スライダ46に作用する力(荷重)が車両前後方向と車両上下方向とで変換される。一方、ペダルアーム20が最大踏込位置から休止位置側へ揺動される際には、第2スライダ46が車両上方へ摺動すると共に、第2スライダ46の摺動に伴って、リンク48によって第1スライダ42に作用する力(荷重)が車両前後方向と車両上下方向とで変換される。そして、ペダルアーム20と第1スライダ42との間では、ペダルアーム20が揺動される方向によって異なる大きさの力が作用する。つまり、ペダルアーム20と第1スライダ42との間で作用する力fpressと力freleaseとの大きさが異なる。
【0082】
また、上記の式(1)及び式(6)から明らかなように、力F1と力F2との差によって、ペダルアーム20の踏力のヒステリシスが発生する。そして、力F1は、力fpressに摺動抵抗ffrictionを加算したものであり、力F2は、力freleaseから摺動抵抗ffrictionを減算したものである。したがって、ペダルアーム20の踏力のヒステリシスは、ハウジング14に対する第1スライダ42及び第2スライダ46の摺動抵抗と、力fpressと力freleaseとの間で生じる差と、によって発生する。
【0083】
さらに、第1スライダ42及び第2スライダ46がPTFE等の良摺動材により製作されているため、第1スライダ42及び第2スライダ46とハウジング14との間の摩擦係数μが小さくなると共に、第1スライダ42及び第2スライダ46の摺動抵抗ffrictionが小さくなる。これにより、ペダルアーム20の踏力のヒステリシスが、主に力fpressと力freleaseとの間で生じる差によって発生する。
【0084】
以上により、第1スライダ42及び第2スライダ46の摺動抵抗によってペダルアーム20の踏力のヒステリシスが発生することを抑制できるため、該ヒステリシスを安定して発生させることができる。
【0085】
これにより、初期から経年後に至るまで、アクセルペダル装置10におけるペダルアーム20の踏力のヒステリシス特性を安定して維持することができる。
【0086】
また、上記式(1)、(2)、(6)、及び(7)から明らかなように、力fpress及び力freleaseは、角度θ1及び角度θ2の関数であると共に、長さa及び長さbの関数でもある。これにより、角度θ1、角度θ2、長さa、及び長さbをそれぞれ変更することで、ペダルアーム20に作用する踏力のトルクT1及びトルクT2を容易に変更できるため、ペダルアーム20の踏力のヒステリシスを容易に変更できる。
【0087】
さらに、ハウジング14内には、リターンスプリング28、第1スライダ用スプリング44、及び第2スライダ用スプリング50が設けられており、これらのスプリングはペダルアーム20を休止位置へ揺動させる方向へ付勢している。このため、リターンスプリング28、第1スライダ用スプリング44、及び第2スライダ用スプリング50の何れか1つが仮に破損した場合でも、2つのスプリングがペダルアーム20を休止位置へ揺動させる方向へ付勢する。これにより、アクセルペダル装置10を2段階のフェールセーフを備えた構造にできる。
【0088】
さらに、ペダルアーム20は基端部から車両下方へ向かうに従い車両後方へ傾斜して延設されており、第2スライダ46は車両上下方向に摺動可能に構成されている。このため、ペダルアーム20の延設方向と第2スライダ46の摺動方向とを略一致させることができるため、ハウジング14の車両後方への突出量を抑制でき、アクセルペダル装置10の大型化を抑制できる。
【0089】
また、ハウジング14内には、第1スライダ42をペダルアーム20に当接させる方向(車両前方)へ付勢する第1スライダ用スプリング44が設けられているため、図5に示すように、ペダルアーム20に作用する踏力のトルクT1が、ペダルアーム20の揺動(回転)角度に比例して増加する。これにより、ペダルアーム20の踏み込み量に応じてペダルアーム20のヒステリシスの量を大きくできる。
【0090】
さらに、ハウジング14内には、リターンスプリング28が設けられている。また、ペダルアーム20の当接部24は、第1スライダ42と当接可能に構成されており、つまり、ペダルアーム20と第1スライダ42とが接離可能に構成されている。これにより、第1スライダ42又は第2スライダ46がハウジング14に仮に固着した場合には、リターンスプリング28の付勢力によってペダルアーム20を休止位置へ復帰させることができる。
【0091】
また、ペダルアーム20の当接部24は、側面視で車両後方へ突出された円弧状に形成されている。これにより、ペダルアーム20の当接部24と第1スライダ42とが線で当接されるため、ペダルアーム20と第1スライダ42との接触抵抗を低減させることができる。
【0092】
(第2の実施の形態)
【0093】
図6には、第2の実施の形態に係るアクセルペダル装置100が側断面図で示されており、図7には、アクセルペダル装置100のペダルアーム20が最大踏込位置へ揺動された状態が側断面図で示されている。アクセルペダル装置100は、第1の実施の形態に係るアクセルペダル装置10と略同様の構成をしているが以下の点において異なる。
【0094】
これらの図に示されるように、アクセルペダル装置100では、第1スライダ用スプリング44が省略されている。このため、リターンスプリング28及び第2スライダ用スプリング50の付勢力によって、ペダルアーム20が休止位置に保持される。
【0095】
また、ペダルアーム20に踏力が付与されて、ペダルアーム20が休止位置から最大踏込位置へ揺動される際のペダルアーム20の踏力のトルクT1は、
【0096】
T1=F1×a+Fs1×b・・・(11)
【0097】
となる。また、この際の力F1は、第1の実施の形態で示した力F1と同じになる。
【0098】
一方、ペダルアーム20が最大踏込位置から休止位置へ揺動される際のペダルアーム20の踏力のトルクT2は、
【0099】
T2=F2×a+Fs1×b・・・(12)
【0100】
となる。この際の力F2は、第1の実施の形態で示した力F2と同じになる。
【0101】
これにより、第2の実施の形態においても、上記の式(11)及び式(12)から明らかなように、ペダルアーム20の踏力のヒステリシスは、力F1と力F2との差によって発生する。また、力fpress及びfreleaseは、第1の実施の形態で示した式(2)及び式(7)と同じ式で表すことができるため、ペダルアーム20の踏力のヒステリシスは、ハウジング14に対する第1スライダ42及び第2スライダ46の摺動抵抗と、力fpressと力freleaseとの間で生じる差と、によって発生する。
【0102】
さらに、第1スライダ42及び第2スライダ46がPTFE等の良摺動材により製作されているため、第1スライダ42及び第2スライダ46とハウジング14との間の摩擦係数μが小さくなると共に、第1スライダ42及び第2スライダ46の摺動抵抗ffrictionが小さくなる。これにより、ペダルアーム20の踏力のヒステリシスが、主に力fpressと力freleaseとの間で生じる差によって発生する。
【0103】
以上により、第2の実施の形態においても、第1の実施の形態における2段階のフェールセーフを備えた構造にできることを除いて、第1の実施の形態と同様の作用及び効果を奏する。
【0104】
なお、第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、第1スライダ42及び第2スライダ46が、PTFE等の良摺動材により製作されているが、第1スライダ42及び第2スライダ46を、例えば、合成樹脂にPTFEを含有したもので製作してもよい。つまり、使用環境(温度や湿度等)、第1スライダ42及び第2スライダ46に作用する応力を考慮して、第1スライダ42及び第2スライダ46を摺動性のよい材料で製作してもよい。
【0105】
また、第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、第1スライダ42が車両前後方向に沿って摺動可能に構成されており、第2スライダ46が車両上下方向に沿って摺動可能に構成されている。これに替えて、第2スライダ46が車両上下方向に対して傾斜する方向に摺動可能に構成してもよい。
【0106】
また、ペダルアーム20の当接部24は、側面視で車両後方に突出される円弧状に形成されている。これに替えて、ペダルアーム20の当接部24を、車両後方へ突出される球面上に形成してもよい。これにより、ペダルアーム20と第1スライダ42とを点で当接させることができるため、ペダルアーム20と第1スライダ42との接触抵抗を一層低減させることができる。
【符号の説明】
【0107】
10 アクセルペダル装置
14 ハウジング
20 ペダルアーム
28 リターンスプリング(第1付勢部材)
42 第1スライダ(第1摺動部材)
44 第1スライダ用スプリング(第3付勢部材)
46 第2スライダ(第2摺動部材)
48 リンク(連結部材)
50 第2スライダ用スプリング(第2付勢部材)
100 アクセルペダル装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定されたハウジングに基端部側が支持されて休止位置と最大踏込位置との間で揺動可能に構成され、前記基端部とは反対側の端部にペダルパッドが設けられたペダルアームと、
前記ペダルアームを休止位置側へ付勢する第1付勢部材と、
前記ハウジング内に設けられると共に、前記ペダルアームの前記基端部と当接され、前記ペダルアームの揺動に追従して第1方向へ摺動可能に構成された第1摺動部材と、
前記ハウジング内に設けられ、前記第1方向に交差する第2方向に摺動可能に構成された第2摺動部材と、
前記第2摺動部材を前記第2方向に沿って前記第1方向と交差する方向へ付勢する第2付勢部材と、
前記第1摺動部材と前記第2摺動部材とを連結すると共に、前記第1摺動部材又は前記第2摺動部材の摺動に伴い前記第1方向と前記第2方向とで荷重を変換可能な連結部材と、
を備えたアクセルペダル装置。
【請求項2】
前記第1摺動部材を前記ペダルアームの基端部に当接させる方向へ付勢する第3付勢部材を備えた請求項1に記載のアクセルペダル装置。
【請求項3】
前記ペダルアームが前記基端部から車両下方へ向かうに従い車両後方へ延設され、
前記第1方向が車両前後方向とされると共に、前記第2方向が車両上下方向とされた請求項1又は請求項2に記載のアクセルペダル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−112036(P2013−112036A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257375(P2011−257375)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】