説明

アクチュエータの当接検出方法、一定力発生機構及び発生力推定方法

【課題】対象物にアクチュエータが当接した瞬間をロードセルを用いずに、電流の値から検出する方法を提供する。
【解決手段】積層圧電素子単体又は積層圧電素子S105と変位拡大機構の組み合わせよりなる圧電アクチュエータと、その圧電アクチュエータから所定の隙間をあけ、圧電アクチュエータに電圧を印加したときに圧電アクチュエータが当接するように配置された対象物と、圧電アクチュエータに電圧を供給する駆動回路S101と、その駆動回路から圧電アクチュエータに流入する電流の検出手段S106と、を有し、駆動回路が連続的に変化する電圧を供給するとき、流入する電流値の変化により、圧電アクチュエータが対象物に当接したことを検出することにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を用いたアクチュエータに電圧を印加して作動させたとき、アクチュエータが対象物に当接したときを回路の電流値から検出する方法、当接以後の発生力を一定に保つ機構及び電流値から発生力を推定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電素子を用いた圧電アクチュエータは、印加電圧と流入した電荷を計測することにより、対象物に付与する力や変位を求めることができることが特許文献1に記載されている。
【0003】
図6は、特許文献1に記載されている圧電アクチュエータを等価回路で表現した図であり、力−電圧対応を基としている。圧電アクチュエータ20は、電気回路デバイスとしての電気入力端子1−1'と、機械機能デバイスとしての機械出力端子2−2'とを有し、電気回路デバイスと機械機能デバイスの両方の特性を併せ持っているが、等価回路20として表現することによりこれらが統一的に一つの回路で表現される。
【0004】
図6において電気系の入力側に並列に入っているコンデンサ21の容量Cdは制動容量と呼ばれる。制動容量と呼ばれる理由は、圧電アクチュエータが拘束された場合の容量値がこのCdに一致するためである。コンデンサ21の右側にある変成器は巻き線比1:Aを持つ理想変成器24を表している。Aは電気機械変換係数といわれ、電気系の量と機械系の量を相互変換するもので、N/V(N:ニュートン、V:ボルト)の次元を持つ係数である。この理想変成器24を境に左側は電気系であり、電圧(V:ボルト)、電流(A:アンペア)及び電荷(Q:クーロン)の次元を持つ電気量で計測される世界、右側は機械系であり、変位(m:メートル)、力(N:ニュートン)の次元を持つ機械量で計測される世界になっている。
【0005】
また、機械系の側では、圧電アクチュエータ20の剛性kの逆数のコンプライアンス22が直列に配列されている。剛性kの持つ次元はN/m(N:ニュートン、m:メートル)である。kの逆数のコンプライアンスが静電容量に対応しているため、ここではコンプライアンスの次元に合わせて1/kと表している。
【0006】
圧電アクチュエータ20の電気入力端子1−1'間の電圧をV1、流入した電荷量をQ1とし、機械出力端子2−2'間の電圧は力−電圧対応に従って発生力f2を表しており、機械出力端子2−2'から流出する電荷量は、同じく対応関係により発生変位ξ2を表している。そうすると、図6から、圧電アクチュエータの発生力f2と発生変位ξ2は、下記のとおりとなる。
【0007】
2=(Cd・k/A+A)・V1−(k/A)・Q1 (1)
【0008】
ξ2=−(Cd/A)・V1+(1/A)・Q1 (2)
【0009】
ここに、等価回路定数であるCd、A、kは定数であるので、電圧V1及びその時に流入した電荷量Q1を計測すれば、直ちに発生力f2及び発生変位ξ2を算出することができることになる。
【0010】
しかし、電荷量Q1を得るためには、電流値を計測し積分する方法が一般的であるが、このような作業は煩雑であり、誤差が生じやすいという欠点がある。
【0011】
一方、対象物に付与する発生力や発生変位の値は不明でも、当接した瞬間がわかればよいという場合がある。例えば、ワイングラスのような壊れやすいものを把持するような場合には、把持した瞬間を捉えることが重要で、そこから力や変位をほとんど増加させることはない。また別の例では、IC基盤を所定の位置にセットする装置において、IC基盤を持ちあげて所定の位置まで移動する際に、横方向から板等を当接させ、IC基盤の向きを正しい向きに調整することがある。この場合は、IC基盤の向きの調整量は、僅かであることから、当接したことだけがわかれば、それ以上の力を付与する必要はなく、目的は達成されることになる。
【0012】
このような場合、従来はアクチュエータにロードセル等のセンサーを設け、センサーにより当接したことを検出していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−236974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、ロードセル等を設けるためには、その設ける空間を確保しなければならず、また、動作確認等も必要になるので、ロードセル等の設置は、なるべく避けたいところである。一方、式(1)より発生力を算出することも可能であるが、電荷量の測定には電流値の積分が必要になるので、この場合も作業が煩雑になる。
【0015】
そこで、本発明では、斯かる事情に鑑み、対象物にアクチュエータが当接した瞬間を簡単に検出する方法を提供することを目的とする。
【0016】
また、この検出方法を応用して、当接後に圧電アクチュエータに発生する力を一定に保つ一定力発生機構や、発生力を推定する方法も併せて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明に係るアクチュエータの当接検出方法は、積層圧電素子単体又は積層圧電素子と変位拡大機構の組み合わせよりなる圧電アクチュエータと、その圧電アクチュエータから所定の隙間をあけ、圧電アクチュエータに電圧を印加したときに圧電アクチュエータが当接するように配置された対象物と、圧電アクチュエータに電圧を供給する駆動回路と、その駆動回路から圧電アクチュエータに流入する電流値の検出手段と、を有し、駆動回路が連続的に変化する電圧を供給するとき、流入する電流値の変化により、圧電アクチュエータが対象物に当接したことを検出するものである。
【0018】
また、流入する電流値の変化が、電流値の時間に対する微係数変化により、圧電アクチュエータが対象物に当接したことを検出することにしても良い。
【0019】
さらに、これらのアクチュエータの当接検出方法により、アクチュエータが対象物に当接したことを検出した後、駆動回路から圧電アクチュエータに流入する電流値が所定の値に達した時点で駆動回路から供給される電圧が一定に制御されることを特徴とする一定力発生機構を得ることができる。
【0020】
さらに、圧電アクチュエータにロードセルを備え、駆動回路が連続的に変化する電圧を供給し、圧電アクチュエータが対象物に当接した後に、ロードセルにより計測された対象物に付与する力の値と、流入する電流値との関係のデータを取得し、そのロードセルを外した後、駆動回路が連続的に変化する電圧を供給したとき、駆動回路から圧電アクチュエータに流入する電流値と取得したデータより、圧電アクチュエータが対象物に付与する力の値を推定することを特徴とする発生力推定方法を得ることもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、流入する電流値を計測するという簡単な方法により、圧電アクチュエータが対象物に当接したときを検出することができるという効果を奏する。また、ロードセルを用いる必要はないという効果も奏する。
【0022】
また、当接した後に、印加電圧を一定に制御することで、対象物に一定力を付与することができる。さらに、ロードセルを用いてあらかじめ、電流値と発生力の関係のデータを取得しておけば、その後は、ロードセルなしで電流値のみを計測することで、発生力を推定することができるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に用いる圧電アクチュエータの回路図である。
【図2】実験装置の概要図である。
【図3】印加電圧に対するロードセルの値と検出電圧を表したグラフである。
【図4】印加電圧に対する検出電圧をまとめて表したグラフである。
【図5】クランプ機構の形に構成した圧電アクチュエータの一例を示す図である。
【図6】圧電アクチュエータを等価回路で表現した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本発明に用いる圧電アクチュエータの回路図である。本回路は、駆動回路S101から供給された電圧が、ローパスフィルタS102により高周波数成分をカットし、バイアス回路(オフセット電圧)S103によりマイナスの電圧が印加されないようにし、増幅器S104を通過して圧電素子S105に印加される構成になっている。
【0026】
さらに、本回路の特徴として、圧電素子S105に直列に抵抗S106を設けている。抵抗S106を設けた理由は、電流値の検出手段として、抵抗S106に作用する電圧を計測することで、圧電素子S105に流入した電流値を求めるためである。また、シンクロスコープS110では、印加電圧と、抵抗S106にかかる検出電圧を計測している。さらに、発生力の実測をする場合には、圧電素子S105の先端にロードセルを設けることもある。
【0027】
ここで、圧電アクチュエータの発生変位は、印加電圧を増加させることで大きくなり、圧電アクチュエータが対象物に当接した後は、圧電アクチュエータが拘束されるので、印加電圧を増加させても発生変位が変化しない。そうすると式(2)より、当接した瞬間に電荷の値に変化が生じることが推察される。そこで、発明者は、電荷量は電流を積分したものなので、当接した瞬間を検出するだけであれば、電荷量を計測しなくても、電流値の変化だけを計測すれば良いと考え、図1に記載した圧電アクチュエータの回路を用いて、電流値と発生力を計測して、それによって、圧電アクチュエータ10が対象物15に当接した瞬間を電流値から検出できることを明らかにすることを目的として実験をすることにした。
【0028】
図2は、実験装置の概要図であり、圧電素子11に変位拡大機構12を設けた圧電アクチュエータ10に対して一定の隙間Gをあけて対象物15を設置している。その圧電アクチュエータ10と対象物15との隙間Gは、マイクロメータ16を用いて、正確に管理できるようになっている。圧電アクチュエータ10の先端部には、ロードセル13を設けて、圧電アクチュエータ10と対象物15が当接したか否かの判断、及び当接後の発生力の計測ができるようになっている。
【0029】
図2に示した実験装置により、印加電圧を増加させたときのロードセル13の値や検出電圧を計測する実験を行った結果を図3、図4を用いて説明する。図3は、印加電圧に対するロードセルの値と検出電圧を表したグラフであり、図4は、印加電圧に対する検出電圧をまとめて表したグラフである。
【0030】
図3では、横軸に印加電圧(V)、縦軸にロードセルの値(N)及び検出電圧(電流値)の値(V)をとって、グラフ化した。ここに示したように、印加電圧を単調に増加させていくと、当然ながらロードセル13は、圧電アクチュエータ10と対象物15が当接したときから値が増え始める。一方、検出電圧(電流値)の値は、当接したときに急激に減少し、ある程度下がったところからは徐々に減少して、最終的にはほぼ直線的に減少することになる。つまり、検出電圧(電流値)を計測していれば、圧電アクチュエータ10と対象物15が当接した瞬間に検出電圧は急激な変化をすることから、当接した瞬間を検出することが可能であることになる。また、検出電圧と流入する電流値とは、対応していることから、検出電圧を計測することは電流値を計測することに他ならない。
【0031】
ここで、印加電圧は、単調に増加させる場合だけではなく、連続的な変化であれば同様に当接した瞬間を検出することができると考えられる。なお、印加電圧の連続的な変化とは、単調(直線的)に増加又は減少する場合だけでなく、曲線的な増加又は減少、ある波形を描きながらの増加又は減少など、なめらかな変化をいう。そうして、このような印加電圧の連続的な変化に対して、検出電圧(電流値)は、圧電アクチュエータ10と対象物が当接したときには、非連続的な急激な変化を生じることになるので、当接の検出が可能となる。
【0032】
また、別の見方をすると、印加電圧が連続的な変化をするように供給された場合には、電流値の時間に対する微係数変化(di/dt)を求めることで、当接した瞬間を検出することも可能である。
【0033】
このような実験を圧電アクチュエータ10と対象物15との隙間GをG1<G2<G3<・・・と変化させ、横軸を印加電圧(V)とし、縦軸を検出電圧(電流値)(V)としてまとめてグラフ化したのが、図4である。
【0034】
曲線L1は圧電アクチュエータ10が自由状態のときの検出電圧(電流値)の変化を示し、曲線L2は圧電アクチュエータ10が拘束された状態のときの検出電圧(電流値)の変化を示している。つまり、圧電アクチュエータ10が対象物15に当接する前は、曲線L1に沿って、当接後は、曲線L2に沿って変化することになる。したがって、例えば隙間GがG1の場合は、最初は曲線L1に沿って推移し、当接した瞬間にP1を通って曲線L2へと移行する経路になる。同様に隙間GがG2のときはP2を通り、G3のときはP3を通って曲線L1から曲線L2へ移行するという経路になる。
【0035】
また、圧電アクチュエータ10が対象物15に当接後、印加電圧が一定になるように制御すれば、対象物15に付与する力を一定に保つことができる。これは、当接後、ある程度の力を付与してから、一定に保っても良いし、当接した瞬間に印加電圧を一定に制御すれば、対象物が壊れやすいものでも、当接可能な機構になる。
【0036】
以上のようにして、流入した電流値を計測すれば、圧電アクチュエータ10と対象物15が当接した瞬間を検出したり、一定力を発生させたりすることが可能となる。さらに、一度このような電流値とロードセル13の値のデータを実験により取得しておけば、同じ装置及び対象物15を用いた場合、ロードセルを用いなくても電流値を測定するだけで、当接後の発生力を推定することも可能である。
【0037】
また、本発明は、物を把持(クランプ)する場合にも適用できる。図5は、クランプ機構の形に構成した圧電アクチュエータの一例を示す図である。圧電素子11に電圧を印加することによって、圧電素子11が伸張し、ヒンジ部を介し、アーム17が動き、挟持部18,18の間隔が狭くなり、対象物15を挟持する機構となっている。
【0038】
また、この方法は圧電素子11に変位拡大機構を付けた場合にのみでなく、圧電素子単体の場合にも適用できる。
【0039】
このようなクランプ機構について、本発明の当接検出方法、一定力発生機構及び発生力推定方法を適用すれば、対象物15がワイングラスのように壊れやすい物であっても、力をかけ過ぎることがないので、壊すことなくクランプすることが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
10 圧電アクチュエータ
11 圧電素子
12 変位拡大機構
13 ロードセル
15 対象物
16 マイクロメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層圧電素子単体又は積層圧電素子と変位拡大機構の組み合わせよりなる圧電アクチュエータと、前記圧電アクチュエータから所定の隙間をあけ、前記圧電アクチュエータに電圧を印加したときに前記圧電アクチュエータが当接するように配置された対象物と、前記圧電アクチュエータに電圧を供給する駆動回路と、前記駆動回路から前記圧電アクチュエータに流入する電流値の検出手段と、を有し、
前記駆動回路が連続的に変化する電圧を供給するとき、流入する電流値の変化により、前記圧電アクチュエータが前記対象物に当接したことを検出することを特徴とするアクチュエータの当接検出方法。
【請求項2】
前記流入する電流値の変化が、電流値の時間に対する微係数変化により、前記圧電アクチュエータが前記対象物に当接したことを検出することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータの当接検出方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアクチュエータの当接検出方法により、前記アクチュエータが前記対象物に当接したことを検出した後、前記駆動回路から前記圧電アクチュエータに流入する電流値が所定の値に達した時点で前記駆動回路から供給される電圧が一定に制御されることを特徴とする一定力発生機構。
【請求項4】
積層圧電素子単体又は積層圧電素子と変位拡大機構の組み合わせよりなる圧電アクチュエータと、前記圧電アクチュエータから所定の隙間をあけ、前記圧電アクチュエータに電圧を印加したときに前記圧電アクチュエータが当接するように配置された対象物と、前記圧電アクチュエータに電圧を供給する駆動回路と、前記駆動回路から前記圧電アクチュエータに流入する電流の検出手段と、を有し、
さらに、前記圧電アクチュエータにロードセルを備え、前記駆動回路が連続的に変化する電圧を供給し、前記圧電アクチュエータが前記対象物に当接した後に、前記ロードセルにより計測された前記対象物に付与する力の値と、流入する電流値との関係のデータを取り、
前記ロードセルを外した後、前記駆動回路が連続的に変化する電圧を供給したとき、前記駆動回路から前記圧電アクチュエータに流入する電流値と前記データより、前記圧電アクチュエータが前記対象物に付与する力の値を推定することを特徴とする発生力推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−19768(P2013−19768A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153467(P2011−153467)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(502254796)有限会社メカノトランスフォーマ (22)
【Fターム(参考)】