説明

アクチュエータ及びアクチュエータの駆動方法

【課題】構成が簡易でかつ簡単な制御で駆動できるアクチュエータを提供する。
【解決手段】アクチュエータ(2)は、ずり圧電性材料で構成された薄膜(16)と、薄膜(16)の第1の主面に形成された第1の電極と、薄膜(16)の第2の主面に形成された第2の電極を備え、第1の電極と第2の電極間に所定の交流電圧を印加することで薄膜(16)の少なくとも一の端縁部において駆動力を発生させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することで回転力及び駆動力を発生するアクチュエータ及びアクチュエータの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な空間において回転動作や並進動作を得るためのアクチュエータの開発が昨今求められている。このアクチュエータは更に軽量であることが要求されている。
【0003】
図7は、東京大学及びIMREにより開発された、PZT管状モータ50を説明する図である(非特許文献1参照)。ステータ(PZT管)56の平面図(図7(c))に示されるように、PZT管の外側側面には4分割された電極が設けられ、径方向に分極されている。図7(c)に示すように正弦電圧と余弦電圧を印加すると、回転たわみモードが励振される(図7(a)、(b))。なお、図7(a)は、回転たわみモードが励振された際の管状モータ50の様子を示す図であり、図7(b)は回転たわみモードの動作を模式的に示す図である。図7に示す管状モータ50は、その両端で2つのロータ54a、54bを同時に回転することができ、その動作は皿回しモータとよく似ている(図7(b)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許公報第2722206号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takeshi Morita, Minoru Kuribayashi Kurosawa,、Ieee Transactions on Ultrasonics, ferroelectrics, and frequency control, vol. 45, no. 5, september 1998, pp1178-1187。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の図7に示す管状モータ50には4つの異なる電極を設けなければならず、電極構成は複雑である。また、それら電極には、異なる位相を有する複数の交流電圧(正弦電圧、余弦電圧)を印加しなければならず、それら電圧間の制御が複雑である。
【0007】
これを解決するものとして、特許文献1には、中空円筒形のセラミック圧電体の内面及び外面に電極を設け、それら電極間に、セラミック圧電体の高さ方向の共振周波数と円周方向の共振周波数とを持つ交流電圧を印加する超音波駆動装置(回転アクチュエータ)が開示されている。この超音波駆動装置は、円筒形のセラミック圧電体の高さ及び半径が所定の関係式を満たし、且つ、上記の共振周波数の交流電圧が印加されるとき、微小な空間において回転動作を得るための回転アクチュエータとして機能する。
【0008】
しかし、特許文献1に開示される、セラミック圧電体で形成される超音波駆動装置では、回転アクチュエータとして回転動作を発生するには、円筒形のセラミック圧電体の高さ及び半径が厳密に所定の関係(式)を満足せねばならず、且つ、高さ方向と円周方向の両方に正確に共振を生じさせる周波数を持つ交流電圧が印加されねばならない。つまり、特許文献1に開示される超音波駆動装置は、このような厳密な条件を満たしたときしか回転アクチュエータとして機能しない。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために為されたものであり、構成が簡易で簡単な制御で駆動でき、且つ、動作条件が厳密でないアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るアクチュエータは、
ずり圧電性材料で構成された薄膜と、
薄膜の第1の主面に形成された第1の電極と、
薄膜の第2の主面に形成された第2の電極を備え、
第1の電極と第2の電極間に所定の交流電圧を印加することで薄膜の少なくとも一の端縁部において駆動力を発生させる。
【0011】
薄膜は高分子フィルムで形成されることが好ましい。更に、ずり圧電性材料は、例えば、圧電性ポリ乳酸材料で形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、全体構成が簡易で簡単な制御で駆動でき、且つ動作条件が厳密でないアクチュエータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)本発明の第1の実施形態に係る回転アクチュエータの全体構成の斜視図、(b)本発明の第1の実施形態に係る回転アクチュエータを構成する円筒体の斜視図、及び(c)回転作用を受ける回転体の平面図である。
【図2】第1の実施形態に係る回転アクチュエータの円筒体の製造を概略説明するための図である。
【図3】(a)表裏に電極を備えるずり圧電性を示すポリ乳酸の高分子フィルムに、電圧Vを印加したときのずりの発生の様子を示す図、(b)表裏に電極を備える圧電性ポリ乳酸の高分子フィルムに交流電圧を印加したとき、高分子フィルムに縦波(粗密波)が発生する様子を模式的に示す図、及び(c)図3(b)の点線Cの領域内で発生した表面波(擬似レイリー波)を模式的に示す図である。
【図4】(a)円筒体上端に発生する擬似レイリー波を模式的に示す図、及び(b)擬似レイリー波による移動の速さvが発生していることを示す図である。
【図5】(a)本発明の第2の実施形態に係るアクチュエータの全体構成の斜視図、(b)本発明の第2の実施形態に係るアクチュエータの全体構成の平面図、及び(c)本発明の第2の実施形態に係るアクチュエータの全体構成の正面図である。
【図6】(a)本発明の第3の実施形態に係るアクチュエータの全体構成の斜視図、及び(b)本発明の第3の実施形態に係る別のアクチュエータの全体構成の斜視図である。
【図7】従来のPZT管状モータの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施形態を説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
1.全体構成
図1は、本発明の第1の実施形態に係る回転アクチュエータ2の全体構成を示す図である。図1(a)は、第1の実施形態に係る回転アクチュエータ2の全体構成の斜視図であり、図1(b)は、第1の実施形態に係る回転アクチュエータ2を構成する円筒体4の斜視図であり、更に、図1(c)は、回転作用を受ける回転体6の平面図である。
【0016】
回転アクチュエータ2は円筒体4で構成される。円筒体4は、後で説明するように薄膜である高分子フィルムで構成されている。円筒の外側面全体には導電性の金属が薄く蒸着されて第1の電極が形成され、円筒の内側面全体にも導電性の金属が薄く蒸着されて第2の電極が形成されている。第1の電極と第2の電極は夫々、導線14a、14bにより交流電源8に接続されている。この構成により、円筒体4において、高分子フィルムに第1の電極と第2の電極により交流電圧が印加されることになる。
【0017】
円筒体4は、その一方の開口端12が水平面10に接し、かつ円筒体4が鉛直方向に起立するように水平面10に固定される。鉛直状に起立した円筒体4の他方の開口端には、回転力を受ける回転体6(図1(c)参照)が載置される。回転体6は、例えば、円形、半球形、球形形状を有することが好ましい。また、回転体6は、円筒体4の中心線と回転体6の中心点とが一致するように載置されると、より高い回転性能が得られる。
【0018】
図1(a)に示す回転アクチュエータ2において、交流電源8から所定の周波数の交流電圧を円筒体4に印加すると、円筒体4上端に載置された回転体6が回転する動作が確認できた。
【0019】
2.回転アクチュエータの製造方法
第1の実施形態の回転アクチュエータ2の製造方法について説明する。図2は、第1の実施形態に係る回転アクチュエータ2の円筒体4の製造方法を概略説明するための図である。回転アクチュエータ2の円筒体4の材料として、圧電性ポリ乳酸などからなる、ずり圧電性を有する薄膜である高分子フィルムを用いた(図2(a))。この高分子フィルム16は、厚さ35μmであり、円筒形に形成した際に高さ10cm及び直径1cmとなるような寸法を有する。
【0020】
高分子フィルム16の両主面に導電性の金属を薄く蒸着し、電極18a、18bを形成する(図2(b1)、(b2)参照)。図2(b1)は高分子フィルム16の一方の主面(外側面)に電極18aが形成された様子を示し、図2(b2)は高分子フィルム16の他方の主面(内側面)に電極18bが形成された様子を示す。このように、電極は高分子フィルム16の両主面上に形成される。高分子フィルム16の一方の主面の第1の電極18aには、交流電源8に接続するための第1の導線14aが接続され、高分子フィルム16の他方の主面の第2の電極18bには、交流電源8に接続するための第2の導線14bが接続される。
【0021】
電極が形成された高分子フィルム20は、図2(c)に示すように、円筒形状に成形され、円筒体4が形成される。
【0022】
なお、本願発明の発明者は、以上のようにして形成された円筒アクチュエータ(円筒体の高さ10cm、直径1cm、高分子フィルムの厚さ35μm)に対して、周波数5.25kHz、電圧350Vの交流電圧を印加すると、回転体が2.5Hzの回転動作を行なうことを確認している。
【0023】
3.動作原理
回転アクチュエータ2の動作原理を説明する。前述のように、高分子フィルム16の厚さは35μmであり、高さ(図3(a)におけるh)は10cmであり、幅(図3(b)におけるt)は円筒形状を形成したときに径が1cmとなるような長さであるとする。
【0024】
回転アクチュエータ2の回転力の発生は、円筒体4上端開口部に擬似的なレイリー波(pseudo-Rayleigh wave)(以下、擬似レイリー波と称する。)が発生することに起因すると考えられる。
【0025】
圧電性ポリ乳酸の高分子フィルム16に交流電圧を印加することにより、高分子フィルム16には、(1)圧電作用によるずり波が発生する。図3(a)は、表裏に電極を備える圧電性ポリ乳酸の高分子フィルム20に、電圧Vを印加したときのずり(shear)の発生の様子を示した図である。電圧Vの印加によりずり(変位)lが発生し、そのときのずり角(変位角)が「θ」である。ここで、印加される電圧が交流電圧であるならば、変位lはずり波となることが分かる。
【0026】
また、高分子フィルム16に交流電圧を印加することにより、高分子フィルム16には、さらに、(2)交流電圧の周波数に共振する縦波(定在波)が発生する。図3(b)は、両主面に電極を備える圧電性ポリ乳酸の高分子フィルム20に交流電圧を印加したときに、高分子フィルム20に縦波が発生する様子を模式的に示した図である。
【0027】
上記の(1)ずり波と(2)縦波との融合により、円筒体4上端開口部に微小なレイリー波が発生する。
【0028】
ここで本実施形態では、定在波の縦波に完全に共振する周波数(共振周波数)の交流電圧が印加されるのではなく、共振周波数から僅かにずれた周波数の交流電圧が印加される。
【0029】
印加される交流電圧の周波数が共振周波数である場合には、高分子フィルム20において完全な共振(縦波)が誘発され、この完全な共振の下にある縦波と上記ずり波との融合により、高分子フィルム20の端縁部にて、対称性を具備するレイリー波が発生すると考えられる。これに対して、印加される交流電圧が「共振周波数から僅かにずれた周波数」である場合には、高分子フィルム20において、完全な共振から僅かにずれた共振が誘発され、この完全な共振から僅かにずれた共振の下にある縦波と、上記ずり波との融合により、高分子フィルム20の端縁部にて、僅かに非対称的な擬似レイリー波が発生すると考えられる。結果として、この僅かに非対称的な擬似レイリー波により、高分子フィルム20の端縁部において、所定方向の駆動力(図4(b)参照)が生じると考えられる。言い換えれば、高分子フィルム20の端縁部において所定方向に駆動力を生じるように、共振周波数から僅かにずれた周波数の交流電圧が印加される。
【0030】
具体的には、本実施形態に係る高分子フィルム20に対して、共振周波数(fp)から正側に所定値(Δf)だけずれた周波数(fp+Δf)と、共振周波数(fp)から負側に所定値(Δf)だけずれた周波数(fp−Δf)の交流電圧を駆動電圧として印加する。どちらの駆動電圧を印加しても、擬似レイリー波が生じる。周波数「fp−Δf」の交流電圧の印加による駆動力の方向は、周波数「fp+Δf」の交流電圧の印加による駆動力の方向とは、逆の方向となる。これは、発生する擬似レイリー波の非対称性が、周波数「fp+Δf」の交流電圧を印加したときの擬似レイリー波の非対称性とは、逆になるからであると考えられる。従って、駆動周波数を「fp+Δf」と「fp−Δf」とで切り替えることにより、駆動力の方向を切り替えることができる。
【0031】
図3(c)は、図3(b)の点線Cの領域内で発生した擬似レイリー波を模式的に示している。図3(c)の矢印で示される擬似レイリー波は、円筒体4上端開口に載置される物体を図の左から右へ押しやるように、その物体に作用すると考えられる。つまり、この擬似レイリー波によって、円筒体4上端開口に置かれた回転体6が一定の角速度で回転すると考えられる。
【0032】
次に、擬似レイリー波の発生条件を検討する。
【0033】
3−1.縦波共振について
まず、縦波共振について説明する。高分子フィルムとして使用する圧電性ポリ乳酸は、例えば、以下のような物性を有する。
・密度ρ=1.14×10kg/m
・ヤング率Y=2.07GPa
このとき、縦波の速度vは、以下の数1のように求められる。
【0034】
【数1】

【0035】
半径1cmに対する円周(0.01m×2π)において、λ/2の(縦波の)定在波が発生すると、交流電源の周波数と、縦波とが共振することになる。なお、λは波長であり、この場合、λ=0.01m×2π×2=6.28cmとなる。ここで、v=λ×fである(fは周波数)であるから、以下の式(数2)が成り立つ。
【0036】
【数2】

【0037】
上記数2より、f≒10kHzとなる。従って、10kHzの周波数の交流電圧を印加すれば、回転アクチュエータ2の円筒体4に縦波共振が発生すると考えられる。
【0038】
3−2.ずり波について
次に、高分子フィルム16の圧電性により生じる「ずり波」について説明する。圧電性ポリ乳酸の高分子フィルム16は、例えば、以下のような圧電率dを有する。
・圧電率d=10pC(ピコファラッド)/N(ニュートン)
【0039】
このとき、ずり角(変位角)θは、以下の数3のように表される。
【0040】
【数3】

なお、Eは電界の大きさである。印加される電圧が350Vであり、高分子フィルムの厚さ(即ち、電極間の距離)が35μmであるとすると、θの値は次の数4のようになる。
【0041】
【数4】

【0042】
図3(a)に示すように、変位l=h×θであるから、このときの変位lは次の数5のようになる。
【0043】
【数5】

【0044】
3−3.擬似レイリー波について
上記[3−1]及び[3−2]における、波長(λ)0.06m程度の共振する縦波と、変位10−5m程度のずり波との融合により、10kHz程度の周波数において、円筒体4上端開口にレイリー波が発生すると考えられる。前述のように、このレイリー波は擬似レイリー波である。図4(a)は、円筒体4上端開口に発生する擬似レイリー波を模式的に示した図である。
【0045】
今、10kHzの交流電圧が印加されており、ずり波の変位lが10−5mであることから、擬似レイリー波による移動の速さvは次の数6のようになる。
【0046】
【数6】

【0047】
図4(b)は、擬似レイリー波による移動の速さvが発生している様子を示した図である。
【0048】
なお、擬似レイリー波による移動の速さvが、円筒体4上端を1周するのに要する時間(即ち、周期)は、以下の数7で求められ、単位時間当たりの回転数は以下の数8で求められる。
【0049】
【数7】

【0050】
【数8】

【0051】
3−4.まとめ
以上のように、交流電圧印加のための電極である金属が蒸着された高分子フィルム20が円筒体4を構成する、第1の実施形態に係るアクチュエータ2は、円筒体4上端に載置された回転体6を回転させる回転力源となり得る。
【0052】
[第2の実施形態]
2.1.第2の実施形態の構成
本発明に係るアクチュエータの形態は、上述の第1の実施形態のものに限定されない。すなわち、第1の実施形態で示した、電極のための金属が蒸着された高分子フィルム20は、例えば、平板状のままで利用することもできる。図5は、電極のための金属が蒸着された平板状の高分子フィルム20’で構成される、本発明の第2の実施形態に係るアクチュエータ2’を示している。
【0053】
図5(a)には、駆動対象として、中心軸Pを中心にして円滑に回転する直径10cm程度の回転盤30が示されている。図5(b)は、図5(a)の高分子フィルム20及び回転盤30を上から見た平面図である。図5(c)は、図5(a)の高分子フィルム20及び回転盤30を側面から見た様子を示す図である。図5(a)に示すように、回転盤30の円周端部付近において、平板状の、電極のための金属が蒸着された高分子フィルム20’が、回転盤30と一点Aで接触している(図5(c)参照)。平板状の高分子フィルム20’は、図5(a)及び図5(b)に示すように、平板部分が回転盤30平面と直交するように、且つ、回転盤30の円周の接線方向を向くように、載置されている。高分子フィルム20’平面と直交する回転盤30の半径上に、高分子フィルム20’と回転盤30とが接触する点Aが設けられる。
【0054】
2.2.第2の実施形態のアクチュエータの動作
図5に示すアクチュエータ2’、即ち、高分子フィルム20’に対して、第1の実施形態と同様に、導線14a、14bを介して共振周波数から僅かにずれた周波数の交流電圧を印加すると、高分子フィルム20’の下端縁には擬似レイリー波が発生する。上述の第1の実施形態で説明したように、この擬似レイリー波は駆動力を備える。この駆動力は点Aを介して回転盤30に伝播し、回転盤30はこの駆動力により回転動作を行う。
【0055】
また、第1の実施形態と同様に、第2の実施形態に係るアクチュエータ2’においても、印加する交流電圧に関して、駆動周波数を「fp+Δf」と「fp−Δf」とで切り替えることにより、高分子フィルム20’の駆動力の方向を切り替えることができる。
【0056】
2.3.まとめ
このように、交流電圧印加のための電極である金属が蒸着された高分子フィルム20’が平板状である、第2の実施形態に係るアクチュエータ2’は、回転盤30を回転させる駆動力源ともなり得る。なお、本願発明の発明者は、長さ5cm幅2cm程度の高分子フィルム20’によって、300g程度の回転盤30において600〜700rpm(回転/分)の回転を実現している。本実施形態のアクチュエータ2’は、例えば、ハードディスクにおける回転盤に応用できる。
【0057】
[第3の実施形態]
3.1.第3の実施形態の構成
上述の第2の実施形態のアクチュエータ2’では、平板状の高分子フィルム20’の一点を力の作用点として利用した。本実施形態では。平板状の高分子フィルムの一辺全体を力の作用点として利用する構成を説明する。図6に、本発明の第3の実施形態に係るアクチュエータ2”を示す。
【0058】
図6(a)は、電極のための金属が蒸着された高分子フィルム20”が、鉛直方向に立てられている様子を示している。すなわち、高分子フィルム20”は、一方の長辺を下にして直線状に配置されている。なお、図6(b)に示すように、高分子フィルム20”は、直線ではなく波状に曲げられて配置されてもよい。
【0059】
図6(a)(b)に示すアクチュエータ2”においては、上端縁の長辺上に移動体40a、40bが載置される。移動体40a、40bは、高分子フィルム20”の上端縁の長辺に載置される程度の軽量のものであり、例えば、紙や軽量プラスチックで形成されている。図6(a)(b)に示す移動体40a、40bは、高分子フィルム20”の上端縁の長辺上でバランスを取るため、中央で折り曲げられ端部は均等に下げられている。
【0060】
3.2.第3の実施形態のアクチュエータの動作
図6に示す第3の実施形態に係る高分子フィルム20”に対して、第1の実施形態と同様に、導線14a、14bを介して、共振周波数から僅かにずれた周波数の交流電圧を印加すると、高分子フィルム20”の上端縁には擬似レイリー波が発生する。上述の第1の実施形態で説明したように、この擬似レイリー波は駆動力を備える。この駆動力は高分子フィルム20”の上端縁と移動体40a、40bとの接触部を介して移動体40a、40bに伝播し、移動体40a、40bはこの駆動力により直進動作を行う。
【0061】
また、第1及び第2の実施形態と同様に、第3の実施形態に係るアクチュエータ2”においても、印加する交流電圧に関して、駆動周波数を「fp+Δf」と「fp−Δf」とで切り替えることにより、高分子フィルム20”の駆動力の方向を切り替えることができる。つまり、駆動周波数を「fp+Δf」と「fp−Δf」とで切り替えることで、移動体40a、40bの直進方向を切り替えることができる。
【0062】
従って、移動体40aと移動体40bとは、常に一定の間隔を保ちつつ高分子フィルム20”の上端縁の長辺上で直進動作を行い、印加する交流電圧に関して駆動周波数を「fp+Δf」と「fp−Δf」とで切り替えられれば、やはり一定の間隔を保ちつつ逆の方向に直進動作を行う。
【0063】
3.3.まとめ
このように、交流電圧印加のための電極である金属が蒸着された高分子フィルム20”が平板状である、第3の実施形態に係るアクチュエータ2”は、上端縁の長辺上に載置された移動体40a、40bを、上端縁の長辺上で直進させる駆動力源ともなり得る。
【0064】
[その他の実施形態]
更に、本発明の思想は、上述の第1乃至第3の実施形態の内容に限定されるものではない。第1乃至第3の実施形態では、高分子フィルムをポリ乳酸で形成したが、本発明に係るアクチュエータは、他のずり圧電性高分子フィルム、例えばポリフッ化ビニリデンやその共重合体などで形成してもよい。すなわち、圧電により直接あるいは間接を問わずずり(shear)を生じる材料であればよい。また更に、圧電により“ずり(shear)”を生じる材料であれば、高分子フィルムに限定されず、セラミック等の他の材料でアクチュエータを形成してもよい。
【0065】
第1の実施形態では、円筒体4の横断面は円形であったが、例えば、横断面は楕円形でもよい。また、複数の円筒体を同心状に配置して回転アクチュエータを構成してもよい。このとき、円筒体は、二重に、三重に、若しくはそれ以上に多重に構成されることになる。
【0066】
表裏に電極を備える圧電性ポリ乳酸の高分子フィルム20を複数枚立てて、それらを適宜配置することによって、アクチュエータが構成されてもよい。このときのアクチュエータは、複数枚の高分子フィルムの上端縁に置かれた移動体を、様々な方向に移動させ得るものとなる。
【0067】
また、第1乃至第3の実施形態に示した高分子フィルム16の厚さ、高さ、幅などの寸法も一例であり、これらの値は第1乃至第3の実施形態に示した値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0068】
2・・・回転アクチュエータ、2’、2”・・・アクチュエータ、4・・・円筒体、6・・・回転体、8・・・交流電源、10・・・水平面、14a、14b・・・導線、16・・・高分子フィルム、18a・・・第1の電極、18b・・・第2の電極、20、20’、20”・・・電極のための金属が蒸着された高分子フィルム、30・・・回転盤、40a、40b・・・移動体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ずり圧電性材料で構成された薄膜と、
前記薄膜の第1の主面に形成された第1の電極と、
前記薄膜の第2の主面に形成された第2の電極を備え、
前記第1の電極と前記第2の電極間に所定の交流電圧を印加することで前記薄膜の少なくとも一の端縁部において駆動力を発生させる
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記薄膜が高分子フィルムで形成されることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記ずり圧電性材料は圧電性ポリ乳酸材料であることを特徴とする請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記薄膜を円筒状に形成し、
前記第1の電極と前記第2の電極間に所定の交流電圧が印加されたときに、前記円筒体の一の開口端において回転力が発生する
ことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
アクチュエータの一点において移動体と接触させ、その接触点において、前記第1の電極と前記第2の電極間に所定の交流電圧が印加されたときに前記移動体を回転させるための駆動力を発生する、
請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
直線状に配置されたアクチュエータの一辺上において移動体が配置され、前記第1の電極と前記第2の電極間に所定の交流電圧が印加されたときに前記移動体を前記一辺に沿って移動させるための駆動力を発生する
請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
ずり圧電性材料で構成された薄膜と、前記薄膜の第1の主面に形成された第1の電極と、前記薄膜の第2の主面に形成された第2の電極とを備えたアクチュエータの駆動方法であって、
前記第1の電極と前記第2の電極間に所定の交流電圧を印加して、前記薄膜の少なくとも一の端縁部において駆動力を発生させ、
前記所定の交流電圧は、前記薄膜に発生する縦波の定在波の共振周波数から所定値だけずれた周波数である
ことを特徴とする駆動方法。
【請求項8】
前記所定の交流電圧の周波数を、前記共振周波数から正側に所定値だけずれた第1の駆動周波数と、前記共振周波数から負側に所定値だけずれた第2の駆動周波数との間で切り替えることにより、前記駆動力の方向を切り替える
ことを特徴とする請求項7に記載の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−157235(P2012−157235A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199650(P2011−199650)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】