説明

アクティブリアクトル

【課題】 直流電源装置における電源電圧の変更や電流制御による電源電圧の変動があった場合でも、直流電源装置の出力端にリアクトルを実際に設置した場合と同等の電流・電圧特性を有する仮想リアクトルを確実に形成することができ、直流電源装置における電源電圧の変更や電流制御による電源電圧の変動に容易に対応する。
【解決手段】 電圧指令値と電圧検出値との比較により得られた差分を積分する積分器13と、その積分器13からの出力値を仮想インダクタンス値で除算する除算器14と、その除算器14から出力される電流指令値と電流検出値との比較により得られた差分を増幅する増幅器15とを備え、その増幅器15からの出力値を電流制御部11の出力値に加算することにより、仮想インダクタンス値と同一のインダクタンス値を持つリアクトルと同等の電流・電圧特性を有するアクティブリアクトル12であって、電流制御部11の出力値を電圧指令値に変換する電圧変換器17を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば直流電源装置などの各種制御装置に組み込まれ、その制御装置の出力端にリアクトルを実際に設置することなく、そのリアクトルと同等の電流・電圧特性を擬似的に再現するようにしたアクティブリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、短絡アーク溶接に使用する溶接電源装置の出力制御方法として、短絡期間およびアーク期間の出力電流の変化や、アーク負荷の変動に伴う出力電流の変化率を適正化するために、実際のリアクトルと等価な作用を電子的に形成する電子リアクトル制御、つまり、実際のリアクトルと同等の電流・電圧特性を擬似的に再現するようにしたアクティブリアクトルが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
例えば、特許文献1のように、負荷電流を検出し、その検出値を微分した値に仮想インダクタンス値を乗算した値を電圧設定値から減算して電圧制御の目標値を補正することで、電源装置の出力端にリアクトルを実際に設置した場合と同等の電流・電圧特性を有するリアクトルを電子的に形成したアクティブリアクトルがある。
【0004】
一方、下記の(1)式で示すように、負荷電圧の検出値Vを積分した値を仮想インダクタンス値Lで除算することで仮想リアクトル電流の目標値Iを得て、その目標値Iから負荷電流の検出値を減算することにより、電源出力の補正量を得るようにしたアクティブリアクトルもある。
【数1】

【0005】
この種のアクティブリアクトルを直流電源装置に適用した場合、下記の(2)式で示すように、積分器の入力値が直流であることから積分器が発散してしまうため、予め定めた電源出力の電圧指令値Eから負荷電圧の検出値Vを減算した値を積分器に入力し、その積分値を仮想インダクタンス値で除算することで仮想リアクトル電流の目標値Iを得るようにしている。
【数2】

【0006】
図4は、例えば、直流電源装置の電流制御部1に組み込まれたアクティブリアクトル2の具体的回路構成を例示する。
【0007】
この直流電源装置の電流制御部1では、電源出力の電流指令値と負荷電流の検出値との差分を増幅器6により増幅する。これにより、電流制御部1では、負荷電流を電流指令値に一致させる電流制御が行われる。
【0008】
一方、アクティブリアクトル2では、電源出力の電圧指令値と負荷電圧の検出値との差分を積分器3で積分し、その積分値を除算器4により仮想インダクタンス値で除算することにより、仮想リアクトル電流の目標値を得る。この仮想リアクトル電流の目標値から負荷電流の検出値を減算し、その差分を増幅器5により増幅した値を電流制御部2の出力値に加算することにより、電源電圧の指令値としている。
【0009】
以上の回路構成により、直流電源装置の出力端にリアクトルを実際に設置した場合と同等の電流・電圧特性を有するリアクトルを電子的に形成したアクティブリアクトル2を実現している。
【特許文献1】特開2004−114098号公報
【特許文献2】特開2007−21560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来のアクティブリアクトル2では、電圧指令値が予め設定された固定値であるため、直流電源装置における電源電圧の変更、例えば100Vから200Vへの変更などにより電圧指令値を変更する必要がある場合に、アクティブリアクトル2による仮想インダクタンスの精度が低下し、直流電源装置の出力端にリアクトルを実際に設置した場合と仮想リアクトルの電流・電圧特性に違いが生じることが想定される。このように直流電源装置における電源電圧の変更があった場合、従来のアクティブリアクトル2ではその変更に対応することが困難であった。
【0011】
また、直流電源装置は電流制御されていることから、その電流制御による電源電圧の変動により、アクティブリアクトル2による仮想インダクタンスの精度が低下し、直流電源装置の出力端にリアクトルを実際に設置した場合と仮想リアクトルの電流・電圧特性に違いが生じることが想定される。このように電流制御による電源電圧の変動に対しても、従来のアクティブリアクトル2ではその変動に対応することが困難であった。
【0012】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、直流電源装置における電源電圧の変更や電流制御による電源電圧の変動があった場合でも、直流電源装置の出力端にリアクトルを実際に設置した場合と同等の電流・電圧特性を有する仮想リアクトルを確実に形成することができ、直流電源装置における電源電圧の変更や電流制御による電源電圧の変動に容易に対応し得るアクティブリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、電圧指令値と電圧検出値との比較により得られた差分を積分する積分器と、その積分器からの出力値を仮想インダクタンス値で除算する除算器と、その除算器から出力される電流指令値と電流検出値との比較により得られた差分を増幅する増幅器とを備え、その増幅器からの出力値を制御部の出力値に加算することにより、仮想インダクタンス値と同一のインダクタンス値を持つリアクトルと同等の電流・電圧特性を有するアクティブリアクトルであって、制御部の出力値を前述の電圧指令値に変換する電圧変換器を設けたことを特徴とする。
【0014】
このアクティブリアクトルは、例えば直流電源装置に組み込まれて使用され、その直流電源装置を構成する直流交流変換器の電流制御部、例えば、電流指令値と電流検出値との比較により得られた差分を増幅する増幅器を備えた電流制御部に組み込まれる。
【0015】
本発明のアクティブリアクトルでは、制御部の出力値を電圧指令値に変換する電圧変換器を設けたことにより、制御部の出力値を変換した電圧指令値がその制御部の出力値に追従することになるため、例えば、直流電源装置における電源電圧の変更や電流制御による電源電圧の変動があった場合でも、直流電源装置の出力端にリアクトルを実際に設置した場合と同等の電流・電圧特性を有する仮想リアクトルを確実に形成することができ、直流電源装置における電源電圧の変更や電流制御による電源電圧の変動に容易に対応できる。
【0016】
また、本発明では、前述の積分器と除算器との間に、積分器での積分処理を飽和させるリミッタを挿入接続した構成とすることが望ましい。このアクティブリアクトルにおける積分器はその入力が零にならない限り常に積分するため、積分値が増大した場合にワインドアップが生じ、アクティブリアクトルの応答が遅くなる。そこで、前述したように積分器での積分処理を飽和させるリミッタを積分器の出力側に設けることにより、積分値が増大した場合であっても積分器のワインドアップ発生を抑制し、アクティブリアクトルの応答遅れを未然に防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、制御部の出力値を電圧指令値に変換する電圧変換器を設けたことにより、制御部の出力値を変換した電圧指令値がその制御部の出力値に追従することになるため、例えば、直流電源装置における電源電圧の変更や電流制御による電源電圧の変動があった場合でも、直流電源装置の出力端にリアクトルを実際に設置した場合と同等の電流・電圧特性を有する仮想リアクトルを確実に形成することができ、直流電源装置における電源電圧の変更や電流制御による電源電圧の変動に容易に対応できる。
【0018】
その結果、リアクトル削減による装置の小型化、軽量化および低コスト化に伴って、直流電源装置における電源電圧の変更や電流制御による電源電圧の変動に容易に対応し得る高信頼性および高精度のアクティブリアクトルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係るアクティブリアクトルの実施形態を以下に詳述する。なお、図1は本発明における第一の実施形態、図2は本発明における第二の実施形態、図3は第一および第二の実施形態におけるアクティブリアクトルが組み込まれる直流電源装置を例示する。
【0020】
図3に示す直流電源装置21は、交流電源22と負荷23との間に設置され、交流電圧を直流電圧に変換し、その直流電圧を負荷23に供給するものであり、入力側整流器24、直流交流変換器25、変圧器26、出力側整流器27とで回路構成されている。この直流電源装置21は、直流交流変換器25での電流制御により、交流電圧に対して直流電圧を出力するようにしている。
【0021】
この直流電源装置21では、交流電源22から入力側整流器24を介して直流電圧を生成し、直流交流変換器25の半導体スイッチによるスイッチングにより直流電圧を交流電圧に変換する。この交流電圧は変圧器26の一次側に印加され、二次側に降圧された交流電圧を得る。この交流電圧を出力側整流器27により直流電圧に整流して平滑した上で、その直流電圧を電源出力端に接続された負荷23に供給するようにしている。
【0022】
図1は本発明の第一の実施形態で、直流電源装置21を構成する直流交流変換器25の電流制御部11に組み込まれたアクティブリアクトル12を示す。直流交流変換器25の電流制御部11は、電流出力の電流指令値と電流検出値との比較により得られた差分を増幅する増幅器16を備えている。
【0023】
このアクティブリアクトル12は、電源出力の電圧指令値と電圧検出値との比較により得られた差分を積分する積分器13と、その積分器13からの出力値を仮想インダクタンス値で除算する除算器14と、その除算器14から出力される電流指令値と電流制御部11からの電流検出値との比較により得られた差分を増幅する増幅器15とを備え、電流制御部11の増幅器16の出力値を電圧指令値に変換する電圧変換器17を設けている。
【0024】
この直流電源装置21の電流制御部11では、電源出力の電流指令値と負荷電流の検出値との差分を増幅器16により増幅する。これにより、電流制御部11では、負荷電流を電流指令値に一致させる電流制御が行われる。
【0025】
一方、アクティブリアクトル12では、電源出力の電圧指令値と負荷電圧の検出値との差分を積分器13で積分し、その積分値を除算器14により仮想インダクタンス値で除算することにより、仮想リアクトル電流の目標値を得る。この仮想リアクトル電流の目標値から負荷電流の検出値を減算し、その差分を増幅器15により増幅した値を電流制御部12の出力値に加算することにより、電源電圧の指令値としている。
【0026】
以上の回路構成により、仮想インダクタンス値と同一のインダクタンス値を持つリアクトルを直流電源装置21の出力端に実際に設置した場合と同等の電流・電圧特性を有するリアクトルを電子的に形成したアクティブリアクトル12を実現している。このアクティブリアクトル12は、ハードウェアで回路構成する以外に、ソフトウェア(プログラム)によりその制御機能を実現することも可能である。
【0027】
第一の実施形態におけるアクティブリアクトル12では、電流制御部11の出力値を電圧変化器17により変換した値を電圧指令値としている。このように、電流制御部11の出力値を電圧指令値に変換する電圧変換器17を設けたことにより、電流制御部11の出力値を変換した電圧指令値がその電流制御部11の出力値に追従することになるため、直流電源装置21における電源電圧の変更や電流制御による電源電圧の変動があった場合でも、直流電源装置21の出力端にリアクトルを実際に設置した場合と同等の電流・電圧特性を有する仮想リアクトルを確実に形成することができ、直流電源装置21における電源電圧の変更や電流制御による電源電圧の変動に容易に対応できる。
【0028】
図2は第二の実施形態におけるアクティブリアクトル12で、積分器13と除算器14との間に、積分器13での積分処理を飽和させるリミッタ18を挿入接続した構成を具備する。なお、図1に示す第一の実施形態と同一または相当部分には同一参照符号を付して重複説明は省略する。
【0029】
このアクティブリアクトル12における積分器13はその入力が零にならない限り常に積分するため、積分値が増大した場合にその積分値の増大に制限がかからずにワインドアップが生じ、アクティブリアクトル12の応答が遅くなる可能性がある。これは、アクティブリアクトル12を、マイコン・DSP等を用いてソフトウェア(プログラム)によりその制御機能を実現したデジタル制御回路に実装した場合に顕著である。
【0030】
そこで、この第二の実施形態では、積分器13と除算器14との間に、積分器13での積分処理を飽和させるリミッタ18を挿入接続した構成としている。このように、積分器13での積分処理を飽和させるリミッタ18を積分器13の出力側に設けることにより、積分値が増大した場合であってもその積分値の増大に制限を加えることができることから積分器13のワインドアップ発生を抑制し、アクティブリアクトル12の応答遅れを未然に防止できる。
【0031】
なお、以上で説明した実施形態では、アクティブリアクトルを直流電源装置に組み込んだ場合を例示したが、本発明はこれに限定されることなく、直流電源装置以外の他の各種制御装置、つまり、制御装置の出力端にリアクトルを実際に設置する場合にアクティブリアクトルを組み込みことが可能である。
【0032】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第一の実施形態で、直流電源装置の電流制御部に組み込まれたアクティブリアクトルの概略構成を示す回路図である。
【図2】本発明の第二の実施形態で、直流電源装置の電流制御部に組み込まれたリミッタ付きアクティブリアクトルの概略構成を示す回路図である。
【図3】第一および第二の実施形態におけるアクティブリアクトルを組み込んだ直流電源装置の概略構成を示す回路図である。
【図4】従来のアクティブリアクトルの概略構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0034】
11 制御部(電流制御部)
12 アクティブリアクトル
13 積分器
14 除算器
15 増幅器
17 電圧変換器
18 リミッタ
21 直流電源装置
25 直流交流変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧指令値と電圧検出値との比較により得られた差分を積分する積分器と、その積分器からの出力値を仮想インダクタンス値で除算する除算器と、その除算器から出力される電流指令値と電流検出値との比較により得られた差分を増幅する増幅器とを備え、その増幅器からの出力値を制御部の出力値に加算することにより、仮想インダクタンス値と同一のインダクタンス値を持つリアクトルと同等の電流・電圧特性を有するアクティブリアクトルであって、前記制御部の出力値を前記電圧指令値に変換する電圧変換器を設けたことを特徴とするアクティブリアクトル。
【請求項2】
前記積分器と除算器との間に、積分器での積分処理を飽和させるリミッタを挿入接続した請求項1に記載のアクティブリアクトル。
【請求項3】
前記制御部は、電流指令値と電流検出値との比較により得られた差分を増幅する増幅器を備えた電流制御部である請求項1又は2に記載のアクティブリアクトル。
【請求項4】
前記制御部は、直流電源装置を構成する直流交流変換器の電流制御部である請求項1〜3のいずれか一項に記載のアクティブリアクトル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−261152(P2009−261152A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107936(P2008−107936)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】