説明

アクティブ4ゲージ法を用いた測定装置の校正方法および測定装置並びに材料試験機

【課題】アクティブ4ゲージ法に基づく測定装置において、ブリッジの不平衡状態の大きさにかかわらず、より正確な電気的校正を行うことのできる方法と装置、およびこれらを用いた材料試験機を提供する。
【解決手段】ゼロ調整状態で実負荷を用いた校正を行った後、固定抵抗RcをブリッジBに接続したときの表示値FA と、抵抗Rcを除去してゼロ調整を解除したときの表示値FB から、ブリッジBの初期不平衡がない場合に固定抵抗Rcを接続したときの表示値FC を演算により求め、電気的校正に際しては、ゼロ調整状態で固定抵抗Rcを接続したときの表示値がFC となるようにゲイン調整の後、抵抗Rcを取り外してゼロ調整を解除したときの表示値FD と上記値FC とから、初期不平衡がない場合に抵抗Rcを接続したときに表示されるべき値FE を算出し、ゼロ調整状態で抵抗Rcを接続したときの表示値がFE となるようにゲイン調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置の校正方法と、その方法を利用した測定装置、並びにこのような測定装置を備えた材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば材料試験機で用いられるロードセルや伸び計においては、アクティブ4ゲージ法に基づく測定法が採用されている。この測定法は、被測定物理量の作用により変形する起歪体等と称される部材に4個の歪ゲージを貼着するとともに、これらの4個の歪ゲージでブリッジを形成し、被測定物理量の作用による起歪体の変形に伴うブリッジ出力の変化から、その物理量の大きさを測定する。
【0003】
このようなロードセルや伸び計等を検出手段として備えた測定装置や、あるいはロードセルおよび/または伸び計を備えた材料試験機においては、通常、これらのロードセルや伸び計の出力を増幅する増幅手段のゲインを電気的に校正する機能を有している。
【0004】
すなわち、4つの歪ゲージで構成したブリッジの1辺に、校正用の固定抵抗をスイッチを介して選択的に並列接続できるように構成し、その固定抵抗を接続したときの出力変化を、仮想的な被測定物理量の負荷として、表示値があらかじめ設定されている値となるように増幅手段のゲインを調整することで、校正を実行するようにしている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−78560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、固定抵抗をブリッジに挿入することによって仮想的な負荷を作り出す従来の電気的校正においては、その固定抵抗の値が変化しなくても、ブリッジの初期状態が変化すると、固定抵抗により作られた仮想的な負荷の値も変化してしまう。その結果、電気的な校正作業で導き出されたゲインの値はブリッジの初期状態に依存し、このような電気的校正による結果は常に正しいとは限らないという問題がある。
【0007】
すなわち、図5に回路図を示すように、4つの歪ゲージS1〜S4で構成したブリッジBを備えた材料試験機用のロードセルについて考察すると、ブリッジBを構成する4つの歪ゲージのうちの1つの歪ゲージS1に対し、測定回路側でスイッチSWを介して固定抵抗Rcを並列接続可能としている。各歪ゲージS1〜S4の抵抗値は、完全な無負荷状態ではそれぞれRと互いに等しいものとし、例えばこのロードセルに対して掴み具が装着されることにより、その重量による歪により、歪ゲージS1とS4がR−drに、歪ゲージS2とS3がR+drに変化し、初期状態が不平衡となる。
【0008】
このような不平衡状態で、スイッチSWが開いていて、校正用の固定抵抗Rcが挿入されていない状態を考える。ブリッジ電圧をVB 、ブリッジの左右の電圧をそれぞれV1 ,V2 とすると、
【0009】
【数1】

より、ブリッジの出力電圧VOAは、
【0010】
【数2】

である。
【0011】
次に、スイッチSWが閉じられて、固定抵抗Rcが挿入されている状態では、
【数3】

となるが、R2 ≫dr2 であるので、(3)式は、
【0012】
【数4】

として問題ない。従ってブリッジの出力電圧VOBは、
【0013】
【数5】

となる。(2)式と(5)式より、校正用の固定抵抗Rcを接続したことによる出力電圧の変化分VOCは、
【0014】
【数6】

となり、ブリッジの初期不平衡分drの関数となる。
【0015】
例えばVB =10V、R=350Ω、Rc=58.2Ω、dr=±0.525Ω(ロードセル定格の±100%)としたとき、(6)式のグラフは図6に示す通りとなり、ブリッジの初期不平衡の大きさdrに依存することが分かる。
【0016】
固定抵抗Rcを用いた電気的校正は、材料試験機のロードセルにあっては、治具を装着した状態でゼロ調整を行ったうえで、固定抵抗を接続して、そのときの表示値が規定値となるようにゲインを調整することで行われ、従って、ブリッジが不平衡状態にあるときに行われる。また、材料試験機の伸び計においても、通常、試験片の標線等に接触させるレバーの位置が完全な平衡状態となる位置で電気的校正が行われることはなく、ブリッジが不平衡状態にあるときに、ゼロ調整を行ったうえで行われる。従って、材料試験機のロードセルや伸び計の電気的校正は、実際には図6に例示したように初期の不平衡状態に起因して、厳密には正確ではない。
【0017】
本発明のこのような実情に鑑みてなされたもので、アクティブ4ゲージ法に基づく測定装置において、ブリッジの不平衡状態の大きさにかかわらず、より正確な電気的校正を行うことのできる方法と、その方法を利用した測定装置、および、そのような測定装置を備えた材料試験機の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するため、本発明のアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置の校正方法は、被測定物理量の変化により変形する部材に4枚の歪ゲージを貼り付けるとともに、その4枚の歪ゲージでブリッジを形成してなるアクティブ4ゲージ法に基づく検出器と、その検出器のブリッジ電圧を増幅手段により増幅して被測定物理量の測定値として表示する測定装置で、かつ、測定値の表示をゼロにするゼロ調整機能と、そのゼロ調整状態で上記ブリッジの一辺にスイッチを介して電気的校正用の固定抵抗を並列接続する電気的校正機能を備えたアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置を校正する方法であって、上記ブリッジが不平衡状態にあるときにゼロ調整し、その状態で既知の大きさの実際の被測定物理量を検出器に負荷し、そのときの測定値の表示が当該既知の大きさとなるように上記増幅手段のゲインを調整した後、負荷を除去し、次いで上記固定抵抗を接続したときの表示値FA と、その固定抵抗を切り離してゼロ調整を解除したときの表示値FB を用いて、上記ブリッジの平衡状態で上記固定抵抗を接続したときに表示されるべき測定値FC を計算により求めて記憶しておき、当該測定装置の使用に際して、上記ブリッジが任意の不平衡状態にあるときにゼロ調整した後、上記固定抵抗を接続し、そのときの表示値が上記記憶手段に記憶している値FC と一致するようにゲイン調整し、次に、上記固定抵抗を切り離してゼロ調整を解除したときの測定表示値FD を読み取り、その値FD と、記憶している値FC 、および上記歪ゲージの抵抗値および上記固定抵抗の抵抗値を用いて、使用に際しての上記ブリッジの不平衡状態でゼロ調整して上記固定抵抗が接続されたときに表示されるべき測定値FE を算出し、ゼロ調整を行って上記固定抵抗を接続したときの表示値が上記値FE に一致するようにゲイン調整を行うことによって特徴づけられる(請求項1)。
【0019】
ここで、本発明のアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置の校正方法においては、上記値FD の算出の具体的方法として、上記歪ゲージの抵抗値をR、電気的校正用の固定抵抗の抵抗値をRC としたとき、
【0020】
【数7】

で算出する方法(請求項2)を採用することができる。
【0021】
一方、本発明のアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置は、前記した本発明の校正方法を利用した測定装置であり、被測定物理量の変化により変形する部材に4枚の歪ゲージを貼り付けるとともに、その4枚の歪ゲージでブリッジを形成してなるアクティブ4ゲージ法に基づく検出器と、その検出器のブリッジ電圧を増幅して被測定物量の測定値とする増幅手段と、その測定値を表示する表示器と、その表示器による表示値をゼロにするゼロ調整手段と、そのゼロ調整状態で上記ブリッジの一辺にスイッチを介して電気的校正用の固定抵抗を並列接続したときの表示値が記憶手段の記憶内容に基づく値となるように上記増幅手段のゲインを調整する電気的校正手段を備えた測定装置において、上記記憶手段は、上記ブリッジが平衡状態にあるときに上記固定抵抗を接続したときに表示されるべき測定値FC を記憶しているとともに、当該測定装置の使用に際して、上記ブリッジが任意の不平衡状態にあるときにゼロ調整した後、上記電気的校正手段を動作させて上記固定抵抗を接続したとき、当該電気的校正手段は、上記表示器の表示値が上記記憶手段に記憶されている値FC となるように上記増幅手段のゲイン調整を行った後、上記固定抵抗を切り離してゼロ調整を解除したときの測定値FD を読み取って記憶し、その値FD と上記値FC 、および上記歪ゲージの抵抗値並びに固定抵抗の抵抗値を用いて、使用に際しての上記ブリッジの不平衡状態でゼロ調整して上記固定抵抗値が接続されたときに表示されるべき値FE を算出し、続いてゼロ調整を行って上記固定抵抗を接続したときの表示値が上記値FE に一致するようにゲイン調整を行うことによって特徴づけられる(請求項3)。
【0022】
本発明のアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置においては、検出器をロードセルとし(請求項4)、あるいは伸び計とする(請求項5)ことができる。
【0023】
また、本発明の材料試験機は、請求項3のアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置を少なくとも1つ備えていること(請求項6)、具体的にはロードセルあるいは伸び計とその計測回路を備えていることを特徴としている。
【0024】
本発明は、電気的校正用の固定抵抗を接続することにより作り出す仮想的な負荷の大きさが、ブリッジの初期状態(不平衡の大きさ)に依存しないような手順で補正することにより、課題を解決しようとするものである。
【0025】
すなわち、本発明方法においては、まず、検出器のブリッジが不平衡状態にあるときにゼロ調整した状態で、大きさが既知の実負荷、つまり既知の大きさの実際の被測定物量を作用させ、そのときの測定値の表示が当該既知の大きさとなるように増幅手段のゲインを調整する。これにより、増幅手段のゲインが正しく調整された状態となる。
【0026】
次に、その実負荷を除去して電気的校正用の固定抵抗をブリッジに接続したときの表示値FA を読み取る。従来の方法であれば、そのときの表示値FA を記憶手段に記憶しておき、使用に際しての電気的校正動作において固定抵抗を接続したときの表示値が値FA に一致するようにゲイン調整する。
【0027】
本発明方法においては、この値FA ではなく、その時点における検出器の不平衡(例えば掴み具等の治具の装着による不平衡など)によるゼロ点のずれが無いかのように補正された値FC を求めて記憶する。この値FC は、上記の値FA と、固定抵抗を切り離してゼロ調整を解除したときの表示値FB を用いて以下のように算出することができる。
【0028】
すなわち、前記した(6)式までと同様に、各歪ゲージの抵抗値(無負荷状態)をR、図5に示したように初期不平衡による抵抗変化分を±dr、固定抵抗の抵抗値をRc、ブリッジ電圧をVB とし、実負荷により調整されたゲインをGF とすると、(2),(6)式より、
【0029】
【数8】

となる。(7)式において、ブリッジの初期不平衡がなかった、つまり、dr=0としたとき、電気的校正用の固定抵抗を接続すると、表示値FC は、
【0030】
【数9】

となるはずである。
【0031】
従って、抵抗値RおよびRcが判っていれば、上記したFA とFB を読み取ることにより、FC を算出することができ、この値FC を記憶しておく。
【0032】
以上の作業を、例えば装置の工場出荷時において実行しておくことにより、ユーザは以下に示す電気的校正機能を動作させることで、装置を使用するに際してブリッジが任意の不平衡状態であっても、その量に関わりなく常に正確な校正を実現することができる。
【0033】
すなわち、例えばロードセルにあっては、適宜の掴み具を装着する等によって、ブリッジが任意の不平衡状態にあるとき、ゼロ調整を行ったうえで電気的校正用の固定抵抗を接続し、そのときの表示値が記憶しているFC となるように増幅手段のゲインを調整する。この工程により、ブリッジの不平衡に基づく初期出力を無視したおおよそのゲインGE1が確定する。つまり、ここまでの過程で増幅手段には、
【0034】
【数10】

を満たすゲインGE1が設定される。
【0035】
次に、電気的校正用の固定抵抗を切り離し、更にゼロ調整を解除して表示値を読み取る。その値がFD であったとすると、(2)式より、
【0036】
【数11】

である。この値FD は、この時点におけるブリッジの不平衡量に対応する測定値と見なすことができる。
【0037】
次に、再びゼロ調整を行ったうえで電気的校正用の固定抵抗を接続する。前記した値FC は、本来、ブリッジの初期出力がゼロである場合に電気的校正用の固定抵抗を接続したときの表示値に相当するので、現時点のブリッジの初期出力(不平衡量)のもとに電気的校正用の固定抵抗を接続して正しいゲインGE2の調整を行うためには、その分の補正が必要である。
【0038】
(9)式および(10)式から、
【数12】

となる。
【0039】
従って、現時点におけるブリッジの初期出力(不平衡量)のもとに、ゼロ調整を行って電気的校正用の固定抵抗を接続したときの測定表示値が、
【数13】

となるようにゲインを調整することで、正しいゲインGE2が設定されることになる。
【0040】
ここで、(12)式において、FC は先の実負荷を用いた校正動作により読み取って記憶した値で、FD は上記の手順で読み取った値であり、Rは歪ゲージの抵抗値、RC は電気的校正用の固定抵抗の抵抗値であってそれぞれに既知であり、従ってFE は計算できる。このようにして設定されたゲインGE2は、ブリッジの初期出力(不平衡量)に依存しない正確なゲインとなる。
【0041】
請求項3に係る発明の測定装置は、工場出荷時等において前記したFC の値を記憶手段に記憶しておくものであり、電気的校正手段は、上記した手順のうち、ゼロ調整の後に電気的校正用の固定抵抗の接続によりゲインGE1の設定、固定抵抗の切り離しとゼロ調整の解除の後の前記した値FD の読み取り、(12)式の演算の実行によるFE の算出、再度の電気的校正用の固定抵抗の接続、その状態で測定表示値がFE となるようにゲインGE2を設定する動作を自動的に行う。請求項4に係る発明はロードセルを検出器とする測定装置、請求項5に係る発明は伸び計を検出器とする測定装置である。そして請求項6に係る発明の材料試験機は、これらの測定装置の少なくともいずれか一つを有することを特徴とし、ロードセルおよび/または伸び計の正確な電気的校正が可能となることから、正確な材料試験を行うことができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、ロードセルや伸び計等を検出器とするアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置における電気的校正を、検出器のブリッジ不平衡などに起因する初期出力に依存することなく、常に正確に行うことができる。ロードセルに適用した場合、特に治具の重さが相対的に大きくなる容量の小さいロードセルや、保証制度の高いロードセルではより確実な電気的校正を行うことができるようになり、本発明の適用による効果は大きいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるロードセルおよび伸び計の信号の流れを表すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるロードセルの実負荷を用いた校正動作の手順を表すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態におけるロードセルの電気的校正動作の手順を表すフローチャートである。
【図5】アクティブ4ゲージ法に基づくロードセルの電気的構成例を示す回路図である。
【図6】図5におけるVB =10V、R=350Ω、Rc=58.2Ω、dr=±0.525Ω(ロードセル定格の±100%)としたとき、(6)式を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明を材料試験機に適用した実施の形態の構成図である。
試験機本体1は、テーブル11上に2本のねじ棹12a,12bを鉛直の姿勢で回動自在に支持し、これらの各ねじ棹12a,12bに、クロスヘッド13の両端部に固定されているナット(図示せず)をねじ込んだ構造を有している。
【0045】
クロスヘッド13およびテーブル11には、互いに上下に対向するように一対の掴み具14a,14bが取り付けられており、これらの掴み具14a,14bに試験片Wの両端部が把持される。
【0046】
各ねじ棹12a,12bには、駆動源であるサーボモータ(図示略)の回転がウォーム減速機等の伝達機構(図示略)を介して伝達され、これによって各ねじ棹12a,12bが回転する。このねじ棹12a,12bの回転によってクロスヘッド13が上下動し、引張試験を行う場合には、クロスヘッド13を上昇させることによって、試験片Wに試験力(引張荷重)が負荷される。
【0047】
試験片Wに作用する試験力はロードセル15によって検出され、また、試験片Wの伸びは伸び計16によって検出される。その各検出出力は制御装置2に取り込まれる。ロードセル15および伸び計16は、それぞれ起歪体に4枚の歪ゲージを貼着したアクティブ4ゲージ法に基づく公知のものであり、その回路構成は図5に示したものと同じであって、この図5に示されるように、4枚の歪ゲージS1〜S4によりブリッジBを形成しており、ロードセル15にあっては、試験力の作用により起歪体が変形し、その変形によりブリッジBの出力が変化する。また、伸び計16にあっては、試験片Wの2つの標線に取り付けられる一対のレバーの開度の変化により起歪体が変形し、その変形によってブリッジBの出力が変化する。また、制御装置2の検出器(ロードセル15または伸び計16)の接続部分には、ブリッジBを構成する4枚の歪ゲージS1〜S4のうちの1枚の歪ゲージS1に、スイッチSWを介して電気的校正用の固定抵抗Rcを並列に接続する回路が設けられ、この回路にロードセル15ないしは伸び計16を接続することにより、図5に示した回路構成が形成される。
【0048】
制御装置2は、コンピュータとその周辺機器を主体として構成され、ロードセル15および伸び計16の出力は、図2にブロック図で示す流れで処理される。すなわち、ブリッジ31の出力はA−D変換器32でデジタル化された後、ゼロ調整処理33に供され、ゲイン調整(増幅)処理34が施された上で表示器35に試験力もしくは伸びの測定値として表示される。また、この測定値のうち、制御量として選択されているものは、あらかじめ設定されている目標値との比較に供され、その制御量の測定値が目標値と一致するようにサーボモータが制御される。
【0049】
制御装置2には、表示器に表示されている試験力もしくは伸びをゼロにするゼロ調整機能のためのプログラムのほか、以下に示す2つの校正のためのプログラムが書き込まれている。その一つは、実負荷を用いた校正のためのプログラムであり、他の一つは、電気的校正のためのプログラムであり、以下、これらのプログラムについて詳述する。
【0050】
まず、実負荷を用いた校正のためのプログラムを、ロードセル15の場合を例にとって図3に示すフローチャートを参照しつつ説明する。この実負荷を用いた校正は、例えば工場出荷時等、ユーザへの納品前に行われる。
【0051】
この実負荷を用いた校正動作においては、まず、ロードセル15に治具を取り付けた後、ゼロ調整機能を作動させ、表示値をゼロにする。次に、治具を介して重量既知の錘をロードセルに負荷し、表示値が錘の重量と一致するようにゲイン調整を行う。その後、錘を除去した後に、電気的校正用の固定抵抗RC を接続する。その状態での表示値FA を読み取った後、その固定抵抗RC を切り離したうえで、ゼロ調整を解除し、その状態での表示値FB を読み取る。次に、その読み取った値FB と、先に読み取った値FA を用いた前記した(8)式の演算により、ブリッジの初期不平衡がなかった場合に固定抵抗RC を接続したときに表示されるであろう値FC を求めて、記憶する。この値FC を記憶する場所は、ロードセル15と対になるキャリブレーションケーブル内のデジタルメモリである。ここで、(8)式で用いる係数RおよびRC は歪ゲージS1〜S4および固定抵抗の抵抗値であっていずれも既知であり、あらかじめ入力しておき、これらの係数R,RC についても、そのまま、あるいは(8)式で用いる係数の形、すなわちR/2(R+2RC )としてキャリブレーションケーブルに記憶する。
【0052】
次に、電気的校正のためのプログラムを、同じくロードセル15を例にとって図4に示すフローチャートを参照しつつ説明する。この電気的校正は随意に行われ、例えばユーザが実際の試験を行う前に実行される。
【0053】
この電気的校正動作においては、まず、ロードセル15に掴み具14a等の治具を取り付けた後、ゼロ調整機能を動作させ、治具の重さとロードセル15の初期不平衡によるゼロ点のずれを調整し、表示値をゼロにする。その状態で電気的校正用の固定抵抗RC を接続し、表示値がキャリブレーションケーブル内のデジタルメモリに記憶されている値FC と一致するようにゲインを調整する。ここまでで、おおよそのゲイン(ロードセル15の初期出力を無視したゲイン)が確定する。確定したゲインをGE1とすると、この状態は前記した式(9)を満たすゲインGE1である。
【0054】
次に、電気的校正用の固定抵抗RC を切り離し、更にゼロ調整を解除し、そのときの表示値FD を読み取る。この値FD は前記した(10)式に示されるように、ロードセル15に取り付けた治具の重さによるものを含むブリッジの初期不平衡量に相当する。
【0055】
この値FD と、キャリブレーションケーブル内のデジタルメモリに記憶している値FC 、つまりブリッジの初期不平衡がなかった場合に固定抵抗RC を接続したときに表示されるであろう値FC 、および前記したR,RC を用いた係数とを用いて、この電気的校正動作を行っている状態でのブリッジの初期不平衡のもとに固定抵抗RC を接続したときに表示されるべき値FE を、前記した式(12)により算出する。
【0056】
その後、再びゼロ調整を動作させて表示をゼロにしたうえで、電気的校正用の固定抵抗RC を接続し、表示値がFE となるようにゲイン調整を実行する。つまり、(12)式を満足するゲインGE2を設定する。
【0057】
以上の電気的校正動作により、ロードセル15の初期不平衡の大きさにかかわらず、常に正確なゲイン調整が行われることになる。
【0058】
ここで、以上の説明はロードセル15の校正について説明したが、伸び計16も全く同様の手順のもとに校正することができる。この伸び計16の場合、実変位を用いた校正は、試験片の2本の標線に装着される一対のレバーを治具に装着した状態でゼロ調整を行った後、レバー先端の装着部間の距離を既知の距離だけ変化させ、そのときの表示値がその既知の距離となるようにゲイン調整を行うことによって行われる。また、この実変位を用いた校正の後の手順は、上記の例で述べたロードセルの場合と全く同じであり、ブリッジの初期不平衡がない場合に電気的校正用の固定抵抗を接続したときに表示されるであろう値FC をキャリブレーションケーブル内のデジタルメモリに記憶しておく。そして、電気的校正の手順は、上記した例と全く同じである。
【符号の説明】
【0059】
1 試験機本体
11 テーブル
12a,12b ねじ棹
13 クロスヘッド
14a,14b 掴み具
15 ロードセル
16 伸び計
2 制御装置
S1〜S4 歪ゲージ
Rc 電気的校正用の固定抵抗
SW スイッチ
W 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物理量の変化により変形する部材に4枚の歪ゲージを貼り付けるとともに、その4枚の歪ゲージでブリッジを形成してなるアクティブ4ゲージ法に基づく検出器と、その検出器のブリッジ電圧を増幅手段により増幅して被測定物理量の測定値として表示する測定装置で、かつ、測定値の表示をゼロにするゼロ調整機能と、そのゼロ調整状態で上記ブリッジの一辺にスイッチを介して電気的校正用の固定抵抗を並列接続する電気的校正機能を備えたアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置を校正する方法であって、
上記ブリッジが不平衡状態にあるときにゼロ調整し、その状態で既知の大きさの実際の被測定物理量を検出器に負荷し、そのときの測定値の表示が当該既知の大きさとなるように上記増幅手段のゲインを調整した後、負荷を除去し、次いで上記固定抵抗を接続したときの表示値と、その固定抵抗を切り離してゼロ調整を解除したときの表示値を用いて、上記ブリッジの平衡状態で上記固定抵抗を接続したときに表示されるべき測定値FC を計算により求めて記憶しておき、
当該測定装置の使用に際して、上記ブリッジが任意の不平衡状態にあるときにゼロ調整した後、上記固定抵抗を接続し、そのときの表示値が上記記憶手段に記憶している値FC と一致するようにゲイン調整し、次に、上記固定抵抗を切り離してゼロ調整を解除したときの測定表示値FD を読み取り、その値FD と、記憶している値FC 、および上記歪ゲージの抵抗値および上記固定抵抗の抵抗値を用いて、使用に際しての上記ブリッジの不平衡状態でゼロ調整して上記固定抵抗が接続されたときに表示されるべき測定値FE を算出し、ゼロ調整を行って上記固定抵抗を接続したときの表示値が上記値FE に一致するようにゲイン調整を行うことを特徴とするアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置の校正方法。
【請求項2】
上記値FE は、上記歪ゲージの抵抗値をR、電気的校正用の固定抵抗の抵抗値をRcとしたとき、
【数1】

で算出することを特徴とする請求項1に記載のアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置の校正方法。
【請求項3】
被測定物理量の変化により変形する部材に4枚の歪ゲージを貼り付けるとともに、その4枚の歪ゲージでブリッジを形成してなるアクティブ4ゲージ法に基づく検出器と、その検出器のブリッジ電圧を増幅して被測定物量の測定値とする増幅手段と、その測定値を表示する表示器と、その表示器による表示値をゼロにするゼロ調整手段と、そのゼロ調整状態で上記ブリッジの一辺にスイッチを介して電気的校正用の固定抵抗を並列接続したときの表示値が記憶手段の記憶内容に基づく値となるように上記増幅手段のゲインを調整する電気的校正手段を備えた測定装置において、
上記記憶手段は、上記ブリッジが平衡状態にあるときに上記固定抵抗を接続したときに表示されるべき測定値FC を記憶しているとともに、
当該測定装置の使用に際して、上記ブリッジが任意の不平衡状態にあるときにゼロ調整した後、上記電気的校正手段を動作させて上記固定抵抗を接続したとき、当該電気的校正手段は、
上記表示器の表示値が上記記憶手段に記憶されている値FC となるように上記増幅手段のゲイン調整を行った後、上記固定抵抗を切り離してゼロ調整を解除したときの測定値FD を読み取って記憶し、その値FD と上記値FC 、および上記歪ゲージの抵抗値並びに固定抵抗の抵抗値を用いて、使用に際しての上記ブリッジの不平衡状態でゼロ調整して上記固定抵抗値が接続されたときに表示されるべき値FE を算出し、続いてゼロ調整を行って上記固定抵抗を接続したときの表示値が上記値FE に一致するようにゲイン調整を行うことを特徴とするアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置。
【請求項4】
上記検出器が、ロードセルであることを特徴とする請求項3に記載のアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置。
【請求項5】
上記検出器が、伸び計であることを特徴とする請求項3に記載のアクティブ4ゲージ法を用いて測定装置。
【請求項6】
請求項3に記載のアクティブ4ゲージ法を用いた測定装置を少なくとも1つ備えていることを特徴とする材料試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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