説明

アクリル系ポリマー粒子の製造方法並びにその機械的特性レベルの調整方法

【課題】アクリル系モノマーと重合開始剤とを含有するモノマー組成物を、マイクロチャネルから連続相に吐出し、それにより連続相中にモノマー組成物の液滴を形成させ、その後、その液滴を加熱してアクリル系モノマーをラジカル重合させることによりアクリル系ポリマー粒子を製造する際に、モノマー組成物の配合処方の内容を変えることなく、アクリル系ポリマー粒子の機械的特性のレベルを調整できるようにする。
【解決手段】モノマー組成物の液滴の加熱をマイクロ波照射により行い、その際の液滴の加熱温度Tを、ラジカル重合開始剤の分解温度T1と、アクリル系ポリマー粒子の所期の機械的特性が得られる加熱温度T2との間に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチャネルを用いた、アクリル系ポリマー粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細でしかも良好な単分散性を示す固体微粒子を製造する方法として、マイクロチャネルを利用する方法が知られている。この方法は、反応性モノマーと熱重合開始剤とを含有する分散相用組成物(モノマー組成物)を、マイクロチャネルを介して連続相中に分散させてエマルジョンを調製し、このエマルジョンを加熱することにより、反応性モノマーをラジカル重合させて得た固体微粒子(ポリマー粒子)が連続相中に懸濁したサスペンジョンを得る方法である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3616909号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、マイクロチャネルを利用して取得すべきポリマー粒子の機械的特性、例えば、圧縮強度について、ポリマー粒子の使用目的や使用態様により様々なレベルの圧縮強度が求められる場合がある。
【0005】
このような求めに対し、特許文献1の技術で対応しようとした場合、重合時の加熱温度を変化させることが考えられるが、エマルジョン調製時と同様に一般的なヒーティングブロック加熱により加熱温度を変えてみても、圧縮強度のレベルに大きな変化をもたらすことができなかった。これは、一旦重合が始まると一気に重合が進行するため、圧縮強度の重合温度依存性が非常に低いからであると考えられる。このため、モノマー組成物の構成成分の種類や配合割合を変化させて対応せざるを得なかったが、モノマー組成物の配合処方の内容を変えることは、目的とする機械的特性のレベルを変化させるだけでなく、他の機械的特性の意図しない変化も引き起こしかねないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、以上の従来の技術の問題点を解決することであり、アクリル系モノマーと重合開始剤とを含有するモノマー組成物を、マイクロチャネルから連続相に吐出し、それにより連続相中にモノマー組成物の液滴を形成させ、その後、その液滴を加熱してアクリル系モノマーをラジカル重合させることによりアクリル系ポリマー粒子を製造する際に、モノマー組成物の配合処方の内容を変えることなく、アクリル系ポリマー粒子の機械的特性のレベルを調整できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、連続相に存在するモノマー組成物の液滴を、マイクロ波照射により加熱してアクリル系モノマーをラジカル重合させれば、加熱温度をコントロールすることによりアクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルを調整することが可能になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、アクリル系モノマーとラジカル重合開始剤とを含有するモノマー組成物を、マイクロチャネルから連続相に吐出し、それにより連続相中にモノマー組成物の液滴を形成させ、その後、その液滴を加熱してアクリル系モノマーをラジカル重合させることによりアクリル系ポリマー粒子を製造する方法であって、
該液滴の加熱をマイクロ波照射により行い、その際の液滴の加熱温度Tを、該ラジカル重合開始剤の分解温度T1と、アクリル系ポリマー粒子の所期の機械的特性が得られる加熱温度T2との間に設定することにより、アクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルを調整することを特徴とする製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明のこの製造方法は、アクリル系ポリマー粒子の機械的特性を調整する方法としての意義を有し、この調整方法の発明も本発明の一態様である。即ち、本発明は、アクリル系モノマーとラジカル重合開始剤とを含有するモノマー組成物を、マイクロチャネルから連続相に吐出し、それにより連続相中にモノマー組成物の液滴を形成させ、その後、その液滴を加熱してアクリル系モノマーをラジカル重合させることにより得られるアクリル系ポリマー粒子の機械的特性を調整する方法であって、
該液滴の加熱をマイクロ波照射により行い、その際の液滴の加熱温度Tを、該ラジカル重合開始剤の分解温度T1と、アクリル系ポリマー粒子の所期の機械的特性が得られる加熱温度T2との間に設定することにより、アクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルを調整することを特徴とする調整方法も提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法又は調整方法によれば、連続相に存在するモノマー組成物の液滴を、マイクロ波照射により加熱してアクリル系モノマーをラジカル重合させる。このため、加熱温度をコントロールすることによりアクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のアクリル系ポリマー粒子の圧縮強度と重合時間との関係図である。
【図2】実施例1のアクリル系ポリマー粒子の粒度分布図である。
【図3】実施例1のアクリル系ポリマー粒子の粒子分散状態写真である。
【図4】比較例1のアクリル系ポリマー粒子の圧縮強度と重合時間との関係図である。
【図5】比較例1のアクリル系ポリマー粒子の粒度分布図である。
【図6】比較例1のアクリル系ポリマー粒子の粒子分散状態写真である。
【図7】実施例2及び比較例2のアクリル系ポリマー粒子の圧縮強度と重合温度とのの関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のアクリル系ポリマー粒子の製造方法は、以下の工程(a)及び(b)を有する。以下、工程毎に説明する。
【0013】
<工程(a)>
まず、アクリル系モノマーとラジカル重合開始剤とを含有するモノマー組成物を、マイクロチャネルから連続相に吐出し、それにより連続相中にモノマー組成物の液滴を形成する。この状態は通常、液/液エマルジョンである。ここで、マイクロチャネルからモノマー組成物を連続相に吐出するために、マイクロチャネルを備えた公知のマイクロリアクタ(特許第2975943号、同2981547号、同3616909号等参照)を使用することができる。また、市販のマイクロリアクタ装置も使用することができる。これらのマイクロリアクタ装置に適用可能なマイクロチャネルとしては、特に制限はなく、例えば、マイクロシリンジや、ガラス基板にエッチングにより溝を形成したマイクロチャネルチップ等を使用することができる。
【0014】
また、マイクロチャネルの溝巾、溝深さ、溝長、溝内壁材料、吐出圧力、連続相を構成する分散媒種類、分散剤等を適宜選択することにより、モノマー組成物の液滴の大きさを調整することができる。通常、液滴の大きさは1〜100μmである。この大きさが最終的なアクリル系ポリマー粒子の大きさとなる。
【0015】
アクリル系モノマーとしては、単官能(メタ)アクリレート(ここで、(メタ)アクリレートにはアクリレートとメタクリレートとが包含される)、二官能以上の多官能(メタ)アクリレートを使用することができる。多官能(メタ)アクリレートを使用することにより、アクリル系ポリマー粒子を熱硬化性とすることができる。
【0016】
単官能(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、2−メチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ブチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。二官能(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールF―EO変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA―EO変性ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエン(メタ)アクリレート等が挙げられる。三官能(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。四官能以上の(メタ)アクリレートとしては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等が挙げられる。その他に、多官能ウレタン(メタ)アクリレートも使用することができる。具体的には、M1100、M1200、M1210、M1600(以上、東亜合成(株))、AH−600、AT−600(以上、共栄社化学(株))等が挙げられる。
【0017】
ラジカル重合開始剤は、加熱によりラジカルを発生する化合物であり、アゾ系化合物や有機過酸化物が挙げられる。アゾ系化合物としてはアゾビスアルカノニトリル等を挙げることができる。また、有機過酸化物としては、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド等が挙げられる。これらの中からラジカル重合開始剤を選び出す際の重要な指標として「分解温度」が挙げられる。この温度が低いほど、モノマー組成物の低温速硬化性が向上する傾向がある。なお、本明細書においてラジカル重合開始剤の分解温度とは、具体的には10時間半減期温度を意味する。
【0018】
本発明において使用できるラジカル重合開始剤の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル(分解温度 65℃)、ジイソブチリル(分解温度 32.7℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(分解温度 65.3℃)、ジラウロイルパーオキサイド(分解温度 61.6℃)、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサイノイル)パーオキサイド(分解温度 59.4℃)、t−ブチルパーオキシピバレート(分解温度 54.6℃)、t−ヘキシルパーオキシピバレート(分解温度53.2℃)、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート(分解温度 50.6℃)、t−ブチルパーオキシネオデカノエート(分解温度 40.7℃)、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート(分解温度 44.5℃)、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート(分解温度 43.6℃)、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(分解温度 40.8℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート(分解温度 40.7℃)、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート(分解温度 40.5℃)、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート(分解温度 40.3℃)、クミルパーオキシネオデカノエート(分解温度 36.5℃)、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド(分解温度 70.6℃)、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド(分解温度 73.1℃)、ジベンゾイルパーオキサイド(分解温度 73.6℃)、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン(分解温度 83.2℃)、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(分解温度 87.1℃)、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(分解温度 90.7℃)、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート(分解温度 99.4℃)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(分解温度 104.7℃)、メチルエチルケトンパーオキサイド(分解温度 15〜35℃)、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、t−アミルヒドロパーオキサイド(分解温度 258℃)、t−ヘキシルヒドロパーオキサイド(分解温度 116.4℃)、t−オクチルヒドロパーオキサイド(分解温度 150℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジヒドロパーオキシヘキサン(分解温度 118℃)、クメンヒドロパーオキサイド(分解温度 157.9℃)、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジヒドロパーオキサイド(分解温度 不明℃)、パラメンタンヒドロパーオキサイド(分解温度 128.0℃)等を挙げることができる。これらは、2種以上を併用することができる。また、分解温度の高い、フェニル環を有する過酸化物を使用することにより、アクリル系ポリマー粒子の凝集力を向上させることができる。
【0019】
アクリル系モノマーに対するラジカル重合開始剤の配合量は、少なすぎると硬化が不十分となる傾向があり、多すぎると重合度が低くなり機械的特性が低下する傾向があるので、アクリル系モノマー100質量部に対し、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは2〜20質量部である。
【0020】
モノマー組成物には、必要に応じてビニルモノマーやオリゴマー、非重合性ポリマー、有機フィラー、無機フィラー、顔料などを配合してもよい。
【0021】
連続相は、モノマー組成物の液滴の分散媒として機能するものであり、通常、イオン交換水等の水に分散剤を溶解させたものである。分散剤としては、公知のカチオン性、アニオン性、ノニオン性、両性界面活性剤の中から、モノマー組成物の種類な液滴の径などに応じて適宜選択することができる。
【0022】
アニオン性界面活性剤の例としては、石鹸(脂肪酸ナトリウム)、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤の例としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等が挙げられる。両性界面活性剤の例としては、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン等が挙げられる。ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等が挙げられる。
【0023】
このような界面活性剤の連続相中の含有量は、一般的に0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%である。
【0024】
連続相には、必要に応じて、モノマー組成物の液滴並びにその重合物であるアクリル系ポリマー粒子の分散状態の安定化のために、安定化剤を添加することもできる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、でんぷん、ゼラチン等の水溶性高分子、リン酸三カルシウム等の難水溶性無機塩等を含有させることができる。
【0025】
このような安定化剤の連続相中の含有量は、一般的に0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%である。
【0026】
その他、連続相には、キレート剤(グリシン、アラニン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等)、pH緩衝剤(トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸カリウム等)、増感剤、粘度調製剤等の公知の添加剤を含有させてもよい。
【0027】
<工程(b)>
次に、連続相中のモノマー組成物の液滴を加熱してアクリル系モノマーをラジカル重合させる。本発明においては、モノマー組成物の液滴の加熱をマイクロ波照射により行う。マイクロ波照射エネルギーの出力等を変化させることにより、モノマー組成物の液滴の加熱温度をコントロールすることができ、それによりアクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルを調整することができる。この理由は、マイクロ波照射による加熱の場合、重合及び解重合のそれぞれが生じていることが認められるが、加熱温度の上昇に連れて重合の方が解重合よりも優勢となり、モノマー組成物の配合組成を変えることなく、重合物の機械的特性、例えば、圧縮強度(粒子の硬さ)を変化させることができる(換言すればコントロールすることができる)。なお、マイクロ波照射装置としては、市販の装置を使用することができる。
【0028】
加熱温度のコントロールは、マイクロ派照射の出力を調整することにより行うことができる。加熱温度範囲は、モノマー組成物の液滴の加熱温度Tを、ラジカル重合開始剤の分解温度T1と、アクリル系ポリマー粒子の所期の機械的特性が得られる加熱温度T2との間に設定する。これは加熱温度Tが、ラジカル重合開始剤の分解温度T1より低いと、ラジカル重合が進行せず、T2より高い温度に加熱すると、意図した機械的特性が得られなくなるからである。
【0029】
加熱温度T2を決める具体的な手法としては、DSC(示差走査熱量測定)により反応温度より決定する方法等が挙げられる。
【0030】
なお、機械的特性として30%圧縮強度に着目し、ラジカル重合開始剤として分解温度T1が61.6℃のジラウロイルパーオキサイドを使用した場合、加熱温度TをT1とした時のアクリル系ポリマー粒子の30%圧縮強度は30〜35MPaであり、TをT2とした時の30%圧縮強度は60〜100MPaであることが好ましい。
【0031】
このようにして得られたアクリル系ポリマー粒子は、通常、連続相中に懸濁しており、濾過、遠心分離等により単離することができる。
【0032】
以上説明した本発明のアクリル系ポリマー粒子の製造方法は、アクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルを調整する調整方法という側面を有する。
【0033】
即ち、この調整方法は、アクリル系モノマーと重合開始剤とを含有するモノマー組成物を、分散相用マイクロチャネルから、連続相用マイクロチャネル中を流れている分散媒に吐出し、それにより分散媒中にモノマー組成物の液滴を形成させ、その後、その液滴を加熱重合させることにより得られるアクリル系ポリマー粒子の機械的特性を調整する方法であって、
該液滴の加熱重合をマイクロ波照射により行い、その際の液滴の加熱温度Tを、該重合開始剤の分解温度T1と、アクリル系ポリマー粒子の所期の機械的特性が得られる加熱温度T2との間に設定することにより、アクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルを調整することを特徴とする調整方法である。
【0034】
このアクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルの調整方法は、以下の工程(aa)及び(bb)を有する。
【0035】
<工程(aa)>
まず、アクリル系モノマーとラジカル重合開始剤とを含有するモノマー組成物を、マイクロチャネルから連続相に吐出し、それにより連続相中にモノマー組成物の液滴を形成する。この工程は、先に説明した本発明の製造方法の工程(a)と基本的に同じ意義内容を有する。
【0036】
<工程(bb)>
次に、連続相中のモノマー組成物の液滴をマイクロ波照射により加熱してアクリル系モノマーをラジカル重合させる。この工程は、先に説明した本発明の製造方法の工程(b)と基本的に同じ意義内容を有する。従って、マイクロ波照射による加熱の際の液滴の加熱温度Tを、該ラジカル重合開始剤の分解温度T1と、アクリル系ポリマー粒子の所期の機械的特性が得られる加熱温度T2との間に設定することにより、アクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルを調整する。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0038】
実施例1(マイクロ波重合)
分散相として、エチレングリコールジメタクリレート(ライトエスエルEG、協栄社化学(株))75質量部と、1,6−ヘキサメチレンジールジメタクリレート(AH600、協栄社化学(株))25質量部と、ジラウロイルパーオキサイド(パーロイルL、日油(株))1質量部とからなるモノマー組成物を用意した。また、連続相として、イオン交換水に界面活性剤(SDS、和光純薬工業(株))を質量1%の割合で溶解させた水溶液(連続相液)を用意した。
【0039】
用意した分散相と連続相とを、マイクロチャネル(幅5μm、深さ1μm、長さ100μm)を備えたマイクロリアクタ((株)イーピーテック)に適用し、分散相を連続相中に押し出し、平均径3μmのモノマー組成物の液滴を形成した。得られた混合物を混合しながら、イオン交換水と界面活性剤(SDS、和光純薬工業(株))とを添加し、モノマー組成物の液滴濃度が2質量%、界面活性剤濃度が1質量%となるスラリーを調製した。
【0040】
得られたスラリー100mLを200mLのセパラブルフラスコに入れ、2450±30MHzのマイクロ波を発することのできるマイクロ波反応装置(MWO−100S、東京理化器械(株))にセットし、窒素を流量50mL/minで30分間バブリングし、次いでスラリーを70℃まで4℃/minの速度で加熱し、更に90℃まで2℃/minの速度で加熱し、90℃に維持し、アクリル系モノマーのラジカル重合を行った。重合物のサンプリングは、90℃に到達した時点(0分)、その後、5分、15分、30分、60分、120分、180分経過した時点で行った。
【0041】
<10%、30%圧縮強度測定>
サンプリングした重合物中のアクリル系ポリマー粒子の10%、30%圧縮強度(MPa)を微少圧縮試験機(MCMT−200:(株)島津製作所)を用いて測定した。得られた結果を図1に示す。図1の30%圧縮強度の結果に着目すると、60分以降、圧縮強度がほぼ一定となっていることがわかる。
【0042】
<粒度分布・粒子分散測定>
サンプリングした重合物を、粒度分布測定機(SD−2000、SYSMEX社製)を用いて、アクリル系ポリマー粒子の粒度分布を測定した、サンプリング時間が180minの場合の粒度分布図を図2に示す。図2から、本発明の製造方法により、粒子径が単分散のアクリル系ポリマー粒子が得られることがわかる。
【0043】
<粒子分散測定>
サンプリングした重合物を、粒子分散測定機(FPIA−3000、SYSMEX社製)を用いて、アクリル系ポリマー粒子の粒子分散を測定した、得られた結果を図3に示す。図3から、本発明の製造方法により、凝集が非常に少ないアクリル系ポリマー粒子が得られることがわかる。
【0044】
比較例1(熱重合)
実施例1と同様にモノマー組成物の液滴濃度が2質量%、界面活性剤濃度が1質量%となるスラリーを調製した。
【0045】
得られたスラリー100mLを200mLのセパラブルフラスコに入れ、ヒーティングブロックにセットし、窒素を流量50mL/minで30分間バブリングし、次いでスラリーを80℃に1時間、続いて90℃に維持し、アクリル系モノマーのラジカル重合を行った。重合物のサンプリングは、90℃に到達した時点(0分)、その後、5分、15分、30分、60分、120分、180分経過した時点で行った。なお、0、5、15、30分でのサンプリングで、重合が不十分であり、重合固形物を濾別することができなかった。
【0046】
<10%、30%圧縮強度測定>
サンプリングした重合物中のアクリル系ポリマー粒子の10%、30%圧縮強度(MPa)を微少圧縮試験機(MCMT−200、(株)島津製作所)を用いて測定した。得られた結果を図4に示す。図4の30%圧縮強度の結果に着目すると、1時間以降、圧縮強度がほぼ一定となっていることがわかる。
【0047】
<粒度分布・粒子分散測定>
サンプリングした重合物を、粒度分布測定機(SD−2000、SYSMEX社製)を用いて、アクリル系ポリマー粒子の粒度分布を測定した、サンプリング時間が180minの場合の粒度分布図を図5に示す。図5から、ヒートブロックによる熱重合では、2つめのピークに相当するポリマー粒子が形成されることがわかる。
【0048】
<粒子分散測定>
サンプリングした重合物を、粒子分散測定機(FPIA−3000、SYSMEX社製)を用いて、アクリル系ポリマー粒子の粒子分散を測定した。得られた結果を図6に示す。図6から、ヒートブロックによる熱重合では、凝集が非常に多いアクリル系ポリマー粒子が得られることがわかる。
【0049】
実施例2(マイクロ波重合)及び比較例2(熱重合)
実施例1と同様にモノマー組成物の液滴濃度が2質量%、界面活性剤濃度が1質量%となるスラリーを調製した。
【0050】
実施例2の場合、得られたスラリー100mLを200mLのセパラブルフラスコに入れ、2450±30MHzのマイクロ波を反応装置(MWO−100S、東京理化器械(株))にセットし、窒素を流量50mL/minで30分間バブリングし、次いでスラリーを50℃まで4℃/minの速度で加熱し、更に表1の温度まで2℃/minの速度で加熱し、その温度を維持し、アクリル系モノマーのラジカル重合を行った。重合物のサンプリングを、表1の温度に到達後5時間経過した時点で行った。
【0051】
比較例2の場合、得られたスラリー100mLを200mLのセパラブルフラスコに入れ、ヒーティングブロックにセットし、窒素を流量50mL/minで30分間バブリングし、次いでスラリーを表1の温度でそれぞれ8時間加熱し、アクリル系モノマーのラジカル重合を行った。重合終了後、重合物のサンプリングを行った。
【0052】
<10%、30%圧縮強度測定>
サンプリングした重合物中のアクリル系ポリマー粒子の30%圧縮強度(MPa)を微少圧縮試験機(MCMT−200、(株)島津製作所)を用いて測定した。得られた結果を表1と図7に示す。表1並びに図7から、比較例2(ヒートブロックの加熱によるラジカル重合)の30%圧縮強度は、温度依存性が低いことがわかる。それに対し、実施例2(マイクロ波照射加熱によるラジカル重合)の30%圧縮強度は、温度依存性が高いことがわかる。従って、本発明によれば、マイクロ波照射加熱における重合温度を変化させることにより、圧縮強度をコントロールできることがわかる。また、実施例2の場合の温度T2は、90℃であることがわかる。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法又は調整方法によれば、連続相に存在するモノマー組成物の液滴を、マイクロ波照射により加熱してアクリル系モノマーをラジカル重合させる。このため、加熱温度をコントロールすることによりアクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルを調整することができる。従って、本発明の製造方法又は調整方法は、モノマー組成物の配合組成を変えないで、生成させるポリマー粒子の機械的物性を変化させたい場合に好ましく適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系モノマーとラジカル重合開始剤とを含有するモノマー組成物を、マイクロチャネルから連続相に吐出し、それにより連続相中にモノマー組成物の液滴を形成させ、その後、その液滴を加熱してアクリル系モノマーをラジカル重合させることによりアクリル系ポリマー粒子を製造する方法であって、
該液滴の加熱をマイクロ波照射により行い、その際の液滴の加熱温度Tを、該ラジカル重合開始剤の分解温度T1と、アクリル系ポリマー粒子の所期の機械的特性が得られる加熱温度T2との間に設定することにより、アクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルを調整することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
機械的特性が、圧縮強度である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
加熱温度TをT1とした時のアクリル系ポリマー粒子の30%圧縮強度が30〜35MPaであり、T2とした時のアクリル系ポリマー粒子の30%圧縮強度が60〜100MPaである請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
アクリル系モノマーとラジカル重合開始剤とを含有するモノマー組成物を、マイクロチャネルから、連続相に吐出し、それにより連続相中にモノマー組成物の液滴を形成させ、その後、その液滴を加熱してアクリル系モノマーをラジカル重合させることにより得られるアクリル系ポリマー粒子の機械的特性を調整する方法であって、
該液滴の加熱をマイクロ波照射により行い、その際の液滴の加熱温度Tを、該ラジカル重合開始剤の分解温度T1と、アクリル系ポリマー粒子の所期の機械的特性が得られる加熱温度T2との間に設定することにより、アクリル系ポリマー粒子の機械的特性レベルを調整することを特徴とする調整方法。
【請求項5】
機械的特性が、圧縮強度である請求項4記載の調整方法。
【請求項6】
加熱温度TをT1とした時のアクリル系ポリマー粒子の30%圧縮強度が30〜35MPaであり、T2とした時のアクリル系ポリマー粒子の30%圧縮強度が60〜100MPaである請求項5記載の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−177043(P2012−177043A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41145(P2011−41145)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】