説明

アクリル系微粒子およびこれを含む拡散フィルム

【課題】拡散フィルムのようなフィルムへの分散性に優れるため拡散フィルムの拡散剤として好適に使用できるアクリル系微粒子を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリレートを含む単量体と架橋剤とを重合して形成されたアクリル系微粒子であって、前記架橋剤は、少なくとも3個以上の(メタ)アクリル基と、−OHおよび−COOHからなる群より選択される少なくとも1種の官能基と、を含む第1架橋剤を含み、前記アクリル系微粒子の体積平均粒径の変動係数(C.V)は、20〜60%である、アクリル系微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系微粒子およびこれを含む拡散フィルムに関するものである。より具体的には、本発明は、優れた耐熱性および耐溶剤性を維持すると共に、バインダーおよび溶媒との相溶性に優れ、拡散フィルムに用いる際に分散性に優れたアクリル系微粒子およびこれを含む拡散フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル系微粒子は、光拡散剤、塗料用添加剤、各種表面処理剤、担体等の用途として有用である。特に、アクリル系微粒子の場合は、拡散フィルム、光拡散板、照明器具および広告板の光拡散効果を与えるための光拡散剤として使用されている。
【0003】
前記アクリル系微粒子は、主に懸濁重合法によって製造され、球状のビーズ形態を有する。
【0004】
このようなアクリル系微粒子を拡散フィルムに利用するには、加工性とコーティング液の安定性を維持するために、ビーズ(アクリル系微粒子)自体の耐溶剤性(solvent resistance)(耐化学性)が必要である。そのため、アクリル系微粒子の架橋度を高める方法が提案されている。たとえば、架橋官能基の個数が多いもの(以下、「高官能基」と称する。)を使用したり、架橋剤の量を増量したりして、架橋度を高める方法がある。しかし、耐溶剤性だけを考慮して拡散剤として高い架橋度と高官能基を有するアクリル系微粒子を使用すると、溶媒とアクリル系微粒子との間の相溶性が低下し、アクリル系微粒子同士が凝集体(agglomerate)となる現象が発生するという問題がある。コーティング液に使用される溶媒のなかでも、BTX系列(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)の非極性溶媒では、アクリル系微粒子はこのような現象を生じないが、メチルエチルケトン(Methyl ethyl ketone)(MEK)、エタノール、メタノールのような極性溶媒では、アクリル系微粒子の相溶性が低下し、アクリル系微粒子が凝集体(agglomerate)となる現象が発生する。そして、その場合、拡散剤が均等に分散してコーティングされないため、製品の品質が劣ることになる。
【0005】
そのため、コーティングおよびフィルム業者は、開発された拡散微粒子それぞれに応じて、特性ごとにコーティング液の溶媒選定をしなければならないという煩わしさがあり、光学性能および効率性等の様々な性能を向上させるための技術の幅が狭くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許第2006−110087号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/255016号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた耐熱性および耐溶剤性を有し、同時にバインダーおよび溶媒との相溶性が高く、分散性に優れたアクリル系微粒子を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明の他の目的は、上記目的とともに、高架橋を維持することである。
【0009】
また、本発明は、アクリル系微粒子を利用して透過度および拡散性に優れた拡散フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のひとつの形態は、アクリル系微粒子に関するものである。本発明のアクリル系微粒子は、(メタ)アクリレートを含む単量体と架橋剤とを重合して形成されたアクリル系微粒子であり、前記架橋剤は、3個以上の(メタ)アクリル基と、−OHおよび−COOHからなる群より選択される少なくとも1種の官能基と、を含む第1架橋剤を含むことを特徴とする。また、本発明のアクリル系微粒子は、該微粒子の体積平均粒径の変動係数(C.V)が20〜60%、好ましくは40〜60%である。
【0011】
本発明の実施形態のひとつは、前記第1架橋剤が下記一般式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
(前記式(1)中、Yは(メタ)アクリル基であり、Rは炭素数1〜10の分岐型炭化水素であり、Qは−OHまたは−COOHであり、iは3〜5の整数であり、jは1〜5の整数である)
で表される。
【0014】
本発明の実施形態のひとつとしては、前記アクリル系微粒子は、(メタ)アクリレートを含む単量体60〜90重量%と、架橋剤10〜40重量%と、を含みうる。より好ましくは、前記アクリル系微粒子は、(メタ)アクリレートを含む単量体60〜85重量%と、架橋剤15〜40重量%と、を含む。
【0015】
また、前記(メタ)アクリレートを含む単量体は、炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレートと、これと共重合可能なモノマーと、を含むことができる。
【0016】
本発明の実施形態のひとつにおいて、前記(メタ)アクリレートを含む単量体は、炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレート50重量%以上〜100重量%未満と、共重合可能なモノマー0重量%を超えて50重量%以下と、を含む。
【0017】
前記共重合可能なモノマーは、芳香族ビニル系モノマー、シアン化ビニル系モノマー、炭素数6〜20の芳香族(メタ)アクリレート、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート、エポキシ基含有(メタ)アクリレートおよび不飽和カルボン酸からなる群より選択される1種以上を含むことができる。
【0018】
本発明の実施形態のひとつとしては、前記架橋剤は、第1架橋剤60重量%以上100重量%未満と、第2架橋剤0重量%を超えて40重量%以下と、を含む。
【0019】
本発明の実施形態のひとつにおいて、前記架橋剤は、少なくとも3個以上の(メタ)アクリル基と、−OHおよび−COOHからなる群から選択される少なくとも1種と、を含む第1架橋剤;並びに1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートおよびジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートからなる群から選択される第2架橋剤;を含むことができる。
【0020】
本発明の実施形態のひとつにおいては、前記第1架橋剤と前記第2架橋剤の重量比は1.5:1〜10:1である。
【0021】
また、本発明の実施形態のひとつにおいて、前記アクリル系微粒子は、メチルエチルケトンで25℃、4時間放置した後の膨張率が10%未満である。
【0022】
本発明の他の形態としては、前記アクリル系微粒子を含む拡散フィルムに関するものである。
【0023】
本発明のさらに他の形態は、前記アクリル系微粒子の製造方法に関するものである。本発明の製造方法は、(メタ)アクリレートを含む単量体に架橋剤および開始剤を混合してモノマー混合溶液を製造し;そして前記モノマー混合溶液を懸濁重合することを含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、優れた耐熱性および耐溶剤性を有し、同時にバインダーおよび溶媒との相溶性が高く、分散性に優れたアクリル系微粒子が提供される。また、本発明のアクリル系微粒子は、拡散フィルムのようなフィルムへの分散性に優れるため、拡散フィルムの拡散剤として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1で製造されたアクリル系微粒子の溶媒分散性評価のためのSEM写真である。
【図2】本発明の実施例2で製造されたアクリル系微粒子の溶媒分散性評価のためのSEM写真である。
【図3】本発明の比較例1で製造されたアクリル系微粒子の溶媒分散性評価のためのSEM写真である。
【図4】本発明の比較例2で製造されたアクリル系微粒子の溶媒分散性評価のためのSEM写真である。
【図5】本発明の比較例3で製造されたアクリル系微粒子の溶媒分散性評価のためのSEM写真である。
【図6】本発明の実施例1と比較例1で製造されたアクリル系微粒子の溶媒分散性評価のための光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体例を詳しく説明する。但し、これは例として提示するものであり、これによって本発明が制限されるのではなく、本発明は後述の請求項の範疇によって定義されるに過ぎない。
【0027】
本明細書で特に言及しない限り、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」と「メタクリレート」とを共に可能であることを意味する。また、「(メタ)アクリル酸」も「アクリル酸」と「メタクリル酸」とを共に可能であることを意味する。「(メタ)アクリルアミド」は「アクリルアミド」と「メタクリルアミド」とを共に可能であることを意味する。
【0028】
本発明のアクリル系微粒子は、(メタ)アクリレートを含む単量体と架橋剤とを重合して形成されたアクリル系微粒子であり、前記架橋剤は、第1架橋剤を含むことを特徴とする。前記第1架橋剤は、少なくとも3個以上の(メタ)アクリル基と、−OHおよび−COOHからなる群より選択される少なくとも1種の官能基と、を含有する。
【0029】
一実施形態において、前記アクリル系微粒子は、(メタ)アクリレートを含む単量体60〜90重量%および架橋剤10〜40重量%を含む。好ましくは、(メタ)アクリレートを含む単量体60〜85重量%、および架橋剤15〜40重量%である。より好ましくは、(メタ)アクリレートを含む単量体65〜80重量%、および架橋剤20〜35重量%である。単量体と架橋剤とが上記範囲内であれば、アクリル系微粒子の耐溶剤性が高くなるため好ましい。
【0030】
一実施形態において、前記(メタ)アクリレートを含む単量体は、炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレートを含む。
【0031】
さらに、前記(メタ)アクリレートを含む単量体は、炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレートおよびこれと共重合可能なモノマーを含むことができる。
【0032】
一実施形態において、前記(メタ)アクリレートを含む単量体が共重合可能なモノマーを含む場合は、炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレート50重量%以上100重量%未満および共重合可能なモノマー0重量%を超えて50重量%以下を含む。好ましくは、炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレート60重量%以上100重量%未満、および共重合可能なモノマー0重量%を超えて40重量%以下である。さらに、炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレート65〜99.95重量%および共重合可能なモノマー0.05〜45重量%である。アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能なモノマーとが上記範囲内であれば、アクリル系微粒子が分散性に優れたものとなるため好ましい。
【0033】
前記炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート等がある。このうち、好ましくはメチル(メタ)アクリレートである。
【0034】
前記共重合可能なモノマーは、スチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−(クロロメチル)スチレン、m−(クロロメチル)スチレン、p−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレンを含む芳香族ビニル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルを含むシアン化ビニル系モノマー;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート、3−フェニルプロピル(メタ)アクリレート、4−フェニルブチル(メタ)アクリレート、2−(2−メチルフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2−(3−メチルフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2−(4−メチルフェニル)エチル(メタ)アクリレート等の炭素数6〜20の芳香族(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート;グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸;等があり、必ずしもこれに制限されるのではない。前記の共重合可能なモノマーは、単独または2種以上混合して利用できる。
【0035】
好ましい実施形態としては、前記アクリル系微粒子は、(メタ)アクリレートを含む単量体(モノマー成分)として、メチルメタクリレートを90重量%以上、好ましくはメチルメタクリレートを92〜100重量%含む。メチルメタクリレートを上記範囲内で含むことで、拡散剤としてアクリル系微粒子を含む拡散フィルムが屈折率(1.35〜1.55)を有すると共に、耐溶剤性能を同時に維持できるという長所がある。
【0036】
本発明の一実施形態において、架橋剤は第1架橋剤を単独で使用できる。
【0037】
他の実施形態においては、前記第1架橋剤と第2架橋剤とを混合して使用することができる。
【0038】
一実施形態としては、架橋剤としては、第1架橋剤60〜100重量%、および第2架橋剤0〜40重量%で含む。
【0039】
さらに、一実施形態としては、架橋剤が第1架橋剤および第2架橋剤を含む場合、架橋剤としては、第1架橋剤60重量%以上100重量%未満、および第2架橋剤0重量%を超えて40重量%以下で含むことができる。架橋剤を上記範囲内で使用することで、重合安定性に優れ、また耐溶剤性にも優れる。好ましくは、前記架橋剤は、第1架橋剤65〜95重量%および第2架橋剤5〜35重量%で含むことができる。
【0040】
第1架橋剤と第2架橋剤を混合して使用する場合、第1架橋剤と第2架橋剤の重量比は、好ましくは1.5:1〜10:1、より好ましくは1.8:1〜8:1、さらに好ましくは1.9:1〜5:1、特に好ましくは2:1〜4:1、もっとも好ましくは2:1〜3:1である。上記重量比で第1架橋剤と第2架橋剤とを用いることで、アクリル系微粒子が耐溶剤性および分散性が同時に優れたものとなるため好ましい。
【0041】
前記第1架橋剤は、少なくとも3個以上の(メタ)アクリル基と、−OH(ヒドロキシ基)および−COOH(カルボキシル基)からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を含有する。
【0042】
また、第1架橋剤としては、−OH(ヒドロキシ基)を1個以上有するのが好ましい。
【0043】
一実施形態において、前記第1架橋剤は下記一般式(1)で表すことができる:
【0044】
【化2】

【0045】
(上記式(1)中、Yは(メタ)アクリル基であり、Rは炭素数1〜10の分岐型炭化水素であり、Qは−OHまたは−COOHであり、iは3〜5の整数であり、jは1〜5の整数である)。
【0046】
Rは、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数2〜7、さらに好ましくは炭素数4〜6の分岐型炭化水素である。また、分岐型炭化水素Rは、本明細書中、分岐型炭化水素の残基とも称する。iは、好ましくは3または4、より好ましくは3である。jは、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1〜3の整数、さらに好ましくは1または2である。
【0047】
炭素数1〜10の分岐型炭化水素としては、たとえば、ペンタエリスリトールの残基(ペンタエリスリトール:「C(CHOH)」);エリスリトールの残基(エリスリトール:「CH(OH)−CH(OH)−CH(OH)−CH(OH」);キシリトールの残基(キシリトール:「CH(OH)−CH(OH)−CH(OH)−CH(OH))−CH(OH)」);グルコン酸の残基(グルコン酸:「CH(OH)−CH(OH)−CH(OH)−CH(OH))−CH(OH)−COOH」);などが挙げられる。
【0048】
一実施形態としては、上記式(1)中、Rは、ペンタエリスリトールの残基であり、Qは−OHであり、iは3であり、jは1である。この際、ペンタエリスリトールの残基(R)とは、−CH−C(CH−)CH−を表し、Yは−OCOCH=CHまたは−OCOCH=CCHを表す。
【0049】
第1架橋剤の例としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、等がある。これらは、単独または2種以上混合して使用できる。このうち、好ましくはペンタエリスリトールトリアクリレートである。
【0050】
第2架橋剤の例としては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、およびジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が使用できる。このうち、好ましいものは1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートおよびトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートである。
【0051】
本発明のアクリル系微粒子は、公知の方法で重合して製造することができる。たとえば、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等が使用でき、このうち、好ましくは懸濁重合である。
【0052】
一実施形態において、(メタ)アクリレートを含む単量体に架橋剤を混合した後、重合開始剤を投入し、懸濁安定剤等を投入し重合して製造できる。このとき、重合温度は好ましくは30〜120℃、より好ましくは50〜90℃で、重合時間は好ましくは1〜20時間、より好ましくは3〜15時間で行うことができる。また、30〜90℃(好ましくは40〜70℃)で1〜10時間の重合反応を行った後、50〜120℃(好ましくは60〜90℃)で1〜10時間の重合反応を行うのが特に好ましい。また、溶媒としては、水がより好ましい。
【0053】
重合開始剤は、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、o−クロロベンゾイルパーオキシド、o−メトキシベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1,3−3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジオクタノイルパーオキシド、ジデカノイルパーオキシド等のようなパーオキシド系の化合物;および2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;からなる群から選ばれる1種以上が使用でき、必ずしもこれに制限されるのではない。重合開始剤は、単量体と架橋剤との混合物100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは0.7〜5重量部で使用できる。
【0054】
懸濁安定剤としては、ゼラチン、スターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルキルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリジメチルシロキサン/ポリスチレンブロック共重合体等の水溶性高分子、硫酸バリウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、乳酸アルミニウム、タルク、粘土、珪藻土、および金属酸化物粉末等があり、必ずしもこれに制限されるのではない。
【0055】
懸濁安定化剤は、重合成分が分散されるのであれば特に制限されないが、単量体と架橋剤との混合物100重量部に対して、好ましくは0.01〜20重量部、より好ましくは0.05〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜5重量部、特に好ましくは0.1〜3重量部で使用できる。
【0056】
上記のようにして製造されたアクリル系微粒子は、体積平均粒径が、好ましくは1〜50μm、より好ましくは10〜30μm、さらに好ましくは12〜25μm、特に好ましくは13〜20μmであり、体積平均粒径の変動係数(coefficient of variation)(C.V)が20〜60%、好ましくは30〜60%、より好ましくは35〜60%、さらに好ましくは40〜55%の範囲を有することができる。
【0057】
なお、本明細書中、体積平均粒径は、後述の試験法にて測定されるものである。また、変動係数は、該体積平均粒径と標準偏差値とから後述の式で計算した値を意味する。
【0058】
一実施形態において、アクリル系微粒子は、メチルエチルケトンで25℃、4時間放置した後の膨張率(swelling ratio)が10%未満であり、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは5%未満、もっとも好ましくは1%以下である。なお、膨張率の下限は、0%に近いほど好ましいため特に制限されないが、好ましくは0%を超えるものであり、より好ましくは0.01%以上である。
【0059】
本明細書中、膨張率とは、体積膨張率を意味し、後述の試験法にて測定されるものである。
【0060】
本発明の他の形態は、前記アクリル系微粒子を含む拡散フィルムに関するものである。
【0061】
前記拡散フィルムは、透明熱可塑性樹脂に前記アクリル系微粒子を投入して製造できる。具体例においては、透明熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記アクリル系微粒子を0.1〜50重量部、好ましくは10〜35重量部で投入できる。
【0062】
前記透明熱可塑性樹脂としては、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、芳香族ビニル系樹脂等があり、必ずしもこれに制限されるのではない。
【0063】
本発明のアクリル系微粒子を拡散剤として利用した拡散フィルムは、優れた拡散性および透過性を有する。
【0064】
以下、本発明の好ましい実施例によって発明の構成および作用をより詳しく説明する。但し、これは本発明の好ましい例として提示したものであり、如何なる意味でもこれによって本発明が制限されると解釈してはならない。
【0065】
ここに記載していない内容は、本技術分野における当業者であれば十分に技術的に類推できるものであるため、説明は省略する。
【実施例】
【0066】
実施例1〜2および比較例1〜4:アクリル系微粒子の製造
(実施例1)
メチルメタアクリレート(MMA)70重量部、第1架橋剤としてペンタエリスリトールトリアクリレート20重量部、第2架橋剤としてトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)10重量部を混合した。ここに重合開始剤としてベンゾイルパーオキシド(BPO)1重量部を使用してモノマー混合溶液を作った。懸濁液を作るためにイオン水400重量部を分散媒にして懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(PVA)を0.5重量%となるよう溶解した後、前記懸濁液に前記モノマー混合溶液を投入して、高速攪拌機(Homogenizer)を利用して8000rpmで5分間均質化して乳化液を製造した。この後、窒素雰囲気下の4口フラスコ反応器を利用して65℃で6時間反応させ、温度を75℃に上げて4時間重合反応を行った。前記反応によって合成された重合体をろ過した後、水とエタノール水溶液で洗浄し、ろ過物を真空オーブンに入れて一日乾燥させ白色無臭の球状ポリマー粉体を製造した。後述する溶媒分散性の試験方法に従って、得られたアクリル系微粒子をエタノールに分散させた。当該アクリル系微粒子の分散液についてSEM観察を行い、アクリル系微粒子の溶媒分散性評価を行った。なお、SEM写真を図1に示した。
【0067】
(実施例2)
第2架橋剤を使用せず、第1架橋剤であるペンタエリスリトールトリアクリレートを30重量部投入したことを除いては、実施例1と同様に行った。後述する溶媒分散性の試験方法に従って、得られたアクリル系微粒子をエタノールに分散させ、アクリル系微粒子の溶媒分散性評価を行った。なお、SEM写真を図2に示した。
【0068】
(比較例1)
架橋剤としてエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(EGDMA)だけを30重量部利用したことを除いては、実施例1と同様に行った。後述する溶媒分散性の試験方法に従って、得られたアクリル系微粒子をエタノールに分散させ、アクリル系微粒子の溶媒分散性評価を行った。なお、SEM写真を図3に示した。
【0069】
(比較例2)
第1架橋剤としてペンタエリスリトールトリアクリレートの代わりに1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(HDDA)を使用したことを除いては、実施例1と同様に行った。後述する溶媒分散性の試験方法に従って、得られたアクリル系微粒子をエタノールに分散させ、アクリル系微粒子の溶媒分散性評価を行った。なお、SEM写真を図4に示した。
【0070】
(比較例3)
架橋剤として1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(HDDA)だけを30重量部利用したことを除いては、実施例1と同様に行った。後述する溶媒分散性の試験方法に従って、得られたアクリル系微粒子をエタノールに分散させ、アクリル系微粒子の溶媒分散性評価を行った。なお、SEM写真を図5に示した。
【0071】
(比較例4)
メチルメタアクリレート(MMA)95重量部、第1架橋剤としてペンタエリスリトールトリアクリレートを5重量部利用したことを除いては、実施例2と同様に行った。
【0072】
物性評価方法
1)耐溶剤性:20mlバイアルに、メチルエチルケトン15gとアクリル系微粒子2gを投入し、4時間25℃で放置した後、膨張の程度差によって評価した。膨張率(swelling ratio)(膨張度)は、下記のように測定した。
【0073】
【数1】

【0074】
2)溶媒分散性:エタノール10gにアクリル系微粒子1gを混合し、10分攪拌した後、スライドガラス上に滴下して、SEMで分析し分散性を評価し、それぞれ図1〜5に示した。また、実施例1および比較例1の試料を光学顕微鏡(Olympus社BX51)を用いて50倍率で測定して図6に示した。
【0075】
3)体積平均粒径の変動係数(C.V):バイアル瓶に水18g、アクリル微粒子0.5g、分散液(エタノール:トルエン=5:5)3gを投入した溶液を超音波器で10分間処理した後、Beckman coulter社LS13 320を用いてRI(屈折率)=1.49、25℃でアクリル系微粒子の粒子径を測定した。測定で求められた体積平均粒径とその標準偏差を用いて、下記の数式(1)によって変動係数(coefficient of variation)値を計算した。
【0076】
【数2】

【0077】
上記数式(1)において、Mは粒子の体積平均粒径であり、σは標準偏差である。
【0078】
4)塗膜外観:製造された微粒子25重量部とMEK30重量部、トルエン15重量部、アクリルバインダーエギョン社製品AA−910T 30重量部混合して一日放置し、コーティング液を製造した。この混合コーティング液をPET film(210cm×297cm)に#10Barを用いて全面にコーティングした後、120℃で1分間乾燥して塗膜サンプルを製造した。塗膜外観評価のために塗膜サンプルを5cm×5cmで裁断して光学顕微鏡により外観を比較評価した。なお、表1中、塗膜外観がOKとは、凝集体がなく、均一で、良好な塗膜が得られたことを示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1および図1〜5に示した通り、本発明に係るアクリル系微粒子は、塗膜外観、耐溶剤性および分散性が全て優れるという結果だった。これに比べて比較例1で得られたアクリル系微粒子は、塗膜外観で凝集体(固まり)が発生し、耐溶剤性評価でも劣るという結果だった。また、比較例2〜3で得られたアクリル系微粒子は、塗膜外観は優れたが、耐溶剤性が低下したことが確認できた。一方、モノマーを過量用いた比較例4の場合は、平均粒径および変動係数(C.V)の測定が不可能で、塗膜外観で凝集体(固まり)が発生し、耐溶剤性が著しく低下したことが分かった。
【0081】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上述の実施例に限定されず、相違する多様な形態で製造でき、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者は本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更せず他の具体例な形態で実施できるということが理解できると考える。そのため、上述の実施例は全ての面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレートを含む単量体と架橋剤とを重合して形成されたアクリル系微粒子であって、
前記架橋剤は、少なくとも3個以上の(メタ)アクリル基と、−OHおよび−COOHからなる群より選択される少なくとも1種の官能基と、を含む第1架橋剤を含み、
前記アクリル系微粒子の体積平均粒径の変動係数(C.V)は、20〜60%である、アクリル系微粒子。
【請求項2】
前記アクリル系微粒子の体積平均粒径の変動係数(C.V)は、40〜60%である、請求項1に記載のアクリル系微粒子。
【請求項3】
前記第1架橋剤は、下記一般式(1):
【化1】

(式(1)中、Yは(メタ)アクリル基であり、Rは炭素数1〜10の分岐型炭化水素であり、Qは−OHまたは−COOHであり、iは3〜5の整数であり、jは1〜5の整数である)
で表される、請求項1または2に記載のアクリル系微粒子。
【請求項4】
前記アクリル系微粒子は、(メタ)アクリレートを含む単量体60〜90重量%と、架橋剤10〜40重量%と、を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル系微粒子。
【請求項5】
前記アクリル系微粒子は、(メタ)アクリレートを含む単量体60〜85重量%と、架橋剤15〜40重量%と、を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル系微粒子。
【請求項6】
前記(メタ)アクリレートを含む単量体は、炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレートおよびこれと共重合可能なモノマーを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアクリル系微粒子。
【請求項7】
前記(メタ)アクリレートを含む単量体は、炭素数1〜10のアルキル(メタ)アクリレート50重量%以上100重量%未満と、共重合可能なモノマー0重量%を超えて50重量%以下と、を含む、請求項6に記載のアクリル系微粒子。
【請求項8】
前記共重合可能なモノマーは、芳香族ビニル系モノマー、シアン化ビニル系モノマー、炭素数6〜20の芳香族(メタ)アクリレート、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート、エポキシ基含有(メタ)アクリレートおよび不飽和カルボン酸からなる群から選択される1種以上を含む、請求項6または7に記載のアクリル系微粒子。
【請求項9】
前記架橋剤は、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、およびジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートからなる群から選択される第2架橋剤をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のアクリル系微粒子。
【請求項10】
前記架橋剤は、第1架橋剤60重量%以上100重量%未満と、第2架橋剤0重量%を超えて40重量%以下と、を含む、請求項9に記載のアクリル系微粒子。
【請求項11】
前記第1架橋剤と前記第2架橋剤の重量比は、1.5:1〜10:1である、請求項9または10に記載のアクリル系微粒子。
【請求項12】
前記アクリル系微粒子は、メチルエチルケトンで25℃、4時間放置した後の膨張率が10%未満である請求項1〜10のいずれか1項に記載のアクリル系微粒子。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のアクリル系微粒子を含む拡散フィルム。
【請求項14】
(メタ)アクリレートを含む単量体に架橋剤および開始剤を混合してモノマー混合溶液を製造し;そして
前記モノマー混合溶液を懸濁重合する;
ことを含むことを特徴とするアクリル系微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−140616(P2012−140616A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−276100(P2011−276100)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】