説明

アクリル系樹脂組成物及び成形品

【課題】環境に対する負荷が少なく、難燃性、柔軟性及び成形加工性に優れたアクリル系樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】アクリル系重合体(A)100質量部及びリン酸エステル系可塑剤(B)15〜90質量部を含有するアクリル系樹脂組成物、アクリル系重合体(A)100質量部、リン酸エステル系可塑剤(B)15〜90質量部及び金属水酸化物(C)を含有するアクリル系樹脂組成物並びにアクリル系樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル系樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
軟質材料は様々な産業分野で用いられており、従来、その主流となる材料はポリ塩化ビニル樹脂を可塑剤によって可塑化した、いわゆる軟質ポリ塩化ビニル樹脂であった。軟質材料に対する社会的ニーズは今後も伸びていくと予想される。しかしながら、近年、軟質材料として、環境保護の観点からポリ塩化ビニル樹脂から非ハロゲン系樹脂への代替が求められている。
また、軟質材料は自動車部品及び電気・電子部品等の材料として広く使用されており、難燃性も必要とされているが、従来の軟質ポリ塩化ビニル樹脂は難燃性があるものの、非ハロゲン系の軟質材料が求められている。
【0003】
このような背景から、例えば、特許文献1ではアクリル系樹脂を特定の可塑剤により可塑化させた環境に対する負荷が少ないプラスチゾル組成物が提案されている。しかしながら、この技術には難燃性機能の開示はない。
また、特許文献2では難燃性に優れたオルガノプラスチゾル組成物が提案されている。しかしながら、この技術には軟質材料への適用については開示されていない。
【特許文献1】国際公開第2003/004568号パンフレット
【特許文献2】特開平8−100098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、環境に対する負荷が少なく、難燃性、柔軟性及び成形加工性に優れたアクリル系樹脂組成物及びその成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨とするところは、アクリル系重合体(A)(以下「(A)成分」という。)100質量部及びリン酸エステル系可塑剤(B)(以下「(B)成分」という。)15〜90質量部を含有するアクリル系樹脂組成物を第1の発明とする。
また、(A)成分100質量部、(B)成分15〜90質量部及び金属水酸化物(C)(以下「(C)成分」という。)を含有するアクリル系樹脂組成物を第2の発明とする。
更に、これらアクリル系樹脂組成物を成形して得られる成形品を第3及び第4の発明とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のアクリル系樹脂組成物は環境に対する負荷が少なく、難燃性、柔軟性及び成形加工性に優れていることから、得られる成形品を自動車部品、電気・電子部品等の各種用途に広く使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いられる(A)成分は、(B)成分を良好に保持させ、得られるアクリル系樹脂組成物に柔軟性を付与するためのものである。
(A)成分の質量平均分子量は10万〜200万が好ましい。質量平均分子量が10万以上で、(B)成分の保持性を良好とすることができ、得られる成形品に充分な機械的強度を付与できる。また、質量平均分子量が200万以下で、アクリル系樹脂組成物の加熱溶融時の流動性が低下せず、良好な成形加工性が得られる。
【0008】
本発明において、(A)成分は、得られる成形品の機械的強度と、アクリル系樹脂組成物の加熱溶融時の流動性を向上し、射出成形等の加工性を容易にするために、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを測定して得られるクロマトグラムが、分子量5万〜35万の低分子量領域と、分子量40万〜200万の高分子量領域の両方にピークを持つものがより好ましい。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを測定して得られたクロマトグラムが明確に2つのピークに分かれていない場合には、波形分離処理を行なって2つのピークに分離し、各ピークの分子量を求めることができる。
【0009】
クロマトグラムが、分子量5万〜35万の低分子量領域と、分子量40万〜200万の高分子量領域の両方にピークを持つ重合体を得る方法としては、例えば、低分子量領域の重合体と高分子量領域の重合体をブレンドする方法、及び多段重合等により低分子量領域の重合体成分と高分子量領域の重合体成分を有する重合体を得る方法が挙げられる。
【0010】
(A)成分を得るための原料として使用される単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
本発明においては、必要に応じて、上記単量体中に架橋剤を含有させることができる。
架橋剤としては、例えば、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びアリルメタクリレートが挙げられる。
上記単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。尚、本発明において「(メタ)アクリレート」は「メタクリレート」又は「アクリレート」を表す。
【0011】
本発明において、(A)成分は、単独重合体にしたときのガラス転移温度が0℃以下を与える単量体単位(以下「軟質単量体単位」という。)を有することが好ましい。(A)成分中に軟質単量体単位を含有させることにより、後述する(B)成分と同様に重合体を軟質化することができ、(B)成分の配合量を低減することができる。その結果、得られる成形品からの(B)成分の浸出をより抑制することができる。また、(A)成分中に軟質単量体単位を含有させることにより、得られる成形品の低温特性(低温での伸び、柔軟性等)を向上することができる。
【0012】
軟質単量体単位を形成するための原料である軟質単量体としては、例えば、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート及びオクチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
(A)成分(100質量%)中の軟質単量体単位の含有率は、得られる成形品の機械的強度(特に引裂強度)の点で、60質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。(A)成分中の軟質単量体単位の含有率は、得られる成形品の低温特性の点で、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
【0013】
本発明において、(A)成分の構造としては特に限定されないが、重合体に種々の性能を付与できる点で粒子構造を有するものが好適である。また、(A)成分の粒子構造も特に限定されるものではない。(A)成分の低分子量成分、高分子量成分又は軟質単量体単位が独立した別個の粒子の混合状態で存在してもよく、また単一の粒子の内部に何らかの構造を持って存在しても良い。粒子の内部に構造を持つ例としてはコアシェル構造(多層構造)が挙げられる。例えば、コアとして高分子量成分及びシェルとして低分子量成分を有するコアシェル構造が挙げられる。また、第1段目として軟質単量体単位を与える成分を、第2段目として高分子量成分を、及び第3段目として低分子量成分を順次重合して得られる多段重合粒子が挙げられる。
【0014】
(A)成分の重合方法としては公知の重合方法が挙げられる。しかしながら、後述する(B)成分及び(C)成分との均一混合の点で粉体状又は顆粒状の形態で得られるものが好ましいことから、(A)成分の重合方法としては乳化重合法、ソープフリー重合法、懸濁重合法、微細懸濁重合法、分散重合法等が好ましい。
(A)成分の粒子としてコアシェル構造の粒子又は多段重合粒子とする場合、(A)成分の重合方法としては、例えば、各層又は各段における重合体成分を構成するために使用される単量体又は単量体混合物を順次滴下しながら重合する公知の方法が挙げられる。
また、乳化重合法等で得られる(A)成分のラテックスを粉体化する方法としては、凝固法及びスプレードライ法が挙げられるが、生産性よく安価に製造できることからスプレードライ法が好ましい。
【0015】
本発明に用いる(B)成分は、リン酸エステル系可塑剤であり、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、リン酸トリブトキシエチル、リン酸トリオレイル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸キシレニルジフェニル、リン酸ジフェニル(2−エチルヘキシル)、リン酸ジ(イソプロピルフェニル)フェニル及びその縮合物が挙げられる。
上記の中で、(B)成分としては、(A)成分との相溶性に優れ、難燃性に優れる点で、リン酸トリフェニル及びリン酸トリクレジルが好ましい。
(B)成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明のアクリル系樹脂組成物中の(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して15〜90質量部、好ましくは35〜70質量部である。(B)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して15質量部以上で、得られる成形品に良好な柔軟性と難燃性を付与することができる。また、(B)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して90質量部以下で、本発明のアクリル系樹脂組成物をカレンダー成形、射出成形、押出成形等で成形する際に良好な成形加工性が得られる。
【0017】
本発明においては、必要に応じて、アクリル系樹脂組成物中に前述の(A)成分及び(B)成分以外に(C)成分を含有することができる。
本発明で使用される(C)成分としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウム等の水酸基を有する化合物が挙げられる。
また、本発明において、(C)成分は表面処理が施されたものでもよい。表面処理に使用する表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤等のシラン化合物、脂肪酸、リン酸エステル及びチタネートカップリング剤が挙げられる。これらの中で、シランカップリング剤及び脂肪酸が好ましい。
上記(C)成分としては、難燃性の向上効果に優れている点で、水酸化マグネシウムが好ましい。
(C)成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
本発明のアクリル系樹脂組成物中の(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して30〜200質量部が好ましく、40〜150質量部がより好ましい。(C)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して30質量部以上で、良好な難燃性が得られる。また、(C)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して200質量部以下で、得られる成形品の機械的特性の低下が抑制される。
【0019】
本発明のアクリル系樹脂組成物は上述した(A)成分及び(B)成分を配合して得られるが、必要に応じて更に(C)成分を配合して得られる。
(A)成分、(B)成分及び必要に応じて(C)成分の配合方法としては特に限定されず、加工時に同時に配合する、又は加工に先立って事前に配合しておくことができる。また、(B)成分や(C)成分の配合量が多い場合には事前に配合しておく方法が作業性の点で好ましい。事前に配合する方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー及びバンバリーミキサーによる配合が挙げられる。
【0020】
本発明のアクリル系樹脂組成物には、必要に応じて、水和ケイ酸マグネシウム、水和ケイ酸アルミニウム、ハイドロタルサイト等の結晶水を有する化合物、炭酸カルシウム、タルク等の充填材、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、消泡剤、防黴剤、防臭剤、抗菌剤、安定剤、加工助剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、香料、発泡剤、レベリング剤、接着剤、帯電防止剤、艶消し剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0021】
本発明の成形品は上記のアクリル系樹脂組成物を成形して得られるものである。
本発明のアクリル系樹脂組成物の成形方法としては、例えば、カレンダー成形法、射出成形法、Tダイ押出成形法、異型押出成形法、ブロー成形法、真空成形法及びインフレーション成形法が挙げられる。これらの中でカレンダー成形法が好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
また、アクリル系重合体の質量平均分子量及びクロマトグラム並びにアクリル系樹脂組成物の成形時及び得られた成形品の各種評価を以下に示す方法により実施した。
【0023】
(1)質量平均分子量及びクロマトグラム
アクリル系重合体の質量平均分子量はアクリル系重合体のテトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
GPCの測定条件は以下の通りで、標準ポリスチレンによる検量線から質量平均分子量を求めた。
装置 :HLC−8220GPC(東ソー(株)製、商品名)
カラム :TSKgel SuperHZM−M(内径4.6mm)(東ソー(株)製、商品名)×4本
溶離液 :テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.35ml/分
測定温度 :40℃
試料注入量:10μl(試料濃度:0.1%)
検出器 :RI
GPCを測定して得られたクロマトグラムに2つのピークが検出された際には、それぞれのピークについて分子量を求めた。
【0024】
(2)難燃性
ロール成形で得られたシートから、幅10mm×長さ100mm×厚さ0.5mmの試験片を切出した。試験片を燃焼性試験器(スガ試験機(株)製、商品名:ON−1)により、JIS K7201に準じて酸素指数を測定し、難燃性を以下の基準で評価した。
○:酸素指数が21%以上である。
×:酸素指数が20%以下である。
【0025】
(3)バンク回り性
成形加工性の指標として、ロール成形時におけるロール間にある樹脂のバンク回り性を外観により以下の基準で評価した。
◎:ロールの回転に合わせて樹脂のバンクが綺麗に回る。
○:ロールの回転に合わせて樹脂のバンクが回るが、若干スリップする。
×:ロールの回転に合わせて樹脂のバンクが綺麗に回らず、スリップする。
【0026】
(4)シート収縮性
成形加工性の指標として、ロール成形において、成形されたシートをロールより剥離させた後、得られたシートの収縮の程度を以下の基準で評価した。
◎:収縮が小さい。
○:収縮が若干ある。
×:収縮が大きい。
【0027】
[製造例1]アクリル系重合体(A1)の製造
温度計、窒素導入管、攪拌機、滴下漏斗及び冷却管を装備した300mlの4つ口フラスコに、下記の原料を仕込んだ。次いで、フラスコ内の液体を200rpmで攪拌しながら、窒素を30分間通気し、フラスコ内を窒素で置換した。
脱イオン水 80部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.1部
(商品名:ペレックスOT−P、花王(株)製)
【0028】
窒素の通気を停止した後、下記のシード用単量体混合物を投入し、80℃に昇温した。
シード用単量体混合物:
メチルメタクリレート 5.14部
n−ブチルメタクリレート 4.86部
フラスコの内温が80℃で安定した後、下記の開始剤水溶液を投入した。発熱ピークを確認して、シード粒子を形成した。
開始剤水溶液:
過硫酸カリウム 0.1部
脱イオン水 5部
【0029】
下記の原料を混合して、ホモディスパーを用いて強制乳化し、単量体乳化液を得た。
メチルメタクリレート 46.26部
n−ブチルメタクリレート 43.74部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.5部
脱イオン水 50部
得られた単量体乳化液を、4.7時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下中は、フラスコの内温が80℃となるように温度を制御した。滴下終了後、加熱攪拌を80℃で1時間継続し、アクリル系重合体(A1)ラテックスを得た。
【0030】
得られたアクリル系重合体(A1)ラテックスを#100メッシュナイロン濾布で濾過した後、スプレードライヤー(大河原化工機(株)製、商品名:L−8型)を用いて噴霧乾燥して粉体化し、アクリル系重合体(A1)を得た。
アクリル系重合体(A1)の質量平均分子量は76.0万であり、分子量93.0万にピークを1つ有するものであった。
尚、スプレードライヤーのアトマイザーは回転ディスク式とし、回転数は22,000rpmとした。また、乾燥用ガスの入口温度は190℃、乾燥用ガスの出口温度は90℃とした。
【0031】
[製造例2]アクリル系重合体(A2)の製造
用いる原料を表1に記載した種類及び量とし、それ以外は製造例1と同様にしてアクリル系重合体(A2)を得た。
アクリル系重合体(A2)の質量平均分子量及びピークトップの分子量を表1に示す。
【0032】
[製造例3]アクリル系重合体(A3)の製造
温度計、窒素導入管、攪拌機、滴下漏斗及び冷却管を装備した300mlの4つ口フラスコに、下記の脱イオン水を仕込んだ。次いで、フラスコ内の脱イオン水を200rpmで攪拌しながら、窒素を30分間通気し、フラスコ内を窒素で置換した。
脱イオン水 80部
【0033】
窒素の通気を停止した後、下記のシード用単量体混合物を投入し、80℃に昇温した。
シード用単量体混合物:
メチルメタクリレート 3.1部
n−ブチルメタクリレート 2.4部
フラスコの内温が80℃で安定した後、下記の開始剤水溶液を投入した。発熱ピークを確認して、シード粒子を形成した。
開始剤水溶液:
過硫酸カリウム 0.05部
脱イオン水 5部
【0034】
下記の原料を混合して、ホモディスパーを用いて強制乳化し、第1単量体乳化液を得た。
メチルメタクリレート 3.7部
n−ブチルアクリレート 11.8部
スチレン 2.83部
エチレングリコールジメタクリレート 0.63部
2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) 0.2部
(商品名:V−65、和光純薬工業(株)製)
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.2部
脱イオン水 10部
得られた第1単量体乳化液を、1時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下中は、フラスコの内温が80℃となるように温度を制御した。滴下終了後、加熱攪拌を80℃で30分間継続した。
【0035】
下記の原料を混合して、ホモディスパーを用いて強制乳化し、第2単量体乳化液を得た。
メチルメタクリレート 21.4部
n−ブチルメタクリレート 16.4部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.1部
脱イオン水 20部
得られた第2単量体乳化液を、2時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下中は、フラスコの内温が80℃となるように温度を制御した。滴下終了後、加熱攪拌を80℃で30分間継続した。
【0036】
下記の原料を混合して、ホモディスパーを用いて強制乳化し、第3単量体乳化液を得た。
メチルメタクリレート 36.7部
n−ブチルアクリレート 1.04部
n−オクチルメルカプタン 0.08部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 0.2部
脱イオン水 20部
得られた第3単量体乳化液を、2時間かけてフラスコ内に滴下した。滴下中は、フラスコの内温が80℃となるように温度を制御した。滴下終了後、加熱攪拌を80℃で1時間継続し、アクリル系重合体(A3)ラテックスを得た。
【0037】
アクリル系重合体(A3)ラテックスを製造例1と同様にして噴霧乾燥して粉体化し、アクリル系重合体(A3)を得た。アクリル系重合体(A3)の質量平均分子量及びピークトップの分子量を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表中の略号は下記の通り。
MMA :メチルメタクリレート
nBMA:n−ブチルメタクリレート
nBA :n−ブチルアクリレート
St :スチレン
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
nOM :n−オクチルメルカプタン
OT−P:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:ペレックスOT−P、花王(株)製)
KPS :過硫酸カリウム
V−65:2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(商品名、和光純薬工業(株)製)
【0040】
[実施例1〜8及び比較例1〜2]
(A)成分としてアクリル系重合体(A1)〜(A3)、(B)成分としてリン酸トリクレジル(商品名:TCP、大八化学工業(株)製)、リン酸トリフェニル(商品名:TPP、大八化学工業(株)製)又はフタル酸ジイソノニル(商品名:DINP、(株)ジェイ・プラス製)及び(C)成分として水酸化マグネシウム(商品名:マグシーズN−6、神島化学工業(株)製)を、表2に示す割合で配合し、ヘンシェルミキサーにて攪拌混合して配合物を得た。
【0041】
得られた配合物を、6インチテストロール成形機(商品名:ラボラトリーミル、関西ロール(株)製)を使用し、表2に示すロール温度で混練し、シートを作製した。ロール成形時の評価結果及び得られたシートの評価結果を表3に示す。
尚、実施例7ではアクリル系重合体(A1)とアクリル系重合体(A2)を50/50(部)で配合したものを(A)成分として用いた。このときの質量平均分子量及びピークトップの分子量を表1に示した。
【0042】
【表2】

【0043】
表中の略号は下記の通り。
TCP :リン酸トリクレジル(商品名:TCP、大八化学工業(株)製)
TPP :リン酸トリフェニル(商品名:TPP、大八化学工業(株)製)
DINP :フタル酸ジイソノニル(商品名:DINP、(株)ジェイ・プラス製)
水酸化Mg:水酸化マグネシウム(商品名:マグシーズN−6、神島化学工業(株)製)
【0044】
【表3】

【0045】
表3から明らかなように、実施例1〜3及び7では、バンク回り性、シート収縮性及び難燃性がいずれも良好であった。
実施例4〜6では、(C)成分を含むため、バンク回り性、シート収縮性は良好であり、難燃性は非常に良好であった。
実施例8では(A)成分に低分子量領域の重合体及び軟質単量体単位が含まれていないため、バンク回り性及びシート収縮性が若干低いものの、難燃性は良好であった。
【0046】
比較例1では(B)成分としてDINPを使用しているため、実施例2と比較してバンク回り性及びシート収縮性は良好なものの、難燃性が不十分であった。
比較例2では(A)成分100部に対する(B)成分の配合量が15部を下回るため、実施例1と比較してバンク回り性、シート収縮性及び難燃性のいずれも不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体(A)100質量部及びリン酸エステル系可塑剤(B)15〜90質量部を含有するアクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
アクリル系重合体(A)100質量部、リン酸エステル系可塑剤(B)15〜90質量部及び金属水酸化物(C)を含有するアクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
アクリル系重合体(A)の質量平均分子量が10万〜200万である請求項1又は2に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
アクリル系重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーを測定して得られるクロマトグラムが、分子量5万〜35万と分子量40万〜200万の両方にピークを持つ請求項3に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
アクリル系重合体(A)が、単独重合体にしたときのガラス転移温度が0℃以下を与える単量体単位5〜60質量%を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
金属水酸化物(C)が水酸化マグネシウムである請求項2に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
リン酸エステル系可塑剤(B)がリン酸トリフェニル又はリン酸トリクレジルである請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2010−37486(P2010−37486A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204307(P2008−204307)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】