説明

アクリロニトリルの精製方法

【課題】アクリロニトリルの製造プロセスにおいて、脱青酸脱水塔の安定化により、製品品質の安定化及びアクリロニトリル製造プロセス負荷の軽減を達成することのできる、新規な方法を提供すること。
【解決手段】蒸留塔と、前記蒸留塔に接続された、塔頂ガスの凝縮器と、を有する蒸留装置を用いてアクリロニトリル、シアン化水素及び水を含む溶液を蒸留する工程を含むアクリロニトリルの精製方法であって、
前記蒸留装置の熱量バランスから前記凝縮器の除熱量を算出して前記凝縮器を制御する工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリル、シアン化水素及び水を含む溶液を蒸留することにより、アクリロニトリルを精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン及び/又はプロパン、アンモニア並びに酸素を触媒の存在下に反応させてアクリロニトリルを製造するプロセスにおいては、まず、生成したアクリロニトリル、アセトニトリル及びシアン化水素を含む反応生成ガスを急冷塔で冷却するとともに、未反応のアンモニアを硫酸で中和除去する。その後、反応生成ガスは吸収塔に送られ、アクリロニトリル、アセトニトリル及びシアン化水素を水に吸収させる。次いで、吸収塔で得られたアクリロニトリル等を含む水溶液を回収塔に導入し、該水溶液から、蒸留操作によってアセトニトリル及び大部分の水を含む留分と、アクリロニトリルやシアン化水素の大部分を含む留分とに分離する。その後、アクリロニトリルやシアン化水素の大部分を含む留分を脱青酸脱水塔に導入して、シアン化水素及び水を分離した後、塔底液を製品塔に導入し、蒸留操作によりアクリロニトリルを精製し、製品規格に適合した製品を得る。
特許文献1には、アクリロニトリルの精製において、脱青酸脱水塔に酸及びハイドロキノンを添加して、アクリロニトリル及びシアン化水素の重合を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−39403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、製品であるアクリロニトリルの収量を増加させることについては、当然ながら多くの関心が寄せられ、検討されてきた。一方、収量の増加という直接的な効果を目的とした改良の他にも、製品品質の安定化及び工程負荷の軽減という間接的な改善によっても技術上及び経済上大きなメリットがあるが、これまで詳細な検討がなされていないのが現状である。
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、アクリロニトリルの製造プロセスにおいて、製品品質の安定化及びアクリロニトリル製造プロセス負荷を軽減できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、アクリロニトリルを製造するプロセスにおいて、アクリロニトリル、シアン化水素及び水を含む溶液を蒸留する工程を実施するための蒸留塔に接続された凝縮器の除熱量を、蒸留装置の熱量バランスに基づいて適切に制御することで、製品品質を安定化させ、且つ、プロセス負荷を軽減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
蒸留塔と、前記蒸留塔に接続された、塔頂ガスの凝縮器と、を有する蒸留装置を用いてアクリロニトリル、シアン化水素及び水を含む溶液を蒸留する工程を含むアクリロニトリルの精製方法であって、
前記蒸留装置の熱量バランスから前記凝縮器の除熱量を算出して前記凝縮器を制御する工程を含む方法。
[2]
前記蒸留装置に供給及び前記蒸留装置から抜出される溶液及び/又はガスの質量及び温度、並びに前記溶液及び/又はガスに含まれる前記アクリロニトリル、前記シアン化水素及び前記水の濃度、を測定し、前記熱量バランスを求める、上記[1]記載のアクリロニトリルの精製方法。
[3]
前記蒸留塔の中段から前記溶液の一部を抜出し、その中段抜出し液を冷却及び油水分離した後、有機層を前記蒸留塔に戻し、水層を排出する工程を含み、
前記蒸留装置の供給液、塔底抜出液、前記塔頂ガス、及び前記水層の質量及び温度、並びにこれらに含まれる前記アクリロニトリル、前記シアン化水素及び前記水の濃度を測定し、前記熱量バランスを求める、上記[1]又は[2]記載のアクリロニトリルの精製方法。
[4]
前記除熱量を下記式(1)
Hf+Q1=Hh+Hb+Hw+Q2+Q3 (1)
(式(1)中、Hfは前記蒸留塔の供給液のエンタルピー、Hhは塔頂ガスのエンタルピー、Hbは塔底抜出液のエンタルピー、Hwは前記水層のエンタルピー、Q1はリボイラーの加熱量、Q2は前記凝縮器の除熱量、Q3は前記中段抜出し液の冷却による除熱量を示す。)
によって算出する、上記[1]〜[3]のいずれか記載のアクリロニトリルの精製方法。
[5]
アクリロニトリル、シアン化水素及び水を含む溶液を蒸留する装置であって、
蒸留塔と、前記蒸留塔に接続された、塔頂ガスを凝縮する凝縮器と、を有し、
前記蒸留装置に供給及び前記蒸留装置から抜出される溶液及び/又はガスの質量及び温度、並びに前記溶液及び/又はガスに含まれる前記アクリロニトリル、前記シアン化水素及び前記水の濃度が測定されて前記蒸留塔の熱量バランスが算出され、
前記蒸留塔の熱量バランスから前記凝縮器の除熱量が算出される蒸留装置。
[6]
前記蒸留塔の中段に溶液の一部が抜出されるラインが設けられており、前記ラインは冷却器及び油水分離器に接続されており、
前記蒸留塔の塔底抜出液、前記塔頂ガス、及び前記水層の質量及び温度、並びにこれらに含まれる前記アクリロニトリル、前記シアン化水素及び前記水の濃度が測定され、前記熱量バランスが算出される、上記[5]記載の蒸留装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アクリロニトリルの製造プロセスにおいて、プロセス負荷を必要以上に課すことなく、高品質の製品を安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】アクリロニトリル製造プロセスの一例を概念的に示す概略図である。
【図2】アクリロニトリル製造プロセスにおける脱青酸脱水塔(蒸留塔)の一例を概念的に示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。装置や部材の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0010】
本実施形態のアクリロニトリルの精製方法は、
蒸留塔と、前記蒸留塔に接続された、塔頂ガスの凝縮器と、を有する蒸留装置を用いてアクリロニトリル、シアン化水素及び水を含む溶液を蒸留する工程を含むアクリロニトリルの精製方法であって、
前記蒸留装置の熱量バランスから前記凝縮器の除熱量を算出して前記凝縮器を制御する工程を含む方法である。
【0011】
図1は、アクリロニトリル製造プロセスの一例を概念的に示す概要図であり、図2は、アクリロニトリル製造プロセスにおける脱青酸脱水塔の一例を概念的に示す概要図である。なお、以下本実施形態における「蒸留塔」は「脱青酸脱水塔」として説明するが、「蒸留塔」としては「脱青酸脱水塔」に限らず、蒸留を行うことが可能な塔であれば、全て本実施形態の「蒸留塔」の範囲に含まれる。
【0012】
アクリロニトリル製造プロセスにおいては、まず、ガス状プロピレン及び/又はプロパンをライン2から、アンモニアをライン3から、分子状酸素(通常は空気を用いる)はライン4から、それぞれ流動層触媒を充填した流動層反応器1に供給し、プロピレン及び/又はプロパンをアンモ酸化反応させる。得られた反応生成ガスをライン5から抜き出し、急冷塔6に導入する。急冷塔6では反応生成ガスと水を向流接触させ、反応生成ガスを冷却し、高沸点物質及びガス中に微量に含まれている流動層触媒を除去する。また、未反応アンモニアを硫酸で中和除去する。これらの高沸点物質、触媒及び硫安は、急冷塔6の塔底のライン7よりプロセス系外に抜き出す。
急冷塔6上部から取り出されるガスをライン8により吸収塔9に導入する。吸収塔9の塔頂に回収塔12から抜き出した水を吸収水としてライン14から供給し、反応生成ガス中のアクリロニトリル、アセトニトリル及びシアン化水素を水に吸収させる。吸収されなかったプロピレン、プロパン、酸素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素等及び微量の有機物等は、吸収塔の塔頂のライン11より抜き出す。吸収塔9の塔底液はライン10より回収塔12に供給する。
回収塔12の塔頂に抽出水をライン15から導入し、抽出蒸留によりアセトニトリルを抽出分離する。アセトニトリルはライン16よりプロセス系外に抜き出す。また、大部分の水はライン13よりプロセス系外に抜き出す。回収塔の塔頂からライン17によりアクリロニトリル、シアン化水素及び水を留出し、図示していない凝縮器で凝縮した後、図示していないデカンターで有機層と水層の二層に分離する。アクリロニトリル、シアン化水素及び少量の水を含む有機層を脱青酸脱水塔18に供給する。水層は、(ライン10より)回収塔供給液又は(ライン15より)抽出水等として、前工程にリサイクルする。
【0013】
脱青酸脱水塔18の塔頂からシアン化水素を含む蒸気をライン19より留出して凝縮器20に送り、冷却して分縮する。凝縮したシアン化水素液をライン22により塔頂に還流し、凝縮しなかった不純物の少ない粗シアン化水素ガスをライン21より系外に抜き出す。粗シアン化水素ガスは、必要に応じて図示していない蒸留塔で精製し、シアン化水素誘導体の原料として用いる。凝縮器20としては縦型が好ましく、上部管板に酢酸を散布してシアン化水素の重合を抑制する。凝縮器20に用いる冷媒20aとしては、供給温度が0〜35℃、好ましくは3〜30℃の水又はメタノール水溶液を用いる。
【0014】
脱青酸脱水塔18の中段からライン23により塔内液を抜き出し、サイドカットクーラー23bで冷却水によって冷却後、ライン23cによりデカンター23dに供給し、デカンター23dで有機層と水層の二層に分離する。本実施形態において、「中段」とは、塔頂より下で塔底より上の部分を示し、多段蒸留塔の場合は塔底と塔頂の間の一段を示す。例えば、全段数が50〜65段の蒸留塔の場合、粗アクリロニトリルから水を効率よく分離する観点で、ライン23を通常下部から数えて20〜30段に設定するのが好ましい。デカンター内の水層はライン23fにより、回収塔12等の前工程にリサイクルする。デカンター内の有機層はライン23eにより、上述した塔内液を抜き出した段より下の段に戻す。この有機層は予熱して戻してもよい。
【0015】
蒸留に必要な熱は、リボイラー24aからライン24cを通して供給する。熱媒24bとしては、水蒸気又は回収塔12の塔下部(ライン14及び15)及び/又は塔底(ライン13)から取り出される高温のプロセス水を用いる。
【0016】
脱青酸脱水塔18の塔底からライン24により粗アクリロニトリルを抜き出し、製品塔25に送る。なお、ライン24により抜き出された塔底液の一部はリボイラー24aに供給される。
【0017】
製品塔25は、大気圧より低い圧力下で運転される棚段蒸留塔である。製品塔25の留出蒸気はライン26を通じて抜出され、凝縮器30に送られ凝縮される。凝縮液は、ライン31を通じて製品塔25に還流され、一部の液は、ライン29を通じて抜き出される。高沸点物質を含む塔底液は、ライン28より抜出される。図1で示されるプロセスにおいては、ライン27からアクリロニトリルを製品として取得する。
【0018】
アクリロニトリルの製造プロセスにおいては、通常運転中であっても、生産計画などからアクリロニトリルの生産量の増減がなされることがある。この場合、脱青酸脱水塔18に供給する溶液量が増減され、塔まわりの熱量バランス調整の必要性が生じる。また、例えば、別の例として、塔から留出する粗シアン化水素の純度を上げる必要が生じる。この場合も、塔まわりの熱量バランス調整の必要性が生じる。本実施形態において、「熱量バランス」とは蒸留装置に供給される熱量と、蒸留装置から除去される熱量が平衡状態になることを表す。本実施形態の方法において、蒸留装置の熱量バランスから凝縮器の除熱量を算出するとは、蒸留装置全体に供給される熱量と除去される熱量とが等しくなるように凝縮器20の除熱量を算出することを意味する。
熱量バランスは、例えば、蒸留装置に供給及び蒸留装置から抜出される溶液及び/又はガスの質量及び温度、並びに前記溶液及び/又はガスに含まれるアクリロニトリル、シアン化水素及び水の濃度、をそれぞれ測定することにより求めることができる。
【0019】
本実施形態において、「蒸留装置」とは、リボイラー、凝縮器を始めとする蒸留塔の付帯設備を含む概念であり、蒸留塔の中段から溶液の一部を抜出して、その中段抜出し液を冷却及び/又は油水分離する場合、冷却器及び/又は油水分離器も蒸留装置に含まれる。
中段抜出し液を冷却及び油水分離した後、有機層を蒸留塔に戻し、水層を排出する場合、蒸留装置の熱量バランスは、例えば、蒸留装置の供給液、塔底抜出液、塔頂ガス、及び水層の質量及び温度、並びにこれらに含まれるアクリロニトリル、シアン化水素及び水の濃度を、それぞれ測定することにより求めることができる。
【0020】
図2を参照して蒸留装置の熱量バランスの一例を説明する。凝縮器20の除熱量Q2は、ライン17を通して供給する脱青酸脱水塔18への供給液の質量とその組成及び温度で決まる供給液のエンタルピーHf、リボイラー24aで加熱する加熱量Q1、ライン21を通して凝縮器20から抜き出す塔頂ガス(粗シアン化水素ガス)の質量とその組成及び温度で決まる塔頂ガスのエンタルピーHh、塔底からライン24を通して抜き出す塔底抜出液の質量とその組成及び温度で決まる塔底抜出液のエンタルピーHb、デカンター23dからライン23fを通して抜き出す水層の質量とその組成及び温度で決まる抜出水層液のエンタルピーHw、サイドカットクーラー23bでの除熱量Q3が、下記式(1)に示す関係を満たすように設定する。
Hf+Q1=Hh+Hb+Hw+Q2+Q3 (1)
ここで、脱青酸脱水塔に用いる重合禁止剤の入出エンタルピー差や装置からの放熱量は上述の熱量に比べ少量かつほぼ固定値なので、(1)式には含まれない。デカンター23d内の有機層を予熱して戻す場合は、(1)式左辺に、その加熱量を加える。エンタルピーは、0℃を基準として算出した熱量で、例えば15℃の水が2.0kg/hで供給されている場合、供給水のエンタルピーは、水の比熱1.0kcal/kg/℃を用い、2.0×1.0×(15−0)=30kcal/hと計算される。
【0021】
脱青酸脱水塔18への供給液(添字f)中の主成分であるアクリロニトリル(添字.an)、シアン化水素(添字.hcn)及び水(添字.wa)のエンタルピーをそれぞれHf.an、Hf.hcn及びHf.waとする。同様にして凝縮器20からライン21を通して抜き出す粗シアン化水素ガス(添字h)中の各成分のエンタルピーをそれぞれHh.an、Hh.hcn、Hh.wa、ライン24から抜き出す塔底抜出液(添字b)中の各成分のエンタルピーをそれぞれHb.an、Hb.hcn、Hb.wa、デカンター23dからライン23fを通して抜き出す水層液(添字w)中の各成分のエンタルピーをそれぞれHw.an、Hw.hcn、Hw.waとする。これらには、下記式(2)、(3)、(4)、及び(5)に示す関係が成り立つ。
Hf=Hf.an+Hf.hcn+Hf.wa (2)
Hh=Hh.an+Hh.hcn+Hh.wa (3)
Hb=Hb.an+Hb.hcn+Hb.wa (4)
Hw=Hw.an+Hw.hcn+Hw.wa (5)
脱青酸脱水塔18への供給液の質量Wf、凝縮器20から抜き出す粗シアン化水素ガスの質量Wh、塔底抜出液の質量Wb、デカンター23dから抜き出す水層液の質量Wwとの間には下記式(6)に示す関係が成り立つ。
Wf=Wh+Wb+Ww (6)
脱青酸脱水塔18への供給液(添字f)中の主成分であるアクリロニトリル(添字.an)、シアン化水素(添字.hcn)及び水(添字.wa)の質量をそれぞれWf.an、Wf.hcn、Wf.waとする。これら各成分の質量は、供給液の組成分析値と供給液の質量の積から計算できる。同様にして凝縮器20からライン21を通して抜き出す粗シアン化水素ガス(添字h)中の各成分の質量をそれぞれWh.an、Wh.hcn、Wh.wa、ライン24から抜き出す塔底抜出液(添字b)中の各成分の質量をそれぞれWb.an、Wb.hcn、Wb.wa、デカンター23dからライン23fを通して抜き出す水層液(添字w)の各成分の質量をそれぞれWw.an、Ww.hcn、Ww.waとする。これらには、下記式(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、及び(13)に示す関係が成り立つ。
Wf=Wf.an+Wf.hcn+Wf.wa (7)
Wh=Wh.an+Wh.hcn+Wh.wa (8)
Wb=Wb.an+Wb.hcn+Wb.wa (9)
Ww=Ww.an+Ww.hcn+Ww.wa (10)
Wf.an=Wh.an+Wb.an+Ww.an (11)
Wf.hcn=Wh.hcn+Wb.hcn+Ww.hcn (12)
Wf.wa=Wh.wa+Wb.wa+Ww.wa (13)
【0022】
アクリロニトリル(添字.an)、シアン化水素(添字.hcn)及び水(添字.wa)の定圧比熱をそれぞれc.an、c.hcn及びc.waとする。脱青酸脱水塔18への供給液(添字f)の温度をTf、ライン21を通して抜き出す粗シアン化水素ガス(添字h)の温度をTh、ライン24から抜き出す塔底抜出液(添字b)の温度をTb、デカンター23dからライン23fを通して抜き出す水層液(添字w)の温度をTwとする。各エンタルピーは、下記式で計算される。
Hf.an=Wf.an×c.an×Tf (14)
Hf.hcn=Wf.hcn×c.hcn×Tf (15)
Hf.wa=Wf.wa×c.wa×Tf (16)
Hh.an=Wh.an×c.an×Th (17)
Hh.hcn=Wh.hcn×c.hcn×Th (18)
Hh.wa=Wh.wa×c.wa×Th (19)
Hb.an=Wb.an×c.an×Tb (20)
Hb.hcn=Wb.hcn×c.hcn×Tb (21)
Hb.wa=Wb.wa×c.wa×Tb (22)
Hw.an=Ww.an×c.an×Tw (23)
Hw.hcn=Ww.hcn×c.hcn×Tw (24)
Hw.wa=Ww.wa×c.wa×Tw (25)
本実施形態の方法においては、上記式(1)−(25)と上述したQ1、Q2、Q3から、表計算ソフト(Microsoft社のExcel等)により、熱量バランス計算シート(26)を作成する。
なお、化学工学的な観点からは反応系のマテリアルバランスと、ヒートバランスとを併せて設定することから、「熱量バランス」はマテリアル&ヒートバランス等と称される場合もある。
【0023】
熱量バランス計算シートには、溶液の流量や組成から算出された溶液に含まれる各成分の単位時間当たりの通過質量(kg/h)とエンタルピー(103kcal/h)を表す。
熱量バランス計算シート(26)により、脱青酸脱水塔に供給又は脱青酸脱水塔から抜出される溶液の熱量バランスを計算する。つまり、塔底液、塔頂液、中段抜出し液のそれぞれについて流量や組成を逐次把握し、各留分のエンタルピーを計算する。供給又は抜出される各留分の熱量が把握されれば、凝縮器20の除熱量Q2を以下のとおりに求めることができる。
まず、脱青酸脱水塔18への供給液の質量とその液組成及び液温度から供給液のエンタルピーHfを熱量バランス計算シート(26)にて計算する。脱青酸脱水塔18への供給液の質量Wf、液組成及び温度は、それぞれプロセスに設置された流量計、オンラインガスクロマトグラフィー及び温度計により測定される実測値を用いるのがよいが、液組成については、大きな変化はないので経験的な値を用いてもよい。
上述の供給液の場合と同様に、凝縮器20からの抜出流、塔底抜出流、デカンター23dからの水層抜出流それぞれの液質量、組成及び温度を計算シート(26)に入力する。
【0024】
リボイラー24bから蒸留塔に与える熱量Q1は、脱青酸脱水塔18におけるアクリロニトリルの分離回収を効率よく行う観点から、180×103〜260×103kcal/h/t−アクリロニトリルが好ましく、190×103〜230×103kcal/h/t−アクリロニトリルがより好ましい。ここで、アクリロニトリルの質量は、製品塔から製品として取得されるアクリロニトリルの質量(t)であり、上述の数値は、アクリロニトリル単位質量当たりの熱量を表していることから「熱量原単位」と呼ぶことができる。熱量バランス計算シート(26)に前記熱量Q1を入力する。
【0025】
サイドカットクーラー23bでの除熱量Q3は、冷媒23aのクーラー23b入口温度、出口温度及び冷媒23a流量で計算するか又はプロセス側の入口温度、出口温度及びプロセス流量で計算する。Q3は、デカンター23d内に設置された液の温度を測定する温度計を参照し、調整される。該デカンター液温度は、20〜40℃の範囲で一定となるよう制御される。
【0026】
以上より、(1)式におけるHf、Q1、Hh、Hb、Hw、Q3が一意に決められ、凝縮器20の除熱量Q2が(1)式から算出される。アクリロニトリルの製造プロセスにおいて、除熱量Q2は、凝縮器20に通じる冷媒20aの流量及び/又は冷媒20aの入口温度を変化させることで調整される。本実施形態の方法においては、塔内の他の熱量調整に比べ、Q2は留出粗シアン化水素の純度や塔底から回収されるアクリロニトリル中の不純物濃度に与える影響が大きいこと及びQ2の調整はやり易いことから、除熱量Q2が最終的に調整されて、塔に係わる熱量バランスが取られる。設定した除熱量Q2になっているかどうかは、冷媒20aの入口温度、出口温度及び流量で除熱量を計算し、確認する。
【0027】
アクリロニトリルの製造プロセスにおいては、通常運転中であっても、生産計画などからアクリロニトリルの生産量の増減がなされることがある。この場合、脱青酸脱水塔18に供給される液質量Wfが増減される。供給液の質量変化に応じた製品生産量と、上述したリボイラー熱量原単位から熱量Q1を調整変更する。また、別の例として、粗シアン化水素の純度を上げる必要がある場合は、Q1及びQ2を上げ、塔の還流量を増やす操作を行う。
【0028】
このように、熱量Q1を増減した場合、蒸留塔内部の蒸気量が変化する。例えば、Q1を増加させた場合、アクリロニトリルが塔上部に炊き上がり、粗シアン化水素ガス中に留出する割合が上がってしまうことがある。逆にQ1を減少させた場合、シアン化水素及び水が塔下部に下がり、塔底抜出液中に存在する割合が上がってしまうことがある。塔頂留出物中のアクリロニトリル及び塔底液中のシアン化水素及び水は、キー物質と呼ぶ。キー物質とは、蒸留分離を行うに際して指針とする物質のことで、一般には微量不純物のことを指し、当該物質が多く混入していると精製上好ましくない。キー物質濃度のスペックを定めて、これを分離スペックとし、蒸留塔の運転管理に用いるのが好ましい。キー物質はいずれも製品(アクリロニトリル、シアン化水素誘導体)純度に悪影響を及ぼす。熱量Q1の増減量に対応して除熱量Q2を適正に調整することで、Q1の増減に伴う製品への影響を低減することができる。
【0029】
本実施形態の精製方法を行うための装置としては特に限定されないが、例えば、以下の蒸留装置を用いて行うことができる。
アクリロニトリル、シアン化水素及び水を含む溶液を蒸留する装置であって、
蒸留塔と、前記蒸留塔に接続された、塔頂ガスを凝縮する凝縮器と、を有し、
前記蒸留装置に供給及び前記蒸留装置から抜出される溶液及び/又はガスの質量及び温度、並びに前記溶液及び/又はガスに含まれる前記アクリロニトリル、前記シアン化水素及び前記水の濃度が測定されて前記蒸留塔の熱量バランスが算出され、
前記蒸留塔の熱量バランスから前記凝縮器の除熱量が算出される蒸留装置。
【0030】
また、本実施形態の方法が、前記蒸留塔の中段から前記溶液の一部を抜出し、その中段抜出し液を冷却及び油水分離した後、有機層を前記蒸留塔に戻し、水層を排出する工程を含む場合は、
前記蒸留塔の中段に溶液の一部が抜出されるラインが設けられており、前記ラインは冷却器及び油水分離器に接続されており、
前記蒸留塔の塔底抜出液、前記塔頂ガス、及び前記水層の質量及び温度、並びにこれらに含まれる前記アクリロニトリル、前記シアン化水素及び前記水の濃度が測定され、前記熱量バランスが算出される、上記蒸留装置を用いて行うことができる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を示して、本実施の形態をより詳細に説明するが、本実施の形態は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。なお、実施例におけるアクリロニトリル製造プロセスは、図1に示したものと同様である。また、実施例における脱青酸脱水塔は、図2に示したものと同様である。
アクリロニトリルの分析は、以下の装置及び条件でガスクロマトグラフィーにより行った。
ガスクロマトグラフィーは、装置として島津GC−17Aを用い、カラムはTC−FFAP 60m×0.32膜厚0.25μmを用いた。検出器はFID、キャリヤーガスにはヘリウムを用いた。
カラム温度条件は、以下の通りであった。
初期温度: 50℃
昇温速度: 5℃/分
最終温度1:180℃ 15分HOLD
昇温速度: 10℃/分
最終温度2:230℃ 10分HOLD
最終温度3:50℃ 5分HOLD
【0032】
シアン化水素及び水の分析は、それぞれ硝酸銀滴定法及びカールフィシャー法により行った。
【0033】
流量計及び温度計としては、以下のものを用いた。
流量計:YKOGAWA製 差圧式流量計(オリフィス型) Differential Pressure Transmitter DP hard EJX
温度計:OKAZAKI製 抵抗温度計 Resistance Thermometer, Temperature Trans
【0034】
[実施例1]
プロピレン、アンモニア及び空気を内径8m、長さ20mの縦型円筒型の流動層反応器1に供給し、プロピレンのアンモ酸化反応を下記の通り行った。流動層反応器1は、その内部に原料ガス分散管や分散板、除熱管及びサイクロンを有していた。脱青酸脱水塔18は、シーブトレイ55段からなり、下部より数えて37段目にライン17が接続された供給段を有し、24段目にサイドカット流を抜き出すライン23を有し、サイドカットクーラー23b、デカンター23dを経て、23段目にデカンター内の有機層を戻すライン23eを有していた。
流動層触媒は、粒径10〜100μm、平均粒径55μmであるモリブデン−ビスマス−鉄系担持触媒を用い、静止層高2.7mとなるよう充填した。空気分散板から空気を56000Nm3/h供給し、原料ガス分散管からプロピレン6200Nm3/h及びアンモニアを6600Nm3/h供給した。反応温度は440℃となるよう除熱管で制御した。圧力は0.70kg/cm2Gであった。
反応生成ガスを急冷塔6に導入し、水と向流接触させ、未反応のアンモニアを硫酸で中和除去した。急冷塔6から流出したガスをライン8より吸収塔9に導入した。吸収塔9塔頂のライン14より吸収水を導入し、ガスと向流接触させ、ガス中のアクリロニトリル、アセトニトリル及びシアン化水素を水中に吸収させた。吸収水量は、吸収塔塔頂から排出されるガス中のアクリロニトリル濃度が100volppmとなるように調整した。吸収されなかったガスは、吸収塔塔頂ライン11より取り出し、焼却した。
吸収塔塔底液を80℃に予熱し、回収塔12に供給した。回収塔12でアセトニトリル及び大部分の水を分離し、塔頂ライン17からアクリロニトリル、シアン化水素及び水を留出させた。該留出蒸気を凝縮し、図示していない回収塔デカンターで有機層と水層を形成させ、水層は回収塔12の供給ライン10にリサイクルし、有機層は脱青酸脱水塔18に供給した。
脱青酸脱水塔18への供給液は、ライン17に設置された図示していない流量計及び温度計により、質量及び温度を測定した。測定値は、それぞれ13595kg/h及び35.0℃であった。供給液を採取し、アクリロニトリル、シアン化水素及び水の濃度を分析した。これらのデータから供給液の質量及び熱量バランスを計算した結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
脱青酸脱水塔18の塔頂ライン19から粗シアン化水素ガスを抜き出して凝縮器20に送り、冷却して分縮した。凝縮器20は、後述する質量及び熱量バランスから計算した除熱量Q2で運転制御した。凝縮器20に用いた冷媒20aは、6℃の水であり、水量を制御することで除熱量Q2となるようにした。凝縮したシアン化水素液を塔頂に還流し、凝縮しなかった不純物の少ないシアン化水素ガスをライン21から系外に抜き出した。ライン21から抜き出されたガスは、ライン21に設置された図示していない流量計及び温度計により、ガス流量及び温度が測定され、その測定値はそれぞれ635Nm3/h及び29.0℃であった。ガス組成については、今回、分析は行わず、過去実績値を使用した。これらのデータから凝縮器出口ガスの質量及び熱量バランスを計算した結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
脱青酸脱水塔18の24段から塔内液を抜き出し、サイドカットクーラー23bで冷却した。サイドカットクーラー23bに用いた冷媒23aは、25℃の水であった。サイドカットクーラーの除熱量Q3は、デカンター23dの液温が30℃となるように、冷媒23aの流量で調整した。Q3は720×103kcal/hであった。塔から抜き出したサイド流は、デカンター23dにて有機層と水層の二層に分離し、水層は、ライン23fにより抜き出し、回収塔12の供給液にリサイクルした。有機層はライン23eにより、塔の23段に戻した。水層は、ライン23fに設置された図示していない流量計により、質量を測定し、その測定値は1372kg/hであった。水層の温度は、デカンター23dの液温と同一とした。水層液を採取し、アクリロニトリル、シアン化水素及び水の濃度を分析した。これらのデータから水層抜出液の質量及び熱量バランスを計算した結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
リボイラー24aの熱源には、回収塔12下部から抜き出した110℃のプロセス水を用いた。与えた熱量Q1は200×103kcal/h/t−アクリロニトリルとし、製品塔25にて製品として取得したアクリロニトリルの質量が、時間当たり11.5tであったので、2300×103kcal/hとなるよう、リボイラー24aに通じるプロセス水24bの流量を調整した。
塔底ライン24から粗アクリロニトリルを抜き出し、製品塔25に送った。塔底抜出液は、ライン24に設置された図示していない流量計により質量を測定し、その測定値は、11585kg/hであった。塔底抜出液の温度は、脱青酸脱水塔18の塔底の液温と同一とした。塔底液を採取し、アクリロニトリル、シアン化水素及び水の濃度を分析した。これらのデータから塔底抜出液の質量及び熱量バランスを計算した結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
表1〜表4に記載した数値は、流量計の指示誤差及び分析誤差を含むものであり、±5%以内のバランスのズレは許容できる。
以上、計算した数値を(1)式に代入し、凝縮器20の除熱量Q2を計算すると、1115×103kcal/hとなった。
アクリロニトリル生産量を11.5±0.2t/hとした時期約6ヶ月間、上記の除熱量Q2で脱青酸脱水塔の運転を行った。脱青酸脱水塔は安定的に運転でき、高純度のアクリロニトリル製品を安定的に取得できた。また、粗シアン化水素の純度も安定しており、シアン化水素誘導体の品質にも問題はなかった。
【0043】
[実施例2]
生産計画の変更によりアクリロニトリル生産量を12.7t/hに増量したこと以外は、実施例1と同一の設備でアクリロニトリルを製造した。
熱量Q1は2550×103kcal/hまで、除熱量Q3は795×103kcal/hまで増加させた。
Wf、Wh、Ww及びWbは、それぞれ15015kg/h、844kg/h、1515kg/h及び12795kg/hとなった。
脱青酸脱水塔への供給液の組成分析を行ったところ、実施例1と同一であったため、他箇所の組成分析は行わず、実施例1と同一とした。脱青酸脱水塔18の塔内の各温度及びデカンター23dの温度は、実施例1と同一と仮定した。
以上より、算出した除熱量Q2は1125×103kcal/hであり、この除熱量Q2で脱青酸脱水塔の運転を行った。脱青酸脱水塔18の塔内の各温度及びデカンター23dの温度は、実施例1と同一となった。脱青酸脱水塔は安定的に運転でき、高純度のアクリロニトリル製品を安定的に取得できた。また、粗シアン化水素の純度も安定しており、シアン化水素誘導体の品質にも問題はなかった。
【0044】
[実施例3]
プロパン、アンモニア及び空気を実施例1と同じ流動層反応器1に供給し、プロパンのアンモ酸化反応を下記の通り行った。
流動層触媒は、粒径10〜100μm、平均粒径55μmであるモリブデン−バナジウム系担持触媒を用い、静止層高2.2mとなるよう充填した。空気分散板から空気を64500Nm3/h供給し、原料ガス分散管からプロパン4300Nm3/h及びアンモニアを4300Nm3/h供給した。反応温度は440℃となるよう除熱管で制御した。圧力は0.75kg/cm2Gであった。
反応生成ガスを急冷塔6に導入し、水と向流接触させた。また、未反応のアンモニアを硫酸で中和除去した。
急冷塔6から取り出したガスを吸収塔9に導入した。塔頂ライン14より吸収水を導入し、ガスと向流接触させ、ガス中のアクリロニトリル、アセトニトリル及びシアン化水素を水中に吸収させた。未吸収のガスは、吸収塔塔頂ライン11より取り出し、焼却した。吸収塔塔頂から取り出したガス中のアクリロニトリル濃度が100volppmとなるよう、吸収水量を調整した。
吸収塔塔底液を予熱し、回収塔12に供給した。回収塔でアセトニトリル及び大部分の水を分離し、塔頂ライン17からアクリロニトリル、シアン化水素及び水を留出させた。該留出蒸気を凝縮し、有機層と水層を形成させ、水層は回収塔の供給ライン10にリサイクルし、有機層は脱青酸脱水塔18に供給した。
脱青酸脱水塔18への供給液は、ライン17に設置された図示していない流量計及び温度計により、質量及び温度を測定した。測定値は、それぞれ6219kg/h及び35.0℃であった。供給液を採取し、アクリロニトリル、シアン化水素及び水の濃度を分析した。これらのデータから供給液の質量及び熱量バランスを計算した結果を表5に示す。
【0045】
【表5】

【0046】
脱青酸脱水塔18の塔頂ライン19から粗シアン化水素ガスを抜き出して凝縮器20に送り、冷却して分縮した。凝縮器20は、後述する質量及び熱量バランスから計算した除熱量Q2で運転制御した。凝縮器20に用いた冷媒20aは、6℃の水であり、水量を制御することで除熱量Q2となるようにした。凝縮したシアン化水素液を塔頂に還流し、凝縮しなかった不純物の少ないシアン化水素ガスをライン21から系外に抜き出した。ライン21から抜き出されるガスは、ライン21に設置された図示していない流量計及び温度計により、ガス流量及び温度が測定され、それぞれ470Nm3/h及び29.0℃であった。ガス組成については、分析は行わず、過去実績値を使用した。これらのデータから凝縮器出口ガスの質量及び熱量バランスを計算した結果を表6に示す。
【0047】
【表6】

【0048】
脱青酸脱水塔18の29段から塔内液を抜き出し、サイドカットクーラー23bで冷却した。サイドカットクーラー23bに用いた冷媒23aは、25℃の水であった。サイドカットクーラーの除熱量Q3は、デカンター23dの液温が30℃となるように、冷媒23aの流量で調整した。Q3は320×103kcal/hであった。塔から抜き出したサイド流は、デカンター23dにて有機層と水層の二層に分離し、水層はライン23fにより抜き出し、回収塔12の供給液にリサイクルした。有機層はライン23eにより、塔の28段に戻した。水層は、ライン23fに設置された図示していない流量計により質量を測定し、その測定値は432kg/hであった。水層の温度は、デカンター23dの液温と同一とした。水層液を採取し、アクリロニトリル、シアン化水素及び水の濃度を分析した。これらのデータから水層抜出液の質量及び熱量バランスを計算した結果を表3に示す。
【0049】
【表7】

【0050】
リボイラー24aの熱源には、回収塔12下部から抜き出した110℃のプロセス水を用いた。与えた熱量Q1は、250×103kcal/h/t−アクリロニトリルとし、製品塔25にて製品として取得したアクリロニトリルの質量が、時間当たり5.22tであったので、1305×103kcal/hとなるよう、リボイラー24aに通じるプロセス水24bの流量を調整した。
塔底ライン24から粗アクリロニトリルを抜き出し、製品塔25に供給した。塔底抜出液は、ライン24に設置された図示していない流量計により、質量を測定した。測定値は、5312kg/hであった。塔底抜出液の温度は、脱青酸脱水塔18の塔底の液温と同一とした。塔底液を採取し、アクリロニトリル、シアン化水素及び水の濃度を分析した。これらのデータから塔底抜出液の質量及び熱量バランスを計算した結果を表8に示す。
【0051】
【表8】

【0052】
以上、計算した数値を(1)式に代入し、凝縮器20の除熱量Q2を計算すると、722×103kcal/hとなった。
アクリロニトリル生産量を5.22±0.17t/hとした時期約4ヶ月間、上記の除熱量Q2で脱青酸脱水塔の運転を行った。脱青酸脱水塔は安定的に運転でき、高純度のアクリロニトリル製品を安定的に取得できた。また、粗シアン化水素の純度も安定しており、シアン化水素誘導体の品質にも問題はなかった。
【0053】
[比較例1]
脱青酸脱水塔に係わる熱量バランス計算から凝縮器の除熱量を算出しなかったこと以外は、実施例1と同一の設備でアクリロニトリルを製造した。リボイラーの熱量Q1及び凝縮器の除熱量Q2の調整は、運転中、塔底液のシアン化水素及び水の濃度及び/又は凝縮器から抜出される粗シアン化水素中に留出するアクリロニトリルの濃度を測定して、これらが分離スペックを満たすよう調整した。
運転開始直後、Q1過剰及び/又はQ2不足により凝縮器からの還流量が少なかったためか、粗シアン化水素中に留出するアクリロニトリルの割合が高かった。そこで、まず、Q2を上げてみたが、前記Q2の増加量が適正値を超えて多過ぎたためか、塔の圧力が不安定となり、また塔底の液レベルが変動(低下)する現象(塔内の蒸気量及び液量が過多となり、トレイから液が降下しにくくなる現象(フラッディング))が見られた。なお、塔底液のレベルは多少の低下があっても差し支えない程度に余裕を持って運転するのが通常であるが、許容できる範囲を超えて低下してしまうと、塔底液を抜出すポンプがキャビテーションを起こして稼動できなくなってしまうので、液レベルの変動が小さい運転が望まれる。続いて、Q1及びQ2の調整頻度を上げて運転を実施した塔底液の組成分析を参照し、塔圧の変動がないよう段階的に減調整した。最終的に、塔底液の組成は、シアン化水素が50wtppm以下、水が1.0wt%以下になるようにした。この調整に2日間要した。その間、アクリロニトリル品質が悪化した。また、アクリロニトリル生産量に関して、計画生産量を達成できなかった。
【0054】
[比較例2]
脱青酸脱水塔に係わる熱量バランス計算から凝縮器の除熱量を算出しなかったこと以外は、実施例3と同一の設備でアクリロニトリルを製造した。リボイラーの熱量Q1及び凝縮器の除熱量Q2の調整は、運転中、塔底液のシアン化水素及び水の濃度及び/又は凝縮器から抜出される粗シアン化水素中に留出するアクリロニトリルの濃度を測定して、これらが分離スペックを満たすよう調整した。
運転開始直後、Q2が過多であったためか、塔底液中のシアン化水素濃度が高かった。そこで、Q1を上げてみたが、この時、塔の圧力が不安定となり、塔底の液レベルが変動(低下)する現象が見られた。続いて、Q1及びQ2の調整頻度を上げて運転を実施した塔底液の組成分析を参照し、塔圧の変動がないよう段階的に減調整した。最終的に、塔底液の組成は、シアン化水素が50wtppm以下、水が1.0wt%以下になるようにした。この調整に2日間要した。その間、アクリロニトリル品質が悪化した。また、アクリロニトリル生産量に関して、計画生産量を達成できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の方法は、プロピレン及び/又はプロパン、アンモニア及び分子状酸素を触媒の存在下に反応させるアクリロニトリルの製造プロセスにおける産業上利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0056】
1 流動層反応器
2 プロピレン及び/又はプロパンの供給管
3 アンモニアの供給管
4 空気(酸素)の供給管
6 急冷塔
5、7、8 ライン
9 吸収塔
10、11 ライン
12 回収塔
13、14、15、16、17 ライン
18 脱青酸脱水塔
19 ライン
20 脱青酸脱水塔凝縮器
20a 脱青酸脱水塔凝縮器に供給する冷媒
21、22、23、23c、23e、23f ライン
23a 脱青酸脱水塔サイドカットクーラーに供給する冷媒
23b 脱青酸脱水塔サイドカットクーラー
23d 脱青酸脱水塔デカンター
24、24c ライン
24a 脱青酸脱水塔リボイラー
24b 脱青酸脱水塔リボイラーに供給する熱媒
25 製品塔
26、27、28、29 ライン
30 製品塔凝縮器
31 ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留塔と、前記蒸留塔に接続された、塔頂ガスの凝縮器と、を有する蒸留装置を用いてアクリロニトリル、シアン化水素及び水を含む溶液を蒸留する工程を含むアクリロニトリルの精製方法であって、
前記蒸留装置の熱量バランスから前記凝縮器の除熱量を算出して前記凝縮器を制御する工程を含む方法。
【請求項2】
前記蒸留装置に供給及び前記蒸留装置から抜出される溶液及び/又はガスの質量及び温度、並びに前記溶液及び/又はガスに含まれる前記アクリロニトリル、前記シアン化水素及び前記水の濃度、を測定し、前記熱量バランスを求める、請求項1記載のアクリロニトリルの精製方法。
【請求項3】
前記蒸留塔の中段から前記溶液の一部を抜出し、その中段抜出し液を冷却及び油水分離した後、有機層を前記蒸留塔に戻し、水層を排出する工程を含み、
前記蒸留装置の供給液、塔底抜出液、前記塔頂ガス、及び前記水層の質量及び温度、並びにこれらに含まれる前記アクリロニトリル、前記シアン化水素及び前記水の濃度を測定し、前記熱量バランスを求める、請求項1又は2記載のアクリロニトリルの精製方法。
【請求項4】
前記除熱量を下記式(1)
Hf+Q1=Hh+Hb+Hw+Q2+Q3 (1)
(式(1)中、Hfは前記蒸留塔の供給液のエンタルピー、Hhは塔頂ガスのエンタルピー、Hbは塔底抜出液のエンタルピー、Hwは前記水層のエンタルピー、Q1はリボイラーの加熱量、Q2は前記凝縮器の除熱量、Q3は前記中段抜出し液の冷却による除熱量を示す。)
によって算出する、請求項1〜3のいずれか1項記載のアクリロニトリルの精製方法。
【請求項5】
アクリロニトリル、シアン化水素及び水を含む溶液を蒸留する装置であって、
蒸留塔と、前記蒸留塔に接続された、塔頂ガスを凝縮する凝縮器と、を有し、
前記蒸留装置に供給及び前記蒸留装置から抜出される溶液及び/又はガスの質量及び温度、並びに前記溶液及び/又はガスに含まれる前記アクリロニトリル、前記シアン化水素及び前記水の濃度が測定されて前記蒸留塔の熱量バランスが算出され、
前記蒸留塔の熱量バランスから前記凝縮器の除熱量が算出される蒸留装置。
【請求項6】
前記蒸留塔の中段に溶液の一部が抜出されるラインが設けられており、前記ラインは冷却器及び油水分離器に接続されており、
前記蒸留塔の塔底抜出液、前記塔頂ガス、及び前記水層の質量及び温度、並びにこれらに含まれる前記アクリロニトリル、前記シアン化水素及び前記水の濃度が測定され、前記熱量バランスが算出される、請求項5記載の蒸留装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−136483(P2012−136483A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290911(P2010−290911)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】