説明

アクリロニトリル系ポリマーの製造方法

【課題】後重合を抑制することにより不純物を削減したアクリロニトリル系ポリマーを、レドックス系触媒を開始剤とした連続重合法にて提供できる。
【解決手段】重合反応液に重合停止剤を添加し、さらに重合反応液中に酸素を供給しながら未反応のアクリロニトリル単位を気化分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用繊維や炭素繊維用前駆体繊維束等の製造に用いられるアクリロニトリル系ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にアクリロニトリル系ポリマーの工業的製造法としては、水系析出重合法と溶液重合法が知られている。水系析出重合法は、水性媒体中、水溶性重合開始剤を用いて、アクリロニトリルと必要に応じて使用される共重合性成分とからなる単量体を重合する方法であって、重合反応が進行するにつれポリマーが析出する不均一系の重合法である。溶液重合法は、上述の単量体を溶解しうる無機溶媒または有機溶媒中で、該単量体を重合する方法であり、ポリマーも溶媒中に溶解する均一系の重合法である。
【0003】
これらの重合法によって連続重合を行う場合は、水性媒体、無機溶媒または有機溶媒と、重合開始剤と、単量体等の原料成分とは連続的に重合反応器に供給され、攪拌により分散させられながら重合され、連続的に重合反応器から排出される。これらのうち、特に、水系析出重合を連続的に行う水系析出連続重合法は、連続溶液重合法に比べて短い滞在時間で連続生産が可能で、しかも簡便な重合反応器を使用できるため、非常に生産性が優れている。
【0004】
連続重合において重合反応器から排出される重合反応液は、重合転化率が100%に達しておらず、未反応の単量体を含んでいる。未反応の単量体は洗浄や気化によって除去されるが、未反応の単量体が重合反応器外で除去工程までに後重合すると、分子量分布の広がりや、共重合体を製造している場合には組成分布の広がりが生じる恐れがあり、その成分がポリマー中の不純物となって、毛羽発生など繊維の物性低下に繋がるため、重合反応液が重合反応器外に排出された後、重合停止剤が加えられることが多い。
【0005】
しかしながら、重合反応液が重合反応器外に排出されてから加える重合停止剤が重合を抑制する効果は、単量体によって異なり、主成分の単量体の重合を抑制していれば重合は一旦停止するが、未反応の主成分の単量体を気化により除去する工程を含む場合、主成分の単量体が除去された後に少量含まれる共重合成分が重合する恐れがある。
【0006】
例えば、アクリロニトリル系ポリマーの連続水系析出において、重合停止剤としてシュウ酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムの混合水溶液を用いる方法が開示されている。しかしながら、アクリロニトリル単位と、アクリルアミド単位、ヒドロキシアルキルエステル基を有するビニル単量体単位の少なくとも1種以上とを共重合させ、上記重合停止剤を添加した後、未反応のアクリロニトリル単位を気化により除去した場合、これらの重合停止剤のみでは未反応のアクリルアミド単位、ヒドロキシアルキルエステル基を有するビニル単量体単位の後重合が充分に抑制されないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−26512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、後重合を抑制することにより不純物を削減したアクリロニトリル系ポリマーを、レドックス系触媒を開始剤とした連続重合法にて提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアクリロニトリル系ポリマーの製造方法は、重合開始剤としてレドックス系触媒を用い、アクリロニトリル単位が95〜99モル%と、共重合成分としてアクリルアミド単位、ヒドロキシアルキルエステル基を有するビニル単量体単位の1種以上の単量体単位が1〜5モル%含有する単量体とを、重合反応器内の水または溶媒中で重合反応させる工程、
重合反応器から排出された重合反応液に重合停止剤を添加する工程、
さらに重合反応液中に酸素を供給しながら未反応のアクリロニトリル単位を気化分離する工程
を有することを特徴とする。
【0010】
本発明のアクリロニトリル系ポリマーの製造方法は、重合開始剤としてレドックス系触媒を用い、アクリロニトリル単位が95〜99モル%と、共重合成分としてアクリルアミド単位、ヒドロキシアルキルエステル基を有するビニル単量体単位の1種以上の単量体単位が1〜5モル%含有する単量体とを、重合反応器内の水または溶媒中で重合反応させる工程、
重合反応器から排出された重合反応液に重合停止剤の添加と、酸素の供給を行う工程、
さらに未反応のアクリロニトリル単位を気化分離する工程
を有することを特徴とする。
【0011】
前記アクリロニトリル系ポリマーの製造方法は、未反応のアクリロニトリル単位を気化分離した工程後の重合反応液に、さらに酸素を供給する工程を有することが好ましい。
【0012】
前記アクリロニトリル系ポリマー製造方法は、酸素供給後の重合反応液の溶存酸素量を3〜20mg/Lとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
後重合を抑制することにより不純物を削減したアクリロニトリル系ポリマーを、レドックス系触媒を開始剤とした連続重合法にて提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアクリロニトリル系ポリマーの製造方法は、レドックス系触媒を重合開始剤として、アクリロニトリル単位と共重合成分としてアクリルアミド単位、ヒドロキシアルキルエステル基を有するビニル単量体単位の少なくとも1種以上を含有する単量体を重合反応させ、重合反応器から排出された未反応の単量体を含む重合反応液に重合停止剤を添加し、重合反応液を加熱して未反応のアクリロニトリル単位を気化分離する工程から成る。重合法は特に限定しないが、水性媒体中で単量体を連続的に重合する水系析出連続重合が好ましい。
【0015】
重合工程で重合される単量体は、アクリロニトリル単位と共重合成分としてアクリルアミド単位、ヒドロキシアルキルエステル基を有するビニル単量体単位の少なくとも1種以上の単量体を含有する。必要に応じて他のモノマー単位を共重合させてもよい。該アクリロニトリル系ポリマーには、炭素繊維にしたときの共重合成分に起因する欠陥点を少なくし、炭素繊維の品質並びに性能を向上させる目的からアクリロニトリル単位が97.5モル%以上含まれることが好ましく、より好ましくは98.5モル%以上である。
【0016】
また、本発明のアクリロニトリル系ポリマーは、アクリルアミド単位、ヒドロキシアルキルエステル基を有するビニル単量体単位の少なくとも1種以上を1.0モル%以上含有する。1.0モル%以上であると、紡糸工程における凝固時の繊維内部への水の拡散を緩やかにする効果が得られやすい。なお、ヒドロキシアルキルエステル基を有するビニル単量体単位の含有量の上限は、耐炎化反応の暴走の抑制や、耐炎化工程でのヒドロキシアルキル基の脱離に伴う炭素化収率の低下を抑える上でも、2.5モル%を越えない範囲とするのが好ましい。ヒドロキシアルキルエステル基を有するビニル単量体としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシエチル、イタコン酸ジ−2ヒドロキシプロピル等が挙げられる。
【0017】
重合に使用される開始剤はレドックス系触媒を用い、重合反応を促進するために、重合反応器内に微量の金属イオンを添加する。レドックス開始剤とは、酸化剤と還元剤を存在させ、酸化剤と還元剤との間における酸化還元反応によってラジカルを発生する開始剤である。ここに金属イオンを触媒として添加すると、金属イオンを介した酸化還元反応が起こり、開始反応が促進される。レドックス系触媒における酸化剤、還元剤の組合せ、酸化剤と還元剤の供給比率、金属イオン添加量は単量体の組成などに応じて適宜選択できる。
【0018】
水系析出連続重合法で重合する際には、例えば、あらかじめ重合反応器に水(水性媒体)を仕込んでおき、そこへ開始剤が溶解した開始剤溶液や単量体を連続的に供給し、攪拌により均一に分散させながら重合を進行させる。
【0019】
ここで、重合反応器内へ仕込む水の単量体に対する質量比は、単量体の組成などに応じて適宜選択されるが、水/単量体が1.5〜8.0の範囲が好ましい。水/単量体が1.5以上であると、重合反応器内が粘調にならず、攪拌困難となることを抑制しやすくなる。一方、水/単量体が8.0以下であると生産性が向上しやすくなる。
【0020】
重合反応器における単量体の平均滞在時間は、30分〜150分の範囲が好ましい。30分以上であると重合率が高くしやすくなり、150分以下であると生産性が向上しやすくなる。なお、平均滞在時間とは、下記式(1)で定義される。
【0021】
平均滞在時間[hr]=[重合反応器容量(L)]/[重合反応器への供給量(L/hr)]・・・(1)
ここで供給量とは、単位時間あたりに定常状態時に重合反応器に供給される水性媒体、単量体、開始剤などの総量である。
【0022】
重合反応器内のpH、温度などは、単量体の組成などに応じて適宜選択可能である。必要に応じて、通常用いられる界面活性剤や凝集剤を重合反応器内に供給してもよい。
【0023】
重合反応器外へ排出された重合反応液には、水に溶解させた重合停止剤を連続的に供給する。重合停止剤にはキレート剤とpH調整剤を併用する。
【0024】
キレート剤としてはシュウ酸、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、フィチン酸ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸等とそれらの塩類、アセチルアセトン、オキシン、2,2‘−ジピリジル、o−フェナントロリン等が挙げられ、使用量は重合反応液のpH、濃度、添加した金属イオン種等によって異なるが、通常は使用した金属イオンに対して2〜10000モル当量使用すればよい。このような範囲であれば、重合を充分に抑制することができ、繊維の物性に悪影響を及ぼさない。
【0025】
pH調整剤としては重合反応液のpHを上げるアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩が挙げられる。
例えば炭酸、炭酸水素、水酸化物、リン酸、リン酸水素等のアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
使用量は重合反応液のpH、濃度、添加した開始剤量によって異なり、重合反応液のpHが4〜7になるように加えればよい。このような範囲であれば、重合を充分に抑制することができ、繊維の物性に悪影響を及ぼさない。
【0026】
重合反応器から排出された重合反応液に酸素を供給しながら、重合反応液を温度40〜80℃、圧力20〜101kPa(a)の範囲内のアクリロニトリルが気化する条件で加熱して、未反応のアクリロニトリル単位を気化し、重合反応液中の未反応のアクリロニトリル単位が100ppm以下、好ましくは10ppm以下になるまで、未反応のアクリロニトリル単位を気化分離する。
重合反応液に酸素を供給する酸素供給方法としては酸素吹き込み、空気吹き込み、酸素を含有した水の投入などが挙げられ、重合反応液中の溶存酸素量が3〜20mg/L、好ましくは5〜20mg/Lであれば未反応の単量体の重合が抑制されやすくなる。重合反応液に、アクリロニトリル単位を気化分離した後、水分除去工程まで液中に酸素を供給し続けるのが好ましい。
重合反応器から排出された重合反応液への酸素の供給は、未反応のアクリロニトリル単位を気化分離する前でも良く、前記重合反応液への重合停止剤の供給前後または同時であっても良い。
【0027】
水分除去工程では、重合工程で得られた重合反応液を例えば70℃程度のイオン交換水で洗浄、脱水後、熱風循環型の乾燥機などで乾燥することによって、ポリマー粉体として回収する。こうして回収されたポリマー粉体は、例えばこのポリマー粉体が衣料用繊維や炭素繊維用前駆体繊維束等の繊維製造用途である場合には、溶剤に溶解されて紡糸原液とされ、紡糸される。
【0028】
以上説明したように、このようなアクリロニトリル系ポリマーの製造方法によれば、後重合により共重合成分のみからなるポリマーが発生することがなく、不純物を削減したアクリロニトリル系ポリマーを得ることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
(溶存酸素の測定)
セントラル科学株式会社製デジタル溶存酸素計UC−12型を使用し、未反応のアクリロニトリルを気化分離した後の重合反応液の溶存酸素を測定した。
【0031】
(ポリマー生成の確認)
東ソー製HLC−8020を使用し、ガードカラムには東ソー製TSK−GEL SuperH4000、カラムには東ソー製TSK−GEL SuperH2000およびSuperH1000を用い、溶離液には0.20mol/L−硝酸ナトリウムの水、アセトニトリル混合溶液(水/アセトニトリル=9/1)を用いて、未反応のアクリロニトリル単位を気化分離した後の重合反応液のGPC測定を行い、20〜25分に発現するポリマーのピークの有無によりポリマー生成を確認した。
【0032】
(実施例1)
容量80リットルのタービン撹拌翼付きアルミニウム製重合釜に、イオン交換水が重合釜オーバーフロー口まで達するよう76.5リットル入れ、第一硫酸鉄(Fe2SO4
・7H2O)を0.01g加え、重合反応液のpHが3.0になるように硫酸を用いて調節し、重合釜内の温度を57℃で保持した。
次に、重合開始30分前から、単量体に対してレドックス重合開始剤である過硫酸アンモニウムを0.51×10−2モル%、亜硫酸水素アンモニウムを1.76×10−2モル%、硫酸第一鉄(Fe2SO4 ・7H2O)を0.3ppm、硫酸を0.1×10−2モル%となるように、それぞれ脱イオン交換水に溶解して連続的に供給し、攪拌速度180rpm、攪拌動力1.2kW/mにて撹拌を行い、重合反応器内での単量体の平均滞在時間が70分になるように設定した。
ついで、重合開始時に、アクリロニトリル単位97.0モル%、アクリルアミド単位2.6モル%、メタクリル酸単位0.4モル%から成る単量体を水/単量体=3(質量比)となるように、単量体の連続供給を開始した。その後、重合開始1時間後に重合反応温度を50℃まで下げて温度を保持し、重合反応器オーバーフロー口より連続的に重合反応液を排出した。
重合反応液には、シュウ酸ナトリウム0.37×10−2モル%、重炭酸ナトリウム1.78×10−2モル%をイオン交換水に溶解した重合停止剤水溶液を、重合反応液のpHが5.5〜6.0になるように加えた。
さらに、重合反応液100mlを取り出してろ過し、ろ液を大気圧下80℃で空気を50cc/min.で吹き込みながら30分間加熱して未反応のアクリロニトリルを気化分離した後、残渣のGPC測定を行いポリマー生成の有無を確認した。結果を表に示す。
【0033】
(実施例2)
アクリロニトリル単位97.0モル%、アクリルアミド単位2.6モル%、メタクリル酸単位0.4モル%から成る単量体をアクリロニトリル単位98.9モル%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位1.1モル%から成る単量体に変更した以外は実施例1と同様にして評価した。結果を表に示す。
【0034】
(比較例1)
重合反応液に空気を吹き込まないこと以外は実施例1と同様にして評価した。結果を表に示す。
【0035】
(比較例2)
重合反応液に空気を吹き込まないこと以外は実施例2と同様にして評価した。結果を表に示す。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合開始剤としてレドックス系触媒を用い、アクリロニトリル単位が95〜99モル%と、共重合成分としてアクリルアミド単位、ヒドロキシアルキルエステル基を有するビニル単量体単位の1種以上の単量体単位が1〜5モル%含有する単量体とを、重合反応器内の水または溶媒中で重合反応させる工程、
重合反応器から排出された重合反応液に重合停止剤を添加する工程、
さらに重合反応液中に酸素を供給しながら未反応のアクリロニトリル単位を気化分離する工程
を有するアクリロニトリル系ポリマーの製造方法。
【請求項2】
重合開始剤としてレドックス系触媒を用い、アクリロニトリル単位が95〜99モル%と、共重合成分としてアクリルアミド単位、ヒドロキシアルキルエステル基を有するビニル単量体単位の1種以上の単量体単位が1〜5モル%含有する単量体とを、重合反応器内の水または溶媒中で重合反応させる工程、
重合反応器から排出された重合反応液に重合停止剤の添加と、酸素の供給を行う工程、
さらに未反応のアクリロニトリル単位を気化分離する工程
を有するアクリロニトリル系ポリマーの製造方法。
【請求項3】
未反応のアクリロニトリル単位を気化分離した工程後の重合反応液に、さらに酸素を供給する工程を有する請求項1または2に記載のアクリロニトリル系ポリマーの製造方法。
【請求項4】
酸素供給後の重合反応液の溶存酸素量を3〜20mg/Lとする請求項1、2または3記載のアクリロニトリル系ポリマーの製造方法。

【公開番号】特開2012−188534(P2012−188534A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52836(P2011−52836)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】