説明

アクロレイン、インターロイキン−6及びCRPの含有量、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量、並びに、被験者の年齢を指標とした脳卒中・無症候性脳梗塞の検出方法

【課題】より精度の高い脳卒中・無症候性脳梗塞の検出又はスクリーニング方法等を提供すること。
【解決手段】被験者の生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定し、得られた測定値と被験者の年齢を指標として脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出する方法、該検出方法を実施するためにキット、及び、該キットを含む、脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出するためのシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクロレイン、炎症性マーカーであるインターロイキン−6及びCRPの含有量、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量、並びに、被験者の年齢を指標とした脳卒中・無症候性脳梗塞の検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国における脳血管疾患による死亡者数は悪性新生物、心疾患に次いで第3位である。罹患後の後遺症は麻痺・運動不能を伴うなど、患者自身の日常生活に極めて多大な支障を来たすだけでなく、介護者の心的ストレスも助長する。脳血管疾患の大半を占める脳卒中は早期発見・早期治療が困難な疾患である。半身不随、半身麻痺、しびれ、感覚の低下、手足の運動障害、意識障害、及び、言語障害等の脳梗塞の自覚症状を伴わない脳梗塞(無症候性脳梗塞)の段階での治療開始が効果的であるが、無症候性脳梗塞は画像診断により偶然に発見されるケースが大半であり、血液・尿検査等に利用される診断マーカーが存在しないのが現状である。その為、画像診断などの高価な機器を必要としない、簡易で、確度の高い診断方法の開発が望まれている。
【0003】
これまでに脳梗塞と相関があるバイオマーカーとしてアクロレイン及びそれをポリアミンから生成するポリアミンオキシダーゼが知られている。アクロレインは細胞内ではアルデヒドデヒドロゲナーゼにより無毒化されるが、細胞外に漏出すると強い毒性を示す。このことから、アクロレインは細胞傷害度と強い相関があると考えられ、腎障害、脳卒中・無症候性脳梗塞といった症状との相関について研究がなされている。非特許文献1〜3及び特許文献1及び2を参照されたい。
【非特許文献1】Sakata, K. et al (2003) Biochem. Biophys. Res. Commun. 305, 143-149
【非特許文献2】Tomitori, H. et al (2005) Stroke 36, 2609-2613
【非特許文献3】Igarashi, K. et al (2006) Amino Acids 31, 477-483
【特許文献1】特開2002−95942
【特許文献2】特開2005−304476
【0004】
しかしながら、例えば、特許文献2に記載されたようなアクロレイン及びポリアミンオキシダーゼ活性に基づく従来の脳卒中・無症候性脳梗塞の診断及びスクリーニング方法では、特に、実用化という観点からはその精度は未だ充分に満足のいくものではなかった。
【0005】
一方、インターロイキン−6はB細胞の分化誘導因子として発見され、多発性骨髄腫の悪性細胞増殖因子で、さまざまな炎症性疾患や自己免疫疾患に関与することが知られている。このことから、脳卒中のバイオマーカーとしての研究がなされている。非特許文献4、5及び特許文献3を参照されたい。
【0006】
又、CRP(C反応性蛋白質)は肺炎双球菌(Streptococcus pneumoniae)の細胞壁から抽出されたC多糖体と沈降反応を起こす血清蛋白(βグロブリン)として発見され、感染症(特に細菌感染)・心筋梗塞・自己免疫疾患などの多くの疾患で血中濃度が上昇することが知られている。近年、測定機器の技術向上により高感度CRP(high sensitivity CRP: hs-CRP)の測定法が開発され、感染症や悪性腫瘍などの明らかな炎症性疾患がない状態での,極めて軽度の炎症反応を感知できる(最小検出感度0.01 mg/L)。Ridkerらの大規模臨床研究により、CRPが虚血性心疾患の独立した予知マーカーとなることが報告された。このことから、脳卒中のバイオマーカーとしての研究がなされている。非特許文献6、7、8及び特許文献3を参照されたい。
【非特許文献4】Smith, C.J. et al (2004) BMC Neurol. 15, 4:2
【非特許文献5】Tzoulaki, I. et al (2006) Circulation. 115, 2119-2127
【非特許文献6】Ridker PM. et al (2002) Engl J Med 347, 1557-1565
【非特許文献7】Wakugawa, Y. et al (2006) Stroke 37, 27-32
【非特許文献8】Tzoulaki, I. et al (2006) Circulation. 115, 2119-2127
【特許文献3】特表2005−522669
【0007】
しかしながら、インターロイキン−6及びCRPにおいては単独バイオマーカーとして脳梗塞診断に使用されている例は無く、B型ナトリウム利尿ペプチド,マトリクスメタロプロテアーゼ−9,S−100β,トロンビン−抗トロンビンIII複合体,および1またはそれ以上の型のフォン・ビルブラント因子などと併用し、脳卒中症状発症後の患者の卒中タイプを区別する手法が開示されている。更に、卒中症状が発症する前の、特に無症候性脳梗塞の患者サンプルとインターロイキン−6及びCRPとの関連性については何ら示唆も教示もされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、実用化に耐え得るような、より精度の高い脳卒中・無症候性脳梗塞の検出又はスクリーニング方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、被験者サンプル中のアクロレイン、炎症性マーカーであるインターロイキン−6及びCRP含有量、ポリアミンオキシダーゼ活性、被験者の年齢を数学的に統計解析することで新たに得られる値が無症候性脳梗塞の有無と統計学的に有意に相関することを見出し、それに基づき本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の各態様を包含する。
【0011】
(1)被験者の生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定し、得られた測定値と被験者の年齢を指標として脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出する方法。
(2)ポリアミンから生成される上記アルデヒド体がアクロレインである請求項1記載の方法。
(3)生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定し、得られた測定値と被験者の年齢から数学的な統計解析を行い、統計学的に有意な変化を与える値を得、その値に基づき脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出する、(1)又は(2)記載の方法。
(4)ニューラルネットワーク手法によって数学的な統計解析を行う、(3)記載の方法。
(5)生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定するための試薬を含む、脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出するためのキット。
(6)脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出するためのシステムであって、
生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定するための試薬:及び
数学的な統計解析を行うための電子処理機器及びソフトウェア:を含む前記システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明方法により、脳卒中及び無症候性患者を約95%の高い精度で検出することが可能となる。従って、脳梗塞の症状が発症する前に、脳卒中又は無症候性脳梗塞を早期に発見・診断し、又は、脳卒中又は無症候性脳梗塞の患者をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の最良の実施形態について詳細に説明するが、本発明は当業者に自明のその他の多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明方法で使用する被験者の生体サンプルは、好ましくは下記実施例において使用している血漿である。しかし他の生体サンプルも適宜使用することが可能であり。その様な他の生体サンプルとして、例えば尿、唾液、脳脊髄液、骨髄液などを挙げることが可能である。
【0015】
尚、本願明細書においてポリアミンとは、第一級アミノ基を二つ以上もつ直鎖の脂肪族炭化水素を意味するものである。知られている生体ポリアミンには、プトレッシン、カダベリン、スペルミジン、スペルミン、1. 3ジアミノプロパン、カルジン、ホモスペルミジン、3-アミノプロピルカダベリン、ノルスペルミン、テルモスペルミン、カルドペンタミンなどがあるが、それらに限定されるものではない。なお本発明において好適なポリアミンはプトレッシン、スペルミジン、スペルミンである。
【0016】
上記のポリアミンは酸化、アセチル化、アミノ基転移、カルバモイル化による代謝を受けるが、ポリアミンオキシダーゼ(アセチルポリアミンオキシダーゼ(AcPAO)及びスペルミンオキシダーゼ(SMO))はポリアミンの酸化に関与する酵素である。なお本願明細書においてポリアミンオキシダーゼとは、ジアミンまたはポリアミンを良い基質として酸化し、過酸化水素を発生する酵素を意味するものである。ポリアミンは、ポリアミンオキシダーゼによる酸化的脱アミノ化を受け、その結果アクロレインなどのアルデヒド体が生成する。なお本発明において好適なアルデヒド体はアクロレインであるが、それに限定されるものではない。
【0017】
血漿中のアクロレイン含有量は、当業者に公知の任意の方法、例えば、アクロレイン付加アミノ酸であるFDP-リジン(N−ホルミルピペリジノ・リジン)の含有量を測定することにより同定することができる。FDP-リジンの含有量は、例えばACR-LYSINE ADDUCT ELISA SYSTEM(日本油脂株式会社)を使用し、添付のマニュアルに従って測定することができる。なおアクロレイン含量はFDP-リジン以外の誘導体の形で測定することも可能である。またアクロレイン含量を直接測定することも可能であり、かかる方法は例えばAlarconらの報告(Alarcon, R.A. (1968) Anal. Chem. 40, 1704-1708)に記載されている。しかしアクロレインは他の分子との反応性が高いために、遊離の形で血中に存在する量が少ないという問題がある。そこで、FDP-リジンの形で測定することが簡便であることも併せて考えると、本発明において、FDP-リジンの形でアクロレインを測定することは好適な態様である。
【0018】
具体的には、被験者血漿及び標準液を抗原固定化プレートに50μL/wellずつ分注し、さらに一次反応抗体液を同量加える。室温で30分間静置した後、液を取り除き、洗浄液で洗浄後、二次反応抗体液を100μL/well分注する。室温で1時間静置後、洗浄液で洗浄し、発色液100μL/wellを加え室温で15分間静置することで発色させ、反応停止液を50μL/wellずつ分注した後、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定する。血漿中アクロレイン量は、血漿1mL当たりのFDP-リジン含有量(nmol/mL plasma)として表示される。
【0019】
血漿中のインターロイキン−6含有量は、当業者に公知の任意の方法、例えばHuman IL-6 ELISA(エンドジェン社)を使用し、添付のマニュアルに従って測定することができる。
【0020】
具体的には、一次反応抗体液を50μL/wellずつ98穴プレートに分注し、さらに被験者血漿及び標準液を同量加える。室温で2時間静置した後、液を取り除き、洗浄液で洗浄後、二次反応抗体液を100μL/well分注する。室温で30分間静置後、洗浄液で洗浄し、発色液100μL/wellを加え室温で30分間静置することで発色させ、反応停止液を100μL/wellずつ分注した後、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定する。血漿中のインターロイキン−6量は、血漿1ml当たりの含有量(pg/mL plasma)として表示される。
【0021】
血漿中のCRP含有量は、当業者に公知の任意の方法、例えばHuman CRP ELISA KIT(Alpha Diagnostics社)を使用し、添付のマニュアルに従って測定することができる。
【0022】
具体的には、洗浄液で各ウェルを洗浄後、被験者血漿及び標準液を98穴プレートに10μL/wellずつ分注し、さらに抗体酵素標識液を100μL/well加える。室温で30分間静置後、液を取り除き、洗浄液で洗浄する。発色液を加え室温で10分間振とうしながら発色させ、反応停止液を50μL/wellずつ分注した後、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定する。血漿中CRP量は、患者血漿1ml当たりのCRP(mg/dL plasma)として表示される。
【0023】
ポリアミンオキシダーゼ(AcPAO及びSMO)の活性測定は、当業者に公知の任意の方法、例えば10mM-Tris塩酸塩(pH7.5)、0.2mMの基質(アセチルスペルミン又はスペルミン)及び0.05mlの患者血漿の反応混合液0.06mlを37°Cにて48時間インキュベーションすることにより行なうことができる。0.02mlの反応混合液に最終濃度5%のトリクロロ酢酸(TCA)を加え、遠心分離する。得られた上清の一部をポリアミンのアッセイに使用する。ポリアミンオキシダーゼ活性は患者血漿1ml当たりのアセチルスペルミン又はスペルミンスペルミン分解により生成したスペルミジン量(nmol/ml plasma)で表示することができる。
【0024】
ポリアミンオキシダーゼの酵素活性測定方法は種々の報告において記載されており、そのような文献として、Sharminらの報告(Sharmin et al., (2001) Biochem. Biophys. Res. Commun. 282, 228-235)、Sakataらの報告(Sakata et al., (2003) Biochem. Biophys. Res. Commun. 305, 143-149)、Igarashiらの報告(Igarashi et al., (1986) J.Bacteriol. 166, 128-134)などを挙げることができる。かかる報告の記載を基にして当業者は適宜改変を行うことにより、ポリアミンオキシダーゼの酵素活性を測定することができる。
【0025】
またポリアミンオキシダーゼの蛋白質量は、当業者に公知の任意の方法、例えばポリアミンオキシダーゼに対して特異的な抗体を用いた酵素免疫測定法(ELISA)、ウエスタンブロッティング解析や免疫沈降法などによって測定することができる。かかる手法は本技術分野において公知の一般的な手法であり、当業者は適切な条件を適宜設定して上記の手法により酵素の蛋白質量を測定する事ができる。なおこれらの測定を行う際に使用されるポリアミンオキシダーゼに対する抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でも良い。
【0026】
ポリアミンオキシダーゼに対するポリクローナル抗体は、例えば通常のペプチド抗体作製の手法を用いてウサギをポリアミンオキシダーゼのペプチド断片で免疫することにより、得ることができる。ペプチド抗体が作製された事は、ペプチドを投与されたウサギから採血をしてその抗体価を測定することにより、抗体が十分な力価に達しているか検定を行うことによって確認する事ができる。ペプチド抗体作製の手法は種々の実験書などにも記載されており、当業者に良く知られているので、それらに記載を基に種々の改変を行ってポリアミンオキシダーゼの抗体を得ることができる。
【0027】
本発明においては、生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定し、得られた測定値と被験者の年齢から数学的な統計解析を行い、その結果、統計学的に有意な変化を与える値を得、該値に基づき脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出することができる。
【0028】
数学的な統計解析は、当業者に公知の方法、好ましくは、ニューラルネットワーク手法を用いて行うことが出来る。ニューラルネットワーク手法は、例えば、NEUROSIM/L(富士通株式会社)を使用し、添付のマニュアルに従って行うことができる。
【0029】
「カットオフ値」は、特定の疾患の検出を目的として設定する値である。上記で得られた値を「カットオフ値」として、無症候性脳梗塞を検出することができる。また、上記で得られた統計学的に有意な変化を与える値を「カットオフ値」として、脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出することができる。例えば、無症候性脳梗塞患者及び健常者において、前記バイオマーカーの含有量を測定した結果得られた値に基づき、市販の統計解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成し、最適な感度及び特異度を求め、検出の目的に応じて、例えば、一次スクリーニング等の目的の検査では感度が高い方を優先し、精査目的の検査では特異度が高くなるようなカットオフ値を設定することが可能である。
【0030】
また本発明の知見に基づき、被験者サンプル中のアクロレイン、炎症性マーカーであるインターロイキン−6及びCRPの含有量及びポリアミンオキシダーゼ活性又はこれら蛋白質量を抑制することによる、脳卒中の予防や病状の進捗を阻止する方法を提供することができる。
【0031】
更に、脳卒中の治療に有効である可能性がある候補化合物を実験動物に投与し、該化合物が該実験動物においてアクロレイン、炎症性マーカーであるインターロイキン−6及びCRPの含有量、ポリアミンオキシダーゼ活性又はこれら蛋白質量を阻害する活性を有するかを測定することにより、脳卒中の治療に有効である新たな薬剤をスクリーニング(探索)する方法を提供するものである。
【0032】
本発明は、更に、脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出するためのキットを提供する。該キットは、生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定するための試薬を含む。更に、必要に応じて、当業者に公知の任意の、測定器具・装置、標準液、緩衝液等を含有させることができる。
【0033】
又、本発明は、脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出するためのシステムであって、
生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定するための試薬:及び
数学的な統計解析を行うための電子処理機器及びソフトウェア:を含む前記システムも提供する。数学的な統計解析を行うための電子処理機器としては、当業者に公知の適当なコンピューター等、及び、数学的な統計解析を行うためのソフトウェアとしては、例えば、上記のニューラルネットワーク手法を実施することができるものを挙げることが出来る。
【実施例】
【0034】
次に、人工ニューラルネットワークを用いた脳梗塞判定モデルの構築に関する実施例を挙げて本発明に更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
被験者の同意の下、磁気共鳴画像検出法(MRI)により、頭部断層画像を得て梗塞の有無を確認した。これにより、被験者群を無症候性脳梗塞患者44人と健常者53人に分けた。無症候性脳梗塞患者及び健常者から採血を行い、血漿中のアクロレイン、インターロイキン−6(IL-6)及びCRP含有量及びポリアミンオキシダーゼ活性を比較した。
【0036】
血漿中アクロレイン量は、アクロレイン付加アミノ酸であるFDP-リジン(N−ホルミルピペリジノ・リジン)の含有量を測定することにより同定した。ACR-LYSINE ADDUCT ELISA SYSTEM(日本油脂株式会社)を用い、上記の方法で実施した。血漿中のインターロイキン−6含有量は、Human IL-6 ELISA(エンドジェン社)を用い、上記の方法で実施した。血漿中のCRP含有量は、Human CRP ELISA KIT(Alpha Diagnostics社)を使用し、上記の方法で実施した。血漿中のポリアミンオキシダーゼ(AcPAO及びSMO)の活性測定は、上記の方法で実施した。
【0037】
ニューラルネットワークモデルを構築するため、ソフトウェアはNEUROSIM/L version 4(富士通)を用い、学習定数はlearning rate(e)=5.0、momentum term(a)=0.4とし、エラーバックプロパゲーション法で学習した。3層のニューラルネットワークの入力層に血漿中バイオマーカー(ポリアミンオキシダーゼ、アクロレイン、インターロイキン−6、CRP)及び被験者の年齢の5種、中間層は経験則に基づき3、出力層は1とした。また、出力層の教師データには、無症候性脳梗塞患者に「1」、健常者に「0」の値を入力した。学習データ数は無症候性脳梗塞患者44検体、健常者53検体の合計97検体とした。
【0038】
実際の画像検出による無症候性脳梗塞の有無判定とニューラルネットワークのモデルでの予測結果の精度を検討するために、上記のソフトウェア解析により算出された予測値を用いて、Receiver operating characteristic(受信者動作特性;以下,ROC)曲線分析及びROC曲線の領域の面積(AUC)を算出した。ROC曲線分析及びAUCの算出には、GraphPad PRISM 4(GraphPad Software社)を使用した。カットオフ値の精度は、感度、特異度、的中度(陽性反応的中度、陰性反応的中度)及び尤度比(陽性尤度比、陰性尤度比)で評価した.
【0039】
図1に、入力層へ被験者の年齢と4種類の血漿中バイオマーカー(ポリアミンオキシダーゼ、アクロレイン、インターロイキン−6、CRP)から選択した1つを組み合わせた場合のROC曲線分析の結果を示した。AUCを比較した場合、大きい方からアクロレイン>インターロイキン−6>ポリアミンオキシダーゼ>CRPの順であった。年齢とインターロイキン−6の組み合わせにより、無症候性脳梗塞の予知について感度及び特異度はそれぞれ81.8%、73.6%でアクロレインの場合とほぼ同じ結果が得られた。
【0040】
図2に、入力層へ被験者の年齢及びアクロレインと残りの3種類の血漿中バイオマーカー(ポリアミンオキシダーゼ、インターロイキン−6、CRP)から選択した1つを組み合わせた場合のROC曲線分析の結果を示した。AUCを比較した場合、大きい方からCRP>インターロイキン−6>ポリアミンオキシダーゼの順であった。年齢とアクロレインとインターロイキン−6の組み合わせにより、無症候性脳梗塞の予知について感度及び特異度はそれぞれ88.6%、86.8%で、図1の結果と比べて反応的中度の向上が認められた。
【0041】
図3に、入力層へ被験者の年齢、アクロレイン及びインターロイキン−6と残りの2種類の血漿中バイオマーカー(ポリアミンオキシダーゼまたはCRP)から選択した1つを組み合わせた場合のROC曲線分析の結果を示した。年齢とアクロレインとインターロイキン−6とCRPの組み合わせにより、無症候性脳梗塞の予知について感度及び特異度はそれぞれ88.6%、90.6%で、図2の結果と比べて反応的中度の向上が認められた。
【0042】
図4に、入力層へ被験者の年齢、アクロレイン、インターロイキン−6、CRP、及びポリアミンオキシダーゼを組み合わせた場合のROC曲線分析の結果を示した。無症候性脳梗塞の予知について、感度95.5%、特異度94.3%、陽性反応的中度93.3%、陰性反応的中度96.2%、陽性尤度比16.86、陰性尤度比0.05であった。図1〜3の結果と比べて、最も反応的中度、尤度比の改善が認められた。以上の結果から、人工ニューラルネットワークの手法を用いることで、無症候性脳梗塞の有無の判定精度の向上が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の検出方法を用いて、脳卒中又は無症候性脳梗塞を早期に発見・診断することが可能である。更に、本発明の知見を利用することによって、アクロレイン、ポリアミンオキシダーゼ及び炎症性マーカーであるインターロイキン−6及びCRPを除去する化合物を探索することにより、脳卒中及び無症候性脳梗塞を予防又は治療する為の薬剤の開発等の、脳卒中及び無症候性脳梗塞の予防又は早期治療に関する新たな途を開く可能性が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】無症候性脳梗塞患者群と健常者において、被験者の年齢と4種類の血漿中バイオマーカー(ポリアミンオキシダーゼ、アクロレイン、インターロイキン−6、CRP)から選択した1つを組み合わせた場合のROC曲線、カットオフ値、感度、特異度、反応適中度、尤度比を表す。
【図2】無症候性脳梗塞患者群と健常者において、被験者の年齢及びアクロレインと残りの3種類の血漿中バイオマーカー(ポリアミンオキシダーゼ、インターロイキン−6、CRP)から選択した1つを組み合わせた場合のROC曲線、カットオフ値、感度、特異度、反応適中度、尤度比を表す。
【図3】無症候性脳梗塞患者群と健常者において、被験者の年齢、アクロレイン及びインターロイキン−6と残りの2種類の血漿中バイオマーカー(ポリアミンオキシダーゼ、CRP)から選択した1つを組み合わせた場合のROC曲線、カットオフ値、感度、特異度、反応適中度、尤度比を表す。
【図4】無症候性脳梗塞患者群と健常者において、被験者の年齢、アクロレイン、ポリアミンオキシダーゼ、インターロイキン−6、及びCRPを用いた場合のROC曲線、カットオフ値、感度、特異度、反応適中度、尤度比を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定し、得られた測定値と被験者の年齢を指標として脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出する方法。
【請求項2】
ポリアミンから生成される上記アルデヒド体がアクロレインである請求項1記載の方法。
【請求項3】
生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定し、得られた測定値と被験者の年齢から数学的な統計解析を行い、統計学的に有意な変化を与える値を得、その値に基づき脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ニューラルネットワーク手法によって数学的な統計解析を行う、請求項3記載の方法。
【請求項5】
生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定するための試薬を含む、脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出するためのキット。
【請求項6】
脳卒中又は無症候性脳梗塞を検出するためのシステムであって、
生体サンプル中における、ポリアミンから生成されるアルデヒド体、インターロイキン−6、及びC反応性蛋白質の含有量、並びに、ポリアミンオキシダーゼ活性又はポリアミンオキシダーゼの蛋白質量を測定するための試薬:及び
数学的な統計解析を行うための電子処理機器及びソフトウェア:を含む前記システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−286651(P2008−286651A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132239(P2007−132239)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】