説明

アシッドペーステティング処理方法およびアシッドペーステティング処理装置

【課題】顔料のアシッドペースティング処理を実施しても、処理前の顔料と比べて処理後の顔料の吸収ピークの強度の低下を抑制できるアシッドペーステティング処理装置を提供すること。
【解決手段】流入口と、流出口とを少なくとも備えた混合溶解部と、前記流入口に接続され、未処理顔料を含む成分を前記流入口へと連続的に供給する顔料供給部と、前記流入口に接続され、酸性溶液を前記流入口へと連続的に供給する酸性溶液供給部と、前記未処理顔料を前記酸性溶液に溶解させた顔料溶解液を調合するために、前記混合溶解部内にて混合された前記未処理顔料を含む成分と前記酸性溶液とを含む混合液に対して、超音波を印加する超音波印加手段と、前記流出口側に配置され、前記流出口から排出される前記顔料溶解液を貧溶媒と混合する顔料溶解液−貧溶媒混合部と、を備えたことを特徴とするアシッドペーステティング処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料のアシッドペースティング処理方法およびこれを用いたアシッドペースティング処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
顔料を微粒子化する技術として再沈法やアシッドペースティング処理方法が知られている。これらの方法を用いて得られた顔料は、例えば、有機感光体の電荷発生材料等として利用される。特にアシッドペーステイング処理は、顔料の微粒子化や結晶型の変換、精製などの点で優れている。このアシッドペーステイング処理は、顔料を酸性溶液に溶解させた顔料溶解液を調合した後、この顔料溶解液を水又はアルカリ溶液(以下、両者を総括して「貧溶媒」と称す場合がある)と混合し、この混合液中で一旦溶解させた顔料を再結晶化させることにより微粒子化された顔料(顔料微粒子)を得るという手法である。
【0003】
この処理に際しては、タンク内で予め顔料を酸性溶液に溶解させて調合した顔料溶解液を、貧溶媒を満たしたタンク内に滴下する方法が一般的である。この他にも、顔料溶解液を貯蔵するタンクと貧溶媒を貯蔵するタンクとに接続されたインジェクション部内にて2種類の溶液を混合する方法(特許文献1参照)が提案されている。
更に、アルカリ溶液を含む第1の流体と、顔料および該顔料を溶解する酸を含む第2の流体と、さらに前記第1の流体と第2の流体との間に、顔料が析出可能な第3の流体を送液し、3層の層流を生じさせる方法(特許文献2参照)も提案されている。
【特許文献1】特開2002−69322号公報
【特許文献2】特開2005−206666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の手順で顔料のアシッドペースティング処理を実施すると、処理後の顔料の吸収ピークの強度が、処理前の顔料(未処理顔料)と比較して低下してしまうとうい問題があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、顔料のアシッドペースティング処理を実施しても、処理前の顔料と比べて処理後の顔料の吸収ピークの強度の低下を抑制できるアシッドペーステティング処理方法およびこれを用いたアシッドペーステティング処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
請求項1に係わる発明は、
顔料供給部および酸性溶液供給部に接続された流入口と、流出口とを少なくとも備えた混合溶解部へ、
前記顔料供給部から未処理顔料を含む成分と、前記酸性溶液供給部から酸性溶液とを連続的に一定流量で供給することにより、
前記混合溶解部内で、前記未処理顔料を含む成分と前記酸性溶液とを連続的に混合する第1の混合工程と、
前記混合溶解部内で混合された前記未処理顔料を含む成分と前記酸性溶液とを含む混合液に、超音波を印加することにより、前記未処理顔料を前記酸性溶液に溶解させた顔料溶解液を調合する顔料溶解液調合工程と、
前記顔料溶解液を、前記流出口へと送液した後、貧溶媒と混合する第2の混合工程とを、を少なくとも経て、
前記顔料溶解液に溶解した状態の前記未処理顔料を、前記顔料溶解液と前記貧溶媒とを混合した混合液中に微粒子として析出させることを特徴とするアシッドペーステティング処理方法である。
【0006】
請求項2に係わる発明は、
前記未処理顔料を含む成分が、前記未処理顔料とシリカ粒子との混合物であることを特徴とする請求項1に記載のアシッドペーステティング処理方法である。
【0007】
請求項3に係わる発明は、
前記未処理顔料が、フタロシアニン系顔料であることを特徴とする請求項1に記載のアシッドペーステティング処理方法である。
【0008】
請求項4に係わる発明は、
流入口と、流出口とを少なくとも備えた混合溶解部と、
前記流入口に接続され、未処理顔料を含む成分を前記流入口へと連続的に供給する顔料供給部と、
前記流入口に接続され、酸性溶液を前記流入口へと連続的に供給する酸性溶液供給部と、
前記未処理顔料を前記酸性溶液に溶解させた顔料溶解液を調合するために、前記混合溶解部内にて混合された前記未処理顔料を含む成分と前記酸性溶液とを含む混合液に対して、超音波を印加する超音波印加手段と、
前記流出口側に配置され、前記流出口から排出される前記顔料溶解液を貧溶媒と混合する顔料溶解液−貧溶媒混合部と、を備えたことを特徴とするアシッドペーステティング処理装置である。
【発明の効果】
【0009】
以上に説明したように請求項1に記載の発明によれば、顔料のアシッドペースティング処理を実施しても、処理前の顔料と比べて処理後の顔料の吸収ピークの強度の低下を抑制できるアシッドペーステティング処理方法を提供することができる。
請求項2に記載の発明によれば、未処理の顔料粉末を固体状のままで、酸性溶液中に容易に分散させることができるアシッドペーステティング処理方法を提供することができる。
請求項3に記載の発明によれば、電荷発生材料として利用するのに適したアシッドペーステティング処理方法を提供することができる。
【0010】
請求項4に記載の発明によれば、顔料のアシッドペースティング処理を実施しても、処理前の顔料と比べて処理後の顔料の吸収ピークの強度の低下を抑制できるアシッドペーステティング処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは、従来の手順でアシッドペースティング処理を実施すると、アシッドペースティング処理後の顔料の吸収ピークの強度が、アシッドペースティング処理前の顔料の吸収ピークの強度と比較して低下してしまう原因について鋭意検討した。その結果、以下に説明する理由により、吸収ピークの強度の低下は、顔料中に含まれる金属の溶出にあるものと考えた。
図1は、アシッドペースティング処理前のバナジルナフタロシアニンを硫酸に溶解させた時の硫酸中の溶解時間に対する波長850nmにおける吸収ピークの強度の相対的変化の一例を示すグラフであり、図中、縦軸は吸収ピーク強度(a.u.)、横軸は硫酸中の溶解時間(hr)を示す。なお、縦軸に示す吸収ピーク強度は、硫酸中の溶解時間が0hr(バナジルナフタロシアニンを硫酸に溶解させる前の状態)の時の吸収ピーク強度を1(基準値)として規格化した値を意味する。
【0012】
ここで、図1に示す評価に際しては、バナジルナフタロシアニン(山本化成製)の粉末にビーカー中にて、濃硫酸を加えて、濃硫酸に対して0.50質量%となるように混合し、スターラーを用いてバナジルナフタロシアニンが完全に溶解するまで十分に攪拌して、バナジルナフタロシアニン粉末と濃硫酸とを混合した。その後所定の時間が経過した時点で、このバナジルナフタロシアニン濃硫酸溶液を水である貧溶媒中に滴下してバナジルナフタロシアニン微結晶を得、これをろ過して回収した後、0.5wt%のバナジルナフタロシアニン水溶液スラリー(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを界面活性剤として0.1wt%含む)を作製し、その赤外線域の波長の吸収スペクトルを測定した。なお、硫酸中の溶解時間が0hrの場合は、バナジルナフタロシアニンの粉末を硫酸と混合せずに水溶液スラリーとしてそのまま吸収スペクトルを測定したことを意味する。
【0013】
図1から明らかなように、吸収ピーク強度は、水溶液と硫酸とを混合してから1時間も経過しないうちに急激に低下した後、飽和する。また、吸収スペクトルを測定した後の溶液中のバナジウム元素の含有量を確認したところ、吸収ピーク強度の低下とリンクするようにバナジウム元素の含有量が増加していた。
この結果は、バナジルナフタロシアニン分子中に含まれるバナジウム元素が、酸の作用によってバナジルナフタロシアニン分子から脱離することにより吸収ピーク強度が低下しているものと考えられる。また、同様の結果は、顔料分子中に金属元素を含む他の顔料についても同様に生じるものと考えられる。これは、一般的に、金属元素を含む顔料分子では、金属元素が、顔料分子中で錯体を形成すると共に、特定の波長域に発現する吸収ピークのピーク波長やその吸収強度はこの金属元素により支配されるためである。
【0014】
一方、従来の手順を利用したアシッドペースティング処理は、未処理顔料を予め酸性溶液に十分に溶解させて作り置きしておいた顔料溶解液を、貧溶媒と混合することにより実施される。しかし、このような手順で処理を実施しても、未処理顔料が酸性溶液と混合されてからかなりの時間が経過してから、貧溶媒と混合されることになる。それゆえ、顔料分子に含まれる金属原子が時間と共に脱離し、結果として、アシッドペースティング処理により得られた顔料微粒子の吸収ピーク強度が低下するものと考えられる。
【0015】
上述した知見から、本発明者らは、アシッドペースティング処理により得られた顔料微粒子の吸収ピーク強度を低下するためには、未処理顔料を酸性溶液と混合・溶解した後、この混合・溶解により得られた顔料溶解液を貧溶媒と混合するまでの時間(以下、「酸性溶液中溶解時間」と称す)を短縮することが重要であると考えた。
しかし、顔料溶解液をバッチ処理で作製する従来の方法では、高い処理効率を得るために直径が数十cm乃至それ以上のサイズを有するタンクに多量の未処理顔料および酸性溶液を投入して、プロペラなどの攪拌子によって攪拌・溶解することにより、一度に多量の顔料溶解液を調合する。そして、一旦調合された顔料溶解液は、一度に全量を貧溶媒と混合するのではなく、少量づつ貧溶媒と混合される。このため、仮に、顔料溶解液の調合が顔料分子中の金属元素の脱離が十分に起こらない短い時間内に完了したとしても、顔料溶解液の全量が貧溶媒と混合されるまでの間に長時間を要する。従って、顔料溶解液の全量に着目すれば、酸性溶液中溶解時間を短縮することは事実上不可能である。また、顔料溶解液を調合する際に、プロペラなどの攪拌子を用いて攪拌する場合、タンク内の溶液に加わるせん断力にはタンク内の場所によってムラが生じる。このため、酸性溶液と混合される未処理顔料の全量が、完全に溶解するまでには時間を要することになる。
【0016】
それゆえ、本発明者らは、酸性溶液中溶解時間を短縮するためには、予め作り置きしておいた顔料分散液を用いるのではなく、貧溶媒との混合に必要な量だけ少量づつ連続的に顔料分散液を調合することが重要であると考え、以下に示す本発明を見出した。
【0017】
<アシッドペーステティング処理方法>
すなわち、本発明のアシッドペーステティング処理方法は、顔料供給部および酸性溶液供給部に接続された流入口と、流出口とを少なくとも備えた混合溶解部へ、前記顔料供給部から未処理顔料を含む成分と、前記酸性溶液供給部から酸性溶液とを連続的に一定流量で供給することにより、前記混合溶解部内で、前記未処理顔料を含む成分と前記酸性溶液とを連続的に混合する第1の混合工程と、前記混合溶解部内で混合された前記未処理顔料を含む成分と前記酸性溶液とを含む混合液に、超音波を印加することにより、前記未処理顔料を前記酸性溶液に溶解させた顔料溶解液を調合する顔料溶解液調合工程と、前記顔料溶解液を、前前記流出口へと連続的に送液して前記流出口から排出した直後に、貧溶媒と混合する第2の混合工程とを、を少なくとも経て、前記顔料溶解液に溶解した状態の前記未処理顔料を、前記顔料溶解液と前記貧溶媒とを混合した混合液中に微粒子として析出させることを特徴とする。
【0018】
本発明では、第1の混合工程において、未処理顔料を含む成分と酸性溶液とを連続的に混合して混合液を調合する。この段階では、未処理顔料が酸性溶液に十分に溶け切らないため、顔料溶解液調合工程にて、混合液に超音波を印加して未処理顔料を酸性溶液に溶解させる。これにより、顔料溶解液が得られる。そして、最後に、得られた顔料溶解液を貧溶媒と混合する第2の混合工程を実施する。これにより、顔料溶解液と貧溶媒との混合液中に顔料の微粒子を析出させる。
【0019】
ここで、混合溶解部内へと供給される未処理顔料を含む成分や酸性溶液の流量や、未処理顔料を含む成分の流量および酸性溶液の流量の総和に相当する顔料溶解液の生成量は、未処理顔料の種類や粒径、酸性溶液を構成する酸成分の種類やその濃度、貧溶媒の組成等に応じて、所望の粒径や結晶型等を有する顔料微粒子が得られるように適宜選択されるものである。
また、第1の混合工程においては、混合溶解部を流れる未処理顔料と酸性溶液とを含む混合液については、未処理顔料と酸性溶液との混合が行われるように、乱流と層流との過渡状態(レイノルズ数で概ね2300以上3000未満の範囲)、または、乱流状態(レイノルズ数で概ね3000以上の範囲)が維持されるが、乱流状態が維持されることがより好ましい。なお、過渡状態、乱流状態は、レイノルズ数を決定する各種因子(混合溶解部内を流れる混合液の密度、粘性係数、断面平均速度、内径)を適宜選択することにより容易に制御できる。
【0020】
また、本発明では、混合溶解部の流入口側から連続的に一定流量で未処理顔料を含む成分と酸性溶液とが供給されるため、これに対応して、混合溶解部の流出口からは一定流量で顔料溶解液が連続的に排出される。そして、混合溶解部の流出口から連続的に排出された顔料溶解液は、流出口から排出されると直ぐに貧溶媒と混合される。
すなわち、3つの工程は、全て連動して連続的に実施される。このため、本発明では、従来のアシッドペースティング処理のように、顔料溶解液を予め作り置きしておく必要が無い。これに加えて、単位時間当たりに調合される顔料溶解液の総量と、単位時間当たりに貧溶媒との混合に用いられる顔料溶解液の総量とは、常に等しい関係にあるため、一旦調合された顔料溶解液は、混合溶解部に長時間滞留することなく速やかに貧溶媒と混合するために消費される。それゆえ、本発明では、従来のアシッドペースティング処理方法と比較して、容易に酸性溶液中溶解時間を大幅に短縮することができ、結果として、アシッドペースティング処理方法に伴う吸収ピークの強度低下を抑制することができる。
【0021】
なお、酸性溶液中溶解時間、すなわち、混合溶解部中を流れる液体成分の滞留時間は、混合溶解部を構成する流入口から流出口までの流路長や、混合溶解部内に貯留できる最大液量、混合溶解部に供給される未処理顔料を含む成分の流量、酸性溶液の流量等を制御することにより容易に調整することができる。
この場合、滞留時間を30分以下とすることが好ましく10分以下とすることがより好ましく3分以下とすることが更に好ましい。また、滞留時間を短縮するためには、流入口から流出口までの流路長を短縮したり、混合溶解部内に貯留できる最大液量を小さくしたり、未処理顔料を含む成分や酸性溶液の流量を増大させたり等しなければならない。このため、滞留時間をより短くすることは、処理効率のより一層の向上や、酸性溶液に溶解し切れなかった未処理顔料の混合溶解部内での目詰まり防止など、実用性や信頼性の向上にも寄与する。
【0022】
但し、滞留時間が短過ぎる場合には、未処理顔料が十分に溶け切らない状態で調合された顔料溶解液が、貧溶媒と混合される可能性が高くなる。このような問題を防止する上では、滞留時間は少なくとも数秒以上であることが好ましい。
ここで、本発明において、「滞留時間」とは、混合溶解部の流入口近傍で、未処理顔料を含む成分と酸性溶液とが混合した時点から、酸性溶液中への未処理顔料の溶解が進行しながら生成した顔料溶解液が混合溶解部の流出口に到達して、貧溶媒と混合されるまでの間を意味する。
【0023】
なお、参考までに述べれば、従来のアシッドペースティング処理で調合される顔料溶解液の滞留時間(すなわち、タンクに未処理顔料と酸性溶液とを投入した時点から、攪拌子による攪拌を経て調合された顔料溶解液が、貧溶媒と混合されるまでの時間)は、タンク内での未処理顔料の溶解処理に要する時間のみを考慮しても、少なくとも30分以上が必要である。これに加えて、バッチ処理により一度に多量に調合された顔料溶解液を、少量づつ貧溶媒と混合して、完全に消費し終えるまでに要する時間は、タンクのサイズやアシッドペースティング処理に用いる装置の構成にも依存するものの、一般的に数時間程度である。
すなわち、これらの点から、従来のアシッドペースティング処理で調合される顔料溶解液の滞留時間は、初期に貧溶媒との混合に利用される分については、30分程度であるが、最後に貧溶媒との混合に利用される分については、数時間程度である。このため、顔料溶解液の平均的な滞留時間は、最低でも数時間以上になってしまうことになる。このような滞留時間は、図1に示される結果からも明らかなように、吸収ピークの強度の低下を確実に招くことになる。
【0024】
また、従来のアシッドペースティング処理方法で、滞留時間をより短くするためには、1回のバッチ処理で調合する顔料溶解液の量を少なくするという方法も考えられる。この方法を採用すれば、一旦調合された顔料溶解液のうち、最後に貧溶媒との混合に利用される分の滞留時間を大幅に短縮できることになるため、顔料溶解液の平均的な滞留時間も大幅に短縮できる。
しかし、この場合でも、未処理顔料の溶解手段として攪拌子を用いている限り、原理的には平均滞留時間を30分以下に制御することは実質的に極めて困難である。これに加えて、同じ量の微粒子化された顔料を得るために、複数回に分けて顔料溶解液を調合しなければならなくなり、処理効率が大幅に低下することになるため、実用性に欠ける。
これに対して、本発明では、連続的に顔料溶解液を調合して、連続的に調合された顔料溶解液を貯め置きすることなく貧溶媒と混合するため、高い処理効率を得ることも容易である。
【0025】
また、本発明では顔料溶解液の調合に際して、顔料の溶解を促進するために超音波を利用するため、この点でも滞留時間をより短くすることが容易である。
この理由は、プロペラなどの攪拌子を用いる場合に加えて、超音波を利用する場合、未処理顔料を含む成分と酸性溶液とを混合した混合液が存在する空間中に一様な溶解力を作用させることが極めて容易なためである。
【0026】
すなわち、攪拌子を用いて溶解処理を行う場合、溶解処理に用いる容器のサイズや、攪拌子のサイズ・形状・回転速度などを如何様に制御しても、未処理顔料と酸性溶液とを混合した混合液が存在する空間中に生じる溶解力(せん断力)にはムラが生じる。このため、酸性溶液と混合した未処理顔料の全量が溶解し切るまでには、ある程度の時間が必要となる。
【0027】
これに対して、超音波を用いて溶解処理を行う場合、超音波振動が十分に伝播する範囲内では一様な溶解力(超音波振動)を作用させることができる。それゆえ、酸性溶液と混合した未処理顔料の全量を、ほぼ同時に溶解させることができる。従って、混合液が存在する空間中に十分な強度の超音波を印加すれば、攪拌子を用いる場合よりも短時間で未処理顔料を溶解させることができる。
【0028】
また、未処理顔料の溶解を促進する上では、超音波印加により未処理顔料粒子やその周囲に存在する液体分子に振動を加えるといった物理的な溶解促進方法以外にも、加熱処理や、使用する酸性溶液として、より高濃度のものを使用するといった化学的な溶解促進方法も考えられる。
しかし、これらの化学的な溶解促進方法は、顔料分子中の金属元素と酸分子との相互作用も活性化するため、顔料分子中の金属元素の脱離もより促進する可能性がある。それゆえ、本発明では、未処理顔料の溶解を促進するために、基本的には超音波の印加を用い、顔料分子中からの金属元素の著しい脱離を招かない範囲で必要に応じて化学的な溶解促進方法を併用することが好ましい。
【0029】
なお、超音波印加手段の超音波発振面の形状・面積や、超音波の出力・印加時間は、混合溶解部のサイズや形状、また、混合溶解部に対する超音波印加手段の配置位置などに応じて、適宜選択できる。なお、超音波印加手段の超音波発振面に対して垂直な方向における混合溶解部の内径長さ(液体が満たされている空間の長さ)は、20cm以下であることが好ましい。
この理由は、超音波の伝播方向に対する混合溶解部の内径長さが、20cmを超えると、実用的な出力を有する超音波印加手段の利用が困難になる場合があるためである。すなわち、超音波振動は、超音波印加手段から離れるに従い減衰する。このため、広い空間に十分な強度の超音波振動を伝播させるためには、より出力の大きい超音波印加手段を用いればよいが、実用上、このような超音波印加手段の入手は困難であり、またコストも高くなるためである。このような観点からは、超音波の伝播方向に対する混合溶解部の内径長さは、10cm以下であることがより好ましい。
【0030】
これに加えて、より短時間で、未処理顔料を溶解させることが容易となる観点からは、超音波の伝播方向に対する混合溶解部の内径長さは、1cm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。超音波の伝播方向に対する混合溶解部の内径長さの下限は特に限定されるものではないが、混合溶解部内での目詰まり防止や処理効率の低か抑制などの観点からは、実用上100μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましい。
【0031】
なお、顔料供給部から混合溶解部へと供給される未処理顔料を含む成分は、酸性溶液と混合された際の未処理顔料の分散性を確保する上では、液体状であることが好ましい。この場合、未処理顔料を含む成分は、未処理顔料と水などの溶媒とを少なくとも含み、必要に応じて界面活性剤などの分散剤等の添加剤が添加された未処理顔料分散液として利用できる。
【0032】
また、未処理顔料を含む成分は、流動性が確保できるのであれば、固体状態で用いることもできる。この場合は、例えば、重力を利用して粉末状の未処理顔料が酸性溶液の上方から落下してくるように、顔料供給部と酸性溶液供給部とを配置したり、あるいは、混合溶解部の流入口近傍において、毛細管現象により酸性溶液が顔料供給部側へと浸透しないように顔料供給部から混合溶解部への供給圧力や流量、また、酸性溶液供給部から混合溶解部への供給圧力や流量を制御する。
【0033】
但し、未処理顔料を固体状態のまま混合溶解部へと供給する場合、酸性溶液の比重が高かったり、粘度が高いと、未処理顔料が酸性溶液中に速やか且つ十分に分散できなくなる場合がある。
このような場合には、粘度の高い酸性溶液中への分散が容易な高い比重およびサイズを有し、且つ、酸性溶液に実質的に溶解しない粒子(顔料担持体粒子)と未処理顔料とを混合した混合物を、酸性溶液と混合することが好ましい。
すなわち、顔料担持体粒子と未処理顔料とを混合することによって、顔料担持体粒子表面に未処理顔料粒子を担持させた状態で酸性溶液と混合すれば、未処理顔料を容易に酸性溶液中に分散させることができる。これに加えて、顔料担持体粒子は酸性溶液に溶解することも無いため、最終的に得られる微粒子化された顔料の品質にも影響を及ぼすことも無い。
【0034】
なお、顔料担持体粒子としては、その平均粒径が100nm以上500μm以下であることが好ましく、300nm以上300μm以下であることがより好ましい。
平均粒径が100nm未満では、自重が小さすぎるために、酸性溶液中へと未処理顔料粒子をその表面に担持した顔料担持体粒子が十分に浸透できず、結果として未処理顔料が、酸性溶液中に十分に分散できなくなる場合がある。また、平均粒径が500μmを超える場合には、混合溶解部内で目詰まりを起こしたり、未処理顔料粒子をその表面に担持した顔料担持体粒子が酸性溶液中で直ぐに沈降・堆積してしまうため、未処理顔料が、酸性溶液中に速やか且つ十分に分散できなくなる場合がある。
ここで、顔料担持体粒子の平均粒径とは、走査型電子顕微鏡により顔料担持体粒子を観察した場合に、個々の顔料担持体粒子の面積から求めた真円相当換算の直径の平均値(測定サンプル数=10個)を意味する。
【0035】
また、顔料担持体粒子の比重は、1g/cm以上5g/cm以下の範囲内であることが好ましく、1.5g/cm以上2.5g/cm以下の範囲内であることがより好ましい。
比重が1g/cm未満では、顔料担持体粒子の比重が酸性溶液の比重よりも相対的に軽くなり過ぎるため、酸性溶液中へと未処理顔料粒子をその表面に担持した顔料担持体粒子が十分に浸透できず、結果として未処理顔料が、酸性溶液中に速やか且つ十分に分散できなくなる場合がある。
これに対して、比重が5g/cmを超えると、顔料担持体粒子の比重が酸性溶液の比重よりも相対的に重くなり過ぎるため、混合溶解部内で目詰まりを起こしたり、未処理顔料粒子をその表面に担持した顔料担持体粒子が酸性溶液中で直ぐに沈降・堆積してしまうため、未処理顔料が、酸性溶液中に速やか且つ十分に分散できなくなる場合がある。
【0036】
顔料担持体粒子を構成する材料としては、酸性溶液に対して不溶性の材料であれば特に限定されず、酸性溶液の種類や濃度に応じて適宜選択できる。例えば、一般的な高比重の酸性溶液(濃度が18N以上の濃硫酸、濃度が20N以上の濃硝酸、濃度が6N以上の濃塩酸)を用いる場合に好適な顔料担持体粒子としては、例えば、シリカ粒子(比重1.1g/cm)、チタン粒子(比重4.5g/cm)、二酸化チタン粒子(比重3.8〜4.1g/cm)などが挙げられる。
【0037】
顔料担持体粒子と未処理顔料との混合比率は特に限定されるものではないが、実用上は、質量比で10:1〜100:1の範囲内とすることが好ましく、30:1〜70:1の範囲内とすることがより好ましい。顔料担持体粒子と未処理顔料との混合比率が、上記範囲を外れる場合、処理効率が大幅に低下したり、あるいは、顔料担持体粒子表面に担持されない未処理顔料の割合が増加して、未処理顔料と酸性溶液との混合が速やかに行われなくなる場合がある。
【0038】
<顔料粒子製造装置>
次に、本発明のアシッドペーステティング処理方法を利用したアシッドペーステティング処理装置について説明する。
本発明のアシッドペーステティング処理装置は、流入口と、流出口とを少なくとも備えた混合溶解部と、前記流入口に接続され、未処理顔料を含む成分を前記流入口へと連続的に供給する顔料供給部と、前記流入口に接続され、酸性溶液を前記流入口へと連続的に供給する酸性溶液供給部と、前記未処理顔料を前記酸性溶液に溶解させた顔料溶解液を調合するために、前記混合溶解部内にて混合された前記未処理顔料を含む成分と前記酸性溶液とを含む混合液に対して、超音波を印加する超音波印加手段と、前記流出口側に配置され、前記流出口から排出される前記顔料溶解液を貧溶媒と混合する顔料溶解液−貧溶媒混合部と、を備えたことを特徴とする。
なお、本発明のアシッドペーステティング処理装置には、上記に列挙した構成以外にも、必要に応じて、バルブ、可変弁やマスフローコントローラーなどの流量制御手段、流量計、ポンプ等の圧力供給手段、ヒーター等の液体を加熱するための加熱手段、フィルタなどその他の部材や手段が設けられていてもよい。
【0039】
図2は、本発明のアシッドペーステティング処理装置の一構成例を示す概略模式図であり、図中、100はアシッドペーステティング処理装置、200は顔料供給部、210は酸性溶液供給部、220は貧溶媒供給部、230は回収部、300、310、320は流量制御手段、400は超音波印加手段、Lp、La、Lm1、Lm2、Lbは流路を表す。また、500は(混合溶解部に相当する流路Lm1)の流入口、510は(混合溶解部に相当する流路Lm1)の流出口、520は流路Lm2の下流端(排出口)を表す。なお、図2中において、流路Lm2および回収部230が顔料溶解液−貧溶媒混合部に相当する。
【0040】
図2に示すアシッドペーステティング処理装置100は、顔料供給部200と、酸性溶液供給部210と、貧溶媒供給部220と、回収部230と、流量制御手段300、310、320と、超音波振動器などの超音波印加手段400と、流路Lpと、流路Laと、流路Lm1と、流路Lm2と、流路Lbとを備えている。
なお、顔料供給部200、酸性溶液供給部210、および、貧溶媒供給部220は、不図示の圧力供給手段(例えば、ポンプ。また、各成分の供給手段と一体化しているものとしてチュービングディスペンサなどが挙げられる)により、これら供給部内に貯蔵された液体(但し、顔料供給部200の場合は液体又は固体)を、各々に接続された流路を介して外部へと供給できるようになっている。
【0041】
そして、流路Lpは一方の端(上流端)が、顔料供給部200に接続され、他方の端(下流端)が、流路Lm1の一方の端(流入口500)および流路Laの一方の端(下流端)に接続され、流路Lpの途中には、流路Lpを流れる液体状または固体状の未処理顔料を含む成分の流量を制御するために流量制御手段300が設けられている。
また、流路Laの他方の端(上流端)は、酸性溶液供給部210に接続されると共に流路Laの途中には、流路Laを流れる酸性溶液の流量を制御するために流量制御手段310が設けられている。これに加えて、混合溶解部を構成する流路Lm1は、他方の端(流出口510)が、流路Lm2の一方の端(上流端)および流路Lbの一方の端(下流端)に接続されており、且つ、流路Lm1の流路方向に沿って超音波印加手段400が配置されている。
さらに、流路Lbは、他方の端(上流端)が貧溶媒供給部220に接続されており、流路Lbの途中には、流路Lbを流れる貧溶媒の流量を制御するために流量制御手段320が設けられている。また、流路Lm2の他方の端(排出口520)は回収部230に接続されている。この回収部230内には、流路Lm2を介して流入した混合液を攪拌するために、プロペラなどの攪拌子が配置されていてもよい。
【0042】
なお、流路Lp、La、Lm1、Lm2、Lbとしては、樹脂やガラス、金属などからなるチューブ状の部材により構成することができる。また、流路Lp、La、Lm1、Lm2、Lbとしては、表面にフォトリソグラフィやエッチングなどの公知の微細加工技術を利用して所望のパターンに形成された溝状の流路が形成された基板を、この溝が形成された面を被覆するように他の基板とを接着剤や熱融着などの公知の接合方法を利用して貼り合わせて一体的に形成された部材;いわゆるマイクロリアクター等の微小流路が内部に形成されたプレート状の部材であってもよい。
また、流路の断面形状は、真円形の他に楕円形、方形等適宜選択することができる。なお、これら流路を構成する材料は、流路内を流れる成分に対する耐腐食性の確保や、耐圧性などを考慮して適宜選択される。なお、以下の説明においては、特に説明の無い限り流路の断面が真円形であることを前提として説明する。
【0043】
ここで、流路Lp、La、Lm2、Lbの内径は、特に限定されるものではないが、100μm〜10mmの範囲内が好ましく、500μm〜1mmの範囲内がより好ましい。内径が100μm未満の場合には目詰まりを起こしたり、処理効率が低下してしまう場合がある。また、内径が10mmを超える場合には、流路中の液体成分や固体成分の逆流が生じ易くなるため、安定したアシッドペースティング処理を連続的に実施することが困難となる場合がある。
【0044】
また、流路Laや流路Lp(但し、液体に分散させた顔料を流す場合)、流路Lbの長さは特に限定されるものではないが、1mm〜30cmの範囲内が好ましく、10mm〜10cmの範囲内がより好ましい。流路長が1mm未満の場合には、装置の作製が困難となる場合がある。これに対して流路長が30cmを超えると、圧損が大きくなるので、より出力の大きい圧力供給手段を用いることが必要となる場合がある。
【0045】
一方、流路Lp(但し、固体状で顔料を流す場合)や、流路Lm2の長さも特に限定されるものではないが、1mm〜30cmの範囲内が好ましく、10mm〜10cmの範囲内がより好ましい。流路長が1mm未満の場合には、装置の作製が困難となる場合がある。これに対して流路長が30cmを超えると、目詰まりが発生しやすくなる場合がある。この他にも、圧損が大きくなるので、より出力の大きい圧力供給手段を用いることが必要となる場合がある。
【0046】
また、流路Lm1の内径は特に限定されるものではないが、基本的には流路Lp、La、Lm2、Lbと同様の範囲とすることが好ましい。但し、流路Lm1の流路方向に沿って超音波印加手段400が配置されている領域では、超音波印加手段の超音波発振面に対して垂直な方向における混合溶解部の内径長さの上限値は、既述したように20cm以下とすることが好ましく、10cm以下とすることがより好ましく、1cm以下とすることが更に好ましく、1mm以下とすることが特に好ましい。
なお、流路Lm1の内径は流路軸方向の全領域において一定である必要はなく、部分的に異なっていてもよい。例えば、流路Lm1内を流れる液体に対する超音波印加時間をより長くするために、超音波印加手段の超音波発振面上に位置する領域の内径を、それ以外の領域の内径よりもより太くしてもよい。
【0047】
一方、流路Lm1の長さは、流路Lm1の断面サイズや流路Lm1を流れる液体の流量にもよるものの、顔料分子の金属元素の脱離を抑制し滞留時間を短くするという観点からは、少なくとも、3m以下が好ましい。これに加えて、目詰まり防止やより高い処理効率の確保という観点も考慮すれば、1m以下がより好ましく、30cm以下が更に好ましい。
これに対して、流路Lm1の長さの下限値は1cm以上であることが好ましく、3cm以上であることがより好ましい。流路Lm1の長さの下限値が1cm未満では、流路L1の下流端に到達した顔料溶解液中に、十分に溶解し切れなかった未処理顔料が残留したままとなり、得られる微粒子化された顔料の品質ばらつきや、処理効率の低下、また、目詰まりの発生を招く場合もある。
【0048】
なお、図2に示すアシッドペーステティング処理装置100では、流量の制御を行うために、流量制御手段300、310、320を用いているが、顔料供給部200、酸性溶液供給部210、および、貧溶媒供給部220に接続された不図示の圧力供給手段により直接流量制御を行う場合には、流量制御手段300、310、320を省くことができる。
【0049】
また、図2に示すアシッドペーステティング処理装置100は、貧溶媒供給部220、流路Lb、流路Lm2を省いて、流出口510を直接回収部230に接続した構成としたものであってもよい(この場合、回収部230が顔料溶解液−貧溶媒混合部に相当する)。
上述した態様のアシッドペーステティング処理装置における顔料溶解液と貧溶媒との混合は、回収部230に予め貧溶媒を満たしておく態様(第1の態様)や、回収部に顔料溶解液が流入するのに応じて貧溶媒を回収部に供給する態様(第2の態様)、または、第1および第2の態様を組み合わせた態様(第3の態様)により実施することができる。
【0050】
次に、図2に示すアシッドペーステティング処理装置100を用いた顔料微粒子の作製について説明する。
まず、顔料供給部200から、一定流量で連続的に、固体状又は液体状の未処理顔料を含む成分を流路Lpを介して流路Lm1の流入口500へと供給する。これと同時に、酸性溶液供給部210から、一定流量で連続的に、酸性溶液を流路Laを介して流路Lmの流入口500へと供給する。
これにより、流路Lm1の流入口500に到達した未処理顔料を含む成分と酸性溶液とは、連続的に混合される(第1の混合工程)。
そして、未処理顔料を含む成分と酸性溶液とを含む混合液には、流路Lm1を下流方向に連続的に送液される過程で、超音波印加手段400によって超音波が印加される。これにより、未処理顔料の酸性溶液中への溶解が促進され、流路Lm1の流出口510に到達するまでの間に顔料溶解液が調合される(顔料溶解液調合工程)。
【0051】
続いて、流路Lm1の流出口510にて、顔料溶解液と、貧溶媒供給部220から一定流量で連続的に供給される貧溶媒とが、連続的に混合される(第2の混合工程)。そして、顔料溶解液と貧溶媒とを含む混合液は、流路Lm2を介して、回収部230へと送液される。そして、回収部230にて、混合液中で生成した微粒子を、濾過、洗浄、乾燥等させることにより、微粒子化された顔料を得ることができる。
【0052】
次に、顔料のアシッドペースティング処理に用いられる原料;すなわち、未処理顔料、酸性溶液、および、貧溶媒について説明する。
【0053】
−未処理顔料−
本発明で用いられる未処理顔料としては、アシッドペースティング処理を受けておらず、且つ、分子内に金属元素を含む顔料が用いられる。この未処理顔料としては、一般的には平均粒径が300nm〜100μm程度の粉末状の市販品などが利用できるが、これに限定されるものではない。
このような顔料であれば公知の顔料が利用でき、例えば、多環キノン系顔料、ペリレン系顔料、アゾ系顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、フタロシアニン系顔料などの有機系顔料を用いることができる。
【0054】
また、これらの中でも特に、チタニルフタロシアニン顔料、銅フタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料、バナジルフタロシアニン顔料、クロロインジウムフタロシアニン顔料、ジクロロスズフタロシアニン顔料などのフタロシアニン系顔料を用いることが好ましい。
なお、フタロシアニン系顔料は、電子写真方式の画像形成装置の感光体などに用いられる電荷発生材料としても利用される。そして、本発明を利用すれば、この様な電荷発生材料として利用するのに適した顔料を作製することが容易である。これは、電荷発生材料として利用される顔料には、単位質量当たりの特定の吸収ピーク近傍の波長域の吸収強度が強く、それ以外の波長域の吸収強度(すなわち、ノイズ成分)が弱いことが特に求められるが、本発明を利用すれば、このような特性をより容易に実現することができるためである。
【0055】
−酸性溶液−
本発明において、酸性溶液とはpHが4以下である液体を意味する。ここで、酸性溶液に用いられる酸成分としては、硫酸、硝酸、塩酸、トリフルオロ酢酸当の公知の酸が利用できるが、これらの中でも、上記に列挙したような顔料の溶解がより容易である点からは硫酸が好ましい。また、酸性溶液中の酸成分の濃度としては、顔料の溶解を容易にできる点から高い方が好ましく、少なくとも1N以上であることが好ましく、3N以上であることがより好ましい。
【0056】
−貧溶媒−
貧溶媒としては、純水、イオン交換水、蒸留水などの水や、これに若干の酸、アルカリ、あるいは電解質等を添加したpH6〜8程度の中性溶媒、又は、pHが8以上のアルカリ性溶媒を用いることができる。なお、アルカリ性溶媒に使用可能なアルカリ成分としては、特に限定されず、公知のアルカリ成分が利用できるが、たとえば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明を実施例を挙げて、より詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0058】
<実施例1>
−顔料成分−
未処理顔料としてバナジルナフタロシアニン粉末(山本化成製)と、顔料担持体粒子としてシリカビーズAPPIE(日本粉体工業技術協会、GBL−100、平均粒径100μm)とを、質量比で1:10の割合で混合し、ミリング装置(アサヒ理化製作所社製、小型ボールミルAV−1型)により80rpmで1時間混合処理した。これにより、固体状の顔料成分を得た。
【0059】
−酸性溶液−
酸性溶液としては、18.7Nの硫酸溶液(pH=1)を準備した。
【0060】
−貧溶媒−
貧溶媒としては、純水(pH=7)を準備した。
【0061】
−アシッドペーステティング処理装置−
アシッドペーステティング処理装置としては、基本的な構成が図2に示すアシッドペーステティング処理装置100と同様の装置を用いた。
ここで、顔料供給部200としては、底部に直径3mmの開口部(落下口)が設けられプラスチック製の容器を用い、開口部には、テフロン(登録商標)製のチューブ(長さ1cm、内径 3mm)を接続し、チューブの途中には可変弁(PFA製、GJ−1087−01)を設けた。なお、顔料供給部200や、これに接続されたチューブは、酸性溶液供給部210やこれに接続されるチューブの上方に位置するように配置した。
【0062】
酸性溶液供給部210としては、チュービングディスペンサ(トミタエンジニアリング製、TOM.200)を用い、このチュービングディスペンサが、テフロン(登録商標)製のチューブ(長さ20cm、内径1mm)に接続されている。
【0063】
また、混合溶解部を構成するチューブとして、テフロン(登録商標)製のチューブ(長さ5cm、内径1mm)を用い、このチューブの上流端と、顔料供給部200に接続されたチューブと、酸性溶液供給部210に接続されたチューブとが、Y字状の三又継手(EYELA社製、Y字3方ジョイントJYF−310)を介して接続されている。
【0064】
貧溶媒供給部220としては、中圧ポンプ(EYELA社製、VSP−3050)を用い、この中圧ポンプが、テフロン(登録商標)製のチューブ(長さ30cm、内径1mm)に接続されている。
【0065】
さらに、回収部230としては、ビーカーを用いた。
また、混合溶解部を構成するチューブの下流端と、貧溶媒供給部220に接続されたチューブと、下流端が回収部230へと伸びるテフロン(登録商標)製のチューブ(長さ20cm、内径1mm)の上流端とは、Y字状の三又継手(EYELA社製、Y字3方ジョイントJYF−310)を介して接続されている。
【0066】
超音波印加手段400としては、超音波発振面のサイズが、直径2.6cmの超音波発振器(日本精機製作所社製、US−300TCVP)を用い、この発振面上に、直線状に延ばした混合溶解部を構成するチューブと、このチューブの上流端側に接続された三又継手とを配置した。なお、発振面上に位置する混合溶解部を構成するチューブの長さは5cmである。
【0067】
−顔料微粒子の製造−
次に、顔料供給部200を構成する容器にシリカビーズと顔料粉末とを混合した顔料成分を、酸性溶液供給部210を構成するチュービングディスペンサに酸性溶液を、貧溶媒供給部220を構成するチュービングディスペンサに貧溶媒をそれぞれ充填した。
続いて、顔料成分の流量を6.6mg/min、酸性溶液の流量を0.2ml/min、貧溶媒の流量を2ml/minに設定して、各成分をチューブを介して連続的に供給すると共に、超音波振動器の出力を5Wに設定して、超音波を印加した。
なお、上記条件で、混合溶解部を構成するチューブの上流端で混合された顔料成分と酸性溶液の混合液が下流端に到達するまでの時間(滞留時間)は、約12秒であった。また、混合溶解部を構成するチューブの下流端近傍を目視観察したところ、顔料が完全に溶解されていることが確認された。
【0068】
上記条件にてアシッドペースティング処理を行ったところ、回収部230を構成するビーカーに回収された混合液中には、微粒子化した顔料が生成した。このようにして得られた混合液を濾過、乾燥処理することにより微粒子化された顔料を得た。
【0069】
−評価−
未処理顔料を固形分量が0.5質量%となるように分散させた、3質量%の界面活性剤を含む水溶液と、処理顔料を固形分量が0.5質量%となるように分散させた、3質量%の界面活性剤を含む水溶液と、それぞれ準備した。続いて、これら2種類の水溶液を用いて同一の測定条件で、波長850nmにおける赤外線吸収スペクトルを測定した。なお、バナジルナフタロシアニンは波長850nm近傍に強い吸収ピークを有する顔料である。
その結果、波長850nmにおける未処理顔料の吸収強度を100とした時の、処理顔料の相対的な吸収強度は98であり、アシッドペースティング処理による吸収強度の低下が 殆ど生じていないことが確認された。
【0070】
<比較例1>
−顔料成分、酸性溶液、貧溶媒−
未処理顔料としてバナジルナフタロシアニン粉末(山本化成製)を用いた。また、酸性溶液および貧溶媒としては、実施例1で用いたものと同様のものを準備した。
【0071】
−顔料溶解液の調合−
ビーカーに酸性溶液とバナジルナフタロシアニン粉末とを0.3質量%の割合で投入し、スターラーを用いてバナジルナフタロシアニンが完全に溶解するまで攪拌することにより顔料溶解液を得た。なお、攪拌に要した時間は約30分であった。
【0072】
−顔料微粒子の製造−
顔料溶解液を調合した後、直ぐに200mLの顔料溶解液を底部にコックが設けられた容器に注ぐと共に、この容器の下部に、貧溶媒4Lを満たした回収容器を配置した。
続いて、回収容器中の貧溶媒をスターラーで攪拌しながら、コックを調整して、顔料溶解液を1.5ml/minの流量で貧溶媒へ滴下した。顔料溶解液の全量を滴下するのに要した時間は約133分であった。
続いて、滴下終了後の回収容器中の溶液を濾過し、処理顔料(微粒子化された顔料)を得た。
【0073】
−評価−
実施例1と同様にして、波長850nmにおける未処理顔料の吸収強度を100とした時の、処理顔料の相対的な吸収強度を求めたところ75であった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】アシッドペースティング処理前のバナジルナフタロシアニンを硫酸に溶解させた時の硫酸中の溶解時間に対する波長850nmにおける吸収ピークの強度の相対的変化の一例を示すグラフである。
【図2】本発明のアシッドペーステティング処理装置の一構成例を示す概略模式図である。
【符号の説明】
【0075】
100 アシッドペーステティング処理装置
200 顔料供給部
210 酸性溶液供給部
220 貧溶媒供給部
230 回収部
300、310、320 流量制御手段
400 超音波印加手段
500 流入口
510 流出口
520 排出口
Lp、La、Lm1、Lm2、Lb 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料供給部および酸性溶液供給部に接続された流入口と、流出口とを少なくとも備えた混合溶解部へ、
前記顔料供給部から未処理顔料を含む成分と、前記酸性溶液供給部から酸性溶液とを連続的に一定流量で供給することにより、
前記混合溶解部内で、前記未処理顔料を含む成分と前記酸性溶液とを連続的に混合する第1の混合工程と、
前記混合溶解部内で混合された前記未処理顔料を含む成分と前記酸性溶液とを含む混合液に、超音波を印加することにより、前記未処理顔料を前記酸性溶液に溶解させた顔料溶解液を調合する顔料溶解液調合工程と、
前記顔料溶解液を、前記流出口へと連続的に送液して前記流出口から排出した直後に、貧溶媒と混合する第2の混合工程とを、を少なくとも経て、
前記顔料溶解液に溶解した状態の前記未処理顔料を、前記顔料溶解液と前記貧溶媒とを混合した混合液中に微粒子として析出させることを特徴とするアシッドペーステティング処理方法。
【請求項2】
前記未処理顔料を含む成分が、前記未処理顔料とシリカ粒子との混合物であることを特徴とする請求項1に記載のアシッドペーステティング処理方法。
【請求項3】
前記未処理顔料が、フタロシアニン系顔料であることを特徴とする請求項1に記載のアシッドペーステティング処理方法。
【請求項4】
流入口と、流出口とを少なくとも備えた混合溶解部と、
前記流入口に接続され、未処理顔料を含む成分を前記流入口へと連続的に供給する顔料供給部と、
前記流入口に接続され、酸性溶液を前記流入口へと連続的に供給する酸性溶液供給部と、
前記未処理顔料を前記酸性溶液に溶解させた顔料溶解液を調合するために、前記混合溶解部内にて混合された前記未処理顔料を含む成分と前記酸性溶液とを含む混合液に対して、超音波を印加する超音波印加手段と、
前記流出口側に配置され、前記流出口から排出される前記顔料溶解液を貧溶媒と混合する顔料溶解液−貧溶媒混合部と、を備えたことを特徴とするアシッドペーステティング処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−67815(P2009−67815A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234145(P2007−234145)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】