説明

アシルベンゼンの調製方法

鉄を含有する触媒の存在下におけるジアセトキシベンゾイルクロリドとグリニャール試薬との反応を含む、アシルベンゼンの調製方法が提供される。アシルベンゼンは、リスベラトロールの多段階調製方法のために非常に有用な中間体である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、リスベラトロールの多段階製造方法に関する。特に、本発明は、構造的に式
【化1】



(式中、Rは1〜10個の炭素原子を有する低級アルキル基を表す)で表される3,5−ジアセトキシアシルベンゼンの製造方法と、リスベラトロールの調製における中間体としてのその使用とに関する。
【0002】
[発明の背景]
3,4’,5−トリヒドロキシスチルベンという系統名を有するリスベラトロールは、価値のあるその生物学的特性および薬理学的効果のために、この数年間大きな関心を持たれている天然に存在する既知の化合物である。リスベラトロールは、いわゆる「フレンチパラドックス(French Paradox)」の理由であると考えられていることを含め、多くの治療効果および疾患予防効果を示すことが報告されている。フレンチパラドックスは、高レベルの脂肪およびアルコールを含む地中海料理を食べて暮らしている人々において、予想される癌および心疾患の増大が観察されないという事実である。例えば、皮膚腫瘍および白血病だけでなく血小板凝集および凝固も阻害するリスベラトロールの効果は、種々の細胞および動物アッセイにおいて示されている。さらに、リスベラトロールは、血管弛緩薬、抗菌および殺真菌薬であることが示されている。近年、リスベラトロールが高脂肪食を与えられたマウスの寿命を延ばすことができることを実証するデータが公開された。
【0003】
リスベラトロールの合成について、多数の刊行物が存在している。中国特許第ZL200480025470号明細書には、3,5−ジアセトキシアセトフェノンから出発するリスベラトロールの調製方法が記載されている。J.Liuは2007年8月にリスベラトロールの合成の概観を与えた(J.Liu、リスベラトロールおよびその類似体の合成、相間移動触媒による不斉グリコラートアルドール反応、および8、9−メチルアミド−ゲルダナマイシンの全合成(Synthesis of resveratrol and its analogs, phase−transfer catalysed asymmetric glycolate aldol reactions, and total synthesis of 8,9−methylamido−geldanamycin)、Brigham、Department of Chemistry and Biochemistry、Brigham Young University、2007年8月を参照)。この合成方法では、3,5−ジアセトキシアセトフェノンが使用された。そこに記載されているように、「3,5−ジアセトキシベンゾイルクロリドは、これまで調査されなかった(17頁1行目を参照)」。発明者らの知識に基づいて、現在、3,5−ジアセトキシアセトフェノンの製造方法に関する既知の刊行物は存在しない。
【0004】
Zhenrong Luらは、材料として3,5−ジヒドロキシ安息香酸から出発して、エステル化、塩素化、メチル化による3、5−ジヒドロキシアセトフェノンの合成方法を記載しているが、全収率はわずか41%である(Lu,Zhenrongら、3,5−ジヒドロキシアセトフェノンの合成に関する研究(Study on synthesis of 3,5−dihydroxyacetophenone)、Shanxi Chemistry and Industry、1998年3月、12−13頁を参照)。
【0005】
別の既知の合成方法は、トリス(アセチルアセトナト)鉄(III)、Fe(AcAc)の触媒の存在下、室温でアシルクロリドをグリニャール試薬とカップリングさせることを含む。しかしながら、3,5−ジアセトキシ−アセトフェノンの製造は開示されていない(V.Fiandaneseら、アシルクロリドとグリニャール試薬との鉄触媒によるクロスカップリング反応、脂肪族および芳香族ケトンの穏やかな一般的および簡便な合成(Iron catalyzed cross−coupling reactions of acyl chlorides with Grignard reagents. A mild, general and convenient synthesis of aliphatic and aromatic ketones.)、Tetrahedron Letters、25巻、42号、4805−4808頁、1984年を参照)。
【0006】
従って、リスベラトロールの多段階合成の重要性を考慮して、3,5−ジアセトキシアセトフェノンの製造方法を提供することが業界において必要とされている。
【0007】
[発明の概要]
従って、膨大な研究および調査に基づいて、そして実験データから証明されるように、本発明の発明者らは、3,5−ジアセトキシアセトフェノンおよびその類似体の新規の製造方法の開発に成功した。従って、本発明の目的は、(1)ピリジンの触媒作用下で酸無水物による3,5−ジヒドロキシ安息香酸のアシル化を行い、3,5−ジアシルオキシ安息香酸を得るステップ、好ましくは無水酢酸により3,5−ジアセトキシ安息香酸を形成するステップと、(2)塩化メチレン中で塩化チオニルにより3,5−ジアシルオキシ安息香酸(好ましくは、3,5−ジアセトキシ安息香酸)を塩素化して、ジアシルオキシベンゾイルクロリド(好ましくは、ジアセトキシベンゾイルクロリド)を得るステップと、(3)鉄含有触媒の存在下で、ジアシルオキシベンゾイルクロリド(好ましくは、ジアセトキシベンゾイルクロリド)をグリニャール試薬と反応させて、3,5−ジアセトキシ−アセトフェノンおよびその類似体を得るステップとを含む、3,5−ジアセトキシアセトフェノンおよびその類似体の調製方法を提供することである。
【0008】
リスベラトロール中間体を調製するための多段階反応は以下の反応スキームで説明され、ここで、フェノール性ヒドロキシル基はアセチル基により保護されている。
【化2】



【0009】
従って、本発明は、鉄含有触媒の存在下でジアセトキシベンゾイルクロリドをグリニャール試薬と反応させることを含む、以下の式
【化3】



(式中、Rは、1〜10個の炭素原子を有する低級アルキル基を表す)で表される3,5−ジアセトキシアシルベンゼンの調製方法を提供する。好ましくは、鉄含有触媒は、Fe(AcAc)、塩化フタロシアニン鉄(iron phthalocyanine chloride)、トリス(ジベンゾイルメタナト)鉄、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)鉄、無水塩化第二鉄、フェロセン、トリフルオロアセチルアセトン酸鉄および塩化テトラフェニルポルフィン鉄(iron tetraphenylporphine chloride)からなる群から選択される。
【0010】
ベンゼン環の3位および5位のフェノール性ヒドロキシル基のための保護基として好ましいアセチルに加えて、プロピオニル、イソブチリルおよびベンゾイル基などの他のアシル残基も使用することができる。フェノール性OH基はベンジル基で保護することもできる。
【0011】
グリニャール反応は、それ自体が知られている方法で、すなわち、式X−Mg−R(式中、Xは、Cl、BrまたはIから選択され、Rは、1〜10個の炭素原子を有する低級アルキル基である)のグリニャール試薬を用いて実行される。好ましくは、XはClまたはBrであり、Rはメチルまたはエチルであり、最も好ましくは、XはClであり、Rはメチルである。本発明の反応のために好ましい溶媒はテトラヒドロフラン(THF)である。
【0012】
本発明の反応は、約−70℃〜約40℃の温度、好ましくは約−40℃〜約25℃の温度で実行される。当業者は、反応温度が低いほど高い収率が期待され得ることが分かるであろう。
【0013】
本発明において有用な反応混合物は、周知の方法に従って調製される。反応混合物は、種々の失活剤で失活させることができる。本発明の反応混合物は、好ましくは、飽和NHCl水溶液または希HCl水溶液で失活される。
【0014】
反応混合物において、グリニャール試薬と酸クロリドとのモル比は約1:10〜約2:1であり、好ましくは1:2〜1:1である。
【0015】
反応において、鉄含有触媒と酸クロリドとのモル比は約0.5%〜約10%であり、好ましくは1%〜5%であり、さらにより好ましくは約3%である。
【0016】
[発明の詳細な説明]
本発明は以下の実施例によって説明される。当業者は、以下の実施例が説明のためだけのものであって、本発明の範囲が本出願の特許請求の範囲によって定義されることが分かるであろう。
【0017】
[実施例1]
[ステップ1:アセトキシ安息香酸]
マグネチックスターラ、温度計および冷却器を有する100mlの3つ口フラスコに、30g(0.195mol)の3,5−ジヒドロキシ安息香酸、47ml(0.497mol)の無水酢酸および2.4ml(29.8mmol)のピリジンを入れた。混合物を100℃に加熱し、攪拌下で3〜4時間保持した後冷却し、400mlの氷水中に注ぎ、ろ過した。ろ過ケーキを氷水で洗浄し、1mbarの真空下45℃で乾燥させた。41gの3,5−ジアセトキシ安息香酸を白色固体として得た。収率は88.4%であった。
【0018】
[ステップ2:ジアセトキシベンゾイルクロリド]
マグネチックスターラ、温度計および冷却器を有する250mlの3つ口フラスコに、15.4g(64.7mmol)の3,5−ジアセトキシ安息香酸、10mlの塩化チオニルおよび80mlのCHClを入れた。混合物を3〜5時間還流させた。次に、溶媒および残存塩化チオニルを留去した。新たなCHClを添加し、もう一度留去した。粗固体を120mlのトルエン中に溶解し、溶液をろ過した。溶媒を蒸発させ、1mbarにおいて室温で生成物を乾燥させた。16.3gの3,5−ジアセトキシベンゾイルクロリドを白色固体として得た。収率は98.2%であった。
【0019】
[ステップ3:3,5−ジアセトキシ−アセトフェノン]
窒素雰囲気下で、マグネチックスターラ、温度計、滴下漏斗および冷却器を有する100mlの3つ口フラスコに、2g(7.8mmol)のジアセトキシ−ベンゾイルクロリド、および15mlの乾燥THFを入れた。2.6mlの塩化メチルマグネシウム(THF中3M)を20分間にわたって液滴で溶液に添加した。反応混合物を攪拌下、室温でさらに10分間保持した。次に、混合物を塩化アンモニウム水で失活させた。混合物を酢酸エチルで抽出した後、抽出物をMgSO上で乾燥させ、濃縮した。残渣をGCにより分析した。収率は27%であった。
【0020】
[実施例2]
ステップ1および2は、実施例1と同じ条件下で実行した。
【0021】
[ステップ3:3,5−ジアセトキシ−アセトフェノン]
窒素雰囲気下で、マグネチックスターラ、温度計、滴下漏斗および冷却器を有する100mlの3つ口フラスコに、2g(7.8mmol)のジアセトキシ−ベンゾイルクロリド、83mg(酸クロリドに基づいて3mol%)のFe(AcAc)および15mlの乾燥THFを入れた。2.6mlの塩化メチルマグネシウム(THF中3M)を20分間にわたって液滴で溶液に添加した。反応混合物を攪拌下、表1に示される温度でさらに10分間保持した。次に、混合物を塩化アンモニウム水で失活させた。混合物を酢酸エチルで抽出した後、抽出物をMgSO上で乾燥させ、濃縮した。残渣をGCにより分析した。結果は表1に記載される。
【0022】
【表1】



【0023】
[実施例3]
ステップ1および2は、実施例1と同一の条件下で実行した。
【0024】
[ステップ3:3,5−ジアセトキシアセトフェノン]
窒素雰囲気下で、マグネチックスターラ、温度計、滴下漏斗および冷却器を有する100mlの3つ口フラスコに、2g(7.8mmol)のジアセトキシベンゾイルクロリド、141mg(酸クロリドに基づいて3mol%)の塩化フタロシアニン鉄および15mlの乾燥THFを入れた。2.6mlの塩化メチルマグネシウム(THF中3M)を20分間にわたって液滴で溶液に添加した。反応混合物を攪拌下、−15℃でさらに10分間保持した。次に、混合物を塩化アンモニウム水で失活させた。混合物を酢酸エチルで抽出した後、抽出物をMgSO上で乾燥させ、濃縮した。残渣をGCにより分析した。収率は82.1%であった。
【0025】
[実施例4]
ステップ1および2は、実施例1と同一の条件下で実行した。
【0026】
[ステップ3:3,5−ジアセトキシ−アセトフェノン]
窒素雰囲気下で、マグネチックスターラ、温度計、滴下漏斗および冷却器を有する100mlの3つ口フラスコに、2g(7.8mmol)のジアセトキシベンゾイルクロリド、169mg(酸クロリドに基づいて3mol%)のトリス(ジベンゾイルメタナト)鉄および15mlの乾燥THFを入れた。2.6mlの塩化メチルマグネシウム(THF中3M)を20分間にわたって液滴で溶液に添加した。反応混合物を攪拌下、−15℃でさらに10分間保持した。次に、混合物を塩化アンモニウム水で失活させた。混合物を酢酸エチルで抽出した後、抽出物をMgSO上で乾燥させ、濃縮した。残渣をGCにより分析した。収率は87.0%であった。
【0027】
[実施例5]
ステップ1および2は、実施例1と同一の条件下で実行した。
【0028】
[ステップ3:3,5−ジアセトキシ−アセトフェノン]
窒素雰囲気下で、マグネチックスターラ、温度計、滴下漏斗および冷却器を有する100mlの3つ口フラスコに、2g(7.8mmol)のジアセトキシベンゾイルクロリド、158mg(酸クロリドに基づいて3mol%)のトリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)鉄および15mlの乾燥THFを入れた。2.6mlの塩化メチルマグネシウム(THF中3M)を20分間にわたって液滴で溶液に添加した。反応混合物を攪拌下、−15℃でさらに10分間保持した。次に、混合物を塩化アンモニウム水で失活させた。混合物を酢酸エチルで抽出した後、抽出物をMgSO上で乾燥させ、濃縮した。残渣をGCにより分析した。収率は77.5%であった。
【0029】
[実施例6]
ステップ1および2は、実施例1と同一の条件下で実行した。
【0030】
ステップ3:3,5−ジアセトキシ−アセトフェノン
窒素雰囲気下で、マグネチックスターラ、温度計、滴下漏斗および冷却器を有する100mlの3つ口フラスコに、2g(7.8mmol)のジアセトキシベンゾイルクロリド、38mg(酸クロリドに基づいて3mol%)の無水塩化第二鉄および15mlの乾燥THFを入れた。2.6mlの塩化メチルマグネシウム(THF中3M)を20分間にわたって液滴で溶液に添加した。反応混合物を攪拌下、−15℃でさらに10分間保持した。次に、混合物を塩化アンモニウム水で失活させた。混合物を酢酸エチルで抽出した後、抽出物をMgSO上で乾燥させ、濃縮した。残渣をGCにより分析した。収率は83.6%であった。
【0031】
[実施例7]
ステップ1および2は、実施例1と同一の条件下で実行した。
【0032】
[ステップ3:3,5−ジアセトキシ−アセトフェノン]
窒素雰囲気下で、マグネチックスターラ、温度計、滴下漏斗および冷却器を有する100mlの3つ口フラスコに、2g(7.8mmol)のジアセトキシベンゾイルクロリド、44mg(酸クロリドに基づいて3mol%)のフェロセンおよび15mlの乾燥THFを入れた。2.6mlの塩化メチルマグネシウム(THF中3M)を20分間にわたって液滴で溶液に添加した。反応混合物を攪拌下、−15℃でさらに10分間保持した。次に、混合物を塩化アンモニウム水で失活させた。混合物を酢酸エチルで抽出した後、抽出物をMgSO上で乾燥させ、濃縮した。残渣をGCにより分析した。収率は67.5%であった。
【0033】
[実施例8]
ステップ1および2は、実施例1と同一の条件下で実行した。
【0034】
[ステップ3:3,5−ジアセトキシ−アセトフェノン]
窒素雰囲気下で、マグネチックスターラ、温度計、滴下漏斗および冷却器を有する100mlの3つ口フラスコに、2g(7.8mmol)のジアセトキシベンゾイルクロリド、120.5mg(酸クロリドに基づいて3mol%)のトリフルオロアセチルアセトン酸鉄および15mlの乾燥THFを入れた。2.6mlの塩化メチルマグネシウム(THF中3M)を20分間にわたって液滴で溶液に添加した。反応混合物を攪拌下、−15℃でさらに10分間保持した。次に、混合物を塩化アンモニウム水で失活させた。混合物を酢酸エチルで抽出した後、抽出物をMgSO上で乾燥させ、濃縮した。残渣をGCにより分析した。収率は87%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄含有触媒の存在下でジアセトキシベンゾイルクロリドをグリニャール試薬と反応させることを含む、以下の式
【化1】



(式中、Rは1〜10個の炭素原子を有する低級アルキル基を表す)で表されるアシルベンゼンの製造方法。
【請求項2】
前記鉄含有触媒が、Fe(AcAc)、塩化フタロシアニン鉄、トリス(ジベンゾイルメタナト)鉄、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)鉄、無水塩化第二鉄、フェロセン、トリフルオロアセチルアセトン酸鉄および塩化テトラフェニルポルフィン鉄からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グリニャール試薬が、式X−Mg−R(式中、XはCl、BrまたはIであり、Rは、1〜10個の炭素原子を有する低級アルキル基、好ましくはメチルである)で表される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応が、約−70℃〜約40℃の温度で実行される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記グリニャール試薬対前記酸クロリドのモル比が、約1:10〜約2:1である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記鉄含有触媒対前記酸クロリドのモル比が、約0.5%〜約10%である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−519192(P2012−519192A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552306(P2011−552306)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【国際出願番号】PCT/CN2010/000227
【国際公開番号】WO2010/099693
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】