説明

アジマス推進器およびこれを備えた船舶

【課題】旋回時の舵角を小さくして、旋回による振動の発生を抑制することが可能なアジマス推進器およびこれを備えた船舶を提供することにある。
【解決手段】ポッド2と一体に設けられ、ポッド2の中心軸線に対して略直交する方向に長軸を有して延在する舵形状の舵板4と、ポッド2の端部に設けられ、舵板4の上流側に設けられる推進器3と、を備え、舵板4の下流側長辺には、舵板4の長軸方向に複数分割されて互いに独立に動作するフラップ5が設けられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポッドと一体化した舵板を有するアジマス推進器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶を任意の方向に移動させたり、現在位置を正確に維持することができるアジマス推進器としては、図6に示すように、ポッド2と、プロペラ3と、舵板4とが船舶Sの船尾等に取り付けられている。
【0003】
この場合の舵板4は、水平断面を舵形状とし、船舶Sとの連結軸部を含む上部舵板4aと、ポッド2の下方へ延在して同様の舵断面形状を有する下部舵板4bとにより構成されている。舵板4及びプロペラ3を備えたポッド2は、船舶Sに対して一体に回動可能となっている。
また、船舶Sの船内には、原動機5が設置されており、原動機5の動力は、ポッド2内に設けられている2組の傘歯車ユニット6、7を介してプロペラ3に伝達される。
【0004】
このようなアジマス推進器1は、舵板4を船体S内に設置された図示しない旋回装置によって旋回させることにより、船舶Sの航行方向を変える舵の役目も兼ねており、180°旋回させることにより、船舶Sを後進方向に航行させることができる。
【0005】
短時間で船舶Sを旋回させるためにアジマス推進器1を大きな舵角で旋回させた場合には、図6の紙面右側から左側に向かう矢印に示すように流れる水流が舵板4の下流側(船尾側)に設けられているプロペラ3に作用する。
【0006】
このプロペラ3に作用する水流は、舵角と同じ大きな角度でプロペラ3に作用する。そのため、プロペラ3は、舵角と同じ大きな角度の斜流中を旋回することになりプロペラ3から発生する力の変動が大きくなる。プロペラ3が生じる大きな力の変動は、アジマス推進器1全体を振動させることとなり、この振動が船舶Sの船体や関連機器(図示せず)にまで伝播して故障の原因となる。
【0007】
このようにアジマス推進器に作用する力の変動を抑制するために、特許文献1にはプロペラの下流側の舵板に、舵板の長辺と略同等の長さを有するフラップを設けることが開示されている。また、特許文献2には、舵板の形状を予め非対称に形成することが開示されている。
【0008】
特許文献3には、1つのポッドを2枚の舵板の間に挟むように設けて、船速に応じて舵角を切り替えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−106563号公報
【特許文献2】特開2002−193189号公報
【特許文献3】特開2004−182096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、近年では、更に一層アジマス推進器の舵角を小さくして、かつ、アジマス推進器に生じる振動を抑制することが望まれている。
また、特許文献3に開示されている発明は船速に応じて舵角を切換える方法であり、実際の航行時には、船速に関わらずアジマス推進器の舵角を小さくすることが望まれている。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、旋回時の舵角を小さくして、旋回による振動の発生を抑制することが可能なアジマス推進器およびこれを備えた船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係るアジマス推進器によれば、ポッドと一体に設けられ、該ポッドの中心軸線に対して略直交する方向に長軸を有して延在する舵形状の舵板と、前記ポッドの端部に設けられ、前記舵板の上流側に設けられる推進器と、を備え、前記舵板の下流側長辺には、前記舵板の前記長軸方向に複数分割されて互いに独立に動作するフラップが設けられることを特徴とする。
【0013】
推進器の下流側であり、ポッドと一体に設ける舵形状の舵板を有するアジマス推進器を回転させた際には、推進器によって生じる水流が推進器の後流からポッドおよび舵板の側面へと導かれる。
【0014】
そこで、上流側の端部に推進器を有しているポッドと一体に設けられる舵形状の舵板の下流側長辺に、舵板の長軸方向に複数分割されたフラップを設けることとした。さらに、これら複数のフラップは、各々独立に動作可能とすることとした。これにより、推進器から舵板の側面を経て舵板の下流側長辺へと導かれる推進器の水流方向に応じて、各フラップを動かすことができる。そのため、推進器による水流を妨げることなく各フラップを動作させて、舵抵抗を低減してアジマス推進器を小舵角にて旋回させることができる。また、フラップを各々独立に動作することができるので、水流の流れを大きく変化させたい位置のフラップを大きく動作させることによって舵力を増加させることができる。したがって、アジマス推進器の旋回性能を高めると共に、アジマス推進器を旋回させる際の船体振動や関連機器の振動を抑制することができる。
【0015】
本発明に係るアジマス推進器によれば、前記舵板の上流側長辺には、フラップを設けることを特徴とする。
【0016】
舵板の上流側に設けられる推進器を端部に有するポッドと一体に設けられる舵形状の舵板には、舵板の上流側長辺にフラップを設けることとした。これにより、推進器が回動する際に生じる水流およびアジマス推進器が旋回する際に生じる旋回流をフラップによって整流して、ポッドおよび舵板の側面へと導くことができる。そのため、舵抵抗を低減して、アジマス推進器を小舵角にて旋回させることができる。したがって、アジマス推進器の旋回性能を高めることができる。
【0017】
本発明に係るアジマス推進器によれば、前記フラップは、前記舵板の前記長軸方向に複数分割されて互いに独立に動作することを特徴とする。
【0018】
舵板の上流側長辺には、舵板の長軸方向に複数分割されたフラップを設け、各フラップを各々独立に動作することとした。そのため、推進器が生じる水流方向に応じて合わせてフラップを動かして整流することができる。したがって、急激な水流の変化を少なくすることができ、舵板への負荷や振動の発生を抑制することができる。
【0019】
本発明に係るアジマス推進器によれば、前記舵板の側面には、前記推進器が回転することによって生じる水流方向に沿って前記舵板の上流側長辺から下流側長辺に延在する少なくとも1の整流手段を備えることを特徴とする。
【0020】
推進器が回転することによって生じる水流方向に沿って延在する整流手段を舵板の側面に設けることとした。これにより、舵板の側面に導かれた推進器からの水流を整流して舵板の上流側長辺から下流側長辺と導くことができる。そのため、舵板の下流側長辺へ導かれる水流に乱れが生じないため、舵板の下流側長辺に設けたフラップを効果的に動作させることができる。
【0021】
本発明に係るアジマス推進器によれば、前記整流手段は、前記舵板の側面上に回動可能に設けられることを特徴とする。
【0022】
舵板の側面上に回動可能に整流手段を設けることとした。そのため、潮流の変化や推進器の回転数の変化によって舵板に導かれる水流の変化に合わせて整流手段の延在方向を変えることができる。したがって、複雑な水流に対応することができる。
【0023】
本発明に係る船舶によれば、上記のいずれかに記載のアジマス推進器を備えたことを特徴とする。
【0024】
小舵角、かつ、大きな旋回力を得ることができるアジマス推進器を用いることとした。そのため、船舶の旋回能力を高めるとともに、水流の変化を起因とする振動を低減した船舶にすることができる。
【発明の効果】
【0025】
上述した本発明のアジマス推進器によれば、舵板の上流側の端部に推進器を有しているポッドと一体に設けられている舵形状の舵板の下流側長辺に、舵板の長軸方向に複数分割されたフラップを設けることとした。さらに、これら複数のフラップは、各々独立に動作可能とすることとした。これにより、推進器から舵板の側面を経て舵板の下流側長辺へと導かれる推進器の水流方向に応じて、各フラップを動かすことができる。そのため、推進器による水流を妨げることなく各フラップを動作させて、舵抵抗を低減してアジマス推進器を小舵角にて旋回させることができる。また、フラップを各々独立に動作することができるので、水流の流れを大きく変化させたい位置のフラップを大きく動作させることによって舵力を増加させることができる。したがって、アジマス推進器の旋回性能を高めると共に、アジマス推進器を旋回させる際の船体振動や関連機器の振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の外観図であり、(A)は、側面図を示し、(B)は、(A)の下方図を示し、(C)は、その周囲の水流を示す。
【図2】本発明の第2実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図であり、(A)は、側面図を示し、(B)は、(A)の下方図を示し、(C)は、その周囲の水流を示す。
【図3】本発明の第3実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図であり、(A)は、側面図を示し、(B)は、(A)の下方図を示し、(C)は、その周囲の水流を示す。
【図4】本発明の第4実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図であり、(A)は、側面図を示し、(B)は、(A)の下方図を示し、(C)は、その周囲の水流を示す。
【図5】本発明の第5実施形態に係る船舶に設けられているアジマス推進器の概略構成図であり、(A)は、側面図を示し、(B)は、(A)の下方図を示し、(C)は、その周囲の水流を示す。
【図6】従来の舵板付きのアジマス推進器を船尾に取り付けた船舶を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1実施形態]
以下、本発明に係る船舶に設けられているアジマス推進器について図1に基づいて説明する。
図1は、舶用推進装置の一例として、アジマス推進器の概略構成例を示している。図示のアジマス推進器1Aは、船舶(図示せず)の船尾等に取り付けて使用される舶用推進装置の一種である。このアジマス推進器1Aは、船舶の船内に設置した動力源(図示せず)の動力を機械的に伝達し、舵形状にした舵板4を介して船体に取り付けられたポッド2のプロペラ(推進器)3を駆動して推進力を得る装置である。さらに、このアジマス推進器1Aは、船舶に対して、舵として機能する舵板4と一体にポッド2が旋回することにより、船舶の推進(航行)方向を変化させることができる。
【0028】
舵板4は、ポッド2と一体に設けられてポッド2の中心軸線に対して略直交する方向に長軸を有して延在している。舵板4は、水平断面を舵形状とする領域を設けたことで舵を兼ねている。すなわち、舵板4は、舵形状の水平断面を有し、船舶との連結軸部を含む上部舵板4aと、ポッド2の下方へ延在して同様の舵断面形状を有する下部舵板4bとにより構成されている。舵板4及びプロペラ3を備えたポッド2は、図示しない旋回装置により、船舶に対して一体に旋回するようになっている。
【0029】
舵板4の船尾側(下流側、図1において左側)の長辺(下流側長辺)には、舵板4の長軸方向に複数に分割されているフラップ5が設けられている。複数のフラップ5は、舵板4の船尾側の一辺に渡って設けられており、例えば6分割されている。各フラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fは、例えば、ヒンジ(図示せず)などによって舵板4の船尾側の一辺に固定されている。複数のフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fは、各々が独立に動作可能とされている。
【0030】
ポッド2は、略繭形状をしている。ポッド2は、上部舵板4aと下部舵板4bとの間にポッド2の長軸が舵板4の長軸と略直交するようにして設けられている。
プロペラ3は、ポッド2の船首側(図1において右側)の端部であり、舵板4の上流側に設けられている。
【0031】
次に、アジマス推進器1Aを旋回させる際における制御方法について説明する。
船舶の船内に設置した旋回装置によって、プラペラ3が回転駆動しているアジマス推進器1Aを旋回する。その際に、アジマス推進器1Aを構成している舵板4の船尾側に設けられている複数のフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを各々独立に折り曲げる(動作させる)。
【0032】
プロペラ3が回転駆動することによって生じる水流は、図1(A)および図1(C)の矢印で示すように、プロペラ3の後流からボッド2および舵板4の側面に沿って船尾側へと導かれる。
舵板4の船尾側に設けられているフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを、例えば、紙面手前に折り曲げることにより、舵板4の船尾側に導かれた水流の流れ方向が2段階に変化する。
【0033】
舵板4の船尾側に導かれた水流の流れ方向を変化させるフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fは、分割されて各々が独立に動作することができる。そのため、例えば、図1(A)に示すように、ポッド2近傍でありポッド2の下方に位置しているフラップ5dを折り曲げてフラップ5dの傾斜角度を大きくし、それ以外のフラップ5a、5b、5c、5e、5fを折り曲げる際にはそれらの傾斜角度をフラップ5dに比べて小さくしたり、または、折り曲げないなどとする。
【0034】
このように、舵板4の船尾側の一辺に設けられている複数のフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを各々独立に折り曲げることによって、プロペラ3の回転により生じた水流を妨げることなく水流の流れ方向を大きく変化させることができる。
【0035】
そのため、アジマス推進器1Aを旋回させる際に、各フラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを互いに独立に折り曲げて、舵板4の船尾側に導かれる水流の流れ方向を変化させることによって、急激な水流の変化を生じることなくアジマス推進器1Aを旋回させることができる。したがって、舵板4に作用する負荷や、水流の急激な変化を起因として生じる振動を抑制することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態にかかるアジマス推進機1Aおよびこれを備えた船舶によれば、以下の作用効果を奏する。
舵板4の船首側(上流側)の端部にプロペラ(推進器)3を有しているポッド2と一体に設けられている舵形状の舵板4の船尾側の長辺(下流側長辺)に舵板4の長軸方向に6分割(複数分割)されたフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを設けることとした。さらに、これらフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fは、各々独立に動作可能とすることとした。これにより、プロペラ3から舵板4の側面を経て舵板4の船尾側の長辺へと導かれるプロペラ3の水流方向に応じて、各フラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを動かすことができる。そのため、プロペラ3による水流を妨げることなく各フラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを折り曲げて(動作させて)、舵抵抗を低減してアジマス推進器1Aを小舵角にて旋回させることができる。また、フラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを各々独立に動作することができるので、水流の流れを大きく変化させたい位置のフラップ5dを大きく折り曲げることによって舵力を増加させることができる。したがって、アジマス推進器1Aの旋回性能を高めると共に、アジマス推進器1Aを旋回させる際の船体振動や関連機器の振動を抑制することができる。
【0037】
小舵角、かつ、大きな旋回力を得ることができるアジマス推進器1Aを用いることとした。そのため、船舶の旋回能力を高めるとともに、水流の変化を起因とする振動を低減した船舶にすることができる。
【0038】
なお、各フラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを折り曲げる角度は、予め実験などから求められた基礎データに基づいて決定しても良く、また、船舶の航行中に取得しても良い。さらに、航行中に初期のデータを適宜補正しても良い。
【0039】
[第2実施形態]
本実施形態のアジマス推進器およびこれを備えた船舶は、舵板の船首側にフラップを設ける点で、第1実施形態と相違しその他は同様である。したがって、同一の構成および制御方法については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0040】
図2には、本実施形態のアジマス推進器1Bの概略構成例が示されている。
本実施形態のアジマス推進器1Bは、舵板4の船尾側に6分割されたフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fが設けられると共に、舵板4の船首側(上流側、図2において右側)であってプロペラ(推進器)3の後流近傍の長辺(上流側長辺)に1つのフラップ6が設けられている。
【0041】
フラップ6は、舵板4の船首側の一辺に渡って設けられている。フラップ6は、例えば、ヒンジ(図示せず)などによって舵板4の船首側の一辺に固定されている。
【0042】
次に、アジマス推進器1Bを旋回させる際における制御方法について説明する。
船舶の船内(図示せず)に設置した旋回装置(図示せず)によって、プラペラ3が回転駆動しているアジマス推進器1Bを旋回する。その際に、アジマス推進器1Bを構成している舵板4の船首側に設けられているフラップ6を折り曲げる(動作させる)。また、舵板4の船尾側に設けられている複数のフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを各々独立に折り曲げる。
【0043】
プロペラ3が回転駆動することによって生じる水流、および、アジマス推進器1Bが旋回することにより生じる旋回流は、図2(A)および図2(C)の矢印で示すように、プロペラ3の後流からフラップ6に導かれる。舵板4の船首側に設けられているフラップ6を、図2(C)に示すように、例えば紙面手前に折り曲げることにより、舵板4の船首側に導かれたプロペラ3による水流、および、アジマス推進器1Bが旋回することにより生じる旋回流の流れ方向が変化する。
【0044】
フラップ6によって流れ方向が変えられたプロペラ3による水流およびアジマス推進器1Bの旋回流は、ボッド2および舵板4の側面に沿って船尾側へと導かれる。舵板4の船尾側に導かれた水流および旋回流は、舵板4の船尾側に設けられているフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを、例えば、紙面手前に折り曲げることにより、図2(C)の矢印で示すように、流れ方向が3段階に変化する。
【0045】
このように、舵板4の船首側の一辺にフラップ6の傾斜角度を調整することによって、プロペラ3が生じる水流およびアジマス推進器1Bを旋回させた際に生じる旋回流を整流することができる。そのため、アジマス推進器1Bの舵板4の揚力を向上させて旋回することができる。したがって、小舵角で船舶を旋回させることができる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態にかかるアジマス推進機1Bおよびこれを備えた船舶によれば、以下の作用効果を奏する。
舵板4の船首側(上流側)に設けられているプロペラ(推進器)3を端部に有しているポッド2と一体に設けられている舵形状の舵板4には、舵板4の船首側の長辺(上流側長辺)にフラップ6を設けることとした。これにより、プロペラ3が回動する際に生じる水流およびアジマス推進器1Bが旋回する際に生じる旋回流をフラップ6によって整流して、ポッド2および舵板4の側面へと導くことができる。そのため、舵抵抗を低減して、アジマス推進器1Bを小舵角にて旋回させることができる。したがって、アジマス推進器1Bの旋回性能を高めることができる。
【0047】
なお、本実施形態では、舵板4の船首側の長辺にフラップ6を設けるとして説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、フラップ6の代わりに整流板であっても良い。
【0048】
また、フラップ6を折り曲げる角度は、予め実験などから求められた基礎データに基づいて決定しても良く、また、船舶の航行中に取得しても良い。さらに、航行中に初期のデータを適宜補正しても良い。
【0049】
[第3実施形態]
本実施形態のアジマス推進器およびこれを備えた船舶は、舵板の船首側に複数のフラップを設ける点で、第2実施形態と相違しその他は同様である。したがって、同一の構成および制御方法については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0050】
図3には、本実施形態のアジマス推進器1Cの概略構成例が示されている。
本実施形態のアジマス推進器1Cは、舵板4の船尾側に6分割されたフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fが設けられると共に、舵板4の船首側(上流側、図3において右側)であってプロペラ(推進器)3の後流近傍の長辺(上流側長辺)に舵板4の長軸方向に複数に分割(例えば、6分割)されているフラップ7が設けられている。
【0051】
複数のフラップ7は、舵板4の船首側の一辺に渡って設けられており、舵板4の長軸方向に6分割されている。各フラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fは、例えば、ヒンジ(図示せず)などによって舵板4の船首側の一辺に固定されている。複数のフラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fは、各々が独立に動作可能とされている。
【0052】
次に、アジマス推進器1Cを旋回させる際における制御方法について説明する。
船舶の船内(図示せず)に設置した旋回装置(図示せず)によって、プラペラ3が回転駆動しているアジマス推進器1Cを旋回する。その際に、アジマス推進器1Cを構成している舵板4の船首側に設けられているフラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fを各々独立に折り曲げる(動作させる)。また、舵板4の船尾側に設けられている複数のフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを各々独立に折り曲げる。
【0053】
プロペラ3が回転駆動することによって生じる水流、および、アジマス推進器1Cが旋回することにより生じる旋回流は、図3(A)および図3(C)の矢印で示すように、プロペラ3の後流からフラップ7に導かれる。ここで、フラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fは、分割されて各々が独立に動作することができる。そのため、舵板4の船首側に設けられている複数のフラップ7のうちポッド2近傍でありポッド2の下方に位置しているフラップ7dを折り曲げてフラップ7dの傾斜角度を大きくし、それ以外のフラップ7a、7b、7c、7e、7fを折り曲げる際にはそれらの傾斜角度をフラップ7dに比べて小さくしたり、または、折り曲げないなどとする。
【0054】
このように、舵板4の船首側の一辺に設けた複数のフラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fを各々独立に動作させることによって、プロペラ3の回転により生じた水流を妨げることなく水流の流れ方向を大きく変化させることができる。
【0055】
そのため、アジマス推進器1Cを旋回させる際に、各フラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fを独立に折り曲げて、舵板4の船首側から舵板4の側面に導かれる水流の流れを変化させることによって、急激な水流の変化を生じることなくアジマス推進器1Cを旋回させることができる。したがって、舵板4に作用する負荷や、水流の急激な変化を起因として生じる振動を抑制することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施形態にかかるアジマス推進機1Cおよびこれを備えた船舶によれば、以下の作用効果を奏する。
舵板4の船首側の長辺(上流側長辺)には、舵板4の長軸方向に6分割(複数分割)されたフラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fを設け、各フラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fを各々独立に折り曲げる(動作する)こととした。そのため、プロペラ(推進器)3が生じる水流方向に応じて合わせてフラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fを動かして整流することができる。したがって、急激な水流の変化を少なくすることができ、舵板4への負荷や振動の発生を抑制することができる。
【0057】
なお、各フラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fを折り曲げる角度は、予め実験などから求められた基礎データに基づいて決定しても良く、また、船舶の航行中に取得しても良い。さらに、航行中に初期のデータを適宜補正しても良い。
【0058】
[第4実施形態]
本実施形態のアジマス推進器およびこれを備えた船舶は、舵板の側面に溝を設ける点で、第3実施形態と相違しその他は同様である。したがって、同一の構成および制御方法については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0059】
図4には、本実施形態のアジマス推進器1Dの概略構成例が示されている。
本実施形態のアジマス推進器1Dは、舵板4の側面にプロペラ(推進器)3が回転することによって生じる水流方向に沿って舵板4の船首側の長辺(上流側長辺)から船尾側の長辺(下流側長辺)に延在している、例えば、4つ(少なくとも1)の整流板(整流手段)8を備えている。
【0060】
本実施形態の場合には、プロペラの回転方向が船首側(図4の右側)から見た際に時計周りであるとして説明する。
整流板8は、略長方形状であり、本実施形態の場合には、舵板4の船首側から船尾側へと向かって下方に傾斜して4つ設けられている。
【0061】
次に、アジマス推進器1Dを旋回させる際における制御方法について説明する。
船舶の船内(図示せず)に設置した旋回装置(図示せず)によって、プラペラ3が回転駆動しているアジマス推進器1Dを旋回する。その際に、アジマス推進器1Dを構成している舵板4の船首側に設けられているフラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fを各々独立に折り曲げる(動作させる)。また、舵板4の船尾側に設けられている複数のフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを各々独立に折り曲げる。
【0062】
プロペラ3が回転駆動することによって生じた水流は、および、アジマス推進器1Dが旋回することにより生じる旋回流は、図4(A)および図4(C)の矢印で示すように、プロペラ3の後流からフラップ7に導かれる。ここで、フラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fは、分割されて各々が独立に動作することができる。そのため、舵板4の船首側に設けられている複数のフラップ7のうちポッド2近傍でありポッド2の下方に位置しているフラップ7dを折り曲げて(動作させて)フラップ7dの傾斜角度を大きくし、それ以外のフラップ7a、7b、7c、7e、7fを折り曲げる際にはそれらの傾斜角度をフラップ7dに比べて小さくしたり、または、折り曲げないなどとする。
【0063】
舵板4の船首側に設けた複数のフラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fによって流れを方向が変化した水流は、舵板4の側面へと導かれる。舵板4の側面に導かれた水流は、舵板4に設けられている整流板8に沿って流れ方向が整えられて船尾側へと導かれる。
【0064】
このように、整流板8によって流れ方向が整えられた水流が舵板4の船尾側に設けられている各フラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fに導かれるので、各5a、5b、5c、5d、5e、5fを効果的に折り曲げることができる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態にかかるアジマス推進機1Dおよびこれを備えた船舶によれば、以下の作用効果を奏する。
プロペラ(推進器)3が回転することによって生じる水流方向に沿って延在している整流板(整流手段)8を舵板4の側面に設けることとした。これにより、舵板4の側面に導かれたプロペラからの水流を整流して舵板4の船首側の長辺(上流側長辺)から船尾側の長辺(下流側長辺)と導くことができる。そのため、舵板4の船尾側の長辺へ導かれる水流に乱れが生じないため、舵板4の船尾側の長辺に設けられているフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを効果的に折り曲げる(動作させる)ことができる。
【0066】
なお、本実施形態では、整流手段を整流板8として説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、溝であっても良い。
【0067】
また、本実施形態では、整流板8の傾斜方向を舵板4の船首側から船尾側へ向かって下方に傾斜しているとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、プロペラ3の回転によって生じる流れ方向が上下方向に傾斜するように設ければ良い。
【0068】
[第5実施形態]
本実施形態のアジマス推進器およびこれを備えた船舶は、舵板の側面に設けられた整流板が舵板の側面に対して平行に回動する点で、第4実施形態と相違しその他は同様である。したがって、同一の構成および制御方法については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0069】
図5には、本実施形態のアジマス推進器1Eの概略構成例が示されている。
本実施形態のアジマス推進器1Eの舵板4の側面には、舵板4の側面上に回動可能とされている整流板9が設けられている。
【0070】
整流板9は、略長方形状であり、本実施形態の場合には、舵板4の船首側(上流側)から船尾側(下流側)へと向かって下方に傾斜して8つ設けられている。これら8つの整流板9は、舵板4の船首側から船尾側へと向かって2列に設けられており、各列には、整流板9が平行に4つ設けられている。
【0071】
各整流板9は、その長手方向の略中心を回転軸9aが貫通している。回転軸9aは、整流板9を紙面の手前から舵板4の側面に向かって貫通している。これにより、整流板9は、舵板4の側面に対して平行に回転軸9a周りに回動可能となっており、整流板9の延在方向の傾斜角度が可変となっている。このように舵板4の側面に設けられている各整流板9は、各々が互いに独立に回動可能とされている。
【0072】
次に、アジマス推進器1Eを旋回させる際における制御方法について説明する。
船舶の船内(図示せず)に設置した旋回装置(図示せず)によって、プラペラ(推進器)3が回転駆動しているアジマス推進器1Eを旋回する。その際に、アジマス推進器1Eを構成している舵板4の船首側の長辺(上流側長辺)に設けられているフラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fを各々独立に折り曲げる(動作させる)。また、舵板4の船尾側の長辺(下流側長辺)に設けられている複数のフラップ5a、5b、5c、5d、5e、5fを各々独立に折り曲げる。
【0073】
プロペラ3の後流に導かれる水流は、プロペラ3の回転数や潮流によって異なり、プロペラ3の回転数や潮流によって複雑に変化する。
【0074】
このように複雑に変化する水流は、図5(A)および図5(C)に矢印で示すように、プロペラ3の後流から各フラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fに導かれて流れ方向が変えられる。フラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fによって流れ方向が変化した水流は、舵板4の側面へと導かれる。舵板4の側面に導かれた水流は、舵板4に設けられている整流板9に沿って流れ方向が整えられて船尾側へと導かれる。
【0075】
ここで、舵板4に設けられている整流板9は、その延在方向の角度を互いに独立に変化させることができるものとされている。そのため、各フラップ7a、7b、7c、7d、7e、7fから舵板4に導かれた水流の流れ方向に応じて各整流板9の角度を変化させて舵板4の船尾側へと導くことができる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態にかかるアジマス推進機1Eおよびこれを備えた船舶によれば、以下の作用効果を奏する。
舵板4の側面上に回動可能に整流板(整流手段)9を設けることとした。そのため、潮流の変化やプロペラ(推進器)3の回転数の変化により舵板4に導かれる水流の変化に合わせて、整流板9の延在方向を変えることができる。したがって、複雑な水流に対応することができる。
【0077】
なお、舵板4の側面に設けられる各整流板9の傾斜角度は、予め実験などから求められた基礎データに基づいて決定しても良く、また、船舶の航行中に取得しても良い。さらに、航行中に初期のデータを適宜補正しても良い。
【0078】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0079】
1A〜1E アジマス推進器
2 ポッド
3 プロペラ(推進器)
4 舵板
5 フラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポッドと一体に設けられ、該ポッドの中心軸線に対して略直交する方向に長軸を有して延在する舵形状の舵板と、
前記ポッドの端部に設けられ、前記舵板の上流側に設けられる推進器と、を備え、
前記舵板の下流側長辺には、前記舵板の前記長軸方向に複数分割されて互いに独立に動作するフラップが設けられることを特徴とするアジマス推進器。
【請求項2】
前記舵板の上流側長辺には、フラップを設けることを特徴とする請求項1に記載のアジマス推進器。
【請求項3】
前記フラップは、前記舵板の前記長軸方向に複数分割されて互いに独立に動作することを特徴とする請求項2に記載のアジマス推進器。
【請求項4】
前記舵板の側面には、前記推進器が回転することによって生じる水流方向に沿って前記舵板の上流側長辺から下流側長辺に延在する少なくとも1の整流手段を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のアジマス推進器。
【請求項5】
前記整流手段は、前記舵板の側面上に回動可能に設けられることを特徴とする請求項4に記載のアジマス推進器。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のアジマス推進器を備えたことを特徴とする船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−111422(P2012−111422A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263842(P2010−263842)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)