説明

アスベスト処理方法およびその装置

【課題】本発明は、アスベストの無害化処理の熱源として、重油や石炭といった化石燃料を用いず、太陽熱を直接利用した加熱によってこれらの消費によるCO2を削減したアスベスト処理方法、及びその装置を提供することを目的とする。
【解決手段】太陽光を集光して耐熱容器に照射し、耐熱容器の内部に投入したアスベストを1500〜2000℃に加熱して、無害化することを特徴とするアスベスト無害化処理方法、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト処理方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストの無害化手法として、環境省が定めている方法の条件は、現状では、次の通りである。
1.炉温度がおおむね1500℃以上の状態で廃石綿などを溶融できるものであること。
2.炉温を速やかに1.に掲げる温度以上にし、これを保つために必要な加熱装置が設けられていること。
3.石綿の変質に充分な滞留時間が得られる溶融設備であること。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】循環型社会の虚構と現実 月刊廃棄物 2009 11月号 68〜73頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、通常は、溶融するエネルギーの大部分を石炭や重油などの化石燃料で賄っているので、地球温暖化抑止のためのCO2削減への対応や枯渇性資源であるための供給不安が社会的問題となっている今日、最善の方法とはいえない。
【0005】
CO2対策として、上記溶融条件を満たす既存の製造プロセス、たとえばセメント製造システムを利用してアスベストを無害化することも可能であるが、化石燃焼に伴う燃焼ガスが大量に発生し、燃焼ガスとともにアスベストが短時間で系外に放出されることが危惧される。アスベストの無害化に常に十分な滞留時間が取れることを証明することは困難であり、排ガスからの未処理アスベストの飛散リスクを払拭することはできない。
【0006】
一方、1500℃以上の加熱溶融に関して、化石燃料に代わる代表的なエネルギーは太陽光である。たとえば、光起電力効果によって太陽光を電気エネルギーに変換し、電気抵抗炉やプラズマアーク炉など溶融炉のエネルギー源とすることは可能である。しかし、太陽光発電による電気へのエネルギー変換効率は25%以下と低い。
【0007】
これに対し、太陽光をレンズで集光し、直接熱として利用する方法がある。このときの燃焼炉を太陽炉という。太陽炉の熱へのエネルギー変換効率は、たとえばフレネルレンズを用いたときは、70%以上といわれている。このため、太陽光を利用する場合、発電による電気を利用する方法より、熱として直接利用するほうが効率的である。
【0008】
本発明は、アスベストの無害化処理の熱源として、重油や石炭といった化石燃料を用いず、太陽熱を直接利用した加熱によって、燃焼ガスによる飛散リスクを伴わず、燃料消費によるCO2を削減したアスベスト無害化処理方法、及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]太陽光を集光して、アスベスト含有物に直接照射し、アスベストを無害化することを特徴とするアスベスト無害化処理方法、である。
【0010】
[2]太陽光を集光して、内部にアスベスト含有物を投入した耐熱容器に照射し、耐熱容器内部のアスベストを無害化することを特徴とするアスベスト無害化処理方法、である。
【0011】
本発明におけるアスベストの無害化処理装置は、レンズによって太陽エネルギーの集光する集光装置と、集光装置の焦点位置にアスベストを加熱するための耐熱容器とを備えていることを特徴とする。
【0012】
太陽エネルギーの集光装置としては、凸面鏡、フレネルレンズ、凹レンズ、平面鏡式(ヘリオスタット)などがあるが、凸面鏡、フレネルレンズは大型化が困難であるため、平面鏡式(ヘリオスタット)もしくは凹面鏡と平面鏡式(ヘリオスタット)を組み合わせたものが好ましい。両方式では、数十m2以上の集光面積とすることができ、太陽エネルギーのエネルギー密度の低さを補うことが可能である。
【0013】
処理対象物のアスベストは、解体現場から概ね、縦、横0.5mの耐水性袋に2重梱包し、漏洩・飛散しない状態で収集、運搬される。本処理では、この袋のままで耐熱容器に投入することができる。投入量は容器の内容量までである。焼成時に熱を逃がさないため蓋で閉じるなど、開口部が少ないことが望ましい。
【0014】
加熱方式は、集光した太陽光をアスベスト含有物へ直に当てる直接加熱でもよいし、耐熱容器に当てて熱伝達や輻射熱による間接加熱とすることもできる。
【0015】
耐熱容器の材質は、Nb,Ta,W,Mo,Ptなどの高温用金属、超耐熱合金、又は、アルミナ、ジルコニア、シリカ、マグネシアなどのセラミックスを用いることができる。耐熱容器内を不活性雰囲気とするときは、炭化珪素のような炭素系材料が使用でき、炭素を用いた複合材を用いることもできる。ただし、間接加熱の場合には、熱伝導率の高い材質を選択することが望ましい。
【0016】
耐熱容器は、固定してもよいし、回転可動式としてもよい。アスベストの無害化は1500℃以上となればよく、特に炉内温度を均一にする必要はない。このため、耐熱容器を回転することは必要とされない。しかし、大型容器を用いる場合、温度の不均一による局部低温や局部過熱による容器の溶融といった可能性もある。このため、耐熱容器を回転させ、温度の均一化を図ることが好ましい。
【0017】
直接加熱の回転炉としては、パンペレ構造のパン型回転炉や樽型回転炉を用いることができる。間接加熱の回転炉としては、回転テーブル上に耐熱容器を載せ、水平方向に回転させる方法や、球状もしくは円筒状の容器を天地方向に回転させる、一般に回転混合機として用いられる構造の装置を用いる方法がある。容器を回転させながら、内部に投入したアスベストを均一に焼成することができ、無害化までの時間を短縮することが可能となる。
【0018】
アスベストの無害化温度は1500℃と太陽炉にしては比較的低温である。このため、焦点から少しずらして設定するのが好ましい。焦点温度は2000℃以上になる可能性があり、耐熱容器自体を溶かす危険があるためである。
【0019】
このため、耐熱容器が太陽光の当たる位置は、容器位置が可変となり調整できる仕組みをとる。フレネルレンズによる小型の場合はジャッキ台を、ヘリオスタットによる大型の場合はスライドテーブルなどを用いる方法がある。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、大きなエネルギー消費を伴うことなく、また、化石燃料の燃焼にともなうガスがほとんど発生しないため、処理時の飛散リスクがない状態でアスベストの無害化処理を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。図1は本発明の一実施形態で太陽エネルギーの集光装置として、凹面鏡と平面鏡式(ヘリオスタット)を用いたものである。
【0022】
太陽光は、太陽追尾システムを装備した複数の平面鏡(ヘリオスタット)で反射され、凹面鏡に投射する。凹面鏡の焦点位置には、アスベスト加熱処理の耐熱容器が設置される。
【0023】
太陽光追尾システムについては、特開平06−250739 07−332963 08−63232 10−106317 に開示されているものが使用可能である。
【0024】
焦点位置付近には、アスベスト含有物が装填された耐熱容器が設置されるようになっている。耐熱容器を載せるターンテーブルは、周方向に回転し、耐熱容器が均一に加熱されるように備えられる。
【0025】
図1は、間接加熱による本願発明の処理装置である。太陽光は、フレネルレンズで直接集光し、ジャッキ式の載台の上に耐熱物を充填した鉄箱(0.14m×0.1m)を設置し、鉄箱内部に耐熱容器を固定した。レンズ仕様により焦点位置はレンズから1.2m離れた位置にある。鉄箱をジャッキ台で支持し、太陽光の焦点の位置を、耐熱容器付近に結んだ。焦点との距離は、ジャッキ台により微調整が可能である。焦点と耐熱容器との位置関係を調整することにより、耐熱容器の溶損を回避することができる。
【0026】
例えば、スライドテーブルは、耐熱容器と焦点との距離を自由に調整するために備えられる。レンズと焦点を結ぶ線上において、焦点から近づくにつれ、照射面積は縮小し温度は上昇する。逆に焦点から離れるにしたがって面積は増大し、温度は低下する。これによって、容器が溶融しない、適切な温度に調整することができる。
【0027】
図2は、本願発明の別の実験に用いた処理装置である。太陽光は、フレネルレンズで直接集光し、ジャッキ式の載台の上に耐熱物を充填した鉄箱(0.14m×0.1m)を設置し、鉄箱内部に耐熱容器を固定した。レンズ仕様により焦点位置はレンズから1.2m離れた位置にある。鉄箱をジャッキ台で支持し、太陽光の焦点の位置を、耐熱容器付近に結んだ。焦点との距離は、ジャッキ台により微調整が可能である。焦点と耐熱容器との位置関係を調整することにより、耐熱容器の溶損を回避することができた。
【0028】
実施例1
図2の装置を用いて、直接照射による実験を行った。
処理物は、波型スレート廃材(クリソタイル6wt%、クロシドライト2wt%)である。
試験条件:固定式容器にアルミナルツボ(50ml)を太陽光に対して上向きに置き、内部に20mm角程度の処理物の小片を投入した。太陽光を直接、処理物に照射することにより加熱処理をおこなった。焼成時間は1分程度とした。
【0029】
実施例2
図1の装置を用いて、間接加熱による実験を行った。処理物は、実施例1と同じものである。試験条件:固定式容器内に、20mm角程度の処理物の小片を投入したアルミナルツボ(50ml)を太陽光に対して横向きに置き、蓋をした。アルミナルツボ側面に、太陽光を照射し間接加熱処理をおこなった。焼成温度は、予め耐熱容器内部に挿入された熱電対により計測し、内部が1500℃以上となるまで加熱処理をおこなった。
【0030】
加熱処理後のアスベスト無害化の評価については、位相差顕微鏡を用いた計数分析法及びX線回折に拠った。計数分析法は、100μm以下の粉末にした試料0.4gを一旦飛散させ、これを捕集ユニットで全量フィルタ捕集したフィルタに対し、平成元年 環境庁告示 第93号に則する方法で実施した。次に、X線回折はJIS A1481に準拠し、加熱処理後の分析には、検出精度を上げるため蟻酸処理を実施した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
処理物の処理前品は、分析結果より、計数分析法、X線回折法のいずれもアスベストであるクリソタイルおよびクロシドライトが検出されたことが判る。一方、実施例の分析結果では、直接加熱、間接加熱によらず、どちらの分析でもクリソタイル、クロシドライトは検出できなかった。本願発明の焼成炉によってアスベストが無害化された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本願発明の太陽エネルギーの集光装置と焼成炉の概略図。
【図2】本願発明の別の太陽エネルギーの集光装置と焼成炉の概略図。
【符号の説明】
【0035】
1 太陽光
2A ヘリオスタット
2B 凹面鏡
2C フレネルレンズ
3 焦点
4 耐熱物
5 耐熱容器
6 ターンテーブル
7 スライドテーブル
8 ジャッキ台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光を集光して、アスベスト含有物に直接照射し、アスベストを無害化することを特徴とするアスベスト無害化処理方法。
【請求項2】
太陽光を集光して、内部にアスベスト含有物を投入した耐熱容器に照射し、耐熱容器内部のアスベストを無害化することを特徴とするアスベスト無害化処理方法。
【請求項3】
加熱温度が1500〜2000℃の範囲となるように、焦点と耐熱容器の位置を微調整することを特徴とした請求項1又は2に記載のアスベスト無害化処理方法

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−167587(P2011−167587A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31009(P2010−31009)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】