アスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法
【課題】繊維状アスベストを含む複合材を、フロン代替物質を含む特定化合物を含有する反応液を低温で加熱することにより、複合材の繊維状アスベストを、粒状または粉状に分解してアスベストを無害化する方法を提供する。
【解決手段】繊維状アスベストと酸化カルシウム成分を含有するセメントを有する複合材を、塩化カルシウムを含有する反応液に浸漬して該反応液を複合材中に含浸させた後、600〜800℃の温度で加熱することにより、アスベスト化合物中のMgとSiの化学結合を切断し、繊維状アスベストを粒状または粉状に分解することを特徴とする。
【解決手段】繊維状アスベストと酸化カルシウム成分を含有するセメントを有する複合材を、塩化カルシウムを含有する反応液に浸漬して該反応液を複合材中に含浸させた後、600〜800℃の温度で加熱することにより、アスベスト化合物中のMgとSiの化学結合を切断し、繊維状アスベストを粒状または粉状に分解することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法に関し、特に、鉄骨等の建材表面に形成される繊維状アスベストとセメントの複合材からなる吹き付け耐火被覆層の繊維状アスベストを、粒状または粉状に分解してアスベストを無害化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は天然に産する鉱物繊維である。それには、蛇紋岩系のクリソタイル(白石綿、Mg6Si4O10(OH)8)や角閃石系のアモサイト(茶石綿、(Fe,Mg)7Si8O22(OH)2)などがあり、耐熱性、耐薬品性、絶縁性などの諸特性に優れているため、建設資材、電気製品、自動車および家庭用品など 3,000種を超える利用形態が存在すると言われている。
【0003】
しかし、アスベスト暴露と種々の疾病(石綿肺、肺癌、悪性中皮腫など)の因果関係は1960年代頃から既に示唆されていたにもかかわらず、日本では今もなおアスベストが使用され続けている。1930年から2002年の間に日本国内で消費されたアスベストは1000万トンにも及び、その9割以上は建築資材(建材)として使用されたものである。
【0004】
アスベストの使用形態は、紡織品として単独で使用される場合と,鉄骨の耐火被覆材および壁材の吸音・結露防止用としてセメント−アスベスト系の複合材が使用される場合とが挙げられる。
【0005】
セメント−アスベスト系複合材は,吹き付けアスベスト,アスベスト保温材およびアスベスト成形板の3種類に大別することができる.この中で、使用量が多く,アスベスト含有量が高く,破壊時にアスベストが飛散しやすいのは、吹き付けアスベストである。
【0006】
吹き付けアスベストは、鉄骨等の建材の耐火被覆層として用いられ、具体的には、火災時に鉄骨の融解、崩壊を防ぐために、セメントとアスベストを混合し、スプレーガンなどから吹き付けるものである。吹き付け材中に含まれるアスベスト量は、通常、50〜95%程度である。この吹き付け材中のアスベストは、全体として繊維状(綿状)を呈し、機械的強度はもたないが、空隙を多く持つことから断熱材としての機能を保有する。アスベストを含んだ耐火被覆層を形成した建材は、建築物が解体されて廃材になる場合には、建材から耐火被覆層を剥離し、剥離した耐火被覆層はその後、特定管理物質として処分される。
【0007】
最近(2005年6月)、アスベストによる健康問題が一気に社会問題となり、吹き付けアスベストの取り扱いに関しても世論が一層厳しくなった。今後、アスベストを含む耐火被覆層を形成した建材を有する建築物の解体や廃棄がピークを迎えることから,アスベストを含む複合材の処理問題がますます深刻化することが予想される。
【0008】
これまでに大量に生産された耐火被覆建材は、使用後廃棄された場合には産業廃棄物として処分されている。しかしながら、セメント硬化物が中性化すれば繊維状のアスベストの飛散、放散が予測されることから安全な対策が求められているが、現状では特別な対策はない。
【0009】
アスベストの分解無害化するための手段としては、例えば、特許文献1記載の密閉型電気炉溶解法や特許文献2記載のスラグ浴融解法などが挙げられるが、いずれの方法も1000℃以上の処理温度を要し、膨大なエネルギー消費問題を抱えていることから実用化には至っていない。
また、高温プラズマで溶融させる試みもあるが実施はされていない。
【特許文献1】特許第3085959号公報
【特許文献2】特開平7−171536号公報
【0010】
このため、本発明者のうちの一人は、特許文献3において、アスベストとフロン分解無害化処理によって生成されたフロン化合物とを混合し、次いで当該混合物を低温加熱処理して成るアスベストの無害化処理方法を提案した。
【0011】
すなわち、アスベストを無害化するためには、加熱して融解させることであると考えた。そして、エネルギー消費問題を解決するために、できる限り低温でアスベストを融解させる融解剤を求めた。鉄鋼関係では融解剤にフッ素化合物が使用されており、本発明者がこれまでに取りくんできたフロン分解物でも可能ではないかと考えた。
【特許文献3】特開2005−168632号公報
【0012】
ここでいう「フロン分解物」とは、フロンの分解処理工程において最終的に得られる物質である。フロン分解法の一つである「プラズマ方式」では、フロンはまず塩化水素とフッ化水素、二酸化炭素に分解され、それらを水酸化カルシウムに吸収させた後、塩化カルシウムを水洗することにより、炭酸カルシウムとフッ化カルシウムを成分とするフロン分解物が得られる。
【0013】
フロンもまたアスベスト同様、アメニティー社会構築のために幅広く使用されてきた物質で、その安定性、不燃性、無毒性から冷蔵庫やクーラーの冷媒、半導体や精密機器の洗浄剤、スプレーの噴霧剤などに用いられていた。
【0014】
しかしながら、フロンがオゾン層破壊物質であり、現在では全世界で使用が禁止され、回収が義務付けられているため、回収されたフロンの分解物を再資源化や再利用する範囲でアスベストの分解無害化する方法に用いるのは好ましいものの、アスベストを分解無害化するために有害なフロンを新たに生成することはできないため、フロン分解物を用いることなく、環境に悪影響を及ぼさないようなフロン代替物質を含む化合物を用いてアスベストを無害化する方法を開発する必要があった。また、フロン分解物は、アスベストとの反応ができさえすれば、アスベストを分解無害化することができるが、例えば、セメントとアスベストの複合材で構成されるような吹き付けアスベストの場合には、セメントがアスベストとフロン分解物との反応を妨害するため、十分にアスベストを分解無害化することができない場合があった。加えて、フロン分解物を用いて繊維状アスベストを分解した後の形態は、繊維状のままの形態を維持している場合もあり、必ずしも粒状または粉状までに分解されているとは限らないため、アスベストが十分に無害化されているとは言えない場合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この発明の目的は、 繊維状アスベストを含む複合材を、フロン代替物質を含む特定化合物を含有する反応液を低温で加熱することにより、複合材の繊維状アスベストを、粒状または粉状に分解してアスベストを無害化する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、この発明の要旨は以下のとおりである。
(I)繊維状アスベストと酸化カルシウム成分を含有するセメントを有する複合材を、塩化カルシウムを含有する反応液に浸漬して該反応液を複合材中に含浸させた後、600〜800℃の温度で加熱することにより、アスベスト化合物中のMgとSiの化学結合を切断し、繊維状アスベストを粒状または粉状に分解することを特徴とするアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【0017】
(II)前記複合材は、鉄骨等の建材表面に吹き付けられて形成した耐火被覆層である上記(I)記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【0018】
(III)前記反応液は、塩化カルシウムに加えて他のカルシウム化合物をさらに含有する反応液である上記(I)または(II)記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【0019】
(IV)前記他のカルシウム化合物は炭酸カルシウムである上記(III)記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【0020】
(V)前記反応液は、低温で溶融塩を形成してアスベストとの反応速度を増加させる補助添加化合物をさらに含有する上記(I)〜(IV)のいずれか1項記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【0021】
(VI)前記補助添加化合物は、塩化カルシウム以外の塩化物および/またはフッ化物である上記(V)記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、繊維状アスベストを含む複合材を、フロン代替物質を含む特定化合物を含有する反応液を低温で加熱することにより、複合材の繊維状アスベストを、粒状または粉状に分解してアスベストを無害化する方法の提供が可能になる。
【0023】
特に、アスベストとセメントを含む吹き付けアスベストは、これまでは分解、崩壊、融解ができない、あるいは1500℃以上の高温でなければできないと言われていた。吹き付けアスベストの取り扱いにおいて、水などにより湿潤化することでアスベストの飛散性を改善する必要がある。本発明では、各種塩類(好適には、塩化カルシウムの単一塩、または塩化カルシウムと炭酸カルシウムの混合塩)の反応液を湿潤化用に用い、大きな吹き付けアスベストの塊の破砕でも可能である。アスベストの分解に不足する塩化カルシウム、炭酸カルシウム(あるいは水酸化カルシウム等)は再含浸し、それを600〜800℃に加熱することで、非繊維化、アスベストの化学結合の分解が可能となり、アスベストを無害化することができる。
【0024】
また、アスベストは、カルシウム成分を計算量の2倍程度加えることで、安定した非繊維化が可能になった。加えて、反応温度を低下させるには、溶融塩を用いることで達成できる。
【0025】
本発明は、廃棄物費用の低廉化を図るとともに、長年月にわたって健康を害してきた有害物質であるアスベストを含む耐火被覆材を無害化することができ、また、無害化の温度の上限値である800℃は、都市清掃工場からのエネルギー使用で達成することができる温度であり、これによって、アスベストの無害化処理コストの削減も図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
この発明に従う実施形態について以下に説明する。
本発明者らは、アスベストとセメントを有する複合材中のアスベストの無害化について、次の観点から評価した。
【0027】
(1)アスベストの非繊維化
本発明者らは、アスベストが、通常の使用形態では繊維状を呈し、この形態を壊して繊維状アスベストを粉末状あるいは粒状に分解すれば無害化できると考えた。この点の評価は、走査電子顕微鏡で観察することにより行った。この点をさらに詳細に検討するために、水あるいは酢酸で洗浄した。アスベスト以外の物質が存在していたとしても、酢酸に溶解するものであれば除去分離されることになり、評価が容易になる。
【0028】
すなわち、水あるいは酢酸で洗浄する理由は、以下の通りである。
生成物中には、添加した過剰のCaCl2溶融物や未反応のCaO複合酸化物などが残っており、生成物を電子顕微鏡で観察した場合、残存するこれらの化合物のためにアスベスト繊維自体が観察しにくいことがあるが、水で洗浄した場合には、溶融したCaCl2が水に溶けるためCaCl2を除去することができ、また、酢酸で洗浄した場合には、CaO系の溶けやすい酸化物を溶かして除去することできるからである。特に、酢酸のような有機酸を使うのは、前述のような酸化物は溶解するが、アスベストは溶解しないためである。
【0029】
(2)複合材中のアスベストの有無および分解の判定方法
アスベストは、マグネシウム(Mg)とケイ素(Si)とを含む結晶であり、特有の結晶構造を有しており、X線回折法により分析ができる。本発明でもアスベストの有無は、この方法で判定した。また、アスベストの分解は、MgとSiの化学結合が切断されたことにより生成する酸化マグネシウムの有無により判定した。
【0030】
(3)吹き付けアスベストの調製
廃棄された吹き付けアスベストは,管理型廃棄物であることから入手困難であることや、使用履歴が不明確であるため、研究用試料としてはポルトランドセメントとクリソタイル型アスベストを混合し、硬化させることにより調製した。
実験に使用した吹き付けアスベストは、2種類の試料(試料Aはアスベスト:セメント=6:4(質量比)および試料Bはアスベスト:セメント=9:1(質量比))を下記の方法で作製した。
【0031】
(i)試料Aの作製方法(アスベスト:セメント=6:4(質量比))
アスベストは,最も使用量の多いクリソタイル型(関東化学(株)製)を使用した。アスベストと普通ポルトランドセメント(CaO含有率:約65質量%)を質量比で6:4になるように採取し、また、断熱材としての効用を十分に発揮させるため、発泡剤としてアルミニウム粉をセメント質量の10mass.%に相当する量を添加した。次に、水をセメント、アスベストおよびアルミニウム粉の各使用量の和と等しい質量に相当する量を加え、ビーカー内で混合した。混合は、アスベストとセメントとアルミニウム粉が均一になるまで行った.混合物は静置し、硬化させて試料Aを作製した。なお、試料Aの嵩密度は0.83 g/cm3,空隙率は64.8%であった。
【0032】
(ii)試料Bの作製方法(高アスベスト含有吹き付けアスベスト、アスベスト:セメント=9:1(質量比))
アスベスト含有量の高い吹き付けアスベストである試料Bは、次の方法で調製した。アスベストと普通ポルトランドセメント(CaO含有率:約65質量%)を質量比で9:1になるように採取し、水を全質量と同等量加え、混合した。混合は、アスベストとセメントが均一になるまで行った。混合物は、加熱したホットプレート上に滴下し、水分を急速に蒸発されることで、多孔性の試料Bを作製した。なお、試料Bの嵩密度は1.82 g/cm3,空隙率は29.6%であった。
【0033】
(4)低アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)中のアスベストの分解・
無害化の検討
(イ)フロン分解物を用いた場合(比較例1)
上記作製した試料Aについて、発明者が出願した特許文献3のアスベスト無害化処理方法でアスベストが分解し非繊維化するかを調査した。
融解剤として使用したフロン分解物は、カーエアコンから回収したフロン化合物をプラズマ方式で分解し、生じた分解物を水酸化カルシウムに吸収させた。それは、炭酸カルシウム、フッ化カルシウムおよび塩化カルシウムとの混合物である。その後,水洗処理で塩化カルシウムを除去し,脱水ケーキ状(カースチール(株)提供,主成分CaCO3とCaF2)とした。
【0034】
吹付けアスベスト(試料A)1.7gを乳鉢で粉砕し、これにフロン分解物3.0gと純水(約3ml)を混合し、スラリー状のアスベスト−フロン分解物を調製した。これを磁製ルツボに入れた。その後、ルツボは、室温状態のマッフル炉(Muffle Furnace STR-13K ISUZU製,160mm×110mm×260mm)に入れ、800℃まで2.5時間で昇温し、この温度で2時間保持した後、炉から取り出し放冷し、焼成物を得た。得られた焼成物は、走査型電子顕微鏡(SEM,JSM-5600)観察を行った。
【0035】
フロン分解物を用いた場合は、加熱温度500℃から分解の兆候が見られ、700℃でアスベスト繊維が粉状化した。しかし、吹付けアスベストを対象としたこの発明での分解温度は、アスベストがセメントに覆われているため、それよりもさらに高温である800℃とした。
【0036】
800℃で2.5時間加熱した吹きつけアスベスト(試料A)を、SEMで観察すると、アスベストは繊維形態を保持しており、分解されていなかった(図1)。フロン分解物とアスベストとの反応は、固体−固体反応である。吹付けアスベストは、セメント固化物がアスベストとフロン分解物の接触を阻害し、反応の進行を妨げたためにアスベストの分解が進行しなかったと考えられる。
【0037】
(ロ)フッ化ナトリウム(NaF)を用いた場合(比較例2)
フロン分解物を用いた比較例1の場合には、セメント固化物がアスベストとフロン分解物の接触を阻害し、アスベストの分解反応の進行が妨げられたものと考えられた。そこで、セメント−アスベスト系複合材に、融解剤反応液を含浸することでアスベストと融解剤が接触し、アスベストを分解できると考えた。フロン分解物の主成分は、炭酸カルシウムおよびフッ化カルシウムであるが、これらは水に難溶であるので、カルシウムとフッ素を共に含む水溶性の分解剤を用いることにした。具体的には、水溶性のフッ化ナトリウムを用いた。なお、カルシウム成分は、アスベストを覆っているセメント中に酸化カルシウムが含まれており、この酸化カルシウムを用いることができるので、融解剤にはあえて添加しなくてもよいと考えた。
【0038】
吹付けアスベスト(試料A)1.7gに対し、塩(フッ化ナトリウム)1.0gを4~6mlの純水に溶解させ反応液として加え、磁製ルツボに入れた。その後、ルツボは、室温のマッフル炉に入れ、800℃まで2.5時間で昇温させ、2時間保持した後、炉から取り出し放冷して焼成物を得た。
【0039】
塩(フッ化ナトリウム)と吹き付けアスベスト(試料A)との混合比は、フロン分解物のみを用いた実験ではアスベスト1に対して、フロン分解物の主成分である炭酸カルシウムとフッ化カルシウムの質量比がおよそ1:1であったので、同様の割合で行った。
【0040】
得られた加熱焼成物は、粉末X線回折(XRD、理学電機(株)RINT2100V/PC)分析およびSEM(日本電子(株),JSM-5600)観察を行った。
【0041】
加熱焼成物中に存在するアスベストの形態の観察を明確にするために、アスベストを被覆している共存成分を1N酢酸で洗浄して取り除いた。具体的には、加熱焼成物をメノウ乳鉢で粉砕し、その約100mgをとり、100ml三角フラスコに入れた。そこに純水40mlあるいは20%酢酸水溶液20mlを加えた後、超音波洗浄器を用いて粉砕試料を約30秒振動、1分30秒静置する操作を6回繰り返した。試料は、メンブランフィルター(孔径1μm、厚さ80μm、空隙率80%)を吸引濾過器に装着し、濾過した。取り出したフィルターは、110℃の乾燥器で24時間乾燥させ、SEM観察用試料とした。
【0042】
得られた加熱焼成物のX線回折図形を図2(a)に示す。アスベスト特有の回折線ピークは、2θで12°と25°であるが、この回折線はみられなかった。アスベストを600〜700℃で脱水すると生成するフォルステライト(Mg2SiO4)も見られなかった。フォルステライトは、アスベストと異なり脆い結晶であるが、アスベストと同様に繊維状組織を保持しており、環境面からもフォルステライトでの存在は好ましくない。また、図2(a)の回折線は、未反応のフッ化ナトリウムとCaMgSiO4(CaO・MgO・SiO2)であった。
【0043】
加熱焼成物を走査電子顕微鏡で観察した様子の一部を図3に示す。この場合には、明らかに針状物質の存在が観察できた。
従って、フッ化ナトリウムでは、繊維状のアスベストの分解は不十分であった。
【0044】
(ハ)塩化ナトリウムを用いた場合(比較例3)
フッ素化合物は、一般に環境負荷物質であり、フッ化ナトリウムの使用は好ましくないと考えられる。このため、フッ化ナトリウムと同じ塩類である塩化ナトリウムについても同様の実験を行った。
【0045】
吹付けアスベスト(試料A)1.7gに対し、塩(塩化ナトリウム)1.0gを4~6mlの純水に溶解させ水溶液として加え、磁製ルツボに入れた。その後、ルツボは、室温のマッフル炉に入れ、800℃まで2.5時間で昇温させ、2時間保持した後、炉から取り出し放冷して焼成物を得た。
【0046】
得られた加熱焼成物は、粉末X線回折(XRD、理学電機(株)RINT2100V/PC)分析およびSEM(日本電子(株),JSM-5600)観察を行った。
また、加熱焼成物中に存在するアスベストの形態観察を明確にするために、アスベストを被覆している共存成分を1N酢酸で洗浄して取り除いてから観察を行った。
【0047】
得られた加熱焼成物のX線回折図形を図2(b)に示す。アスベスト特有の回折線ピークは、2θで12°と25°であるが、この回折線はみられなかった。また、アスベストが600〜700℃で脱水したフォルステライト(Mg2SiO4)の特徴的な回折線(2θで35.7°と36.5°のツインのピーク)も図2(b)にはみられなかった。
確認できた回折線は、未反応の塩化ナトリウム、CaMgSiO4(CaO・MgO・SiO2)、MgSiO3(MgO・SiO2)などであった。
【0048】
また、加熱焼成物を走査電子顕微鏡で観察した結果を図4に示す。図4から、焼成物中には繊維状の突起部が存在しており、非繊維化は不十分であった。
【0049】
(ニ)塩化カルシウムを用いた場合(実施例1)
融解剤として一般に使用される塩化ナトリウムよりも融点の低いものを調査した。その結果、塩化カルシウムの融点は774℃で塩化ナトリウム(800℃)の融点よりも低いので、融解性はより高いと考え、同様の実験を行った。
【0050】
吹付けアスベスト(試料A)1.7g(アスベスト量:約1g)を、25体積%の塩化カルシウム水溶液4mlに浸漬して含浸させた後、アルミナ製ルツボに入れ、110℃の乾燥器中で乾燥させた。このとき、吹き付けアスベスト(試料A)に付着した塩化カルシウム量は1gであった。
【0051】
その後、ルツボをマッフル炉に入れ、室温から800℃まで2.5時間で昇温した後、この温度で2時間保持した後、炉から取り出し放冷することにより焼成物を得た。
【0052】
得られた焼成物について、粉末X線回折法による分析を行った。その結果を図2(c)に示す。この回折線中には、発泡剤として用いたアルミニウムを含むCa12Al14O33やMgSiO3とともに、酸化マグネシウム(MgO)の回折線が確認できた。酸化マグネシウムの存在は、アスベストの構成元素であるSiとMgの化学結合が切断したことを示しており、アスベストが分解されたことを意味する。
【0053】
さらに、加熱焼成物を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図5に示す。図5から、アスベストは粒状になっており、当初のアスベストがもつ繊維状の形態は観察されなかった。
【0054】
なお、上記実験は、加熱温度が800℃の場合の実験結果であるが、加熱温度が600℃以上800℃未満の範囲で行った場合にも同様に、アスベスト繊維が粒状または粉状になって非繊維化するとともに、X線回折でもアスベストのピークが消失していた。従って、塩化カルシウムを含有する反応液を含浸した上で600〜800℃の温度で加熱することにより、複合材中のアスベストを分解できることが分かった。加熱時間としては、好適には2時間以上とすることが好ましい。
【0055】
以上のことから、アスベストを分解する効果は、NaF<NaCl<CaCl2の順で、CaCl2がもっとも効果的だった。これは、塩の融点(NaF 992℃、NaCl 800℃、CaCl2 774℃)に起因しており、低温融体の形成がアスベストの分解反応を促進しているものと考えられる。
【0056】
(5)高アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)中のアスベストの分解・
無害化の検討
次に、高含有アスベスト吹き付けアスベスト(試料B)中のアスベストを分解・無害化する検討を行った。
【0057】
(イ)塩化カルシウム(0.4g)を用い、加熱温度を800℃とした場合(比較
例A)
高アスベスト含有吹き付けアスベスト(試料B)1.1g(アスベスト量:約1g)を、25体積%塩化カルシウム含有反応液を含浸させた上で、アルミナ製ルツボに入れ、110℃の乾燥器中で乾燥させた。このとき、吹き付けアスベスト(試料B)に付着した塩化カルシウム量は0.4gであった。
【0058】
その後、ルツボをマッフル炉に入れ、室温から800℃まで2.5時間で昇温した後、この温度で2時間保持した。その後、炉から取り出し放冷して焼成物を得た。得られた焼成物について、粉末X線回折分析を行った。その分析結果を図6に示す。この回折線中には、フォルステライト(Mg2SiO4)特有の2θで35.7°と36.5°の2つのピークがはっきりと認められた。フォルステライト以外には、カルシウムシリケイトの水和物(Ca3Si2O7・H2O)の存在が認められた。それ以外には、酸化マグネシウムの回折線も強度的には低いが、62°および43°付近にそれぞれ認められた。酸化マグネシウムが存在していることから、アスベストの分解は生じているといえる。しかし、アスベスト含有率の高い試料では、塩化カルシウムのみを含有させた反応液の含浸では、加熱してもアスベストの分解は不十分であった。これは、後述するが、吹き付けアスベスト(試料B)に付着した塩化カルシウム量(0.4g)がアスベスト/CaCl2=1/1(モル比)で、アスベストの分解に必要なカルシウム量(2モル以上)よりも少なかったためであると考えられる。
【0059】
(ロ)塩化カルシウム(0.4g)を用い、加熱温度を700℃とした場合(比較
例B)
加熱温度として700℃としたこと以外は比較例Aと同様な方法で焼成物を得た。得られた焼成物について、粉末X線回折分析を行った。その分析結果を図7に示す。この回折線中には、フォルステライト(Mg2SiO4)特有の2θで35.7°と36.5°の2つのピークがはっきりと認められた。フォルステライト以外には、カルシウムシリケイトの水和物(Ca3Si2O7・H2O)の存在が認められた。それ以外には、酸化マグネシウムの回折線も強度的には低いが、78°、62°および43°付近にそれぞれ認められた。酸化マグネシウムが存在していることから、アスベストの分解は生じているといえる。しかし、アスベスト含有率の高い試料では、塩化カルシウムのみを含有させた反応液の含浸では、加熱してもアスベストの分解は不十分であった。これは、後述するが、吹き付けアスベスト(試料B)に付着した塩化カルシウム量(0.4g)がアスベストの分解に必要なカルシウム量よりも少なかったためであると考えられる。
【0060】
(ハ)塩化カルシウムと炭酸カルシウムの複合塩を用い、加熱温度を800℃とし
た場合(実施例A)
このため、本発明者らは、高含有吹き付けアスベスト(試料B)の無害化について更に検討を行った。
高含有吹き付けアスベスト(試料B)1.1g(アスベスト量:約1g)を乳鉢ですりつぶし、そこに炭酸カルシウム1.0gと約4mlの純水に溶解させた塩化カルシウム1.0gを加えて混合し、磁製ルツボに入れた。その後、試料の入ったルツボをマッフル炉に入れ、室温から800℃まで2.5時間で昇温させ、この温度で2時間保持した後、炉から取り出し冷却して焼成物を得た。
【0061】
得られた焼成物は、SEMによる観察および粉末X線回折分析(XRD)を行った。また、焼成物には塩が過剰に含まれているので、水洗浄後の試料についても、併せてSEM観察を行った。
【0062】
加熱焼成した試料のXRD結果を図8に示す。このXRD結果から、塩化カルシウム(CaCl2)、Ca3Cl2SiO4およびCa8Mg(SiO4)4Cl2以外に酸化マグネシウム(MgO)が認められ、フォルステライト特有の回折線ピークはみられなかった。回折線中には、酸化マグネシウム(MgO)のピークが存在していることから、アスベストが分解したものと考えられる。
【0063】
また、走査電子顕微鏡(SEM)で観察した様子を図9に示す。なお、図9は、水あるいは酢酸での洗浄前に観察したものであるが、この図から、一部溶融している様子が認められた。
【0064】
さらに、1Nの酢酸で洗浄した後に焼成物を電子顕微鏡で観察した様子を結果を図10に示す。図10から、焼成物は粒状化しており、アスベストの繊維形態は認められなかった。
【0065】
これらのことから、アスベストに対してセメント量、より厳密には酸化カルシウム量(CaO)の少ない複合材には、酸化カルシウムの不足分を、別途、炭酸カルシウム(CaCO3)や水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等の他のカルシウム化合物を添加して補うことで、繊維状アスベストを分解できることがわかった。
【0066】
(ニ)塩化カルシウムと炭酸カルシウムの複合塩を用い、加熱温度を700℃とし
た場合(実施例B)
加熱温度として700℃としたこと以外は実施例Aと同様な方法で焼成物を得た。
得られた焼成物は、SEMによる観察および粉末X線回折分析(XRD)を行った。また、焼成物には塩が過剰に含まれているので、水洗浄後の試料についても、併せてSEM観察を行った。
【0067】
加熱焼成物のXRD結果を図11に示す。このXRD結果から、塩化カルシウム(CaCl2)、Ca3Cl2SiO4およびCa8Mg(SiO4)4Cl2以外に酸化マグネシウム(MgO)が認められ、フォルステライト特有の回折線ピークはみられなかった。回折線中には、酸化マグネシウム(MgO)のピークが存在していることから、アスベストが分解したものと考えられる。
【0068】
これらのことから、アスベストに対してセメント量、より厳密には酸化カルシウム量(CaO)の少ない複合材には、酸化カルシウムの不足分を別途、炭酸カルシウム(CaCO3)や水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等の他のカルシウム化合物を添加して補うことで、繊維状アスベストを分解できることがわかった。
【0069】
なお、上記実施例AおよびBは、それぞれ加熱温度が800℃と700℃の場合の実験結果であるが、加熱温度が600〜800℃で行った場合には、同様に、アスベスト繊維が粒状または粉状になって非繊維化するとともに、X線回折でもアスベストのピークが消失していた。従って、塩化カルシウムおよび炭酸カルシウムを含有する反応液を含浸した上で600〜800℃の温度で加熱することにより、高含有吹き付けアスベスト中のアスベストを分解できることが分かった。加熱時間としては、好適には2時間以上とすることが好ましい。
【0070】
また、本発明では、低アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)の場合には、塩化カルシウムのみを含有する反応液を含浸した上で600〜800℃の温度で加熱することにより、複合材中のアスベストを分解することができるが、高アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)の場合には、塩化カルシウムに加えて、酸化カルシウムの不足分を別途、炭酸カルシウム(CaCO3)や水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等の他のカルシウム化合物を含有する反応液を含浸した上で600〜800℃の温度で加熱することにより、複合材中のアスベストを分解することができる。
【0071】
吹き付けアスベスト(複合材)中のアスベストの分解メカニズムは、前記反応液を含浸させた上での加熱により、アスベストがフォルステライトに変化し、含浸させたカルシウム化合物中のカルシウム成分と反応して、最終的には、酸化マグネシウムとケイ酸カルシウムに分離することにより、アスベストが分解するものと考えられる。このとき、低アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)の場合には、セメント中に多量に含有する酸化カルシウム(CaO)を用いることができるので、加えるべく塩化カルシウム(CaCl2)の添加量は、モル比でアスベストの2倍量が必要であり、高アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)の場合には、セメント中に含有する酸化カルシウム(CaO)が少ないため、加えるべく塩化カルシウム(CaCl2)および炭酸カルシウム(CaCO3)の添加量は、モル比でアスベストのそれぞれ2倍量が必要である。
【0072】
すなわち、アスベスト(Mg3Si2O5(OH)4)1モルが分解すると、以下に示す反応式により、酸化マグネシウム3モルとケイ酸カルシウム2モルが生じることになる。この反応に必要な塩化カルシウムおよび酸化カルシウムは、それぞれ2モルである。
反応式:Mg3Si2O5(OH)4+2CaO+2CaCl2→2Ca2SiO3Cl2+3MgO+2H2O
例えば、クリソタイルアスベスト1モルは277.1gのときはCaCl2は同様に1モル111g必要である。このとき、ポルトランドセメントのCaOはおおむね65質量%といわれているので、ポルトランドセメント中に含有するCaOの割合を65質量%とするとき、必要とされるCaO添加量は、図7、図8および図11の生成物を参考にすると、アスベスト中に含有する1モルのSi量に対しCaOは2モル必要であり、CaOは1モルが56gだから、2モルだと56×2=112gであり、ポルトランドセメントとして、112g/0.65=172g以上でないと、CaOが不足することになる。よって、アスベスト/セメント=277.1/172=1.6よりも数字が大きいときには、CaO成分を添加することが必要となる。
【0073】
上記実験で使用した吹き付けアスベスト(複合材)は、いずれもアスベストが1gであるが、アスベスト1gは0.0036モルであり、この場合、アスベスト1gを分解するために必要な塩化カルシウム量は0.0072モル(0.80g)となる。
【0074】
比較例AおよびBの場合は、アスベスト量が1gであるのに対し、塩化カルシウムを0.4gであり、アスベストの分解に必要な量である0.8gの50%程度しか反応系内に加えていなかったため、十分な反応が生じなかったものと考えられる。
【0075】
そこで、実施例Aの場合には、酸化カルシウムの添加量の不足分を、別途、炭酸カルシウム(CaCO3)や水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等の他のカルシウム化合物を添加して補うことによって、繊維状アスベストをほぼ完全に分解することができたのである。すなわち、実施例Aの場合には、アスベスト1g(0.0036モル)に対し、塩化カルシウムを1.0g(0.013モル)、吹き付けアスベストのセメント中の酸化カルシウム(0.1gx65%=0.065g/56g/モル=0.0011モル)、炭酸カルシウムを1.0g(0.01モル)加えたものであり、両者のカルシウム量は、塩化カルシウムでは0.013モル、酸化カルシウム系では0.011モルであった。アスベスト1g(0.0036モル)を分解するのに必要なカルシウム成分は、それぞれ0.0072モルであるので、実施例Aの場合には、アスベストを分解するのに必要な塩化カルシウム量の1.8倍、酸化カルシウムの1.5倍強の量が加えてあった。
実施例では、特定の重量比でアスベストの分解実験を行い、焼成物の粉末X線回折結果から生成物を同定した。同定結果を基に、アスベストと塩化カルシウム、酸化カルシウム(炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなど)の反応比を求めているため、実施例の仕込み混合比は理論値とは異なっている。
【0076】
このようにアスベストを分解する必要量の2倍以上の塩化カルシウム成分と、2倍以上の酸化カルシウム成分の存在下で加熱することで分解が可能となった。
【0077】
特に、本発明の方法において用いられる塩化物(塩化カルシウム)を活用することは、融点および反応活性温度の双方を低下させて、反応液の含浸させたときに、低温からアスベストの分解反応を生じさせることができることから効果的である。
【0078】
従って、アスベストの分解には、計算量の2倍以上の塩化カルシウム成分と、2倍以上の酸化カルシウム成分とを添加することが必要であるとともに、融解温度を低下する塩化カルシウムを用いることが好ましい。従って、アスベストの分解には、アスベスト計算量の2倍以上のCaO成分となるよう、CaCO3および/ またはCa(OH)2などのCaO成分を添加する必要があるとともに、融解温度が低く、溶解度の高いCaCl2を用いることが望ましい。
【0079】
また、アスベストとカルシウムとの反応温度を低下させることや、融解塩を形成し反応の均一性を高める点から、塩類を加えて溶融塩を形成することが好ましい。利用可能な溶融塩の系としては、例えば、以下の系が考えられる。
【0080】
500℃付近で融ける系−KCl-NaCl-CaCl2、KCl-CaCl2-MgCl2、NaCl-CaCl2
600℃付近から融ける系−BaCl2-CaCl2、NaCl-CaCl2-NaF-CaF2
650℃付近から融ける系−CaCl2-CaF2
【0081】
なお、フッ素化合物は、オゾン層破壊物質であるフロンを含有するため、原料として用いるのは、生成物の処理に問題があり、また、Ba化合物は高価であり、MgCl2は蒸気圧が1mmHgとなるのが778℃であり、NaClは865℃、KClは821℃で、いずれも反応温度付近で塩の蒸気圧が高いので、これらの化合物は、必要に応じて適宜含有する溶融塩を用いればよい。
【0082】
アスベストを融解させる溶融塩として、上記の系以外でも適用することは可能である。それら以外にも塩類の微量添加による系の変更もある。
また、AlCl3やFeCl3などのように蒸気圧が高い塩類を含有する場合であっても、アスベストの分解反応は600〜800℃で生じるものと思われる。
【0083】
なお、上記実施例および比較例では、いずれもアスベストとして、クリソタイル型アスベストを用いた場合の例で示したが、本発明の方法が、クロシドライト、アモサイト、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライト等の他のアスベストに対しても適用できることは言うまでもない。
【0084】
上述したところは、この発明の実施形態の例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明によれば、繊維状アスベストを含む複合材を、フロン代替物質を含む特定化合物を含有する反応液で低温で加熱することにより、複合材の繊維状アスベストを、粒状または粉状に分解してアスベストを無害化する方法の提供が可能になる。
【0086】
特に、アスベストとセメントを含む吹き付けアスベストは、これまでは分解、崩壊、融解ができない、あるいは1500℃以上の高温でなければできないと言われていた。本発明は、各種塩類(好適には、塩化カルシウムの単一塩、または塩化カルシウムと炭酸カルシウムの混合塩)の反応液に含浸し、それを600〜800℃に加熱することで、非繊維化、アスベストの化学結合の分解が可能となり、アスベストを無害化することができる。
【0087】
また、アスベストは、カルシウム成分を計算量の2倍程度加えることで、安定した非繊維化が可能になった。加えて、反応温度を低下させるには、溶融塩を用いることで達成できる。
【0088】
本発明は、廃棄物費用を低廉化を図るとともに、長年月にわたって健康を害してきた有害物質であるアスベストを含む耐火被覆材を無害化することができ、また、無害化の温度の上限値である800℃は、都市清掃工場からのエネルギー使用で達成することができる温度であり、これによって、アスベストの無害化処理コストの削減も図れる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】比較例1の焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図2】(a)NaF含有水溶液、(b)NaCl水溶液および(c)CaCl2水溶液を用いて得られた焼成物の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図3】比較例2の焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図4】比較例3の焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図5】実施例1の焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図6】比較例Aの焼成物の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図7】比較例Bの焼成物の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図8】実施例Aの焼成物の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図9】実施例Aの(酢酸洗浄前の)焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図10】実施例Aの(酢酸洗浄後の)焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図11】実施例Bの焼成物の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法に関し、特に、鉄骨等の建材表面に形成される繊維状アスベストとセメントの複合材からなる吹き付け耐火被覆層の繊維状アスベストを、粒状または粉状に分解してアスベストを無害化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は天然に産する鉱物繊維である。それには、蛇紋岩系のクリソタイル(白石綿、Mg6Si4O10(OH)8)や角閃石系のアモサイト(茶石綿、(Fe,Mg)7Si8O22(OH)2)などがあり、耐熱性、耐薬品性、絶縁性などの諸特性に優れているため、建設資材、電気製品、自動車および家庭用品など 3,000種を超える利用形態が存在すると言われている。
【0003】
しかし、アスベスト暴露と種々の疾病(石綿肺、肺癌、悪性中皮腫など)の因果関係は1960年代頃から既に示唆されていたにもかかわらず、日本では今もなおアスベストが使用され続けている。1930年から2002年の間に日本国内で消費されたアスベストは1000万トンにも及び、その9割以上は建築資材(建材)として使用されたものである。
【0004】
アスベストの使用形態は、紡織品として単独で使用される場合と,鉄骨の耐火被覆材および壁材の吸音・結露防止用としてセメント−アスベスト系の複合材が使用される場合とが挙げられる。
【0005】
セメント−アスベスト系複合材は,吹き付けアスベスト,アスベスト保温材およびアスベスト成形板の3種類に大別することができる.この中で、使用量が多く,アスベスト含有量が高く,破壊時にアスベストが飛散しやすいのは、吹き付けアスベストである。
【0006】
吹き付けアスベストは、鉄骨等の建材の耐火被覆層として用いられ、具体的には、火災時に鉄骨の融解、崩壊を防ぐために、セメントとアスベストを混合し、スプレーガンなどから吹き付けるものである。吹き付け材中に含まれるアスベスト量は、通常、50〜95%程度である。この吹き付け材中のアスベストは、全体として繊維状(綿状)を呈し、機械的強度はもたないが、空隙を多く持つことから断熱材としての機能を保有する。アスベストを含んだ耐火被覆層を形成した建材は、建築物が解体されて廃材になる場合には、建材から耐火被覆層を剥離し、剥離した耐火被覆層はその後、特定管理物質として処分される。
【0007】
最近(2005年6月)、アスベストによる健康問題が一気に社会問題となり、吹き付けアスベストの取り扱いに関しても世論が一層厳しくなった。今後、アスベストを含む耐火被覆層を形成した建材を有する建築物の解体や廃棄がピークを迎えることから,アスベストを含む複合材の処理問題がますます深刻化することが予想される。
【0008】
これまでに大量に生産された耐火被覆建材は、使用後廃棄された場合には産業廃棄物として処分されている。しかしながら、セメント硬化物が中性化すれば繊維状のアスベストの飛散、放散が予測されることから安全な対策が求められているが、現状では特別な対策はない。
【0009】
アスベストの分解無害化するための手段としては、例えば、特許文献1記載の密閉型電気炉溶解法や特許文献2記載のスラグ浴融解法などが挙げられるが、いずれの方法も1000℃以上の処理温度を要し、膨大なエネルギー消費問題を抱えていることから実用化には至っていない。
また、高温プラズマで溶融させる試みもあるが実施はされていない。
【特許文献1】特許第3085959号公報
【特許文献2】特開平7−171536号公報
【0010】
このため、本発明者のうちの一人は、特許文献3において、アスベストとフロン分解無害化処理によって生成されたフロン化合物とを混合し、次いで当該混合物を低温加熱処理して成るアスベストの無害化処理方法を提案した。
【0011】
すなわち、アスベストを無害化するためには、加熱して融解させることであると考えた。そして、エネルギー消費問題を解決するために、できる限り低温でアスベストを融解させる融解剤を求めた。鉄鋼関係では融解剤にフッ素化合物が使用されており、本発明者がこれまでに取りくんできたフロン分解物でも可能ではないかと考えた。
【特許文献3】特開2005−168632号公報
【0012】
ここでいう「フロン分解物」とは、フロンの分解処理工程において最終的に得られる物質である。フロン分解法の一つである「プラズマ方式」では、フロンはまず塩化水素とフッ化水素、二酸化炭素に分解され、それらを水酸化カルシウムに吸収させた後、塩化カルシウムを水洗することにより、炭酸カルシウムとフッ化カルシウムを成分とするフロン分解物が得られる。
【0013】
フロンもまたアスベスト同様、アメニティー社会構築のために幅広く使用されてきた物質で、その安定性、不燃性、無毒性から冷蔵庫やクーラーの冷媒、半導体や精密機器の洗浄剤、スプレーの噴霧剤などに用いられていた。
【0014】
しかしながら、フロンがオゾン層破壊物質であり、現在では全世界で使用が禁止され、回収が義務付けられているため、回収されたフロンの分解物を再資源化や再利用する範囲でアスベストの分解無害化する方法に用いるのは好ましいものの、アスベストを分解無害化するために有害なフロンを新たに生成することはできないため、フロン分解物を用いることなく、環境に悪影響を及ぼさないようなフロン代替物質を含む化合物を用いてアスベストを無害化する方法を開発する必要があった。また、フロン分解物は、アスベストとの反応ができさえすれば、アスベストを分解無害化することができるが、例えば、セメントとアスベストの複合材で構成されるような吹き付けアスベストの場合には、セメントがアスベストとフロン分解物との反応を妨害するため、十分にアスベストを分解無害化することができない場合があった。加えて、フロン分解物を用いて繊維状アスベストを分解した後の形態は、繊維状のままの形態を維持している場合もあり、必ずしも粒状または粉状までに分解されているとは限らないため、アスベストが十分に無害化されているとは言えない場合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
この発明の目的は、 繊維状アスベストを含む複合材を、フロン代替物質を含む特定化合物を含有する反応液を低温で加熱することにより、複合材の繊維状アスベストを、粒状または粉状に分解してアスベストを無害化する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、この発明の要旨は以下のとおりである。
(I)繊維状アスベストと酸化カルシウム成分を含有するセメントを有する複合材を、塩化カルシウムを含有する反応液に浸漬して該反応液を複合材中に含浸させた後、600〜800℃の温度で加熱することにより、アスベスト化合物中のMgとSiの化学結合を切断し、繊維状アスベストを粒状または粉状に分解することを特徴とするアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【0017】
(II)前記複合材は、鉄骨等の建材表面に吹き付けられて形成した耐火被覆層である上記(I)記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【0018】
(III)前記反応液は、塩化カルシウムに加えて他のカルシウム化合物をさらに含有する反応液である上記(I)または(II)記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【0019】
(IV)前記他のカルシウム化合物は炭酸カルシウムである上記(III)記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【0020】
(V)前記反応液は、低温で溶融塩を形成してアスベストとの反応速度を増加させる補助添加化合物をさらに含有する上記(I)〜(IV)のいずれか1項記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【0021】
(VI)前記補助添加化合物は、塩化カルシウム以外の塩化物および/またはフッ化物である上記(V)記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、繊維状アスベストを含む複合材を、フロン代替物質を含む特定化合物を含有する反応液を低温で加熱することにより、複合材の繊維状アスベストを、粒状または粉状に分解してアスベストを無害化する方法の提供が可能になる。
【0023】
特に、アスベストとセメントを含む吹き付けアスベストは、これまでは分解、崩壊、融解ができない、あるいは1500℃以上の高温でなければできないと言われていた。吹き付けアスベストの取り扱いにおいて、水などにより湿潤化することでアスベストの飛散性を改善する必要がある。本発明では、各種塩類(好適には、塩化カルシウムの単一塩、または塩化カルシウムと炭酸カルシウムの混合塩)の反応液を湿潤化用に用い、大きな吹き付けアスベストの塊の破砕でも可能である。アスベストの分解に不足する塩化カルシウム、炭酸カルシウム(あるいは水酸化カルシウム等)は再含浸し、それを600〜800℃に加熱することで、非繊維化、アスベストの化学結合の分解が可能となり、アスベストを無害化することができる。
【0024】
また、アスベストは、カルシウム成分を計算量の2倍程度加えることで、安定した非繊維化が可能になった。加えて、反応温度を低下させるには、溶融塩を用いることで達成できる。
【0025】
本発明は、廃棄物費用の低廉化を図るとともに、長年月にわたって健康を害してきた有害物質であるアスベストを含む耐火被覆材を無害化することができ、また、無害化の温度の上限値である800℃は、都市清掃工場からのエネルギー使用で達成することができる温度であり、これによって、アスベストの無害化処理コストの削減も図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
この発明に従う実施形態について以下に説明する。
本発明者らは、アスベストとセメントを有する複合材中のアスベストの無害化について、次の観点から評価した。
【0027】
(1)アスベストの非繊維化
本発明者らは、アスベストが、通常の使用形態では繊維状を呈し、この形態を壊して繊維状アスベストを粉末状あるいは粒状に分解すれば無害化できると考えた。この点の評価は、走査電子顕微鏡で観察することにより行った。この点をさらに詳細に検討するために、水あるいは酢酸で洗浄した。アスベスト以外の物質が存在していたとしても、酢酸に溶解するものであれば除去分離されることになり、評価が容易になる。
【0028】
すなわち、水あるいは酢酸で洗浄する理由は、以下の通りである。
生成物中には、添加した過剰のCaCl2溶融物や未反応のCaO複合酸化物などが残っており、生成物を電子顕微鏡で観察した場合、残存するこれらの化合物のためにアスベスト繊維自体が観察しにくいことがあるが、水で洗浄した場合には、溶融したCaCl2が水に溶けるためCaCl2を除去することができ、また、酢酸で洗浄した場合には、CaO系の溶けやすい酸化物を溶かして除去することできるからである。特に、酢酸のような有機酸を使うのは、前述のような酸化物は溶解するが、アスベストは溶解しないためである。
【0029】
(2)複合材中のアスベストの有無および分解の判定方法
アスベストは、マグネシウム(Mg)とケイ素(Si)とを含む結晶であり、特有の結晶構造を有しており、X線回折法により分析ができる。本発明でもアスベストの有無は、この方法で判定した。また、アスベストの分解は、MgとSiの化学結合が切断されたことにより生成する酸化マグネシウムの有無により判定した。
【0030】
(3)吹き付けアスベストの調製
廃棄された吹き付けアスベストは,管理型廃棄物であることから入手困難であることや、使用履歴が不明確であるため、研究用試料としてはポルトランドセメントとクリソタイル型アスベストを混合し、硬化させることにより調製した。
実験に使用した吹き付けアスベストは、2種類の試料(試料Aはアスベスト:セメント=6:4(質量比)および試料Bはアスベスト:セメント=9:1(質量比))を下記の方法で作製した。
【0031】
(i)試料Aの作製方法(アスベスト:セメント=6:4(質量比))
アスベストは,最も使用量の多いクリソタイル型(関東化学(株)製)を使用した。アスベストと普通ポルトランドセメント(CaO含有率:約65質量%)を質量比で6:4になるように採取し、また、断熱材としての効用を十分に発揮させるため、発泡剤としてアルミニウム粉をセメント質量の10mass.%に相当する量を添加した。次に、水をセメント、アスベストおよびアルミニウム粉の各使用量の和と等しい質量に相当する量を加え、ビーカー内で混合した。混合は、アスベストとセメントとアルミニウム粉が均一になるまで行った.混合物は静置し、硬化させて試料Aを作製した。なお、試料Aの嵩密度は0.83 g/cm3,空隙率は64.8%であった。
【0032】
(ii)試料Bの作製方法(高アスベスト含有吹き付けアスベスト、アスベスト:セメント=9:1(質量比))
アスベスト含有量の高い吹き付けアスベストである試料Bは、次の方法で調製した。アスベストと普通ポルトランドセメント(CaO含有率:約65質量%)を質量比で9:1になるように採取し、水を全質量と同等量加え、混合した。混合は、アスベストとセメントが均一になるまで行った。混合物は、加熱したホットプレート上に滴下し、水分を急速に蒸発されることで、多孔性の試料Bを作製した。なお、試料Bの嵩密度は1.82 g/cm3,空隙率は29.6%であった。
【0033】
(4)低アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)中のアスベストの分解・
無害化の検討
(イ)フロン分解物を用いた場合(比較例1)
上記作製した試料Aについて、発明者が出願した特許文献3のアスベスト無害化処理方法でアスベストが分解し非繊維化するかを調査した。
融解剤として使用したフロン分解物は、カーエアコンから回収したフロン化合物をプラズマ方式で分解し、生じた分解物を水酸化カルシウムに吸収させた。それは、炭酸カルシウム、フッ化カルシウムおよび塩化カルシウムとの混合物である。その後,水洗処理で塩化カルシウムを除去し,脱水ケーキ状(カースチール(株)提供,主成分CaCO3とCaF2)とした。
【0034】
吹付けアスベスト(試料A)1.7gを乳鉢で粉砕し、これにフロン分解物3.0gと純水(約3ml)を混合し、スラリー状のアスベスト−フロン分解物を調製した。これを磁製ルツボに入れた。その後、ルツボは、室温状態のマッフル炉(Muffle Furnace STR-13K ISUZU製,160mm×110mm×260mm)に入れ、800℃まで2.5時間で昇温し、この温度で2時間保持した後、炉から取り出し放冷し、焼成物を得た。得られた焼成物は、走査型電子顕微鏡(SEM,JSM-5600)観察を行った。
【0035】
フロン分解物を用いた場合は、加熱温度500℃から分解の兆候が見られ、700℃でアスベスト繊維が粉状化した。しかし、吹付けアスベストを対象としたこの発明での分解温度は、アスベストがセメントに覆われているため、それよりもさらに高温である800℃とした。
【0036】
800℃で2.5時間加熱した吹きつけアスベスト(試料A)を、SEMで観察すると、アスベストは繊維形態を保持しており、分解されていなかった(図1)。フロン分解物とアスベストとの反応は、固体−固体反応である。吹付けアスベストは、セメント固化物がアスベストとフロン分解物の接触を阻害し、反応の進行を妨げたためにアスベストの分解が進行しなかったと考えられる。
【0037】
(ロ)フッ化ナトリウム(NaF)を用いた場合(比較例2)
フロン分解物を用いた比較例1の場合には、セメント固化物がアスベストとフロン分解物の接触を阻害し、アスベストの分解反応の進行が妨げられたものと考えられた。そこで、セメント−アスベスト系複合材に、融解剤反応液を含浸することでアスベストと融解剤が接触し、アスベストを分解できると考えた。フロン分解物の主成分は、炭酸カルシウムおよびフッ化カルシウムであるが、これらは水に難溶であるので、カルシウムとフッ素を共に含む水溶性の分解剤を用いることにした。具体的には、水溶性のフッ化ナトリウムを用いた。なお、カルシウム成分は、アスベストを覆っているセメント中に酸化カルシウムが含まれており、この酸化カルシウムを用いることができるので、融解剤にはあえて添加しなくてもよいと考えた。
【0038】
吹付けアスベスト(試料A)1.7gに対し、塩(フッ化ナトリウム)1.0gを4~6mlの純水に溶解させ反応液として加え、磁製ルツボに入れた。その後、ルツボは、室温のマッフル炉に入れ、800℃まで2.5時間で昇温させ、2時間保持した後、炉から取り出し放冷して焼成物を得た。
【0039】
塩(フッ化ナトリウム)と吹き付けアスベスト(試料A)との混合比は、フロン分解物のみを用いた実験ではアスベスト1に対して、フロン分解物の主成分である炭酸カルシウムとフッ化カルシウムの質量比がおよそ1:1であったので、同様の割合で行った。
【0040】
得られた加熱焼成物は、粉末X線回折(XRD、理学電機(株)RINT2100V/PC)分析およびSEM(日本電子(株),JSM-5600)観察を行った。
【0041】
加熱焼成物中に存在するアスベストの形態の観察を明確にするために、アスベストを被覆している共存成分を1N酢酸で洗浄して取り除いた。具体的には、加熱焼成物をメノウ乳鉢で粉砕し、その約100mgをとり、100ml三角フラスコに入れた。そこに純水40mlあるいは20%酢酸水溶液20mlを加えた後、超音波洗浄器を用いて粉砕試料を約30秒振動、1分30秒静置する操作を6回繰り返した。試料は、メンブランフィルター(孔径1μm、厚さ80μm、空隙率80%)を吸引濾過器に装着し、濾過した。取り出したフィルターは、110℃の乾燥器で24時間乾燥させ、SEM観察用試料とした。
【0042】
得られた加熱焼成物のX線回折図形を図2(a)に示す。アスベスト特有の回折線ピークは、2θで12°と25°であるが、この回折線はみられなかった。アスベストを600〜700℃で脱水すると生成するフォルステライト(Mg2SiO4)も見られなかった。フォルステライトは、アスベストと異なり脆い結晶であるが、アスベストと同様に繊維状組織を保持しており、環境面からもフォルステライトでの存在は好ましくない。また、図2(a)の回折線は、未反応のフッ化ナトリウムとCaMgSiO4(CaO・MgO・SiO2)であった。
【0043】
加熱焼成物を走査電子顕微鏡で観察した様子の一部を図3に示す。この場合には、明らかに針状物質の存在が観察できた。
従って、フッ化ナトリウムでは、繊維状のアスベストの分解は不十分であった。
【0044】
(ハ)塩化ナトリウムを用いた場合(比較例3)
フッ素化合物は、一般に環境負荷物質であり、フッ化ナトリウムの使用は好ましくないと考えられる。このため、フッ化ナトリウムと同じ塩類である塩化ナトリウムについても同様の実験を行った。
【0045】
吹付けアスベスト(試料A)1.7gに対し、塩(塩化ナトリウム)1.0gを4~6mlの純水に溶解させ水溶液として加え、磁製ルツボに入れた。その後、ルツボは、室温のマッフル炉に入れ、800℃まで2.5時間で昇温させ、2時間保持した後、炉から取り出し放冷して焼成物を得た。
【0046】
得られた加熱焼成物は、粉末X線回折(XRD、理学電機(株)RINT2100V/PC)分析およびSEM(日本電子(株),JSM-5600)観察を行った。
また、加熱焼成物中に存在するアスベストの形態観察を明確にするために、アスベストを被覆している共存成分を1N酢酸で洗浄して取り除いてから観察を行った。
【0047】
得られた加熱焼成物のX線回折図形を図2(b)に示す。アスベスト特有の回折線ピークは、2θで12°と25°であるが、この回折線はみられなかった。また、アスベストが600〜700℃で脱水したフォルステライト(Mg2SiO4)の特徴的な回折線(2θで35.7°と36.5°のツインのピーク)も図2(b)にはみられなかった。
確認できた回折線は、未反応の塩化ナトリウム、CaMgSiO4(CaO・MgO・SiO2)、MgSiO3(MgO・SiO2)などであった。
【0048】
また、加熱焼成物を走査電子顕微鏡で観察した結果を図4に示す。図4から、焼成物中には繊維状の突起部が存在しており、非繊維化は不十分であった。
【0049】
(ニ)塩化カルシウムを用いた場合(実施例1)
融解剤として一般に使用される塩化ナトリウムよりも融点の低いものを調査した。その結果、塩化カルシウムの融点は774℃で塩化ナトリウム(800℃)の融点よりも低いので、融解性はより高いと考え、同様の実験を行った。
【0050】
吹付けアスベスト(試料A)1.7g(アスベスト量:約1g)を、25体積%の塩化カルシウム水溶液4mlに浸漬して含浸させた後、アルミナ製ルツボに入れ、110℃の乾燥器中で乾燥させた。このとき、吹き付けアスベスト(試料A)に付着した塩化カルシウム量は1gであった。
【0051】
その後、ルツボをマッフル炉に入れ、室温から800℃まで2.5時間で昇温した後、この温度で2時間保持した後、炉から取り出し放冷することにより焼成物を得た。
【0052】
得られた焼成物について、粉末X線回折法による分析を行った。その結果を図2(c)に示す。この回折線中には、発泡剤として用いたアルミニウムを含むCa12Al14O33やMgSiO3とともに、酸化マグネシウム(MgO)の回折線が確認できた。酸化マグネシウムの存在は、アスベストの構成元素であるSiとMgの化学結合が切断したことを示しており、アスベストが分解されたことを意味する。
【0053】
さらに、加熱焼成物を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図5に示す。図5から、アスベストは粒状になっており、当初のアスベストがもつ繊維状の形態は観察されなかった。
【0054】
なお、上記実験は、加熱温度が800℃の場合の実験結果であるが、加熱温度が600℃以上800℃未満の範囲で行った場合にも同様に、アスベスト繊維が粒状または粉状になって非繊維化するとともに、X線回折でもアスベストのピークが消失していた。従って、塩化カルシウムを含有する反応液を含浸した上で600〜800℃の温度で加熱することにより、複合材中のアスベストを分解できることが分かった。加熱時間としては、好適には2時間以上とすることが好ましい。
【0055】
以上のことから、アスベストを分解する効果は、NaF<NaCl<CaCl2の順で、CaCl2がもっとも効果的だった。これは、塩の融点(NaF 992℃、NaCl 800℃、CaCl2 774℃)に起因しており、低温融体の形成がアスベストの分解反応を促進しているものと考えられる。
【0056】
(5)高アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)中のアスベストの分解・
無害化の検討
次に、高含有アスベスト吹き付けアスベスト(試料B)中のアスベストを分解・無害化する検討を行った。
【0057】
(イ)塩化カルシウム(0.4g)を用い、加熱温度を800℃とした場合(比較
例A)
高アスベスト含有吹き付けアスベスト(試料B)1.1g(アスベスト量:約1g)を、25体積%塩化カルシウム含有反応液を含浸させた上で、アルミナ製ルツボに入れ、110℃の乾燥器中で乾燥させた。このとき、吹き付けアスベスト(試料B)に付着した塩化カルシウム量は0.4gであった。
【0058】
その後、ルツボをマッフル炉に入れ、室温から800℃まで2.5時間で昇温した後、この温度で2時間保持した。その後、炉から取り出し放冷して焼成物を得た。得られた焼成物について、粉末X線回折分析を行った。その分析結果を図6に示す。この回折線中には、フォルステライト(Mg2SiO4)特有の2θで35.7°と36.5°の2つのピークがはっきりと認められた。フォルステライト以外には、カルシウムシリケイトの水和物(Ca3Si2O7・H2O)の存在が認められた。それ以外には、酸化マグネシウムの回折線も強度的には低いが、62°および43°付近にそれぞれ認められた。酸化マグネシウムが存在していることから、アスベストの分解は生じているといえる。しかし、アスベスト含有率の高い試料では、塩化カルシウムのみを含有させた反応液の含浸では、加熱してもアスベストの分解は不十分であった。これは、後述するが、吹き付けアスベスト(試料B)に付着した塩化カルシウム量(0.4g)がアスベスト/CaCl2=1/1(モル比)で、アスベストの分解に必要なカルシウム量(2モル以上)よりも少なかったためであると考えられる。
【0059】
(ロ)塩化カルシウム(0.4g)を用い、加熱温度を700℃とした場合(比較
例B)
加熱温度として700℃としたこと以外は比較例Aと同様な方法で焼成物を得た。得られた焼成物について、粉末X線回折分析を行った。その分析結果を図7に示す。この回折線中には、フォルステライト(Mg2SiO4)特有の2θで35.7°と36.5°の2つのピークがはっきりと認められた。フォルステライト以外には、カルシウムシリケイトの水和物(Ca3Si2O7・H2O)の存在が認められた。それ以外には、酸化マグネシウムの回折線も強度的には低いが、78°、62°および43°付近にそれぞれ認められた。酸化マグネシウムが存在していることから、アスベストの分解は生じているといえる。しかし、アスベスト含有率の高い試料では、塩化カルシウムのみを含有させた反応液の含浸では、加熱してもアスベストの分解は不十分であった。これは、後述するが、吹き付けアスベスト(試料B)に付着した塩化カルシウム量(0.4g)がアスベストの分解に必要なカルシウム量よりも少なかったためであると考えられる。
【0060】
(ハ)塩化カルシウムと炭酸カルシウムの複合塩を用い、加熱温度を800℃とし
た場合(実施例A)
このため、本発明者らは、高含有吹き付けアスベスト(試料B)の無害化について更に検討を行った。
高含有吹き付けアスベスト(試料B)1.1g(アスベスト量:約1g)を乳鉢ですりつぶし、そこに炭酸カルシウム1.0gと約4mlの純水に溶解させた塩化カルシウム1.0gを加えて混合し、磁製ルツボに入れた。その後、試料の入ったルツボをマッフル炉に入れ、室温から800℃まで2.5時間で昇温させ、この温度で2時間保持した後、炉から取り出し冷却して焼成物を得た。
【0061】
得られた焼成物は、SEMによる観察および粉末X線回折分析(XRD)を行った。また、焼成物には塩が過剰に含まれているので、水洗浄後の試料についても、併せてSEM観察を行った。
【0062】
加熱焼成した試料のXRD結果を図8に示す。このXRD結果から、塩化カルシウム(CaCl2)、Ca3Cl2SiO4およびCa8Mg(SiO4)4Cl2以外に酸化マグネシウム(MgO)が認められ、フォルステライト特有の回折線ピークはみられなかった。回折線中には、酸化マグネシウム(MgO)のピークが存在していることから、アスベストが分解したものと考えられる。
【0063】
また、走査電子顕微鏡(SEM)で観察した様子を図9に示す。なお、図9は、水あるいは酢酸での洗浄前に観察したものであるが、この図から、一部溶融している様子が認められた。
【0064】
さらに、1Nの酢酸で洗浄した後に焼成物を電子顕微鏡で観察した様子を結果を図10に示す。図10から、焼成物は粒状化しており、アスベストの繊維形態は認められなかった。
【0065】
これらのことから、アスベストに対してセメント量、より厳密には酸化カルシウム量(CaO)の少ない複合材には、酸化カルシウムの不足分を、別途、炭酸カルシウム(CaCO3)や水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等の他のカルシウム化合物を添加して補うことで、繊維状アスベストを分解できることがわかった。
【0066】
(ニ)塩化カルシウムと炭酸カルシウムの複合塩を用い、加熱温度を700℃とし
た場合(実施例B)
加熱温度として700℃としたこと以外は実施例Aと同様な方法で焼成物を得た。
得られた焼成物は、SEMによる観察および粉末X線回折分析(XRD)を行った。また、焼成物には塩が過剰に含まれているので、水洗浄後の試料についても、併せてSEM観察を行った。
【0067】
加熱焼成物のXRD結果を図11に示す。このXRD結果から、塩化カルシウム(CaCl2)、Ca3Cl2SiO4およびCa8Mg(SiO4)4Cl2以外に酸化マグネシウム(MgO)が認められ、フォルステライト特有の回折線ピークはみられなかった。回折線中には、酸化マグネシウム(MgO)のピークが存在していることから、アスベストが分解したものと考えられる。
【0068】
これらのことから、アスベストに対してセメント量、より厳密には酸化カルシウム量(CaO)の少ない複合材には、酸化カルシウムの不足分を別途、炭酸カルシウム(CaCO3)や水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等の他のカルシウム化合物を添加して補うことで、繊維状アスベストを分解できることがわかった。
【0069】
なお、上記実施例AおよびBは、それぞれ加熱温度が800℃と700℃の場合の実験結果であるが、加熱温度が600〜800℃で行った場合には、同様に、アスベスト繊維が粒状または粉状になって非繊維化するとともに、X線回折でもアスベストのピークが消失していた。従って、塩化カルシウムおよび炭酸カルシウムを含有する反応液を含浸した上で600〜800℃の温度で加熱することにより、高含有吹き付けアスベスト中のアスベストを分解できることが分かった。加熱時間としては、好適には2時間以上とすることが好ましい。
【0070】
また、本発明では、低アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)の場合には、塩化カルシウムのみを含有する反応液を含浸した上で600〜800℃の温度で加熱することにより、複合材中のアスベストを分解することができるが、高アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)の場合には、塩化カルシウムに加えて、酸化カルシウムの不足分を別途、炭酸カルシウム(CaCO3)や水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等の他のカルシウム化合物を含有する反応液を含浸した上で600〜800℃の温度で加熱することにより、複合材中のアスベストを分解することができる。
【0071】
吹き付けアスベスト(複合材)中のアスベストの分解メカニズムは、前記反応液を含浸させた上での加熱により、アスベストがフォルステライトに変化し、含浸させたカルシウム化合物中のカルシウム成分と反応して、最終的には、酸化マグネシウムとケイ酸カルシウムに分離することにより、アスベストが分解するものと考えられる。このとき、低アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)の場合には、セメント中に多量に含有する酸化カルシウム(CaO)を用いることができるので、加えるべく塩化カルシウム(CaCl2)の添加量は、モル比でアスベストの2倍量が必要であり、高アスベスト含有吹き付けアスベスト(複合材)の場合には、セメント中に含有する酸化カルシウム(CaO)が少ないため、加えるべく塩化カルシウム(CaCl2)および炭酸カルシウム(CaCO3)の添加量は、モル比でアスベストのそれぞれ2倍量が必要である。
【0072】
すなわち、アスベスト(Mg3Si2O5(OH)4)1モルが分解すると、以下に示す反応式により、酸化マグネシウム3モルとケイ酸カルシウム2モルが生じることになる。この反応に必要な塩化カルシウムおよび酸化カルシウムは、それぞれ2モルである。
反応式:Mg3Si2O5(OH)4+2CaO+2CaCl2→2Ca2SiO3Cl2+3MgO+2H2O
例えば、クリソタイルアスベスト1モルは277.1gのときはCaCl2は同様に1モル111g必要である。このとき、ポルトランドセメントのCaOはおおむね65質量%といわれているので、ポルトランドセメント中に含有するCaOの割合を65質量%とするとき、必要とされるCaO添加量は、図7、図8および図11の生成物を参考にすると、アスベスト中に含有する1モルのSi量に対しCaOは2モル必要であり、CaOは1モルが56gだから、2モルだと56×2=112gであり、ポルトランドセメントとして、112g/0.65=172g以上でないと、CaOが不足することになる。よって、アスベスト/セメント=277.1/172=1.6よりも数字が大きいときには、CaO成分を添加することが必要となる。
【0073】
上記実験で使用した吹き付けアスベスト(複合材)は、いずれもアスベストが1gであるが、アスベスト1gは0.0036モルであり、この場合、アスベスト1gを分解するために必要な塩化カルシウム量は0.0072モル(0.80g)となる。
【0074】
比較例AおよびBの場合は、アスベスト量が1gであるのに対し、塩化カルシウムを0.4gであり、アスベストの分解に必要な量である0.8gの50%程度しか反応系内に加えていなかったため、十分な反応が生じなかったものと考えられる。
【0075】
そこで、実施例Aの場合には、酸化カルシウムの添加量の不足分を、別途、炭酸カルシウム(CaCO3)や水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等の他のカルシウム化合物を添加して補うことによって、繊維状アスベストをほぼ完全に分解することができたのである。すなわち、実施例Aの場合には、アスベスト1g(0.0036モル)に対し、塩化カルシウムを1.0g(0.013モル)、吹き付けアスベストのセメント中の酸化カルシウム(0.1gx65%=0.065g/56g/モル=0.0011モル)、炭酸カルシウムを1.0g(0.01モル)加えたものであり、両者のカルシウム量は、塩化カルシウムでは0.013モル、酸化カルシウム系では0.011モルであった。アスベスト1g(0.0036モル)を分解するのに必要なカルシウム成分は、それぞれ0.0072モルであるので、実施例Aの場合には、アスベストを分解するのに必要な塩化カルシウム量の1.8倍、酸化カルシウムの1.5倍強の量が加えてあった。
実施例では、特定の重量比でアスベストの分解実験を行い、焼成物の粉末X線回折結果から生成物を同定した。同定結果を基に、アスベストと塩化カルシウム、酸化カルシウム(炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなど)の反応比を求めているため、実施例の仕込み混合比は理論値とは異なっている。
【0076】
このようにアスベストを分解する必要量の2倍以上の塩化カルシウム成分と、2倍以上の酸化カルシウム成分の存在下で加熱することで分解が可能となった。
【0077】
特に、本発明の方法において用いられる塩化物(塩化カルシウム)を活用することは、融点および反応活性温度の双方を低下させて、反応液の含浸させたときに、低温からアスベストの分解反応を生じさせることができることから効果的である。
【0078】
従って、アスベストの分解には、計算量の2倍以上の塩化カルシウム成分と、2倍以上の酸化カルシウム成分とを添加することが必要であるとともに、融解温度を低下する塩化カルシウムを用いることが好ましい。従って、アスベストの分解には、アスベスト計算量の2倍以上のCaO成分となるよう、CaCO3および/ またはCa(OH)2などのCaO成分を添加する必要があるとともに、融解温度が低く、溶解度の高いCaCl2を用いることが望ましい。
【0079】
また、アスベストとカルシウムとの反応温度を低下させることや、融解塩を形成し反応の均一性を高める点から、塩類を加えて溶融塩を形成することが好ましい。利用可能な溶融塩の系としては、例えば、以下の系が考えられる。
【0080】
500℃付近で融ける系−KCl-NaCl-CaCl2、KCl-CaCl2-MgCl2、NaCl-CaCl2
600℃付近から融ける系−BaCl2-CaCl2、NaCl-CaCl2-NaF-CaF2
650℃付近から融ける系−CaCl2-CaF2
【0081】
なお、フッ素化合物は、オゾン層破壊物質であるフロンを含有するため、原料として用いるのは、生成物の処理に問題があり、また、Ba化合物は高価であり、MgCl2は蒸気圧が1mmHgとなるのが778℃であり、NaClは865℃、KClは821℃で、いずれも反応温度付近で塩の蒸気圧が高いので、これらの化合物は、必要に応じて適宜含有する溶融塩を用いればよい。
【0082】
アスベストを融解させる溶融塩として、上記の系以外でも適用することは可能である。それら以外にも塩類の微量添加による系の変更もある。
また、AlCl3やFeCl3などのように蒸気圧が高い塩類を含有する場合であっても、アスベストの分解反応は600〜800℃で生じるものと思われる。
【0083】
なお、上記実施例および比較例では、いずれもアスベストとして、クリソタイル型アスベストを用いた場合の例で示したが、本発明の方法が、クロシドライト、アモサイト、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライト等の他のアスベストに対しても適用できることは言うまでもない。
【0084】
上述したところは、この発明の実施形態の例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明によれば、繊維状アスベストを含む複合材を、フロン代替物質を含む特定化合物を含有する反応液で低温で加熱することにより、複合材の繊維状アスベストを、粒状または粉状に分解してアスベストを無害化する方法の提供が可能になる。
【0086】
特に、アスベストとセメントを含む吹き付けアスベストは、これまでは分解、崩壊、融解ができない、あるいは1500℃以上の高温でなければできないと言われていた。本発明は、各種塩類(好適には、塩化カルシウムの単一塩、または塩化カルシウムと炭酸カルシウムの混合塩)の反応液に含浸し、それを600〜800℃に加熱することで、非繊維化、アスベストの化学結合の分解が可能となり、アスベストを無害化することができる。
【0087】
また、アスベストは、カルシウム成分を計算量の2倍程度加えることで、安定した非繊維化が可能になった。加えて、反応温度を低下させるには、溶融塩を用いることで達成できる。
【0088】
本発明は、廃棄物費用を低廉化を図るとともに、長年月にわたって健康を害してきた有害物質であるアスベストを含む耐火被覆材を無害化することができ、また、無害化の温度の上限値である800℃は、都市清掃工場からのエネルギー使用で達成することができる温度であり、これによって、アスベストの無害化処理コストの削減も図れる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】比較例1の焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図2】(a)NaF含有水溶液、(b)NaCl水溶液および(c)CaCl2水溶液を用いて得られた焼成物の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図3】比較例2の焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図4】比較例3の焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図5】実施例1の焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図6】比較例Aの焼成物の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図7】比較例Bの焼成物の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図8】実施例Aの焼成物の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図9】実施例Aの(酢酸洗浄前の)焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図10】実施例Aの(酢酸洗浄後の)焼成物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの写真である。
【図11】実施例Bの焼成物の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状アスベストと酸化カルシウム成分を含有するセメントを有する複合材を、塩化カルシウムを含有する反応液に浸漬して該反応液を複合材中に含浸させた後、600〜800℃の温度で加熱することにより、アスベスト化合物中のMgとSiの化学結合を切断し、繊維状アスベストを粒状または粉状に分解することを特徴とするアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【請求項2】
前記複合材は、鉄骨等の建材表面に吹き付けられて形成した耐火被覆層である請求項1記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【請求項3】
前記反応液は、塩化カルシウムに加えて他のカルシウム化合物をさらに含有する請求項1または2記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【請求項4】
前記他のカルシウム化合物は、炭酸カルシウムおよび/または水酸化カルシウムである請求項3記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【請求項5】
前記反応液は、低温で溶融塩を形成する補助添加化合物をさらに含有する請求項1〜4のいずれか1項記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【請求項6】
前記補助添加化合物は、塩化カルシウム以外の塩化物および/またはフッ化物である請求項5記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【請求項1】
繊維状アスベストと酸化カルシウム成分を含有するセメントを有する複合材を、塩化カルシウムを含有する反応液に浸漬して該反応液を複合材中に含浸させた後、600〜800℃の温度で加熱することにより、アスベスト化合物中のMgとSiの化学結合を切断し、繊維状アスベストを粒状または粉状に分解することを特徴とするアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【請求項2】
前記複合材は、鉄骨等の建材表面に吹き付けられて形成した耐火被覆層である請求項1記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【請求項3】
前記反応液は、塩化カルシウムに加えて他のカルシウム化合物をさらに含有する請求項1または2記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【請求項4】
前記他のカルシウム化合物は、炭酸カルシウムおよび/または水酸化カルシウムである請求項3記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【請求項5】
前記反応液は、低温で溶融塩を形成する補助添加化合物をさらに含有する請求項1〜4のいずれか1項記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【請求項6】
前記補助添加化合物は、塩化カルシウム以外の塩化物および/またはフッ化物である請求項5記載のアスベスト含有複合材のアスベスト無害化方法。
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2007−105552(P2007−105552A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250599(P2005−250599)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【特許番号】特許第3747246号(P3747246)
【特許公報発行日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【特許番号】特許第3747246号(P3747246)
【特許公報発行日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
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