説明

アセチレン耐性ヒドロホルミル化触媒

オレフィン供給物流中の高レベルのアルキン不純物に耐えることができるヒドロホルミル化触媒である。触媒は、フルオロホスファイトリガンドとの組合せであるロジウムまたは所定の二座リガンドとの組合せであるロジウムで構成されている。プロピオンアルデヒドは、アセチレンの存在に起因する活性の何らの損失も伴わずに、100万分の1000部以下のアセチレンを含有するエチレン流のヒドロホルミル化によって製造されている。10,000ppmでアセチレンで汚染されたエチレンもまたプロピオンアルデヒドに転化できるが活性の幾らかかの損失が生じる。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
エチレンをヒドロホルミル化してプロピオンアルデヒドを製造することは、周知でかつ重要な工業的反応である。プロピオンアルデヒドの製造は、ロジウム含有触媒の存在下、高温高圧条件下でのエチレンと水素および一酸化炭素との反応によって達成される。市販の供給源(例えば精油所および分留所)からのエチレンは、しばしばアセチレンを種々の量で含有する。典型的には、アセチレンは、部分水素化によってエチレン流から除去される。しかし、アップセット操作の時間、エチレン生成物は、種々のレベルのアセチレン(これは触媒活性を非永久に低下させる)によって汚染される場合がある。
【0002】
アセチレン不純物がオレフィン(例えばエチレン)のヒドロホルミル化に与える影響は、ロジウム触媒を安定化させるために用いる3価リンリガンドの性質で変わる。強塩基性のホスフィンリガンドは、アセチレンの可逆の被毒効果に対してより敏感である。アセチレン汚染が100万分の1桁部のレベルにある場合、アセチレンの負の効果は小さい。しかし、アセチレンレベルが1桁数を超える場合、活性の損失は反応に対して大問題となる可能性がある。従って、触媒活性の損失を伴わずにアセチレン汚染の急上昇に耐えることができる触媒系を有することが高度に望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
発明の簡単な要約
本発明に係る態様は、オレフィンをアルデヒドに転化する方法に関する。該方法は、オレフィン流を溶媒中で触媒と接触させて少なくとも1種のアルデヒドを形成することを含み、該触媒が、単座トリ有機リンリガンド、二座有機リンリガンドまたはこれらの組合せからなる群から選択されるリガンドと組合されたロジウム化合物であり、該リガンドのロジウムに対するモル比が約1:1〜約1000:1であり、そして該アセチレンが該触媒の転化活性を実質的に低減させない。
【0004】
別の態様は、単座トリ有機リンリガンド、二座有機リンリガンド、またはこれらの組合せからなる群から選択されるリガンドとの組合せであるロジウム化合物を含む、組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
詳細な説明
本発明は、オレフィン供給物流中のアセチレン不純物に耐えることができる特定の触媒組成物に関する。リンリガンドの注意深い選択により、ロジウム触媒を製造でき、これは、オレフィン供給物中100万分の1000部以下でアセチレンのレベルに影響されず、そしてアセチレンレベル100万分の2000、5000、7500または更に10000部の高さでもなお操作可能である。これらの触媒組成物は、電子不足の3価リンリガンドおよび幾つかの特定の二座リガンドを基にする。
【0006】
本発明は、アセチレンに対する過敏性を伴うことなくエチレンからプロピオンアルデヒドを形成できる触媒系を与える。この触媒の価値は、これが、反応器生産性を維持するための追加の測定をする必要なくエチレン供給物の純度においてアップセットを乗り切れることである。
【0007】
本発明の触媒は、断続的にアルキン不純物(例えばアセチレン)を含有するオレフィン流からのアルデヒドの製造を可能にする。本発明はまた、アルキン不純物を除去するための追加の加工ステップを必要とすることなく、より低品質のオレフィン流からのアルデヒドの製造を可能にする。
【0008】
最も広範な説明において、本発明は、種々の量のアセチレンを含有するエチレンをプロピオンアルデヒドに転化するための触媒および方法であって、該触媒の該組成物が、単座トリ有機リンリガンドまたは二座有機リンリガンドおよび好適な溶媒との組合せであるロジウム化合物であり、そして該方法および該触媒が1000ppm以下のレベルでの供給物流へのアセチレンの添加によって影響されない、触媒および方法である。
【0009】
本明細書で用いる語句「実質的に・・でない」は、触媒転化活性における若干の低下を排除せず、そしてこれに関し、少なくとも約3年、少なくとも約4年、または更に少なくとも約5年の期間に亘っての、約10%未満、5.0%未満または更に1.0%未満の転化活性の低下は、触媒の転化活性が低下しない方法であると考える。
【0010】
活性触媒のためのロジウム源として使用できるロジウム化合物としては、カルボン酸のロジウム(II)またはロジウム(III)の塩が挙げられ、これらの例としては、ジ−ロジウムテトラアセテート二水和物、ロジウム(II)アセテート、ロジウム(II)イソブチレート、ロジウム(II)2−エチルヘキサノエート、ロジウム(II)ベンゾエートおよびロジウム(II)オクタノエートが挙げられる。また、ロジウムカルボニル種,例えばRh4(CO)12、Rh6(CO)16およびロジウム(I)アセチルアセトナートジカルボニルは、好適なロジウム供給物であることができる。加えて、ロジウムオルガノホスフィン錯体,例えばトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムカルボニル水素化物は、供給される錯体のホスフィン部分が本発明のリガンドによって容易に置換される場合に使用できる。より望ましくないロジウム源は、強鉱酸(例えばクロリド、ブロミド、ナイトレート、スルフェート、ホスフェート等)のロジウム塩である。
【0011】
ヒドロホルミル化溶媒または反応混合物におけるロジウムおよびリガンドの濃度は変化できる。上記したように、リガンドのモルグラム:ロジウムの原子グラムの比少なくとも1:1は、通常、反応混合物中で維持される。反応混合物または溶液におけるロジウムの絶対濃度は、1mg/リットルから5000mg/リットル以上までの範囲である。
【0012】
プロセスを、本発明の実際の条件の中で操作する場合、反応溶液中のロジウムの濃度は、通常約10〜300mg/リットルの範囲である。
【0013】
式:
【0014】
【化1】

【0015】
を有するフルオロホスファイトエステル化合物は、遷移金属との組合せで用いて上記の方法のための触媒系を形成する場合に、有効なリガンドとして作用することを我々は見出した。R1およびR2で表されるヒドロカルビル基は同じでも異なってもよく、別個でも組合せでもよく、そして非置換および置換のアルキル基、シクロアルキル基およびアリール基であって合計で約40個以下の炭素原子を含有するものから選択される。置換基R1およびR2の総炭素量は、好ましくは、約2〜35個の炭素原子の範囲である。R1および/またはR2が別個すなわち個別に表すことができるアルキル基の例としては、エチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシルおよびその種々の異性体が挙げられる。アルキル基は、例えば2つ以下の置換基,例えばアルコキシ、シクロアルコキシ、ホルミル、アルカノイル、シクロアルキル、アリール、アリールオキシ、アロイル、カルボキシル、カルボキシレート塩、アルコキシカルボニル、アルカノイルオキシ、シアノ、スルホン酸、スルホネート塩等で置換されていてもよい。シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルは、シクロアルキル基R1および/またはR2が個別に表すことができるものの例である。シクロアルキル基は、アルキル基、または可能な置換アルキル基に関して記載される任意の置換基で置換されていることができる。R1および/またはR2が個別に表すことができるアルキル基およびシクロアルキル基は、好ましくは、約8個以下の炭素原子のアルキル、ベンジル、シクロペンチル、シクロヘキシル、またはシクロヘプチルである。
【0016】
1および/またはR2が個別に表すことができるアリール基の例としては、炭素環式アリール,例えばフェニル、ナフチル、アントラセニル、およびその置換誘導体が挙げられる。R1および/またはR2が個別に表すことができる炭素環式アリール基の例は、式:
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R3およびR4は、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、シクロアルコキシ、ホルミル、アルカノイル、シクロアルキル、アリール、アリールオキシ、アロイル、カルボキシル、カルボキシレート塩、アルコキシ−カルボニル、アルカノイルオキシ、シアノ、スルホン酸、スルホネート塩等から独立に選択される1種以上の置換基を表すことができる。)
を有する基である。前記のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、アルコキシカルボニル基およびアルカノイルオキシ基のアルキル部分は、典型的には、約8個以下の炭素原子を含有する。mについては0〜5、およびnについては0〜7を表すことができるが、mおよびnの各々の値は、通常2を超えない。R3およびR4は、好ましくは、低級アルキル基,すなわち約4個以下の炭素原子でmおよびnが各々0、1または2を表す直鎖および分岐鎖のアルキルを表す。
【0019】
代替として、R1およびR2は、組合せでまたは集合的に、約40個以下の炭素原子、好ましくは約12〜36個の炭素原子を含有する2価ヒドロカルビレン基を表すことができる。このような2価基の例としては、約2〜12個の炭素原子のアルキレン、シクロヘキシレンおよびアリーレンが挙げられる。アルキレン基およびシクロアルキレン基の具体例としては、エチレン、トリメチレン、1,3−ブタンジイル、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジイル、1,1,2−トリフェニルエタンジイル、2,2,4トリメチル−1,3−ペンタンジイル、1,2−シクロヘキシレン等が挙げられる。R1およびR2が集合的に表すことができるアリーレン基の例は、本明細書で以下に式(V)、(VI)および(VII)として与える。
【0020】
1およびR2が集合的に表すことができる2価基としては、式:
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、A1およびA2の各々は、アリーレン基,例えば6〜10環の炭素原子を含有する2価の炭素環式芳香族基であり、ここでフルオロホスファイト(I)の各々のエステル酸素原子はA1およびA2の環炭素原子に結合しており;
Xは、(i)A1およびA2の環炭素原子の間の直接化学結合であり;または(ii)酸素原子であり、基は式−(CH2y−(式中、yは2〜4である)を有し、または基は式:
【0023】
【化4】

【0024】
(式中、R5は水素、アルキルまたはアリール,例えば式(II)、(III)および(IV)で表されるアリール基であり、R6は水素またはアルキルである)を有する。)
を有する基が挙げられる。基−C(R5)(R6)−の総炭素量は、通常20を超えず、そして、好ましくは1〜8個の炭素原子である。通常、R1およびR2が集合的に2価ヒドロカルビレン基を表す場合、ホスファイトエステル酸素原子,すなわち式(I)で表される酸素原子は、少なくとも3個の炭素原子を含有する原子鎖によって分離される。
【0025】
1およびA2の各々によって表されるアリーレン基の例としては、式:
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、R3およびR4は、アルキル、アルコキシ、ハロゲン、シクロアルコキシ、ホルミル、アルカノイル、シクロアルキル、アリール、アリールオキシ、アロイル、カルボキシル、カルボキシレート塩、アルコキシ−カルボニル、アルカノイルオキシ、シアノ、スルホン酸、スルホネート塩等から独立に選択される1種以上の置換基を表すことができる。)
を有する2価基が挙げられる。このようなアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、アルコキシカルボニル基およびアルカノイルオキシ基のアルキル部分は、典型的には、約8個以下の炭素原子を含有する。pは0〜4を表すことができ、そしてqは0〜6を表すことができるが、pおよびqの各々の値は、通常2を超えない。R3およびR4は、好ましくは、低級アルキル基,すなわち約4個以下の炭素原子でpおよびqが各々0、1または2を表す直鎖および分岐鎖のアルキルを表す。
【0028】
本発明において有用なフルオロホスファイトエステルの例としては、最良の安定性を示すものが挙げられ、これはフルオロホスファイトエステル酸素原子が炭素環式芳香族基,例えば式(II)〜(VII)のいずれかによって表されるアリール基またはアリーレン基の環炭素原子に直接結合しているものである。R1およびR2が個別に各々アリール基,例えばフェニル基を表す場合、一態様において、フルオロホスファイトエステル酸素原子に結合する環炭素原子に対してオルト位にある環炭素原子の一方または両方が、アルキル基,特に分岐鎖アルキル基,例えばイソプロピル、tert−ブチル、tert−オクチル等で置換されている。同様に、R1およびR2が集合的に式:
【0029】
【化6】

【0030】
を有する基を表す場合、フルオロホスファイトエステル酸素原子に結合する環炭素原子に対してオルト位にあるアリーレン基A1およびA2の環炭素原子は、アルキル基,好ましくは分岐鎖アルキル基,例えばイソプロピル、tert−ブチル、tert−オクチル等で置換されている。ある態様において、フルオロホスファイトエステルは、一般式:
【0031】
【化7】

【0032】
(式中、各R7は、3〜8個の炭素原子のアルキルであり;各R8は、水素、1〜8個の炭素原子のアルキルまたは1〜8個の炭素原子のアルコキシであり;そしてXは(i)各フェニレン基(これにXが結合している)の環炭素原子間の直接化学結合;または(ii)式:
【0033】
【化8】

【0034】
(式中、R5およびR6の各々は水素または1〜8個の炭素原子のアルキルである)を有する基である。)
を有する。
【0035】
式(I)のフルオロホスファイトエステルは、公知の手順またはこれと類似する方法によって調製できる。例えば、Rieselら,J.Z.Anorg.Allg.Chem.,603,145(1991),Tullockら,J.Org.Chem.,25,2016(1960),Whiteら,J.Am.Chem.Soc,92,7125(1970)およびMeyerら,Z.Naturforsch,Bi.Chem.Sci,48,659(1993)ならびに米国特許第4,912,155号に記載される手順を参照のこと。
【0036】
特定の二座リガンドもまた、種々の量のアセチレンを含有するエチレンのヒドロホルミル化に対して有用であることを我々は見出した。有用であることが見出されたリガンドとしては、BISBIおよびBIPHEPHOSが挙げられる。
【0037】
【化9】

【0038】
リンリガンドのモルグラムの、遷移金属の原子グラムに対する比は、広範囲に亘って変化でき、例えば、リンのモルグラム:遷移金属の原子グラムの比は約1:1〜1000:1である。ホスファイトおよびフルオロホスファイトのリガンドを基にするロジウム含有触媒系について、リンのモルグラム:ロジウムの原子グラムの比は約100:1から約750:1まで、約200:1〜約400:1または更に約250:1〜300:1の範囲であることができる。異なる分類のリンリガンド(例えばホスフィン)は、極めて異なる挙動を示し、そして異なる、リンのロジウムに対するモル比を必要とする。ロジウム原子に対して強くキレートする二座リガンドは、大幅に低い、リガンドのロジウムに対するモル比で実施できる。例えば、BISBIおよびBIPHEPHOSは、それぞれ二座のホスフィンおよびホスファイトのリガンドであり、そして両者は安定なアセチレン耐性触媒系を、リガンド対ロジウムモル比約1:1〜約90:1または約30:1〜約80:1にて形成することが示されている。
【0039】
ヒドロホルミル化反応溶媒は、広範な化合物、化合物の混合物、またはプロセスが操作される圧力にて液体である物質から選択できる。このような化合物および物質としては、種々のアルカン、シクロアルカン、アルケン、シクロアルケン、炭素環式芳香族化合物、アルコール、エステル、ケトン、アセタール、エーテルおよび水が挙げられる。このような溶媒の具体例としては、アルカンおよびシクロアルカン,例えばドデカン、デカリン、オクタン、イソ−オクタン混合物、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロドデカン、メチルシクロヘキサン;芳香族炭化水素,例えばベンゼン、トルエン、キシレンの異性体、テトラリン、クメン、アルキル置換芳香族化合物,例えばジイソプロピルベンゼン、トリイソプロピルベンゼンおよびtert−ブチルベンゼンの異性体;粗炭化水素混合物,例えばナフサ、ミネラルオイルおよびケロセン;高沸点エステル,例えば2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレートが挙げられる。ヒドロホルミル化方法のアルデヒド生成物もまた使用できる。一態様において、有用な溶媒は、ヒドロホルミル化反応および後続のステップ,例えば蒸留(これはアルデヒド生成物単離のために必要である)のプロセス中に自然に形成される、より高沸点の副生成物である。溶媒の主要な基準は、これが触媒およびオレフィン基材を溶解させ、そして触媒に対して有害物として作用しないことである。ある態様において、揮発性アルデヒド,例えばプロピオンアルデヒドおよびブチルアルデヒドの製造のために有用な溶媒は、ガスが拡散している反応器において殆どの部分が残るのに十分に高沸点であるものである。より揮発性でない、および不揮発性のアルデヒド生成物の製造において使用できる溶媒および溶媒の組合せとしては、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチル−ホルムアミド、パーフルオロ化溶媒,例えばパーフルオロケロセン、スルホラン、水、および高沸点炭化水素液体、更にこれらの溶媒の組合せが挙げられる。
【0040】
用いる反応条件は、プロセスの操作について重大ではなく、そして従来のヒドロホルミル化条件を通常用いることができる。プロセスは、上記した新規の触媒系の存在下でオレフィンを水素および一酸化炭素と接触させることを必要とする。プロセスは、温度約20℃〜200℃の範囲で実施でき、または反応温度は50℃〜135℃、または反応温度は75℃〜125℃である。
【0041】
反応器内の水素:一酸化炭素のモル比は、同じく、10:1〜1:10の範囲で大きく変化でき、そして水素と一酸化炭素との絶対分圧の合計は、0.3〜36絶対barであることができる。供給物中の水素および一酸化炭素の分圧は、所望の直鎖:分岐鎖の異性体比に従って選択する。一般的に、反応器内の水素の分圧は、約1.4〜約13.8絶対bar(約20〜約200psia)の範囲内に維持できる。反応器内の一酸化炭素の分圧は、約1.4〜約13.8絶対bar(約20〜約200psia)または約4〜約9絶対barの範囲内に維持でき、そして水素分圧とは独立に変化できる。水素の一酸化炭素に対するモル比は、水素および一酸化炭素についてのこれらの分圧範囲内で幅広く変化できる。水素の一酸化炭素に対する比および供給物ガス流(しばしば、合成ガスまたはシンガスという)中の各々の分圧は、水素または一酸化炭素のいずれかを合成ガス流に添加することによって容易に変化させることができる。
【0042】
本発明の触媒は、アセチレン汚染されたエチレンを首尾よくヒドロホルミル化して、活性の損失を伴うことなくプロピオンアルデヒドを製造できる。汚染のアセチレンレベルは、1000ppm以下では活性の何らの損失の原因ともならない一方、10,000ppmのレベルは活性の幾らかかの損失の原因となる。
【0043】
本発明が提供するプロセスの実施においては、任意の公知のヒドロホルミル化反応器の設計または構成を用いることができる。よって、本明細書で記載する例において開示するようなガス拡散、蒸気取出反応器設計を用いることができる。この様式の操作において、加圧下で高沸点有機溶媒中に溶解している触媒は、未反応ガスによって頂部に導かれるアルデヒド生成物とともには反応ゾーンから出ない。次いで、頂部ガスを気/液分離器内でチル冷却してアルデヒド生成物を液化させ、そしてガスは反応器に再循環させることができる。液体生成物は、従来法による分離および精製のために雰囲気圧力まで下げる。プロセスはまた、オレフィン、水素および一酸化炭素を本発明の触媒とオートクレーブ内で接触させることによってバッチ式で実施できる。
【0044】
触媒および供給原料を反応器内にポンプ送りして生成物アルデヒドとともにオーバーフローさせる反応器設計(すなわち液体オーバーフロー反応器設計)もまた好適である。例えば、高沸点アルデヒド生成物(例えばノニルアルデヒド)は、連続式で、アルデヒド生成物を、触媒との組合せの液体として反応器ゾーンから除去することで得ることができる。アルデヒド生成物は、触媒から従来手段によって,例えば蒸留または抽出によって分離でき、そして次いで触媒を反応器に再循環させて戻すことができる。アリルアルコールのヒドロホルミル化によって得られる水溶性アルデヒド生成物(例えばヒドロキシルブチルアルデヒド生成物)は、触媒から抽出法によって分離できる。トリクルベッド反応器設計もまた、この方法のために好適である。他の反応器スキームを本発明とともに使用できることが当業者には明らかであろう。
【0045】
本発明の触媒系および溶液を調製するために、特別または独特な方法は何ら必要でないが、高活性の触媒を得るためには、ロジウムおよびフルオロホスファイトリガンド成分の全ての取り扱いを不活性雰囲気(例えば窒素、アルゴン等)下で実施するのがよい。所望の量の好適なロジウム化合物およびリガンドを、好適な溶媒中で反応器に充填する。種々の触媒成分または反応物質を反応器に入れる順序は重大ではない。
【0046】
プロピオンアルデヒドを製造するためのエチレンのヒドロホルミル化反応は、大きい工業スケールで実施する。プロピオンアルデヒドは、他の有用な化学物質(プロピオン酸およびプロパノールが挙げられる)の供給原料として働く。
【0047】
本明細書に記載される実施は、米国特許第5,840,647号に記載される連続操作ベンチユニットで行った。プロピオンアルデヒドを製造するためのエチレンのヒドロホルミル化は、2.5cm内径および長さ1.2メートルを有する垂直配置ステンレススチールパイプからなる蒸気取出反応器内で実施した。反応器は、ホットオイルマシンに接続された外部ジャケット内に包み込んだ。反応器は、ガス状反応物質の入口のために反応器の底部近傍に下がって側部内に溶接されたフィルター要素を有していた。反応器は、ヒドロホルミル化反応混合物の温度の正確な測定のために、その中心において反応器の軸方向に配列するサーモウエルを含んでいた。反応器の底部は、交差部に接続された高圧チューブ接続を有していた。交差部への接続の1つは非ガス状反応物質(例えばオクテン−1または補給溶媒)の添加を可能にし、別の1つは、反応器内の触媒レベルを測定するために使用した差圧(D/P)セルの高圧接続に導かれ、そして底部接続は、実施の最後で触媒溶液を排出するために用いた。
【0048】
蒸気取出式の操作におけるエチレンのヒドロホルミル化において、触媒を含有するヒドロホルミル化の反応混合物または溶液は、エチレン、水素、および一酸化炭素、更に任意の不活性供給物(例えば窒素)の入来反応物質とともに加圧下で拡散した。プロピオンアルデヒドが触媒溶液中で形成されるに従い、これと未反応反応物質ガスとを蒸気として反応器頂部から側部口により取出した。取出した蒸気を高圧分離器内でチル冷却し、ここでプロピオンアルデヒド生成物を凝縮した。未凝縮ガスを大気圧まで圧力制御バルブを介して下げた。これらのガスは一連のドライアイストラップを通過し、ここで任意の他のアルデヒド生成物を回収した。高圧分離器からの生成物をトラップのものと組合せ、そして続いて、正味質量およびプロピオンアルデヒド生成物について計量および分析(標準気/液相クロマトグラフィ(GLC)法により)した。
【0049】
反応器へのガス供給物は、2筒連結管および高圧制御器を介して反応器に供給した。水素は、質量流量制御器および次いで市販で入手可能なDEOXO(登録商標)(Engelhard Inc.から入手可能)触媒床(任意の酸素汚染物を除去するため)を通過した。一酸化炭素は、鉄カルボニル除去床(米国特許第4,608,239号に記載されるようなもの)(DEOXO(登録商標)床と同様であり、125℃に加熱されている)、次いで質量流量制御器を通過した。窒素は不活性ガスとして供給物混合物に添加できた。窒素は、添加する際計り入れ、次いで水素DEOXO(登録商標)床の前に水素供給物と混合した。エチレンを反応器に筒から供給し、そして質量流量メータを用いて制御した。全てのガス供給物は、反応器に入る前にプレヒータを通過した。
【0050】
本発明は、その好ましい態様の以下の例により更に説明できるが、これらの例は例示の目的のみで包含され、そして特記がない限り本発明の範囲の限定を意図しないことが理解されよう。
【0051】

ベンチユニット触媒は、ロジウム2−エチルヘキサノエート、ジオクチルフタレート溶媒、およびリンリガンド(表に示す通り)から調製した。触媒を連続ベンチユニット反応器に充填し、所定温度に加熱し、そして反応物質を供給した。ユニットは、純粋エチレン供給物をオレフィン供給物として用いて3時間操作した。3時間目での触媒活性を、更なる比較のためのベース点として採り、次いでオレフィン供給物を純粋エチレンから1000ppmのアセチレンを含有するエチレンに切り替えた。次の時間についての触媒活性を観察し、表1に記録した。
【0052】
表1におけるデータは、ホスフィン系触媒は、本発明のフルオロホスファイト系触媒と比較したときに、アセチレンによって強く負に作用されることを示す。特に、より塩基性のリガンド(例えばトリシクロへキシルホスフィンおよびトリベンジルホスフィン)はより強く作用される。表中で用いた略号は:TBzPはトリベンジルホスフィンであり;TPPはトリフェニルホスフィンであり;TCHPはトリシクロヘキシルホスフィンであり;そしてEthanox 398TMは2,2’−エチリデン−ビス−(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)フルオロホスファイトである。
【0053】
表1の第3列および第4列は、リガンドのロジウムに対する増大したモル比の値および安定化効果を示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表は、フルオロホスファイト(Ethanox 398TMおよび2,2’−メチリデン−ビス−(6−ジ−tert−ブチル−4−ジメチルフェニル)フルオロホスファイト)以外の全てのリガンドが、アセチレンの導入とともに幾らかかの程度の触媒活性損失を示すことを示す。触媒活性の損失の深刻度はリガンドの関数である。強塩基性リガンド、TCHPは、最も顕著な活性の損失を示す。FellおよびBeutlerにより、そしてまた米国特許第5,675,041号において教示されるように、トリフェニルホスフィン系触媒系は、より高いリガンド量で活性のより低い損失を示す。
【0056】
特定の二座リガンドが、エチレンのヒドロホルミル化のために使用でき、そしてアセチレンは1000ppmにてこれらの二座リガンドに対して何らの作用も有さないこともまた我々は見出した。表IIのエントリーは、2つの二座リガンドである。BISBIは二座ホスフィンリガンド、1,1’−(2,2’−ビスジフェニルホスフィノメチル)ビフェニルである。BIPHEPHOSリガンドは、二座ビスホスファイトリガンド、2,2’−ビス[(1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル)ホスファイト]−3,3’−ジ−tert−ブチル−5,5’−ジメトキシ−1,1−ビフェニル;CAS登録番号121627−17−6である。これらの二座リガンドのいずれも、1000ppmではアセチレン汚染物によって強く作用されなかった。上記表1の実験の実施は、アセチレンを1,000ppmに急増させたエチレン供給物を用いて繰り返した。アセチレン含有供給物の導入後、反応を2時間半間隔で監視した。これらの実施によるデータを表2に与える。
【0057】
【表2】

【0058】
上記表1の実験の実施は、アセチレンを10,000ppmに急増させたエチレン供給物を用いて繰り返した。アセチレン含有供給物の導入後、反応を2時間半間隔で監視した。10,000ppmでのアセチレンはEthanox 398TM系触媒を含む全ての触媒に対して負の作用を有するのに十分であった。しかし、Ethanox 398TM系触媒は、10,000ppmアセチレン供給物での2時間の操作の後に、活性の最も大きい保持を示す。これらの実験の結果を下記表に与える。
【0059】
【表3】

【0060】
本発明をその好ましい態様に特に言及して詳述してきたが、本発明の精神および範囲の中で変形および改変をなすことができることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンをアルデヒドに転化する方法であって、オレフィン流を溶媒中で触媒と接触させて少なくとも1種のアルデヒドを形成することを含み、
該触媒が、単座トリ有機リンリガンド、二座有機リンリガンドまたはこれらの組合せからなる群から選択されるリガンドとの組合せであるロジウム化合物であり、
該リガンドのロジウムに対するモル比が約1:1〜約1000:1であり、そして
アセチレンが該触媒の転化活性を実質的に低減させない、方法。
【請求項2】
オレフィン流が約10,000ppm以下のアセチレンを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リガンドが単座トリ有機リンリガンドであり、そしてリガンドのロジウムに対するモル比が約10:1〜約750:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
触媒の転化活性が、10%未満低減される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
オレフィンがエチレンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アルデヒドがプロピオンアルデヒドである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
リガンドが、下記式:
【化1】


(式中、R1およびR2は、同じまたは異なり、組合せの総量で約40以下の炭素原子を含有し、アルキル基、シクロアルキル基、およびアリール基からなる群から選択される。)
で表される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アルキル基が、エチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、およびこれらの種々の異性体からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
シクロアルキル基が、ベンジル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
アリール基が、フェニル、ナフチル、アントラセニルおよびこれらの置換誘導体からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
リガンドが、下記式:
【化2】


の1つで表される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
単座トリ有機リンリガンド、二座有機リンリガンド、またはこれらの組合せからなる群から選択されるリガンドとの組合せであるロジウム化合物を含む、組成物。
【請求項13】
リガンドが、下記式:
【化3】


(式中、R1およびR2は、同じまたは異なり、組合せの総量で約40以下の炭素原子を含有し、アルキル基、シクロアルキル基、およびアリール基からなる群から選択される。)

で表される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
アルキル基が、エチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、およびこれらの種々の異性体からなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
シクロアルキル基が、ベンジル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルからなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
アリール基が、フェニル、ナフチル、アントラセニルおよびこれらの置換誘導体からなる群から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
リガンドが、下記式:
【化4】


の1つで表される、請求項13に記載の組成物。

【公表番号】特表2012−502096(P2012−502096A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526853(P2011−526853)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/005046
【国際公開番号】WO2010/030339
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(594055158)イーストマン ケミカル カンパニー (391)
【Fターム(参考)】