説明

アップライトピアノのアクションの作動方法及びアップライトピアノのアクション

【課題】グランドピアノに匹敵する連打性とタッチ感を有するアップライトピアノのアクションの提供。
【解決手段】鍵1を離鍵したときに、ジャック18の突き上げ部20に、突き上げ部20をバット25の被突き上げ部27の下に強制的に押し込む大きさと方向の力を与える第1のスプリング59を、突き上げ部20に形成するとともに、第1のスプリング59が突き上げ部20を被突き上げ部27の下に押し込む際に働く力を受けて弦90に向かって回動するハンマー32に、この回動するハンマー32のハンマーヘッド34が弦90に触れる前にその回動を停止する方向と大きさの力を与える第2のスプリング66を、ダンパーストップレール56の前側面上に設け、第1のスプリング59が当たる第1の受け部71をジャックストップレール53に設け、第2のスプリング66が当たる第2の受け部72をハンマーシャンク33に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アップライトピアノのアクション作動方法及びアップライトピアノのアクションに関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なグランドピアノのアクションについて述べる(非特許文献1を参照)。なお、以下の説明において、演奏者から見て手前側を「前」、奥側を「後」、左側を「左」、右側を「右」ということとする。
演奏者が休止状態の鍵を押鍵すると、鍵の後端部がウィッペンを突き上げる。そして、レペティションレバーとジャックがハンマーローラーを押し上げ、ハンマーが上方の弦に向かって回動する。これとほとんど同時に、ダンパーヘッドが上昇し弦から離れる。
【0003】
演奏者がさらに深く鍵を押鍵すると、ハンマーが弦に到達する直前に、ジャックテールがレギュレーティングボタンに接触し、ジャックが回動し、ジャックの突端がハンマーローラーの下から離脱する。
そして、ハンマーヘッドが弦に衝突し、弦が振動する。弦に衝突したハンマーは反転して下降する。このとき、ジャックの突端はハンマーローラーの下に位置しておらず、ハンマーローラーがレペティションレバーを押し下げる。ハンマーはレペティションスプリングの力を受けつつ下降し、バックチェックがハンマーヘッドを捕らえる。
【0004】
次いで、演奏者が鍵を離鍵すると、ウィッペンが下降し、ハンマーヘッドがバックチェックから外れ、レペティションレバーがレペティションスプリングの力で上方に回動し、ハンマーローラーが押し上げられる。ウィッペンは下降しているので、ハンマーは僅かに上昇するだけである。このとき、ジャックがジャックスプリングの力で回動し、ジャックの突端がハンマーローラーの下に戻る。これにより、演奏者は、次の押鍵により同じ弦を再び鳴らすことができる。そして、レペティションレバーがドロップスクリューに当たってハンマーの上昇が止まる。その後、ハンマーは、ウィッペンとともに下降する。
【0005】
グランドピアノの構造上、ジャックの突端がハンマーローラーの下に戻るとき、鍵は完全に押し下げられた位置から休止状態の位置に向かって約3分の1だけ戻っている。したがって、グランドピアノにおいては、鍵が完全に押し下げられた位置から休止状態の位置に向かって約3分の1だけ戻れば、同じ鍵を再び押鍵して弦を鳴らすことができる。本発明者が知るある実験例によれば、一定時間内に同じ鍵を連続して押鍵して同じ弦を鳴らすことができる回数は、14回/秒であった。
グランドピアノに特有の鍵のタッチ感は、レペティションスプリングから鍵に伝わる第1の力と、ジャックの突端がハンマーローラーの下に戻るときに鍵に伝わる第2の力と、レペティションレバーがドロップスクリューに当たるときに鍵に伝わる第3の力と、により生まれる。
【0006】
典型的なアップライトピアノのアクションについて述べる(非特許文献1を参照)。
演奏者が休止状態の鍵を押鍵すると、鍵の後端部がウィッペンを突き上げ、ウィッペンが回動する。そして、ジャックの突き上げ部の突端がバットの被突き上げ部を突き上げ、バットを含むハンマー全体がバットフレンジを中心にして弦に向かって回動する。また、ウィッペンの回動により、ダンパーヘッドが弦から離れる。
演奏者がさらに深く鍵を押鍵すると、ジャックテールがレギュレーティングボタンに当たり、ジャックが回動し、ジャックの突き上げ部の突端がバットの被突き上げ部の下から離脱し(すなわち、レットオフし)、ハンマーが鍵の動きから切り離される。ハンマーは慣性力により弦に向かって回動し、ハンマーヘッドが弦に衝突し、弦が振動する。弦に衝突したハンマーは反転して弦から離れる。そして、バックチェックがキャッチャーを捕らえ、ハンマーは静止する。
【0007】
次いで、演奏者が鍵を離鍵すると、ウィッペンが下降し、キャッチャーがバックチェックから離れるとともに、ジャックテールがレギュレーティングボタンから離れる。ウィッペンが完全に下降すると、バットの被突き上げ部の下にジャックの突き上げ部の突端が入ることができるスペースができる。そして、ジャックがジャックスプリングにより回動し、ジャックの突き上げ部の突端がバットの被突き上げ部の下に入り、両者が係合する。
【0008】
次に、ジャックとバットが係合するために必要なスペースについて述べる。
アクションの構造上、演奏者が鍵を最も押し下げると、鍵の前端は約10mm下降し、鍵の後端部がウィッペンのヒールを約5mm突き上げ、ジャックフレンジが約5mm上昇する。そして、レットオフしたジャックの突き上げ部の突端も、鍵が休止状態のときから約5mm上昇する。一方、バットは、ジャックに突き上げられてバットフレンジを中心に回動する。バットフレンジからバットの被突き上げ部までの距離は短い。このため、バックチェックがキャッチャーを捕らえた状態において、バットの被突き上げ部は、鍵が休止状態であったときの状態から約1mm上昇しているにすぎない。ここに示した数値は一例であるが、アップライトピアノでは、ジャックの突き上げ部の突端の上昇量が、バットの被突き上げ部の上昇量よりもはるかに大きい。したがって、ハンマーのバットの被突き上げ部の下に、ジャックの突き上げ部の突端が入るに足りるスペースができるのは、ウィッペンが完全に下降し、鍵が休止状態に戻ったときである。
【0009】
もし、鍵が休止状態に戻る前に、ジャックの突き上げ部の突端がバットの被突き上げ部の下に入ろうとすると、ジャックの突き上げ部の突端は、バットの被突き上げ部よりも前方側かつ上側の面に当たるだけであり、ジャックとバットは係合できない。
ジャックとバットが係合することにより、演奏者は次の押鍵により再び同じ弦を鳴らすことができる。前記実験例によれば、一定時間内に同じ鍵を連続して押鍵して同じ弦を鳴らすことができる回数は、7回/秒であった。したがって、グランドピアノに対してアップライトピアノは同じ鍵の連打性が劣る。
【0010】
また、アップライトピアノのアクションには、レペティションレバー、レペティションスプリング、ハンマーローラー及びドロップスクリューが存在しない。このため、アップライトピアノの鍵のタッチ感は、グランドピアノの鍵のタッチ感と大きく異なる。
アップライトピアノがグランドピアノに対して同じ鍵の連打性で劣る点を克服するべく、アップライトピアノのアクションの改良を目的とした技術が提唱されている。
【0011】
アップライトピアノのアクションの改良技術として、例えば、以下に説明するものがある(特許文献1を参照)。なお、この技術を先行技術1という。
先行技術1に係るアクションでは、スプリング部がジャックの突き上げ部に設けられている。ジャックがレットオフすると、スプリング部がレギュレーティングレールに当接してジャックをバット側に付勢する。
演奏者が鍵を離鍵すると、ウィッペン及びジャックが下降し、ジャックがジャックスプリング及びスプリング部により回動する。そして、ジャックとバットが係合する。
【0012】
また、アップライトピアノのアクションの別の改良技術として、以下に説明するものがある(特許文献2を参照)。なお、この技術を先行技術2という。
先行技術2に係るアクションでは、ジャックの突き上げ部の突端側部分と、キャッチャーとの間に、圧縮コイルがジャック/反復スプリングとして取り付けられている。ジャックがレットオフすると、ジャック/反復スプリングがジャックをバット側に付勢する。また、ハンマー戻しスプリングがバットに係合しており、打弦後のハンマーが反転し弦から離れる動作を補助する。
演奏者が鍵を離鍵すると、ウィッペン及びジャックが下降し、ジャックテールがレギュレーティングボタンから離れ、ジャック/反復スプリングによりジャックが回動する。そして、ジャックとバットが係合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−91516号公報
【特許文献2】特許第2656323号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】西口磯春、森太郎、「もっと知りたいピアノのしくみ」、第1版、株式会社音楽之友社、2005年4月30日、p.65〜77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
先行技術1に係るアップライトピアノのアクションには、以下の問題点が存在する。
先行技術1のアクションでは、スプリング部の役割はジャックスプリングの補強である。離鍵後、ジャックとバットが係合するタイミングは、バットの被突き上げ部の下に、ジャックの突き上げ部の突端が入ることができるスペースができたときである。したがって、典型的なアップライトピアノと同様、演奏者は、同じ鍵を押鍵して同じ弦を鳴らすため、鍵が休止状態に戻るのを待たねばならない。
【0016】
スプリング部の弾性係数やスプリング部からジャックに働くトルクを大きくして、バットの被突き上げ部の下にジャックの突き上げ部を強引に押し込もうとすることは、次のような不具合を生じ実用に耐えず、演奏上の点から言って論外である。すなわち、ジャックの突き上げ部がバットの被突き上げ部の下に入る際、力がジャックからバットに伝わる。この力は、押鍵時にジャックがバットを突き上げる力よりも小さいが、バットを上方に跳ね上げて、ハンマーを回動させるには充分な大きさである。したがって、ハンマーが回動し、振動中の弦にハンマーヘッドが触れ、弦の振動が止まってしまう。
また、先行技術1のアクションには、レペティションレバー、レペティションスプリング、ハンマーローラー及びドロップスクリューが存在しないので、先行技術1のアクションを備えるアップライトピアノの鍵のタッチ感は、グランドピアノの鍵のタッチ感と大きく異なる。
【0017】
先行技術2に係るアップライトピアノのアクションには、以下の問題点が存在する。
先行技術2のアクションでは、ジャック/反復スプリングの役割はジャックスプリングの代用をなす。離鍵後、ジャックとバットが係合するタイミングは、バットの被突き上げ部の下に、ジャックの突き上げ部の突端が入ることができるスペースができたときである。したがって、典型的なアップライトピアノと同様、演奏者は、同じ鍵を押鍵して同じ弦を鳴らすため、鍵が休止状態に戻るのを待たねばならない。
【0018】
特許文献2に記載されているように、離鍵後、鍵が完全に押し下げられた位置から休止状態の位置に向かって2分の1戻った際、ジャックとバットが係合するのであれば、先行技術1と同様の不具合が生じ、演奏上の点から言って実用に耐えない。すなわち、バットの被突き上げ部の下にジャックの突き上げ部が入る際、バットが上方に跳ね上がり、ハンマーが回動し、振動中の弦にハンマーヘッドが触れ、弦の振動が止まってしまう。したがって、離鍵後、鍵が完全に押し下げられた位置から休止状態の位置に向かって2分の1戻った際、ジャックとバットが係合するという構成は、演奏上、論外であると言わざるを得ない。
【0019】
また、ハンマー戻しスプリングは、弦と衝突したハンマーをハンマーレール側へ戻す役割を果たすにすぎない。仮に、ハンマー戻しスプリングの弾性係数やハンマー戻しスプリングからバットに働くトルクを大きくして、ジャックの突き上げ部の突端をバットの被突き上げ部の下に入ることに起因するハンマーの回動を防止しようとすれば、鍵のタッチ感が非常に重くなってしまう。
【0020】
仮に、ハンマーヘッドが弦の振動を止めるという犠牲や鍵のタッチ感が非常に重くなるという犠牲を払うとしても、同じ鍵を押鍵して弦を鳴らすには、鍵が完全に押し下げられた位置から休止状態の位置に向かって2分の1戻るのを待たねばならない。これでは、連打性がグランドピアノのそれに及ばない。
さらに、ジャック/反復スプリングは圧縮コイルであるので、ジャック/反復スプリングからジャックの突き上げ部に働く力の方向がぶれやすく、鍵のタッチ感が安定しない。
そして、先行技術2のアクションには、レペティションレバー、レペティションスプリング、ハンマーローラー及びドロップスクリューが存在しないので、先行技術2のアクションを備えるアップライトピアノの鍵のタッチ感は、グランドピアノの鍵のタッチ感と大きく異なる。
【0021】
本発明は、上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、アップライトピアノの連打性をグランドピアノと同等のレベルにまで向上可能であり、同じ鍵を連打するためにジャックとバットが係合しても、振動中の弦にハンマーヘッドが当たって弦の振動を止めてしまうことを防止可能であり、さらに、鍵のタッチ感がグランドピアノの鍵のタッチ感に匹敵するともに、安定した鍵のタッチ感を与えるアップライトピアノのアクションの作動方法及びアップライトピアノのアクションを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、その課題を解決するために以下のような構成をとる。請求項1の発明に係るアップライトピアノのアクションの作動方法は、演奏者が鍵を押鍵すると、ウィッペンが上昇しつつ回動し、当該ウィッペンの上に回動可能に軸止されたジャックの突き上げ部の突端が、ハンマーのバットの被突き上げ部を突き上げ、当該ハンマーが回動し、当該ハンマーのハンマーヘッドが弦を打弦するとともに、当該ジャックのジャックテールがレギュレーティングボタンに当たり、当該突き上げ部の突端が当該被突き上げ部の下から離脱するアップライトピアノのアクションの作動方法であって、前記ジャックテールが前記レギュレーティングボタンに当たった状態の前記ジャックの前記突き上げ部に、この前記突き上げ部を前記被突き上げ部の下に押し込むに足りる大きさと方向の力を、ブラケットに固定された第1のレールと、前記突き上げ部とのうちのいずれかに設けた第1のスプリングによって与え、演奏者が前記鍵を離鍵し、前記ウィッペンが下降しつつ回動し、前記ジャックテールが前記レギュレーティングボタンから離れる際に、前記第1のスプリングの力によって、前記突き上げ部を前記被突き上げ部の下に押し込み、前記突き上げ部を前記被突き上げ部の下に押し込む際に前記突き上げ部から前記被突き上げ部に働く力を受けて前記弦に向かって回動する前記ハンマーのハンマーウッドとハンマーシャンクと前記バットとのうちのいずれかに、回動する前記ハンマーヘッドが前記弦に触れる前にその回動を停止させるに足りる大きさと方向の力を、前記ブラケットに固定された第2のレールと、前記ハンマーウッドと、前記ハンマーシャンクと、前記バットとのうちのいずれかひとつに設けた第2のスプリングによって与える。
【0023】
演奏者が押鍵した鍵を離鍵した後、ウィッペンが下降しつつ回動する。そして、ジャックテールがレギュレーティングボタンから離れる際、第1のスプリングから力を受けたジャックがバットの方に向かって回動しようとする。ジャックがバットの方に回動しようとすると、ジャックの突き上げ部の突端が、バットの被突き上げ部よりも前方側かつ上方側にある面に押し付けられ、第1のスプリングの力がバットにジャックを介して働く。第1のスプリングの力により、バットがバットフレンジを中心に上方に持ち上がるように回動し、ジャックの突き上げ部の突端がバットの被突き上げ部の下に強制的に押し込まれる。そして、ジャックとバットが係合する。
【0024】
ジャックとバットが係合する際、バットが回動して、ハンマーが弦の方に向かって回動する。この回動するハンマーに、第2のスプリングから力が働き、ハンマーの回動が停止し、ハンマーヘッドが振動中の弦に触れることを第2のスプリングが防止する。なお、第2のスプリングからハンマーに働く力は、弦とは反対の方向の力の成分、すなわち、前方向の力の成分を有すれば良い。
アップライトピアノの構造上、ジャックテールがレギュレーティングボタンから離れる際、鍵は完全に押し下げられた位置から休止状態の位置に向かって約3分の1だけ戻っている。したがって、鍵が完全に押し下げられた位置から休止状態の位置に向かって約3分の1だけ戻れば、ジャックとバットが第1のスプリングの力により強制的に係合し、演奏者は、同じ鍵を押鍵して同じ弦を鳴らすことができる。
【0025】
第2のスプリングがハンマーに及ぼすトルクの大きさの観点より、第2のスプリングからハンマーに働く力の作用点をハンマーの回動中心であるバットフレンジから遠ざければ、第2のスプリングの弾性係数を小さくできる。第2のスプリングからハンマーに働く力の作用点がハンマーシャンク上にある場合と、ハンマーウッド上にある場合とを比べると、ハンマーウッド上にある場合の方が、第2のスプリングの弾性係数は小さくてすむ。第2のスプリングからハンマーに働く力の作用点がハンマーシャンク上にある場合、その作用点がバット側からハンマーヘッド側に遠ざかるにしたがって、第2のスプリングに必要な弾性係数は小さくてすむ。第2のスプリングからハンマーに働く力の作用点がハンマーシャンク上にある場合と、バット上にある場合とを比べると、バット上にある場合の方が、第2のスプリングの弾性係数は小さくてすむ。第2のスプリングの弾性係数と、第2のスプリングからハンマーに働く力の作用点の位置を調節すれば、第2のスプリングが鍵のタッチ感に及ぼす影響を調節できる。
【0026】
演奏者は、第1のスプリングから鍵に伝わる力と、ジャックとバットが係合するときに鍵に伝わる力と、ハンマーヘッドが振動中の弦に触れることを第2のスプリングが防止するときに鍵に伝わる力とを、鍵のタッチ感として感じとる。このタッチ感はグランドピアノのタッチ感に匹敵するものである。第1のスプリングから鍵に伝わる力が、グランドピアノでレペティションスプリングから鍵に伝わる前記第1の力に相当し、ジャックとバットが強制的に係合するときに鍵に伝わる力が、グランドピアノでジャックの突端がハンマーローラーの下に戻るときに鍵に伝わる前記第2の力に相当し、ハンマーヘッドが振動中の弦に触れることを第2のスプリングが防止するときに鍵に伝わる力が、グランドピアノでレペティションレバーがドロップスクリューに当たるときに鍵に伝わる前記第3の力に相当するからである。
【0027】
なお、第1のレールとして、例えば、従来のアップライトピアノにあるジャックストップレールやレギュレーティングレールを挙げることができる。また、ブラケットの間に新たなレールを架け渡して固定し、これを第1のレールとしても良い。第2のレールとして、例えば、従来のアップライトピアノにあるセンターレールやダンパーレールを挙げることができる。また、ブラケットの間に新たなレールを架け渡して固定し、これを第2のレールとしても良い。
【0028】
請求項2の発明に係るアップライトピアノのアクションは、演奏者が鍵を押鍵すると、ウィッペンが上昇しつつ回動し、当該ウィッペンの上に回動可能に軸止されたジャックの突き上げ部の突端が、ハンマーのバットの被突き上げ部を突き上げ、当該ハンマーが回動し、当該ハンマーのハンマーヘッドが弦を打弦するとともに、当該ジャックのジャックテールがレギュレーティングボタンに当たり、当該突き上げ部の突端が当該被突き上げ部の下から離脱するアップライトピアノのアクションであって、前記ジャックテールが前記レギュレーティングボタンに当たった状態の前記ジャックの前記突き上げ部に、この前記突き上げ部を前記被突き上げ部の下に押し込むに足りる大きさと方向の力を与える第1のスプリングを、ブラケットに固定された第1のレールと、前記突き上げ部とのうちのいずれかに設け、前記第1のスプリングが前記突き上げ部を前記被突き上げ部の下に押し込む際に前記突き上げ部から前記被突き上げ部に働く力を受けて前記弦に向かって回動する前記ハンマーのハンマーウッドとハンマーシャンクと前記バットとのうちのいずれかに、回動する前記ハンマーヘッドが前記弦に触れる前にその回動を停止させるに足りる大きさと方向の力を与える第2のスプリングを、前記ブラケットに固定された第2のレールと、前記ハンマーウッドと、前記ハンマーシャンクと、前記バットとのうちのいずれかひとつに設けている。
請求項2の発明により、請求項1の発明を実施できる。
【0029】
請求項3の発明に係るアップライトピアノのアクションは、請求項2に記載のアップライトピアノのアクションであって、前記第1のスプリングが、板バネ又は捻りコイルバネであり、前記第1のスプリングをなす板バネ又は捻りコイルバネから延びて自由端となっている足部が当接する第1の受け部が、前記第1のレールと、前記突き上げ部とのうちの前記第1のスプリングを設けていないものに設けられている。
第1のスプリングから延びて自由端となっている足部が、第1の受け部に当接し、第1のスプリングからジャックの突き上げ部に力が働く。第1の受け部に当接する足部の形状を変えることにより、第1のスプリングからジャックの突き上げ部に働く力やトルクの大きさを容易に調節できる。第1のスプリングから延びて自由端となっている足部の形状を変えるには、例えば、この足部の撓み具合や曲がり具合を変えれば良い。
第1のスプリングは捻りコイルバネであることがより好ましい。第1のスプリングの弾性係数は、そのコイルの巻き数やコイルの径を変えることにより容易に調節できる。
【0030】
請求項4の発明に係るアップライトピアノのアクションは、請求項3に記載のアップライトピアノのアクションであって、前記第1のレールと前記突き上げ部とのうちの前記第1の受け部が設けられているものに螺合して貫通する螺子の螺子部先端が、前記第1の受け部を支持している。
第1の受け部を支持する螺子の螺子部先端がその被螺合部材から突出する長さを変えれば、第1のスプリングと第1の受け部との当たり具合を容易に調節できる。このあたり具合を調節することにより、第1のスプリングからジャックの突き上げ部に働く力やトルクの大きさを容易に調節できる。
本発明者が試験したところによると、第1のスプリングを板バネ又は捻りコイルバネとすることにより、第1のスプリングから第1の受け部に働く力の方向や大きさがぶれにくくなり、安定した鍵のタッチ感を得ることができる。
【0031】
請求項5の発明に係るアップライトピアノのアクションは、請求項2から請求項4のうちのいずれかの請求項に記載のアップライトピアノのアクションであって、前記第2のスプリングが、板バネ又は捻りコイルバネであり、前記第2のスプリングが、前記ハンマーウッドと、前記ハンマーシャンクと、前記バットとのうちのいずれかに設けられている場合には、前記第2のスプリングをなす板バネ又は捻りコイルバネから延びて自由端となっている足部が当接する第2の受け部が、前記第2のレールに設けられており、前記第2のスプリングが、前記第2のレールに設けられている場合には、前記第2のスプリングをなす板バネ又は捻りコイルバネから延びて自由端となっている足部が当接する第2の受け部が、前記ハンマーウッドと、前記ハンマーシャンクと、前記バットとのうちのいずれかひとつに設けられている。
【0032】
第2のスプリングから延びて自由端となっている足部が、第2の受け部に当接し、第2のスプリングからハンマーに力が働く。第2の受け部に当接する足部の形状を変えることにより、第2のスプリングからハンマーに働く力やトルクの大きさを容易に調節できる。第2のスプリングから延びて自由端となっている足部の形状を変えるには、例えば、この足部の撓み具合や曲がり具合を変えれば良い。
第2のスプリングは捻りコイルバネであることがより好ましい。第2のスプリングの弾性係数は、そのコイルの巻き数やコイルの径を変えることにより容易に調節できる。
【0033】
本発明者が試験したところによると、第2のスプリングを板バネ又は捻りコイルバネとすることにより、第2のスプリングから第2の受け部に働く力の方向や大きさがぶれにくくなり、安定した鍵のタッチ感を得ることができる。
第2の受け部がハンマーウッドとハンマーシャンクとバットのうちのいずれかに設けられている場合、第2の受け部の位置がバットフレンジに近ければ近いほど、ハンマーが回動して第2のスプリングが第2の受け部に当たる際に生じる音が小さくなる。ハンマーが回動する際において、ハンマーと一緒に回動する第2の受け部の回動速度が、バットフレンジに近ければ近いほど、遅くなるからである。
【0034】
第2の受け部が第2のレールに設けられている場合、第2のレールがバットフレンジに近ければ近いほど、ハンマーが回動して第2のスプリングが第2の受け部に当たる際に生じる音が小さくなる。ハンマーが回動する際において、ハンマーと一緒に第2のスプリングが回動するが、第2のスプリングのうちの第2の受け部に当たる部位の回動速度が、バットフレンジに近ければ近いほど、遅くなるからである。
第2のスプリングが第2の受け部に当たる際に生じる音を小さくするために、第2の受け部に当たる第2のスプリングの部位をフェルト等の布や樹脂等の柔軟性を有する素材によって被覆することができる。また、第2のスプリングが当たる第2の受け部の部位をフェルト等の布や樹脂等の柔軟性を有する素材によって被覆しても良い。
【0035】
請求項6の発明に係るアップライトピアノのアクションは、請求項5に記載のアップライトピアノのアクションであって、前記第2のレールと、前記ハンマーウッドと、前記ハンマーシャンクと、前記バットとのうちの前記第2の受け部が設けられているものに螺合して貫通する螺子の螺子部先端が、前記第2の受け部を支持している。
第2の受け部を支持する螺子の螺子部先端がその被螺合部材から突出する長さを変えれば、第2のスプリングと第2の受け部との当たり具合を容易に調節できる。このあたり具合を調節することにより、第2のスプリングからハンマーに働く力やトルクの大きさを容易に調節できる。
【発明の効果】
【0036】
上記のようなアップライトピアノのアクションの作動方法及びアップライトピアノのアクションであるので、アップライトピアノの連打性をグランドピアノと同等のレベルにまで向上可能であり、同じ鍵を連打するためにジャックとバットが係合しても、振動中の弦にハンマーヘッドが当たって弦の振動を止めてしまうことを防止可能であり、さらに、鍵のタッチ感がグランドピアノの鍵のタッチ感に匹敵するともに、安定した鍵のタッチ感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】鍵が休止状態の位置にあるときに左側から見たアップライトピアノのアクションの構成図である。
【図2】鍵が完全に押し下げられてハンマーヘッドが打弦した直後に左側から見たアップライトピアノのアクションの構成図である。
【図3】鍵が完全に押し下げられた位置から休止状態の位置に向かって3分の1戻ったときに左側から見たアップライトピアノのアクションの構成図である。
【図4】第1のスプリングと第2のスプリングの構成図であり、(i)が第1のスプリングと第2のスプリングの前面図、(ii)が第1のスプリングと第2のスプリングの左側面図である。
【図5】図1の部分拡大図である。
【図6】鍵が完全に押し下げられてハンマーヘッドが打弦した直後に左側から見た変形例に係るアップライトピアノのアクションの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明を実施するための形態を図1から図5を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、「時計回り」あるいは「反時計回り」というときは、図1から図3における時計回りあるいは反時計回りのことをいうものとする。
図1〜図3に示すように、本実施の形態に係るアップライトピアノは、左右方向に並ぶ多数の鍵1(ひとつだけ図示)と、各鍵1に対応する弦90を有する。鍵1の中央部が、筬3に立設されたバランスピン(図示せず)に、回動可能に支持されている。筬3の左右端部にはブラケット(図示せず)がそれぞれ形成されている。左右のこれらのブラケットの間には、センターレール4が架け渡されて固定されている。
鍵1の後端部上方にアクション7が形成されている。アクション7は、ウィッペン8、ジャック18、ハンマー32、ダンパー39を有する。
【0039】
ウィッペン8の後端部にはスプーン9が立設されている。スプーン9よりもやや前側において、ウィッペン8は、センターレール4の下部のウィッペンフレンジ10に回動可能に軸止されている。ウィッペンフレンジ10よりも前側において、ウィッペン8はその下側にヒール11を有し、その上側にジャックフレンジ12を有する。ヒール11がキャプスタンボタン2を介して、鍵1の後端部の上に載っている。ジャックフレンジ12よりも前側において、ウィッペン8はその上側にジャックスプリング13を有する。ウィッペン8の前端部には、バックチェックワイヤ14が立設されており、その先端にバックチェック15が取り付けられている。
【0040】
ジャック18は、前方に突出するジャックテール19と、上下方向に延びる突き上げ部20とを有し、ジャックテール19と突き上げ部20とがLの字型をなす。ジャックテール19と突き上げ部20とがなす角部において、ジャック18はジャックフレンジ12に回動可能に軸止されている。ジャックスプリング13がジャックテール19とウィッペン8との間に設置されており、ジャックテール19を上方に付勢している。突き上げ部20の前側面の下端側部分には、第1のスプリング59をなす捻りコイルバネが取り付けられている。
【0041】
図4に示すように、第1のスプリング59はコイル部60と2本の足部62、63を有する。コイル部60の一端が足部62に連なり、コイル部60の他端が足部63に連なっている。足部62が突き上げ部20に植設されている。足部63が上下方向に延び、その上方の先端が自由端をなす。
ジャックテール19の上方に、レギュレーティングボタン47が形成されている。レギュレーティングボタン47は、左右に延びるレギュレーティングレール48に螺合するレギュレーティングスクリュー49の先端に支持されている。レギュレーティングレール48はフォークスクリュー50によりセンターレール4に固定して取り付けられている。
【0042】
突き上げ部20の前方に、左右に延びるジャックストップレール53がある。ジャックストップレール53は、第1のレールをなし、ジャックストップレールスクリュー54によりセンターレール4に固定して取り付けられている。ジャックストップレール53に、螺子81が螺合して貫通している。螺子81の螺子部先端がジャックストップレール53の後側から突出している。螺子81の螺子部先端に、第1の受け部71が支持されている。第1の受け部71は、基材73とフェルト77を有する。螺子81の螺子部先端が基材73を前側から支持し、基材73の後側にフェルト77が貼られており、フェルト77が突き上げ部20の前側面と対向している。フェルト77は、突き上げ部20の左右の幅と同じ幅か、突き上げ部20の左右の幅よりも大きな幅を有する。
【0043】
第1のスプリング59の弾性係数と、第1のスプリング59が第1の受け部71に当たって撓むことによりジャック18に与えるトルクの大きさとは、以下のように調整されている。すなわち、これらの弾性係数とトルクは、後述する鍵1の押鍵時において、ジャック18のレットオフを妨げない大きさであり、かつ、後述する鍵1の離鍵時において、突き上げ部20の突端を被突き上げ部27の下に強制的に押し込み可能な大きさである。
【0044】
ハンマー32は、バット25、ハンマーシャンク33、ハンマーヘッド34を有する。
バット25の後側面の下部は、センターレール4の前側上部のバットフレンジ26に回動可能に軸止されている。バット25の前側面の上部に、キャッチャーシャンク28を介してキャッチャー29が取り付けられている。バット25は、その下側面に被突き上げ部27を有し、被突き上げ部27に革製のスキン75が貼られている。バット25の前側面のうちキャッチャーシャンク28の付け根より下にある部分に、革製のスキン76が貼られている。すなわち、バット25において、被突き上げ部27よりも前方側かつ上方側にある面にスキン76が貼られている。スキン75の前端とスキン76の下端が連続して一体となっている。
【0045】
バット25の上側面には上下方向に延びるハンマーシャンク33が立設されており、ハンマーシャンク33の上端にハンマーヘッド34が取り付けられている。ハンマーヘッド34は、ハンマーシャンク33の上端から後方に延びるハンマーウッド35と、ハンマーウッド35の後端側部分に取り付けられたハンマーフェルト36とを有する。
ハンマーシャンク33の上端側部分には螺子82が螺合して前後方向に貫通しており、螺子82の螺子部先端がハンマーシャンク33の後側に突出している。螺子82の螺子部先端には、第2の受け部72が支持されている。第2の受け部72は基材74とフェルト78を有する。螺子82の螺子部先端が基材74を前側から支持し、基材74の後側にフェルト78が貼られており、フェルト78が後方を向いている。フェルト78は、ハンマーシャンク33の太さと同じ大きさの左右の横幅か、ハンマーシャンク33の太さよりも大きな左右の横幅を有する。
【0046】
ダンパー39は、ダンパーレバー40、ダンパーワイヤー43、ダンパーヘッド44を有する。
ダンパーレバー40の中央部が、センターレール4の後側上部に固定したダンパーフレンジ41に回動可能に軸止されている。ダンパーレバー40の前側面下端部が、スプーン9の先端と対向している。ダンパーヘッド44がダンパーワイヤー43を介してダンパーレバー40の上端に取り付けられている。ダンパーヘッド44は、ダンパーレバー40に取り付けられたダンパースプリング42から力を受けて弦90に圧接している。
【0047】
ハンマーシャンク33の前方にハンマーストップレール55があり、ダンパーワイヤー43の前方にダンパーストップレール56がある。ハンマーストップレール55とダンパーストップレール56は、左右の前記ブラケットの間にそれぞれ架け渡されて固定されている。ダンパーストップレール56が第2のレールをなす。
ダンパーストップレール56の前側面上に、第2のスプリング66をなす捻りコイルバネが取り付けられている。
【0048】
図4に示すように、第2のスプリング66はコイル部61と2本の足部67、68を有する。コイル部61の一端が足部67に連なり、コイル部61の他端が足部68に連なっている。足部67がダンパーストップレール56に植設されている。足部68は、その先端側がコの字型に折れ曲がっている。足部68のコの字型部分は、フェルト78の左右の横幅と同じ大きさの左右の横幅か、フェルト78の左右の横幅よりも大きな左右の横幅を有する。足部68が前方の斜め上方向に延び、その先端が自由端をなす。足部68の長さは、バットフレンジ26を中心として回動するハンマーヘッド34と干渉しあうことがない長さであり、バットフレンジ26を中心として回動するハンマーシャンク33の第2の受け部72に足部68のコの字型部分が当たる長さである。
【0049】
第2のスプリング66の弾性係数と、第2のスプリング66が第2の受け部72を介してハンマー32に与えるトルクの大きさとは、以下のように調整されている。すなわち、これらの弾性係数とトルクは、鍵1の押鍵時において、ハンマー32の打弦を妨げない大きさであり、かつ、鍵1の離鍵時において、回動するハンマー32を停止させてハンマー32の打弦を防止可能な大きさである。
そして、弦90がアクション7の後方に張られている。
本実施の形態に係るアップライピアノは、アクション7が、第1のスプリング59、第2のスプリング66、第1の受け部71、第2の受け部72を有する点を除いて、従来あるものと同様の構成を有する。
【0050】
次に、作用について説明する。
先ず、鍵1が休止状態にある場合について説明する(図1及び図5を参照)。鍵1が休止状態にある場合、鍵1の前端は最も上昇した位置にあり、鍵1の後端は最も下降した位置にある。そして、ウィッペン8も最も下降した位置にある。
ジャック18の突き上げ部20の突端は、バット25の被突き上げ部27の下に入って係合している。ジャックテール19はレギュレーティングボタン47から離れている。突き上げ部20と第1の受け部71との間は離れている。そして、第1のスプリング59の足部63の先端側部分と突き上げ部20の前側面との間も離れており、足部63が第1の受け部71のフェルト77に当たっている。
【0051】
バット25は、キャッチャー29が最も下降した位置にあり、キャッチャー29はバックチェック15から離れている。ハンマーシャンク33はハンマーストップレール55に接した状態となっており、ハンマーヘッド34は弦90から最も離れた位置にある。第2のスプリング66の足部68は第2の受け部72のフェルト78から離れている。また、ダンパーヘッド44はダンパースプリング42の力により弦90に圧接している。
【0052】
次に、演奏者が鍵1を押鍵し、鍵1の前端部が休止状態の位置から最も押し下げられた位置まで下降する場合について説明する(図2を参照)。
演奏者が鍵1を押鍵すると、鍵1が時計回りの方向に回動し、鍵1の後端部が上昇する。鍵1の後端部がヒール11を突き上げ、ウィッペン8がウィッペンフレンジ10を中心として反時計回りの方向に回動しつつ上昇する。
ウィッペン8が回動を開始すると、直ちに、スプーン9がダンパーレバー40の下端を後方に押し、ダンパーレバー40がダンパーフレンジ41を中心として時計回りの方向に回動し、ダンパーヘッド44が弦90から離れる。
ウィッペン8の回動と上昇に伴って、ジャック18がウィッペン8と共に上昇する。ジャック18の上昇過程において、突き上げ部20の突端がバット25の被突き上げ部27を突き上げる。
【0053】
突き上げ部20の突端が被突き上げ部27を突き上げた後も、ウィッペン8は回動と上昇を続ける。突き上げ部20の突端が被突き上げ部27を突き上げた後に、ジャックテール19がレギュレーティングボタン47に当たる。その後も、ウィッペン8は回動と上昇を続ける。レギュレーティングボタン47がジャックテール19を上から押さえるので、ジャック18がジャックフレンジ12を中心として時計回りの方向に回動し、突き上げ部20の突端が被突き上げ部27の下から前方に離脱する(すなわち、レットオフする)。レットオフした突き上げ部20は、第1の受け部71側に接近し、第1のスプリング59が突き上げ部20と第1の受け部71との間に挟まって撓む。
【0054】
第1のスプリング59の弾性係数と、第1のスプリング59が第1の受け部71に当たって撓むことによりジャック18に与えるトルクの大きさは、ジャック18のレットオフを妨げない大きさである。したがって、第1のスプリング59が突き上げ部20の離脱を妨げることはない。
バット25は、被突き上げ部27を突き上げられて、バットフレンジ26を中心として反時計回りの方向に回動する。すなわち、ハンマー32が反時計回りの方向に回動する。ハンマー32が回動すると、第2のスプリング66の足部68が第2の受け部72に当たって撓む。なお、第2のスプリング66の弾性係数と、第2のスプリング66が第2の受け部72を介してハンマー32に与えるトルクの大きさとは、押鍵時におけるハンマー32の打弦を妨げない大きさである。したがって、ハンマーヘッド34は、第2のスプリング66に妨げられることなく弦90を打つ。弦90は、ハンマーヘッド34が衝突して振動することにより、音を発する。
【0055】
ハンマーヘッド34が弦90を打った後、ハンマー32は反転して時計回りの方向に回動する。そして、キャッチャー29がバックチェック15に捕まり、ハンマー32は停止する。このとき、鍵1の前端は休止状態の位置から最も下降しており、鍵1の後端は休止状態の位置から最も上昇している。また、突き上げ部20の突端は、被突き上げ部27よりも上方にあり、スキン76の前側に位置している。
【0056】
次に、演奏者が鍵1を離鍵し、鍵1の前端部が最も押し下げられた位置から上昇する場合について説明する(図3を参照)。
演奏者が鍵1を離鍵すると、鍵1が反時計回りの方向に回動し、鍵1の後端部が下降を開始する。鍵1の後端部が下降すると、ウィッペン8が、時計回りの方向に回動しつつ下降する。ウィッペン8が下降を開始すると、直ちに、キャッチャー29がバックチェック15から離れ、ハンマー32は回動可能になる。
【0057】
アップライトピアノの構造上、鍵1の前端部が最も押し下げられた位置から休止状態の位置に向かって約3分の1戻る(すなわち、鍵1の後端部が最も上昇した位置から休止状態の位置に向かって約3分の1戻る)と、ジャックテール19はレギュレーティングボタン47に接するだけとなり、レギュレーティングボタン47がジャックテール19を上から押さえつける力がなくなる。そして、撓んだ第1のスプリング59から突き上げ部20に働く力により、ジャック18がジャックフレンジ12を中心として反時計回りの方向に回動しようとし、先ず、突き上げ部20の突端がバット25に押し付けられる。突き上げ部20の突端が押し付けられる位置は、バット25の前側面であり、被突き上げ部27よりも上側のスキン76が貼られた位置である。バット25の前側面に押し付けられた突き上げ部20の突端は、第1のスプリング59から働く力により、被突き上げ部27の下に強制的に押し込まれる。
【0058】
突き上げ部20の突端が被突き上げ部27の下に強制的に押し込まれる際、突き上げ部20の突端からバット25に力が働く。この力によりバット25は上方に跳ね上がり、バット25がバットフレンジ26を中心として反時計回りの方向に回動する。バット25が回動するとハンマー32が反時計回りの方向に回動する。ハンマー32が回動すると、第2のスプリング66の足部68が第2の受け部72に当たり、第2のスプリング66が撓む。第2のスプリング66の弾性係数と、第2のスプリング66が第2の受け部72を介してハンマー32に与えるトルクの大きさとは、離鍵時において回動するハンマー32の回動を停止させ、かつ、ハンマー32による弦90の打弦を防止可能な大きさである。したがって、第2のスプリング66により、ハンマーヘッド34が弦90に触れる前に、ハンマー32は回動を停止する。これにより、振動中の弦90にハンマーヘッド34が触れて弦90の振動が止まることも防止される。
【0059】
突き上げ部20の突端が被突き上げ部27の下に入り、ジャック18とバット25が係合するので、演奏者は、離鍵した鍵1を再び押鍵し、ウィッペン8を介して、突き上げ部20により被突き上げ部27を突き上げることができる。
すなわち、離鍵した鍵1の前端部が最も押し下げられた位置から休止状態の位置に向かって約3分の1戻れば、演奏者は、再び同じ鍵1を押鍵して振動中の弦90をハンマー32で打弦できる。鍵1の前端部が最も押し下げられた位置から休止状態の位置に向かって約3分の1戻れば同じ鍵1を連打できるので、その連打性はグランドピアノの連打性と同等のレベルになる。
【0060】
演奏者は、第1のスプリング59から鍵1に伝わる力F1と、突き上げ部20が被突き上げ部27の下に強制的に押し込まれるときに鍵1に伝わる力F2と、第2のスプリング66がハンマー32の回動を停止させるときに鍵1に伝わる力F3と、を感じることができ、グランドピアノに匹敵するタッチ感を得ることができる。力F1が、グランドピアノにおけるレペティションスプリングから鍵に伝わる前記第1の力に相当し、力F2が、グランドピアノにおけるジャックの突端がハンマーローラーの下に戻るときに鍵に伝わる前記第2の力に相当し、力F3が、グランドピアノにおけるレペティションレバーがドロップスクリューに当たったときに鍵に伝わる前記第3の力に相当するからである。
【0061】
第1のスプリング59からジャック18に働く力やトルクの大きさは、ジャックストップレール53の後側から突出する螺子81の螺子部先端の突出量を変えることにより、簡単に調節できる。同様に、第2のスプリング66からハンマー32に働く力やトルクの大きさは、ハンマーシャンク33の後側から突出する螺子82の螺子部先端の突出量を変えることにより、簡単に調節できる。
【0062】
本実施の形態において、第2のスプリング66の足部68が斜め前方の上方向に延びているとしたが、代わりに、図6の変形例に示す構成としても良い。この変形例においては、足部68が斜め前方の下方向に延びている。そして、第2の受け部72が、ハンマーシャンク33のバット25側の根元近傍部分に形成されている。
第2の受け部72をハンマーシャンク33のバット25側の根元近傍部分に形成することにより、ハンマー32が回動して足部68が第2の受け部72に当たる際に生じる音を小さくできる。ハンマー32が回動する際、ハンマー32と一緒に回動する第2の受け部72の回動速度が、ハンマー32の回動中心であるバットフレンジ26に近ければ近いほど、遅くなるからである。
【0063】
本実施の形態において、第1の受け部71が、ジャックストップレール53に螺合して貫通する螺子81により支持されているとしたが、代わりに、ジャックストップレール53の後側にフェルト78を貼り付け、このフェルト78を第1の受け部71としても良い。同様に、第2の受け部72が、ハンマーシャンク33に螺合して貫通する螺子82により支持されているとしたが、代わりに、ハンマーシャンク33にフェルト77を巻きつけ、このフェルト77を第2の受け部72としても良い。
【0064】
本実施の形態において、第1の受け部71が基材73とフェルト77とからなるとしたが、第1の受け部71を以下のように構成しても良い。すなわち、ジャックストップレール53の後側にフェルト77を2点で固定する。フェルト77の固定されている2点の間の部分の裏側に、ジャックストップレール53に螺合して貫通する螺子81の螺子部先端を当てる。そして、螺子81の螺子部先端が当たっているフェルト77を第1の受け部71とする。第1のスプリング59からジャック18に働く力やトルクの大きさは、ジャックストップレール53の後側から突出している螺子81の螺子部先端の突出量を変えることにより、簡単に調節できる。
【0065】
同様に、第2の受け部72を以下のように構成しても良い。すなわち、ハンマーシャンク33の後側にフェルト78を2点で固定する。フェルト78の固定されている2点の間の部分の裏側に、ハンマーシャンク33に螺合して貫通する螺子82の螺子部先端を当てる。そして、螺子82の螺子部先端が当たっているフェルト78を第2の受け部72とする。第2のスプリング66からハンマー32に働く力やトルクの大きさは、ハンマーシャンク33の後側から突出している螺子82の螺子部先端の突出量を変えることにより、簡単に調節できる。
【0066】
本実施の形態において、第1のスプリング59及び第2のスプリング66を、ねじりコイルバネの代わりに板バネによって形成しても良い。この場合、板バネの長手方向両端側部分を足部とし、一方の足部を第1のスプリング59における足部62又は第2のスプリング66における足部67とし、他方の足部を第1のスプリング59における足部63又は第2のスプリング66における足部68とする。そして、板バネの足部62又は足部67となる端側部分近傍の曲率を他の部分よりも小さくする。
【0067】
本実施の形態において、第1のスプリング59の足部62を、前記ブラケットの間に新たに固定して設けたレール、ジャックストップレール53、あるいは、レギュレーティングレール48に植設し、第1の受け部71を突き上げ部20の前側面に設けても良い。
本実施の形態において、第2のスプリング66の足部67をセンターレール4に植設しても良い。これにより、足部68の長さを変えやすくなり、第2のスプリング66を調節しやすくなる。また、足部67を前記ブラケットの間に新たに固定して設けたレールに植設しても良い。
【0068】
本実施の形態において、第2のスプリング66の足部67を、ハンマーウッド35、ハンマーシャンク33あるいはバット25に植設し、第2の受け部72を、前記ブラケットの間に新たに固定して設けたレール、ダンパーストップレール56の前側面、あるいは、センターレール4の一部に設けても良い。
本実施の形態において、スキン75、76を毛織物等の織布や不織布により形成しても良いし、フェルト77、78を、革、毛織物等の織布あるいは不織布により形成しても良い。
【符号の説明】
【0069】
1 鍵
4 センターレール
7 アクション
8 ウィッペン
10 ウィッペンフレンジ
12 ジャックフレンジ
15 バックチェック
18 ジャック
19 ジャックテール
20 突き上げ部
25 バット
26 バットフレンジ
27 被突き上げ部
29 キャッチャー
32 ハンマー
33 ハンマーシャンク
34 ハンマーヘッド
35 ハンマーウッド
39 ダンパー
47 レギュレーティングボタン
53 ジャックストップレール
56 ダンパーストップレール
59 第1のスプリング
62、63 第1のスプリングの足部
66 第2のスプリング
67、68 第2のスプリングの足部
71 第1の受け部
72 第2の受け部
81、82 螺子
90 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏者が鍵を押鍵すると、ウィッペンが上昇しつつ回動し、当該ウィッペンの上に回動可能に軸止されたジャックの突き上げ部の突端が、ハンマーのバットの被突き上げ部を突き上げ、当該ハンマーが回動し、当該ハンマーのハンマーヘッドが弦を打弦するとともに、当該ジャックのジャックテールがレギュレーティングボタンに当たり、当該突き上げ部の突端が当該被突き上げ部の下から離脱するアップライトピアノのアクションの作動方法であって、
前記ジャックテールが前記レギュレーティングボタンに当たった状態の前記ジャックの前記突き上げ部に、この前記突き上げ部を前記被突き上げ部の下に押し込むに足りる大きさと方向の力を、ブラケットに固定された第1のレールと、前記突き上げ部とのうちのいずれかに設けた第1のスプリングによって与え、
演奏者が前記鍵を離鍵し、前記ウィッペンが下降しつつ回動し、前記ジャックテールが前記レギュレーティングボタンから離れる際に、前記第1のスプリングの力によって、前記突き上げ部を前記被突き上げ部の下に押し込み、
前記突き上げ部を前記被突き上げ部の下に押し込む際に前記突き上げ部から前記被突き上げ部に働く力を受けて前記弦に向かって回動する前記ハンマーのハンマーウッドとハンマーシャンクと前記バットとのうちのいずれかに、回動する前記ハンマーヘッドが前記弦に触れる前にその回動を停止させるに足りる大きさと方向の力を、前記ブラケットに固定された第2のレールと、前記ハンマーウッドと、前記ハンマーシャンクと、前記バットとのうちのいずれかひとつに設けた第2のスプリングによって与えることを特徴とするアップライトピアノのアクションの作動方法。
【請求項2】
演奏者が鍵を押鍵すると、ウィッペンが上昇しつつ回動し、当該ウィッペンの上に回動可能に軸止されたジャックの突き上げ部の突端が、ハンマーのバットの被突き上げ部を突き上げ、当該ハンマーが回動し、当該ハンマーのハンマーヘッドが弦を打弦するとともに、当該ジャックのジャックテールがレギュレーティングボタンに当たり、当該突き上げ部の突端が当該被突き上げ部の下から離脱するアップライトピアノのアクションであって、
前記ジャックテールが前記レギュレーティングボタンに当たった状態の前記ジャックの前記突き上げ部に、この前記突き上げ部を前記被突き上げ部の下に押し込むに足りる大きさと方向の力を与える第1のスプリングを、ブラケットに固定された第1のレールと、前記突き上げ部とのうちのいずれかに設け、
前記第1のスプリングが前記突き上げ部を前記被突き上げ部の下に押し込む際に前記突き上げ部から前記被突き上げ部に働く力を受けて前記弦に向かって回動する前記ハンマーのハンマーウッドとハンマーシャンクと前記バットとのうちのいずれかに、回動する前記ハンマーヘッドが前記弦に触れる前にその回動を停止させるに足りる大きさと方向の力を与える第2のスプリングを、前記ブラケットに固定された第2のレールと、前記ハンマーウッドと、前記ハンマーシャンクと、前記バットとのうちのいずれかひとつに設けたことを特徴とするアップライトピアノのアクション。
【請求項3】
前記第1のスプリングが、板バネ又は捻りコイルバネであり、
前記第1のスプリングをなす板バネ又は捻りコイルバネから延びて自由端となっている足部が当接する第1の受け部が、前記第1のレールと、前記突き上げ部とのうちの前記第1のスプリングを設けていないものに設けられていることを特徴とする請求項2に記載のアップライトピアノのアクション。
【請求項4】
前記第1のレールと前記突き上げ部とのうちの前記第1の受け部が設けられているものに螺合して貫通する螺子の螺子部先端が、前記第1の受け部を支持していることを特徴とする請求項3に記載のアップライトピアノのアクション。
【請求項5】
前記第2のスプリングが、板バネ又は捻りコイルバネであり、
前記第2のスプリングが、前記ハンマーウッドと、前記ハンマーシャンクと、前記バットとのうちのいずれかに設けられている場合には、前記第2のスプリングをなす板バネ又は捻りコイルバネから延びて自由端となっている足部が当接する第2の受け部が、前記第2のレールに設けられており、
前記第2のスプリングが、前記第2のレールに設けられている場合には、前記第2のスプリングをなす板バネ又は捻りコイルバネから延びて自由端となっている足部が当接する第2の受け部が、前記ハンマーウッドと、前記ハンマーシャンクと、前記バットとのうちのいずれかひとつに設けられていることを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれかの請求項に記載のアップライトピアノのアクション。
【請求項6】
前記第2のレールと、前記ハンマーウッドと、前記ハンマーシャンクと、前記バットとのうちの前記第2の受け部が設けられているものに螺合して貫通する螺子の螺子部先端が、前記第2の受け部を支持していることを特徴とする請求項5に記載のアップライトピアノのアクション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−28147(P2011−28147A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176144(P2009−176144)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【特許番号】特許第4489140号(P4489140)
【特許公報発行日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(509214469)有限会社藤井ピアノサービス (2)