説明

アップライトピアノのアクション

【課題】 単純な構成で、良好なタッチ重さおよびタッチ感が得られるとともに、鍵の連打性を向上させることができるアップライトピアノのアクションを提供する。
【解決手段】 鍵4の押鍵に伴って作動し、ハンマー3を回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクション1であって、ハンマー3に係合し、ウィッペン6の回動に伴い、ハンマー3を突き上げるとともに、当該回動中、ウィッペン6に対して所定ストロークRS、回動したときに、ハンマー3から離脱するジャック7と、ジャック7を、離脱後にハンマー3に係合した状態に復帰させるために付勢するジャックスプリング10,11、31とを備え、ジャックスプリング10,11、31は、ウィッペン6に対するジャック7の回動ストロークが所定ストロークRSを上回っているときには、所定ストロークRSを下回っているときよりも、ばね定数が大きくなるような非線形特性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵の押鍵に伴って作動し、ハンマーを回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアップライトピアノのアクションとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このアクションは、鍵の後端部の上方に設けられており、離鍵状態において鍵の後端部に載置されたウィッペンと、ウィッペンに回動自在に設けられたジャックと、ジャックスプリングと、ウィッペンの上方の所定位置に設けられたレギュレティングボタンとを備えている。また、このアクションには、これらのウィッペンなどの一般的な部品に加え、ハンマーのバットに連結されたレペティションレバーと、レペティションレバーに設けられたスプリングとを有するレペティション機構が付加されている。ジャックは、基部と、基部からほぼ直角に上下方向に延びるハンマー突上げ部とからL字型に形成され、離鍵状態では、ハンマー突上げ部がハンマーのバットに係合するとともに、基部がレギュレティングボタンに下方から対向している。ジャックスプリングは、ジャックの基部とウィッペンの間に設けられている。
【0003】
このようなアップライトピアノの鍵を押鍵すると、ウィッペンが、鍵の後端部に突き上げられることによって、ジャックとともに上方に回動する。それにより、ハンマーがジャックによって突き上げられ、ハンマーは、鉛直に張られた後方の弦に向かって回動する。そして、ジャックが、レギュレティングボタンに当接することによって、ジャックスプリングの付勢力に抗してウィッペンに対して回動することで、ハンマーから外れる結果、ハンマーが慣性で回動し、弦を打弦する。この打弦の後、ハンマーは、バットスプリングの付勢力によって弦と逆側に回動し、バックチェックに支持される。
【0004】
さらに、押鍵が終了し、鍵がわずかに戻されると、ウィッペンおよびジャックが押鍵時と逆方向に回動するのに伴い、スプリングの付勢力がレペティションレバーを介してハンマーに作用することによって、ハンマーが弦側に若干、回動する。さらに鍵を戻すと、ウィッペンおよびジャックが押鍵時と逆方向にさらに回動することによって、ジャックとレギュレティングボタンとの当接が解かれる。その結果、ジャックが、ジャックスプリングの付勢力により、ウィッペンに対して元の位置に復帰回動して、ハンマーに係合し、ハンマーの突き上げが可能な状態に戻る。
【0005】
以上のように、上記のアクションでは、ウィッペンなどの一般的な部品に加え、レペティション機構が付加されているため、その構成が非常に複雑であり、その分、製造コストが高くならざるを得ない。また、離鍵時に、スプリングの付勢力をレペティションレバーを介して伝達することによってハンマーを弦側に回動させるので、この回動に伴ってハンマーが再度、打弦を行わないように、スプリングの付勢力やレペティションレバーとハンマーとの位置関係などをきめ細かく調整する必要があり、その調整作業が非常に難しい。
【0006】
さらに、上述したようなアクションでは、トリルを行うときのように同じ鍵を速く連打する場合に、それに対応させてハンマーに打弦を行わせるためには、ジャックが押鍵の終了後に元の位置に速やかに復帰し、ハンマーに係合することが必要である。しかし、上述したようにジャックスプリングの付勢力によってジャックを復帰させるので、この付勢力が不足すると、復帰動作が遅れる場合があり、その場合には、ジャックが鍵の動作に良好に追随できず、演奏者の意図に合った演奏ができないおそれがある。
【0007】
このため、このような不具合を解消すべく、ジャックを速やかに復帰させるために、ジャックスプリングの付勢力を増大させることが考えられる。しかし、ジャックスプリングの付勢力は、押鍵時にウィッペンを介して鍵に反力として作用するので、この付勢力を増大させると、鍵の静的荷重が大きくなり、良好なタッチ重さが得られない。また、同じ理由により、ジャックスプリングの付勢力が増大すると、ばねを変形させるようなタッチ感になり、タッチ感を損ねてしまう。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、単純な構成で、良好なタッチ重さおよびタッチ感を得ることができるとともに、鍵の連打性を向上させることができるアップライトピアノのアクションを提供することを目的とする。
【0009】
【特許文献1】特開平6−83326号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、 鍵の押鍵に伴って作動し、ハンマーを回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションであって、鍵の押鍵時に、鍵で突き上げられることによって上方に回動するウィッペンと、ウィッペンの上方の所定位置に設けられたレギュレティングボタンと、ウィッペンに回動自在に設けられ、ハンマーに係合し、ウィッペンの回動に伴ってハンマーを突き上げるとともに、当該回動中、レギュレティングボタンに当接することによって、ウィッペンに対して所定ストローク、回動したときにハンマーから離脱するジャックと、ジャックとウィッペンの間に設けられ、ジャックを、前記離脱後にハンマーに係合した状態に復帰させるためにハンマー側に付勢するジャックスプリングと、を備え、ジャックスプリングは、ウィッペンに対するジャックの回動ストロークが所定ストロークを上回っているときには、所定ストロークを下回っているときよりも、ばね定数が大きくなるような非線形特性を有することを特徴とする。
【0011】
このアップライトピアノのアクションによれば、静止状態では、ジャックがハンマーに係合しており、この状態から鍵が押鍵されると、ウィッペンが鍵で突き上げられることによって、ウィッペン、およびウィッペンに設けられたジャックがともに上方に回動する。それにより、ハンマーは、ジャックにより突き上げられることによって回動する。また、このウィッペンおよびジャックの回動中、ジャックが、レギュレティングボタンに当接することによって、ウィッペンに対して所定ストローク、回動したときに、ハンマーから離脱する。その結果、ハンマーは、慣性で回動し、打弦を行う。さらに、ハンマーから離脱したジャックは、ウィッペンとジャックの間に設けられたジャックスプリングに付勢されることによって、復帰回動して、ハンマーに係合し、ハンマーの突き上げが可能な状態に戻る。
【0012】
また、上記のジャックスプリングは、ウィッペンに対するジャックの回動ストロークが上記の所定ストロークを上回っているときには、所定ストロークを下回っているときよりも、そのばね定数が大きくなるような非線形特性を有している。このようなばね定数の設定により、ジャックの回動ストロークが所定ストロークを上回っており、ジャックがハンマーから離脱しているときに、ジャックスプリングのより大きな付勢力が得られるので、ジャックをより素早く復帰させ、ハンマーに係合させることができる。したがって、例えばトリルを行う場合のように同じ鍵が連続的に速く押鍵された場合でも、ジャックの動作を鍵の動作に遅れることなく確実に追随させることができ、鍵の連打性を向上させることができる。
【0013】
さらに、ジャックの回動ストロークが所定ストロークを下回っていて、ジャックがハンマーから離脱するまでの間、すなわち鍵が完全に押しきられる直前までの間は、ジャックスプリングの付勢力が小さいので、この間におけるウィッペンへのジャックスプリングの反力を抑えることができる。これにより、鍵の静的荷重へのジャックスプリングの影響を抑制できるので、良好なタッチ重さを得ることができる。また、鍵に反力として作用するジャックスプリングの付勢力を抑制できるので、良好なタッチ感を得ることができる。以上のように、上述した効果を、ジャックの回動ストロークに応じた非線形なばね定数を有するジャックスプリングを用いるという単純な構成によって得ることができる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアップライトピアノのアクションにおいて、ジャックスプリングは、単一の非線形特性ばねによって構成されていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、ジャックスプリングとして、荷重とたわみとの関係が直線でない単一の非線形特性ばねを用いるので、非常に単純かつコンパクトな構成によって、アクションの部品点数の増加、およびそれによるコストの増加を招くことなく、請求項1の効果を同様に得ることができる。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載のアップライトピアノのアクションにおいて、ジャックスプリングは、ウィッペンに対するジャックの回動ストロークの全体にわたってジャックを付勢する第1スプリングと、ジャックの回動ストロークが所定ストロークを上回ったときに、ジャックを付勢する第2スプリングとを有することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、ジャックのハンマー側への付勢が、第1スプリングによりジャックの回動ストロークの全体にわたって行われ、ジャックの回動ストロークが所定ストロークを上回ったときに第1スプリングおよび第2スプリングの双方によって行われる。したがって、既存の第1スプリングに第2スプリングを付加するという単純な構成によって、請求項1の効果を同様に得ることができる。また、第1および第2のスプリングの双方によってジャックに作用する付勢力を調整することができるので、第1スプリングのみで調整する場合と比較して、第1および第2のスプリング全体としての付勢力の大きさを、きめ細かく容易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態によるアップライトピアノのアクション1、鍵盤2およびハンマー3などを、静止状態において示している。なお、同図を含む実施形態を説明するための図では、便宜上、ハッチングを省略するものとする。この鍵盤2は、左右方向(図1の奥行方向)に並んだ多数の鍵4(1つのみ図示)によって構成されており、各鍵4は、前後方向(図1の右側を前側とする)のほぼ中央において、筬5に揺動自在に支持されている。
【0019】
アクション1は、鍵盤2の後端部の上方において、筬5の左右端部にそれぞれ設けられた左右のブラケット(いずれも図示せず)に取り付けられ、両ブラケットの間に延びるように設けられている。アクション1は、ウィッペン6やジャック7を有していて、これらは、鍵4ごとに設けられている(ともに1つのみ図示)。また、左右のブラケットの間には、センターレール15およびハンマーレール16などが渡されている。
【0020】
ウィッペン6は、例えば合成樹脂によって所定の形状に形成されており、その前部から下方に延びるヒール部6aを有していて、対応する鍵4の上面後端部に設けられたキャプスタンボタン4aに、ヒール部6aを介して載置されている。また、ウィッペン6の上面前端部には、バックチェックワイヤ8aが立設されていて、その先端部にバックチェック8が取り付けられている。さらに、ウィッペン6の上面後端部には、後述するダンパー21を駆動するためのスプーン9が立設されている。また、このスプーン9のすぐ前方は、ウィッペンフレンジ6bの下部に回動自在に取り付けられており、このウィッペンフレンジ6bは、その上部において上記のセンターレール15に固定されている。これにより、ウィッペン6が回動自在になっている。
【0021】
ジャック7は、例えば合成樹脂によってL字形に形成されており、図2に示すように、前後方向に延びる基部7aと、基部7aの後端部から上方に延びる、基部7aよりも長いハンマー突上げ部7bを有している。また、ジャック7は、例えば射出成形によって一体成形されており、その基部7aとハンマー突上げ部7bとの角部において、ウィッペン6のバックチェックワイヤ8aよりも後方の位置に回動自在に取り付けられている。
【0022】
さらに、ジャック7の基部7aとウィッペン6の間には、後ろ側から順に、第1スプリング10および第2スプリング11が設けられており、これらの第1および第2のスプリング10,11によってジャックスプリングが構成されている。第1および第2のスプリング10,11は、押鍵時に、後述するようにジャック7を復帰回動させるために付勢するものであり、線形特性を有するコイルばねで構成されている。第1スプリング10は、通常のアクションのジャックスプリングと同じ長さと概ね同等のばね定数を有しており、基部7aの下面およびウィッペン6の上面に当接している。第2スプリング11は、第1スプリング10よりも短い所定の長さと第1スプリング10よりも大きな所定のばね定数を有しており、下端部においてウィッペン6の上面に取り付けられるとともに、静止状態では、基部7aの下面に所定の間隔を隔てて対向している。
【0023】
ジャック7の基部7aの上方には、レギュレティングボタン17が設けられている。このレギュレティングボタン17は、センターレール15に設けられた複数のレギュレティングブラケット18(1つのみ図示)と、その前端部に取り付けられ、左右方向に延びるレギュレティングレール19を介して、鍵4ごとに設けられている。
【0024】
ハンマー3は、バット3a、ハンマーシャンク3b、およびハンマーヘッド3cを有している。バット3aは、その下端部において、バットフレンジ3dの上部に回動自在に取り付けられており、このバットフレンジ3dは、その下部においてセンターレール15に固定されている。これにより、ハンマー3が回動自在になっている。ハンマーシャンク3bは、バット3aの上面に立設されており、その上端部にハンマーヘッド3cが取り付けられていて、静止状態では、ハンマーシャンク3bがハンマーレール16に後方から当接し、ハンマーヘッド3cが鉛直に張られた後方の弦Sに対向している。また、バット3aの前面には、キャッチャー3eが取り付けられており、キャッチャー3eは、前述したバックチェック8の後方に位置し、これと対向している。さらに、バット3aには、バットスプリング3fが設けられており、これにより、ハンマー3が図1の時計回りに付勢されている。また、静止状態では、前述したジャック7のハンマー突上げ部7bがバット3aに下方から係合している。
【0025】
さらに、アクション1の後方には、ダンパー21が鍵4ごとに設けられている(1つのみ図示)。ダンパー21は、ダンパーフレンジ21aを介してセンターレール15に回動自在に取り付けられたダンパーレバー21bと、ダンパーレバー21bの上側にダンパーワイヤ21cを介して取り付けられたダンパーヘッド21dと、ダンパーヘッド21dを弦S側に付勢するダンパーレバースプリング21eなどで構成されている。このダンパー21は、離鍵時に、ダンパーレバースプリング21eの付勢力によって、ダンパヘッド21dが弦Sに当接することにより止音するためのものである。また、ダンパー21は、ダンパーペダル(図示せず)に連結されており、演奏時にダンパーペダルが踏み込まれると、ダンパーヘッド21dが弦Sから離れた状態に保持されることによって、演奏音にダンパーペダル効果が付与される。
【0026】
次に、上述したアクション1およびハンマー3などの押鍵の開始から終了までの一連の動作について説明する。演奏者により静止状態の鍵4が押鍵されると、鍵4は、図1の時計回りに回動し、その後端部に載置されたウィッペン6は、鍵4によって突き上げられることにより、上方(反時計回り)に回動する。このウィッペン6の回動に伴い、ウィッペン6に設けられたジャック7がともに上方に移動し、ハンマー3は、ジャック7のハンマー突上げ部7bによって突き上げられることにより、後方の弦Sに向かって反時計回りに回動する。
【0027】
そして、ウィッペン6が所定角度、回動したときに、ジャック7の基部7aの前端部が、レギュレティングボタン17に下方から当接する。ウィッペン6がさらに回動するのに従い、ジャック7は、レギュレティングボタン17によって上方への移動が規制されることにより、ウィッペン6に対して時計回りに回動する。この回動に伴って、ジャック7とウィッペン6の間の第1スプリング10が圧縮されるので、ジャック7が第1スプリング10によって反時計回りに、すなわち復帰方向に付勢される。
【0028】
押鍵がさらに進むのに伴い、ジャック7がレギュレティングボタン17に当接した状態でさらに時計回りに回動し、第1スプリング10がさらに圧縮される。そして、鍵4が完全に押しきられる直前で、ウィッペン6に対するジャック7の回動ストローク(以下、単に「回動ストローク」という)が所定ストロークRS(図3(a)参照)に達したときに、ハンマー突上げ部7bがバット3aから前方に外れ、ジャック7がハンマー3から離脱する。これにより、鍵4のタッチ重さからハンマー3の重量分が急激に失われることにより、演奏者にレットオフ感が付与される。また、このジャック7の離脱によって、ハンマー3は、慣性で回動し、弦Sを打弦することによって、演奏音を発生させる。そして、ハンマー3は、バットスプリング3fの付勢力によって時計回りに復帰回動し、キャッチャー3eがバックチェック8に係止されることで、その動作が一旦、停止する。
【0029】
さらに、図3(a)に示すように、回動ストロークが所定ストロークRSになり、ジャック7がハンマー3から離脱したときに、ジャック7の基部7aが、ジャック7とウィッペン6の間の第2スプリング11に当接する。また、鍵4が完全に押しきられるのに伴い、図3(b)に示すように、回動ストロークが所定ストロークRSよりも大きくなると、第1スプリング10に加えて、第2スプリング11も圧縮される。その結果、第1および第2のスプリング10,11によって、ジャック7が復帰方向に付勢される。以上のように、第1スプリング10は、ジャック7の回動ストロークの全体にわたってジャック7を付勢し、第2スプリング11は、ジャック7の回動ストロークが所定ストロークRSを超えてからジャック7を付勢する。
【0030】
そして、押鍵が終了し、鍵4が離鍵されると、鍵4およびウィッペン6は、押鍵時とは逆方向にそれぞれ回動する。これに伴い、ジャック7は、第1および第2のスプリング10,11の付勢力によって離鍵時の元の位置に復帰する。また、ウィッペン6の復帰回動によりバックチェック8がキャッチャー3eから離れることによって、ハンマーシャンク3bがハンマーレール16に当接するとともに、バット3aがジャック7のハンマー突上げ部7bに係合し、ハンマー3が静止状態に復帰する。以上のように、ウィッペン6、鍵4およびハンマー3が元の静止状態に復帰することによって、押鍵時および離鍵時の一連の動作が終了する。
【0031】
図4は、上述したアクション1における回動ストロークとジャック7を復帰方向に付勢する力(以下「復帰付勢力」という)Fとの関係を、比較例とともに示している。図4(a)に示す比較例は、ジャックスプリングとして、通常のアクションで用いられる単一のコイルばねを用いた例を示している。同図に示すように、比較例では、復帰付勢力F’は、回動ストロークが鍵4が完全に押しきられたときの回動ストロークに相当する最大ストローク値RSMAXになるまでリニアに増加し、最大ストローク値RSMAXのときに最大値F’MAXになっている。
【0032】
これに対して、図4(b)に示すように、上述したアクション1における復帰付勢力Fは、回動ストローク≦所定ストロークRSで、ジャック7がハンマー3から離脱するまでの間は、第1スプリング10の付勢力のみが作用することによって、回動ストロークに対して上述した比較例と同じ傾きで増加する。また、回動ストローク>所定ストロークRSで、ジャック7がハンマー3から離脱した後には、上述した比較例と異なり、第1スプリング10に加えてばね定数の大きな第2スプリング11の付勢力が作用することによって、復帰付勢力Fはより大きな傾きで増加する。その結果、回動ストロークが最大ストローク値RSMAXのときに、最大値F’MAXよりも大きな最大値FMAXになっている。したがって、ジャック7を離鍵時の元の位置に、鍵4およびウィッペン6が静止状態に復帰するよりも早く復帰させることができる。
【0033】
これにより、例えば、トリルを行う場合のように鍵4が静止状態に完全に復帰する前に再度、押鍵される場合に、ジャック7を、鍵4の動作に遅れることなく追随させ、再度の押鍵のときに、ハンマー3の突上げ可能な位置に復帰させることができる。したがって、鍵4の連打性を向上させることができる。また、回動ストローク≦所定ストロークRSで、ジャック7がハンマー3から離脱するまでの間、すなわち鍵4が完全に押しきられる直前までの間は、ジャックスプリングの付勢力が小さいので、この間におけるウィッペン6へのジャックスプリングの反力を抑えることができる。これにより、鍵4の静的荷重へのジャックスプリングの影響を抑制できるので、良好なタッチ重さを得ることができる。また、鍵4に反力として作用するジャックスプリングの付勢力を抑制できるので、良好なタッチ感を得ることができる。以上のように、これらの効果を、既存の第1スプリング10に第2スプリング11を付加するという単純な構成によって得ることができる。
【0034】
さらに、第1および第2のスプリング10,11の双方によりジャック7を付勢するので、例えば、ばね定数の小さな第1スプリング10の付勢力を調整することによって、第1および第2のスプリング10,11全体の付勢力を、きめ細かく容易に調整することができる。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態によるアクションについて説明する。このアクションは、基本的に第1実施形態のアクション1と同様の構成を有しており、ジャックスプリング31の構成のみが異なるので、以下、共通する構成要素については同じ符号を用い、第1実施形態との相違点を中心として説明する。
【0036】
図5に示すように、ジャックスプリング31は、第1実施形態と異なり、単一の非線形特性ばね、例えば線材の径が一定の円すいコイルばねによって構成されており、上方に向かってテーパ状に形成されている。また、ジャックスプリング31は、ジャック7の基部7aの下面およびウィッペン6の上面に当接している。さらに、図6に示すように、ジャックスプリング31のばね定数は、回動ストローク>所定ストロークRSのときに、回動ストローク≦所定ストロークRSのときよりもより大きくなるように設定されている。
【0037】
これにより、ジャック7がハンマー3から離脱しているときに、ジャックスプリング31のより大きな付勢力が得られるので、ジャック7を離鍵時の元の位置に、鍵4およびウィッペン6が静止状態に復帰するよりも早く復帰させることができる。また、ジャック7がハンマー3から離脱するまでの間は、ジャックスプリング31の付勢力が小さいので、鍵4が完全に押しきられる直前までの間におけるウィッペン6へのジャックスプリング31の反力を抑えることができる。以上のように、単一のジャックスプリング31という非常に単純かつコンパクトな構成によって、アクション1の部品点数の増加、およびそれによるコストの増加を招くことなく、第1実施形態の効果を同様に得ることができる。
【0038】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1実施形態では、ジャックスプリングとして第1および第2のスプリング10,11を用いたが、このスプリングの数は、これに限らず、例えば、ジャックのより高い復帰特性を得たい場合には、3つ以上としてもよい。また、第1実施形態では、第2スプリング11をウィッペン6に取り付けたが、ジャック7に取り付けてもよい。さらに、第1実施形態では、第2スプリング11を第1スプリング10よりも前側に設けたが、両者を前後逆に配置してもよく、また、互いに径の異なる第1および第2のスプリング10,11を同心状に配置してもよい。
【0039】
また、第2実施形態では、ジャックスプリング31を、円すいコイルばねによって構成したが、非線形特性ばねであれば、これに限らず他のもの、例えば、不等ピッチコイルばねやテーパコイルばねによって構成してもよいことは勿論である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態によるアクションなどを静止状態において示す側面図である。
【図2】図1のアクションのジャックなどを静止状態において示す部分拡大図である。
【図3】図1のアクションのジャックの回動ストロークと第1および第2のスプリングとの動作の関係を、回動ストロークが、(a)所定ストロークのとき、(b)所定ストロークよりも大きいときにおいて示す図である。
【図4】ジャックの回動ストロークと復帰付勢力との関係を、(a)比較例、(b)実施形態について示す図である。
【図5】第2実施形態によるアクションのジャックなどを静止状態において示す側面図である。
【図6】第2実施形態のジャックスプリングのジャックの回動ストロークと復帰付勢力との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 アクション
3 ハンマー
4 鍵
6 ウィッペン
7 ジャック
10 第1スプリング(ジャックスプリング)
11 第2スプリング(ジャックスプリング)
17 レギュレティングボタン
31 ジャックスプリング
RS 所定ストローク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の押鍵に伴って作動し、ハンマーを回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションであって、
前記鍵の押鍵時に、当該鍵で突き上げられることによって上方に回動するウィッペンと、
当該ウィッペンの上方の所定位置に設けられたレギュレティングボタンと、
前記ウィッペンに回動自在に設けられ、前記ハンマーに係合し、前記ウィッペンの回動に伴って前記ハンマーを突き上げるとともに、当該回動中、前記レギュレティングボタンに当接することによって、前記ウィッペンに対して所定ストローク、回動したときに前記ハンマーから離脱するジャックと、
当該ジャックと前記ウィッペンの間に設けられ、前記ジャックを、前記離脱後に前記ハンマーに係合した状態に復帰させるために当該ハンマー側に付勢するジャックスプリングと、を備え、
当該ジャックスプリングは、前記ウィッペンに対する前記ジャックの回動ストロークが前記所定ストロークを上回っているときには、当該所定ストロークを下回っているときよりも、ばね定数が大きくなるような非線形特性を有することを特徴とするアップライトピアノのアクション。
【請求項2】
前記ジャックスプリングは、単一の非線形特性ばねによって構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のアップライトピアノのアクション。
【請求項3】
前記ジャックスプリングは、前記ウィッペンに対する前記ジャックの回動ストロークの全体にわたって前記ジャックを付勢する第1スプリングと、前記ジャックの回動ストロークが前記所定ストロークを上回ったときに、前記ジャックを付勢する第2スプリングとを有することを特徴とする、請求項1に記載のアップライトピアノのアクション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−201503(P2006−201503A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13226(P2005−13226)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)