説明

アップライトピアノのアクション

【課題】 鍵の連打性を向上させ、深いストローク位置からでも連打による演奏を行うことができるアップライトピアノのアクションを提供する。
【解決手段】 押鍵に伴い、ハンマー3を回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクション1であって、鍵4の離鍵状態において、ハンマー3のバットに係合位置で係合するジャック7と、ジャック7から上方に延びるジャック側係合部30と、ジャック側係合部30に前方から対向するようにキャッチャー23から下方に延びるキャッチャー側係合部32と、を備え、キャッチャー側係合部32およびジャック側係合部30の少なくとも一方は板ばねで構成され、打弦後に復帰回動するハンマー3がバックチェック9に係止されたときに、ジャック側係合部30にキャッチャー側係合部32が係合することによって、ジャック7を係合位置側に付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵の押鍵に伴って作動し、ハンマーを回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、トリルを行う場合のように、鍵を連続して押鍵(連打)するときには、鍵が完全に離鍵状態に戻る前に、再度、押鍵することが繰り返される。しかし、このような鍵の連打を行った場合、アップライトピアノでは、以下に述べる理由から、演奏者の意図どおりの演奏を行えないことがある。
【0003】
すなわち、連打以外の通常の押鍵の場合には、それに伴い、ハンマーは、その下端部のバットが、ウィッペンとともに回動するジャックの上端部によって突き上げられることにより回動する。ジャックは、押鍵の途中で、レギュレティングボタンによってウィッペンに対して回動させられることによりバットから離脱し、その直後に、ハンマーは弦を打弦することにより演奏音を発生させる。打弦後には、ジャックおよびハンマーは、押鍵時とはそれぞれ逆方向に回動し、さらに鍵が離鍵されることによって、ジャックの上端部がバットに係合した初期状態に復帰する。
【0004】
これに対し、鍵を連打する場合には、ハンマーが、ジャックよりも早く復帰回動してしまい、それにより、ジャックがバットの側面に当接した状態になり、バットがジャックの復帰回動を妨げることがある。その場合、鍵をかなり戻さない限り、ウィッペンとともに回動するジャックの上端部がバットの下側に入り込むことができず、ジャックおよびバットを初期状態に復帰させることができないため、鍵を連打しても、ハンマーを適正に駆動できず、打弦が行えない。
【0005】
このような不具合を解消するための従来のアップライトピアノのアクションとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このアクションは、通常のアップライトピアノのアクションと同様、鍵の押鍵に伴って回動するウィッペンと、ウィッペンに回動自在に取り付けられたジャックと、ウィッペンのジャックよりも前側に立設されたバックチェックワイヤを介して設けられたバックチェックと、離鍵状態において下端部にジャックの上端部が係合し、ジャックにより突き上げられ、打弦することによって演奏音を発生させるハンマーなどを備えている。また、ジャックとバックチェックワイヤの間には、押鍵時にジャックに係合し、ハンマーから離脱させるためのレギュレティングボタンが設けられている。また、ハンマーは、ジャックが係合するバット、およびその前面にキャッチャーシャンクを介して設けられたキャッチャーなどを有している。
【0006】
ジャックは、上下方向に延びるハンマー突上げ部を有しており、その上端においてバットに係合している。このハンマー突上げ部の前面の上端部には、板ばねで構成された弾性部材が取り付けられており、この弾性部材は、離鍵状態において、ハンマー突上げ部から斜め上方に延び、キャッチャーの手前で斜め下方に折り曲げられ、キャッチャーの下端まで延びており、上面の前端部がキャッチャーの下面に当接している。
【0007】
以上のようなアクションによれば、通常のアクションと同様、鍵の押鍵に伴い、ハンマーは、ジャックがバットから離脱した状態で弦を打弦するとともに、その後、弦の反発力により、押鍵時と反対方向に復帰回動し、バックチェックにより係止される。この状態から鍵を離鍵すると、ハンマーの係止状態が解除され、復帰回動を再開したハンマーのキャッチャーは、ジャックの弾性部材の前端部に当接するとともに弾性部材を押圧し、これを弾性変形させる。その際、弾性部材が前述したように折り曲げられていることにより、キャッチャーによる下方への押圧によって生じた弾性部材の付勢力の一部が、ジャックを復帰回動させる方向にハンマー突上げ部に作用するので、ジャックが復帰回動し、その上端部がバットに係合した状態に復帰する。以上のように、鍵が離鍵され、元の位置に戻る途中において、ジャックを、弾性部材の付勢力によって速やかにバットに係合させるので、鍵が離鍵状態に完全に復帰する前に、次の押鍵による打弦が可能な状態にすることができる。
【0008】
しかし、上述した特許文献1のアクションには、以下のような問題がある。すなわち、ハンマーが係止された状態では、キャッチャーは弾性部材に当接していない。このため、鍵が離鍵されても、キャッチャーが弾性部材に当接し、これを押圧するまでの間、ジャックに弾性部材の付勢力が作用しないので、その分、ジャックが復帰回動を開始するタイミングが遅くなり、それに伴い、復帰回動のタイミングも遅くなるおそれがある。したがって、例えば、鍵がわずかに戻された深いストローク位置にあるところでの押鍵を繰り返すような連打を行う場合、ジャックがバットに係合するタイミングが押鍵よりも遅れ、その場合、押鍵したとしてもハンマーを適正に駆動できず、連打による演奏が行えないおそれがある。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、鍵の連打性を向上させ、深いストローク位置からでも連打による演奏を行うことができるアップライトピアノのアクションを提供することを目的としている。
を提供する。。
【0010】
【特許文献1】特開昭54−27418号公報 (第5頁、第2,3図)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、鍵の押鍵に伴って作動し、バットおよびキャッチャーを有するハンマーを回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションであって、鍵の押鍵時に、鍵で突き上げられることによって上方に回動するウィッペンと、上下方向に延び、ウィッペンに回動自在に設けられ、ハンマーを突き上げるためにバットの下面に係合する係合位置と、バットから外れた離脱位置とに回動するジャックと、鍵の押鍵に伴うハンマーの回動中に、ジャックに係合し、ジャックをウィッペンに対して離脱位置側に回動させることにより、ジャックをバットから離脱させるレギュレティングボタンと、ウィッペンに設けられ、打弦後に復帰回動するハンマーを、復帰回動の途中でキャッチャーを介して係止するバックチェックと、ジャックに設けられ、上方に延びるジャック側係合部と、キャッチャーに設けられ、鍵の離鍵状態において、ジャック側係合部に前方から対向するように下方に延びるキャッチャー側係合部と、を備え、キャッチャー側係合部およびジャック側係合部の少なくとも一方は板ばねで構成され、ハンマーがバックチェックに係止されたときに、ジャック側係合部にキャッチャー側係合部が係合することによって、ジャックを係合位置側に付勢することを特徴とする。
【0012】
このアップライトピアノのアクションによれば、離鍵状態の鍵を押鍵すると、ウィッペンが、鍵によって突き上げられることにより上方に回動する。その際、ウィッペンに設けられたジャックおよびバックチェックが、ウィッペンと一緒に上方に移動し、ジャックは、ハンマーを突き上げることにより回動させる。このハンマーの回動中に、ジャックが、レギュレティングボタンに係合し、ウィッペンに対して回動することによってハンマーから離脱し、その後、ハンマーは、慣性により回動を続け、弦を打弦することによって演奏音が発生する。
【0013】
弦を打弦したハンマーは、弦の反発力によって押鍵時とは逆方向に復帰回動し、その途中の係止位置で、バックチェックがハンマーを係止する(以下「バックストップ」という)。それにより、ハンマーのリバウンドが防止されるとともに復帰回動が一旦、停止される。また、ハンマーがバックストップされる際、キャッチャーから下方に延びるキャッチャー側係合部が、ジャックから上方に延びるジャック側係合部に係合する。キャッチャー側係合部は、離鍵状態においては、ジャック側係合部に前方から対向しており、両係合部の少なくとも一方が板ばねで構成されていることにより、ジャックは、板ばねの付勢力によって係合位置側に付勢された状態になる。
【0014】
この状態から鍵が離鍵されると、バックチェックがウィッペンと一緒に下方に移動するのに伴い、ハンマーは係止状態が解除されて復帰回動を再開しようとする。また、ジャックもウィッペンと一緒に下降するので、ジャックは、レギュレティングボタンから離れ、板ばねの付勢力によって係合位置側に復帰回動を開始する。それにより、ジャックがハンマーの下方に速やかに入り込み、バットの下面に係合した状態に復帰することによって、再度の押鍵が可能な状態になるとともに、ハンマーの復帰回動が再開される。
【0015】
以上のように、このアクションは、ハンマーが係止されたときには、ジャックに係合位置側への付勢力が作用した状態に維持され、鍵が離鍵された直後に、ジャックは、板ばねの付勢力によって速やかに復帰回動するので、ハンマーの復帰回動が再開するよりも早いタイミングでハンマーの下方に入り込むことができる。それにより、ジャックは、バットに妨げられることなくその下面に係合した状態に復帰することができる。したがって、例えばトリルを行う場合のように、同じ鍵が連続的に速く押鍵された場合であっても、また、深いストローク位置からの連打であっても、ジャックの動作を鍵の動作に遅れることなく確実に追随させることができるので、鍵の連打性を向上させることができる。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアップライトピアノのアクションにおいて、キャッチャー側係合部およびジャック側係合部の双方が板ばねで構成されていることを特徴とする。
【0017】
このアップライトピアノのアクションによれば、キャッチャー側係合部およびジャック側係合部が、ともに板ばねで構成されているので、ハンマーがバックストップされ、キャッチャー側係合部がジャック側係合部に係合した状態では、両係合部は、それぞれ撓むことによって互いに密着し、面接触することができ、ジャックは、両係合部の付勢力により、係合位置側に付勢された状態になる。これにより、両係合部の付勢力が確実にジャックに作用するので、鍵が離鍵されたときに、ジャックを確実かつ速やかに復帰回動させることができ、鍵の連打性を確実に向上させることができる。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のアップライトピアノのアクションにおいて、ジャック側係合部およびキャッチャー側係合部の少なくとも一方には緩衝材が設けられており、キャッチャー側係合部は、緩衝材を介してジャック側係合部に係合することを特徴とする。
【0019】
このアップライトピアノのアクションによれば、ハンマーがバックストップされたときに、キャッチャー側係合部は、両係合部の少なくとも一方に設けられた緩衝材を介して、ジャック側係合部に係合する。それにより、両係合部が互いに係合したときに発生する雑音を抑制することができる。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のアップライトピアノのアクションにおいて、緩衝材は、ジャック側係合部およびキャッチャー側係合部の双方に設けられ、皮革により構成されていることを特徴とする。
【0021】
このアップライトピアノのアクションによれば、ジャック側係合部およびキャッチャー側係合部の双方に、皮革で構成された緩衝材が設けられており、鍵が押鍵されたときに、両係合部は、両緩衝材を介して互いに係合する。それにより、両係合部が係合したときに生じる雑音を抑制することができる。また、両係合部の緩衝材はともに皮革で構成されていることと、ジャックに作用する板ばねの付勢力の反力がキャッチャーに作用することによって、ハンマーがバックストップされたときに緩衝材間に発生する摩擦力を、ハンマーをバックストップさせるための力として効果的に作用させることができる。すなわち、既存のバックチェックに加え、緩衝材間の摩擦力が作用することにより、ハンマーを係止位置に安定してバックストップさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1および2は、本発明によるアップライトピアノのアクション1、鍵盤2およびハンマー3などを、離鍵状態において示している。なお、以下の説明では、演奏者側から見たときのアップライトピアノの手前側を「前」、奥側を「後」として説明する。鍵盤2は、左右方向(図1の奥行方向)に並んだ多数の鍵4(1つのみ図示)によって構成されており、各鍵4は、前後方向(図1の左右方向)のほぼ中央において、筬5に立設されたバランスピン5aに揺動自在に支持されている。
【0023】
アクション1は、鍵盤2の後端部の上方において、筬5の左右端部にそれぞれ設けたブラケット(図示せず)に取り付けられ、両ブラケットの間に設けられている。アクション1は、ウィッペン6やジャック7などを有していて、これらは、鍵4ごとに設けられている(ともに1つのみ図示)。左右のブラケットの間には、センターレール16およびハンマーレール17などが渡されており、このセンターレール16に鍵4ごとにねじ止めされたウィッペンフレンジ12およびバットフレンジ24に、ウィッペン6が後端部において、ハンマー3が下端部において、それぞれ回動自在に取り付けられている。
【0024】
ウィッペン6は、例えば、合成樹脂や木材によって所定の形状に形成されており、その前部から下方に突出するヒール部6aを有していて、対応する鍵4の上面後端部に設けたキャプスタンボタン4aに、ヒール部6aを介して載置されている。また、ウィッペン6の上面前端部には、バックチェックワイヤ9aが立設されていて、その先端部にバックチェック9が取り付けられている。また、ウィッペン6の上面後端部には、後述するダンパー25を駆動するためのスプーン11が立設されている。また、このスプーン11のすぐ前方には、前述したウィッペンフレンジ12が配置されており、このウィッペンフレンジ12の上部が、センターレール16に固定されている。
【0025】
ジャック7は、例えば、合成樹脂により構成されており、射出成形によって一体成形されている。また、図2に示すように、ジャック7は、前後方向に延びる基部7aと、基部7aの後端部から上方に延びるハンマー突上げ部7bを有している。ハンマー突上げ部7bの中央よりも若干、上側の部分には、ジャック側板ばね30(ジャック側係合部)が取り付けられている。
【0026】
ハンマー突上げ部7bの前面には、斜めにスリット(図示せず)が形成されており、このスリットにジャック側板ばね30の下端部が挿入され、例えば接着により固定されている。このジャック側板ばね30は、ハンマー突上げ部7bから上方に延びており、その上部がほぼ鉛直に延びるように撓んでいる。また、上部の前面には、ジャック側緩衝材31(緩衝材)が貼り付けられており、このジャック側緩衝材31は、例えば皮革により構成されている。
【0027】
このようなジャック7は、その基部7aとハンマ突上げ部7bとの角部において、ウィッペン6のバックチェックワイヤ9aよりも後方の位置に回動自在に取り付けられている。また、基部7aとウィッペン6の間には、ジャックスプリング10が取り付けられている。このジャックスプリング10は、コイルばねで構成され、押鍵時に、後述するようにジャック7を付勢するためのものであり、所定のばね力を有している。
【0028】
ジャック7の基部7aの上方には、レギュレティングボタン13が設けられている。このレギュレティングボタン13は、センターレール16に設けられた複数のレギュレティングブラケット14と、その前端部に取り付けられ、左右方向に延びるレギュレティングレール15とを介して、鍵4ごとに設けられている(1つのみ図示)。
【0029】
ハンマー3は、バット20、ハンマーシャンク21、およびハンマーヘッド22などを有している。バット20は、その下端部において、前述したバットフレンジ24に回動自在に取り付けられており、それにより、ハンマー3が回動自在になっている。また、バットフレンジ24は、その下端部においてセンターレール16に固定されている。ハンマーシャンク21は、バット20に立設されており、その上端部にハンマーヘッド22が取り付けられていて、図1に示す離鍵状態では、ハンマーシャンク21がハンマーレール17に後方から当接し、ハンマーヘッド22が鉛直に張られた後方の弦Sに対向している。また、バット20の前面には、キャッチャー23が設けられている。このキャッチャー23は、棒状に形成され、バックチェック9に向かって延びるキャッチャーシャンク23aと、その前端部に取り付けられたキャッチャー本体23bを有している。また、キャッチャーシャンク23aには、キャッチャー側板ばね32(キャッチャー側係合部)が設けられている。
【0030】
キャッチャー本体23bは、前述したバックチェック9の後方に位置し、これと対向している。また、バット20とハンマーシャンク21の間には、バットスプリング20aが設けられており、これにより、ハンマー3が図1の時計方向に付勢されている。また、この離鍵状態では、前述したジャック7のハンマー突上げ部7bは、係合位置において、バット20の下面の前端部で構成される被突上げ部20bに下方から係合している。
【0031】
キャッチャーシャンク23aのキャッチャー本体23bよりも若干、後方の下側の部分には、スリット(図示せず)が形成されており、このスリットにキャッチャー側板ばね32の上端部が挿入され、例えば接着により固定されている。このキャッチャー側板ばね32は、キャッチャーシャンク23aから下方に向かって、前述したジャック側板ばね30の前方まで延びており、後面の下部に、キャッチャー側緩衝材33(緩衝材)が貼り付けられている。このキャッチャー側緩衝材33は、例えば皮革により構成されており、ジャック側緩衝材31に前方から対向している。
【0032】
また、アクション1の後方には、ダンパー25が鍵4ごとに設けられている(1つのみ図示)。ダンパー25は、ダンパーフレンジ25bを介してセンターレール16に回動自在に取り付けられたダンパーレバー25cと、ダンパーレバー25cの上側にダンパーワイヤ25dを介して取り付けられたダンパーヘッド25aと、ダンパー25を弦S側に付勢するダンパーレバースプリング25eなどで構成されている。このダンパー25は、離鍵時に、ダンパーレバースプリング25eの付勢力によって、ダンパーヘッド25aが弦Sに当接することにより止音するためのものである。
【0033】
以下、上述したアクション1およびハンマー3などの押鍵の開始から終了までの一連の動作について説明する。演奏者により、図1の離鍵状態から鍵4が押鍵されると、鍵4は、バランスピン5aを中心として図1の時計方向に回動し、その後端部に載置されたウィッペン6は、鍵4によって突き上げられることにより、上方(反時計方向)に回動する。このウィッペン6の回動に伴い、ウィッペン6に設けられたジャック7およびバックチェック9などが一緒に移動し、ハンマー3は、そのバット20がジャック7のハンマー突上げ部7bによって突き上げられることにより、後方の弦Sに向かって反時計方向に回動する。
【0034】
ウィッペン6が所定の角度、回動したときに、ジャック7の基部7aの前端部が、レギュレティングボタン13に下方から当接する。ウィッペン6がさらに回動するのに従い、ジャック7は、レギュレティングボタン13によって上方への移動が規制されることにより、ジャックスプリング10の付勢力に抗してウィッペン6に対して時計方向に回動する。
【0035】
さらに押鍵が進み、ジャック7の基部7aが、レギュレティングボタン13に当接した状態でさらに時計方向に回動することにより、ハンマー突上げ部7bが、バット20から前方に外れ、ハンマー3から離脱することにより離脱位置側にウィッペン6に対して回動する。これにより、鍵4のタッチ重さからハンマー3の重量分が急激に失われることにより、演奏者にレットオフ感が付与される。ハンマー3は、ジャック7が離脱した後も慣性によって回動し、弦Sを打弦することにより振動させることによって、演奏音を発生させる。そして、ハンマー3は、弦Sの反発力によって、時計方向への復帰回動を開始する。
【0036】
ハンマー3は、復帰回動する途中において、バックチェック9に次のようにして係止される。ハンマー3の復帰回動に伴い、キャッチャー本体23bは、バックチェック9に向かって上方から接近する。このとき、バックチェック9は、押鍵に伴ってウィッペン6と一緒に上方にすでに移動しており、このようなバックチェック9の後面に、キャッチャー本体23bの前面が当接する。これにより、バックチェック9は、キャッチャー本体23bを押圧することによって、キャッチャー本体23bを係止しようとする。
【0037】
また、キャッチャー本体23bが上記のようにバックチェック9に当接する直前において、ジャック側板ばね30にキャッチャー側板ばね32が、ジャック側およびキャッチャー側緩衝材31,33を介して当接する。具体的には、まず、ハンマー3が復帰回動するのに伴い、図3に示すように、下方に移動するキャッチャー側緩衝材33の後面の下端部が、押鍵に伴い上方に移動した状態のジャック側緩衝材31の前面上端部に衝突し、これを押圧する。その際、両緩衝材31,33により、衝突に起因する雑音の発生が抑制される。ハンマー3がさらに復帰回動するのに伴い、キャッチャー側緩衝材33が、ジャック側緩衝材31を押圧しながら、その前面に沿って下方に摺動し、ハンマー3は、最終的に図4に示す係止位置において停止する。このキャッチャー側緩衝材33の摺動中、両板ばね30,32は押圧し合うので、両板ばね30,32の付勢力により、両緩衝材31,33は、互いに面接触するとともに密着した状態に維持され、キャッチャー側緩衝材33が下方に移動するにつれて、両板ばね30,32は、互いに離れ合う方向に次第に撓む。また、キャッチャー側緩衝材33の摺動中、両板ばね30,32の付勢力により、両緩衝材31,33の間には摩擦力が作用し、この摩擦力は、復帰回動するハンマー3に対する制動力として作用する。
【0038】
以上のように、バックチェック9がキャッチャー本体23bを押圧するとともに、キャッチャー側板ばね32がジャック側板ばね30に係合することにより、ハンマー3のバックストップが行われる。それにより、ハンマー3は、図4に示す係止位置において係止され、その復帰回動が一旦、停止させられることによって、ハンマー3のリバウンドが防止される。また、このようにハンマー3が係止された状態では、ジャック7は、両板ばね30,32の付勢力が作用することにより、係合位置側に付勢された状態に維持される。
【0039】
押鍵が終了し、鍵4が離鍵され始めると、ウィッペン6が押鍵時とは逆方向に復帰回動を開始するのに伴い、バックチェック9がキャッチャー本体23bから離脱することにより、ハンマー3の係止状態が解除される。それにより、ハンマー3は、バットスプリング20aの付勢力により、復帰回動を再開しようとする。また、ジャック7は、ウィッペン6と一緒にほぼ下方に移動することにより、ジャックスプリング10、およびジャック側並びにキャッチャー側板ばね30,32の付勢力によって、ウィッペン9に対して押鍵時と逆に反時計方向に復帰回動し、以下のような動作を行う。すなわち、ジャック7がウィッペン6と一緒に下方に移動し始めることにより、ジャック7の基部7aがレギュレティングボタン13から離れ始める。その際、ジャック7に作用する両板ばね30,32の付勢力の反力がキャッチャー23に作用することによって、すなわち両板ばね30,32の間に作用している摩擦力により、ハンマー3が支持されることで、ハンマー3は、急な復帰回動を阻止される。一方、ジャック7は、ジャックスプリング10、および両板ばね30,32の付勢力によって、速やかに復帰回動する。
【0040】
それにより、ジャック側板ばね30がキャッチャー側板ばね32から離脱し、ハンマー突上げ部7bが、バット20に邪魔されることなくその下側に入り込み、ハンマー突上げ部7bの上端部が、バット20の被突上げ部20bに下方から係合することによって、ハンマー3の再度の突上げが可能な状態になる。また、ジャック側板ばね30がキャッチャー側板ばね32から離脱することにより、ハンマー3の復帰回動に対する抵抗が消失することによって、ハンマー3は復帰回動を再開する。そして、鍵4などの復帰回動がさらに進むことにより、ハンマー3のハンマーシャンク21が、ハンマーレール17に当接することによって、その復帰回動が終了するとともに、ウィッペン6およびジャック7などが、完全に離鍵状態に復帰し、押鍵時および離鍵時の一連の動作が終了する。
【0041】
また、例えば、トリルを行う場合のように、同じ鍵4を連打する場合には、鍵4は、離鍵された後、離鍵状態に完全に復帰する前に再度、押鍵される。前述したように、復帰回動の途中で鍵4が深いストローク位置から若干、戻されたときに、ジャック7のハンマー突上げ部7bがバット20の被突上げ部20bに下方から係合することで、再度の押鍵が可能な状態になるので、そのような状態で押鍵を繰り返すことによって、深いストローク位置からの鍵4の連打を行うことができる。
【0042】
以上のように、この実施形態のアクション1では、ハンマー3が係止されたときに、ジャック7が係合位置側への付勢力が作用した状態に維持されることによって、鍵4が離鍵された直後の若干、戻されたときに、ジャック7は、既存のジャックスプリング10、およびジャック側板ばね30並びにキャッチャー側板ばね32の付勢力によって速やかに復帰回動する。それにより、ハンマー3の復帰回動が再開するよりも早いタイミングでジャック7がハンマー3の下方に入り込むことができるので、ジャック7は、バット20に妨げられることなくその下面の被係合部20bに係合した状態に復帰することができる。したがって、例えばトリルを行う場合のように、同じ鍵4が連続的に速く押鍵された場合であっても、また、深いストローク位置からの連打であっても、ジャック7の動作を鍵4の動作に遅れることなく確実に追随させることができるので、鍵4の連打性を向上させることができる。
【0043】
また、ハンマー3がバックストップされ、キャッチャー側板ばね32がジャック側板ばね30に係合した状態では、両板ばね30,32は、それぞれ撓むことによって両緩衝材31,33が互いに密着し、面接触することができ、ジャック7は、両板ばね30,32の付勢力により、係合位置側に付勢された状態になる。これにより、両板ばね30,32の付勢力が確実にジャック7に作用するので、鍵4が離鍵されたときに、ジャック7を確実かつ速やかに復帰回動させることができ、鍵4の連打性を確実に向上させることができる。
【0044】
また、ハンマー3がバックストップされたときに、キャッチャー側板ばね32は、両板ばね30,32にそれぞれ設けられたジャック側およびキャッチャー側緩衝材31,33を介して、ジャック側板ばね30に係合する。それにより、両板ばね30,31が互いに係合したときに発生する雑音を抑制することができる。
【0045】
また、両緩衝材31,33が皮革で構成されていることと、ジャック7に作用する両板ばね30,32の付勢力の反力が、キャッチャー23に作用することから、ハンマー3がバックストップされたときに、両緩衝材31,33の間に発生する摩擦力を、ハンマー3をバックストップさせるための力として効果的に作用させることができる。すなわち、既存のバックチェック9に加え、両緩衝材31,33の間に摩擦力が作用することにより、ハンマー3を係止位置に安定してバックストップさせることができる。
【0046】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、ジャック7およびキャッチャー23の双方に板ばねを設けることにより、ハンマー3がバックストップされた状態でジャック7に係合位置側への付勢力が作用するようにしているが、これに限定されることなく、一方のみに板ばねを設けるとともに、他方には、板ばねに代えて、例えば、他の弾性体や、板ばねと係合したときにそれによる付勢力が作用するような剛体を設けてもよい。また、実施形態では、キャッチャーシャンク23aにキャッチャー側板ばね32を設けているが、キャッチャー本体23bに設けてもよい。また、実施形態では、ジャック側板ばね30およびキャッチャー側板ばね32の双方に緩衝材を設けているが、いずれか一方のみに設けるようにしてもよい。
【0047】
さらに、実施形態では、緩衝材として皮革を用いているが、これに限定されることなく、他の緩衝材、例えば、フェルトなどの繊維材料を用いてもよい。また、実施形態で示したウィッペンやジャックなどの各構成部品の材質などは、あくまで例示であり、他の適当な材質を採用することが可能である。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態によるアクションなどを、離鍵状態において示す側面図である。
【図2】図1のアクションのジャックおよびキャッチャーなどの付近を、離鍵状態において示す部分拡大図である。
【図3】図1のアクションのジャックおよびキャッチャーなどの付近を、ハンマーがバックストップされる直前において示す部分拡大図である。
【図4】図1のアクションのジャックおよびキャッチャーなどの付近を、ハンマーが係止された状態において示す部分拡大図である。
【符号の説明】
【0049】
1 アクション
2 鍵盤
3 ハンマー
4 鍵
6 ウィッペン
7 ジャック
7b ハンマー突上げ部
9 バックチェック
13 レギュレティングボタン
20 バット
23 キャッチャー
30 ジャック側板ばね(板ばね)
31 ジャック側緩衝材(緩衝材)
32 キャッチャー側板ばね(板ばね)
33 キャッチャー側緩衝材(緩衝材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の押鍵に伴って作動し、バットおよびキャッチャーを有するハンマーを回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションであって、
前記鍵の押鍵時に、当該鍵で突き上げられることによって上方に回動するウィッペンと、
上下方向に延び、前記ウィッペンに回動自在に設けられ、前記ハンマーを突き上げるために前記バットの下面に係合する係合位置と、当該バットから外れた離脱位置とに回動するジャックと、
前記鍵の押鍵に伴う前記ハンマーの回動中に、前記ジャックに係合し、当該ジャックを前記ウィッペンに対して前記離脱位置側に回動させることにより、前記ジャックを前記バットから離脱させるレギュレティングボタンと、
前記ウィッペンに設けられ、打弦後に復帰回動する前記ハンマーを、復帰回動の途中で前記キャッチャーを介して係止するバックチェックと、
前記ジャックに設けられ、上方に延びるジャック側係合部と、
前記キャッチャーに設けられ、前記鍵の離鍵状態において、前記ジャック側係合部に前方から対向するように下方に延びるキャッチャー側係合部と、
を備え、
前記キャッチャー側係合部および前記ジャック側係合部の少なくとも一方は板ばねで構成され、前記ハンマーが前記バックチェックに係止されたときに、前記ジャック側係合部に前記キャッチャー側係合部が係合することによって、前記ジャックを前記係合位置側に付勢することを特徴とするアップライトピアノのアクション。
【請求項2】
前記キャッチャー側係合部および前記ジャック側係合部の双方が板ばねで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアップライトピアノのアクション。
【請求項3】
前記ジャック側係合部および前記キャッチャー側係合部の少なくとも一方には緩衝材が設けられており、前記キャッチャー側係合部は、前記緩衝材を介して前記ジャック側係合部に係合することを特徴とする請求項1または2に記載のアップライトピアノのアクション。
【請求項4】
前記緩衝材は、前記ジャック側係合部および前記キャッチャー側係合部の双方に設けられ、皮革により構成されていることを特徴とする請求項3に記載のアップライトピアノのアクション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−201504(P2006−201504A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13227(P2005−13227)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)