説明

アップライトピアノのアクション

【課題】 より単純な構成で、タッチ感を変化させることなく、鍵の連打性を向上させることができるアップライトピアノのアクションを提供する。
【解決手段】 鍵4の押鍵に伴い、ハンマー3に打弦を行わせるアップライトピアノのアクション1であって、ハンマー3を突き上げるためにハンマー3のバット20の下面20bに係合する係合位置と、ハンマー3から外れた離脱位置とに回動するジャック7と、ジャック7とハンマー3のキャッチャー23との間に移動自在に設けられ、鍵4が離鍵されることにより、ハンマー3が、バックチェック9に係止された係止位置から復帰回動を再開したときに、キャッチャー23で押圧されることによりジャック7側に移動することによって、押鍵時に離脱位置側に回動したジャック7を押圧し、係合位置側に復帰回動させるジャック復帰用移動体29と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵の押鍵に伴って作動し、バットおよびキャッチャーを有するハンマーを回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、トリルを行う場合のように、鍵を連続して押鍵(連打)するときには、鍵が完全に離鍵状態に戻る前に、再度、押鍵することが繰り返される。しかし、このような鍵の連打を行った場合、アップライトピアノでは、以下に述べる理由から、演奏者の意図どおりの演奏を行えないことがある。
【0003】
すなわち、連打以外の通常の押鍵の場合には、それに伴い、ハンマーは、その下端部のバットが、ウィッペンとともに回動するジャックの上端部によって突き上げられることにより回動する。ジャックは、押鍵の途中で、レギュレティングボタンによってウィッペンに対して回動させられることによりバットから離脱し、その直後に、ハンマーは弦を打弦することにより演奏音を発生させる。打弦後には、ジャックおよびハンマーは、押鍵時とはそれぞれ逆方向に回動し、さらに鍵が離鍵されることによって、ジャックの上端部がバットに係合した初期状態に復帰する。
【0004】
これに対し、鍵を連打する場合には、ハンマーが、ジャックよりも早く復帰回動してしまい、それにより、ジャックがバットの側面に当接した状態になり、バットがジャックの復帰回動を妨げることがある。特に、鍵が深いストローク位置にある場合、鍵をかなり戻さない限り、ウィッペンと一緒に回動するジャックの上端部がバットの下側に入り込むことができず、ジャックおよびバットを初期状態に復帰させることができないため、深いストローク位置から鍵を連打しても、ハンマーを適正に駆動できず、打弦が行えない。
【0005】
このような不具合を解消するための従来のアップライトピアノのアクションとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このアクションは、通常のアクションと同様、鍵の押鍵に伴って回動するウィッペンと、ウィッペンに回動自在に取り付けられたジャックと、ウィッペンのジャックよりも前側に設けられたバックチェックと、下端部のバットにジャックの上端部が係合し、ジャックにより突き上げられ、打弦することによって演奏音を発生させるハンマーなどを備えている。
【0006】
また、バットから前方に突出するキャッチャーシャンクには、上下方向に延びる軸受け部が設けられており、その上端部には、前後方向に延びるレペティションレバーが回動自在に設けられている。また、軸受け部の上端にはコードが立設されており、その上端部とレペティションレバーの後端部の間にはスプリングが取り付けられていて、このスプリングにより、レペティションレバーの前端部が下方に付勢されている。また、レペティションレバーの軸受け部との連結部の前側には、下方に延びるロッドが固定されており、その下端部の調整ねじが、ジャックの上端部の前面に当接している。また、レペティションレバーの後端部にも調整ねじが設けられており、この調整ねじは、バットに上方から対向している。
【0007】
以上のようなアクションによれば、鍵の押鍵に伴い、ウィッペンとともにジャックが上方に回動し、バットを上方に突き上げることによって、そのレペティションレバーなどとともに回動させる。その途中で、ジャックが、レギュレティングボタンに当接することにより、ジャックスプリングの付勢力に抗してウィッペンに対して回動させられ、バットから離脱する。このジャックの回動により、レペティションレバーは、ロッドを介して駆動され、スプリングの付勢力に抗して、その前端部が上方に回動する。ハンマーが弦を打弦した後、弦の反発力により、ハンマーが反対方向に復帰回動する際には、その途中でレペティションレバーの前端部がバックチェックの上面に当接し、スプリングの付勢力に抗して回動することによって、ロッドの下端部の調整ねじがジャックから離れる。ハンマーがさらに回動すると、キャッチャーシャンクの前端部に設けられたキャッチャーが、バックチェックに係止されるとともに、レペティションレバーの後端部の調整ねじが、バットの上面に当接する。
【0008】
このような状態から、離鍵され、鍵が元の位置に戻り始めると、ウィッペンおよびジャックがともに下方に回動することによって、まず、キャッチャーからバックチェックが離れる。これにより、上記のように付勢されているレペティションレバーが、ロッドの調整ねじがジャックに当接するまで回動するとともに、後端部の調整ねじがバットから離れる。さらに鍵が戻されることにより、ジャックがレギュレティングボタンから離れるとともに、レペティションレバーの前端部がバックチェックから離れることによって、ジャックが、ジャックスプリングに加え、スプリングの付勢力によりロッドを介して駆動され、元の位置に即座に復帰回動し、その上端部がバットに係合した状態に復帰する。したがって、この状態において、再度の押鍵により、次の打弦を行うことが可能な状態に復帰する。
【0009】
以上のように、鍵が離鍵され、元の位置に戻る途中において、ジャックを、スプリングおよびジャックスプリングの双方の付勢力によって素早くバットに係合させるので、鍵が離鍵状態に完全に復帰する前に、次の押鍵による打弦が可能な状態になる。また、バックチェックにレペティションレバーおよびキャッチャーの双方が当接することにより、バットの復帰回動が、確実に一旦、停止するので、深いストロークで押鍵した場合であっても、鍵の連打性を維持することができる。
【0010】
しかし、上述した特許文献1のアクションには、以下のような問題がある。すなわち、このアクションでは、上述したように、構成部品が非常に多く、構成が非常に複雑であるため、製造コストが増大してしまう。また、ジャックには、ロッドなどを介してスプリングの付勢力が常に作用しているので、その分、タッチが重くなるとともに、ジャックがバットから離脱したときの明確なレットオフ感が得られ難いなど、タッチ感が変化してしまい、演奏者に違和感を与えるおそれがある。
【0011】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、より単純な構成で、タッチ感を変化させることなく、鍵の連打性を向上させることができるアップライトピアノのアクションを提供することを目的としている。
【0012】
【特許文献1】特開平6−83326号公報 (第3〜5頁、第1〜4図)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、鍵の押鍵に伴って作動し、バットおよびキャッチャーを有するハンマーを回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションであって、鍵の押鍵時に、鍵で突き上げられることによって上方に回動するウィッペンと、ウィッペンに回動自在に設けられ、ハンマーを突き上げるためにバットの下面に係合する係合位置と、ハンマーから外れた離脱位置とに回動するジャックと、鍵の押鍵に伴うハンマーの回動中に、ジャックに係合し、ジャックをウィッペンに対して離脱位置側に回動させることにより、ジャックをバットから離脱させるレギュレティングボタンと、ウィッペンに設けられ、打弦後に復帰回動するハンマーを、復帰回動の途中の係止位置でキャッチャーを介して係止するバックチェックと、ジャックとキャッチャーの間に移動自在に設けられ、鍵が離鍵されることによりハンマーが係止位置から復帰回動を再開したときに、キャッチャーで押圧されることによりジャック側に移動することによって、ジャックを押圧し、係合位置側に復帰回動させるジャック復帰用移動体と、を備えていることを特徴とする。
【0014】
このアップライトピアノのアクションによれば、離鍵状態の鍵を押鍵すると、ウィッペンが、鍵によって突き上げられることにより上方に回動する。その際、ウィッペンに設けられたジャックおよびバックチェックが、ウィッペンと一緒に上方に移動し、ジャックは、ハンマーを突き上げることにより回動させる。このハンマーの回動中に、ジャックが、レギュレティングボタンに係合し、離脱位置側にウィッペンに対して回動することによってハンマーから離脱し、その後、ハンマーは、慣性により回動を続け、弦を打弦することによって演奏音が発生する。
【0015】
弦を打弦したハンマーは、弦の反発力によって押鍵時とは逆方向に復帰回動し、その途中で、バックチェックによって、キャッチャーを介して係止位置において係止される。それにより、ハンマーのリバウンドが防止されるとともに復帰回動が一旦、停止される。
【0016】
この状態から鍵が離鍵されると、バックチェックがウィッペンと一緒に下方に移動するのに伴い、ハンマーの係止状態が解除されることによって、ハンマーは復帰回動を再開しようとする。その際、キャッチャーとジャックの間に設けられた移動自在のジャック復帰用移動体が、ハンマーのキャッチャーで押圧されることによりジャック側に移動することによって、ジャックを押圧し、それにより、ジャックが係合位置側に復帰回動する。すなわち、ジャック復帰用移動体により、バックチェックによる係止後におけるハンマーの復帰回動とジャックの復帰回動を連動させることができ、ハンマーが復帰回動を再開するタイミングに遅れることなくジャックが復帰回動を開始する。それにより、ジャックがハンマーの下方に速やかに入り込み、バットの下面に係合した状態に復帰することによって、ハンマーの復帰回動が再開されるとともに再度の押鍵が可能な状態になる。
【0017】
以上のように、ジャックは、鍵が離鍵された直後に、ジャック復帰用移動体によって速やかに復帰回動することにより、バットの下面に係合した状態になり、それにより、ハンマーが復帰回動を再開する。すなわち、ジャックがハンマーの下方に入り込まない限り、ハンマーの復帰回動が行えないので、ジャックは、ハンマーのバットに妨げられることなく、ハンマーの下面に係合した状態に確実に復帰することができる。したがって、例えばトリルを行う場合のように、同じ鍵が連続的に速く押鍵された場合であっても、ジャックの動作を鍵の動作に遅れることなく確実に追随させることができるので、鍵の連打性を向上させることができる。
【0018】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアップライトピアノのアクションにおいて、ジャック復帰用移動体は、ハンマーおよびジャックの双方から独立して設けられていることを特徴とする。
【0019】
このアップライトピアノのアクションによれば、ジャック復帰用移動体は、ハンマーおよびジャックのいずれからも独立していることにより、ジャックの復帰回動時以外はアクションの動作にはまったく影響を及ぼさない。したがって、通常のアップライトピアノのアクションと同様の安定した動作を維持することができる。また、同じ理由により、押鍵の開始から離鍵の終了にわたって鍵のタッチ重さにも影響をほとんど及ぼさないので、演奏者は、違和感を覚えることなく、通常のアップライトピアノと同様の感覚で演奏することができる。
【0020】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のアップライトピアノのアクションにおいて、ジャック復帰用移動体は、水平な軸線を中心として回動自在の回動体で構成されていることを特徴とする。
【0021】
このアップライトピアノのアクションによれば、ジャック復帰用移動体は、水平な軸線を中心として回動する回動体として構成されており、鍵が離鍵されると、ジャックは、キャッチャーで押圧されることにより回動するジャック復帰用移動体で押圧されることによって、復帰回動する。それにより、ジャックはハンマーの下面に係合し、ハンマーの復帰回動が可能な状態になる。このように、単純な構成のジャック復帰用移動体により、鍵の離鍵に伴い、ジャックを速やかに復帰回動させることができるので、アクションの製造コストを大きく上昇させることなく、鍵の連打性を向上させることができる。
【0022】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のアップライトピアノのアクションにおいて、ジャックは、上下方向に延び、係合位置においてバットに係合するハンマー突上げ部を有しており、回動体は、ハンマーが前記復帰回動を再開したときに、キャッチャーおよびハンマー突上げ部にそれぞれ当接するキャッチャー当接部およびジャック当接部を有し、ハンマーが復帰回動を再開したときに、キャッチャーがキャッチャー当接部を押圧することにより、回動体が軸線を中心として回動することによって、ジャック当接部がハンマー突上げ部を押圧し、ジャックを係合位置側に復帰回動させることを特徴とする。
【0023】
このアップライトピアノのアクションによれば、鍵が離鍵されることにより、ハンマーのバットにキャッチャーシャンクを介して設けられたキャッチャーは、回動体のキャッチャー当接部の上面に当接するとともにこれを下方に押圧する。回動体は、その連結部においてレールに回動自在に取り付けられており、鍵が離鍵されたときに、キャッチャー、およびジャックのハンマー突上げ部にそれぞれ当接するように、連結部からそれぞれ延びるキャッチャー当接部およびジャック当接部を有している。それにより、回動体は、キャッチャーからの押圧により、軸線を中心として回動し、それに伴い、ジャック当接部が、ジャックの上下方向に延びるハンマー突上げ部をほぼ水平方向の力で押圧する。その結果、ジャックが駆動され、係合位置側に復帰回動することによって、ハンマー突上げ部がハンマーのバットに係合する。
【0024】
以上のように、鍵が離鍵されると、回動体は、キャッチャーとジャックの双方に当接した状態になり、キャッチャーからの下向きの荷重を、ほぼ水平方向の荷重に変換してハンマー突上げ部に伝達する。このように、キャッチャーからの荷重をジャックを復帰回動させるための荷重としてダイレクトに利用することができ、それにより、ジャックは、バットに妨げられることなく復帰回動することができる。したがって、ハンマー突上げ部をハンマーの下方に確実かつ速やかに入り込ませることができるので、鍵の連打性を確実に向上させることができる。
【0025】
請求項5に係る発明は、請求項3または4に記載のアップライトピアノのアクションにおいて、鍵は、左右方向に並ぶように複数の鍵で構成され、ハンマー、ウィッペンおよびジャックは鍵ごとに設けられており、ジャックとキャッチャーの間に配置され、複数の鍵の並び方向に沿って水平に延びる単一のレールをさらに備え、回動体は、レールに鍵ごとに回動自在に設けられた複数の回動体で構成されていることを特徴とする。
【0026】
このアップライトピアノのアクションによれば、回動体は、水平な単一のレールに鍵ごとに設けられており、回動体の動作が、鍵ごとに行われる。また、通常のアップライトピアノのアクションでは、低音域と高音域の間の構成上の差異は、ハンマーシャンクの長さおよびハンマーヘッドの大きさのみであり、バット、キャッチャーおよびジャックなどの構成や相互の位置関係は、全音域にわたって共通である。したがって、単一のレールに同じ構成およびサイズの回動体を単純に取り付けるだけで、所要の機能を有する回動体を、容易に設けることができる。このため、出荷済みのものを含め、既存のアップライトピアノに、後付けで取り付けることも可能であり、それにより、上記の効果を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1および2は、本発明によるアップライトピアノのアクション1、鍵盤2およびハンマー3などを、離鍵状態において示している。なお、以下の説明では、演奏者側から見たときのアップライトピアノの手前側を「前」、奥側を「後」として説明する。鍵盤2は、左右方向(図1の奥行方向)に並んだ多数の鍵4(1つのみ図示)によって構成されており、各鍵4は、前後方向(図1の左右方向)のほぼ中央において、筬5に立設されたバランスピン5aに揺動自在に支持されている。
【0028】
アクション1は、鍵盤2の後端部の上方において、筬5の左右端部にそれぞれ設けたブラケット(図示せず)に取り付けられ、両ブラケットの間に設けられている。アクション1は、ウィッペン6やジャック7などを有していて、これらは、鍵4ごとに設けられている(ともに1つのみ図示)。左右のブラケットの間には、センターレール16およびハンマーレール17などが渡されており、このセンターレール16に鍵4ごとにねじ止めされたウィッペンフレンジ12およびバットフレンジ24に、ウィッペン6が後端部において、ハンマー3が下端部において、それぞれ回動自在に取り付けられている。
【0029】
ウィッペン6は、例えば、合成樹脂や木材によって所定の形状に形成されており、その前部から下方に突出するヒール部6aを有していて、対応する鍵4の上面後端部に設けられたキャプスタンボタン4aに、ヒール部6aを介して載置されている。また、ウィッペン6の上面前端部には、バックチェックワイヤ9aが立設されており、その先端部にバックチェック9が取り付けられている。また、ウィッペン6の上面後端部には、後述するダンパー25を駆動するためのスプーン11が立設されている。また、このスプーン11のすぐ前方には、前述したウィッペンフレンジ12が配置されており、このウィッペンフレンジ12の上部が、センターレール16に固定されている。
【0030】
ジャック7は、例えば合成樹脂により構成されており、射出成形によって一体成形されている。また、図2に示すように、ジャック7は、前後方向に延びる基部7aと、基部7aの後端部から上方に延びるハンマー突上げ部7bを有している。また、ジャック7には、軽量化のための凹部7eなどが形成されている。このようなジャック7は、その基部7aとハンマ突上げ部7bとの角部において、ウィッペン6のバックチェックワイヤ9aよりも後方の位置に回動自在に取り付けられている。また、基部7aとウィッペン6の間には、ジャックスプリング10が取り付けられている。このジャックスプリング10は、コイルばねで構成され、押鍵時に、後述するようにジャック7を付勢するためのものであり、所定のばね力を有している。
【0031】
ジャック7の基部7aの上方には、レギュレティングボタン13が設けられている。このレギュレティングボタン13は、センターレール16に設けられた複数のレギュレティングブラケット14と、その前端部に取り付けられ、左右方向に延びるレギュレティングレール15とを介して、鍵4ごとに設けられている(1つのみ図示)。
【0032】
ハンマー3は、バット20、ハンマーシャンク21、およびハンマーヘッド22などを有している。バット20は、その下端部において、前述したバットフレンジ24に回動自在に取り付けられており、それにより、ハンマー3が回動自在になっている。また、バットフレンジ24は、その下端部においてセンターレール16に固定されている。ハンマーシャンク21は、バット20に立設されており、その上端部にハンマーヘッド22が取り付けられていて、図1に示す離鍵状態では、ハンマーシャンク21がハンマーレール17に後方から当接し、ハンマーヘッド22が鉛直に張られた後方の弦Sに対向している。また、バット20の前面には、キャッチャー23が設けられている。このキャッチャー23は、棒状に形成され、バックチェック9に向かって延びるキャッチャーシャンク23aと、その前端部に取り付けられたキャッチャー本体23bを有している。
【0033】
キャッチャー本体23bは、前述したバックチェック9の後方に位置し、これと対向している。また、バット20とハンマーシャンク21の間には、バットスプリング20aが設けられており、これにより、ハンマー3が図1の時計方向に付勢されている。また、この離鍵状態では、前述したジャック7のハンマー突上げ部7bが、係合位置において、バット20の下面の前端部で構成される被突上げ部20bに下方から係合している。
【0034】
また、ジャック7とキャッチャー23の間には、左右方向に水平に延びる単一のレール27が設けられている。このレール27は、センターレール16に左右方向に間隔を隔てて設けられた複数のレールブラケット26(1つのみ図示)の前端部に取り付けられている。また、レール27は、鍵盤2の全体にわたって延びており、左右のブラケットの間に渡されている。また、レール27の上面には、後述する回動体29を取り付けるための多数の回動体支持部28(1つのみ図示)が並設されている。各回動体支持部28は、細長い板状に形成され、レール27からキャッチャー23のキャッチャーシャンク23aに向かって、その手前まで斜め上方に延びている。また、回動体支持部28は、レール27の互いに隣り合う鍵4,4間の境界に相当する部位に配置されている。また、各回動体支持部28の上端部には、軸孔28a(1つのみ図示)が形成されており、これらの軸孔28aに軸31が水平に通されている。そして、この軸31の互いに隣り合う回動体支持部28,28の間の部分に、すなわち鍵4ごとに、回動体29(ジャック復帰用移動体)が、軸31の軸線を中心として回動自在に設けられている(1つのみ図示)。
【0035】
各回動体29は、ほぼL字形に形成されており、軸31から前側に斜め下方に延びるキャッチャー当接部29aと、ジャック7のハンマー突上げ部7bの上端部に向かって、後ろ側に斜め下方に延びるジャック当接部29bとを有していて、両者29a,29bの間の角部において、軸31に回動自在に取り付けられている。また、キャッチャー当接部29aおよびジャック当接部29bの上側の面には、フェルトなどの繊維材料で構成された緩衝材30a,30bがそれぞれ貼り付けられている。
【0036】
また、アクション1の後方には、ダンパー25が鍵4ごとに設けられている(1つのみ図示)。ダンパー25は、ダンパーフレンジ25bを介してセンターレール16に回動自在に取り付けられたダンパーレバー25cと、ダンパーレバー25cの上側にダンパーワイヤ25dを介して取り付けられたダンパーヘッド25aと、ダンパー25を弦S側に付勢するダンパーレバースプリング25eなどで構成されている。このダンパー25は、離鍵時に、ダンパーレバースプリング25eの付勢力によって、ダンパーヘッド25aが弦Sに当接することにより止音するためのものである。
【0037】
以下、上述したアクション1およびハンマー3などの押鍵の開始から終了までの一連の動作について説明する。演奏者により、図1の離鍵状態から鍵4が押鍵されると、鍵4は、バランスピン5aを中心として図1の時計方向に回動し、その後端部に載置されたウィッペン6は、鍵4によって突き上げられることにより、上方(反時計方向)に回動する。このウィッペン6の回動に伴い、ウィッペン6に設けられたジャック7およびバックチェック9などが一緒に移動し、ハンマー3は、そのバット20がジャック7のハンマー突上げ部7bによって突き上げられることにより、後方の弦Sに向かって反時計方向に回動する。
【0038】
ウィッペン6が所定の角度、回動したときに、ジャック7の基部7aの前端部が、レギュレティングボタン13に下方から当接する。ウィッペン6がさらに回動するのに従い、ジャック7は、レギュレティングボタン13によって上方への移動が規制されることにより、ウィッペン6に対して時計方向に回動する。その際、ハンマー突上げ部7bが、緩衝材30bを介して回動体29に当接し、これを押圧することによって、回動体29は、ジャック7の回動に伴い軸31を中心として反時計方向に回動する。
【0039】
さらに押鍵が進み、ジャック7が、レギュレティングボタン13に当接した状態でさらに時計方向に回動することにより、ハンマー突上げ部7bがバット20から前方に外れ、ハンマー3から離脱することによって、ジャック7は離脱位置側に回動する。これにより、鍵4のタッチ重さからハンマー3の重量分が急激に失われることによって、演奏者にレットオフ感が付与される。ハンマー3は、ジャック7が離脱した後も慣性によって回動し、弦Sを打弦することにより振動させることによって、演奏音を発生させる。そして、ハンマー3は、弦Sの反発力によって、時計方向への復帰回動を開始する。
【0040】
ハンマー3は、復帰回動の途中において、バックチェック9に次のようにして係止される。ハンマー3の復帰回動に伴い、キャッチャー本体23bは、バックチェック9に向かって上方から接近する。このとき、バックチェック9は、押鍵に伴ってウィッペン6と一緒に上方にすでに移動しており、このようなバックチェック9の後面に、キャッチャー本体23bの前面が当接する。これにより、バックチェック9がキャッチャー本体23bを押圧することによって、キャッチャー本体23bがバックチェック9に係止され、ハンマー3は、図3に示す係止位置において復帰回動を一旦、停止する。また、前述したように、回動体29はジャック7の押圧によって回動した状態にあり、ハンマー3がこのようにバックストップされたときには、キャッチャー本体23bは、下方の回動体29のキャッチャー当接部29aとの間にわずかな間隙を存してこれと対向している。
【0041】
押鍵が終了し、鍵4が離鍵されると、鍵4およびウィッペン6は、それぞれ押鍵時とは逆方向に復帰回動する。その際、バックチェック9もまた、ウィッペン6と一緒に移動するので、押鍵時とは逆にキャッチャー23から離れ始めることによって、バックチェック9によるハンマー3の係止状態が解除される。それにより、ハンマー3は、バットスプリング20aの付勢力により、時計方向に復帰回動を再開する。また、ジャック7も、ウィッペン6と一緒にほぼ下方に移動し、レギュレティングボタン13から離れ始めることにより、ジャックスプリング10の付勢力によって、ウィッペン6に対し、押鍵時と逆に反時計方向に復帰回動を開始する。
【0042】
前述したように、押鍵が終了した状態では、回動体29が、わずかな間隙を存してキャッチャー本体23bと対向している。このため、鍵4が離鍵され、ハンマー3が復帰回動を再開した直後においては、下降を再開したキャッチャー本体23bが、キャッチャー当接部29aの上面に緩衝材30aを介して当接し、続いてキャッチャー当接部29aを下方に押圧することによって、回動体29は、軸31を中心として時計方向に復帰回動する。この回動体29の回動に伴い、回動体29のジャック当接部29bにより、ジャック7のハンマー突上げ部7bがほぼ水平方向に押圧されることによって、ジャック7が係合位置側に復帰回動する。すなわち、ジャック7は、鍵4が離鍵され、若干、戻されると、ジャックスプリング10の付勢力に加え、回動体29を介してハンマー3によって駆動される。その際、回動体29により、下向きの荷重がほぼ水平方向の荷重に変換され、ジャック7に伝達されることによって、ジャック7は、速やかに復帰回動を開始する。
【0043】
一方、鍵4が離鍵された直後において、回動体29は、ハンマー3に対してはストッパとして作用する。すなわち、キャッチャー本体23bの下降が回動体29によって妨げられることにより、ハンマー3の急な復帰回動が阻止され、そのバット20が、係止位置とほぼ同じ位置に保持される。
【0044】
それにより、ジャック7は、その下方への移動に伴い、回動体29で押圧されることによって、ハンマー突上げ部7bがバット20に邪魔されることなくその下側に速やかに入り込む。したがって、ハンマー突上げ部7bの上端部が、バット20の被突上げ部20bに下方から係合するようになり、ハンマー3の再度の突上げが可能な状態になる。その結果、ハンマー3の復帰回動に対する抵抗が消失するので、ハンマー3は復帰回動を再開する。そして、鍵4などの復帰回動がさらに進むことにより、ハンマーシャンク21がハンマーレール17に当接することによって、その復帰回動が停止するとともに、ウィッペン6、ジャック7およびバックチェック9などが、完全に離鍵状態に復帰し、押鍵時および離鍵時の一連の動作が終了する。
【0045】
また、例えば、トリルを行う場合のように、同じ鍵4を連打する場合には、鍵4は、離鍵された後、離鍵状態に完全に復帰する前に再度、押鍵される。前述したように、ジャック7は、復帰回動の途中の鍵4がわずかに戻されたとき、すなわち、鍵4が深いストローク位置にあるときにおいて、そのハンマー突上げ部7bがバット20に下方から係合することにより、再度の押鍵が可能な状態になるので、そのような状態になったときから離鍵が完全に終了する直前までの間に押鍵することを繰り返すことによって、鍵4の連打を行うことができる。
【0046】
以上のように、この実施形態のアクション1では、回動体29により、ハンマー3の係止状態の解除後におけるハンマー3の復帰回動とジャック7の復帰回動を連動させることができ、ジャック7は、鍵4が離鍵された直後に、回動体29に押圧されることにより速やかに復帰回動することによって、バット20に係合した状態になり、それにより、ハンマー3が復帰回動を再開する。すなわち、ジャック7がハンマー3の下方に入り込まない限り、ハンマー3の復帰回動が行えないので、ジャック7は、ハンマー3に妨げられることなく、ハンマー3の下面の被係合部20bに係合した状態に確実に復帰することができる。したがって、例えばトリルを行う場合のように、同じ鍵4が連続的に速く押鍵された場合であっても、ジャック7の動作を鍵4の動作に遅れることなく確実に追随させることができるので、鍵4の連打性を向上させることができる。
【0047】
また、回動体29は、ハンマー3およびジャック7とは別個に設けられたレール27に設けられており、両者3,7のいずれからも独立している。したがって、回動体29は、ジャック7の復帰回動時以外は両者3,7の動作に、ひいてはアクション1全体の動作にまったく影響を及ぼさない。したがって、このアクション1では、通常のアップライトピアノのアクションと同様の安定した動作を維持することができる。また、同じ理由により、押鍵の開始から離鍵の終了にわたって鍵4のタッチ重さにも影響をほとんど及ぼさないので、演奏者は、違和感を覚えることなく、通常のアップライトピアノと同様の感覚で演奏することができる。
【0048】
また、回動体29のような単純な構成によって、鍵4の離鍵に伴い、ジャック7を速やかに復帰回動させることができるので、アクション1の製造コストを大きく上昇させることなく、鍵4の連打性を向上させることができる。
【0049】
また、ハンマー3がバックストップされた後、鍵4が離鍵され、ハンマー3がわずかに復帰回動すると、ジャック7に当接した状態の回動体29にキャッチャー23が当接するようになり、回動体29は、キャッチャー本体23bからの下方へ荷重を、ほぼ水平方向の荷重に変換してハンマー突上げ部7bに伝達する。このように、キャッチャー23からの荷重をジャック7を復帰回動させるための荷重としてダイレクトに利用することができ、それにより、ジャック7は、バット20に妨げられることなく復帰回動することができる。したがって、ハンマー突上げ部7bをハンマー3の下方に確実に入り込ませることができるので、鍵4の連打性を確実かつ速やかに向上させることができる。
【0050】
また、通常のアップライトピアノのアクションでは、低音域と高音域の間の構成上の差異は、ハンマーシャンクの長さおよびハンマーヘッドの大きさのみであり、バット、キャッチャーおよびジャックなどの構成や相互の位置関係は、全音域にわたって共通である。したがって、単一のレール27に同じ構成およびサイズの回動体29を単純に取り付けるだけで、所要の機能を有する回動体29を、容易に設けることができる。このため、出荷済みのものを含め、既存のアップライトピアノに、後付けで取り付けることも可能であり、それにより、上記の効果を付与することができる。
【0051】
また、例えば、鍵4が強打され、ハンマー3の復帰回動の速度が大きく、バックチェック9による係止のみではハンマー3の復帰回動を停止させられない場合であっても、キャッチャー本体23bが回動体29に当接することにより、ハンマー3を、係止位置において確実に停止させることができるので、ハンマー3のバックストップを安定して行うことができる。
【0052】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、ハンマー3が係止されたときに、キャッチャー本体23bが回動体29に当接するようにしているが、これに限定されることなく、キャッチャーシャンク23bが当接するように構成してもよい。また、実施形態では、レール27および回動体支持部28などを介して回動体29を設けているが、これに限定されることなく、レール27などを省略し、軸のみをレールとして設け、この軸に回動体29を回動自在に設けてもよい。
【0053】
また、実施形態では、回動体29によりジャック7を復帰回動させているが、これに限定されることなく、例えば、ジャック7とキャッチャー23の間に、湾曲した管と、この管に通され、両者7,23の間を管により案内されながら移動可能な移動体とを設け、離鍵時に、ハンマー3によりこの移動体を介してジャック7を押圧させることによって、ジャック7を復帰回動させるようにしてもよい。また、実施形態で示したウィッペンやジャックなどの各構成部品の材質などは、あくまで例示であり、他の適当な材質を採用することが可能である。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態によるアクションなどを、離鍵状態において示す側面図である。
【図2】図1のアクションのジャックおよびその付近を、離鍵状態において示す部分拡大図である。
【図3】図1のアクションのジャックおよびその付近を、ハンマーがバックストップされた状態において示す部分拡大図である。
【符号の説明】
【0055】
1 アクション
3 ハンマー
4 鍵
6 ウィッペン
7 ジャック
9 バックチェック
13 レギュレティングボタン
23 キャッチャー
27 レール
29 回動体(ジャック復帰用移動体)
29a キャッチャー当接部
29b ジャック当接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の押鍵に伴って作動し、バットおよびキャッチャーを有するハンマーを回動させることにより打弦を行わせるアップライトピアノのアクションであって、
前記鍵の押鍵時に、当該鍵で突き上げられることによって上方に回動するウィッペンと、
当該ウィッペンに回動自在に設けられ、前記ハンマーを突き上げるために前記バットの下面に係合する係合位置と、前記ハンマーから外れた離脱位置とに回動するジャックと、
前記鍵の押鍵に伴う前記ハンマーの回動中に、前記ジャックに係合し、当該ジャックを前記ウィッペンに対して前記離脱位置側に回動させることにより、前記ジャックを前記バットから離脱させるレギュレティングボタンと、
前記ウィッペンに設けられ、打弦後に復帰回動する前記ハンマーを、復帰回動の途中の係止位置で前記キャッチャーを介して係止するバックチェックと、
前記ジャックと前記キャッチャーの間に移動自在に設けられ、前記鍵が離鍵されることにより前記ハンマーが前記係止位置から復帰回動を再開したときに、前記キャッチャーで押圧されることにより前記ジャック側に移動することによって、前記ジャックを押圧し、前記係合位置側に復帰回動させるジャック復帰用移動体と、
を備えていることを特徴とするアップライトピアノのアクション。
【請求項2】
前記ジャック復帰用移動体は、前記ハンマーおよび前記ジャックの双方から独立して設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアップライトピアノのアクション。
【請求項3】
前記ジャック復帰用移動体は、水平な軸線を中心として回動自在の回動体で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアップライトピアノのアクション。
【請求項4】
前記ジャックは、上下方向に延び、前記係合位置において前記バットに係合するハンマー突上げ部を有しており、
前記回動体は、
前記ハンマーが前記復帰回動を再開したときに、前記キャッチャーおよび前記ハンマー突上げ部にそれぞれ当接するキャッチャー当接部およびジャック当接部を有し、
前記ハンマーが前記復帰回動を再開したときに、前記キャッチャーが前記キャッチャー当接部を押圧することにより、前記回動体が前記軸線を中心として回動することによって、前記ジャック当接部が前記ハンマー突上げ部を押圧し、前記ジャックを前記係合位置側に復帰回動させることを特徴とする請求項3に記載のアップライトピアノのアクション。
【請求項5】
前記鍵は、左右方向に並ぶように複数の鍵で構成され、前記ハンマー、前記ウィッペンおよび前記ジャックは前記鍵ごとに設けられており、
前記ジャックと前記キャッチャーの間に配置され、前記複数の鍵の並び方向に沿って水平に延びる単一のレールをさらに備え、
前記回動体は、前記レールに前記鍵ごとに回動自在に設けられた複数の回動体で構成されていることを特徴とする請求項3または4に記載のアップライトピアノのアクション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−215150(P2006−215150A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26156(P2005−26156)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)