説明

アップライトピアノのジャック動作規制装置

【課題】 単純な構成で、ジャックの静止位置を一定に維持することにより、ジャックの所期の動作を得ることができるアップライトピアノのジャック動作規制装置を提供する。
【解決手段】 押鍵に伴って作動するジャック13が当接することによって、ジャック13の動作を規制するアップライトピアノのジャック動作規制装置15,20であって、ジャック13の付近に設けられた基部15a,20aと、寸法安定性を有する材料で構成され、基部15a,20aに貼り付けられたベース層16a,20bと、耐摩耗性および柔軟性を有する材料で構成され、ベース層16a,20bに接合され、ジャック13が当接する表面層16b,20cと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャックが当接することによって、ジャックの動作を規制する、バットやレギュレティングボタンなどのアップライトピアノのジャック動作規制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアップライトピアノのバットやレギュレティングボタンとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。バットは、ハンマー組立て品の一部として、ハンマーと一体に設けられており、合成樹脂の成形品で構成されている。バットの前面の下端部には、バットフェルトが設けられており、このバットフェルトは、通常、羊毛のフェルトで構成され、ブロック状に形成されている。レギュレティングボタンは、レギュレティングレールの下面に固定されており、円柱状の合成樹脂の成形品で構成されていて、その下面には皮革が貼り付けられている。
【0003】
離鍵状態においては、ジャックは、ハンマー突上げ部によって、バットを含むハンマー組立て品を支持するとともに、バットフェルトの前面に斜めに当接しており、それにより、離鍵状態におけるジャックの静止位置が規定されている。また、レギュレティングボタンは、離鍵状態においては、ジャックの基部の上方に所定の間隔を存して位置している。
【0004】
鍵が押鍵されると、鍵によってウィッペンが突き上げられ、ジャックは、ウィッペンと一緒に上方に移動し、ハンマー組立て品を突き上げる。その途中で、レギュレティングボタンの皮革にジャックの基部が当接することによって、ジャックの動作が規制される。それにより、ジャックは、その基部が皮革の表面を摺動しながらウィッペンに対して回動し、ハンマー突上げ部が、バットから前方に離脱し(レットオフ)、その直後にハンマーが弦を打弦することによって、ピアノ音が発生する。
【0005】
鍵が離鍵されると、ジャックは、ウィッペンとともに下方に移動するのに伴い、ジャックスプリングによって押鍵時と逆方向に回動する。そして、ハンマー突上げ部が、復帰回動したバットのバットフェルトに当接することにより、ジャックの回動が規制される。ジャックがバットフェルトに当接したときの衝撃は、バットフェルトによって緩和され、それにより、雑音の発生が防止される。
【0006】
しかし、上述したアップライトピアノでは、バットフェルトが天然繊維である羊毛で構成されているので、湿度の変化に応じて膨張または収縮しやすい。上述したように、離鍵状態におけるジャックの静止位置は、バットフェルトによって規定されるので、バットフェルトの厚さが変化すると、それに応じて、ジャックの静止位置が適正位置に対してずれてしまう。その結果、鍵のタッチ感やレットオフなどのタイミングが変化し、タッチコントロールに支障をきたすおそれがある。
【0007】
また、バットフェルトには、復帰回動するジャックが押鍵ごとに強く当接するので、そのような当接が反復して行われることによって、バットフェルトの弾性が次第に失われ、圧縮変形した状態のまま復元しなくなってしまう。その場合には、ジャックの静止位置がバットの奥側にずれ、鍵のタッチ感などがやはり変化してしまう。さらに、ジャックは、基本的に回動動作を行うので、バットフェルトなどに当接した状態において、バットフェルトに対して摺動するような動作を行う。このため、バットフェルトが摩耗することによって、バットフェルトの厚さが変化し、上記のような不具合が同様に発生するおそれがある。
【0008】
また、上記のような不具合を解消するために、バットフェルトを、レギュレティングボタンの皮革のような、より硬質の材料で構成することが考えられるが、その場合には、ジャックの衝突時に雑音が発生しやすく、演奏に支障をきたすおそれがある。
【0009】
一方、レギュレティングボタンの下面には皮革が貼り付けられているので、押鍵時、特に鍵を強打し、ジャックがレギュレティングボタンに強く当接したときに、やはり雑音が発生するおそれがある。このような不具合を解消するために、皮革に代えてバットフェルトのようなフェルトを用いることが考えられる。しかし、その場合には、上述したように、フェルトが、湿度の変化に応じて伸縮したり、押鍵に伴ってジャックがレギュレティングボタンの表面を摺動することで摩耗したりすることによって、レギュレティングボタンの厚さが変化してしまう。その結果、ジャックのレギュレティングボタンに対する当接位置が適正位置に対してずれるので、レットオフのタイミングがやはり変化し、タッチコントロールに支障をきたすおそれがある。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、単純な構成で、ジャックの動作の規制位置を一定に維持することにより、ジャックの所要の動作を安定して確保することができるアップライトピアノのジャック動作規制装置を提供することを目的としている。
【0011】
【特許文献1】特開平5−323953号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、押鍵に伴って作動するジャックが当接することによって、ジャックの動作を規制するアップライトピアノのジャック動作規制装置であって、ジャックの付近に設けられた基部と、寸法安定性を有する材料で構成され、基部に貼り付けられたベース層と、耐磨耗性および柔軟性を有する材料で構成され、ベース層に貼り付けられ、ジャックが当接する表面層と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
このアップライトピアノのジャック動作規制装置は、基部と、この基部に順に貼り付けられたベース層および表面層を有している。ベース層は寸法安定性を有しており、表面層は耐摩耗性および柔軟性を有していて、押鍵に伴い、ジャックが表面層に当接することによって、ジャックの動作が規制される。
【0014】
この構成によれば、ベース層が寸法安定性を有しているので、ジャックが表面層に当接することで、表面層を介して荷重がベース層に繰り返し作用した場合や、湿度などの周囲の環境が変化した場合にも、ベース層の厚さはほとんど変化しない。また、表面層が耐摩耗性を有しているので、ジャックが摺動することによる表面層の摩耗も抑制される。以上により、ベース層および表面層の全体の厚さがほぼ一定に保たれるので、これらによって定められるジャックの動作の規制位置をほぼ一定に維持でき、それにより、ジャックの所要の動作を安定して確保することができる。
【0015】
また、表面層が柔軟性を有していることにより、ジャックが当接したときの衝撃が緩和されるとともに、雑音の発生を防止することができる。以上のように、ベース層に表面層を貼り付けただけの単純な構成により、従来のような単一の材料で構成した場合と異なり、ジャック規制装置に要求される様々な機能を実現することができる。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアップライトピアノのジャック動作規制装置において、ベース層は、化学繊維で構成されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、ベース層が化学繊維で構成されているので、湿度の変化に伴うベース層の厚さの変化量を非常に小さくすることができ、上述した請求項1に係る発明による効果を確実に得ることができる。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のアップライトピアノのジャック動作規制装置において、表面層は、フッ素樹脂の繊維で構成されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、表面層は、フッ素樹脂の繊維で構成されることにより、柔軟性および耐摩耗性を有する。したがって、上述した請求項1に係る発明による効果を、良好に得ることができる。また、フッ素樹脂の繊維は、高い滑性も有しているので、ジャックは、表面層に当接した後、それに沿ってスムーズに摺動できるとともに、摺動による表面層の磨耗をさらに抑制することができる。また、フッ素樹脂は比較的高価であるので、表面層にのみフッ素樹脂の繊維を用いることにより、製造コストを抑制することができる。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のアップライトピアノのジャック動作規制装置において、ジャック動作規制装置は、離鍵に伴って復帰回動するジャックが当接することにより、離鍵状態におけるジャックの静止位置を規定するバットであることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、ジャック動作規制装置はバットであり、従来のバットフェルトに相当する部分を、ベース層および表面層で構成することによって、離鍵状態におけるジャックの静止位置をほぼ一定に維持でき、したがって、安定した鍵のタッチ感およびレットオフのタイミングを得ることができる。
【0022】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載のアップライトピアノのジャック動作規制装置において、ジャック動作規制装置は、押鍵に伴って上昇するジャックが当接することにより、ジャックを回動させ、レットオフを行わせるレギュレティングボタンであることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、ジャック動作規制装置はレギュレティングボタンであることにより、押鍵時におけるジャックの当接位置をほぼ一定に維持でき、したがって、安定したレットオフのタイミングを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明を適用したアップライトピアノのアクション1、鍵盤2およびハンマー3などを、離鍵状態において示している。なお、以下の説明では、演奏者側から見たときのアップライトピアノの手前側を「前」、奥側を「後」として説明する。
【0025】
鍵盤2は、アップライトピアノの左右方向に並んだ多数の鍵2a(1つのみ図示)によって構成されている。また、各鍵2aは、前後方向(図1の左右方向)に延び、その中央において、棚板(図示せず)上の筬5に立設されたバランスピン5aに回動自在に支持されている。また、筬5の後方には、バックレール6が設けられており、各鍵2aの後端部は、このバックレール6に載置されている。
【0026】
棚板の左右の端部には、アクションブラケット(図示せず)がそれぞれ設けられている。アクション1は、鍵盤2の後端部の上方に配置され、両アクションブラケットの間に設けられている。アクション1は、ウィッペン11、ジャック13およびバット15(ジャック動作規制装置)などを有しており、これらは、鍵2aごとに設けられている(いずれも1つのみ図示)。
【0027】
左右のアクションブラケットの間には、センターレール29およびハンマーレール30などが渡されており、このセンターレール29に、ウィッペンフレンジ12およびバットフレンジ17が、鍵2aごとにねじ止めされている(ともに1つのみ図示)。ウィッペン11は、後端部において、ウィッペンフレンジ12に回動自在に支持されている。また、バット15は、ハンマー3などとともにハンマー組立て品4を一体に構成しており、その下端部において、バットフレンジ17にセンターピン15dを介して回動自在に支持されている。
【0028】
ウィッペン11は、例えば合成樹脂によって所定の形状に形成され、その前部から下方に突出するヒール部11aを有しており、対応する鍵2aの後端部に設けたキャプスタンボタン2bに、ヒール部11aを介して載置されている。また、ウィッペン11の上面前端部には、バックチェックワイヤ18aが立設されており、その先端部にバックチェック18が取り付けられている。また、ウィッペン11の上面の後端部には、後述するダンパー25を駆動するためのスプーン19が立設されている。また、このスプーン19のすぐ前方には、前述したウィッペンフレンジ12が配置されており、このウィッペンフレンジ12は、その上部においてセンターレール29に固定されている。
【0029】
ジャック13は、例えばABS樹脂によって構成されており、前後方向に延びる基部13aと、基部13aの後端部から上方に延びるハンマー突上げ部13bを有している。ジャック13は、その基部13aとハンマー突上げ部13bとの角部において、ウィッペン11のバックチェックワイヤ18aよりも後方の位置に、ピン状の支点13cを介して回動自在に支持されている。また、基部13aとウィッペン11の間には、コイルばねで構成されたジャックスプリング14が設けられている。
【0030】
また、センターレール29には、前方に延びる複数のレギュレティングブラケット21(1つのみ図示)が設けられており、その前端部には、左右方向に延びるレギュレティングレール22が取り付けられている。このレギュレティングレール22には、レギュレティングスクリュー22aが、鍵2aごとに上方からねじ込まれ、下方に突出しており(1つのみ図示)、各レギュレティングスクリュー22aの下端部には、レギュレティングボタン20(ジャック動作規制装置)が固定されている。
【0031】
図2に示すように、レギュレティングボタン20は、上側から順に、基部20a、ベース層20b、および表面層20cを有している。基部20aは、合成樹脂、例えばABS樹脂の成形品で構成され、円柱状に形成されており、レギュレティングスクリュー22aに固定されている。ベース層20bは、寸法安定性を有する材料、例えば、レーヨンなどの高密度の化学繊維で構成され、基部20aの下面に、例えば両面テープで貼り付けられている。また、表面層20cは、柔軟性、耐摩耗性および滑性を有する材料、例えばフッ素樹脂の繊維で構成され、ベース層20bよりも薄く形成されており、ニードルパンチングで両者20b,20cの繊維を互いに絡めることにより、ベース層20bに接合されている。
【0032】
また、バット15は、バット本体15a(基部)と、これに貼り付けられたバットスキン15bおよびバットフェルト16などを有している。バット本体15aは、例えばABS樹脂で構成され、所定の形状に形成されている。バット本体15aの後面の下端部には、金属プレート15cがねじ止めされており、両者15a,15cの間には、バットフレンジ17の上部に通されたセンターピン15dが挟み付けられている。これにより、ハンマー組立て品4は、センターピン15dを中心として回動自在になっている。また、バット本体15aとバットフレンジ17の間には、バットスプリング15gが設けられており、それにより、ハンマー組立て品4は、図1の時計方向に付勢されている。
【0033】
図3に示すように、バット本体15aの前面の下部には、バットフェルト16が貼り付けられている。このバットフェルト16は、全体としてブロック状に形成されており、ベース層16aおよび表面層16bを有している。ベース層16aは、レギュレティングボタン20のベース層20bと同様、寸法安定性を有する化学繊維、例えばレーヨンの高密度の繊維で構成されている。また、ベース層16aは、所定の厚さを有し、例えば両面テープでバット本体15aに貼り付けられている。表面層16bもまた、レギュレティングボタン20の表面層20cと同様、柔軟性、耐摩耗性および滑性を有する材料、例えばフッ素樹脂の繊維で構成されており、ベース層16aよりも薄く形成されている。この表面層16bは、ニードルパンチングで両者16a,16bの繊維を互いに絡めることにより、ベース層16aに接合されている。
【0034】
また、バット本体15aには、バットフェルト16の上側に隣接して、アンダーフェルト15eおよびアンダークロス15fが、前後方向に並ぶように貼り付けられている。バットスキン15bは、両者15e,15fを覆うように、バット本体15aに貼り付けられている。
【0035】
また、バット15には、キャッチャーシャンク23aが設けられている。このキャッチャーシャンク23aは、バット本体15aから前方に延び、その前端部にはキャッチャー23が設けられており、前方のバックチェック18に対向している。
【0036】
ハンマー3もまた、鍵2aごとに設けられている(1つのみ図示)。ハンマー3は、バット15の上面に立設され、上方に延びるハンマーシャンク3a、およびその上端部に設けられたハンマーヘッド3bを有しており、ハンマーヘッド3bは、後方に張られた弦Sに対向している。また、センターレール29の後方には、ダンパー25が、鍵2aごとにダンパーフレンジ28に回動自在に取り付けられている。
【0037】
以上の構成により、離鍵状態では、図3に示すように、ジャック13のハンマー突上げ部13bの上端部が、バット15のバットスキン15bに係合するとともに、バットフェルト16の前面に、これに対して傾いた状態で当接している。このように、ジャック13は、バットフェルト16によって規定された静止位置において、ハンマー組立て品4を支持している。また、図2に示すように、ジャック13の基部13aは、レギュレティングボタン20との間に所定の間隙を存し、その下方に位置している。
【0038】
以下、上述したアップライトピアノの押鍵の開始から終了までの一連の動作について、説明する。演奏者により、図1に示す離鍵状態から鍵2aが押鍵されると、鍵2aは、バランスピン5aを中心として同図の時計方向に回動し、その後端部に載置されたウィッペン11は、鍵2aによって突き上げられることにより、上方(反時計方向)に回動する。このウィッペン11の回動に伴い、ウィッペン11に設けられたジャック13などが一緒に上方に移動し、ハンマー組立て品4は、バット15を介してジャック13のハンマー突上げ部13bで突き上げられることにより、後方の弦Sに向かって反時計方向に回動する。
【0039】
鍵2aがさらに回動すると、ジャック13の基部13aの前端部が、レギュレティングボタン20に下方から当接する。これにより、ジャック13は、レギュレティングボタン20により上方への移動が阻止されることによって、基部13aが表面層20c上を摺動しながら、ウィッペン11に対して時計方向に回動する。
【0040】
そして、鍵2aが、さらに回動したときに、ハンマー突上げ部13bがバット15から前方に外れ、ジャック13がハンマー組立て品4から離脱する(レットオフ)。その際、鍵2aのタッチ重さからハンマー組立て品4の重量分が失われ、タッチ重さが急激に減少することによって、演奏者にレットオフ感が付与される。
【0041】
ハンマー組立て品4は、ジャック13が離脱した後も慣性によって回動し、ハンマー3が弦Sを打弦し、振動させることによって、ピアノ音を発生させる。そして、ハンマー組立て品4は、弦Sの反発力によって、時計方向へ復帰回動する。
【0042】
押鍵が終了し、鍵2aが離鍵されるのに伴い、鍵2aおよびアクション1などは、押鍵時と逆方向に復帰回動する。具体的には、ウィッペン11が復帰回動するのに伴い、ジャック13は、ウィッペン11とともに下方に移動する。その際、ジャック13は、ジャックスプリング14の付勢力によって、反時計方向に復帰回動し、それに伴い、基部13aはレギュレティングボタン20の表面層20c上を摺動する。
【0043】
一方、ハンマー組立て品4は、バットスプリング15gの付勢力によって時計方向に復帰回動する。その途中で、復帰回動中のジャック13のハンマー突上げ部13bが、バット15の下側に入り込み、バットフェルト16の表面層16bに当接することによって、ジャック13の復帰回動が規制される。この当接の際の衝撃は、表面層16bが柔軟性を有していることにより吸収され、衝突音はほとんど発生しない。
【0044】
さらに離鍵が進むと、ジャック13はさらに下方に移動する。それにより、ハンマー突上げ部13bが、復帰回動中のハンマー組立て品4のバットフェルト16の表面層16b上を相対的に摺動し、また、基部13aがレギュレティングボタン20から離れることによって、ジャック13は、最終的に静止位置に復帰する。それにより、ハンマー組立て品4は、ジャック13によって支持された状態に復帰する。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、バットフェルト16のベース層16aが、レーヨンの高密度の繊維で構成され、寸法安定性を有しているので、離鍵時に、ジャック13から表面層16bを介して荷重が繰り返し作用した場合にも、ベース層16aの厚さはほとんど変化しない。また、表面層16bがフッ素樹脂の繊維で構成され、耐摩耗性および滑性を有しているので、ジャック13のバット突上げ部13bが摺動することによる表面層16bの摩耗も抑制される。また、ベース層16aおよび表面層16bの双方が、化学繊維で構成されているので、周囲の湿度が変化した場合でも、それらの厚さはほとんど変化しない。以上により、ジャック13からの反復荷重や湿度の変化に対して、バットフェルト16の全体の厚さがほぼ一定に保たれ、ジャック13の静止位置をほぼ一定に維持でき、したがって、安定した鍵2aのタッチ感およびレットオフのタイミングを得ることができる。
【0046】
また、表面層16bは、フッ素樹脂の繊維で構成され、柔軟性を有しているので、離鍵時に、ジャック13が当接したときの衝撃が緩和されるとともに、雑音の発生を防止することができる。
【0047】
また、レギュレティングボタン20は、バットフェルト16と基本的に同じ構成を有しているので、バットフェルト16による上述した効果を同様に得ることができる。すなわち、レギュレティングボタン20のベース層20bもまた、レーヨンの高密度の繊維で構成されているので、押鍵時にジャック13から表面層20cを介して荷重が繰り返し作用した場合にも、ベース層20bの厚さがほとんど変化しない。表面層20cもまた、フッ素樹脂の繊維で構成されているので、ジャック13が摺動することによる表面層20cの摩耗も抑制される。また、ベース層20bおよび表面層20cの双方が、化学繊維で構成されているので、湿度の変化に対し、それらの厚さはほとんど変化しない。以上により、ジャック13からの反復荷重や湿度の変化に対して、レギュレティングボタン20の全体の厚さがほぼ一定に保たれ、押鍵時のジャック13の当接位置をほぼ一定に維持でき、したがって、安定したレットオフのタイミングを得ることができる。
【0048】
以上のように、ベース層16a,20bに表面層16b,20cをそれぞれ貼り付けただけの単純な構成により、従来のような単一の材料で構成した場合と異なり、バット15およびレギュレティングボタン20に要求される様々な機能を実現でき、ジャック13の所要の動作を安定して確保することができる。また、フッ素樹脂は比較的高価であるので、表面層16b,20cにのみフッ素樹脂の繊維を用いることにより、製造コストを抑制することができる。
【0049】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、バットフェルト16のベース層16aおよびレギュレティングボタン20のベース層20bとして、レーヨンの高密度の繊維を用いているが、これに限定されることなく、湿度変化や反復荷重に対して寸法安定性を有する任意の材料を採用することができる。例えば、レギュレティングボタン20のベース層20bとして、他の化学繊維や、化学繊維と羊毛とを縮絨したフェルトや、人工スキンなどを用いてもよい。これらの材料は、比較的硬いので、ジャック13がレギュレティングボタン20に当接したときのベース層20bの変形量を抑制でき、それにより、レットオフのタイミングをさらに安定させることができる。
【0050】
バットフェルト16の場合には、レギュレティングボタン20と異なり、ジャック13に当接したときの瞬時の変形は問題にならず、ジャック13が静止している状態において厚さが安定していればよい。このため、バットフェルト16のベース層16aとして、レーヨンの高密度の繊維に代えて、より高い柔軟性を有する材料を用いてもよい。それにより、ベース層16aによって、ジャック13が当接したときの衝撃をさらに緩和するとともに、雑音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0051】
また、実施形態では、バットフェルト16のベース層16aおよび表面層16bと、レギュレティングボタン20のベース層20bおよび表面層20cを、それぞれ互いに同じ材料で構成したが、これに限定されることなく、それぞれに要求される特性に合わせ、互いに異なる材料で構成してもよい。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明によるジャック動作規制装置を適用したアップライトピアノの鍵盤、アクションおよびハンマーなどを、離鍵状態において示す側面図である。
【図2】図1のアクションのジャック、およびレギュレティングボタンなどを示す部分拡大側面図である。
【図3】図1のハンマー組み立て品のバットおよびその付近を示す部分拡大側面図である。
【符号の説明】
【0053】
2a 鍵
15 バット(ジャック動作規制装置)
15a バット本体(基部)
16a ベース層
16b 表面層
20 レギュレティングボタン(ジャック動作規制装置)
20a 基部
20b ベース層
20c 表面層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
押鍵に伴って作動するジャックが当接することによって、当該ジャックの動作を規制するアップライトピアノのジャック動作規制装置であって、
前記ジャックの付近に設けられた基部と、
寸法安定性を有する材料で構成され、前記基部に貼り付けられたベース層と、
耐摩耗性および柔軟性を有する材料で構成され、前記ベース層に貼り付けられ、前記ジャックが当接する表面層と、
を備えていることを特徴とするアップライトピアノのジャック動作規制装置。
【請求項2】
前記ベース層は、化学繊維で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアップライトピアノのジャック動作規制装置。
【請求項3】
前記表面層は、フッ素樹脂の繊維で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアップライトピアノのジャック動作規制装置。
【請求項4】
前記ジャック動作規制装置は、離鍵に伴って復帰回動する前記ジャックが当接することにより、離鍵状態における前記ジャックの静止位置を規定するバットであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のアップライトピアノのジャック動作規制装置。
【請求項5】
前記ジャック動作規制装置は、押鍵に伴って上昇する前記ジャックが当接することにより、当該ジャックを回動させ、レットオフを行わせるレギュレティングボタンであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のアップライトピアノのジャック動作規制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−212785(P2007−212785A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32901(P2006−32901)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)