説明

アップライトピアノのソステヌート装置

【課題】アップライトピアノにソステヌート装置を備えさせようとする試みは従来からなされているが、いずれも、演奏中の手に違和感が生じてしまう。
【解決手段】ダンパーレバー7に取付けられ、その下端より下方に突出する剛性のブラケット25と、その下端より下方に突出するバネ性のフィン49と、ソステヌートペダルの踏込み操作により回動するソステヌートロッド63と、その外周面から外方に突出し、ソステヌートロッド63の回動によりフィン49の移動経路に出入りする係止突起65とを備えるソステヌート装置。軽量化と剛性アップの要求に答えており、しかも、作動中に、別の鍵に対応するダンパーレバー7の回動動作を妨げず、演奏中の手に違和感は生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アップライトピアノのソステヌート装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グランドピアノには、ソステヌートペダルの踏込み操作により、特定の鍵の発音を長く持続させるソステヌート装置が通常備えられている。このソステヌート装置が備えられたことにより、ある鍵の発音を持続しながら、次の鍵を弾いてその演奏音も発することができ、演奏テクニック上の有利な効果を得ることができる。
アップライトピアノにも、特許文献1に記載のように、ソステヌート装置が備えられたものはある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−40196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ソステヌート装置が備えられたアップライトピアノは、いずれも、ダンパー機構に影響を与えるので、演奏中手に違和感が生じてしまう。
それ故、アップライトピアノに関しては、ソステヌート装置について未だ積極的には活用されていない。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、演奏中手に違和感が生じないように工夫されたアップライトピアノ用のソステヌート装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、鍵の押下げ操作によりダンパーレバーを弦から離れる方向に回動させるダンパー機構を備えるアップライトピアノのソステヌート装置において、前記ダンパーレバーに取付けられ、前記ダンパーレバーの下端より下方に突出する剛性のブラケットと、前記ブラケットに取付けられ、前記ブラケットの下端より下方に突出するバネ性のフィンと、ソステヌートペダルの踏込み操作により回動するソステヌートロッドと、前記ソステヌートロッドの外周面から外方に突出し、前記ソステヌートロッドの回動により前記フィンの移動経路に出入りする係止突起とを備えることを特徴とするソステヌート装置である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載したアップライトピアノのソステヌート装置において、ブラケットは水平部分を有するアングル材で構成されていることを特徴とするソステヌート装置である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載したアップライトピアノのソステヌート装置において、フィンも水平部分を有するアングル材で構成されており、前記ブラケットの水平部分に前記フィンの水平部分が上側から当てられて取付けられていることを特徴とするソステヌート装置。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載したアップライトピアノのソステヌート装置において、ブラケットの下部は先細り状になっていることを特徴とするソステヌート装置である。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載したアップライトピアノのソステヌート装置において、ブラケットには貫通孔が形成されていることを特徴とするソステヌート装置である。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1から5のいずれかに記載したアップライトピアノのソステヌート装置において、ソステヌートロッドの係止突起に当接され係止されるフィン部分にマイクロファイバーが絡み合う三次元不織布が取付けられていることを特徴とするソステヌート装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアップライトピアノのソステヌート装置によれば、演奏中手に違和感を生じさせない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係るアップライトピアノのダンパー機構とソステヌート装置を示す斜視図である。
【図2】図1の分解斜視図である。
【図3】図1のブラケットの側面図と正面図である。
【図4】図1のソステヌート装置の作動前と作動中の状態変化を比較説明する側面図である。
【図5】図1のソステヌート装置の作動中に別の鍵を押下げてダンパー機構を作動したときの状態を説明する斜視図である。
【図6】別例のブラケットの斜視図である。
【図7】図6のブラケットの側面図と正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態に係るアップライトピアノのソステヌート装置を、図1から図5にしたがって説明する。
図1にアップライトピアノ1のダンパー機構やソステヌート装置に関わる要部が示されている。アップライトピアノ1のダンパー機構は周知のものであり、ダンパーレバーレール3に取付けられた支持部材5に対してダンパーレバー7がピン9によって弦11に向けて回動自在に支持されている。このダンパーレバー7の上端部からは上方に向かってダンパーワイヤー13が延び、このダンパーワイヤー13の先端にはダンパーヘッド15と一体になったダンパーブロック17が取付けられている。ダンパーヘッド15には弦11に当接する側にダンパーフェルト19が設けられている。また、ダンパーレバー7と支持部材5とに両端が固定されたダンパーレバースプリング21が設けられており、ダンパーレバースプリング21によりダンパーレバー7はダンパーヘッド15のダンパーフェルト19が弦11に当接する方向に付勢されている。なお、図示されていないが、ダンパーレバー7に相対してストップレールが設けられている
【0015】
上記の構成のダンパー機構を有するアップライトピアノ1に、以下の構成のソステヌート装置が備えられている。
支持部材5より下側に位置するダンパーレバー7の下部は弦11に相対しない側の面が切欠かれて平坦な段差部23が形成されている。
【0016】
符号25はブラケットを示し、このブラケット25は縦長矩形の板材の下部を2回略直角に屈曲させてなる断面略Z字状のアングル材で構成されている。ブラケット25は剛性の鋼材で形成されている。
図3に示すように、ブラケット25は上下方向で分けると3つの部分で構成されており、上側部分27と中間部分29は断面略I字状の部分である。上側部分27と中間部分29は境界で若干屈曲されており、図3の側面図で見て、境界部分28が右方向に凸となる山状になっている。下側部分31は断面略L字状になっているが、上下に延びた部分は若干右上方向に持ち上がっており、屈曲角度は90°より若干大きくなっている。
また、図3の正面図に示すように、ブラケット25の上側部分27の下端側から下側部分31の下端に向かって僅かではあるが徐々に幅狭になっている。
【0017】
このブラケット25は、L字状に屈曲した下側部分31が弦11と反対側に突出するように配置された状態で、上側部分27が上記した段差部23に当てられており、ボルト33、ナット35で構成されたボルト・ナット締結手段のボルト33がブラケット25側から予め形成されたブラケット側挿通穴37とダンパーレバー側挿通穴39に挿通され、締結されて固定されている。ブラケット25の板厚寸法は段差部23の凹み寸法と略同じになっており、段差部23に入り込んだブラケット25とダンパーレバー7との間には殆ど段差は形成されない。
【0018】
符号41はレバーフェルトを示し、このレバーフェルト41は帯状をしており、幅寸法はブラケット25の幅寸法と略同じになっている。レバーフェルト41によって、ダンパーレバー7の下部とブラケット25の上側部分27が覆われている。レバーフェルト41上にはさらに角形のロッドフェルト43とスプーンフェルト45が上下に配されている。
【0019】
符号47はブラケット用スキンを示し、このブラケット用スキン47は帯状をしており、その幅方向の寸法はブラケット25の幅方向の寸法と略同じになっている。ブラケット用スキン47として、マイクロファイバーが絡み合う三次元不織布のうち特に「登録商標:エクセーヌ」で販売されている製品(東レ株式会社製造)を使用する。この製品は天然スエードと同じような構造の人工皮革である。この製品はフェルトより磨耗に強い。
ブラケット用スキン47はブラケット25の下側部分31の正面側(図3の正面図で見える側)の大部分を殆ど覆った後下端で背面側に折り返され、背面側も若干だが覆っている。
【0020】
符号49はフィンを示し、このフィン49は帯状の板バネ材で形成されている。フィン49の幅寸法はブラケット25の幅寸法より若干小さくなっている。フィン49は途中で屈曲されてL字状のアングル材になっており、長い部分が上下方向を向くように配される。なお、上下に延びた長い部分は若干右上方向に持ち上がって、屈曲角度は90°より若干大きくなっている。従って、フィン49の屈曲部分の屈曲角度はブラケット25の下側部分31の屈曲角度と略同じになっている。また、長い部分は下端に向かって徐々に幅狭になっている。
符号51はフィン用スキンを示し、このフィン用スキン51は帯状をしており、その幅方向の寸法はフィン49の幅方向の寸法と略同じになっている。フィン用スキン51としてブラケット用スキン47と同じ製品が使用されている。
フィン用スキン51はフィン49の正面側の下部を覆った後下端で背面側に折り返され、背面側も正面側と同様の長さだけ覆われている。
【0021】
ブラケット25のL字状の下側部分31の水平部分に、L字状のフィン49の水平部分が上側から当てられ、上下部分も重ね合わされて、それぞれの屈曲部分が相対している。また、フィン49はブラケット25を超えて下方に延びており、フィン49のスキン51で覆われた部分が丁度下方に延出している。
ブラケット25に対して、フィン49は、ボルト53、ナット55、座金57で構成されたボルト・ナット締結手段のボルト53がフィン49側から予め水平部分に形成されたフィン側挿通穴59とブラケット側挿通穴61に挿通され、締結されて固定されている。
【0022】
符号63は円柱状のソステヌートロッドを示し、このソステヌートロッド63は全ての弦11のためのダンパー機構を横切って延びるように配されている。ソステヌートロッド63はソステヌートペダル(図示省略)の踏込み操作により図1等の矢印に示すように、反時計方向に回動するようになっている。
ソステヌートロッド63の外周面には係止突起65が一体に形成されている。この係止突起65はソステヌートロッド63の両端近くまで延在しており、断面形状は同じになっている。ソステヌートペダルの踏込み操作によりソステヌートロッド63が回動したときには係止突起65がソステヌートロッド63上に起立した姿勢になるが、このときの左側の面は略平坦面67になっており、右側の面は外方に向かって膨出した湾曲面69になっている。
ソステヌートロッド63は上方に位置するフィン49に近接しており、ソステヌートロッド63の回動により係止突起65がフィン49の移動経路に出入りできるようになっている。
【0023】
次にアップライトピアノ1に備えられたソステヌート装置の作動前と作動中の状態変化を、図4にしたがって説明する。
演奏時にある鍵を押下げると、ダンパースプーン(図示省略)がスプーンフェルト45に当接して、ダンパーレバー7がダンパーレバースプリング21の付勢力に抗して時計回りに回動し、ダンパーヘッド15のダンパーフェルト19が弦11から離れる。同時に、打弦機構のハンマー(図示省略)により弦11が打弦されて発音される。その後、当該鍵を離して復帰させると、ダンパーレバー7がダンパーレバースプリング21の付勢力によって初期状態に戻るため、ダンパーヘッド15のダンパーフェルト19が弦11に当接して当該鍵に対応する弦11の振動を抑制して止音する。
【0024】
しかしながら、当該鍵の発音を持続させたい場合には、従来と同じように当該鍵を押下げ、そのままの状態を保ちつつソステヌートペダルを踏込み操作する。すると、ソステヌート装置が作動して、ソステヌートロッド63が矢印に示すように反時計回りに回動して、係止突起65が上記した起立姿勢になり、踏込み中はその起立姿勢が保持される。起立姿勢では、係止突起65はフィン49の移動経路内にある。従って、当該鍵を離して復帰させても、当該鍵のダンパーレバー7に一体に取付けられたフィン49は係止突起65の略平坦面67に当接して係止されるため、ダンパー機構は働かず、当該鍵に対応する弦11は開放状態に放置される。従って、当該鍵に対応する弦11の発音は持続する。なお、当該鍵を再び押下げて改めて発音させることはできる。
ソステヌートペダルの踏込み操作を解除すると、ソステヌート装置の作動は解除され、ソステヌートロッド63は時計回りに回動して、係止突起65はフィン49の移動経路から出て待機位置まで戻る。従って、当該鍵に対応するダンパーレバー7についても再びダンパー機構が働くようになる。
【0025】
ソステヌート装置の作動中に別の鍵を押下げてダンパー機構を作動したときの状態を、図5にしたがって説明する。
ソステヌート装置が作動している状態で、別の鍵を押下げると、その鍵に対応するダンパーレバー7に一体に取付けられているフィン49は係止突起65の湾曲面69に当接して弾性的に逃げられる。従って、その鍵に対応するダンパーレバー7自体は時計回りに十分に回動して、その鍵についてはダンパー機構を働かせることができる。
【0026】
上記のソステヌート装置によれば、ブラケット25の中間部分29と下側部分31が下方に向かって先細りになっているので、軽量化が図れている。また、ブラケット25が平坦な板材を屈曲させたアングル材で構成されているので、板材をそのままダンパーレバー7に取付けた場合より、ピン9からの距離が短くなっている。従って、慣性モーメントが小さくなっており、ダンパーレバー7を回動させたときに、ダンパーレバー7がバタバタと踊るようなことはない。従って、演奏中の手に違和感が生じない。
また、ブラケット25は十分な大きさを有する剛性の材料で構成され、しかも、曲げ加工されて加工硬化が期待できるアングル材が使用されているので、撓み難く、演奏中の手にべたつくような違和感が生じることもない。
【0027】
さらに、ソステヌート装置の作動中に、別の鍵が押下げられたときにはその鍵に対応するダンパーレバー7に取付けられたバネ性のフィン49が係止突起65の湾曲面69に当接して弾性的に逃げられるので、鍵の押下げ操作が重くなったりすることはない。このフィン49はアングル材が使用されており、ブラケット25に固定された部分から長く延出しているので、強過ぎもせず弱過ぎもしない適度な強さのバネ性が安定して得られる。
【0028】
図6、図7に別例のブラケット71を示す。このブラケット71は貫通孔73が複数上下方向に形成されていることを除いては、ブラケット25と同じである。このように貫通孔73を形成することによってより一層軽量化が図れている。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、上記の実施の形態ではナットを使用しているが、ブラケットにネジ山を切ってナットを使わないように変更して、更なる軽量化を図ってもよい。
また、上記の実施の形態では、ダンパーレバーはダンパーレバーレールに取付けられているが、センターレールに取付けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のソステヌート装置を備えたアップライトピアノは、ソステヌート装置を作動させても、実用の演奏に耐えられる。
【符号の説明】
【0031】
1‥アップライトピアノ
3‥ダンパーレバーレール 5‥支持部材
7‥ダンパーレバー 9‥ピン
11‥弦 13‥ダンパーワイヤー
15‥ダンパーヘッド 17‥ダンパーブロック
19‥ダンパーフェルト 21‥ダンパーレバースプリング
23‥段差部 25‥ブラケット
27‥上側部分 28‥境界部分
29‥中間部分 31‥下側部分
33‥ボルト 35‥ナット
37‥ブラケット側挿通穴 39‥ダンパーレバー側挿通穴
41‥レバーフェルト 43‥ロッドフェルト
45‥スプーンフェルト 47‥ブラケット用スキン
49‥フィン 51‥フィン用スキン
53‥ボルト 55‥ナット
57‥座金 59‥フィン側挿通穴
61‥ブラケット用挿通穴 63‥ソステヌートロッド
65‥係止突起 67‥略平坦面
69‥湾曲面
71‥ブラケット(別例) 73‥貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の押下げ操作によりダンパーレバーを弦から離れる方向に回動させるダンパー機構を備えるアップライトピアノのソステヌート装置において、
前記ダンパーレバーに取付けられ、前記ダンパーレバーの下端より下方に突出する剛性のブラケットと、前記ブラケットに取付けられ、前記ブラケットの下端より下方に突出するバネ性のフィンと、ソステヌートペダルの踏込み操作により回動するソステヌートロッドと、前記ソステヌートロッドの外周面から外方に突出し、前記ソステヌートロッドの回動により前記フィンの移動経路に出入りする係止突起とを備えることを特徴とするソステヌート装置。
【請求項2】
請求項1に記載したアップライトピアノのソステヌート装置において、
ブラケットは水平部分を有するアングル材で構成されていることを特徴とするソステヌート装置。
【請求項3】
請求項2に記載したアップライトピアノのソステヌート装置において、
フィンも水平部分を有するアングル材で構成されており、前記ブラケットの水平部分に前記フィンの水平部分が上側から当てられて取付けられていることを特徴とするソステヌート装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載したアップライトピアノのソステヌート装置において、
ブラケットの下部は先細り状になっていることを特徴とするソステヌート装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載したアップライトピアノのソステヌート装置において、
ブラケットには貫通孔が形成されていることを特徴とするソステヌート装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載したアップライトピアノのソステヌート装置において、
ソステヌートロッドの係止突起に当接され係止されるフィン部分にマイクロファイバーが絡み合う三次元不織布が取付けられていることを特徴とするソステヌート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−217626(P2010−217626A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65515(P2009−65515)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(594130813)東洋ピアノ製造株式会社 (3)