説明

アップライトピアノのダンパー装置

【課題】 長期にわたって使用された場合でも、ダンパーの適正な動作を維持することができるアップライトピアノのダンパー装置を提供する。
【解決手段】 押鍵に伴って回動するウィッペン6と、一端部においてウィッペン6に連結されたコード25と、ダンパーレバーフレンジ21と、上下方向に延び、その中央において、左右方向に延びる軸線を中心としてダンパーレバーフレンジ21に回動自在に支持されるとともに、コード25の他端部が連結されたダンパー20と、ダンパー20を弦S側に付勢し、離鍵状態において、ダンパー20に弦Sを押圧させるダンパーレバースプリング24と、を備え、ダンパー20は、押鍵に伴ってウィッペン6が回動する際、コード25により牽引されることによって、ダンパーレバースプリング24のばね力に抗して回動し、弦Sから離れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵の押鍵に伴い、弦から離れることによりピアノ音の発生を許容するとともに、鍵の離鍵に伴い、発生したピアノ音を止音するために弦を押圧するアップライトピアノのダンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のダンパー装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このダンパー装置は、一般的なダンパー装置と同様に構成されており、センターレールに固定されたダンパーレバーフレンジ(支持部材)と、このダンパーレバーフレンジに回動自在に設けられたダンパーレバーと、ダンパーレバーの上端部にダンパーレバーワイヤを介して設けられたダンパーヘッドを有している。ダンパーレバーは、ダンパーレバースプリングによって、後方に配置された弦側に付勢されており、それにより、離鍵状態においてダンパーヘッドが弦を押圧する。
【0003】
また、ダンパーレバーの前面の下端部にはフェルトが貼り付けられており、ウィッペンの後端部には、ダンパーレバーのフェルトに対向するようにスプーンが立設されている。このスプーンは、通常、真鍮などの硬い金属で構成され、幅が狭く形成されている。
【0004】
押鍵に伴い、スプーンは、ウィッペンと一緒に回動し、フェルトに当接する。これにより、ダンパーレバーが駆動され、ダンパーレバースプリングのばね力に抗して回動することによって、ダンパーヘッドが弦から離れ、その直後の打弦による弦の振動、およびそれによるピアノ音の発生が許容される。また、離鍵に伴い、ダンパーレバースプリングのばね力により、ダンパーレバーが弦側に回動し、ダンパーヘッドが弦を押圧することによって、弦の振動およびピアノ音の発生が停止される。
【0005】
上述したように、この従来のダンパー装置では、押鍵に伴ってダンパーレバーが駆動される際、幅が狭く硬い金属製のスプーンが、ダンパーレバーのフェルトに当接する。そして、このようなスプーンの当接が押鍵ごとに繰り返し行われるので、長期にわたる使用により、スプーンとのフェルトの当接部分が集中的に削られ、薄くなってしまう。その結果、押鍵時にスプーンがフェルトに当接するタイミングが遅れることにより、ダンパーレバーの動作の開始タイミングが遅れるようになるため、ダンパーの適正な動作を確保することができない。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、長期にわたって使用された場合でも、ダンパーの適正な動作を維持することができるアップライトピアノのダンパー装置を提供する。
【0007】
【特許文献1】特開平7−230278号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、鍵の押鍵に伴い、弦から離れることによりピアノ音の発生を許容するとともに、鍵の離鍵に伴い、発生したピアノ音を止音するために弦を押圧するアップライトピアノのダンパー装置であって、押鍵に伴って回動するウィッペンと、一端部においてウィッペンに連結されたコードと、ダンパーレバーフレンジと、上下方向に延び、その中央において、左右方向に延びる軸線を中心としてダンパーレバーフレンジに回動自在に支持されるとともに、コードの他端部が連結されたダンパーと、ダンパーを弦側に付勢し、離鍵状態において、ダンパーに弦を押圧させるダンパーレバースプリングと、を備え、ダンパーは、押鍵に伴ってウィッペンが回動する際、コードにより牽引されることによって、ダンパーレバースプリングのばね力に抗して回動し、弦から離れることを特徴とする。
【0009】
このアップライトピアノのダンパー装置によれば、離鍵状態では、ダンパーレバースプリングのばね力によって、ダンパーが弦側に回動した状態で弦を押圧するとともに、押鍵に伴ってウィッペンが回動すると、ダンパーは、ウィッペンとダンパーとの間に連結されたコードで牽引されることによって、ダンパーレバースプリングのばね力に抗して回動する。それにより、ダンパーが弦から離れ、弦の振動によるピアノ音の発生が許容される。
【0010】
このように、ダンパーは、コードで牽引されることにより回動するので、押鍵が繰り返し行われたとしても、従来のダンパー装置のようなスプーンの当接によるダンパーの損傷は全く生じない。その結果、アップライトピアノが長期にわたって使用された場合でも、ダンパーの回動の開始タイミングを一定に維持でき、ダンパーの適正な動作を維持することができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアップライトピアノのダンパー装置において、ウィッペンには、ダンパーに近接する部位に、ワイヤが立設され、コードの一端部は、ワイヤに連結されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、コードの一端部が、ウィッペンに立設されたワイヤに連結されているので、ワイヤを曲げることにより、ワイヤとダンパーの間に連結されたコードの緩みを調整できる。これにより、押鍵に伴ってコードがダンパーを牽引し始めるタイミングを調整でき、したがって、ダンパーが弦から離れるタイミングを容易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるアップライトピアノのダンパー装置1、鍵盤2およびアクション3などを、離鍵状態において示している。なお、以下の説明では、演奏者側から見たときのアップライトピアノの手前側を「前」、奥側を「後」として説明する。
【0014】
鍵盤2は、左右方向に並んだ多数の鍵2a(1つのみ図示)によって構成されている。各鍵2aは、前後方向(図1の左右方向)のほぼ中央において、筬5に立設されたバランスピン5aを介して、筬5に回動自在に支持されている。また、アクション3は、鍵盤2の後端部の上方に配置されており、棚板4に載置された複数のアクションブラケット(図示せず)に取り付けられている。アクション3は、ウィッペン6、バット7およびジャック8などを鍵2aごとに有している(いずれも1つのみ図示)。
【0015】
複数のアクションブラケットの間には、センターレール9が渡されており、その下端部には、ウィッペンフレンジ6aが鍵2aごとにねじ止めされている(1つのみ図示)。ウィッペン6は、例えば合成樹脂の成形品で構成され、前後方向に長い所定の形状を有しており、その後部において、ウィッペンフレンジ6aに回動自在に取り付けられている。また、ウィッペン6は、その前部において、鍵2aの後端部に設けられたキャプスタンスクリュー2bに載置されている。
【0016】
ジャック8はウィッペン6に回動自在に取り付けられており、両者8、6の間には、ジャックスプリング8aが設けられている。また、センターレール9の前面上端部にはバットフレンジ7aが固定されており、バット7は、このバットフレンジ7aに回動自在に取り付けられている。
【0017】
また、バット7にはハンマー10が一体に設けられており、両者7、10によってハンマー組立て品11が構成されている。ハンマー組立て品11は、バット7の下端部を介してジャック8に支持されており、ハンマー10は、後方に張られた弦Sに対向している。また、バット7とバットフレンジ7aの間には、ハンマー組立て品11を弦Sと反対側(前側)に付勢するバットスプリング7bが設けられている。また、バット7の前面には、キャッチャー7cが一体に設けられている。
【0018】
また、ウィッペン6のジャック8よりも前側には、順にバックチェックワイヤ6cおよびブライドルワイヤ6dが立設されている。バックチェックワイヤ6cの上端部にはバックチェック6eが設けられており、ブライドルワイヤ6dの上端部とキャッチャー7cは、ブライドルテープ7dにより連結されている。
【0019】
ダンパー装置1は、センターレール9に鍵2aごとに設けられており(1つのみ図示)、図2に示すように、センターレール9の上面にねじ止めされたダンパーレバーフレンジ21と、このダンパーレバーフレンジ21に回動自在に支持されたダンパー20と、前述したウィッペン6などにより構成されている。
【0020】
ダンパーレバーフレンジ21は、例えば合成樹脂の成形品で構成された厚い板状のものであり、左右の端部には、後方に突出する左右一対のレバー支持部21b,21bが設けられている(1つのみ図示)。ダンパー20は、ダンパーレバー22と、ダンパーレバー22に連結されたダンパーヘッド23などを有している。ダンパーレバー22は、合成樹脂の成形品または木質材で構成され、上下方向に長く延びており、その中央には、水平なピン22aが、左右両側に突出するように設けられている。そして、ピン22aが、ダンパーレバーフレンジ21の左右の支持部21b、21bに取り付けられることにより、ダンパーレバー22は、ダンパーレバーフレンジ21に回動自在に支持されている。
【0021】
ダンパーレバー22にはダンパーワイヤ22bが立設されており、ダンパーヘッド23は、ダンパーワイヤ22bの上端部に一体に設けられている。ダンパーヘッド23は、ダンパーワイヤ22bの上端部に取り付けられたダンパーブロック23aと、ダンパーブロック23aの背面に貼り付けられたダンパーフェルト23bを有している。
【0022】
また、ダンパーレバー22の前面の上端部には、上下方向に延びるスプリング係合溝22dが形成されており、ダンパーレバーフレンジ21には、そのレバー支持部21b、21bよりも前側に、ピン21aが設けられている。スプリング係合溝22dとピン21aの間には、ダンパーレバースプリング24が設けられている。このダンパーレバースプリング24は、ダンパーレバー22を、ピン22aを中心として図2の反時計方向に付勢しており、それにより、ダンパーヘッド23が弦Sを押圧している。
【0023】
また、ダンパーレバー22の前面の下部には、その上側の面よりも後ろ側に若干、後退した段差面22cが形成されている。この段差面22cの上部にはフェルト22bが貼り付けられている。一方、センターレール9とダンパーレバー22の下端部の間には、ダンパーロッド(図示せず)が設けられており、このダンパーロッドには、ダンパーペダル(図示せず)が連結されている。ダンパーロッドは、ダンパーペダルの踏込みに伴ってフェルト22bを押圧し、ダンパー20を駆動する。それにより、ダンパー20が、ダンパーペダルが踏み込まれている間、ダンパーレバースプリング24の付勢力に抗して時計方向に回動し、弦Sから離れた状態に維持されることによって、ピアノ音にダンパーペダル効果が付与される。
【0024】
一方、ウィッペン6には、ダンパーレバー22の下端部よりも後ろ側の部位に、ワイヤ26が立設されている。このワイヤ26は、例えば真鍮で構成されており、上端部が図3に示すような三角形状に折り曲げられている。
【0025】
このワイヤ26とダンパレバー22の間には、コード25が設けられている。コード25は、綿を織った布で構成され、所定の幅および長さを有するテープ状に形成されている。コード25の前端部は、ダンパーレバー22の段差面22cの下端部に接着されている。また、図3に示すように、コード25の後端部には孔25aが設けられており、コード25は、その後端部がワイヤ26の三角形状の部分に通されるとともに、孔25aにワイヤ26の先端部が差し込まれ、若干の緩みをもった状態で、ワイヤ26に係合している。以上のように、コード25は、ダンパー20とワイヤ26の間に連結されている。
【0026】
次いで、上述した構成のダンパー装置1の動作について説明する。図1に示す離鍵状態から鍵2aが押鍵されると、ウィッペン6が鍵2aで突き上げられることにより上方に回動する。それに伴い、ジャック8がウィッペン6と一緒に上方に移動し、ハンマー組立て品11がジャック8で突き上げられることにより、バットスプリング7bのばね力に抗して回動する。また、ワイヤ26はウィッペン6と一緒に回動し、後方に移動する。それに伴い、ワイヤ26に係合するコード25が後方に牽引される。
【0027】
押鍵がさらに進み、コード25の緩みがなくなると、コード25によってダンパーレバー22の下端部が後方に牽引される。それにより、図4に示すように、ダンパー20は、ピン22aを中心として、ダンパーレバースプリング24のばね力に抗して時計方向に回動し、ダンパーヘッド23が弦Sから離れることによって、その後のハンマー10の打弦による弦Sの振動が許容される。
【0028】
さらに押鍵が進み、ジャック8が、センターレール9に取り付けられたレギュレティングボタン9aに係合することにより、ジャックスプリング8aのばね力に抗して回動する。そして、ジャック8がバット7から離脱し、ハンマー組立て品11がさらに回動し、ハンマー10が弦Sを打弦することによって、弦Sの振動によるピアノ音が発生する。
【0029】
鍵2aが離鍵されると、ウィッペン6が押鍵時と逆方向に回動するのに伴い、ワイヤ26が前方に移動する。それにより、ダンパー20に対する牽引力が失われることによって、ダンパー20は、ダンパーレバースプリング24のばね力によって反時計方向に回動し、ダンパーヘッド23が弦Sに当接し、これを押圧することによって、弦Sの振動およびピアノ音が停止する。
【0030】
以上のように、本実施形態のダンパー装置1によれば、ダンパー20は、押鍵に伴ってコード25で牽引されることにより回動するので、押鍵が繰り返し行われたとしても、従来のダンパー装置のようなスプーンの当接によるダンパーの損傷は全く生じない。その結果、アップライトピアノが長期にわたって使用された場合でも、ダンパー20の回動の開始タイミングを一定に維持でき、ダンパー20の適正な動作を維持することができる。
【0031】
また、コード25の後端部が、ウィッペン6に立設されたワイヤ26に連結されているので、ワイヤ26を曲げることにより、離鍵状態におけるコード25の緩みを調整できる。これにより、押鍵に伴ってコード25がダンパー20を牽引し始めるタイミングを調整でき、したがって、ダンパー20が弦Sから離れるタイミングを容易に調整することができる。
【0032】
図5は、ダンパーレバーの変形例を示している。同図に示すように、この変形例によるダンパーレバー31の下端部には、左右の側面と下面に開口するスリット31aが形成されている。また、前述した実施形態では、ダンパーレバー22の段差面22cに、コード25の上端部が貼り付けられているのに対し、本変形例では、コード25の上端部が、スリット31aに挿入された状態で、ねじ止めまたは接着により、ダンパーレバー31に取り付けられている。
【0033】
なお、本発明は、説明した実施形態および変形例に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態および変形例では、コード25の後端部を、ウィッペン6に立設したワイヤ26に係合させているが、これに限定されることなく、ウィッペン6に直接、取り付けてもよい。また、ダンパーレバーへのコード25の取付け方法として、例えば、コード25の上端部に樹脂を含浸させ、これを硬化させた後、ダンパーレバーにねじ止めによって取り付けてもよい。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態によるアップライトピアノのダンパー装置、鍵盤、アクションおよびハンマーなどを、離鍵状態において示す側面図である。
【図2】図1のダンパー装置を示す部分拡大側面図である。
【図3】図1のダンパー装置の一部を示す斜視図である。
【図4】押鍵に伴い、ダンパーなどが回動した状態を示すダンパー装置の側面図である。
【図5】図1のダンパー装置の変形例の一部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ダンパー装置
2a 鍵
6 ウィッペン
20 ダンパー
21 ダンパーレバーフレンジ
24 ダンパーレバースプリング
25 コード
26 ワイヤ
S 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の押鍵に伴い、弦から離れることによりピアノ音の発生を許容するとともに、前記鍵の離鍵に伴い、前記発生したピアノ音を止音するために前記弦を押圧するアップライトピアノのダンパー装置であって、
押鍵に伴って回動するウィッペンと、
一端部において前記ウィッペンに連結されたコードと、
ダンパーレバーフレンジと、
上下方向に延び、その中央において、左右方向に延びる軸線を中心として前記ダンパーレバーフレンジに回動自在に支持されるとともに、前記コードの他端部が連結されたダンパーと、
前記ダンパーを前記弦側に付勢し、離鍵状態において、前記ダンパーに前記弦を押圧させるダンパーレバースプリングと、を備え、
前記ダンパーは、押鍵に伴って前記ウィッペンが回動する際、前記コードにより牽引されることによって、前記ダンパーレバースプリングのばね力に抗して回動し、前記弦から離れることを特徴とするアップライトピアノのダンパー装置。
【請求項2】
前記ウィッペンには、前記ダンパーに近接する部位に、ワイヤが立設され、
前記コードの前記一端部は、前記ワイヤに連結されていることを特徴とする請求項1に記載のアップライトピアノのダンパー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−170552(P2008−170552A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1654(P2007−1654)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)