説明

アップライトピアノのダンパー装置

【課題】 ばねを用いることなくダンパーヘッドで弦を押圧することによって、グランドピアノにより近い好ましいタッチ感を得ることができるアップライトピアノのダンパー装置を提供する。
【解決手段】 弦Sを離鍵状態において押圧し、押鍵に伴って弦Sから離れるアップライトピアノのダンパー装置1であって、弦Sの前方に配置された不動のダンパーレバーフレンジ21と、上下方向に延び、ダンパーレバーフレンジ21に支点22dを介して、回動自在に支持されたダンパーレバー22と、ダンパーレバー22の上端部に一体に連結されたダンパーヘッド23と、ダンパーレバー22に設けられ、自重により、ダンパーヘッド23を弦S側に回動させる方向の支点22d回りのモーメントMをダンパーレバー22に付与することによって、ダンパーヘッド23により弦Sを押圧させるための重り24と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離鍵状態において弦を押圧し、押鍵に伴って弦から離れるアップライトピアノのダンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のダンパー装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このダンパー装置は、一般的なダンパー装置と同様に構成されており、センターレールに固定されたダンパーレバーフレンジ(支持部材)と、このダンパーレバーフレンジに回動自在に設けられたダンパーレバーと、ダンパーレバーの上端部に立設されたダンパーレバーワイヤと、その上端部に設けられたダンパーヘッドを有している。また、ダンパーレバーフレンジとダンパーレバーの間にはダンパースプリングが設けられており、これによりダンパーレバーが付勢されることにより、離鍵状態においてダンパーヘッドが弦を押圧する。
【0003】
このダンパー装置では、押鍵に伴い、ウィッペンに設けられたスプーンで駆動されることによって、ダンパーレバーが、ダンパースプリングのばね力に抗して、弦と反対側に回動する。これにより、ダンパーヘッドが弦から離れることによって、その直後の打弦による弦の振動、およびそれによるピアノ音の発生が許容される。また、離鍵に伴い、ダンパースプリングのばね力により、ダンパーレバーが弦側に回動し、ダンパーヘッドが弦を押圧することによって、弦の振動およびピアノ音が停止される。
【0004】
以上の構成では、押鍵に伴ってダンパーレバーが回動する際、ダンパースプリングのばね力が、スプーンなどを介し、押鍵に対する反力の一部として演奏者の指に伝達される。このため、押鍵時には、ダンパースプリングのばね力により、ばねによって押し返されるような好ましくない「ばねっぽい」タッチ感が生じてしまう。また、アップライトピアノの場合、ダンパースプリング以外にも複数のばねがアクションに用いられているため、上記の「ばねっぽい」タッチ感が、グランドピアノよりも顕著になってしまう。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ばねを用いることなくダンパーヘッドで弦を押圧することによって、グランドピアノにより近い好ましいタッチ感を得ることができるアップライトピアノのダンパー装置を提供する。
【0006】
【特許文献1】特開平7−230278号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、上下方向に延びる弦を離鍵状態において押圧し、押鍵に伴って弦から離れるアップライトピアノのダンパー装置であって、弦の前方に配置された不動のダンパーレバーフレンジと、上下方向に延び、その中央において、ダンパーレバーフレンジに支点を介して、左右方向に延びる軸線回りに回動自在に支持されたダンパーレバーと、ダンパーレバーの上端部に一体に連結されたダンパーヘッドと、ダンパーレバーに設けられ、自重により、ダンパーヘッドを弦側に回動させる方向の支点回りのモーメントをダンパーレバーに付与することによって、離鍵状態において、ダンパーヘッドにより弦を押圧させるための重りと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
このダンパー装置によれば、ダンパーレバーに設けた重りの重さにより、ダンパーヘッドを弦側に回動させる方向の支点回りのモーメントが、ダンパーレバーに付与される。このモーメントにより、離鍵状態において、ダンパーヘッドで弦を押圧することができる。その結果、従来のダンパースプリングを省略することが可能になる。このように、ダンパーヘッドによる弦の押圧を、従来のダンパースプリングに代えて、重りによるモーメントによって行うので、その分、「ばねっぽい」タッチ感を軽減でき、グランドピアノにより近い好ましいタッチ感を得ることができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアップライトピアノのダンパー装置において、重りは、ダンパーレバーの支点よりも下側に、弦側に突出するように設けられていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、重りが弦側に突出するように設けられるので、重りによるモーメントを効果的に付与することができる。また、重りの重心が、ダンパーレバーの支点よりも下側に位置するので、重りによるモーメントをダンパーレバーに安定して付与することができる。また、通常、ダンパーレバーと弦の間の支点よりも下側の空間には、他の構成部品などが配置されておらず、スペースに比較的余裕があるので、このようなスペースを利用することにより、重りを容易に配置することができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のアップライトピアノのダンパー装置において、ダンパーレバーフレンジとダンパーレバーの間に設けられ、ダンパーヘッドを弦側に回動させる方向にダンパーレバーを付勢するばねをさらに備えていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、ダンパーレバーは、請求項1の前述した支点回りのモーメントにより弦側に回動するとともに、ばねによって弦側に付勢される。このように、重りによるモーメントに加えて、ばねのばね力がダンパーレバーに作用するので、ダンパーヘッドによる弦の押圧をより確実に行うことができる。この場合、従来よりもばね力の小さなばねを補助的に用いることによって、「ばねっぽい」タッチ感を最小限に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるアップライトピアノのダンパー装置1、鍵盤2およびアクション3などを、離鍵状態において示している。なお、以下の説明では、演奏者側から見たときのアップライトピアノの手前側を「前」、奥側を「後」として説明する。
【0014】
鍵盤2は、左右方向に並んだ多数の鍵2a(1つのみ図示)によって構成されている。各鍵2aは、前後方向(図1の左右方向)のほぼ中央において、筬5に立設されたバランスピン5aを介して筬5に回動自在に支持されている。
【0015】
アクション3は、鍵盤2の後端部の上方に配置されており、棚板4に載置された複数のアクションブラケット(図示せず)に取り付けられている。アクション3は、ウィッペン6、バット7およびジャック8などを鍵2aごとに有しており(いずれも1つのみ図示)、ウィッペン6は、複数のアクションブラケットの間に渡されたセンターレール9の下端部に回動自在に取り付けられている。また、ウィッペン6は、鍵2aの後端部に設けられたキャプスタンスクリュー2bを介して鍵2aに載置されている。また、ウィッペン6の上面後端部には、後述するダンパーレバー22を駆動するためのスプーン6aが立設されている。
【0016】
ジャック8はウィッペン6に回動自在に取り付けられており、ジャック8とウィッペン6の間には、ジャックスプリング8aが設けられている。また、センターレール9の前面上端部にはバットフレンジ7aが固定されており、バット7は、このバットフレンジ7aに回動自在に取り付けられている。
【0017】
また、バット7にはハンマー10が一体に設けられており、両者7、10によってハンマー組立て品11が構成されている。ハンマー組立て品11は、バット7の下端部を介してジャック8に支持されており、ハンマー10は、後方に張られた弦Sに対向している。また、バット7とバットフレンジ7aの間には、ハンマー組立て品11を弦Sと反対側(前側)に付勢するバットスプリング7bが設けられている。
【0018】
ダンパー装置1は、センターレール9に鍵2aごとに設けられている(1つのみ図示)。図2に示すように、ダンパー装置1は、センターレール9の上面にねじ止めされたダンパーレバーフレンジ21と、このダンパーレバーフレンジ21に回動自在に取り付けられたダンパーレバー22と、ダンパーレバー22に連結されたダンパーヘッド23などを備えている。
【0019】
ダンパーレバーフレンジ21は、例えば合成樹脂の成形品で構成され、厚い板状に形成されており、左右の両端部には、後方に突出するレバー支持部21b,21bが設けられている(1つのみ図示)。ダンパーレバー22は、合成樹脂の成形品または木質材で構成され、上下方向に長く延びており、その中央に、水平に延びるピン状の支点22dが、左右方向に突出するように設けられている。そして、この支点22dが支持部21b、21bの間に取り付けられることにより、ダンパーレバー22は、支点22dを中心として、ダンパーレバーフレンジ21に回動自在に支持されている。また、ダンパーレバー22の前面の下端部にはフェルト22aが貼り付けられており、このダンパーレバー22の下端部は、前述したスプーン6aに後方から対向している。
【0020】
ダンパーレバー22には、ダンパーワイヤ22bが立設されており、ダンパーヘッド23は、ダンパーワイヤ22bの上端部に設けられていて、ダンパーレバー22と一体に連結されている。ダンパーヘッド23は、ダンパーワイヤ22bの上端部に取り付けられたダンパーブロック23aと、ダンパーブロック23aの背面に貼り付けられたダンパーフェルト23bを有している。
【0021】
ダンパーレバー22の背面の下端部には、取付け部22cを介して重り24が取り付けられている。取付け部22cは、周面にねじを有する棒状に形成され、ダンパーレバー22に接着により固定されており、ダンパーレバー22から後ろ上りに斜めに突出している。重り24は、例えば鉄などの比重の大きな材料で構成され、円柱状に形成されており、また、その軸線に沿って延び、重り24を貫通するねじ孔24aが形成されている。重り24は、そのねじ孔24aに取付け部22cをねじ込むことによって、ダンパーレバー22に進退自在に取り付けられている。
【0022】
以上の構成によれば、ダンパーレバー22と、これと一体のダンパーヘッド23および重り24の三者間の重量バランスに応じたモーメントが、ダンパーレバー22に付与される。具体的には、重り24が、ダンパーレバー22の下端部から後方に突出するように配置されていることにより、この重りによる支点22d回りの反時計方向のモーメントMが付加されており、このモーメントMにより、ダンパーヘッド23が弦Sに当接し、これを押圧する。
【0023】
次いで、上述したダンパー装置1の押鍵時および離鍵時の動作について説明する。図1に示す離鍵状態から鍵2aが押鍵されると、ウィッペン6が鍵2aで突き上げられることにより上方に回動するとともに、ジャック8がウィッペン6と一緒に上方に移動する。それに伴い、ハンマー組立て品11がジャック8で突き上げられることにより、バットスプリング7bのばね力に抗して回動する。その際、ウィッペン6、ジャック8、およびハンマー組立て品11などの重量と、バットスプリング7bのばね力に応じた反力が、演奏者の指に作用する。
【0024】
また、ウィッペン6の回動に伴い、スプーン6aが後方に移動し、ダンパーレバー22の下端部を、フェルト22aを介して押圧する。それにより、図3に示すように、ダンパーレバー22およびダンパーヘッド23などは、支点22dを中心として時計方向に回動することによって、ダンパーヘッド23が弦Sから離れ、弦Sの振動が許容される。その際、支点22d回りのモーメントMの大きさに応じた反力が、スプーン6a、ウィッペン6および鍵2aを介して、演奏者の指にさらに作用する。
【0025】
さらに押鍵が進み、ジャック8が、センターレール9に連結されたレギュレティングボタン9aに係合することにより、ジャックスプリング8aのばね力に抗して回動する。それにより、ジャック8がバット7から離脱し、ハンマー組立て品11がさらに回動することによりハンマー10が打弦を行うことによって、ピアノ音が発生する。
【0026】
鍵2aが離鍵されると、それに伴い、ウィッペン6が押鍵時と逆方向に復帰回動し、スプーン6aが前方に移動し、ダンパーレバー22から離れる。それにより、ダンパーレバー22は、支点22d回りのモーメントMにより反時計方向に回動し、ダンパーヘッド23が弦Sに当接するとともにこれを押圧することによって、弦Sの振動およびピアノ音が停止する。
【0027】
以上のように、本実施形態のダンパー装置1によれば、ダンパーレバー22に設けた重り24の重さにより、ダンパーヘッド23を弦S側に回動させる方向の支点22d回りのモーメントMが、ダンパーレバー22に付与されるので、このモーメントMにより、離鍵状態において、ダンパーヘッド23で弦Sを押圧することができる。それにより、本実施形態では、従来のダンパースプリングが省略されており、ダンパーヘッド23による弦Sの押圧を、従来のダンパースプリングに代えて、重り24によるモーメントMによって行うので、その分、「ばねっぽい」タッチ感を軽減でき、グランドピアノにより近い好ましいタッチ感を得ることができる。
【0028】
また、重り24が弦S側に突出するように設けられているので、重り24によるモーメントMを効果的に付与することができる。また、重り24の重心が、ダンパーレバー22の支点22dよりも下側に位置しているので、重り24によるモーメントMをダンパーレバー22に安定して付与することができる。また、通常、ダンパーレバー22と弦Sの間の支点22dよりも下側の空間には、他の構成部品などが配置されておらず、スペースに比較的余裕があるので、このようなスペースを利用することにより、重り24を容易に配置することができる。
【0029】
さらに、重り24が取付け部22cにねじ込みによって取り付けられているので、そのねじ込み量を調整することにより、重り24の前後方向の位置を調整でき、それにより、モーメントMの大きさをきめ細かく調整することができる。
【0030】
図4は、上述したダンパー装置1の変形例を示している。この変形例によるダンパー装置31は、ダンパー装置1に、ダンパースプリング32e(ばね)を補助的に付加したものである。
【0031】
このダンパースプリング32eは、従来のダンパースプリングのばね力よりも非常に小さな所定のばね力を有しており、ダンパーレバー32とダンパーレバーフレンジ33の間に設けられている。具体的には、ダンパーレバー32の上端部に上下方向に延びるように形成されたスプリング係合溝32dと、ダンパーレバーフレンジ33の左右のレバー支持部33b、33bよりも前側に設けられたピン33cの間に設けられており、ダンパースプリング32eは、ダンパーレバー32を図4の反時計方向に小さなばね力で付勢している。
【0032】
このダンパー装置31によれば、重り24による支点22d回りのモーメントMに加えて、ダンパースプリング32eのばね力が、ダンパーレバー32に付与されるので、ダンパーヘッド23による弦Sの押圧をより確実に行うことができる。また、ばね力の非常に小さなダンパースプリング32eを補助的に用いているので、「ばねっぽい」タッチ感を最小限に抑制することができる。
【0033】
なお、本発明は、説明した実施形態および変形例に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態および変形例では、重り24を取り付けるための取付け部22cを、ダンパーレバー22または32に接着により一体化したものとして説明したが、これに限定されることなく、ダンパーレバー22、32と一体成形してもよい。また、実施形態などでは、重り24を取付け部22cにねじ込むことにより取り付けているが、他の方法、例えば、接着やかしめることにより、取付け部22cに固定してもよい。
【0034】
また、実施形態などでは、重り24をダンパーレバー22、32の背面の下端部に取り付けた例を説明したが、ダンパーヘッド23が弦S側に回動するようなモーメントをダンパーレバー22、32に付与することが可能な他の任意の部位に取り付けてもよい。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態によるアップライトピアノのダンパー装置、鍵盤、アクションおよびハンマーなどを、離鍵状態において示す側面図である。
【図2】図1のダンパー装置を示す部分拡大側面図である。
【図3】押鍵に伴い、ダンパーレバーなどが回動した状態を示すダンパー装置の側面図である。
【図4】変形例によるダンパー装置を示す図2と同様の部分拡大側面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 ダンパー装置
21 ダンパーレバーフレンジ
22 ダンパーレバー
22d 支点
23 ダンパーヘッド
24 重り
31 ダンパー装置
32 ダンパーレバー
32e ダンパースプリング(ばね)
33 ダンパーレバーフレンジ
S 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる弦を離鍵状態において押圧し、押鍵に伴って前記弦から離れるアップライトピアノのダンパー装置であって、
前記弦の前方に配置された不動のダンパーレバーフレンジと、
上下方向に延び、その中央において、前記ダンパーレバーフレンジに支点を介して、左右方向に延びる軸線回りに回動自在に支持されたダンパーレバーと、
当該ダンパーレバーの上端部に一体に連結されたダンパーヘッドと、
前記ダンパーレバーに設けられ、自重により、前記ダンパーヘッドを前記弦側に回動させる方向の前記支点回りのモーメントを前記ダンパーレバーに付与することによって、離鍵状態において、前記ダンパーヘッドにより前記弦を押圧させるための重りと、
を備えていることを特徴とするアップライトピアノのダンパー装置。
【請求項2】
前記重りは、前記ダンパーレバーの前記支点よりも下側に、前記弦側に突出するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアップライトピアノのダンパー装置。
【請求項3】
前記ダンパーレバーフレンジと前記ダンパーレバーの間に設けられ、前記ダンパーヘッドを前記弦側に回動させる方向に前記ダンパーレバーを付勢するばねをさらに備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のアップライトピアノのダンパー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−90168(P2008−90168A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273080(P2006−273080)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)