説明

アップライト型ピアノの消音装置

【課題】 ハンマーの回動を、比較的単純な構成により、音域にかかわらず適切な高さおよびタイミングで阻止することによって、ハンマーによる弦の打弦を確実に阻止することができるアップライト型ピアノの消音装置を提供する。
【解決手段】 ダンパー14とハンマーシャンク5bの間に配置され、軸線を中心として回動自在の駆動ロッド15と、ダンパー14とハンマー5の間の駆動ロッド15よりも上方に配置され、ハンマーシャンク5bの上端部付近に対向するように左右方向に延びるストップレール16と、駆動ロッド15とストップレール16を連結する連結部材17と、駆動ロッド15を駆動することによって、連結部材17を介してストップレール16をハンマーシャンク5bの回動範囲に対して進退自在に回動させる駆動機構18と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、消音ピアノあるいは自動演奏ピアノなどの複合型ピアノに適用され、ハンマーによる弦の打弦を、通常演奏モード時に許容するとともに、消音演奏モード時に阻止するアップライト型ピアノの消音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のアップライト型ピアノの消音装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この消音装置50は、消音ピアノ51に適用されたものである。図6に示すように、この消音ピアノ51は、複数の鍵52aと、弦53を打弦するハンマー54と、弦53とハンマー54の間に設けられたダンパー55と、鍵盤52の後部上方に設けられ、鍵52aの回動に伴って作動し、ハンマー54およびダンパー55を回動させるアクション56などを備えている。
【0003】
ハンマー54とダンパー55のダンパーヘッド55aとの間には、回動軸57と、この回動軸57に固定された3枚のプレート58(1つのみ図示)が設けられている。回動軸57は、鍵52aの並び方向(以下「左右方向」という)の全体にわたって連続的に延びており、ブラケット59を介してセンターレール60に回動自在に支持されている。回動軸57の一端部には、ワイヤや突上棒(ともに図示せず)などを介して、ペダル63が連結されており、回動軸57は、ペダル63の踏み込み操作に応じて回動する。
【0004】
3枚のプレート58は、それぞれ、消音演奏モード時に、ハンマー54による弦53の打弦を阻止するためのものであり、セクションごと、例えば低音域、中音域および高音域の各音域に対応して設けられ、各音域にその左右方向の全体にわたって連続的に延びている。各プレート58は、ダンパー55の回動の途中で、ダンパーブロック55bがプレート58に当接しないようにするために、その側面形状が「く」字状に形成されており、下端部において回動軸57に固定されている。これらのプレート58の高さ(上下方向の長さ)は、互いに異なり、高音域側のものほど大きい。各プレート58は、通常演奏モード時には、ハンマー54のハンマーシャンク54aの回動範囲から退避した退避位置(図6の実線位置)に位置し、一方、消音演奏モード時には、ハンマーシャンク54aの回動範囲内に進入した進入位置(図6の点線位置)に回動する。また、プレート58の前面上端部には、衝撃吸収部材61が取り付けられている。
【0005】
以上の構成により、通常演奏モード時には、プレート58が退避位置に位置するとともに、この状態で、鍵52aが押鍵されると、鍵52aは支点を中心として図6の時計方向に回動する。この回動に伴ってアクション56が作動し、そのスプーン62がダンパー55を押圧することによって、ダンパー55が時計方向に回動するとともに、アクション56のジャック64がハンマー54を突き上げることによって、ハンマー54が反時計方向に回動し、ハンマーヘッド54bが弦53を打弦する。
【0006】
一方、消音演奏モード時には、ペダル63を踏み込むことによって、プレート58が回動軸57と一体に時計方向に進入位置まで回動する。そして、鍵52aが押鍵されると、通常演奏モード時と同様にしてハンマー54が反時計方向に回動する。この回動の途中、ハンマーヘッド54bが弦53を打弦する直前で、ハンマーシャンク54aの上端部が進入位置に位置するプレート58に当接することによって、ハンマー54のそれ以上の回動が阻止され、弦53の打弦が阻止される。ハンマー54のハンマーヘッド54bの大きさは一般に、高音側ほど小さいため、ハンマー54のハンマーヘッド54bとダンパー55のダンパーヘッド55aとの間の上下方向の間隔は、高音側ほど大きくなる。このため、前述したように、プレート58の高さを、高音域側ほど大きくすることにより、高音域側においても、ハンマーシャンク54aをできるだけ上端に近い位置でプレート58に当接させることによって、この当接位置よりも上端側のハンマーシャンク54aの撓みを抑制し、ハンマー54の停止の精度を向上させるようにしている。
【0007】
上述した従来の消音装置50では、プレート58を、所定の高さに設置するとともに、所定の前後方向の位置に精度よく設置することが重要である。これは、次の理由による。すなわち、通常演奏モードでは、ハンマー54の運動エネルギーをできるだけ弦53に伝達するために、ジャック64がバット65から外れてからハンマーヘッド54bが打弦するまでのハンマー54の回動ストロークが非常に狭く設定されており、消音演奏モードでは、そのような非常に狭いストローク内でハンマーシャンク54aをプレート58に当接させる必要があるためである。例えば、プレート58がハンマー54側にずれた場合には、ジャック64がバット65から外れる前に、ハンマーシャンク54aがプレート58に当接するおそれがあり、そのときには、ハンマーシャンク54aがプレート58に当接したときの衝撃が、演奏者の指先に伝わったり、鍵52aがそれ以上回動できなくなるなどの不具合が生じる。一方、プレート58がダンパー55側にずれた場合には、ハンマーシャンク54aの当接タイミングが遅くなり、消音演奏モードであるにもかかわらず、弦53の打弦が行われるおそれがある。
【0008】
しかし、上述した従来の消音装置50では、3枚のプレート58が直接、回動軸57に固定されているので、プレート58の高さや前後方向の位置が部品の寸法誤差や組立誤差によってずれた場合に、これを調整することができず、その結果、上述した不具合を生じるおそれがある。同じ理由から、ダンパー55の回動の途中で、ダンパーブロック55bがプレート58に当接しないように、プレート58が「く」字状に形成されており、その形状が複雑になってしまう。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、消音演奏モード時に、ハンマーの回動を、比較的単純な構成により、音域にかかわらず適切な高さおよびタイミングで阻止することによって、ハンマーによる弦の打弦を確実に阻止することができるアップライト型ピアノの消音装置を提供することを目的とする。
【0010】
【特許文献1】特許第2743862号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、前後方向に延びる鍵の回動に伴って、ダンパー、および上下方向に延びるハンマーシャンクを有するハンマーを回動させるアップライト型ピアノにおいて、ハンマーによる弦の打弦を、通常演奏モード時に許容するとともに、消音演奏モード時に阻止するアップライト型ピアノの消音装置であって、ダンパーとハンマーシャンクの間に配置され、左右方向に延びるとともに、軸線を中心として回動自在の駆動ロッドと、ダンパーとハンマーの間の駆動ロッドよりも上方に配置され、ハンマーシャンクの上端部付近に対向するように左右方向に延びるストップレールと、駆動ロッドとストップレールの間に延び、駆動ロッドとストップレールを連結する連結部材と、駆動ロッドを駆動することによって、連結部材を介してストップレールをハンマーシャンクの回動範囲に対して進退自在に回動させる駆動機構と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
このアップライト型ピアノの消音装置によれば、ダンパーとハンマーのハンマーシャンクとの間に、回動自在の駆動ロッドが左右方向に延びるように配置されている。この駆動ロッドに連結部材を介してストップレールが連結されており、このストップレールは、駆動ロッドよりも上方に配置され、ハンマーシャンクの上端部付近に対向するように左右方向に延びている。また、駆動機構は、駆動ロッドを駆動することによって、連結部材を介して、ストップレールをハンマーシャンクの回動範囲に進退自在に回動させる。
【0013】
この構成によれば、通常演奏モード時には、駆動機構により、ストップレールをハンマーシャンクの回動範囲から退避した退避位置に回動させることにより、鍵の回動に伴うハンマーによる弦の打弦が許容され、それにより通常演奏が行われる。一方、消音演奏モード時には、ストップレールを、ハンマーシャンクの回動範囲に進入した進入位置に回動させることにより、ストップレールにハンマーシャンクの上端部が当接することによって、ハンマーシャンクの回動が阻止され、それにより、打弦が阻止される。
【0014】
本発明によれば、ストップレールが連結部材を介して駆動ロッドに連結されているので、この連結部材のサイズや形状により、それぞれの音域において、前述したハンマーの大小やハンマーヘッドの高さにかかわらず、ハンマーシャンクに対するストップレールの高さおよび前後方向の位置を適切に設定することができる。したがって、消音演奏モード時におけるハンマーの回動を、音域にかかわらずハンマーシャンクの上端部の適切な高さにおいて適切なタイミングで阻止でき、ストップレールに当接したときのハンマーシャンクの撓みを抑制しながら、ハンマーによる打弦を確実に阻止することができる。また、駆動ロッドとストップレールを連結部材で連結するだけでよいので、比較的単純な構成で消音装置を実現することができる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアップライト型ピアノの消音装置において、ストップレールは、左右方向に並んだ複数のストップレールで構成され、連結部材は、複数のストップレールを駆動ロッドにそれぞれ連結する複数の連結部材で構成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、左右方向に並んだストップレールがそれぞれの連結部材を介して駆動ロッドに連結されているので、ハンマーシャンクに対するストップレールの高さおよび前後方向の位置を、各連結部材によりストップレールごとに、よりきめ細かく設定することができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のアップライト型ピアノの消音装置において、ダンパーは、ダンパーブロックをそれぞれ有し、左右方向に並んだ複数のダンパーで構成され、連結部材は、隣り合う2つのダンパーのダンパーブロック間に配置されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、連結部材が、隣り合う2つのダンパーのダンパーブロック間に配置されているので、ダンパーの回動に伴って、ダンパーブロックが連結部材に衝突するのを防止することができる。その結果、それに起因する雑音の発生やダンパーの動作不良を回避することができる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のアップライト型ピアノの消音装置において、ストップレールおよび連結部材は、固定用の孔をそれぞれ有し、これらの孔の一方は、前後方向に延びる長孔で構成され、これらの孔に通され、ストップレールを連結部材に固定する固定ねじをさらに備えていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、ストップレールおよび連結部材は、その一方に形成した前後方向に延びる長孔を介して、固定ねじによって固定されている。したがって、この長孔によってハンマーシャンクに対するストップレールの前後方向の位置を、きめ細かく調整することができ、ハンマーの回動を最適なタイミングで阻止することができる。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載のアップライト型ピアノの消音装置において、ストップレールおよび連結部材は、上下方向に重なりあった状態で連結されており、ストップレールと連結部材の間にストップレールの高さを調整するためのスペーサが介在していることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、ストップレールと連結部材の間にストップレールの高さを調整するためのスペーサが介在している。したがって、ハンマーシャンクに対するストップレールの高さをきめ細かく調整することができ、ハンマーシャンクの回動を、その上端部の最適な高さで阻止することができる。
【0023】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載のアップライト型ピアノの消音装置において、駆動ロッドのダンパー側の表面に、鍵の回動に伴ってダンパーが回動したときに当接するクッション材が取り付けられていることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、駆動ロッドのダンパー側の表面に取り付けられたクッション材に、回動するダンパーが当接することによって、そのときの衝撃を吸収することができる。また、クッション材を駆動ロッドに取り付けることによって、ダンパーレールを省略することができるので、その分、部品点数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を、詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態による消音装置1を適用したアップライト型の消音ピアノ2を示している。なお、以下の説明では、消音ピアノ2を演奏者から見た場合の手前側(同図の右側)を「前」、奥側(同図の左側)を「後」とし、さらに左側および右側をそれぞれ「左」および「右」として、説明を行うものとする。同図に示すように、この消音ピアノ2は、棚板3と、棚板3に載置された複数の鍵4(1つのみ図示)と、鍵4ごとに設けられ、弦Sを打弦するハンマー5と、鍵4の後部上方に設けられたアクション6と、本発明に係る消音装置1などを備えている。この消音ピアノ2では、演奏モードが、ハンマー5による弦Sの打弦を許容することによってアコースティックな演奏音を発生させる通常演奏モードと、ハンマー5による打弦を阻止するとともに、鍵4の押鍵情報に応じて楽音発生装置(図示せず)によって電子的な演奏音を発生させる消音演奏モードに、切り替えられる。
【0026】
鍵4は、その中央に形成されたバランスピン孔(図示せず)を介して、棚板3上に設けられたバランスレール3aから立設するバランスピン7に、回動自在に支持されている。
【0027】
弦Sは、棚板3よりも後方に設けられたフレーム(図示せず)の上端部に打ち込まれた複数のチューニングピン(図示せず)と、これらのチューニングピンよりも下方に埋め込まれた複数のヒッチピン(図示せず)との間に張られ、上下方向に延びている。弦Sの長さは、音域に応じて異なり、高音域側ほど短い。高音域の弦Sはほぼ鉛直に、中音域および低音域の弦Sは互いに交差するように斜めに、それぞれ延びている。
【0028】
アクション6は、鍵4の押鍵に伴ってハンマー5を回動させるためのものであり、前後方向に延び、各鍵4の後部にキャプスタンスクリュー8を介して載置されたウイッペン9と、ウイッペン9に取り付けられたジャック10などを備えている。各ウイッペン9は、その後端部においてセンターレール11に回動自在に支持されている。ジャック10は、上下方向に延びる突き上げ部10aと、その下端部から前方にほぼ直角に延びる係合部10bとから、L字状に形成されており、その角部においてウイッペン9に回動自在に取り付けられている。センターレール11の後端部には、ダンパー14が取り付けられている。
【0029】
ダンパー14は、ダンパーレバー14aと、ダンパーレバー14aから上方に延びるダンパーワイヤ14bと、ダンパーワイヤ14bの上端部が貫入した状態で、スクリュー14fによって固定されたダンパーブロック14eと、ダンパーブロック14eに接着されたダンパーヘッド14cなどで構成されており、ダンパーレバー14aの中央において、ダンパーフレンジ14dを介してセンターレール11に回動自在に取り付けられている。このダンパー14は、鍵4が離鍵されたときに、振動する弦Sにダンパーヘッド14cが当接することにより止音するためのものである。
【0030】
一方、ハンマー5は、バット5aと、バット5aから上方に延びるハンマーシャンク5bと、ハンマーシャンク5bの上端部に取り付けられたハンマーヘッド5cなどで構成されており、バット5aの下端部において、センターレール11に回動自在に取り付けられている。図1に示す離鍵状態では、バット5aにジャック10の突き上げ部10aの先端が係合しているとともに、ハンマーシャンク5bがハンマーレール13に斜めに当接し、ハンマーヘッド5cが弦Sに対向している。
【0031】
図1および図2に示すように、本発明に係る消音装置1は、駆動ロッド15と、ハンマー5の回動を阻止するためのストップレール16と、駆動ロッド15とストップレール16を連結する4つの連結部材17と、駆動ロッド15を駆動する駆動機構18などで構成されている。
【0032】
駆動ロッド15は、左右方向に延びる1本の丸棒で構成されており、その長さは、アクション6の左右方向の長さよりも大きい。この駆動ロッド15は、ハンマー5のハンマーシャンク5bとダンパー14のダンパーワイヤ14bとの間に配置され、3つのアクションブラケット(いずれも図示せず)のそれぞれに、支持金具19およびL形金具20を介して回動自在に支持されている。図2に示すように、各支持金具19は、駆動ロッド15の外周に沿うように湾曲し、側面形状がU字状に形成された本体部19aと、本体部19aの前端から上下に延びる2つの取付部19b,19bで構成されており、各取付部19bには、孔19cが形成されている。一方、各L形金具20の一方の片には、支持金具19の取付部19b,19bの孔19cに対応する位置に2つの孔20a,20aが形成されている。支持金具19とL形金具20は、駆動ロッド15を支持金具19の本体部19aに通した状態で、上記の孔19c,20aを介してねじ(図示せず)を締め付けることにより互いに固定され、それにより、支持金具19の本体部19aとL形金具20の一方の片の間に駆動ロッド15が挟持されている。各L形金具20の他方の片は、各アクションブラケットにねじ止めされている。以上の構成により、駆動ロッド15は、支持金具19の本体部19aによって回動自在に支持されている。また、駆動ロッド15のダンパー14側の表面には、クッション材21が取り付けられている。このクッション材21は、例えばゴムなどの弾性材料で構成され、駆動ロッド15のほぼ全体にわたり、これに沿って延びている。
【0033】
ストップレール16は、例えば曲げ加工された金属板で構成されており、図1に示すように、駆動ロッド15よりも上方に配置され、ハンマーシャンク5bの上端部付近に対向するように設けられている。図2に示すように、このストップレール16は、高音域レール22、中音域レール23および低音域レール24で構成されており、これらは左右方向に並んだ状態で設けられている。高音域レール22は、左右および前後方向に延びる長方形状の本体部22aと、本体部22aの左右の端部に設けられた2つの取付部22b,22bと、本体部22aの前端から下方に直角に屈曲する屈曲部22cで構成されている。各取付部22bには、前後2つの長孔22d,22dが形成されており、各長孔22dは、前後方向に延びている。また、屈曲部22cの前面には、例えばゴムなどの弾性材料で構成されたクッション材25が取り付けられている。
【0034】
中音域レール23は、左右および前後方向に延びる長方形状の第1本体部23aと、第1本体部23aの左端から斜め上方に延びる長方形状の第2本体部23bと、第1本体部23aの右端部に設けられた第1取付部23cと、第2本体部23bの左端から下方に延びるとともに、その下端から左方に延びる第2取付部23dと、第1および第2本体部23a,23bの前端からそれぞれ下方に直角に屈曲する2つの屈曲部23e,23eで構成されている。
【0035】
このように、高音域レール22と異なり、中音域レール23が、第1本体部23aと、その左端から斜め上方に延びる第2本体部23bで構成されているのは、次の理由による。すなわち、前述したように、中音域および低音域の弦Sは、互いに交差するように異なる方向に延びており、両音域の境界付近では、図4に示すように、弦Sに沿って異なる角度で配置される中音域側のダンパー14と低音域側のダンパー14が互いに接触するのを避けるため、中音域側のダンパー14が低音域側のそれよりも高い位置に配置されている。これに伴い、この境界付近では、中音域のハンマー5のハンマーヘッド5cの高さが、低音域側のそれに対して不連続に高くなっている。中音域レール23の上記の構成は、以上のような中音域と低音域との境界付近における中音域のハンマー5およびダンパー14の高さの不連続な変化に対応したものであり、第1本体部23aに対して斜めの第2本体部23bを設けることによって、ハンマーヘッド5cとダンパーヘッド14cの間に中音域レール23を配置することができる。
【0036】
また、第1および第2取付部23c,23dには、高音域レール22の各取付部22bと同様、前後方向に延びる前後2つの長孔23f,23fが形成され、また、各屈曲部23eの前面には、高音域レール22の屈曲部22cと同様のクッション材25が取り付けられている。
【0037】
低音域レール24は、高音域レール22と同様の本体部24aと、本体部24aの両側の2つの取付部24b,24bと、本体部24aの前端から下方に直角に屈曲する屈曲部24cで構成されている。各取付部24bには、高音域レール22と同様の前後2つの長孔24d,24dが形成され、また、屈曲部24cの前面には、クッション材25が取り付けられている。
【0038】
図2および図3に示すように、4つの連結部材17は、駆動ロッド15の両端部および高中音域の境界付近に設けられる通常用の3つの連結部材26(図3(a))と、中低音域の境界付近に設けられる境界用の連結部材27(同図(b))で構成されている。これらの通常用の連結部材26は、駆動ロッド15と、高音域レール22、高・中音域レール22,23および低音域レール24をそれぞれ連結するためのものである。図3(a)に示すように、各連結部材26は、下側のロッド固定部26aと、上側の水平なレール固定部26bと、ロッド固定部26aとレール固定部26bをつなぐ鉛直な連結部26cで構成されている。ロッド固定部26aは、互いに所定の間隔を存する左右2つの板部26d,26dと、これらの板部26d,26dの前端間を連結する連結板部26eで構成されている。各板部26dには、駆動ロッド15を挿入するためのU字状の切欠き26fが形成されており、この切欠き26fは、前方が閉鎖され、後方が開放している。また、連結板部26eの中央には、孔26gが形成されている。このような構成により、切欠き26fに駆動ロッド15を後方から挿入し、孔26gを介して駆動ロッド15にねじ34をねじ込むことによって、通常用の連結部材26が駆動ロッド15に固定されている。
【0039】
高音域側および低音域側の連結部材26のレール固定部26bには、前後2つの孔26h,26hが形成されており、これらの孔26hと、高音域レール22の高音側の取付部22bの長孔22dおよび低音域レール24の低音側の取付部24bの長孔24dとを合わせた状態で、固定ねじ28(1つのみ図示)をねじ込むことによって、高音域レール22および低音域レール24がレール固定部26bに固定されている。また、高中音域の境界付近の連結部材26のレール固定部26bは、他の連結部材26のレール固定部26bよりも大きな幅(左右方向の長さ)を有しており、前後2つの孔26h,26hが左右2列で計4つ、形成されている。これらの孔26hのうち、右側の孔26hを高音域レール22の低音側の取付部22bの長孔22dに、左側の孔26hを中音域レール23の高音側の第1取付部23cの長孔23fに、それぞれ合わせた状態で固定ねじ28をねじ込むことによって、高音域レール22および中音域レール23が、レール固定部26bに固定されるとともに、レール固定部26bを介して互いに連結されている。
【0040】
一方、境界用の連結部材27は、駆動ロッド15と中音域レール22および低音域レール24を連結するためのものである。図3(b)に示すように、連結部材27は、通常用の連結部材26と同様、下側のロッド固定部27aと、上側の水平なレール固定部27bと、ロッド固定部27aとレール固定部27bをつなぐ連結部27cで構成されている。ロッド固定部27aは、ロッド固定部26aと同様、左右2つの板部27d,27dと、これらの板部27d,27dの前端間を連結する連結板部27eで構成されている。各板部27dにはU字状の切欠き27fが、連結板部27eの中央には孔27gが、それぞれ形成されている。切欠き27fに駆動ロッド15を後方から挿入し、孔27gを介して駆動ロッド15にねじ34をねじ込むことによって、境界用の連結部材27が駆動ロッド15に固定されている。
【0041】
連結部27cは、通常用の連結部材26の連結部26cと異なり、その下半部が鉛直に延び、その上端から上半部が左方に屈曲し、斜め上方に延びている。このように連結部27cが屈曲するのは、次の理由による。すなわち、前述したように、中低音域の境界付近では、中音域側のダンパー14が低音域側のそれよりも上方に配置されているので、図4に示すように、連結部材27の連結部27cの左方に屈曲した上半部を、中音域側の最低音用のダンパーヘッド14cと低音域側の最高音用のダンパーヘッド14cを避けて、これらの間に通すためである。
【0042】
レール固定部27bには、前後2つの孔27h,27hが左右2列で計4つ、形成されている。これらの孔27hのうち、右側の孔27hを中音域レール23の低音側の第2取付部23dの長孔23fに、左側の孔27hを低音域レール24の高音側の取付部24bの長孔24dに、それぞれ合わせた状態で固定ねじ28をねじ込むことによって、中音域レール23と低音域レール24が、レール固定部27bに固定されるとともに、レール固定部27bを介して互いに連結されている。
【0043】
また、図2に示すように、高音域レール22の各取付部22bと通常用の連結部材26のレール固定部26bとの間には、スペーサ29が介在している。このスペーサ29は、高音域レール22の高さを調整するためのものであり、取付部22bとほぼ同じサイズの矩形状に形成されるとともに、所定の厚さを有している。また、スペーサ29には、レール固定部26bの孔26hに対応する孔29aが形成されている。
【0044】
駆動機構18は、駆動レバー30と、棚板3の下面に配置され、駆動レバー30を操作するための操作レバー(図示せず)と、駆動レバー30と操作レバーを接続するワイヤ31と、駆動レバー30を上方に付勢するばね32などで構成されている。
【0045】
駆動レバー30は、例えば曲げ加工された金属板で構成されており、駆動ロッド15の低音側の端部に設けられている。図2に示すように、駆動レバー30は、前後方向に延びる本体部30aと、本体部30aの後端部に設けられ、上端から左方に延びる固定部30bと、固定部30bの左端から下方に延びる取付部30cと、本体部30aの前端部に設けられ、下端から左方に延びるとともに、その左端から立ち上がる立ち上がり部30dで構成されている。取付部30cには孔30eが形成され、本体部30aの後端部には、孔30eに対応する位置に孔30fが形成されており、これらの孔30e,30fに駆動ロッド15がはめ込まれている。また、固定部30bには孔30gが形成されており、この孔30gを介して駆動ロッド15にねじ(図示せず)をねじ込むことによって、駆動レバー30が駆動ロッド15に固定されている。また、立ち上がり部30dにはスリット30hが形成されており、このスリット30hを介して立ち上がり部30d内にワイヤ31が挿入されている。また、ワイヤ31は、その一端部に設けた頭部31aによって、駆動レバー30に対して抜け止めの状態になっている。
【0046】
ばね32は、その一端部が駆動レバー30の中央上端部に掛け止めされ、他端部がプレート33に掛け止めされており、駆動レバー30を常に上方に付勢している。プレート33は、センターレール11に固定されている。
【0047】
以上の構成の駆動機構18によれば、操作レバーが操作されていない状態では、駆動レバー30は、ばね32の付勢力により図2の反時計方向に回動しており、それに伴い、駆動レバー30と一体の駆動ロッド15、ストップレール16および連結部材17も反時計方向に回動していて、それにより、ストップレール16は、ハンマーシャンク5bの回動範囲から退避した退避位置(図1の実線位置)に保持されている。この状態では、高中音域および中低音域の境界付近の連結部材26,27の連結部26c,27cは、それに対応する、隣り合う2つのダンパー14,14のダンパーブロック14e,14e間に部分的に入り込んでいる。この状態から操作レバーを操作すると、ワイヤ31が引き下げられ、これに伴い駆動レバー30がばね32の付勢力に抗して下方に回動し、これと一体の駆動ロッド15などが図1の時計方向に回動することによって、ストップレール16がハンマーシャンク5bの回動範囲に進入した進入位置(図1の点線位置)に保持される。この状態では、連結部26c,27cは、ダンパーブロック14e,14e間から退避している。
【0048】
次に、以上の構成の消音装置1の動作を説明する。通常演奏モードで演奏を行う場合には、駆動機構18の操作レバーを操作することによって、ストップレール16を退避位置に回動させる。この状態で、鍵4が押鍵されると、鍵4はバランスピン7を中心として図1の時計方向に回動し、この回動に伴ってウイッペン9が反時計方向に回動する。このウイッペン9の回動に伴い、ジャック10がウイッペン9と一緒に上方に移動し、その突き上げ部10aがバット5aを突き上げることによって、ハンマー5が反時計方向に回動する。そして、この回動の途中で、ジャック10がバット5aから外れ、その直後においてハンマーヘッド5cが弦Sを打弦する。また、ウイッペン9の回動に伴い、ダンパー14が時計方向に回動し、ダンパーワイヤ14bが駆動ロッド15のクッション材21に当接する。
【0049】
一方、消音演奏モードで演奏を行う場合には、駆動機構18の操作レバーを操作することによって、ストップレール16を進入位置に回動させる。鍵4が押鍵されると、通常演奏モード時と同様にしてハンマー5が反時計方向に回動する。この回動の途中、ハンマーヘッド5cが弦Sを打弦する直前で、ハンマーシャンク5bがその上端部において、進入位置に位置するストップレール16にクッション材25を介して当接することによって、ハンマー5のそれ以上の回動が阻止され、それにより、打弦が阻止される。
【0050】
以上のように、本実施形態によれば、高音域レール22、中音域レール23および低音域レール24が、それぞれの連結部材17を介して駆動ロッド15に連結されているので、音域によるハンマー5の大小やハンマーヘッド5cの高さの差異にかかわらず、すべての音域において、ハンマーシャンク5bに対するストップレール16の高さおよび前後方向の位置を、各連結部材17により高音域レール22、中音域レール23および低音域レール24ごとにきめ細かく設定することができる。したがって、消音演奏モード時におけるハンマー5の回動を、音域にかかわらずハンマーシャンク5bの上端部の適切な高さにおいて適切なタイミングで阻止でき、ストップレール16に当接したときのハンマーシャンク5bの撓みを抑制しながら、ハンマー5による弦Sの打弦を確実に阻止することができる。また、駆動ロッド15とストップレール16を連結部材17で連結するだけでよいので、比較的単純な構成で消音装置1を実現することができる。
【0051】
また、高中音域および中低音域の境界付近の連結部材26,27が、ダンパーブロック14e,14e間に入り込むように配置されているので、ダンパー14の回動に伴って、ダンパーブロック14eが連結部材26,27に衝突するのを防止することができる。その結果、それに起因する雑音の発生やダンパー14の動作不良を回避することができる。
【0052】
また、ストップレール16および連結部材17は、ストップレール16に形成した前後方向に延びる長孔22d,23f,24dを介して、固定ねじ28によって固定されている。したがって、これらの長孔22d,23f,24dによって、ハンマーシャンク5bに対するストップレール16の前後方向の位置をきめ細かく調整することができ、ハンマー5の回動を最適なタイミングで阻止することができる。
【0053】
さらに、高音域レール22と連結部材17の間にスペーサ29が介在している。したがって、スペーサ29の厚さや枚数などによって、ハンマーシャンク5bに対する高音域レール22の高さをきめ細かく調整することができ、ハンマーシャンク5bの回動を、その上端部の最適な高さで阻止することができる。
【0054】
また、駆動ロッド15の表面に取り付けられたクッション材21に、回動するダンパー14が当接することによって、そのときの衝撃を吸収することができる。また、クッション材21を駆動ロッド15に取り付けることによって、ダンパーレールを省略することができるので、その分、部品点数を削減することができる。
【0055】
図5は、連結部材の変形例を示している。前述した実施形態では、連結部材17が駆動ロッド15に対して別個に構成されているのに対し、この変形例では、連結部材41が駆動ロッド15と一体に構成されている。この連結部材41は、駆動ロッド15の表面から上方に延びる本体部42と、本体部42の上端から前方に延びるレール固定部43で構成されており、レール固定部43には、実施形態と同様、ストップレール16を固定するための前後2つの孔44,44が形成されている。この構成によれば、連結部材41が駆動ロッド15と一体に構成されているので、実施形態と比較して、部品点数や組立工数を削減でき、その分、製造コストを削減することができる。
【0056】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、ストップレール16を、各音域ごとに分割した3つの高音域レール22、中音域レール23および低音域レール24で構成しているが、これに限らず、全音域にわたる単一のもので構成してもよく、その場合には、ストップレール16は、すべての音域において、ハンマー5のハンマーヘッド5cとダンパー14のダンパーヘッド14cとの間に通すことができるような形状に形成される。また、実施形態では、長孔22d,23f,24dを、ストップレール16に形成しているが、これに限らず、連結部材17に形成してもよい。また、実施形態では、ストップレール16および連結部材17に、前後2つの長孔22d,23f,24dおよび孔26h,27hをそれぞれ形成しているが、これに限らず、1つのみ形成してもよい。
【0057】
さらに、実施形態では、スペーサ29を、高音域レール22と連結部材17の間に介在させているが、必要に応じて、中音域レール23や低音域レール24と連結部材17の間にも介在させてもよい。また、実施形態では、通常用の連結部材26の連結部26cは、鉛直にまっすぐに延びるているが、これに限らず、ハンマー5やダンパー14の配置に応じて、前後方向や左右方向に適宜、斜めにしたり曲げたりしてもよい。
【0058】
さらには、実施形態は、本発明を消音ピアノに適用した例であるが、これに限らず、自動演奏ピアノなどの他のタイプのアップライト型ピアノにも適用することが可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部を適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態による消音装置、およびこれを適用した消音ピアノの概略構成を示す図である。
【図2】図1の消音装置の分解斜視図である。
【図3】図1の(a)通常用および(b)交差用の連結部材の各斜視図である。
【図4】図2の中音域と低音域の境界付近の拡大図である。
【図5】連結部材の変形例を示す部分斜視図である。
【図6】従来の消音装置を適用した消音ピアノの側面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 消音装置
2 消音ピアノ(アップライト型ピアノ)
4 鍵
5 ハンマー
5b ハンマーシャンク
14 ダンパー
15 駆動ロッド
16 ストップレール
17 連結部材
18 駆動機構
21 クッション材
22 高音域レール
22d 長孔
23 中音域レール
23f 長孔
24 低音域レール
24d 長孔
26 通常用の連結部材
26h 孔
27 境界用の連結部材
27h 孔
28 固定ねじ
29 スペーサ
S 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延びる鍵の回動に伴って、ダンパー、および上下方向に延びるハンマーシャンクを有するハンマーを回動させるアップライト型ピアノにおいて、前記ハンマーによる弦の打弦を、通常演奏モード時に許容するとともに、消音演奏モード時に阻止するアップライト型ピアノの消音装置であって、
前記ダンパーと前記ハンマーシャンクの間に配置され、左右方向に延びるとともに、軸線を中心として回動自在の駆動ロッドと、
前記ダンパーと前記ハンマーの間の前記駆動ロッドよりも上方に配置され、前記ハンマーシャンクの上端部付近に対向するように左右方向に延びるストップレールと、
前記駆動ロッドと前記ストップレールの間に延び、前記駆動ロッドと前記ストップレールを連結する連結部材と、
前記駆動ロッドを駆動することによって、前記連結部材を介して前記ストップレールを前記ハンマーシャンクの回動範囲に対して進退自在に回動させる駆動機構と、
を備えていることを特徴とするアップライト型ピアノの消音装置。
【請求項2】
前記ストップレールは、左右方向に並んだ複数のストップレールで構成され、
前記連結部材は、前記複数のストップレールを前記駆動ロッドにそれぞれ連結する複数の連結部材で構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のアップライト型ピアノの消音装置。
【請求項3】
前記ダンパーは、ダンパーブロックをそれぞれ有し、左右方向に並んだ複数のダンパーで構成され、
前記連結部材は、隣り合う2つの前記ダンパーの前記ダンパーブロック間に配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のアップライト型ピアノの消音装置。
【請求項4】
前記ストップレールおよび前記連結部材は、固定用の孔をそれぞれ有し、
これらの孔の一方は、前後方向に延びる長孔で構成され、
これらの孔に通され、前記ストップレールを前記連結部材に固定する固定ねじをさらに備えていることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載のアップライト型ピアノの消音装置。
【請求項5】
前記ストップレールおよび前記連結部材は、上下方向に重なりあった状態で連結されており、
前記ストップレールと前記連結部材の間に前記ストップレールの高さを調整するためのスペーサが介在していることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載のアップライト型ピアノの消音装置。
【請求項6】
前記駆動ロッドのダンパー側の表面に、前記鍵の回動に伴って前記ダンパーが回動したときに当接するクッション材が取り付けられていることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載のアップライト型ピアノの消音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−171236(P2006−171236A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361948(P2004−361948)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)