説明

アテローム性動脈硬化症の診断法

本発明は、血管壁に付着した活性アテローム硬化プラークであって、リガンドに対する接触可能な結合部位を持つ活性化マクロファージを含むプラークを、特定/監視する方法に関する。この方法は、動脈硬化症の評価の対象とされる患者に対して、リガンドと、指定の条件下で光を発することが可能な発色団との結合体を含む、組成物の有効量を投与する工程と、十分な時間をかけて、リガンド結合体を、活性化マクロファージに結合させる工程と、カテーテル導入装置を用いて、血管壁を指定の条件下に置く工程と、カテーテル導入装置を用いて発色団によって発せられた光を検出することによって、活性プラークを特定する工程、とを含む。本発明は、放射線を放出することが可能な化学基がリガンドに結合される、同様の方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願に対する相互参照〕
本出願は、2003年5月30日出願の米国特許仮出願第60/474,731号に対し米国特許法35条119(e)項により優先権を主張する。なお、この仮出願を参照することにより本出願に含める。
【0002】
本発明は、活性を持つアテローム性動脈硬化プラークを、特定/監視するための方法に関する。さらに詳細には、活性化マクロファージに結合するリガンドを、発色団、または、放射能を放出することが可能な化学基に結合させ、病気の宿主に投与することによって、カテーテル挿入装置を用いて、活性アテローム性動脈硬化プラークを特定/監視する。
【背景技術】
【0003】
活性化マクロファージは、外来病原体を非特異的に包み込み、そのマクロファージ内部に取り込んだ外来病原体を抹殺することによって、また、外来タンパクから得られた分解ペプチドを、他の免疫細胞によって認識され得るそのマクロファージ細胞表面に提示することによって、そして、TおよびBリンパ球の機能を修飾するサイトカインおよびその他の因子を分泌することによって、免疫反応に参加することができ、その分泌の結果、さらに免疫反応を刺激する。活性化マクロファージはまた、ある場合には、疾病の病因にも与ることがある。例えば、活性化マクロファージは、アテローム性動脈硬化症、関節リューマチ、自己免疫疾患病態、および、対宿主性移植片病に与ることがある。
【0004】
アテローム性動脈硬化症は、血管壁の内部に脂肪性の線条が形成された時に始まる。脂肪性線条は、血管壁の内膜層、すなわち、管腔内皮細胞層下部の血管層に、脂質タンパク粒子が蓄積することによって起こると考えられている。脂質タンパク粒子は、内膜層の細胞外基質成分に付着でき、血漿の抗酸化物質との接触を免れることが可能であるために、脂質タンパク粒子の酸化的修飾が実現される。この酸化的修飾は、局所的炎症反応を誘発し、これが、活性化マクロファージやTリンパ球の管腔内皮への付着を招き、次に、これらの細胞は内膜層へと移動する。酸化された脂質タンパク粒子自体が、免疫系の細胞、例えば、マクロファージやT細胞に対して化学的誘引物質として働くことが可能であるし、あるいは、血管壁内部の細胞を、化学的誘引物質を生産するように誘導することが可能である。次に、この動脈硬化病巣は、活性化マクロファージの詰まった脂質豊富なコアを備えた、繊維性キャップを形成する。動脈硬化病巣で不安定なものは、局所的な炎症をその特徴とし、破裂して危機的な心筋梗塞の原因となった病巣は、活性化マクロファージおよびTリンパ球の浸潤をその特徴とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、血管壁中の、活性を持つアテローム性動脈硬化プラークを、特定/監視するための方法に関する。本発明によれば、静止マクロファージに比べて、活性化マクロファージの表面に好んで発現/提示される受容体に結合するリガンドが、発色団、または、放射能を放出することが可能な化学基に結合させられ、このリガンド結合体が、アテローム性動脈硬化症診断の対象患者に対して投与される。このリガンド結合体は、活性動脈硬化プラークと関連する活性化マクロファージに結合し、光を発し(すなわち、リガンド−発色団結合体の場合)または放射能を放出し(すなわち、リガンド−化学基結合体の場合)、この光または放射能は、カテーテル導入装置によって検出される。従って、このリガンド結合体を用いて、活性化マクロファージを含む活性動脈硬化プラークを、不活性プラークと区別することが可能である。
【0006】
活性動脈硬化プラークと不活性な動脈硬化プラークを区別する方法は現在存在しない。破裂して動脈硬化急性症候群を引き起こす可能性のある、不安定な(すなわち、活性を持つ)アテローム性動脈硬化プラークの多くは、血管、特に冠状循環において、血管腔の狭窄を起こさないので、本発明は、動脈硬化症を持つ患者における、心筋梗塞危険度の診断において、また、臨床的介入の必要度の評価において、際立った進歩を表すものである。
【0007】
一つの実施態様では、血管壁に付着した活性アテローム硬化プラークであって、リガンドに対する接触可能な結合部位を持つ活性化マクロファージを含むプラークを、特定/監視する方法が提供される。この方法は、動脈硬化症の評価の対象とされる患者に対して、一般式
L−X
の結合体を含む組成物の有効量を投与する工程(上式において、基Lはリガンドを含み、基Xは指定の条件下で光を発することが可能な発色団を含む)と、十分な時間をかけて、リガンド結合体を、活性プラークに付着した活性化マクロファージに結合させる工程と、カテーテル導入装置を用いて血管壁を指定の条件下に置く工程、および、カテーテル導入装置を用いて発色団によって発せられた光を検出することによって活性プラークを特定する工程を含む。
【0008】
別の実施態様では、血管壁に付着した活性アテローム硬化プラークであって、リガンドに対する接触可能な結合部位を持つ活性化マクロファージを含むプラークを、特定/監視する方法が提供される。この方法は、動脈硬化症を患う患者に対して、一般式
L−X
の結合体を含む組成物の有効量を投与する工程(上式において、基Lはリガンドを含み、基Xは放射線を放出することが可能な化学基を含む)と、十分な時間をかけて、リガンド結合体を、活性プラークに付着した活性化マクロファージに結合させる工程、および、カテーテル導入装置を用いて化学基によって放出される放射線を検出することによって活性プラークを特定する工程を含む。
【0009】
これらの実施態様において、リガンドは、不活性マクロファージに比べて、活性化マクロファージの表面に優勢に発現/提示される受容体に結合するものであれば、どのようなリガンドであってもよい。そのようなリガンドとしては、葉酸塩、ビオチン、ビタミンB12、リボフラビン、チアミン、および、その他のビタミン受容体結合性リガンドから成るグループから選ばれるビタミン類が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、血管壁中の活性動脈硬化プラークを特定/監視する方法に関する。本発明によれば、静止マクロファージに比べて、活性化マクロファージの表面に優勢に発現/提示される受容体に結合するリガンドが、光を発することが可能な発色団、または、放射線を放出することが可能な化学基に結合され、このリガンド結合体が、アテローム性動脈硬化症について評価の対象とされる患者に投与される。リガンド結合体は、活性アテローム性動脈硬化プラークに付着した活性化マクロファージに結合する。リガンド−発色団、または、−化学基結合体によって放出される光または放射線は、それぞれ、カテーテル導入装置によって検出される。従って、このリガンド結合体は、アテローム硬化症について評価の対象とされる患者の動脈または静脈中に存在する2種のプラークに対し、活性化マクロファージを含む活性アテローム性動脈硬化プラークを、不活性プラークから区別するために用いることが可能となる。
【0011】
本発明によれば、「カテーテル」という言葉は、光学的エネルギーまたは放射線の経腔送達(即ち血管腔内に送達すること)が可能な、任意のカテーテル、ガイドワイヤー、またはその他の装置、および/または、本発明に従って使用されるリガンド結合体から放出される光または放射能を、血管腔内において検出することが可能な、任意のカテーテル、ガイドワイヤー、またはその他の装置、および/または、治療薬を血管腔に送達することが可能な、任意のカテーテル、ガイドワイヤー、またはその他の装置、を意味する。
【0012】
本発明によるリガンド結合体は、多種多様なリガンド、例えば、不活性化マクロファージの表面では発現/提示されない、またはごく少量しか存在しないが、活性化マクロファージの表面には発現/提示される受容体に結合する任意のリガンドを含む、多様なリガンドから形成することが可能である。そのようなリガンドとしては、N-フォルミルペプチド(例えば、f-Met-Leu-Phe)、高移動度群因子1タンパク(HMGB1)、ヒアルロナン断片、HSP-70、toll様受容体リガンド、スカベンジャー受容体リガンド、抗原提示に対する共受容体、活性化マクロファージ上のCD68、BER-MAC3、RFD7、CD4、CD14、およびHLA-Dマーカーに結合するリガンド、ウロキナーゼプラスミノゲンアクチベーター受容体に結合するリガンド(例えば、WX-360ペプチド)、好んで活性化マクロファージに結合する抗体またはその断片、および、ビタミン、または受容体結合性ビタミン類縁体/誘導体、が挙げられる。このリガンド結合体は、不活性化マクロファージに比べると、活性化マクロファージにおいてはそのリガンドに対する受容体が好んで発現されるために、活性化マクロファージに対して優先的に結合することが可能である。
【0013】
本発明に従ってリガンドとして使用される、受容可能なビタミン成分としては、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、リボフラビン、チアミン、ビオチン、ビタミンB12、および、脂溶性ビタミンA、D、E、およびKが挙げられる。これらのビタミン、およびそれらの受容体結合性類縁体および誘導体は、発色団や、放射線を放出することが可能な化学基と結合することが可能な標的実体を構成し、本発明に従って使用されるリガンド結合体を形成する。好ましいビタミン成分としては、葉酸、ビオチン、リボフラビン、チアミン、ビタミンB12、および、これらのビタミン分子の受容体結合性類縁体および誘導体、並びにその他ビタミン受容体結合性関連分子が挙げられる(米国特許第5,688,488号参照、なお、この特許文献を引用することにより本明細書に含める)。ビタミン類縁体の例としては、D形グルタミン酸残基を含む葉酸類縁体がある(通常、葉酸は、プテロイン酸に結合した一つのL形グルタミン酸を含む)。
【0014】
本発明による一般式L−Xのリガンド結合体では、基Lは、前述のように、不活性化マクロファージに比べて活性化マクロファージに対して結合が可能なリガンドである。一つの実施態様では、活性化マクロファージに結合するリガンドは、葉酸、葉酸類縁体誘導体、またはその他の葉酸受容体結合性分子である。別の実施態様では、活性化マクロファージ結合性リガンドは、静止マクロファージに比べて、活性化マクロファージに対して優先的に結合することが可能な、特異的モノクロナールまたはポリクロナール抗体、あるいは、抗体のFabまたはscFv(すなわち、1本鎖可変域)断片である。
【0015】
活性化マクロファージは、38kD GPIアンカー型葉酸受容体を発現する。この受容体は、ナノモル以下(すなわち、<1 nM)の親和度で葉酸および葉酸誘導化合物に結合する。重要なことは、小型分子や、タンパクや、さらに、リポソームが葉酸に共有結合した場合でも、その結合は、葉酸受容体に対するビタミンの結合能を変えないということである。多くの細胞は、必要な葉酸を獲得するのに、無関係な、数少ない葉酸搬送体を用いているので、葉酸受容体の発現は、ごく少数の細胞タイプに限定される。腎臓、脈絡叢、および胎盤を除いて、正常組織の葉酸受容体の発現レベルは、低いか、非検出レベルである。一方、卵巣、乳房、気管支、および、脳腫瘍を含む多くの悪性組織は、際立って高濃度のこの受容体を発現する。さらに、前記葉酸受容体の非上皮性アイソフォームである葉酸受容体βは、活性化マクロファージでは活性形として発現されるが、不活性化滑膜マクロファージでは発現されない。
【0016】
リガンドの結合部位は、活性化マクロファージの表面に一意に発現される、および/または、好んで発現/提示される、任意のリガンド分子、またはその誘導体または類縁体に対する受容体を含んでもよい。活性化マクロファージによって一意に発現される、または好んで発現される表面提示タンパクは、静止マクロファージでは、存在しないか、あるいはごく低濃度でしか存在しない受容体であり、これは、活性化マクロファージを優先的に検出するための手段を提供する。従って、静止マクロファージに比べて、活性化マクロファージにおいて発現レベルが上昇した受容体、あるいは、静止マクロファージの表面では発現/提示されない受容体、あるいは、静止マクロファージの表面では際立った量としては発現/提示されない受容体は、それがどのようなものであれ、標的対象として使用することが可能である。一つの実施態様では、本発明に従って用いられるリガンド結合体に結合する部位は、ビタミン受容体、例えば、葉酸あるいはその類縁体または誘導体に結合する葉酸受容体である。
【0017】
本発明によれば、リガンド結合体は、高い親和度で、活性化マクロファージの受容体に結合することが可能である。高親和度結合はリガンドに内在するものであってもよいし、あるいは、その結合親和度は、化学的に修飾されたリガンド(すなわち、類縁体または誘導体)を用いることによって、あるいは、リガンド結合体において、リガンドと発色団の間、または、リガンドと放射線を放出する化学基の間の特定の化学的結合によって、増強されてもよい。
【0018】
リガンド結合体における、リガンドと発色団の間、または、リガンドと化学基の間の化学的結合は、直接結合であってもよいし、あるいは、介在リンカーを介するものであってもよい。介在リンカーを介する場合、そのリンカーは、生体適合性である限り、従来技術で既知のいずれのリンカーであってもよい。典型的には、リンカーは、約1から約30個の炭素原子、より典型的には約2から約20個の炭素原子を含む。典型的には、低分子量リンカー(すなわち、約30から約300の分子量を持つもの)が用いられる。
【0019】
本発明によれば、一般に、リガンドと発色団の間、リガンドと、放射線を放出することが可能な化学基との間、リンカーとリガンドの間、または、リンカーと、発色団または放射線を放出することが可能な化学基との間に複合体を形成するには、任意の方法を利用することが可能である。リンカーを用いても用いなくても、複合体は、複合体の成分を、例えば、水素結合、イオン結合、または共有結合を通じて結合することによって形成されてもよい。結合体の成分同士の共有結合は、例えば、酸性、アルデヒド、ヒドロキシ、アミノ、スルフヒドリル、またはヒドラゾ基の間に、アミド、エステル、ジスルフィド、またはイミノ結合を形成することによって実現することが可能である。さらに、本発明によれば、リガンドを発色団/化学基と結合させるのに、間接手段、例えば、スペーサーアーム、または架橋分子を介した接続を含むことも可能である。結合のための直接手段および間接手段は共に、本発明の方法が働くためには、活性化マクロファージ上の受容体に対するリガンドの結合を妨げてはならない。あるいは別に、リガンド結合体は、リポソームを含むものであってもよい。すなわち、例えば、放射線を放出することが可能な化学基がリポソームの中に含まれ、そのリポソーム自体が活性化マクロファージ結合性リガンドに共有的に結合されるものであってもよい。
【0020】
リガンドが葉酸、葉酸類縁体/誘導体、または、その他の葉酸受容体結合分子である実施態様では、葉酸リガンドは、無水トリフルオロ酢酸を用いて、プテロイルアジド中間体を介して葉酸のγ−エステルを調製する、従来技術で認知済みの手法を用いて、発色団/化学基に結合することが可能である。この手法では、葉酸のグルタミン酸基のγ−カルボキシル基を介してのみ発色団/化学基に結合される、葉酸リガンドが合成される。あるいは別に、葉酸類縁体を、従来技術で認知済みの手法を用いて、グルタミン酸基のα−カルボキシル基を介して、またはαとγの両カルボン酸要素を介して結合することも可能である。
【0021】
本発明の方法による使用に効果的な結合体の量は、多くのパラメータに、例えば、結合体の分子量、その投与ルート、および、その組織分布を含むパラメータに依存する。本発明によれば、リガンド結合体の「有効量」とは、活性化マクロファージに結合するのに十分な量であって、活性アテローム性動脈硬化プラークを特定/監視するのに有効な量である。アテローム性動脈硬化症の評価対象となる患者に対して投与されるリガンド結合体の有効量は、約1 ng/kgから約10 mg/kg、約10 μg/kgから約1 mg/kg、約100 μg/kgから約500 μg/kgの範囲を持ってもよい。
【0022】
このリガンド結合体は、カテーテル挿入手順の前に、1回またはそれ以上の用量として(例えば、約1回から約3回)投与してもよい。用量数は、種々の要因、取り分け、結合体の分子量、その投与ルート、および組織分布に依存する。活性アテローム硬化プラークの特定/監視のために使用する場合、カテーテル挿入手順は、典型的には、活性化マクロファージを標的とするリガンド結合体の投与後、約1時間から約6時間に実施されるが、リガンド結合体の活性化マクロファージに対する結合が検出可能である限り、カテーテル挿入手順は、リガンド結合体の投与後の任意の時間に実行してよい。
【0023】
本発明の方法に従って投与されるリガンド結合体は、アテローム性動脈硬化症について評価の対象とされる患者に対して、好ましくは非経口的に、例えば、静脈内、皮内、皮下、筋肉内、または腹腔内に、製薬学的に受容可能な担体と組み合わせて投与される。あるいは別に、結合体は、アテローム性動脈硬化症について評価の対象とされる患者に対して、他の医学的に有効な手順によって、例えば、経口投与処方として投与されてもよい。本発明によれば、「アテローム性動脈硬化症について評価の対象とされる患者」とは、症状の有無によらずアテローム性動脈硬化症が疑われる患者であって、本発明の方法による評価によって利益を受けると考えられる任意の患者を意味する。
【0024】
本発明に従って用いられる、式L−Xの結合体は、本発明の一つの局面では、有効量のその結合体および、その結合体用の受容可能な担体を含む、診断用組成物を処方するために使用される。非経口投与剤形の例としては、結合体の水溶液、例えば、等張生食液、5%グルコース、またはその他のよく知られた製薬学的に受容可能な液性担体、例えば、アルコール、グリコール、エステル、およびアミドに溶解させた溶液が挙げられる。本発明に従って用いられる非経口組成物は、1回またはそれ以上の用量分のリガンド結合体を含む再構成可能な凍結乾燥物の形として存在してもよい。従来技術で既知の、任意の経口投与可能な剤形も使用が可能である。
【0025】
本発明に従って、活性化マクロファージによって仲介される病態を特定/監視するために用いられる、活性化マクロファージ標的結合体は、アテローム性動脈硬化症について評価の対象とされる患者において、活性化マクロファージ集団(すなわち、プラークの腔内内皮層に接着する活性化マクロファージ、または、プラークの脂質富裕コアに存在する活性化マクロファージ)を標的とし、それら活性化マクロファージ集団の部位にリガンド結合体を濃縮するように形成される。
【0026】
本発明の一つの実施態様では、アテローム性動脈硬化症について評価の対象とされる患者において、活性化マクロファージを含む活性アテローム硬化プラークは、式L−Xの結合体を投与することによって特定/監視される。式中、Lは、不活性化マクロファージに比べて活性化マクロファージに好んで結合することが可能なリガンドを含み、Xは、発色団、または放射線を放出することが可能な化学基を含む。その後で、患者の血管の内皮を、活性化マクロファージに結合したリガンドに結合する発色団/化学基の局所濃度を検出することが可能なカテーテル導入装置によって検査する。
【0027】
リガンド結合体は、典型的には、リガンド結合体と、製薬学的に受容可能な担体とを含む診断組成物として投与される。この組成物は、典型的には、非経口投与用に処方され、活性化マクロファージの局在の検出を可能とするのに有効な量として患者に投与される。リガンド結合体の発色団/化学基の性質は、活性アテローム硬化プラークのカテーテル内視検出に用いられる方法原理によって規定される。従って、例えば、発色団は、蛍光発色団、例えばフルオレセイン(リガンド−蛍光発色団結合体の記述についてはPCT公報第WO01/074382号を参照、なお、この文書を引用することにより本明細書に含める)を含んでもよいし、あるいは、別の発色団、例えば、ヘマトポルフィリン、またはその誘導体、あるいは、ラマン増強染料または薬剤、あるいは、多くの組織層越しの検出を可能とする光学的性質を持つ長波長蛍光染料、を含んでもよい。また、検出に用いられるリガンド結合体の成分は、化学基、例えばキレート基や金属陽イオン、例えば、放射性核種であってもよい。本発明の方法は、アテローム硬化プラークの表面、および表面下に結合したリガンド結合体から放出される光または放射能の、両方の検出に使用が可能であることに注意しなければならない。
【0028】
基Lが葉酸、葉酸類縁体/誘導体、または別の葉酸受容体結合性リガンドである結合体は、米国特許第5,688,488号に詳細に記載される。なお、この文書を引用することにより本明細書に含める。この特許を始め、関連米国特許第5,416,016および5,108,921号も、本発明に有用な結合体の調製法および実施例を記載する。これらの特許も引用することにより本明細書に含める。本発明のマクロファージ標的リガンド結合体は、これら先行特許に記載される一般的プロトコールに従って調製、使用が可能である。
【0029】
リガンド結合体が、活性アテローム硬化プラークを特定/監視するのに用いられる発色団を含む実施態様では、血管内膜において、リガンド−発色団結合体が濃縮する部位(すなわち、活性アテローム硬化プラーク)を検出するために、血管壁をあらかじめ指定の条件下に置くことも可能である。このような指定の条件としては、カテーテル導入装置による、発色団、例えば、蛍光発色団の検出に有用な、従来技術で既知の任意の条件の使用が可能である。例えば、血管壁は、放射線、レーザー光源による、スペクトラム中の紫外線、可視光線、または赤外線によって照射されてもよい。ある一定波長のレーザー放出によってアテローム硬化プラークをパルス状に、または定常照射するために、光ファイバーを用いるカテーテル導入技術を採用することも可能である。リガンド結合体によって放出される蛍光によって生成された信号は、次に、1本以上の光ファイバーによってカテーテルの末端に運ばれ、そこで分析されて、評価の対象であるアテローム硬化プラークに関する情報を供給することが可能となる。評価の対象とされるアテローム硬化プラークを特定/監視するために、放出された光は、下記の従来技術で認知済みの技術を用いて分析される。
【0030】
マクロファージ活性化時の葉酸受容体レベルの上昇に鑑みれば、ビタミン、例えば、葉酸を用いた、活性化マクロファージを標的とする99mTcキレート化学基を含むリガンド結合体を用いて、生体内において活性プラークを検出することが可能である。このようなリガンド結合体は、米国特許出願第60/378,571号に記載される。なお、この文書を引用することにより本明細書に含める。典型的には、活性化マクロファージ標的リガンド結合体は患者に投与され、そのリガンド結合体が、活性プラークに付着した活性化マクロファージに結合するのに十分な時間(例えば、約1から約24時間)経過の後、患者に対してカーテル導入操作を施すと、活性プラークの特定/監視が、標的リガンド結合体によって実行可能とされる。
【0031】
本発明の方法によれば、活性アテローム硬化プラークは、例えば、発色団によって放出される蛍光のスペクトラム分析によって、あるいは、化学基によって放出される放射能を分析することによって特定/監視することが可能であり、例えば、発色団による場合、蛍光放出は、例えば、レーザー放射によって励起される(例えば、レーザー誘発蛍光分光法)。例示の分析技術が、米国特許第4,718,417および4,785,806号に、および、米国特許出願第2003-0162234A1号に記載されるが(なお、これらの各文書を引用することにより本明細書に含める)、本発明に従ってアテローム硬化プラークを特定/監視するために、アテローム硬化プラークから放出される光または放射能を分析するのに有用であれば、どのような技術であっても使用が可能である。一つの実施態様では、蛍光または放射能分析は、剥離レーザーを調節するのに使用される。従って、剥離レーザーは、診断レーザーの後で、自動的にまたは手動によって起動される。
【0032】
本発明の方法においては、従来技術で既知の各種レーザーの使用が可能である。例示のレーザーとしては、ホルミウム添加イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)、ホルミウム添加イットリウム・リチウム・フロリド(YLF)、および、ツリウム添加YAGおよびツリウム添加YLF、が挙げられる。上記およびその他の好適なレーザーに関する詳細は、米国特許第4,917,084および4,950,266号に開示される。これらの文書を引用することにより本明細書に含める。
【0033】
米国特許第5,217,456、5,275,594、5,562,100、6,167,297、6,217,847、6,246,901、6,387,350、6,507,747号に記載される方法も、本発明に従ってリガンド−発色団結合体から光の放出を励起するために、および、リガンド結合体から放出される光または放射能を検出/分析するために使用することが可能である。
【0034】
本発明の方法は、アテローム硬化プラークの検出/分析/剥離のために単独で使用してもよいし、あるいは、従来技術で既知の任意の他の技術と組み合わせて使用してもよい。例えば、本発明は、活性プラークが血管の狭窄を招いている場合には、アテローム硬化プラークを剥離する方法と組み合わせて使用してもよい。そのような場合、本発明のリガンド結合体は、活性アテローム硬化プラークを、不活性プラークと比較して特定するためばかりでなく、剥離操作の際に役立てるために、アテローム硬化組織と正常組織を区別するためにも使用することが可能である。従って、本発明は、アテローム硬化プラークの生理学的、形態学的状態の両方を分析するために使用することが可能である。例えば、血管成形は、プラーク沈着によって狭窄した血管の非外科的拡張を含むが、例えば、カテーテル導入装置の光ファイバーによって導かれたレーザーエネルギーを、そのプラーク堆積物を剥離するのに、または部分的に除去するのに使用することが可能である。レーザーエネルギーを用いてプラークを剥離するためのカテーテル導入装置は、米国特許第4,817,601、4,850,351、および4,950,266号に記載される。なお、これらの文書を引用することにより本明細書に含める。
【0035】
アテローム硬化プラークを剥離するのにレーザーエネルギーを用いる場合、正常な組織に対する熱損傷は重大な危険となる。なぜなら、プラークの剥離のために使用されるレーザーから放出される放射エネルギーレベルは、正常組織を損傷または破壊できるので、動脈の意図しない穿孔を招く可能性がある。従って、本発明のリガンド結合体は、活性アテローム硬化プラークを特定するためばかりでなく、プラーク剥離時に正常組織に対する損傷を回避するために、アテローム硬化プラークと正常組織とを区別するためにも利用することが可能である。レーザーに対する連続暴露が組織を損傷する恐れのある場合はいつでも、レーザーのパルス放出を使用することも可能である。
【0036】
本発明の方法はまた、プラーク剥離の際にアテローム硬化プラーク(例えば、繊維性プラーク、石灰化プラーク、および脂質プラーク)と正常組織とを区別するための、他の技術と組み合わせて使用することも可能である。そのような技術としては、例えば、レーザー誘発による石灰化プラークからのカルシウムの光放出、および、レーザー誘発による非石灰化プラークからの蛍光放出の分析に基づく技術を含む。他の同様な技術としては、アテローム硬化プラークから放出される蛍光と、正常の組織から放出される蛍光との間のコントラストを強調する染料を用いた、あるいは用いない、動脈組織からの、選択された波長における蛍光(例えば、レーザー励起蛍光)の分析が挙げられる(米国特許第4,641,650、4,718,417、および4,785,806号を参照、なお、これらの文書を引用することにより本明細書に含める)。アテローム硬化プラークと正常組織とを区別するために、本発明の方法と組み合わせて用いることが可能な、その他のレーザー技術としては、レーザー誘発ラマン光散乱およびレーザー誘発プラズマ光放出を利用する技術が挙げられる。その他、従来技術で既知の診断用、および/または剥離用レーザーを使用する任意の技術を、本発明の方法と組み合わせて用いることが可能である(米国特許第4,817,601および4,850,351号を参照、なお、これらの文書を引用することにより本明細書に含める)。
【0037】
アテローム硬化プラークの検出/分析/剥離のために、本発明の技術は、従来技術で既知の任意の他の技術、例えば、米国特許第5,217,456、5,275,594、5,562,100、6,167,297、6,217,847、6,246,901、6,387,350、6,507,747号に記載される方法(引用により本明細書に含める)を含む、任意の技術と組み合わせることが可能である。さらに、本発明はまた、同じカテーテル集合体、または別のカテーテル集合体に配置された、治療薬および核酸構築体をガイドするのに使用することも可能である(米国特許出願第2002-0192157 A1号を参照、なお、この文書を引用することにより本明細書に含める)。
【実施例】
【0038】
<実施例1>
===動脈硬化症ウサギの臓器におけるEC20取り込みの分析===
ワタナベ・遺伝性高脂血症ウサギモデル(すなわち、動脈硬化症のモデル)を用いて、葉酸標的99mTcキレート化学基(EC20;米国特許出願第60/378,571号参照、この文書を引用により本明細書に含める)の結合が、動脈硬化症ウサギの動脈において検出できるかどうかを調べた。ワタナベウサギは、LDL受容体を欠損しており、従って、高コレステロール血症および動脈硬化症のモデルとなる。
【0039】
ワタナベウサギ(2匹で、それぞれ6月齢)を、HRP-Covance(ペンシルバニア州、米国)から購入した。このウサギを、3週間葉酸欠損食餌にて飼育した時点で、EC20の生体分布を評価した。EC20の生体分布研究のために、各ウサギに、3.4 mCiの99mTcおよび7.4X10-9モルのEC20を投与した(図1のEC20)。1匹のウサギ(すなわち対照)には、1000倍過剰な遊離葉酸を投与した(図1のEC20+FF)。各ウサギにおける全注入量は、耳辺縁静脈から400 μlであった。ウサギは注入4時間後屠殺し、臓器を摘出してEC20生体分布を分析(すなわち、組織1グラム当たりの放射能を測定した、図1参照)した。
【0040】
図1の結果は、1000倍過剰な遊離葉酸との競合下にあって、99mTc-EC20の特異的結合が、ワタナベ・アテローム硬化症ウサギの大動脈弓、下大静脈、上大静脈、肺動脈、胸大動脈、および腹大動脈に検出されたことを示している。
【0041】
<実施例2>
===材料===
Fmoc保護アミノ酸誘導体、Fmoc-グリシン負荷Wang樹脂、2-(1H-ベンゾトリアゾル-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム・ヘキサフルオロフォスフェート(HBTU)、および、N-ヒドロキシベンゾトリアゾールを、Novabiochem(サンディエゴ、カリフォルニア州)から購入した。以前に発表された報告書(Godwin 1972)に従って、葉酸(Sigma Chemical Company、セントルイス、ミズーリ州)からN10-トリフルオロアセチルプテロイン酸を合成した。ガンマカルボキシ結合葉酸−フルオレセイン(葉酸-FITC)の合成法は、以前の刊行物(Kennedy et al., 2003)に記載されている。L-グルタミンを含むが、葉酸を含まないRPMI1640培地は、Gibco-BRL(Grand Island、ニューヨーク州、米国)から、葉酸および、トリグリセリド試薬GPO-PAPは、DIALAB(ウィーン、オーストリア)、INFINITY CHOLESTEROL試薬および、その他の化学薬品は、Sigma Chemical Co.(セントルイス、ミズーリ州)からそれぞれ入手した。
【0042】
<実施例3>
===葉酸−テキサスレッド結合体の合成===
標準的Fmocペプチド化学を用いて、テキサスレッドに対して、葉酸のガンマカルボキシルを介して結合する、葉酸誘導ペプチドを合成した。Fmoc化学に基づき、HBTUおよびN-ヒドロキシベンゾトリアゾールを活性化剤として、それと共に、ジイソプロピルエチルアミンを塩基、および、DMFに溶解した20%ピペリジンをFmoc基の脱保護用として用いて、配列Gly-Lys-(γ)Glu-プテロイン酸を構築した。ε-アミンに4-メチルトリチル保護基を含むFmoc保護リシンを、Wang樹脂に付着させたFmoc-保護グリシンに結合させた。次に、このペプチドに、α-t-Boc保護N-α-Fmocグルタミン酸を結合させ、ペプチドにN10-トリフルオロアセチルプテロイン酸を付着させた後、葉酸に対するγ-結合結合体を得た。リシンのε-アミンにおけるメトキシトリチル保護基を、ジクロロメタンに溶解した1%トリフルオロ酢酸で除去し、テキサスレッドを付着可能にした。DMFに溶解したテキサスレッド・N-ヒドロキシスクシニミド(Molecular Probes, Eugene、オレゴン州)を、このペプチドと一晩反応させ、その後、このペプチド樹脂ビーズから十分に洗い落とした。次に、この葉酸−テキサスレッドペプチドを、95%トリフルオロ酢酸:2.5%水:2.5%トリイソプロピルシラン溶液によって樹脂から分離した。ジエチルエーテルを用いてこの産物を沈殿させ、この沈殿を遠心にて回収した。次に、この産物をジエチルエーテルにて2回洗浄し、減圧下に一晩乾燥した。次に、この産物を、質量分析によって確認した([M-]計算値:1423、観測値:1422)。N10-トリフルオロアセチル保護基を除去するために、この産物を、0.5 mlの10%水酸化アンモニウムを含む5 mlの水で、pHを9.5-10.0に調節させた液に溶解し、室温で30分攪拌した。次に、この産物をイソプロパノール/エーテルを用いて沈殿させ、遠心にて回収した。産物を、G-10セファデックスゲルろ過カラム(1.5 x 15 cm)に加え、水を溶出液として用いた。産物のピークを回収し、凍結乾燥した。
【0043】
<実施例4>
===動物モデル===
健康な雄性の、RAPマウスおよびゴールデンシリア・ハムスターを実験用に選んだ。動物を三つの実験グループに分けた。すなわち、(i)100 kg当たり0.1 gの葉酸を含む正常食餌(N)による飼育グループ、(ii)葉酸欠損食餌(D)による飼育グループ、および、(iii)葉酸欠損食餌と、3%コレステロールと15%バターを含む高脂血症食餌(H)とを共に、6ヶ月与えられた飼育グループである。市販の動物食餌は、葉酸の生理的濃度を超える量が添加されているので、これらの「正常」動物における血清葉酸レベルは、生得のレベルを40倍も超えることがよくある(Wang等)。葉酸の、このように高い血清含量は、FR発現の抑制をもたらす。
【0044】
<実施例5>
===高脂血症動物のマクロファージ上の葉酸受容体===
FITCに結合させた葉酸(FA-FITC)、または、テキサスレッドに結合させた葉酸(FA-TR)のどちらかを、腹腔内に注入し(10 μg/100 g体重)、4時間後、動物を失血させ(軽いエーテル麻酔下)、次に頚動脈切断によって屠殺した。マクロファージ濃縮懸濁液(若干のマスト細胞、PMN、および単球も含んでいる)を腹腔洗浄にて得た(Aviram、1989)。手短に言うと、腹腔に、10 mlの冷却リン酸バッファー生食液(PBS)、pH7.4を注入し、穏やかに2分マッサージした。腹腔細胞の懸濁液をナイロン布でろ過し、250 x g、4℃での10分間の遠心によりPBSで2回洗浄した。次に、この細胞ペレットを、冷却細胞溶解バッファー(1% NP-40、50 mM TRIS-HCl、2 mM EDTA、1 mM DTT、PMSF、プロテアーゼ阻害剤)にて可溶化し、遠心にて透明にし、蛍光を、RF-5001 PC分光光度蛍光測定器を用い、標準曲線に基づいて定量した。タンパク濃度はアミドブラックにて定量し、結果は、各動物ブループについて、ng FA/mgタンパク比として表した。同じ定量を、各動物から収集した血清サンプルについても行った(ng FA-FITC/血清タンパク)。対照実験では、動物に、100X過剰な遊離葉酸の存在下にFA-FITC結合体を注入した。6ヶ月の食餌飼育後における総コレステロールおよび血清トリグリセリド濃度を、特異的試薬キットを用いて測定した。
【0045】
ゴールデンシリア・ハムスターから得た腹腔マクロファージが、機能的な葉酸受容体を発現しているか否かを確定するために、ハムスターの腹腔に葉酸(FA)-FITCを注入し、4時間後に抽出したマクロファージによる葉酸結合体の取り込みを、蛍光定量法によって調べた。図2の結果は、正常(葉酸高濃度)食餌(N)で飼育した動物、FA欠損食餌(D)で飼育した動物のいずれと比べても、高脂血症ハムスター(H)から収集したマクロファージによる葉酸結合体の保持量に有意な増加があることを示している。重要なことは、同じ食餌で飼育したマウスから分離されたマクロファージでは同じ差が検出されなかったことである(図3)。この結果は、恐らく、ヒトと同様の病巣を発症させるハムスターとは対照的に、マウスはアテローム性動脈硬化症に対して耐性を持つことで説明されよう。
【0046】
全ての実験グループについて、注入4時間後のFA-FITCの血清レベルを測定した。データから、高脂血症ハムスターの血清には、より高濃度の葉酸結合体が存在することが示された。これは、高脂肪食餌に対する反応として、クリアランス機構に後天的に欠陥が生じたのか、または、血清タンパクによる葉酸結合体に対する結合が増加したのか、そのいずれかが考えられる(図4参照)。高コレステロール血症食餌で飼育されたハムスターの高脂血状態はまた、血清の総コレステロールおよびトリグリセリドが両方とも高レベルであることによっても確かめられた(図5)。これらを総合すると、図2−5の結果は、高コレステロール血症食餌によって、マクロファージによる葉酸取り込みの増加、および、血清からの結合体のクリアランスの低下を少なくとも含む、葉酸のホメオスターシスにおける異常が誘発されたことを示す。
【0047】
<実施例6>
===組織切片の作製===
アテローム硬化病巣頻発区域(大動脈および弁)の組織断片を、各実験グループから採取し、蛍光顕微鏡観察のために処理した。大動脈を露出し、分枝動脈を切り離し、ゆるやかな外膜は生体内で除去した。次に、この血管を切開し、冷却無菌PBSにて十分に洗浄した。大動脈および心臓弁を丁寧に切り出し、全てのセグメントを、PBSに溶解した4% p-フォルムアルデヒドに室温で90分投入して固定した。次に、この組織を、OTC溶媒に浸し、液体窒素で瞬間凍結し、凍結切片を作製した。この凍結切片を、オイルレッドOにて染色し、ヘマトキシリンにて対比染色した(Mancini, 1995)。同様の半薄切凍結切片を、適当なフィルターを用い、位相差顕微鏡および蛍光顕微鏡の両方によって観察した。
【0048】
アテローム硬化病巣の共通した部位が、葉酸ホメオスターシスの変化の影響を受けているかどうかを確かめるために、アテローム硬化性食餌で飼育されたゴールデンシリア・ハムスターのアテローム硬化病巣頻発区域から組織断片を収集し、蛍光顕微鏡観察のために処理した。正常食餌または低葉酸食餌のいずれかで飼育された動物は、アテローム硬化病巣を発生させず、正常なコレステロールおよびトリグリセリド総血清濃度を示したが、高脂血食餌に移行させると6ヶ月以内に、ハムスターでは、大動脈と心臓弁の両方に広範な病巣が発生した。病巣は、半薄切凍結切片のオイルレッド染色で明らかにされたところでは、不均一な構造を示し、高密度に脂質を含んでいた(図6a)。重要なことは、隣接する非染色切片を蛍光顕微鏡法で調べたところ、脂肪性病巣の著明な赤色蛍光によって示されるように、葉酸−テキサスレッド結合体の際立った取り込みが明らかにされたことである(図6b)。すなわち、アテローム硬化症の弁全体にわたって、明瞭な病巣部位に強度のFA-TR取り込みが認められたのに対し、脂肪性病巣の全体に広がって、むしろ均一な低レベルのFA-TRの保持が観察された。強い蛍光スポットは、比較的若い活性化マクロファージが密集しつつある微小ドメインを構成し、一方、比較的強度の低い蛍光領域は、次第に沈静に向かいつつある脂質含有細胞(泡沫細胞)の濃縮された領域に相当する可能性がある。
【0049】
<実施例7>
===培養腹腔マクロファージにおけるFA-テキサスレッドの特異的取り込み===
ハムスターの腹腔マクロファージ(ハムスター1匹当たり10−20 x 10-6個)を、腹水から収集し、PBS中で1000 x gで10分の遠心によって3度洗浄した。細胞を、L-グルタミンを含むが葉酸を含まないRPMI1640培地の10 mlに懸濁した。なお、この培養液には、(56℃30分で加熱不活性化した)10%仔牛血清、100 U/mlのペニシリン、および100 μg/mlのストレプトマイシンが添加されていた。未修飾のRPMI中に存在する高い葉酸濃度の中で細胞を培養すると、通常細胞表面のFRの発現の低下が起こるが、この低下を阻止するために、葉酸は培養液から取り除かれた。次に、この腹腔マクロファージを、50 mmペトリ皿に撒き、加湿インキュベーター(5% CO2、95%空気)で培養した。2時間のインキュベーション後、細胞を洗浄して、非接着細胞を除去し、さらに18時間同様の条件下でインキュベートした。細胞を素早く洗浄し、「slow fade」でマウントし、テキサスレッドフィルターの下に蛍光顕微鏡(Nikon)を用いて調べた。
【0050】
FA-TR投与高コレステロール血症ハムスターの腹腔から収集されたマクロファージもまた、正常な脂質食餌で飼育された動物から同様にして分離されたマクロファージよりも有意に多量の蛍光を呈することが判明した(図7a)。これは、以前に葉酸-FITCにおいて観察された取り込み増大(図2)が、それとは全く別の葉酸結合体、すなわち、FA-TRにおいても繰り返され得ることを示している。不活性化マクロファージではそうではないが、活性化マクロファージは葉酸受容体を発現することが報告されているので(Nakashima-Matsushita, 1999)、このデータは、アテローム性動脈硬化症は、活性化マクロファージがその中に大量に存在する炎症疾患であることを裏付ける(Haynes, 2002)。
【0051】
<実施例8>
===U937細胞系統におけるFA-FITCの特異的取り込み===
生きた動物モデルの試験をさらに広げるために、U937細胞(Harris, 1985)を用いて細胞培養実験を行った。U937細胞は、瀰漫性組織球リンパ腫の患者の胸膜液に由来する細胞系統で、単球の多くの特性を示す。葉酸受容体の発現を促進するために、U937細胞を、5%FCSか、あるいは、高コレステロールおよび高グルコースレベル(コレステロール:295 mg/dl、グルコース:315 mg/dl)の患者由来の5%血清、のいずれかを添加した、葉酸欠損RPMI中で培養した。平行して行なわれた、U937細胞活性化のための比較的古典的な方法によるFR発現の評価を目的とした実験では、U937細胞を、0.5 g/mlの細菌性リポ多糖類(LPS)の存在下に、または、非存在下に、葉酸無添加であるが5%FCSを添加したRPMIにて培養した。患者の血清またはLPSのどちらかによって24時間活性化した後に、細胞を2.5 g/ml FA-FITCとインキュベートした。細胞を、PBSで洗浄し、細胞溶解バッファー(50 mM TRIS-HCl、1% NP-40、2 mM EDTA、および、1 mM DTTとプロテアーゼ阻害剤)にて可溶化し、FA-FITCの取り込みを蛍光分光法によって定量した。タンパク濃度は、BCA法によって定量し、結果は、各実験条件におけるng FA-FITC/mgタンパクの比として表した。
【0052】
U937細胞(Sundstrom, 1976)は、単球系統の決定(committed)始原細胞から得られた細胞である。予備実験において、U937細胞によるFA-FITCの取り込みは、葉酸受容体によって特異的に仲介されたものであることが証明された。これは、100倍過剰な遊離葉酸を添加すると、FA-FITC結合体の取り込みが阻止されることから明らかにされたものである。次に、正常培養液(5%仔牛血清添加RPMI)か、高脂血症培養液(高コレステロール血症患者から得た5%血清添加RPMI)のいずれかで培養したU937細胞による、FA-FITCの保持を調べた。図8bに示すように、培養4時間の終了時までには、高脂血症血清添加培養液で培養したU937細胞では、正常培養液で培養された細胞よりも、高いFA-FITCの取り込み(1.6倍)が観察された(図8a)。重要なことは、細胞を、細菌のリポ多糖類に暴露した場合(図8c)に同様の結果が得られたことである。なお、リポ多糖類は、U937細胞を活性化マクロファージの特性を持つ細胞に分化させる、ケモカインの分泌を誘発することが知られている(Wang, 1998)。しかしながら、この場合は、FA-FITCの取り込みは、刺激の無い場合(図8a、c)に比べて1.8倍高かった。全体をまとめると、これらの実験は、高コレステロール血症状態は、マクロファージをリポ多糖類によって直接活性化した場合と同様のやり方で、マクロファージ上の葉酸受容体の過剰発現を誘発することを示す。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、アテローム硬化症ワタナベウサギの臓器における、葉酸標的99mTcキレート化学基(EC20)の取り込みを示す。
【図2】図2は、正常(高葉酸含有)食餌(N)、または葉酸(FA)欠損食餌(D)で飼育した動物と比較した場合の、高脂血ハムスター(H)由来マクロファージによる葉酸-FITC保持状態を示す。
【図3】図3は、正常(高葉酸含有)食餌(N)、または葉酸(FA)欠損食餌(D)で飼育した動物と比較した場合の、高脂血マウス(H)由来マクロファージによる葉酸-FITC保持状態を示す。
【図4】図4は、正常(高葉酸含有)食餌(N)、または葉酸(FA)欠損食餌(D)で飼育した動物と比較した場合の、高脂血ハムスター(H)における葉酸-FITCの血清レベルを示す。
【図5】図5は、正常(高葉酸含有)食餌(N)、または葉酸(FA)欠損食餌(D)で飼育した動物と比較した場合の、高脂血ハムスター(H)における総血清コレステロールおよびトリグリセリドのレベルを示す。
【図6】図6a(FIG.6a)および6b(FIG.6b)は、アテローム硬化性食餌で飼育されたゴールデンシリア・ハムスターのアテローム硬化病巣頻発区域から得られた組織断片の蛍光分析を示す。
【図7】図7a(FIG.7a)および7b(FIG.7b)は、葉酸−テキサスレッドを投与した、高コレステロール血症ハムスターの腹腔から採取したマクロファージの蛍光分析を示す。
【図8】図8は、正常培養液(a)、高脂血症培養液(b)、またはLPS添加正常培養液(c)のいずれかで培養したU937細胞によって保持される葉酸-FITC量を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管壁に付着した活性アテローム硬化プラークであって、リガンドに対する接触可能な結合部位を持つ活性化マクロファージを含む該プラークを、特定/監視する方法であって、
動脈硬化症の評価の対象とされる患者に対して、一般式
L−X
の結合体を含む組成物の有効量を投与する工程であって、上式において、基Lは該リガンドを含み、基Xは指定の条件下で光を発することが可能な発色団を含むことを特徴とする工程;
十分な時間をかけて、該リガンド結合体を、該活性プラークに付着した活性化マクロファージに結合させる工程;
カテーテル導入装置を用いて該血管壁を指定の条件下に置く工程;および、
カテーテル導入装置を用いて該発色団によって発せられた光を検出することによって、該活性プラークを特定する工程
を含む前記方法。
【請求項2】
前記リガンドがビタミンであることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項3】
前記ビタミンは、葉酸塩、ビオチン、ビタミンB12、リボフラビン、チアミン、および、その他のビタミン受容体結合性リガンドから成るグループから選ばれることを特徴とする、請求項2の方法。
【請求項4】
前記リガンドは、抗体または、活性化マクロファージ結合性抗体断片であることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項5】
前記発色団は蛍光発色団であることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項6】
前記蛍光発色団はフルオレセインであることを特徴とする、請求項5の方法。
【請求項7】
血管壁に付着した活性アテローム硬化プラークであって、リガンドに対する接触可能な結合部位を持つ活性化マクロファージを含む該プラークを、特定/監視する方法であって、
動脈硬化症を患う患者に対して、一般式
L−X
の結合体を含む組成物の有効量を投与する工程であって、上式において、基Lは該リガンドを含み、基Xは放射線を放出することが可能な化学基を含むことを特徴とする工程;
十分な時間をかけて、該リガンド結合体を、該活性プラークに付着した活性化マクロファージに結合させる工程;および、
カテーテル導入装置を用いて該化学基によって放出される放射線を検出することによって、該活性プラークを特定する工程
を含む前記方法。
【請求項8】
前記リガンドがビタミンであることを特徴とする、請求項7の方法。
【請求項9】
前記ビタミンは、葉酸塩、ビオチン、ビタミンB12、リボフラビン、チアミン、および、その他のビタミン受容体結合性リガンドから成るグループから選ばれることを特徴とする、請求項8の方法。
【請求項10】
前記リガンドは、抗体または、活性化マクロファージ結合性抗体断片であることを特徴とする、請求項7の方法。
【請求項11】
前記化学基は金属キレート基を含むことを特徴とする、請求項7の方法。
【請求項12】
前記金属キレート基は、金属陽イオンをさらに含むことを特徴とする、請求項11の方法。
【請求項13】
前記金属陽イオンは放射性核種であることを特徴とする、請求項12の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管壁に連結した活性アテローム硬化プラークであって、
ビタミンに対する接触可能な結合部位を持つ活性化マクロファージを含む
該プラークを、
特定/監視するための組成物の製造における、
一般式
L−X
の結合体の用法であって、
上式において、
基Lはビタミン受容体結合性リガンドを含み、
基Xは指定の条件下で光を発することが可能な発色団を含む
ことを特徴とする前記用法。
【請求項2】
前記血管壁が、
カテーテル導入装置を用いて指定の条件下に置かれる
ことを特徴とする、請求項1の用法。
【請求項3】
前記発せられた光は、
カテーテル導入装置を用いて検出される
ことを特徴とする、請求項1または2の用法。
【請求項4】
前記ビタミン受容体結合性リガンドは、
葉酸塩、ビオチン、ビタミンB12、リボフラビン、チアミン、および、その他のビタミン受容体結合性リガンドから成るグループから選ばれる
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの用法。
【請求項5】
前記ビタミン受容体結合性リガンドは、
抗体または、活性化マクロファージ結合性抗体断片である
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの用法。
【請求項6】
前記発色団は、蛍光発色団である
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかの用法。
【請求項7】
前記蛍光発色団は、フルオレセインである
ことを特徴とする、請求項6の用法。
【請求項8】
血管壁に連結した活性アテローム硬化プラークであって、
ビタミンに対する接触可能な結合部位を持つ活性化マクロファージを含む
該プラークを、
特定/監視するための組成物の製造における、
一般式
L−X
の結合体の用法であって、
上式において、
基Lはビタミン受容体結合性リガンドを含み、
基Xは放射線を発することが可能な化学基を含む
ことを特徴とする前記用法。
【請求項9】
前記放射線は、
カテーテル導入装置を用いて検出される
ことを特徴とする、請求項8の用法。
【請求項10】
前記ビタミンは、
葉酸塩、ビオチン、ビタミンB12、リボフラビン、チアミン、および、その他のビタミン受容体結合性リガンドから成るグループから選ばれる
ことを特徴とする、請求項8または9の用法。
【請求項11】
前記ビタミン受容体結合性リガンドは、
抗体または、活性化マクロファージ結合性抗体断片である
ことを特徴とする、請求項8または9の用法。
【請求項12】
前記化学基は、金属キレート基を含む
ことを特徴とする、請求項8〜11のいずれかの用法。
【請求項13】
前記金属キレート基は、金属陽イオンをさらに含む
ことを特徴とする、請求項12の用法。
【請求項14】
前記金属陽イオンは、放射性核種である
ことを特徴とする、請求項13の用法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−526642(P2006−526642A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514981(P2006−514981)
【出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/016667
【国際公開番号】WO2004/110250
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】