説明

アテローム硬化型冠動脈プラークのための薬剤及びそれらの用途

アテローム硬化型プラークに特異的薬剤及びそれらの用途
本発明は、単離された冠動脈アテローム硬化型プラークに特異的に結合する抗体又はそれらの断片、及びそれらの抗体断片をコードするDNA配列を有する宿主細胞を用いたそれらの製造方法を開示する。また、該単離された試料のリガンドのスクリーニングの方法についても記載しており、該抗体を含む組成物も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤及びそれらの製造方法に関する。特に本発明は、冠動脈プラークに存在する抗原に向けられた抗体又はそれらの断片を含む。さらに、本発明は、免疫アッセイに用いるためのそれらの抗体、及び抗体のアミノ酸配列またはそれらの断片をコードするヌクレオチド配列に関する。さらに、本発明は、該抗体又はそれらの断片又はそれらのリガンドの使用に関連する、診断及び治療への適用を含む。
【背景技術】
【0002】
急性冠症候群 (またてACSとも略する。) 冠動脈におけるプラークの破裂という兆候がある。アテローム硬化型プラークの破裂又は浸食に続く、血栓形成及び動脈の閉塞は、心筋梗塞及び不安定狭心症を引き起こす(「アテローム性プラーク破裂に関する新たな洞察(New insights into atherosclerotic plaque rupture)」、D.M. Braganza and M.R. Bennett, Postgrad. Med. J. 2001; 77; 94-98を参照されたい。)
アテローム硬化型発作は、内皮細胞下における脂肪線条を形成する単球由来の泡沫細胞及び関連するT細胞により形成される非狭窄性の脂質(lipid laden)の蓄積により開始する。病態の進行につれ、病変は平滑筋細胞(VMSC)及び炎症細胞(マクロファージ及びTリンパ球の両方)を含む内皮化した繊維性キャップにより結合する、コレステロールエステルの無細胞性の核が形成されてくる。また、進行した病変には、新血管及びカルシウムヒドロキシアパタイトの蓄積が見られる (一般的な参考文献としては、「冠血管疾患:アテローム発生:アテローム発生原因に関する現在の理解(Coronary disease: Atherogenesis: current understanding of the causes of atheroma)」 Peter L. Weissberg, Heart 2000; 83; 247-252を参照されたい)。
【0003】
プラークの細胞外脂質の核は、動脈壁に浸潤した脂質又は泡沫細胞の死骸に由来する、遊離のコレステロール、コレステロール結晶及びコレステロールエステルからなる。脂質の核は、プラークにストレスを与え、プラークのショルダー域(shoulder regions)に影響を及ぼし;さらに、脂質の核は、 プロトロンビン性の酸化脂質を含み、これはさらに、循環血にさらされると高度に血栓形成性である脂質の核を有する、マクロファージ由来の組織因子を含浸する (例えば、「Mechanism of Plaque Vulnerability and Rupture」 Prediman K. Shah, Journal of the American College of Cardiology 2003; 41(Suppl 1); 15-22を参照されたい)。
【0004】
プラークの安定性は、構造的に重要なI型及びIII型コラーゲンを製造するため、プラークにおける血管平滑筋細胞 (SMCs)の量にも依存する。対照的に、マクロファージ及び他の炎症性細胞は、コラーゲン及び細胞外マトリックスを分解するマトリックスメタロプロテイナーゼ (MMPs)を放出するため、プラークを潜在的に弱める可能性がある (「アテローム性プラーク破裂に関する新たな洞察(New insights into atherosclerotic plaque rupture)」 D.M. Braganza and M.R. Bennett, Postgrad. Med. J. 2001; 77;94-98を参照されたい)。
繊維性キャップの構造成分は、SMCsに由来するコラーゲン、エラスチン及びプロテオグリカンのようなマトリックス成分を含む。該繊維性キャップは、プラークの深層成分と循環血との接触から保護し、破裂の付近において、小さくなることが観測されている。
【0005】
破裂したプラークは、プラークのままのものに対して、いくつかの組織形態学的特徴を示す。それゆえ、それらが存在する場合には、プラークの破裂の危険性があると考えられる。
プラーク形成の生来的な起因は、4つの「主要な」リスクファクターによる内皮細胞の反復した傷害であると考えられており:喫煙、高血圧症、糖尿病及び高脂血症 (高濃度のLDL及び低濃度のHDL)である。傷害による内皮機能障害は、プラーク形成開始に重要な役割を果たす。脂質はより簡単に血流から内膜に流れ込むからである。
脆弱なプラークの破裂は、例えば極端な運動、深刻な心的外傷及び異なる性質のストレス又は急性感染症のような上述のトリガーのないまま又は自然に起こる。プラークの破裂は、しばしばACSの臨床症状として現れる血栓症につながる。プラーク破裂に対する血栓応答は、おそらく血栓形成性の構成成分により制御される;一般に、プラーク破裂は、壊死性のコア及び過量の炎症性細胞による非常に浸潤性のある細い繊維性キャップを有する病変において、進行する。内腔血栓は、さらに血小板と壊死性の核の物理的な接触によって進行する(例えば、「プラークの脆弱性及び破裂のメカニズム(Mechanism of Plaque Vulnerability and Rupture)」 F.D. Kolodgie et al. Heart 2004; 90; 1385-1391を参照されたい。)。
【0006】
繊維性キャップの破裂又は侵食は、非常に血栓形成性のコラーゲンマトリックス及び脂質コアを、血小板凝集及び活性化に不可欠な循環血にさらす。代わりに、フィブリンの蓄積及び血栓形成から血管閉塞につながるが、後者は不可欠ではなく、サイレントエピソード(silent episodes)とされる(「冠血管疾患:アテローム発生: アテロームの原因に関する現在の理解(Coronary disease: Atherogenesis: current understanding of the causes of atheroma)」、Peter L. Weissberg, Heart 2000; 83; 247-252を参照されたい)。
現在まで、アテローム性動脈硬化症は、血流への機械的な影響を通して、変性性で、ゆっくりとした進行で症状が表れる疾患であると考えられていたが、現在では顕著に変化するダイナミックな炎症性プロセスであると理解されている。アテローム性動脈硬化症の発展及び進行に関する細胞及び分子の現象に関わる近年の研究は、疾患の結末を命令するプラーク成分間のダイナミックな相互作用に焦点を当てている(「冠血管疾患:アテローム発生:アテロームの原因に関する現在の理解」、Peter L. Weissberg, Heart 2000;83;247-252を参照されたい)。
冠血管症候群といくつかの病原体の関係について評価すべき対照的なデータがある。プロスペクティブ研究においては (例えば、「ウイルス及びバクテリア感染は、冠血管疾患の患者の予後において、長い負担となる」、ラプレヒト H.J.ら、Circulation 2001, Jul 3; 104(1): 25-31を参照されたい。) 、1018人の患者群における発作と8つの異なる病原体について述べている(単純ヘルペスウイルス 1-2、エプスタインバーウイルス、サイトメガロウイルス、インフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマ、ヘリコバクターピロリ及びクラミジア肺炎);それぞれ血清において6及び8の病原体が陽性となった場合には、それぞれ7%及び12.6%、死亡率が増加することが見出されている。
デ・パルマ及びそのグループは、(「急性冠血管症候群の患者は不安定プラークにおいて、オリゴクローナルT-細胞動員を示す」、デ・パルマら、Circulation 2006,113: 640-646)血液サンプル及び急性冠症候群の患者の冠動脈プラークから直接、回収されたT細胞のレパートリーについて研究した。
【0007】
抗体の構造
抗体には5つの型がある(イムノグロブリンとも呼ばれる):IgG、IgA、IgD、IgM及びIgEである。IgGの構造は、図1に示され、2つの軽鎖約23 KDa及び約53-70 KDaの2つの重鎖からなる。4つの鎖は、相互にジスルフィド結合により結合され「Y」配置をとる。
重鎖は、γ、η、α、δ及びε及びそれらのサブクラスに分類されるのに対し、重鎖は、κ又はλに分類される。各重鎖は、C領域(可変領域)及びV領域(定常領域)からなり、後者は、約100アミノ酸長の免疫グロブリン分子のN末端に配置される。特に、重鎖及び軽鎖の免疫グロブリン(Ig)中、最も可変部分は、第3の相補性決定領域 (CDR3)である、V−D−J遺伝子断片の結合部分により形成される短いアミノ酸配列である。CDR3は、抗体の相補鎖である抗原受容体(例えば、免疫グロブリン及びT細胞受容体)タンパクの可変領域に見られる。CDR3部分の多様性は、上昇した抗体産生に対応し、それはいずれの抗原においても言え;該多様性は、成熟B細胞の産生において骨髄において起こるV、D及びJミニジーンの遺伝子組換により多様性は決定される。
この第1の遺伝子組換の後、成熟B細胞が抗原にさらされると、特定の抗原に親和性の高い抗体が増え、さらなる超変異が起こる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アテローム硬化型プラークの抗原に関連するか又はその中に存在する抗体の特定に有用な薬剤としての、アミノ酸配列番号2及び4又はそれらのいずれかの断片を含む遺伝子組換抗体に関する。該抗体は、好ましくは、IgG抗体である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の更なる目的としては、宿主細胞において、配列番号 2及び4又はそれらのいずれかの断片をコードする、単離されたポリヌクレオチド配列の発現系の調製を含む、該抗体の製造方法である。
好ましくは、配列番号2及び4をコードする該単離されたポリヌクレオチド配列は、配列番号1及び3又はそれらの断片のポリヌクレオチド分子である。
さらなる具体的態様としては、適切な宿主細胞中における、配列番号1及び3の単離されたヌクレオチド分子並びに相補鎖又はそれらと相同性を有する配列の1つ以上を含む発現ベクターであり、合わせて発現系を表す。
さらなる具体的態様としては、配列番号 2及び4又はそれらのいずれかの断片又はそれらと相同性を有する配列に対応する1つ以上のアミノ酸配列の使用を含むアッセイを含む。
【0010】
本発明の更なる具体的態様としては、本発明の抗体又はそれらのいずれかの断片及び、治療又は診断目的のために治療又は診断部分をそれらに結合させた部分を含む組成物がある。
本発明の更なる具体的態様としては、細胞又は生検標本のような、複雑なマトリックス中に含まれる、本発明の抗体又はそれらのいずれかの断片に結合親和性を有する分子又は抗原のスクリーニング及び/又は特定方法がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、IgG抗体分子及びそれらのFab断片の構造の代表的な図である。
【図2】図2は、抗体産生のための遺伝子組換えパターンを表す。
【図3】図3は、ヒト免疫グロブリン配座(loci)中の機能性遺伝子断片の数を表す。
【図4】図4は、抗体又はそれらの断片(左:冠動脈プラーク標本からのmRNA)及び先行文献から(右:血液サンプルからのmRNA)の製造の代表的な図である。
【図5】図5は、細胞溶解物(Hep-2)、頸動脈溶解物、人工抗原のバイオパンニングによる免疫親和性選択の結果を表す。
【図6】図6は、本発明のFab68についてのELISAの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本発明は、特に他を示さない限り、用語「単離されたポリヌクレオチド」又は「単離されたヌクレオチド」は、ポリヌクレオチド分子を言い、ここでポリヌクレオチド性の及びヌクレオチド性の、及びポリヌクレオチド及びヌクレオチドは、それぞれ相互に同じ意味に用いられ、それらは例えば、他のヌクレオチド又はポリヌクレオチド配列、タンパク又は他の細胞成分と天然由来の環境において通常存在するか相互作用するような、実質的に他の細胞物質又は成分を含まない。
他を示さない限り、「相補配列」は、厳しい条件下で目的の配列と融合する配列を言い、アデニンとチミン残基の間に2つの水素結合、又はシトシンとグアニジン残基の間に3つの水素結合を、それぞれ生じさせ、変性性のコドン置換又はサイレント置換を有するそれらの保存性の類似体、すなわち、遺伝子コードの縮重により同一のアミノ酸をコードする、1、2又は3つの連続するヌクレオチドの置換とハイブリッドする。本発明において、単離されたポリヌクレオチドは、例えば遺伝子又は遺伝子断片、エクソン、イントロン、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、cDNA、プラスミド、ベクター、単離されたDNA、プローブ及びプライマーを含む。
他を示さない限り、本発明の単離されたポリヌクレオチドは、上に示した特定のものに加え、それらに相補的な配列を含む。
【0013】
「cDNA」は、相補鎖DNA配列を言い、一本鎖及び二本鎖及びそれら及びそれらのいずれかの断片に相同性のある配列を意味し、アミノ酸配列を連続的にコードし、すなわち、その配列はイントロンが切除されたものであり、逆転写技術によりmRNAから合成される。
【0014】
本発明における「相同配列」とは、対象の配列と、部分的に又はほとんど同一の配列である;それゆえ、2つ以上の配列の「相同性」又は「同一性」は、同一の数の事実の観測からなされるもので、それらのユニットとはヌクレオチド又はアミノ酸であり、該ヌクレオチド/アミノ酸配列を含む全ユニット中、同じ位置を占める。例えば、90%相同性があるとは、2つの配列を並べた場合に、最大、100ユニット中、90が同一であることを意味する。本発明において、相同配列は、少なくとも85%、好ましくは90%、より好ましくは95%の同一性を有し、さらに好ましくは少なくとも97%又は99.5%の同一性を有する。
【0015】
アミノ酸の「同類置換(conservative substitutions)」は、アミノ酸を同一の性質を有する他のアミノ酸で置換し、それによるペプチドの性質又は機能の全体への影響はないことを意図する。
そのようなアミノ酸の同類置換には、以下に示す同一のグループの他のアミノ酸がある:
(i) 荷電した置換基を有するアミノ酸には、グルタミン酸及びアスパラギン酸、リジン、アルギニン及びヒスチジンが含まれ;
(ii) 正電荷を有するアミノ酸には、リジン、アルギニン及びヒスチジンが含まれ;
(iii) 負電荷を有するアミノ酸には、グルタミン酸及びアスパラギン酸が含まれ;
(iv) 芳香族を有するアミノ酸には、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンが含まれ;
(v) 窒素環を有するアミノ酸には、ヒスチジン及びトリプトファンが含まれ;
(vi) 脂肪族の大きな非極性基を有するアミノ酸には、バリン、ロイシン及びイソロイシンが含まれ;
(vii) わずかに極性な基を有するアミノ酸には、メチオニン及びシステインが含まれ;
(viii) 小残基を有するアミノ酸には、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、グルタミン及びプロリンが含まれ;
(ix) 脂肪族の基を有するアミノ酸には、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン及びシステインが含まれ;
(x) 小さいヒドロキシル基を有するアミノ酸には、セリン及びスレオニンが含まれる。
【0016】
以下の開示において、「CDR3」は、重鎖及び軽鎖のいかなる配列を含んでいてもよい相補性決定領域における短い配列であり、抗体のV−D−J遺伝子(重鎖中)又はV-J遺伝子(軽鎖)断片の結合部分により構成される。CDR3は、抗原に相補性を示す可変領域に見られる。
配列番号2及び4、CDR3領域は、それぞれ以下の断片により表される:CVTLGRWSSWQGGALSW及びCQQYHNWPPLTF (配列番号:9及び配列番号:10)。
【0017】
「単一クローン」は、抗体のCDR3領域をコードする配列を言い、抗原/エピトープに特異的に結合する。
同一の配列を示すCDR3は、同じクローンから生産されたものとみなす。
「クローンバリアント」は、1つ以上のヌクレオチド又はアミノ酸が異なるいかなる配列であってもよく、V領域において生殖細胞系列と比較して同一の突然変異を有し、同一のVDJ又はVJ遺伝子用途、及びD及びJの長さが同一の配列を言う。
「置換突然変異」は、他のアミノ酸でコードされるべきであったものがヌクレオチドの突然変異を起こすことを言う。
「サイレント突然変異」は、DNAの縮重によりコードするアミノ酸の違いはないが、ヌクレオチドの突然変異を意図する。
「発現ベクター」は、遺伝子情報を移転するために用いられるヌクレオチド分子を意図する。
【0018】
「単離された発現系」は、1つ以上の本発明のアミノ酸分子をコードするヌクレオチド配列、及び1つ以上のベクターがトランスフェクトされた適切な宿主細胞を含む、アミノ酸分子の発現系を意図し、1つ以上の発現ベクターを含んでいてもよい。
本発明の「宿主細胞」は、例えば細胞表面に発現することにより、1つ以上の発現ベクター及び対応するコードされたアミノ酸配列(sequence or sequences)又はそれらのいずれかの断片を含む細胞を意図する。
本発明の「抗体」及び「抗体断片」は、抗体全体を含むことを意図し、またIgG、IgA、IgD、IgM又はIgEのいずれかの型の免疫グロブリン、並びにそれらのいずれかの断片、例えばタンパク分解性及び/又は遺伝子組換断片、例えば、Fab断片(Igのパパインによる消化産物)、F(ab’)2(免疫グロブリンのペプシンによる消化産物)、Fab’、Fv、一本鎖抗体(scFv)、及び抗体の一本鎖、例えば、重鎖又は軽鎖の一本鎖がある。
本発明の「リガンド」は、本発明の抗体の機能性領域と認識されている部分又はそれらのいずれかの断片に結合するいかなる剤であってもよい。
【0019】
本発明の「オリゴペプチド」は、50以下のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列である。
以下の記述において他を示さない限り、「生殖細胞系列」は、抗体/免疫グロブリンをコードする配列、又は突然変異により得られたそれらのいずれかの断片を意図する。それゆえ、相同性のパーセントは、あらゆる型の重鎖において抗原と接触させた場合における、突然変異の起こる割合の指標となる;特に、該突然変異は、抗体/免疫グロブリン又はそれらのいずれかの断片のCDR3割合を表す。
「R:S突然変異」割合は、抗体/免疫グロブリンをコードする配列におけるFR又はCDR3部分における、置換(R)対サイレント(S)突然変異の起こる割合を言う。
該割合は、CDR3における方が、FR配列におけるよりも高い割合で起こる。
なぜなら、CDR3は、抗原の構造に適合するために突然変異が起こりやすいからである。対照的に、FRは一般に保存配列である。
【0020】
P値
「P値」は、突然変異の起こる有意性を表す。
特に、組換V断片の体細胞超変異及び高親和性の変異体の抗原選択のプロセスには、改善された抗原結合性の抗体を産生するための親和性成熟がある。このプロセスは、CDR領域における置換突然変異(R)の蓄積を導き、これは直接抗原の結合に関わっている。逆に、サイレント突然変異(S)の蓄積は、FR領域においてなされ、通常は、抗体のコンホメーションを維持するために保存配列である。抗原選択なしには、ランダムな突然変異プロセスは、抗体の重鎖及び軽鎖のいずれにおいてもランダムなR及びS突然変異を導く。しかし、選択プロセス中、R:S突然変異の割合は、CDR3が通常、FR配列よりも高い。
それゆえ、多項分布モデルによって計算される、偶然によって起こる突然変異の過剰性(CDRについて)又は希少性(FRについて)であるp値は、抗原選択プロセスの可能性に関連がある。低いp値は、抗体の抗原駆動性の親和性成熟により、対応する生殖細胞系列の配列よりも重鎖及び軽鎖の多様性の可能性が大きいことを示す。有意なp値は、5%以下である。
【0021】
本発明の第1の側面は、重鎖V領域中の配列番号2に対応するアミノ酸配列及び重鎖V領域中の配列番号4、並びにそれらと相同性のある配列及び同類置換を有するあらゆる配列及びポリヌクレオチド分子の発現により得られた断片を含む、抗体の製造方法である。好ましくは、該ポリヌクレオチド配列は、配列番号1及び3及び相補鎖及びそれらと相同性のある配列を含む。
本発明のポリヌクレオチド配列は、冠動脈プラークにおいて見られる抗原に結合する抗体のアミノ酸配列又はそれらのいずれかの断片又はであろうそれらのいずれかの断片である。
好ましくは、本発明には、上述の具体的態様の単離されたポリヌクレオチドは、
cDNA分子であり、当該分野においてよく知られた方法により、mRNA分子から逆転写することにより得られる。
【0022】
上に示したように、これらの定義は類似の配列を含み、アミノ酸配列の場合においては、少なくとも1つ以上のアミノ酸が誘導体により置換されており、例えば、対応するD-異性体又は、例えば対応する硫酸、グリコシル化又はメチル化アミノ酸によって置換されているものを含む;又は1つ以上で全配列の10%以下のアミノ酸がそれらの誘導体によって置換されていてもよく、例えば、システインはホモシステインによって置換されていてもよい。また、同類置換を有する配列も含む。
【0023】
本発明には、本発明の第一の態様の抗体又はそれらのいずれかの断片をコードするポリヌクレオチド配列であり、イミュノジネティックス社(ImMunoGeneTics)(ウェブサイト:http://imgt.cines.fr)の提供するデータベースを用いた場合に、生殖細胞系列と比較して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%であり、さらに好ましくは少なくとも97%の相同性を有するポリヌクレオチド配列を含む。
さらに、本発明の第1の目的は、超変異アミノ酸配列が含まれる。
したがって、上述のCDR3部分のP値が、アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列がCDR3部分のP値が、5%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは1‰以下であり、及びそれらをコードしたアミノ酸配列が含まれる。
【0024】
上述したように、本発明には、患者の活性な冠動脈プラークの適切な試料から単離されたmRNAのcDNA分子の合成が含まれる。本発明の目的は、該適切な試料は、梗塞の直後に採取した冠動脈プラーク、すなわちいわゆる「新鮮な試料(fresh-sample)」又は、形態学的な特徴を損傷又は変化させないように採取されて、適切な時間、液体窒素下において保存される試料を含み、これを更なる分析に用いた。
本発明の目的のため、病院への受け入れから48時間以内の胸痛又は心筋の傷害を示唆する心電図(ECG)の典型的な変化のあった急性冠症候群(ACS)の患者を選択した。紛らわしい因子を排除するため、近時、感染症、免疫障害、免疫抑制治療又は腫瘍性の疾患にあった者は除いた。
上述の適切な試料、すなわち冠動脈プラーク及び末梢血の両方からのmRNA分子の単離は、よく知られた方法により行われる。参考としては、例えば、Molecular cloning. Sambrook and Russell. Cold Spring Harbor Laboratory Press Cold Spring Harbor, New York. Third Edition 2001を参照されたい。
【0025】
第2の態様としては、本発明の発現ベクターは、プラスミド、コスミッド、YAC、ウイルスの粒子又はファージからなる群から選択され、本発明の第1の態様のポリヌクレオチド配列の1つ以上を含む。好ましい態様としては、発現ベクターはプラスミドであり、本発明の第1の態様のポリヌクレオチド配列の1つ以上を含む。
本発明の最も好ましい態様としては、発現ベクターすなわちプラスミドは、ポリヌクレオチド配列番号1及び3からなる。しかし、遺伝子コードの縮重及び組換発現がなされることによるそれぞれの生物の好ましいコドンの使用により、配列番号2及び4をコードするいかなるポリヌクレオチド配列も本発明に含まれるとみなされる。
【0026】
発現ベクターは、通常、複製の始点が含まれるが、プロモータが存在する上流をコードする配列と、指令上関連する、すなわち細胞に導入されると核酸の発現が開始されるような配列、及びリボソーム結合部位、RNAスプライシング部位、ポリアデニル化部位、及び転写配列がある。それゆえ、当業者であれば、適切な発現ベクター及び、例えば、宿主生物によって認識されるプロモーターを選択することにより、選択された宿主細胞の適切な発現ベクターを構築できるであろう。
さらに好ましい態様としては、本発明の発現ベクターは、ブリオーニらにより述べられたベクターである(Human Antibodies 2001;10(3-4):149-54)。
本発明の単離された発現系は、本発明のポリヌクレオチド配列の1つ又は両方を含む単一の発現ベクターであってもよい。
【0027】
あるいは、上述の発現系は、2つ又はそれ以上の発現ベクターを含んでいてもよく、それぞれ本発明のいずれのポリヌクレオチド分子を含んでいてもよい。例えば、発現ベクターは、抗体の軽鎖をコードするポリヌクレオチド分子又はそれらの断片を含んでいてもよく、第2の発現ベクターは、抗体の重鎖をコードするポリヌクレオチド分子又はそれらの断片を含んでいてもよい。
本発明の具体的態様としては、発現系は、配列番号1ないし3及びアミノ酸配列番号2ないし4をコードする配列又はそれらと同一の抗原特異性及びそれらと相同性を有する配列又はそれらのいずれかの断片を含む、1つ以上のポリヌクレオチド分子を含む単一の発現ベクターを含む。
【0028】
本発明の好ましい態様としては、発現系は、軽鎖、すなわち配列番号3をコードするポリヌクレオチド配列、及び重鎖、すなわち配列番号1をコードする第2のポリヌクレオチド配列を含む1つの発現ベクターを含む。あるいは、発現系は、抗体全体と同一の特異性を有するCDR3アミノ酸配列:配列番号9又は配列番号10の発現に適切な枠組みを含む。この態様においては、配列番号:9及び10をコードする配列が含まれるが、好ましくは配列番号:1及び3に含まれるものである。
【0029】
本発明の発現系に含まれる発現ベクターの製造は、適切な核酸分子(molecule or molecules)の挿入を含み、一般に1つ以上のベクター(vector or vectors)に適切な核酸分子であるo分子を挿入することが含まれ、それには当該分野においてよく知られた方法による、1つ以上のマーカー遺伝子又は配列、エンハンサー配列、プロモーター及び転写終結配列を含む。該製造方法の一般的な文献としては、例えば、「ファージディスプレー」Cold Spring Harbor Laboratory Press. Cold Spring Harbor, New Yorkを参照されたい。例えば、本発明の重鎖をコードする配列は、簡易な検出又は精製のため、フラグである6-ヒスチジンテールとともに発現ベクターに挿入される。
【0030】
本発明の第4の宿主細胞は、例えば、原核細胞又は真核細胞である。
適切な、原核細胞は、グラム陰性菌及びグラム陽性菌を含み、例えば、腸内細菌、例えば大腸菌、エンテロバクター、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えば、ネズミチフス、セラチア、セラチア・マルセッセンス及びシゲラ、並びにバチルス、例えば、枯草菌、リケニホルミス菌、プシュードモナス、例えば、緑膿菌及びストレプトミセスからなる群から選択される。例えば、公衆に入手可能な株は、例えば、大腸菌K12株MM294(ATCC 31,446);大腸菌 X1776(ATCC 31,537);大腸菌株 W3110(ATCC 27,325)及びK5 772(ATCC 53,635)又は大腸菌株XL1-Blueであり、これらは好ましい大腸菌株を表す。
【0031】
原核生物に加え、有用真核生物、例えば糸状菌又はイーストが宿主細胞に適切である。サッカロミセス・セレビシエは、パン用イーストとしても知られ、通常用いられる;他のイーストには、例えば、サッカロミセス、ピキア・パストリス、又はクリベロマイセス、例えば、クリベロマイセス・ラクティス、クリベロマイセス・フラジリス、クリベロマイセス・ブルガリクス、クリベロマイセス・ウィケラミイ、クリベロマイセス・ワルティ、クリベロマイセス・ドロソフィラルム、クリベロマイセス・テルモトレランス及びクリベロマイセス・マルキシアヌス、シゾサッカロミセス、例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ、ヤロウィア、ハンゼヌラ、トリコデルマ・レーシア、赤パンカビ(Neurospora crassa)、シュワニオミセス、シュワニオミセスオキシデンタリス、赤パンカビ(Neurospora)、ペニシリウム、トリポクラジウム、アスペルギルス、例えば、アスペルギルスニデュランス、カンジダ、トルロプシス及びロドトルラがある。
発現系の調製に適切な真核細胞は、多細胞生物、例えば、脊椎動物細胞又は植物細胞からも得られる。植物細胞には、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス及びタバコがある。加えて、昆虫細胞も用いられ、例えばドロソフィアS2及びスポドプテラSf9がある。
逆に、哺乳類宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)及びCOS細胞がある。さらに特異的な例は、SV40により形質転換したサル腎臓CVI株(COS-7、ATCC CRL 1651); ヒト胚腎臓株、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR、マウスセルトローリ細胞、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75); ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);及びマウス乳がん細胞(MMT 060562、ATCC CCL51)がある。
適切な宿主細胞の選択は、当該分野の通常の熟練を有する者の知識の範囲内であるとみなされ、すなわち、原核細胞は、抗体断片、例えばFabsの調製に用いられるのに対し、IgGのような抗体全体の調製には、イーストのような真核細胞が用いられる。本発明は、軽鎖及び/又は可変の重鎖又はそれらのCDRに特異的なFab断片、F(ab’)2、Fab’、Fv及び一本鎖抗体(scFv)を表現するのに適切な骨格を含む。
上に開示した宿主細胞を調製するために、細胞をトランスフェクト及び形質転換させる方法は、当該分野における通常の知識の範囲内である。
【0032】
上に開示した宿主細胞を調製するための細胞のトランスフェクション及び形質転換の方法は、上述の発現系を含み、当該分野の熟練の通常の知識の範囲内である。
例えば、カルシウム法又はエレクトロポレーションは、一般に原核細胞において用いられるのに対し、特定の植物細胞を形質転換させるにはアグロバクテリウム・ツメファシエンスを用いる。哺乳類の細胞には、リン酸カルシウム沈降が用いられる(グラハム及びファンデアEbら、Virology, 52:456-457(1978))。
しかし、他の方法がポリヌクレオチド配列を細胞に導入する方法が用いられ、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、完全細胞へのバクテリア融合又は、ポリカチオン法が用いられる。
【0033】
加えて、宿主細胞は、非ヒト遺伝子組換動物の製造のため、ヒト化抗体又はそれらの断片の製造に有用な動物に移植される。好ましい非ヒト動物は、例えばマウス、ラット、ウサギ、ハムスターがある。本発明の具体的態様としての遺伝子組換抗体及びそれらの断片の生産は、当該分野において知られた方法により行われ、本発明の単離された ポリヌクレオチド配列を用いることを含む。
【0034】
特に該方法は、以下を含む:
a)上に開示した適切な宿主細胞のいずれかにおいて、好ましくは配列番号:1及び3を含む、1つ以上のcDNA分子又はアミノ酸配列番号:2及び4をコードする分子を含む発現系を調製すること:
b)適切な条件下において宿主細胞をすること;
c)製造した抗体又はアミノ酸配列番号:2及び4又はそれらのいずれかの断片を有するそれらの断片を、回収及び/又は精製することを含む。
上述の方法において、断片は、上に開示した宿主細胞のいずれか1つにおいて、適切な細胞骨格において発現される、好ましくはCDR3断片である、配列番号9 CVTLGRWSSWQGGALSW及び配列番号10 CQQYHNWPPLTFの断片である。適切な細胞骨格は、通常ヒト抗体から得られ、ここで、V領域において既存のCDR3が、本発明のCDR3によって置き換えられている。 ミニボディ(Minibodies)又はScFv骨格が、CDR3発現に用いられる。
【0035】
発現系を含む宿主細胞は、適切な条件下で成長させ、そのようにして製造された抗体又はそれらのいずれかの断片は、続いて更なる使用のために回収及び/又は精製される。
統計的に起こった突然変異であるか、冠動脈プラークにおけるB細胞成熟の関わるものとは異なるメカニズムにより起こったものであるかを評価するため、保存配列における小断片においても行った。従って、内部標準は、β-グロブリン遺伝子が選択される;特に標準β-グロブリンL48931が用いられる。
【0036】
それゆえ、本発明の更なる態様としては、本発明の宿主細胞及び上に開示された方法により生産された単離された遺伝子組換抗体及びそれらの断片であり、IgG型の免疫グロブリン(Igと略す)を含むのに対し、「それらの断片」は好ましくは、IgGのFab断片を含む。
本発明によると、抗体又はそれらのいずれかの断片をコードするアミノ酸配列を含み、ここでこれらは上に開示された方法により製造され、ImMunoGeneTics社(available through the web site http://imgt.cines.fr)のデータベースを用いて細胞系列と比較した場合に、生殖細胞と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、及びさらに好ましくは少なくとも97%の相同性を有する。
【0037】
さらに、アミノ酸配列は、CDR3部分のP値が5%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは1‰以下である。
本発明のさらなる態様としては、アッセイによって表されるが、好ましくは、本発明の抗体又はそれらのいずれかの断片を用いることを含む免疫アッセイである。
免疫アッセイは、競合性又は非競合性のいずれであってもよいが、抗原/抗体複合体の形成に基づいて試験される。
【0038】
競合性免疫アッセイは、好ましくは標識抗体である抗体と競合して結合する特定の抗原を含む、未知の試料を試験することも含む;それゆえ、反応は、未知の試料における抗原の濃度の逆の割合となる。
逆に、非競合的免疫アッセイは、「サンドウィッチアッセイ」とも呼ばれるが、本発明の可動性抗体の使用を含み、抗原と結合し、標識抗体と複合体を形成する;それゆえ該方法の結果は、直接抗原の濃度に比例する。
広く用いられている免疫アッセイは、例えば、RIA (放射免疫測定)、ウエスタンブロット、ELISA (酵素免疫吸着測定法)、免疫染色、免疫沈降、免疫電気泳動、免疫蛍光、化学蛍光免疫測定法(LIA)、免疫組織化学があり、これらは実験室の実践においては日常的に用いられる。
【0039】
本発明の好ましい免疫アッセイは、ELISA試験である。ELISAは、確立された生化学技術であり、これはさらに生体分子の定量、例えば、抗体又はそれらの断片、抗原、タンパク質、ホルモン及び他の有機分子を定量できる。本発明において好ましくは、ELISA試験は、配列番号2及び4、又は配列番号9及び10を含む、抗体又はそれらの断片の特定の抗体を検出するのに用いられる。
特にELISA試験において、2つの抗体の使用を含み、1つは、対象の分子に選択的であり、ELISAプレートに固定されている。これは好ましくは本発明の好ましい抗体の1つである。混合物は、対象の分子を加え、さらに複雑なマトリックス、例えば、細胞又は組織溶解物が含まれ、適切かつ十分な時間インキュベートし、続いて結合してない物質を除くために第1の洗浄をする。続いて第2の洗浄工程としてELISAプレートを洗浄し、発色性の物質を添加する。生じた様々な色を分光光度法により評価するが、比色標準曲線により形成された複合体の量に直接関連するので、試料における対象分子の濃度がわかる。
【0040】
上述の免疫アッセイにより試験された試料は、例えば、患者から梗塞発作の直後に単離された不安定冠動脈プラーク(いわゆる「新鮮な」と呼ばれる)又は採取後、液体窒素下で保存された試料;又は、試料は全血、血清、培養細胞、すなわち細胞株又はそれらの溶解物からなる。有用な細胞株は、例えば、Hep2(ATCC番号 CCL-23 )、U87(ATCC番号 HTB14)、MRC5(ATCC番号 CCL-171)であり、病原体、すなわちウイルス、例えばCMVによって感染させられていてもいなくてもよく、又は合成ペプチド分子に暴露した分子ライブラリー又は病原の抗原に暴露したライブラリーがある。抗体のスクリーニングのための細胞株の使用は、例えば、Sack U. et al. Ann N Y Acad Sci. 2009 Sep;1173:166-73に記載されている。
免疫組織学アッセイは、上述の本発明の態様において特定され開示されたリガンドにおけるプラーク内部を調べるためにも用いられる。
【0041】
上述したとおり、本発明の免疫アッセイは、冠血管疾患に関連するアテローム硬化型プラークの進行に関わる抗原を競合的に特定するようにデザインされている。
本発明の免疫アッセイは、アテローム硬化型プラークにおける抗原の特定において、及び診断用又は予後において、急性冠症候群(ACS)又は他の冠血管疾患へと進行するリスクのある母集団のスクリーニングにおいて価値のあるきわめて重要なツールとなる。
本発明の更なる態様としては、本発明の抗体又はそれらのいずれかの断片及びそれらに共有結合する治療用部分を含む治療用組成物を開示する。
該治療用組成物は、冠動脈アテローム硬化型プラーク部位に作用する治療剤を選択的ターゲットとする。
【0042】
該標的組成物のよく知られた利点としては、とりわけ活性原体の投与量を減少しうるので、起こりうる副作用を減少させる。
該目的のため、治療用部分は、非限定的な例として、放射性核種、薬物、プロドラッグ、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、受容体、可溶性受容体、受容体アンタゴニスト、酵素又は他の薬剤により活性化されたプロエンザイム、サイトカイン、抗生物質又は毒素がある。
更なる態様としては、本発明は、診断用部分に結合する抗体又はそれらのいずれかの断片の冠動脈プラーク部位の可視化のための診断用組成物に関する。
本発明の診断用組成物は、少なくとも1つの診断用部分に共有結合し、局在化を許容する冠動脈プラーク部位を選択的に標的とする本発明の抗体又はそれらのいずれかの断片を含む。
【0043】
それゆえ、冠動脈プラークが進行する部位を正確に特定し、病変の起こる範囲をよりよく知りうる。さらに、これは手術によるプラークの除去の前に非常に有用なツールとなる。
診断用部分は、医療分野において用いられる可視化技術により検出され、例えば、MRI(核磁気共鳴イメージング)、CT(コンピュータトモグラフィ)、超音波、エコー、X線、及び当業者が知っている他の診断用技術によって行われる。診断用部分は、診断用技術の選択に依存する。
本発明の免疫アッセイの具体的態様の1つとしては、本発明によりリガンドの特定を可能とするものであり、いかなる表面又は内部配列、又はコンホメーションドメイン又は標的抗体のあらゆる他の部分、又はそれらの断片に結合する薬剤として、明らかな生物学的機能を有しない、標的の分子に結合しないものを含む。
【0044】
好ましい態様としては、本発明のリガンドは、オリゴペプチドであり、好ましくは4ないし12アミノ酸を含み、より好ましくは4ないし10アミノ酸を含み、さらに好ましくは6ないし8アミノ酸を含む、アミノ酸配列番号5-8(人工抗原)又は該配列に対応する配列である。
あるいは、該ペプチドは、免疫アッセイにおいて冠血管疾患に関連するアテローム硬化型プラークの進行に関わる抗原の競合的特定に用いられる。
本発明の更なる理解のため、本発明にいかなる限定もつけることなく、本発明を以下の実施例を記載する。
【実施例1】
【0045】
試料の採取
冠動脈アテローム切除術を受けている急性冠症候群の患者のアテローム硬化型プラークから十分な量の組織(通常約1-2ミリグラム)を採取し、液体窒素に保存した。
【実施例2】
【0046】
mRNA抽出
実施例1により採取したプラークをホモジナイズし、合わせたmRNAを、mRNA抽出のための市販のキットを用いて、製造者の指示に従い、従来の方法により抽出した(Rneasyキット, キアゲン社, Germany)。
【実施例3】
【0047】
mRNA逆転写
患者のインフォームドコンセントのもと、実施例2から得られた冠動脈プラークの試料のmRNAの逆転写は、mRNA逆転写用の市販のキットであるスーパースクリプトIII RT(シグマアルドリッチ、St Louis, Missouri)を用いて、製造業者の指示に従い行った。cDNA合成は、オリゴ(dT)によりプライムした合計mRNAの標準的な方法により行った。
【実施例4】
【0048】
cDNA配列の増幅
実施例3からのcDNA(1μl)をポリメラーゼ連鎖反応に用いた。逆方向プライマーは、重鎖及び軽鎖の断片をそれぞれコードするC領域にアニーリングするようにデザインされている。順方向プライマーは、「家族特異的」であり、第1フレームワーク領域の重鎖及び軽鎖遺伝子の5’末端に対応するようにデザインされている;参考文献としては、ファージディスプレー, Cold Spring Harbor Laboratory Press. Cold Spring Harbor, New York. Third Edition 2001を参照されたい。重鎖には、IgG1及びIgG2アイソタイプのプライマーが用いられるのに対し、軽鎖プライマーは、Kアイソタイプに特異的なものが用いられる。増幅は、94℃で15秒、52℃で1分及び72℃で90秒以下の温度プロフィールにおいて行われる。反応は、35サイクル行われる。ネガティブコントロール(DNAの含まれない同一の混合物)及びポジティブコントロール(公知の配列を挿入)を各反応に含めた。PCR生成物はエチジウムブロマイドを含む2%アガロースゲルを用いて電気泳動によって分析した。各反応により約650bpバンドを生成し、これは軽鎖に対応し、700bpバンドを生成し、これは重鎖に対応する。アンプリコン、すなわち、PCRの生産物を、DNA抽出のための市販のキットを用いて、製造者の説明書に従い、ゲルから抽出した(QIAクイックゲル抽出キット;キアゲン社, Germany)。最後に、PCR生産物を標準的な方法に従い、回収した。
【実施例5】
【0049】
分子クローニング及びコンビナトリアル抗体Fab断片のファージディスプレーミニライブラリー
前の実施例により、ヒトの冠動脈プラークから増幅されたFabを構成する重鎖及び軽鎖のPCR生成物(V領域及びCH1ドメイン)を、軽鎖及び重鎖の工業的生産の可能なファージミドベクター(pRB32)によってクローンし、ウイルス粒子に含まれるDNAによってコードされるFab断片を外部ファージ表面に曝露した。これは、重鎖断片をファージM13膜タンパクと融合させて得られる。Fab断片ファージディスプレーミニライブラリーの工業的生産が可能となる。
【実施例6】
【0050】
細胞溶解物の製造
HCMV(MOI 0,1)で感染させ、5日後、MRC5及びHep-2細胞溶解物の感染及び非感染体を得た。Hep-2(ATCC CCL-23)細胞はE-Mem(インビトロジェン社 0820234DJ)において成長させ、抗生/抗真菌溶液(インビトロジェン社, 抗生/抗真菌溶液, 液体15240-062)及び10% FBSを追加した。細胞は通常、5日ごとに1:10に分裂する。500万細胞をPBSで洗浄し、RIPA緩衝液(50mM Tris HCL pH8+ 150mM NaCl+ 1% NP-40+ 0.5% NAデオシコレート+ 0.1%SDS)を用いて溶解させた。
【実施例7】
【0051】
細胞溶解物(Hep-2)、頸動脈の溶解物、人工抗原におけるバイオパンニングによる免疫親和性選択
バイオパンニングの前夜、抗原溶液50 μL/ウェル(100 ng/ウェル)を含むコーティング緩衝液(0.1M 重炭酸ソーダ pH=8.6)により、4℃で終夜、ELISAプレートをコーティングした。
脱イオン水で洗浄した後、3%PBS/BSAでウェルを完全にブロックし、密封し、湿潤条件下37℃で1時間インキュベートした。ファージ懸濁液50 μLを各ウェル(合計約1011 PFU)に加え、プレートを密封した後、少なくとも37℃で2時間インキュベートした。各ウェルからファージを除き(滴定のために保存し)、PBS/Tween 0.05%で10回洗浄した。しっかりと洗浄した後、抗原に結合したファージを、各ウェルを溶出緩衝液(0.1M HCl、グリシンでpH=2.2に調製、BSA 1mg/ml)50 μlで洗浄し、2M Tris塩基の溶出液3 μlに加えた。溶出後、新鮮なXL-1 blue 2 mlを溶出ファージにより感染させた。37℃で15分インキュベートした後、あらかじめ37℃に温めておいたSuperbroth(SB)(アンピシリン20 μg/ml及びテトラサイクリン10 μg/ml)10 mlを加えた。37℃で1時間、シェーカーでインキュベートした後、アンピシリン100 μg/ml及びテトラサイクリン10 μg/mlを含むSB(100 mL)を各10 ml培地に加え、シェーカーにおいて37℃で1時間攪拌した。ヘルパーファージVCS M13(合計1012 PFU)を培地を感染させるのに用い、37℃で2時間、シェーカーでインキュベートした。カナマイシン(μg/ml)を添加後、培地はシェーカーにおいて30 ℃で終夜培養した。
翌日、細胞を4℃で15分間、6000RPMで遠沈し(Sorvall SS34)、最終容量20 mlの上清にPEG8000(シグマアルドリッチ)を加えた。ファージは、氷上で30分間沈殿させ、11,000 RPM(Sorvall SS34)で20分間 4℃で遠沈した。続いてファージは、1%PBS/BSA(2 ml)で再懸濁させ、次のバイオパンニングのために4 ℃で保存した。各溶出及び各選択において、1μl及び0.1μlをバクテリア感染させたファージのLBプレート(合計10-4及び10-5希釈)に載せることで溶出ファージを滴定した。各選択ごとに溶出ファージを滴定することで、改良操作(enrichment procedure)の有効性を評価することができる。操作は、4回繰り返し、選択された改良を行った。結果を図5に示す。
【実施例8】
【0052】
バイオパンニング過程後に選択したクローンの分析
すべてのバイオパンニング過程において本発明のFabは、第4ラウンド後に、回収したファージ母体において独占的である。
【実施例9】
【0053】
配列
前の実施例により得られたクローンについて、定量及び定性分析を行った。
9.1)重鎖及び軽鎖プロセシング
実施例4により得られた冠動脈プラークから得られた重鎖及び軽鎖のクローンの試料をBig Dye化学会社によるシーケンサーにかけるために収集し、ABI PRISM 3100シーケンサーにより分析した。
得られた配列は、ImMunoGeneTics社(ウェブサイトhttp://imgt.cines.frにより得られる)より提供されるデータベースを用いて、重鎖及び軽鎖それぞれについてのV,D,J及びV及びJの遺伝子反復、生殖細胞系列との相同性レベル及び体細胞突然変異の範囲を特定するためにそれぞれ生殖細胞系列断片に並べた。CDR3配列の相同性レベルをクローンの特定に用いた;上述のとおり、CDR3と同一の配列は、同じクローンに由来するとみなす。
上の実施例4の冠動脈プラーク試料のポリヌクレオチド配列の重鎖は配列番号1に対応し、アミノ酸配列の配列番号2に対応する。冠動脈プラーク試料のポリヌクレオチド配列の軽鎖は配列番号3及びアミノ酸配列の配列番号4に対応する。
【0054】
9.2)βグロブリン配列:内部標準
β-グロブリンの配列から得られた5つのクローンは分析から、データベースにおいて同一であることを示しており、それゆえ突然変異がこの過程で生じていないことを示している。
9.3)冠動脈プラーク試料からの軽鎖
実施例4の冠動脈プラーク試料からのクローンシーケンシングの結果を、以下の表1に示す。各クローンV、D及びJ遺伝子カラムは、それぞれ重鎖のV、D及びJの可変部分をコードする。相同性の割合は、冠動脈プラーク試料及び上に開示する生殖細胞系列に対応する配列の相同性のパーセントである。
【表1】

【0055】
9.4)冠動脈プラークの重鎖
軽鎖の配列の繰り返しについては、実施例4から得られた重鎖に用いたのと同一の方法を適用した。以下の表2に結果を示す。
【表2】

それゆえ、プラークから増幅した配列クローン6が生殖細胞系列配列からの大きな相違を示すため、軽鎖8とともに発現するように選択されている。
9.5)結果
上述のデータは、冠動脈プラーク試料からの重鎖及び軽鎖がいずれもオリゴクローンパターンを示し、それぞれ特徴的なVDJ及びVJ遺伝子パターンを示す。
【実施例10】
【0056】
冠動脈プラーク試料から得られた配列を有する発現系の製造及び宿主細胞の形質転換
冠動脈プラーク試料の軽鎖のクローン8(配列番号3に対応する)及び重鎖のクローン6(配列番号1に対応する)を選択し、以下の方法により可溶性Fab断片の製造のための発現ベクターにトランスフェクトさせた。
遺伝子配列3に対応し実施例6において選択された軽鎖をコードする遺伝子をpRB/exprに転移させた。選択した軽鎖をコードする遺伝子を含む発現ベクターをさらにクローン6、配列番号1に対応する重鎖をコードする遺伝子に、ブリオーニら、Hum Antibodies. 2001;10(3-4):149-54に開示される方法で、導入した。発現ベクターを、可溶性Fabの発現のため、大腸菌XL-1 Blueに導入した。
具体的には、新しいプレートに、SB(Super Broth, Becton, Dickinson, New Jersey)10 mlにアンピシリン (100 ng/ml, シグマアルドリッチ, St Louis, Missouri)及びテトラサイクリン (10 ng/ml, シグマアルドリッチ, St Louis, Missouri)を加えたものに、単一のバクテリアコロニーを植菌し、37℃で終夜インキュベートした。
その後、培地2.5 mlに、SB/アンピシリン-テトラサイクリン(上述のSB, アンピシリン及びテトラサイクリンの混合物)1Lを5Lフラスコに加え、吸光度(OD600)が約1.0になるまで成長させた。続いて、IPTG(イソプロピル-β−D−チオガラクトピラノシド;Biorad, California)を最終濃度1mMとなるように加え、バクテリア培地を終夜30℃で、オービタルシェーカーにおいてインキュベート下。その後、バクテリア培地は、3000rpmで20分間、4℃において遠沈し、ペレットをPBS10mlに再懸濁させた。続いて、PMSF(100 mMのストック溶液から)50μlをプロテアーゼを阻害するために加え、バクテリア培地を、3回、各回3分ずつ超音波をかけた。バクテリア培地を4℃において18000 rpmで45分遠沈し、上清を直径0.22 μmの膜(Millipore(登録商標))注意深く濾過した。その間、カラムを10倍量のPBSで洗浄し、続いて濾過した上清をゆっくりとカラムに載せた。少なくとも30倍量のPBSで洗浄した後、100 mM グリシン/HCl pH 2.5.で、Fabsを溶出し、10分画を収集し(各約1ml)、即時にTris 1M pH 9で中和した。
非還元的条件下、精製FabsをSDS-PAGEゲルで電気泳動し、約50 kDaに単一のバンドを得た。Fabsは、少なくとも2つの異なるBSAの標準濃度を有する対照バンドと比較し定量した。
【実施例11】
【0057】
免疫組織学アッセイ
プラークの新鮮な試料を液体窒素で凍結させ、低温保持装置を用いて切開した。5 μm切片を氷冷アセトンで固定し、血清ブロッキング溶液で1時間、室温でブロックした(2%血清, 1%BSA, 0.1% トリトンX-100, 0.05% Tween 20)。固定した切片を産生されたFabでプローブし、本発明に従い特定した。すなわち、適切な希釈を行い2時間、室温でインキュベートした。切片は、5回PBSで洗浄し、適切な濃度において、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)-結合二次ヒト抗体Fab(シグマアルドリッチ, St Louis, Missouri)を加えた。室温で30分後、切片を洗浄し、こうして形成されたリガンド/抗体複合体を蛍光顕微鏡で検出した。
【実施例12】
【0058】
ファージライブラリーによる抗体スクリーニング
糸状ファージM13のN末端cpIIIコートタンパクにおいてドデカペプチドを発現する、ランダムファージディスプレーペプチドライブラリー(Ph.D.-12TM ファージディスプレーペプチドライブラリーキット、カタログ#E8110S、New England Biolabs, Beverly, Massachusetts)のパンニングを、Fabコーティング高結合性96-ウェルELISAプレート(Costar 96w ポリスチレン 1/2面積平底HI結合平底, カタログ#3690)を用いて、製造者の説明に従い行った。
抗体の保存領域に結合したファージを除くため、ヒト標準IgGプール 25μg(Endobulin, A.T.C J06BA02, Baxter S.p.A.)を用いて37℃において1時間、増幅したファージと合わせてパンニングの第2ラウンドを、ネガティブ選択(negative selection)を行った。
Fabsにおいて本発明の増幅させたファージをパンニングし、同一の標準IgGのプールをネガティブ選択に用い、上述の選択を4ラウンド行った。
【実施例13】
【0059】
ペプチドスクリーニング及びDNA配列分析
実施例12により得られたすべてのファージを大腸菌株ER2537に感染させ、ランダムに選択した単一プラークを生産されたFabsについてELISA法によりスクリーニングした。本発明により特定された生産されたFabs固相結合及び標準IgGプールに基づき特定した。
抗原でコートしたプレート(Costar 96w ポリスチレン 1/2面積平底HI結合平底, カタログ#3690)を洗浄し、1%のPBS/BSA溶液でブロックし、37℃で1時間;108ファージ/ml 50μlを37℃で2時間インキュベートした。
プレートは10回PBS(0.1% Tween-20; シグマアルドリッチ, St Louis, Missouri)で洗浄した;続いて、1:3000希釈したHRP-結合抗-M13抗体/PBS 50μl(GEヘルスケア27-9411-01)を加えた。
37℃で2時間後、プレートはPBS(0.5% Tween-20; シグマアルドリッチ, St Louis, Missouri)で洗浄し、特異的結合ファージは、基質100μl(シグマアルドリッチ, St Louis, Missouri)を加えて特定し、室温で30分経過後、プレートを光学濃度450nmで読んだ。
ポジティブクローンは、本発明のFabsにおいてOD450nm値>1であるが、OD450nm値<0.3 IgGは陽性であり、配列分析による評価は、ソフトウェアペピトープ(http://pepitope.tau.ac.il/index.html.)を用いて行った。ペプチド配列分析からは、それらの配列からはコンセンサス残基の量に基づいて保存アミノ酸の位置を特定した。
4つのペプチドが特定され、配列番号5ないし8に対応する配列に関連する配列が特定された。
【実施例14】
【0060】
免疫酵素吸着測定アッセイELISA
Elisaプレート(Costar 96 ウェルs ポリスチレン 1/2面積平底HI結合平底, カタログ#3690)をHep-2溶解物、MRC5 及びHCMV(PBS中、1000 ng、200 ng、40 ng及び8 ng、BCAアッセイによって定量, Pierce)を感染させたMRC5の連続希釈でコーティングし、終夜、4℃でコーティングした。
37℃において3% PBS+BSAで2時間ブロックし、Fab68の連続希釈体(20 μg/ml、10 μg/ml、5 μg/ml、2.5 μg/ml)をコーティングした抗原と1時間37℃においてインキュベートした。PBS+0.1%Tween20(シグマ社 cod. PL379)で洗浄後、プレートは抗ヒトIgGペルオキシダーゼ(シグマ社 cod. A2290)で37℃で30分間インキュベートした。PBS+0.1%Tweenで洗浄後、TMB基質をウェルに加えた(PIERCE ペルオキシダーゼ用TMB基質キットcod. SK 4400)。ELISAプレートを分光光度計で450nmにおいて分析した。結果を図6に示す。
【実施例15】
【0061】
ヒト線維芽細胞におけるFab68の免疫蛍光
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)参照株AD169をMRC-5 線維芽細胞(ビオメリュー社, Lyon, France)において増殖させた。コンフルエントMRC-5細胞を、2%ウシ胎児血清(シグマ社)を含有するイーグル最小必須培地(インビトロジェン社)で培養した。免疫蛍光染色ヒト線維芽細胞を、滅菌ガラスカバースライドを有する24ウェルプレートに播種した。細胞培養が、単層にコンフルエントになったとき、細胞は以下のとおり感染させた:培地を除き、細胞培養が単層になると、感染の高い多重性(約MOI 0.1)のHCMVで細胞に感染させた。プレートは、5%CO2存在下37℃で96時間インキュベートした。インキュベートの後、培地を除き、細胞を4% パラ−ホルムアルデヒド溶液で8分固定した。PBS溶液で洗浄後、細胞をTritonX100(0.1% 溶液、シグマ社 T-8787)で透過させ、PBSで洗浄した。乾燥後、細胞をFab68及びネガティブコントロールFabとともに37℃で1時間、高湿度下でインキュベートした。PBSで洗浄後、固定細胞を抗ヒトIgG Fab特異的FITC-複合体(シグマ社)とともに37℃で30分間インキュベートした。ガラスにグリセロール緩衝液を載せ、MRC 1024共焦点走査型レーザー顕微鏡(ビオラッド社)で観察した。
【実施例16】
【0062】
ペプチド合成
12.1)一般法
化学試薬、化学構造部分及び技術についての略語:
AA:アミノ酸、AcOH:酢酸、ACN:アセトニトリル、API-ES:大気圧エレクトロスプレーイオン化、Btn:ビオチン、Boc:tert−ブチルオキシカルボニル、DCM: ジクロロメタン、DIC:N,N−ジイソプロピルカルボジイミド、DIEA:N,N−ジイソプロピルエチルアミン、DMF: N,N−ジメチルホルムアミド、Et2O:ジエチルエーテル、Fmoc:9-フルオレニルメトキシカルボニル、Adoa:8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、HFIP:1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、HOBt:N-ヒドロキシベンゾトリアゾール、MeOH:メタノール、Neg. ion:陰イオン、NHS:N-ヒドロキシコハク酸イミド、NMP:N-メチルピロリドン、Pip:ピペリジン、Pos. ion:陽イオン、HBTU:O-(ベンゾトリアゾール−1−イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロリン酸塩、PyBOP:ベンゾトリアゾール-1−イル−オキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウムヘキサフルオロリン酸、tR:保持時間 (分)、試薬B (88:5:5:2 - TFA:H2O:フェノール:TIPS - v/v/wt/v)、Su:スクシニミジル、TFA:トリフルオロ酢酸、TIPS:トリイソプロピルシラン、H2O:水。
【0063】
表5に、ペプチドアミノ酸を開示する。反応、クロマトグラフィー精製及びHPLC分析の溶媒は、VWR社(West Chester, PA)の E.メルクオムニグレード溶媒を用いた。NMP及びDMFは、 Pharmco Products社(Brookfield, CT)から購入し、ペプチド合成グレード又は低級水/アミンフリー、バイオテックグレード品質を用いた。ピペリジン (シーケンスグレード, 再蒸留 99+%)及びTFA(光学分光計グレード又はシーケンスグレード)はシグマアルドリッチ社(Milwaukee, WI)又はシグマアルドリッチ社のフルカ化学部門から購入した。フェノール(99%)、DIEA、DIC及びTIPSは、シグマアルドリッチ社から購入した。Fmoc保護アミノ酸、PyBop及びHOBtは、ノババイオケム社(San Diego, CA, USA)、アドバンテックケムテック社(Louisville, KY, USA)、ケムインペックスインターナショナル社(Wood Dale III, USA)、及びマルチプルペプチドシステム社(San Diego, CA, USA)から購入した。Fmoc-Adoa及びBtn-Adoa-Adoa-OHは、NeoMPS社(San Diego, CA)から購入した。
【0064】
分析HPLCデータは、一般にLC-10AT VPデュアルポンプグラジエントシステム(島津製作所)を用いて、ウォーターズ社X-Terra(登録商標) MS-C18 (5.0 μl, 50 × 4.6 mm; 120Å ポアサイズ)又はウォーターズ社(サンファイア(登録商標)) OBD-C8 (4.6 × 50 mm 3.5 μ, 120Åポアサイズ)カラムのいずれかを用いてグラジエント又は均一濃度で、H2O(0.1% TFA)を溶出液A、ACN(0.1% TFA)を溶出液Bとして行った。化合物の検出は、220及び/又は230 nmにおけるUVにより行った。 プレパラティブHPLCは、プレパラティブフローセル及びSPD-10AV UV検出器を有するLC-8Aデュアルポンプグラジエントシステム(島津製作所)により行った。一般に、粗ペプチドを含む溶液を、ウォーターズ社サンファイア(登録商標)OBD C8 (50 × 250 mm;粒子径:10.0 μ, 120Åポアサイズ)逆相カラムに搭載し、第3のポンプをプレパラティブLC-8Aデュアルポンプグラジエントシステム(島津製作所)に接続して行った。粗生成物の混合溶液をプレパラティブHPLCカラムに搭載し、反応溶媒及び希釈剤として用いた溶媒、例えばDMF又はDMSOは低級有機層組成物として溶出する。続いて、溶出液Bから溶出液Aへの勾配溶出により、所望の目的物が溶出する。分析HPLC及び質量分析により決定した純度に基づいて目的物含有分画を合わせた。合わせた分画を凍結乾燥し、目的物を得た。ペプチドの物性は、Agilent LC-MSD 1100質量分析計(API-ES陽イオンモード)を用いた質量分析計により行った。一般に目的のペプチドの分子量は2000までである。純粋なペプチドは、HPLC精製により得られる。
【0065】
12.2) 固相ペプチド合成の一般法(SPPS)
直鎖ペプチドは、Fmoc-Pal-Peg-PS樹脂(0.2 mmol/g)を用いてRainin PTI Symphony(登録商標)ペプチド合成機(12ペプチド配列/合成)により確立された自動プロトコルでDMF中、Fmoc-Pal-Peg-PS樹脂(0.2 mmol/g)及び/又は適切な搭載済樹脂、Fmoc-保護アミノ酸存在下、PyBop-介在性のエステル活性化により行われる。
【0066】
12.3) ペプチド精製-一般的方法
粗ペプチド(〜200-500 mg)を逆相HPLCによる1回の精製により行った。ACN (10 ml)に溶解させた粗ペプチド(〜200 mg)を最終容量がH2O 50 mlとなるように希釈し、溶液を濾過した。溶液を濾過し、あらかじめ10%ACNの水溶液(0.1% TFA)で平衡にしておいたプレパラティブHPLCカラム(ウォーターズ社、サンファイア(登録商標) Prep C8, 50 × 250 mm 10μ,120Å)に搭載した。>95%純度の目的物含有分画を合わせ、凍結乾燥し、対応するペプチドを得た。単離後、ペプチドをHPLC及び質量分析計で分析し、構造及び純度を確認した。ペプチドのデータは、表5に示す(配列及び収率)。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アテローム硬化型冠動脈プラークにおける抗原の特定に有用なアミノ酸配列番号2及び4を含む遺伝子組換抗体。
【請求項2】
請求項1に記載の遺伝子組換抗体の製造方法であって、以下の工程を含む方法:
a)配列番号2及び4又はそれらのいずれかの断片、好ましくはポリヌクレオチド配列番号1及び3又はそれらのいずれかの断片をコードする2つのポリヌクレオチド分子を含む宿主細胞の発現系の調製;
b)該宿主細胞を適切な成長条件においてインキュベートすること;
c)配列番号:2及び4又はそれらの断片を含む抗体を回収し精製する方法。
【請求項3】
さらに、単離されたアテローム硬化型プラーク、細胞株、細胞株溶解物及び生物学的試料からなる群から選択される試料を結合させることを含む工程d)を含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該細胞株が、病原体によって感染させられた、又は感染させられていない、Hep2(ATCC番号CCL-23)、U87(ATCC番号 HTB14)及びMRC5(ATCC番号 CCL-171)からなる群から選択される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程c)の該断片が、それぞれ配列番号 9又は10の断片である請求項2ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
宿主細胞が、原核細胞、イースト及び真核細胞からなる群から選択される、請求項2ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
原核細胞が、エンテロバクター、エシェリキア、エルビニア菌、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、セラチア、シゲラ、バチルス、プシュードモナス、ストレプトミセス、大腸菌、ネズミチフス、セラチア・マルセッセンス、枯草菌、リケニホルミス菌及び緑膿菌からなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
イースト細胞が、サッカロミセス、ピキア・パストリス、クリベロマイセス、例えば、クリベロマイセス・ラクティス、クリベロマイセス・フラジリス、クリベロマイセス・ブルガリクス、クリベロマイセス・ウィケラミイ、クリベロマイセス・ワルティ、クリベロマイセス・ドロソフィラルム、クリベロマイセス・テルモトレランス、クリベロマイセス・マルキシアヌス、シゾサッカロミセス、例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ、ヤロウィア、ハンゼヌラ、トリコデルマ・レーシア、赤パンカビ(Neurospora crassa)、シュワニオミセス、シュワニオミセス・オキシデンタリス、赤パンカビ(Neurospora)、ペニシリウム、トリポクラジウム、アスペルギルス、例えば、アスペルギルス・ニデュランス、カンジダ、トルロプシス及びロドトルラからなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項9】
真核細胞が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、SV40によりトランスフォームさせたサル腎臓CVI株(COS-7, ATCC CRL 1651)、ヒト胚腎臓細胞株、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR、マウスセルトローリ細胞、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75); ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065); 及びマウス乳ガン細胞(MMT 060562、ATCC CCL51); 植物由来の遺伝子組換宿主細胞、例えばアグロバクテリウム・ツメファシエンス及びタバコ;昆虫由来の遺伝子組換細胞、例えば、ドロソフィラS2及びスポドプテラSf9からなる群から選択される請求項6に記載の方法。
【請求項10】
免疫アッセイによる、アテローム硬化型冠動脈プラークにおける関連する抗原の検出のための請求項1に記載の使用。
【請求項11】
免疫アッセイが、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ウエスタンブロット、ELISA(酵素免疫吸着測定法)、免疫染色、免疫沈降、免疫電気泳動、免疫蛍光、化学蛍光免疫測定法(LIA)及び免疫組織化学からなる群から選択される請求項10に記載の使用。
【請求項12】
患者から単離した試料による急性冠症候群(ACS)の診断又は急性冠症候群(ACS)のリスクのある集団のスクリーニングである請求項10又は11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
以下の工程:
a)該抗体又はそれらのいずれかの断片を固相に結合すること;
b)結合しなかった物質を1以上の洗浄工程により除くこと;
c)候補リガンドを、工程a)において準備した固相と接触させ、該候補リガンドと固相を適切な時間インキュベートさせること;
d)結合しなかった物質を1以上の洗浄工程により除くこと;
e)候補リガンドが結合した工程a)の抗体の複合体に特異的な二次抗体を添加すること;及び
f)工程a)の抗体に結合したリガンドを特定すること
を含む、遺伝子組換抗体又はそれらのいずれかの断片に結合する請求項1に記載のリガンドの特定方法。
【請求項14】
候補リガンドが生物学的試料に含まれる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該試料が、全血、血清、冠動脈プラーク生検、全細胞及びそれらの溶解物からなる群から選択され、生体外又はインビトロで行われる請求項14に記載の方法。
【請求項16】
候補リガンドが分子レパートリーライブラリーに含まれる請求項13に記載の方法。
【請求項17】
患者における急性冠症候群(ACS)の診断又は急性冠症候群(ACS)のリスクのある集団のスクリーニングである生体外又はインビトロで行われる請求項15の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−520848(P2012−520848A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500229(P2012−500229)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053430
【国際公開番号】WO2010/106088
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(504448162)ブラッコ・イメージング・ソシエタ・ペル・アチオニ (34)
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.P.A.
【Fターム(参考)】