説明

アディポネクチンに対する結合性を有するペプチド、ならびに該ペプチドを用いた分析方法および分析装置

【課題】生産性、品質および構造の安定性、ならびに利便性に優れ、かつ安価な、アディポネクチンの認識材料を開発する。
【解決手段】50個以下のアミノ酸からなり、かつアディポネクチンに対する結合性を有しているペプチドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アディポネクチンを分析する技術に関するものであり、より詳細には、アディポネクチンに対する結合性を有するペプチド、ならびにこれらのペプチドを用いた、アディポネクチンの分析方法および分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチン(ACRP30またはGBP28ともいう。)は、主に脂肪組織から特異的に産生および分泌されるサイトカインであり、244個のアミノ酸からなるタンパク質である(非特許文献1参照)。アディポネクチンは、インスリン感受性を改善する効果、および肝臓や筋肉における脂肪燃焼を促進する効果を有していることが示されている。このような効果をアディポネクチンが有しているため、アディポネクチンの分泌を正常化することによって、高血圧、脂質代謝異常または糖尿病といったメタボリックシンドロームの諸症状を総合的に改善できると期待されている(非特許文献2参照)。
【0003】
メタボリックシンドロームから引き起こされる疾患の一つである糖尿病に関し、厚生労働省による2006年度の実態調査によると、糖尿病を強く疑われる人の数が約820万人、糖尿病の可能性を否定できない人の数が約1,050万人であり、合わせて推定約1,870万人である。糖尿病を含む生活習慣病やその予備軍は今後も増加傾向にあるとされており、日々の生活改善などによる予防が重要とされている。
【0004】
上述したようにアディポネクチンがメタボリックシンドロームと関係していることから、アディポネクチンは、生活習慣病の指標になる可能性があるとされている。それ故、生体内のアディポネクチンの濃度を測定することは、健康維持、または代謝異常の早期発見につながると考えられている。
【0005】
従来、アディポネクチンは、タンパク質である抗体(アディポネクチンを免疫原として得られたモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体)をアディポネクチンの認識材料として用いた免疫学的な測定方法によって測定されている(特許文献1〜2参照)。このような免疫学的な測定方法の一つには、抗体を使用したサンドイッチ法が用いられている。
【0006】
サンドイッチ法を用いたアディポネクチンの測定方法は、具体的には以下のとおりに実施される。まず、マイクロプレート内にアディポネクチンに特異的な抗体を固定化する。次に、アディポネクチンを含むサンプルを添加し、サンプル中のアディポネクチンとこの抗体とを反応させる。これにより、マイクロプレートにアディポネクチンを固定化する。さらに、酵素または蛍光化合物などで標識された、マイクロプレート内に固定化した抗体とエピトープが異なるさらなる抗体を、固定化したアディポネクチンと反応させる。そして、この酵素または蛍光化合物を検出することによって、アディポネクチンを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−333504(2004年11月25日公開)
【特許文献2】国際公開第2004/086040号パンフレット(2004年10月7日公開)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Philipp E. Scherer, et al., J. Biol. Chem., 1995, vol. 270, pp. 26746-26749
【非特許文献2】Christian Weyer, et al., J. Clin. End. & Metab., 2001, vol. 86, 1930-1935
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のような従来技術において、アディポネクチンを検出するためには、抗体が必要不可欠である。しかしながら、抗体は、動物に免疫したり、ハイブリドーマ細胞を作製したりした後に、さらに精製を行うことによって得られるため、抗体の生産に長い時間を必要とする。このため、抗体を効率よく量産することが困難であり、生産コストも高くなるという問題点がある。さらに、抗体は、生産のロット毎に品質が変わるため、品質の安定化の問題点もある。
【0010】
また、タンパク質は、分析条件(温度、湿度、pH、酸素、光または腐敗など)の影響を受けて、その構造が変化し、失活することがある。タンパク質は構造的に不安定であるため、タンパク質である抗体を使用する場合、分析条件によってタンパク質のアディポネクチンに対する結合性が変化する。すなわち、タンパク質を用いた分析では、分析条件によって異なる分析結果が得られる(分析結果の信頼性が低い)という問題点がある。さらに、アディポネクチンの分析を目的として、タンパク質を基材に固定化する場合、この固定化によってタンパク質が変性し、タンパク質のアディポネクチンに対する結合性が低下することがあるという問題点もある。その上、タンパク質は同一のアミノ酸が複数存在するため、同一官能基が複数存在する。このため、タンパク質の所望の部位を修飾したり、標識したりすることが難しいという問題点もある。
【0011】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、生産性、品質および構造の安定性、ならびに利便性に優れ、かつ安価な、アディポネクチンの認識材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、独自の観点に基づいて、アディポネクチンに対する結合性を有するペプチドを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るペプチドは、50個以下のアミノ酸からなり、かつアディポネクチンに対する結合性を有していることを特徴としている。
【0014】
本発明に係るペプチドは、配列番号1〜15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含んでいるペプチドであっても、配列番号1〜15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸の置換または付加が生じているアミノ酸配列を含んでいるペプチドであってもよい。
【0015】
本発明に係るペプチドにおいて、前記アミノ酸の置換は保存的置換であることが好ましく、(a)アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンおよびグリシンからなる群、(b)アスパラギン酸およびグルタミン酸からなる群、(c)ヒスチジン、リシンおよびアルギニンからなる群、(d)アラニン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、バリンおよびメチオニンからなる群、ならびに、(e)フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンからなる群、より選択される単一の群に含まれる2つのアミノ酸の間で生じている置換であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係るペプチドは、20個以下のアミノ酸からなることがより好ましく、配列番号1〜15、18および19のいずれかに示されるアミノ酸配列からなってもよい。
【0017】
本発明に係るペプチドは、高分子であるタンパク質(例えば、抗体)と比べてアミノ酸の数が極端に少ない。このため、本発明に係るペプチドは、(i)化学合成法によって容易に得ることができ、(ii)上述した分析条件に起因する構造の変化が生じず、アディポネクチンに対する結合性が低下しない、(iii)ペプチド内に同一アミノ酸が存在しないか、またはペプチド内に存在する同一アミノ酸の数が少ないので、特定のアミノ酸を標的とした修飾または標識を簡便に行うことができる。このように、本発明に係るペプチドは、生産性、品質および構造の安定性、ならびに利便性に優れ、かつ安価なアディポネクチン認識材料として使用され得る。
【0018】
本発明に係るペプチドは、上述したようにペプチド内に同一アミノ酸が存在しないか、またはペプチド内に存在する同一アミノ酸の数が少ないため、ペプチドの特定の部位を介してペプチドを基材へ簡便に固定化することができる。このような基材を用いれば、分析方法または分析装置の利便性、分析精度、または信頼性を格段に高めることができる。
【0019】
本明細書において、「ペプチド」は、2〜50個、好ましくは7〜50個、より好ましくは7〜20個のアミノ酸がペプチド結合したものが意図される。分子認識材料の1つである抗体の、超過変部位のアミノ酸の個数は一般的に10個程度であり、このことは、10個程度のアミノ酸からなるペプチドが標的タンパク質を認識可能であることを示している。このような技術常識に基づいて、アミノ酸の個数が上述した範囲内であれば、本発明に係るペプチドがアディポネクチンを十分に認識することができることを、当業者は容易に理解する。さらに、アミノ酸の個数が上述した範囲内であれば、ペプチドを化学合成法によって効率よく合成することができる。
【0020】
本明細書において、「結合性」とは、分子間相互作用(例えば、静電相互作用、π−π相互作用、双極子相互作用、疎水相互作用、水素結合、配位結合、および水和結合)に基づいて結合する性質のことである。よって、「アディポネクチンに対する結合性を有するペプチド」は、分子間相互作用によってアディポネクチンに結合する性質を有するペプチドが意図される。結合性は、酵素免疫測定法、または表面プラズモン共鳴などの従来公知の方法を用いることにより評価することができる。
【0021】
本発明に係るペプチドは、リンカーを含んでいてもよい。本明細書において「リンカー」は、2つ以上の物質を、互いの性質を保持したまま連結し得る構造をいい、リンカーを介して、本発明に係るペプチドを、アディポネクチンに対する結合性を保持した状態で他の物質(基材、さらなる分子など)に固定化することができる。なお、リンカーを含むペプチドは、他の物質と実際に連結していなくてもよい。
【0022】
また、本発明に係るペプチドは標識されていてもよい。本明細書において「標識」は、他と異なった特徴を目的の物質に付与することをいい、生体内に存在し得る分子またはその類似物(いわゆる生体関連分子)の付加であっても、蛍光化合物の付加であってもよい。生体関連分子としては、酵素(アルカリフォスファターゼ(ALP)および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)など)、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン等が挙げられるがこれらに限定されない。なお、本発明に係るペプチドは、上述したリンカーを介して標識されても、介さずに標識されてもよい。本明細書において、生体関連分子および蛍光化合物を総称して標識化合物ともいう。
【0023】
本発明に係る分析方法は、アディポネクチンを分析するために、本発明に係るペプチドの少なくとも1種を用いることを特徴としている。好ましくは、本発明に係る分析方法は、本発明に係るペプチドの少なくとも1種とアディポネクチンとの複合体を分析する工程を包含し、より好ましくは、サンプル中のアディポネクチンを分析するために、本発明に係るペプチドの少なくとも1種をサンプルとインキュベートする工程をさらに包含する。
【0024】
用語「サンプル」は、当該分野において標本、または調製物と同義で用いられ、本明細書において、「生物学的サンプル」またはその等価物が意図される。「生物学的サンプル」は、供給源としての生物材料(例えば、個体、体液、細胞株、組織培養物、組織切片、組織生検など)から得られる、任意の調製物が意図される。本発明に適用される生物学的サンプルとしては、体液(例えば、血液、唾液、血清、血漿、尿、髄液、分泌液など)またはその希釈物が挙げられる。好ましい生物学的サンプルは、被験体から得られたサンプル(すなわち被験体サンプル)である。哺乳動物から組織生検および体液を得るための方法は当該分野で周知である。本明細書において、用語「サンプル」としては、上記生物学的サンプル以外に、上記生物学的サンプルから抽出したタンパク質サンプル、ゲノムDNAサンプルおよび/または総RNAサンプルもまた挙げられる。
【0025】
本明細書において、「インキュベートする」は複数の物質を共存させかつ互いに十分接触し得る状態におくことが意図される。上述したように、本発明に係るペプチドはいずれもアディポネクチンに対する結合性を有しているので、本発明に係るペプチドをサンプルとインキュベートすることによって、サンプル中にアディポネクチンが存在する場合は、「アディポネクチン−ペプチド複合体」が形成される。なお、「インキュベートする」工程は、本発明に係るペプチドをサンプル中に添加する工程であっても、サンプルと混合する工程であってもよい。
【0026】
本明細書において、「分析」は、サンプル中の目的物質の量(例えば、モル数または濃度)の定量的または半定量的な「測定」と、サンプル中の目的物質の存在の「検出」とが包含される。ペプチドとアディポネクチンとの複合体を分析する工程は、複合体の存在を検出する工程であっても、複合体の量を測定する工程であってもよく、当該分野において公知の種々の解析手順(例えば、抗ペプチド抗体または抗アディポネクチン抗体を用いたサンドイッチ法、または直接法、あるいはペプチドの標識化)、あるいは公知の種々の解析手段(吸光度測定、蛍光強度測定、蛍光偏光、表面プラズモン共鳴(SPR)、水晶マイクロバランス(QCM)などを用いたシグナルの検出)を適用することができる。また、本発明に係るペプチドは分析条件に起因して構造が変化しにくいため、上述した分析方法を用いれば、分析条件に影響されない、安定した結果を得ることができる。
【0027】
本発明に係るペプチドは基材上に固定化されていてもよい。すなわち、本発明に係る基材は、本発明に係るペプチドの少なくとも1種が固定化されていることを特徴としている。この構成によれば、基材上にて行われるべき種々の公知の分析手順(例えばマイクロチップ技術)と組み合わせて、アディポネクチンの分析を容易に行うことができる。
【0028】
本発明に係る分析方法は、アディポネクチンを分析するために、本発明に係る基材を用いることを特徴としている。好ましくは、本発明に係る分析方法は、本発明に係る基材上のペプチドとアディポネクチンとの複合体を分析する工程を包含し、より好ましくは、サンプル中のアディポネクチンを分析するために、本発明に係る基材をサンプルとインキュベートする工程をさらに包含する。この構成によれば、基材上に固定化された本発明に係るペプチドに結合したアディポネクチンを、直接的または間接的に分析することができる。直接的な分析方法としては、例えば、SPR、QCMが挙げられ、間接的な分析方法としては、例えば、二次的な生体認識材料(例えば抗体)を用いたサンドイッチ法などが挙げられる。
【0029】
このように、本発明に係る分析方法は、基材上に固定化されているペプチドを用いても、固定化されていないペプチドを用いてもよい。ペプチドが基材上に固定化されている場合は、ペプチドを介して基材に固定化されたアディポネクチンを例えばSPRやQCMによって検出すればよい。ペプチドが基材上に固定化されていない場合は、例えば、蛍光標識したペプチドを用いてアディポネクチンと溶液中にて複合体を形成させて、生じた蛍光偏光を測定すればよい。
【0030】
本発明に係る分析装置は、アディポネクチンを分析するために、本発明に係るペプチドの少なくとも1種を備えていることを特徴としている。この構成によれば、本発明に係るペプチドは分析条件に起因する構造変化が生じにくいので、この分析装置を用いれば、分析条件に左右されない安定した分析結果を得ることができる。本明細書において、「分析装置」とは、アディポネクチンを装置内に捕捉し、アディポネクチンが捕捉されている情報をシグナルに変換し、このシグナルを検出するための一連の操作を実施するに必要な構成を有しているものが意図される。
【0031】
本発明に係る分析装置は、アディポネクチンを分析するために、本発明に係る基材を備えていることを特徴としている。この構成を用いれば、この分析装置に、アディポネクチンを直接的または間接的に分析する手段を適用することができる。
【0032】
本発明に係る分析装置は、アディポネクチンを分析するために、サンプルを受容するサンプル受容部を備えており、アディポネクチンを捕捉する捕捉部が該サンプル受容部の内部に設けられており、捕捉部には、本発明に係るペプチドが固定化されているか、あるいは本発明に係る基材が配置されていればよい。そして、捕捉されたアディポネクチンを分析する分析手段がさらに備えられていることが好ましく、この場合、分析手段はサンプル受容部の内部の分析部に向けて配置されている。分析部は、サンプル受容部の内部の所定位置として予め規定されている態様であってもよいが、分析手段の種類およびその設定に従って任意に規定される態様であってもよい。すなわち、後者の態様であれば、分析部は、分析手段による分析が可能な領域として規定される。
【0033】
本発明に係る分析装置において、サンプル受容部は流路を形成していてもよく、この場合、分析部が捕捉部の下流であってもよい。サンプル受容部が流路を形成している場合は、流路、および流路に流体を注入する注入部によって、サンプル受容部が構成され、この場合、サンプル受容部は、流路から流体を排出する排出部を含んでも含まなくてもよい。本明細書において、用語「上流」および「下流」は、流路内における流体の流れを基準とした概念であり、特に説明を加えない限り、流路における流体の注入部側が「上流」であり、流体の排出部側が「下流」である。また、本発明に係る分析装置は、基板上に形成したマイクロチャネル型分析装置であってもよい。
【0034】
本発明に係る遺伝子は、本発明に係るペプチドをコードしていることを特徴としている。本発明に係る組換えベクターは、本発明に係る遺伝子を含んでいることを特徴としている。本発明に係る形質転換体は、本発明に係る組換えベクターを含んでいることを特徴としている。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、生産性、品質および構造の安定性、ならびに利便性に優れ、かつ安価なアディポネクチンの認識材料を提供することができる。このようなアディポネクチンの認識材料を用いることによって、いかなる分析条件においても安定した分析結果が得られる分析方法および分析装置を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る分析装置の一実施形態の断面の概略図である。
【図2】本発明に係る分析装置の一実施形態を上面から見た概略図である。
【図3】ペプチドのアディポネクチンに対する結合を測定した結果を示すグラフである。
【図4】ペプチドのアディポネクチンに対する結合を測定した結果を示すグラフである。
【図5】ペプチドのアディポネクチンに対する結合を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(1)本発明に係るペプチド
本発明は、50個以下のアミノ酸からなり、かつアディポネクチンに対する結合性を有しているペプチドを提供する。一実施形態において、本発明に係るペプチドは、配列番号1〜15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含んでいるペプチドである。また、一実施形態において、本発明に係るペプチドは、配列番号1〜15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸の置換または付加が生じているアミノ酸配列を含んでいるペプチドである。
【0038】
「1個または数個のアミノ酸の置換または付加」とは、当業者が公知の手法に従って容易に置換または付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下、なおさらに好ましくは3個以下)のアミノ酸が置換または付加されていることを意味する。
【0039】
アミノ酸の置換は、保存的置換であることが好ましい。「保存的置換」とは、特定のアミノ酸から、このアミノ酸と同様な化学的性質および/または構造を有する他のアミノ酸に置換されていることをいう。化学的性質としては、例えば、疎水性度(疎水性および親水性)、電荷(中性、酸性および塩基性)が挙げられる。構造としては、例えば、側鎖、ならびに側鎖の官能基として存在する芳香環、脂肪炭化水素基およびカルボキシル基が挙げられる。
【0040】
アミノ酸の化学的性質および構造を表1に示す。表1に示す疎水性度は、値が大きいほど疎水性が高く、小さいほど親水性が高いことを示す。アミノ酸は、例えば、疎水性であるか、親水性であるかによって分類することができる。
【0041】
【表1】

【0042】
アミノ酸の疎水性度、電荷または側鎖の官能基の種類に基づいて、化学的性質および/または構造が同様であるアミノ酸を例えば、以下の(a)〜(e)の5つの群に分類することができる。
(a)親水性かつ中性を示すアミノ酸の群・・・アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンおよびグリシン
(b)酸性を示すアミノ酸の群・・・アスパラギン酸およびグルタミン酸
(c)塩基性を示すアミノ酸の群・・・ヒスチジン、リジンおよびアルギニン
(d)疎水性かつ中性を示すアミノ酸の群・・・アラニン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、バリンおよびメチオニン
(e)芳香環を有するアミノ酸の群・・・フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシン。
【0043】
このような分類を用いれば、保存的置換とは、同じ群内のアミノ酸同士の置換であるといえ、例えばセリンとスレオニンとの置換、リジンとアルギニンとの置換、およびフェニルアラニンとトリプトファンアミノとの置換が挙げられる。
【0044】
アミノ酸の付加は、ペプチドのN末端および/またはC末端にさらなるアミノ酸が結合された状態が意図され、アディポネクチンに対する結合性を有しているかぎり、本発明に係るペプチドが複数結合されたペプチドであってもよい。本発明に係るペプチドとさらなるアミノ酸とは、直接的に結合されてもよいし、リンカーを介して結合されてもよい。同様に、本発明に係るペプチドが複数結合される場合は、これらのペプチドは、互いに直接的に結合されてもよいし、後述するリンカーを介して結合されてもよい。
【0045】
また、本発明に係るペプチドは、付加的なペプチドを含むものであってもよい。付加的なペプチドとしては、例えば、His、Myc、Flagなどのエピトープ標識ペプチドが挙げられる。
【0046】
なお、本発明に係るペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているものであればよいが、これに限定されるものではなく、糖鎖やイソプレノイド基などのペプチド以外の構造を含む複合ペプチドであってもよい。アミノ酸は、表1に示す20種のアミノ酸であることが好ましいがこれらに限定されない。アミノ酸の官能基は修飾されていてもよい。アミノ酸はL型であることが好ましい。
【0047】
本発明に係るペプチドは、本発明者らが独自に見出した新規ペプチドであり、後述する実施例にて示すように、アディポネクチンに結合することが実証されている。このような機能は、本発明に係るペプチドのアミノ酸配列に基づいて当業者が容易に予測し得るものではない。本発明に係るペプチドは、当該分野において公知の任意の手法に従って容易に作製され得、例えば、化学合成されても、組換え発現されてもよい。化学合成法としては、固相法または液相法を挙げることができる。固相法において、例えば、市販の各種ペプチド合成装置(Model MultiPep RS(Intavis AG)など)を利用することができる。
【0048】
本発明に係るペプチドは、リンカーを含んでいてもよい。本発明に係るペプチドがリンカーを含んでいることによって、本発明に係るペプチド同士を、または本発明に係るペプチドと他の物質(後述する基材など)とを、リンカーを介して結合することができる。本発明に係るペプチド同士が結合される場合、同一のペプチド同士が結合されてもよいし、異なるペプチド同士が結合されてもよい。
【0049】
リンカーは、例えば、本発明に係るペプチドのアミノ酸と結合(例えば、共有結合)されていてもよい。リンカーは、より具体的には、本発明に係るペプチドのN末端のアミノ酸のアミノ基または側鎖と結合されていてもよいし、C末端のアミノ酸のカルボキシル基または側鎖と結合されていてもよいし、N末端およびC末端のアミノ酸以外のアミノ酸の側鎖と結合されていてもよい。さらに、本発明に係るペプチドのN末端および/またはC末端にさらなるアミノ酸を付加し、付加されたさらなるアミノ酸のアミノ基もしくはカルボキシル基または側鎖に、リンカーを結合させてもよい。
【0050】
本発明に係るペプチドに付加されるさらなるアミノ酸は、例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンおよびシステインであることが好ましい。リジン、アルギニンおよびヒスチジンの側鎖に存在するアミノ基にリンカーを簡便に結合させることができ、システインの側鎖に存在するチオール基にリンカーを簡便に結合させることができる。
【0051】
リンカーの末端は、ペプチドと結合できるように、適切な官能基を有していることが好ましい。このような官能基としては、例えば、アミノ基、チオール基、カルボキシル基および水酸基が挙げられる。どのような官能基を使用するかは、リンカーが結合されるペプチドに基づいて決定すればよいが、好ましい官能基はアミノ基またはチオール基である。
【0052】
リンカーを本発明に係るペプチドに結合させるときには、当業者に公知の方法を用いて、リンカーを結合するアミノ酸以外のアミノ酸の官能基を保護することが好ましい。これによって、リンカーを結合させたい官能基と選択的に反応させることができるため、ペプチドの目的の部位にリンカーを結合させることができる。
【0053】
リンカーとしては、例えば、炭素鎖、ペプチドおよび糖鎖が挙げられる。炭素鎖は、例えば、置換されたアルキル基であってもよいし、無置換のアルキル基であってもよい。また、炭素鎖中に、酸素原子、窒素原子および/または硫黄原子が存在していてもよい。
【0054】
また、オキシアルキレンの両端に官能基が導入された構造の化合物(ポリエチレングリコール(PEG)など)をリンカーとして使用することもできる。
【0055】
また、sulfo−SMCC(スルホスクシンイミジル−4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボキシレート(Sulfosuccinimidyl-4-[N-maleimidomethyl] cyclohexane-1-carboxylate))などのクロスリンカーと呼ばれる化合物を、リンカーとして使用することもできる。式(1)で表されるsulfo−SMCCは、チオール基と反応するマレイミド基とアミノ基に反応するスクシンイミド基を有している。sulfo−SMCCは、このように2つの反応部位を有しているため、例えば、式(2)で表されるように、マレイミド基をペプチドのチオール基に結合させ、スクシンイミド基を標識化合物のアミノ基(あるいは、基材上のアミノ基)に結合させることができる。
【0056】
【化1】

【0057】
【化2】

【0058】
リンカーの長さが短すぎると、ペプチドと他の物質(基材など)とを十分に離間できず、その結果、互いに干渉しやすい。また、リンカーの長さが長すぎるとリンカーの折れ曲がりが生じやすく、その結果、ペプチドのアディポネクチンに対する結合性を損なう可能性がある。このため、リンカーの長さは、特に限定されないが、0.5〜10nm(5〜100Å)であることが好ましい。なお、リンカーの種類は、例えば、ペプチドのアミノ酸配列、またはペプチドに付加するさらなるアミノ酸に応じて適宜選択することができる。
【0059】
また、本発明に係るペプチドは、標識されていてもよい。標識は、生体関連分子の付加であってもよいし、蛍光化合物の付加であってもよい。ペプチドは直接的に標識されてもよいし、リンカーを介して標識されてもよい。
【0060】
本明細書において「生体関連分子」とは、生体内に存在し得る分子、またはその類似体をいう。生体関連分子は、天然に存在するものであっても、人工的に合成されたものであっても、それらの組合せであってもよい。生体関連分子としては、例えば、核酸、タンパク質(酵素であるアルカリフォスファターゼ(ALP)および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)など)、ペプチド、および糖鎖、ならびに低分子化合物(ホルモン、ビオチンおよびアビジンなど)が挙げられる。
【0061】
蛍光化合物としては、例えばフルオロセイン(FITC)、ローダミンおよびローダミン誘導体、テキサスレッド、Cy3、ならびにCy5などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0062】
上述した本発明に係るペプチドを、少なくとも2種以上組み合わせて使用してもよい。例えば、後述する基材などに、2種以上のペプチドをそれぞれ個別に固定化してもよいし、2種以上のペプチドが直接的にまたはリンカーを介して結合したものを固定化してもよい。このように、アディポネクチンに対して結合する部位(エピトープ)が異なる複数のペプチドを用いれば、複数種のペプチドが1つのアディポネクチンと結合するため、アディポネクチンに対する結合性を高めることができ、本発明に係る分析方法または分析装置の感度を向上させることができる。
【0063】
(2)本発明に係る基材
本発明に係る基材は、本発明に係るペプチドの少なくとも1種が固定化されていることを特徴としている。本明細書において、「基材」はペプチドに足場を提供する(すなわちペプチドが固定化される)ものであれば特に限定されない。基材としては、例えば、ポリスチレンおよびポリカーボネートなどのプラスチック、セルロースおよびデキストランなどの生体高分子、金(Au)、銅(Cu)、銀(Ag)、白金(Pt)およびチタン(Ti)などの金属、ガラス、セラミックス、樹脂などが挙げられる。これらの基材は、用途に応じて任意の形状で用いることができ、例えば、基板(スライド、プレート、チップ、チューブなど)、微粒子、ビーズ、メンブレンなどであってもよい。
【0064】
本発明に係るペプチドの基材への固定化方法としては、例えば親水性や疎水性を利用した吸着によって固定化する方法、またはペプチドと基材とを結合(例えば、共有結合)することによって固定化する方法が挙げられる。
【0065】
ペプチドは基材に直接的に固定化されてもよいし、リンカーまたは生体関連分子を介して固定化されてもよい。リンカーおよび/または生体関連分子を用いることによって、ペプチドの所望の部位を基材と結合させることができる。これによれば、リンカーおよび/または生体関連分子が結合することによって、アディポネクチンに対する結合性を保持したままペプチドを基材に固定化することができる。
【0066】
例えば、生体関連分子としてビオチンおよびアビジンを用いる場合、まず、基材にアビジンを物理的吸着または化学的吸着によって固定化し、次いで、この基材に、ビオチンが標識されているペプチドを添加し、アビジンとビオチンとの結合を介してペプチドを基材に固定化することができる。
【0067】
また、例えば、リンカーとしてアミノ基とマレイミド基とを有するリンカーを用いる場合、まず、金の基材上に末端にカルボキシル基を修飾したPEGアルカンチオールSAM(self-assembled monolayer)を形成し、次いで、基材のカルボキシル基を活性化し、活性化したカルボキシル基をリンカーのアミノ基に結合させ、さらに、ペプチドのシステインのチオール基とリンカーのマレイミド基とを結合させることによって、ペプチドを基材に固定化することができる。用いられるべきペプチドにシステインが存在しない場合は、当業者に公知の方法を用いて、そのペプチドのN末端またはC末端にシステインを付加すればよい。
【0068】
(3)本発明に係る分析方法
本発明は、アディポネクチンを分析する方法を提供する。本発明に係る分析方法は、本発明に係るペプチドの少なくとも1種、または本発明に係る基材を用いてアディポネクチンを分析することを特徴としている。より具体的には、本発明に係る分析方法は、本発明に係るペプチドとアディポネクチンとの複合体を分析する工程を包含している。この工程は、アディポネクチンがペプチドに結合していることを示すシグナル(吸光度、蛍光強度、蛍光偏光、表面プラズモン共鳴(SPR)、または水晶マイクロバランス(QCM)など)を従来公知の方法によって分析する工程であればよい。
【0069】
また、本発明に係る分析方法は、本発明に係るペプチドの少なくとも1種をサンプルとインキュベートする工程をさらに包含していてもよい。例えば、アディポネクチンを含んでいるサンプル(あるいは、含んでいることが予想されるサンプル)を、溶液中に溶解したペプチド、またはペプチドが固定化された基材などとインキュベートすればよい。この工程によって、アディポネクチンを本発明に係るペプチドに結合させることができる。
【0070】
アディポネクチンが、溶液中に溶解したペプチドと結合している場合、本発明に係る分析方法には蛍光偏光測定法を用いることができる。具体的には、例えば、蛍光化合物で標識されたペプチドがアディポネクチンと結合することによって、蛍光化合物の蛍光偏光に変化が生じるので、その変化の有無に基づいて、ペプチドに結合したアディポネクチンを検出することができる。
【0071】
基材などに固定化されたペプチドにアディポネクチンが結合している場合、本発明に係る分析方法には、酵素免疫測定法、ウェスタンブロット法、放射免疫測定法、および免疫沈降法などの免疫学的方法、吸光度測定法、蛍光強度測定法、表面プラズモン共鳴ならびにQCM法などを用いることができる。
【0072】
本発明に係る分析方法には、検出感度、特異性または簡便性の観点から酵素免疫測定法を用いることが好ましい。酵素免疫測定法は、特に限定されず、直接法であっても、サンドイッチ法であってもよい。
【0073】
本発明に係る分析方法にサンドイッチ法を用いた場合、まず、第1のペプチドをプレートのウェル内に固定化し、次いで、ウシ血清アルブミン(BSA)およびカゼインなどのタンパク質、またはポリマーを用いてウェルをブロッキングし、そして、サンプルをウェル内にてインキュベートすることによって、サンプル中のアディポネクチンが第1のペプチドに結合する。
【0074】
続いて、ウェルを洗浄した後に、酵素で標識された第2のペプチドをウェル内にてインキュベートすることによって、第2のペプチドがアディポネクチンに結合する。ウェルを洗浄した後に、この酵素に対する基質溶液をウェルにてインキュベートすることによって、基質溶液が酵素と反応し、反応生成物が生じる。このような反応生成物の有無に基づいて、ペプチドに結合したアディポネクチンを検出することができる。当業者は、このような方法を、使用する基質の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0075】
例えば、上記反応によって蛍光を生成する基質を用いた場合は、この基質からの蛍光を直接観察することによってアディポネクチンを検出することができる。また、上記反応によって色素を生成する基質を用いた場合は、この色素の吸光度を測定することによってアディポネクチンを検出することができる。上記反応によって電気化学活性が変化する基質を用いた場合は、電極を用いた電気化学的な手段によってアディポネクチンを検出することができる。
【0076】
以上のような手順に従ってサンドイッチ法を実施すれば、サンプル中のアディポネクチンの有無を判定することができる。サンプル中のアディポネクチンの濃度の測定は、例えば、以下のように実施すればよい。まず、予め、同様の方法で既知濃度の標準アディポネクチン溶液についてシグナル(蛍光強度、吸光度、または電気化学的なシグナルなど)を測定し、アディポネクチンの濃度に対するシグナルの標準曲線を作成する。サンプルから測定したシグナルの値をこの標準曲線からアディポネクチンの濃度に換算することによって、サンプル中のアディポネクチンの濃度を測定することができる。
【0077】
なお、上記説明では、酵素で標識された第2のペプチドを用いたが、蛍光化合物で標識されたペプチドを用いてもよい。蛍光化合物で標識された第2のペプチドを用いた場合、この第2のペプチドからの蛍光を観察することによって、アディポネクチンを検出または測定することができる。
【0078】
また、本発明に係る分析方法に表面プラズモン共鳴ならびにQCM法を用いれば、基材に固定化されたペプチドに結合したアディポネクチンを検出するだけでなく、その量を直接的に測定することができる。
【0079】
(4)本発明に係る分析装置
本発明は、アディポネクチンを分析するための装置を提供する。具体的には、本発明は、上述した分析方法を実行するための分析装置を提供する。本発明に係る分析装置は、サンプル中のアディポネクチンを分析するために、サンプルを受容するサンプル受容部を備えており、アディポネクチンを捕捉する捕捉部が該サンプル受容部の内部に設けられており、捕捉部には、本発明に係るペプチドが固定化されているか、あるいは本発明に係る基材が配置されていればよい。
【0080】
本発明に係る分析装置について、図1および2を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る分析装置1の側方からの断面図である。図2は、本発明に係る分析装置1の平面図である。なお、サンプルを流体として通過させるマイクロチャネル型の分析装置を例に用いて本発明を説明するが、サンプルが通過すべき流路は、微細溝(マイクロチャネル)に限定されず、例えばマイクロキャピラリであってもよい。また、サンプルを流体として通過させない構成(例えば、「(3)本発明に係る分析方法」に記載したウェル)もまた本発明の範囲内であることを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。このようなマイクロチャネル型の分析装置は、例えばチップの形態である。
【0081】
本発明に係る分析装置1は、基板6、および基板6と重ね合わせる蓋9を備えており、基板6の表面には、凹面の微細流路3が形成されている。なお、本明細書中において、「微細」は、μmオーダーの径を有していることが意図され、具体的には、半導体の微細加工技術を用いて形成され得る程度のサイズが意図される。
【0082】
基板6の表面には、注入すべき流体またはサンプルを受容する注入部2、および微細流路3から流体を排出する排出部4がさらに形成されており、それぞれ微細流路3の両端と連結している。すなわち、微細流路3は注入部2と排出部4とを基板6の表面上にて接続している。
【0083】
注入部2は、分析されるべきサンプルや分析に用いる流体を微細流路3へ注入するための入口であり、注入されるべきサンプルや分析に用いる流体を予め貯留する機能を兼ねてもよい。また、排出部4は、分析されたサンプルや分析に用いられた流体を微細流路3内から排出するための出口であり、排出されたサンプルや流体を貯留しておく機能を兼ねてもよい。
【0084】
このような基板6に蓋9を重ね合わせることによって微細流路3は基板外部から隔離される。ただし、蓋9を貫通する貫通孔(注入孔12、排出孔14)が、それぞれ注入部2および排出部4と基板外部とを連通する。これにより、注入孔12を介して基板外部から微細流路3へ流体を供給したり、排出孔14を介して微細流路3から基板外部へ流体を排出したりすることができる。
【0085】
なお、本実施形態では、微細流路、注入部、および排出部は基板に形成されているが、蓋に形成されてもよい。この場合、基板を貫通する貫通孔(注入孔、排出孔)が、それぞれ注入部および排出部と基板外部とを連通する。
【0086】
さらに、微細流路3には、微細流路3を流れる流体中のアディポネクチンを捕捉するための本発明に係るペプチドを固定化する固定化部5が設けられている。固定化部5と排出部4との間に、固定化部5にて捕捉されたアディポネクチンを分析する分析部8が設けられている。アディポネクチンを検出するための分析手段7が、分析部8へ向けて配置されている。
【0087】
なお、図示していないが、分析装置には、微細流路3内の流体の、注入部2から排出部4への移動を促進する駆動手段が、注入部および排出部の少なくとも一方に連結されていてもよい。このような駆動手段としては、例えば、押出しポンプおよび吸引ポンプが挙げられる。押出しポンプを用いて流体を微細流路3内へ送り込む場合は、押出しポンプを注入部2に連結すればよく、吸引ポンプを用いて流体を微細流路3内から引き出す場合は、吸引ポンプを排出部4に連結すればよい。
【0088】
基板6および蓋9としては、例えば、プラスチック材料、ガラス、石英、光硬化性樹脂、または熱硬化性樹脂などを用いることができる。注入孔12および排出孔14の上面から見た形状は、特に限定されず、円形、楕円形、矩形などであり得る。また基板6上に形成された注入部2および排出部4の上面から見た形状は、特に限定されず、円形、楕円形、矩形などであり得る。注入部2および排出部4の底面の、流体の流れ方向に対して垂直な形状は直線状または半円形であり得る。
【0089】
微細流路3の流路は、流体の流れ方向に沿って角柱形状であっても円柱形状であってもよい。すなわち、微細流路3の、流体の流れ方向に対して垂直な断面の形状は、矩形、台形、円形(半円形)であり得る。また、微細流路3は直線形状である必要はなく、蛇行形状、渦巻形状、または螺旋形状でもよい。
【0090】
微細流路3の幅は、例えば、1μm〜5000μmであり、深さは例えば、1μm〜5000μmであることが好ましいが、この範囲内に限定されるものではない。注入部2および排出部4の直径は例えば、1μm〜10000μmであり、深さは例えば、1μm〜5000μmμmであることが好ましいが、この範囲内に限定されるものではない。注入孔12および排出孔14の直径は例えば、1μm〜10000μmであり、深さは例えば、1μm〜10000μmであることが好ましいが、この範囲内に限定されるものではない。
【0091】
ペプチドは、上述した基材へ固定化する方法と同様の方法で、基板の固定化部5へ直接的に固定化することができる。また、ペプチドを基板に直接的に固定化せずに、例えば、ペプチドが固定化された基材を固定化部5に配置してもよい。このような基材は、例えばチップであってもよいし、ビーズであってもよい。例えば、基材としてビーズを用いる場合、このビーズを微細流路3内に導入して固定化部5を形成することができる。具体的には、堰き止め部を微細流路内に設け、この堰き止め部によって堰き止められたビーズを固定化部5として用いることができる。
【0092】
アディポネクチンを分析するための分析手段7として、例えば熱レンズ顕微鏡、表面プラズモン共鳴測定装置または水晶発振子を使用することができる。
【0093】
また、アディポネクチンの分析に光検出を用いる場合、分析手段7は光源と分析器とを備えていてもよい。光源は、レーザ、LEDおよびランプからなる群より選択されることが好ましい。分析器は、光電子増倍管またはマルチピクセル光検出器であることが好ましい。
【0094】
また、アディポネクチンの分析に電気化学検出を用いる場合、分析手段7は電極を備えていてもよい。電極は、少なくとも参照電極および作用電極の2電極から構成されていればよいが、参照電極および作用電極に加えて対向電極を備えている3電極から構成されていることが好ましい。参照電極、作用電極および対向電極は、従来のフォトリソグラフィ技術を利用した微細加工技術によって分析部8に形成することができる。電極の構成材料としては、例えば、金(Au)、銅(Cu)、銀(Ag)、白金(Pt)、チタン(Ti)などの金属、または導電性プラスチックなどを使用することができる。
【0095】
なお、上記説明では、固定化部5と分析部8とが微小流路3の別々の箇所に設けられているが、固定化部5が分析部8を兼ねていてもよい。すなわち、固定化部5へ向けて分析手段7が配置されていてもよい。
【0096】
本実施形態に係る分析装置を用いたアディポネクチンの分析方法の一例を、以下に示す。なお、微細流路3内にて流体を流す駆動手段は、注入部2に連結した押出ポンプを用いる方法、排出部3に連結した吸引ポンプを用いる方法、毛管力および/または吸水物質を用いる方法のいずれでもよい。
【0097】
1.ブロッキング
サンプル中の、アディポネクチン以外の物質(非検出対象物質)が、微細流路3、固定化部5および分析部8に非特異的に吸着することを防ぐために、非特異吸着防止剤を注入部2から導入して、微細流路3内を満たす。次いで、この非特異吸着防止剤を排出部3から排出する。洗浄溶液を注入部2から導入し、微細流路3内を通過させて排出部4から排出する。これにより、微細流路3内に残留する余分な非特異吸着防止剤を取り除く。好適な非特異的吸着防止剤としては、例えば、牛血清アルブミン(BSA)カゼイン、および高分子ポリマーが挙げられる。
【0098】
2.サンプルの導入
サンプルを注入部2から微細流路3内に導入する。サンプルは、微細流路3内を移動して固定化部5へ送達される。サンプルが固定化部5を通過する間に、サンプル中のアディポネクチンが固定化部5の第1のペプチドと結合して、固定化部5にて捕捉される。次いで、洗浄溶液を注入部2から導入し、微細流路3内を移動させて排出部4から排出する。これにより、微細流路3内に残留する余分なサンプルを取り除く。
【0099】
微細流路3内での注入部2から排出部3へのサンプルの移動は連続的に行われてもよいし、断続的に行われてもよい。サンプルを断続的に移動させる場合、例えば、サンプルを固定化部5の領域内にて所定の時間にわたってインキュベートしてもよい。インキュベートすることによって、サンプル中のアディポネクチンペプチドとの反応時間を最適化することができる。
【0100】
3.固定化部にて捕捉されたアディポネクチンの標識化
標識された第2のペプチドを、注入部2から微細流路3内に導入して、固定化部5へ送達する。この第2のペプチドが固定化部5を通過する間に、第2のペプチドは固定化部5に捕捉されているアディポネクチンと結合する。この操作によって、固定化部5内に捕捉されたアディポネクチンが標識される。
【0101】
4.アディポネクチンの分析
分析手段7を用いて標識を検出することによって、分析部8にてアディポネクチンを分析することが可能となる。標識化合物としては、例えば、蛍光化合物または酵素を用いることができる。
【0102】
4−1.蛍光化合物を用いたアディポネクチンの分析
上記「3」において標識化合物が蛍光化合物であった場合、分析部8の蛍光を直接観察することによって、アディポネクチンを分析することができる。
【0103】
4−2.酵素を用いたアディポネクチンの分析
上記「3」において標識化合物が酵素であった場合、酵素を含む本発明に係るペプチド体をアディポネクチンに結合させた後に、この酵素に対する基質溶液を注入部2から微細流路3内に導入する。基質溶液が固定化部5を通過する間に、アディポネクチンに結合した本発明に係るペプチドの酵素と基質溶液とが反応する。この反応の結果によって得られるシグナルを公知の方法を用いて検出することによってアディポネクチンを分析することができる。当業者は、このような方法を、使用する基質の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0104】
例えば、上記反応によって蛍光を発する基質を用いた場合は、分析部8にて蛍光を直接観察することによってアディポネクチンを検出することができる。また、上記反応によって吸光度が変化する基質を用いた場合は、分析部8における吸光度を測定することによってアディポネクチンを分析することができる。上記反応によって電気化学活性が変化する基質を用いた場合は、電極を用いた電気化学的な手段によってアディポネクチンを検出することができる。
【0105】
なお、標識化合物を用いずに、アディポネクチンを分析することもできる。このような分析を行う場合には、分析手段7として熱レンズ顕微鏡、表面プラズモン共鳴測定装置または水晶発振子などを用いればよい。
【0106】
(5)本発明に係る遺伝子
本発明に係る遺伝子は、本発明に係るペプチドをコードする遺伝子であることを特徴としている。本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「ヌクレオチド配列」は、「核酸配列」または「塩基配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0107】
本発明に係る遺伝子は、RNA(例えば、mRNA、siRNA、RNAi、microRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAまたはRNAは、一本鎖または二本鎖であってもよい。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であってもよいし、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であってもよい。
【0108】
当業者であれば、本発明に係るペプチドのアミノ酸配列に基づいて、所望の遺伝子を容易に取得し得る。また、本発明に係る遺伝子は、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードする遺伝子と融合され得る。
【0109】
本発明に係る遺伝子は、本発明に係る遺伝子と相補的な遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアディポネクチンに対する結合性を有するペプチドをコードする遺伝子であってもよい。
【0110】
なお、ハイブリダイゼーションは、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第3版,J.SambrookおよびD.W.Russll編,Cold Spring Harbor Laboratory,NY(2001)」(本明細書中に参考として援用される)に記載されている方法のような周知の方法に従って行われ得る。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同な遺伝子を取得することができる。適切なハイブリダイゼーション温度は、ヌクレオチド配列やそのヌクレオチド配列の長さによって異なり、当業者であれば適宜設定可能である。
【0111】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルタを洗浄することが意図されるが、ハイブリダイゼーションさせるポリヌクレオチドによって、高ストリンジェンシーでの洗浄条件は適宜変更され、例えば、哺乳類由来DNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.5×SSC中にて65℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、E.coli由来DNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、RNAを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にて68℃での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましく、オリゴヌクレオチドを用いる場合は、0.1% SDSを含む0.1×SSC中にてハイブリダイゼーション温度での洗浄(好ましくは15分間×2回)が好ましい。
【0112】
(6)本発明に係る組換えベクター
本発明に係る組換えベクターは、本発明に係る遺伝子を含んでいることを特徴としている。例えば、本発明に係るペプチドをコードする遺伝子が挿入された組換え発現ベクターが挙げられる。後述するように、このような組換え発現ベクターを宿主に導入することによって、本発明に係るペプチドを宿主中において生成することができる。
【0113】
組換え発現ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。すなわち、宿主の種類に応じて、本発明に係る遺伝子を発現させるプロモーター配列を適宜選択し、これと本発明に係る遺伝子とが組み込まれたプラスミド(pBR322、pBR325、pUC18およびpUC118など)、ファージ、コスミド、またはウイルス(レトロウイルス、ワクシニアウイルスおよびバキュロウイルスなど)などを組換え発現ベクターとして用いればよい。
【0114】
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応した適切なプロモーターであればよい。宿主が大腸菌(Escherichia coli)である場合は、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、およびlppプロモーターなどが挙げられる。また、動物細胞を宿主として用いる場合は、例えば、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、およびHSV−TKプロモーターなどが挙げられる。
【0115】
また、本発明に係る組換えベクターには、必要に応じて当該技術分野で公知の、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、またはSV40複製起点などを付加することができる。さらに、本発明に係る組換えベクターには、本発明に係るペプチドとの他のタンパク質(例えば、グルタチオンSトランスフェラーゼ、プロテインA、および緑色蛍光ポリペプチド(GFP:Green Fluorescent Protein))との融合タンパク質を宿主中において発現させることができるように、この他のタンパク質をコードする遺伝子が含まれていてもよい。
【0116】
本発明に係る組換えベクターには、少なくとも1つの選択マーカーが含まれていることが好ましい。このような選択マーカーとしては、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子またはネオマイシン耐性が挙げられ、大腸菌や他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。選択マーカーを用いれば、本発明に係る組換えベクターが宿主に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で本発明に係る遺伝子が発現しているか否かを確認することができる。
【0117】
宿主は、特に限定されるものではなく、例えば、細胞、微生物、植物または動物(ヒトを除く)を挙げることができる。細胞としては、例えば、昆虫細胞(sf9細胞)、動物細胞(サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター細胞CHO、マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3およびヒトFL細胞など)を挙げることができる。また、微生物としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)、および酵母(出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)および分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)など)を挙げることができる。
【0118】
本発明に係る組換えベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、遺伝子銃、PEG法、またはエレクトロポレーション法などの従来公知の方法を好適に用いることができる。
【0119】
(7)形質転換体
本発明に係る形質転換体は、本発明に係る組換えベクターを含んでいることを特徴としている。形質転換の対象となる生物としては特に限定されるものではなく、上述の宿主を挙げることができる。すなわち、本明細書において、「形質転換体」は、細胞だけでなく、生物個体を含むことが意図される。
【0120】
形質転換体の作製方法(生産方法)としては特に限定されるものではないが、例えば、上述したように当業者に公知の形質転換方法を用いて、本発明に係る組換えベクターを宿主に導入して形質転換する方法を挙げることができる。
【0121】
形質転換体の選択採取方法は、例えば、本発明に係る組換えベクターに含まれる上述の選択マーカーを利用して、従来公知の方法に従って実施することができる。
【0122】
本発明に係る組換えベクターが宿主に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、本発明に係る組換えベクターを導入した宿主からDNAを調製し、本発明に係る遺伝子またはベクターに特異的なプライマーを設計してPCRを行えばよい。PCRによって増幅された産物に対して、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などを用いて、この産物を検出することによって、宿主に本発明に係る組換えベクターが導入されたこと(宿主が形質転換されたこと)を確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅された産物を検出することもできる。
【0123】
このようにして得られた、本発明に係る形質転換体は、当業者に公知の方法を用いて、本発明に係るペプチドを容易に大量に取得するために使用することができる。例えば、宿主が細胞の場合、本発明に係る組換えベクターを含む細胞を培養することによって、本発明に係る遺伝子が発現し、本発明に係るペプチドが生産される。細胞内において生産された本発明に係るペプチドは、当業者に公知の方法を用いて精製することができる。
【0124】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0125】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0126】
[実施例1]
<セルロースメンブレン上でのペプチドの合成(スポット合成)>
アディポネクチンに対する結合性を有するアミノ酸配列を同定するために、Fmoc法によるペプチドスポット合成法を利用したペプチド合成装置(Model MultiPep RS(Intavis AG))を用いて、セルロースメンブレン上においてペプチドを合成した。
【0127】
セルロースメンブレン上には、末端がアミノ基に改変されたポリエチレングリコールが固定化されており、このアミノ基にFmocアミノ酸を、DIC(ジイソプロピルカルボジイミド)/HOBt(ヒドロキシベンゾトリアゾール)を使用して結合させた。次いで、Fmocを除去した。そして、Fmocの除去によって現れたアミノ酸のアミノ基に、さらなるFmocアミノ酸を、DIC/HOBtを使用して結合させた。
【0128】
Fmocの除去、およびこの除去によって現れるアミノ酸のアミノ基へのFmocアミノ酸の結合を1サイクルとして、このサイクルを繰り返してペプチドを合成した。合成の最終的なサイクルの後、全てのペプチドのN末端と側鎖とを脱保護した。これにより、配列番号1〜15に示すアミノ酸配列からなるペプチドを得た。
【0129】
<酵素免疫法によるペプチドとアディポネクチンとの結合の測定>
酵素免疫法の1つであるサンドイッチ法を用いて、上述のようにして合成した各ペプチドとアディポネクチンとの結合を測定した。
【0130】
まず、セルロースメンブレンをエタノールに浸漬した。次いで、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)(pH7.4)でセルロースメンブレンを連続的に洗浄することによって、セルロースメンブレン中のエタノールをPBSに置換した。非特異的結合を阻害するために、ブロッキング溶液(1%の粉末状乳入りPBS)中でセルロースメンブレンを一晩インキュベートした。
【0131】
その後、セルロースメンブレンを、0.25μg/mLのヒトアディポネクチン(R&D Systems)入りブロッキング溶液(1%の粉末状乳入りPBS)と1時間インキュベートした。インキュベート後のセルロースメンブレンをPBST(0.1%(v/v)のTween 20入りPBS)で洗浄した。洗浄後のセルロースメンブレンを、0.25μg/mLのHRPが標識された抗ヒトアディポネクチン抗体(R&D Systems)を含むブロッキング溶液と1時間インキュベートし、再度PBSTで5回洗浄した。
【0132】
そして、1mMの過酸化水素を含む100μMの蛍光基質(Amplex Red(Invitrogen))を、セルロースメンブレンに添加し、10分間反応させた。蛍光イメージャー(GE Healthcare)を用いて、540nmの光で合成スポットにおける蛍光基質を励起して、この蛍光基質からの595nmの吸収波長を測定することによって、合成スポットの蛍光強度を決定した。ペプチドの結合強度は合成スポットの蛍光強度として算出した。
【0133】
[比較例1]
実施例1と同様の方法に従って、配列番号16に示すアミノ酸配列からなるペプチドを合成した。そして、合成したペプチドとアディポネクチンとの結合を実施例1と同様にして測定した。
【0134】
実施例1および比較例1に用いたペプチドのアミノ酸配列を一文字表記で表2に示す。
【0135】
【表2】

【0136】
[結果1]
実施例1および比較例1における測定の結果を図3に示す。配列番号1〜15に示すアミノ酸配列からなるペプチド(実施例1)は、配列番号16に示すアミノ酸配列からなるペプチド(比較例1)に比べて有意に高い蛍光強度を示した。よって、配列番号1〜15に示すアミノ酸配列からなるペプチドは、アディポネクチンに結合することが示された。
【0137】
[実施例2]
<マイクロプレートを用いた酵素免疫法によるペプチドとアディポネクチンとの結合の測定>
酵素免疫法を用いて、マイクロプレートに固定化されたアディポネクチンと、ビオチンを標識したペプチド(ビオチン標識ペプチド)との結合を以下のようにして測定した。
【0138】
まず、配列番号14、15に示すペプチドのC末端にリジンを付加したペプチドを作製した。次いで、作製したペプチドのリジン側鎖のアミノ基にビオチンを標識することによって、ビオチン標識ペプチドを作製した。
【0139】
96ウェルのマイクロプレートに、PBSで調製した5μg/mLのアディポネクチン(R&D Systems)を1ウェルにつき100μL加え、37℃で1時間インキュベートした。これにより、マイクロプレートのウェル内にアディポネクチンを固定化した。次に、非特異的結合を阻害するために、ブロッキング溶液(Protein-Free Blocking Buffer、PIERCE)を1ウェルにつき300μL加えて室温で2時間インキュベートした。インキュベート後に、ウェルをPBST(0.1%(v/v)Tween 20入りPBS)で3回洗浄した。1mMのビオチン標識ペプチドを1ウェルにつき100μL/加えて室温で1時間インキュベートした。インキュベート後にウェルを、再度PBSTで洗浄した。
【0140】
次に、ブロッキング溶液(Protein-Free Blocking Buffer、PIERCE)で200倍に希釈したHRP標識ストレプトアビジン(R&D Systems)を1ウェルにつき100μL加えて室温で1時間インキュベートした。インキュベート後に、ウェルをPBSTで洗浄した。そして、TMB(tetramethylbenzidine)を1ウェルにつき100μL加えて、20分間反応させた。次いで、1MのHClを1ウェルにつき100μL加えて反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Bio-Rad)を用い、450nmの吸光度を測定した。
【0141】
[比較例2]
実施例2と同様の方法によって、配列番号17に示すアミノ酸配列からなるペプチドとアディポネクチンとの結合を測定した。
【0142】
実施例2および比較例2に用いたペプチドのアミノ酸配列を一文字表記で表3に示す。
【0143】
【表3】

【0144】
[結果2]
実施例2および比較例2における測定の結果を図4に示す。配列番号14および15に示すアミノ酸配列からなるペプチド(実施例2)は、配列番号17に示すアミノ酸配列からなるペプチド(比較例2)に比べて有意に高い吸光度を示した。よって、配列番号14および15に示すアミノ酸配列からなるペプチドは、アディポネクチンに結合することが示された。
【0145】
[実施例3]
<アミノ酸が置換されたペプチドとアディポネクチンとの結合の測定>
上述の「(1)本発明に係るペプチド」に示した、アミノ酸を分類した群に基づいて、アミノ酸の保存的置換を行ったペプチドと、アディポネクチンとの結合を以下のようにして測定した。
【0146】
まず、配列番号8および9に示すアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号8のC末端のトリプトファンを同じ芳香環を持つチロシンに置換したペプチド(配列番号18に示すアミノ酸配列からなるペプチド)、ならびに配列番号9のN末端のアルギニンを同じ塩基性アミノ酸であるリジンに置換したペプチド(配列番号19に示すアミノ酸配列からなるペプチド)を実施例1と同様に合成した。
【0147】
次に、実施例1と同様の方法によって、合成した配列番号8、9、18および19に示すアミノ酸配列からなるペプチドと、アディポネクチンとの結合を測定した。
【0148】
実施例3に用いたペプチドのアミノ酸配列を一文字表記で表4に示す。
【0149】
【表4】

【0150】
[結果3]
実施例3における測定の結果を図5に示す。配列番号18、19に示すアミノ酸配列からなるペプチドは、配列番号8、9に示すアミノ酸配列からなるペプチドに比べて同程度の蛍光強度を示した。すなわち、配列番号18、19に示すアミノ酸配列からなるペプチドは、アディポネクチンに対する結合性を保持していた。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明に係るペプチドは、アディポネクチンの認識材料または分析試薬として用いることができる。よって、本発明は、生体サンプルを分析する分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0152】
1 分析装置
2 注入部
3 微細流路
4 排出部
5 固定化部
6 基板
7 分析手段
8 分析部
9 蓋
12 注入孔
14 排出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50個以下のアミノ酸からなり、かつアディポネクチンに対する結合性を有している、ペプチド。
【請求項2】
(i) 配列番号1〜15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含んでいる、ペプチド、あるいは
(ii) 配列番号1〜15のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸の置換または付加が生じているアミノ酸配列を含んでおり、かつアディポネクチンに対する結合性を有している、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
前記アミノ酸の置換が、
(a)アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンおよびグリシンからなる群、
(b)アスパラギン酸およびグルタミン酸からなる群、
(c)ヒスチジン、リシンおよびアルギニンからなる群、
(d)アラニン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、バリンおよびメチオニンからなる群、ならびに
(e)フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンからなる群
より選択される単一の群に含まれる2つのアミノ酸の間で生じている保存的置換である、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
配列番号1〜15、18および19のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなる、請求項2に記載のペプチド。
【請求項5】
リンカーを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項6】
標識されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項7】
前記標識は、生体関連分子の付加であることを特徴とする請求項6に記載のペプチド。
【請求項8】
前記生体関連分子は、酵素、ビオチンおよびアビジンからなる群より少なくとも1つ選択されることを特徴とする請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
前記標識は、蛍光化合物の付加であることを特徴とする請求項6に記載のペプチド。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種を用いることを特徴とするアディポネクチンを分析する方法。
【請求項11】
前記ペプチドの少なくとも1種とアディポネクチンとの複合体を分析する工程を包含していることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ペプチドの少なくとも1種をサンプルとインキュベートする工程をさらに包含している請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種が固定化されていることを特徴とする基材。
【請求項14】
請求項13に記載の基材を用いることを特徴とするアディポネクチンを分析する方法。
【請求項15】
前記基材上のペプチドとアディポネクチンとの複合体を分析する工程を包含していることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記基材をサンプルとインキュベートする工程をさらに包含していることを特徴とする請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
サンプルを受容するサンプル受容部を備えており、アディポネクチンを捕捉する捕捉部が該サンプル受容部の内部に設けられており、該捕捉部には、請求項1〜9のいずれか一項に記載のペプチドの少なくとも1種が固定化されていることを特徴とするアディポネクチン分析用装置。
【請求項18】
サンプルを受容するサンプル受容部を備えており、アディポネクチンを捕捉する捕捉部が該サンプル受容部の内部に設けられており、該捕捉部には、請求項13に記載の基材が配置されていることを特徴とするアディポネクチン分析用装置。
【請求項19】
前記サンプル受容部が流路を形成していることを特徴とする請求項17または18に記載の装置。
【請求項20】
捕捉されたアディポネクチンを分析する分析手段が、前記サンプル受容部の内部の分析部に向けてさらに備えられていることを特徴とする請求項17〜19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記分析部が前記捕捉部の下流であることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項22】
基板上に形成されたマイクロチャネル型であることを特徴とする請求項17〜21に記載の装置。
【請求項23】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチドをコードしていることを特徴とする遺伝子。
【請求項24】
請求項23に記載の遺伝子を含んでいることを特徴とする組換えベクター。
【請求項25】
請求項24に記載の組換えベクターを含んでいることを特徴とする形質転換体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−231069(P2011−231069A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104272(P2010−104272)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】