説明

アデノウィルス及び関連疾患の、局所投与による抗ウィルス治療法及び予防法

アデノウィルスに対する治療的及び予防的処置法。更に詳細には、CTC−96の抗ウィルス有効量を対象者に対し局所的に投与することによって、該対象者におけるアデノウィルスの治療的処置を実行する方法。更に、対象者におけるアデノウィルス感染に対する予防処置法であって、CTC−96の抗ウィルス有効量を、該対象者に対し局所的に予防投与することによって、該対象者がアデノウィルスによって感染される確率を抑えることによって実行する予防法。

【発明の詳細な説明】
【関連出願に対する相互参照】
【0001】
本出願は、2003年6月30日出願の米国特許仮出願第60/484,234号及び2004年6月30日出願の連番不明の特許出願の優先権を主張する。なお、上記特許文書を、参照することにより本出願に含める。
【背景技術】
【0002】
通常、アデノウィルスは、眼、呼吸及び消化管に感染するが、その他の器官、例えば、肝臓、膀胱、膵臓、中枢神経系その他にも感染する可能性がある。ヒト・アデノウィルスには、50を越える血清型があり、この内少なくとも24種が病原体と特定されている。アデノウィルスは、初期感染以後、特に免疫抑制患者では数ヶ月留まることが示されている。
【0003】
【表1】

【0004】
*下線で強調した血清型は、試験を行ったところCTC−96に感受性を持つことが示された。
【0005】
アデノウィルス関連性疾患の例
アデノウィルスは、その治療法が知られていない、眼の急性ウィルス疾患のもっとも普遍的な原因である。米国及び国際的にアデノウィルスによって引き起こされる流行性角結膜炎(EKC)の実際の蔓延率及び発生率は未知である。なぜなら、一般開業医や検眼士が大抵の症例を見ているのであるが、この感染は、多くの医学当局によって報告の必要無しとされているからである。EKCは伝染力が高く、流行病として起こる傾向がある。
【0006】
EKCは、一般的には1〜3週以内に寛解する自己抑制的疾患ではあるが、患者は、発症してから10〜14日以上高い感染性を持ち続けることがある(1)。EKCの症状としては、結膜の赤味、眼瞼の腫脹又は赤味、眼からの分泌液流出、両眼瞼の接着、眼の痛み又は不快、明光忌避、又は眼の異物感が挙げられる。重篤な症例では、症例の3分の1に膜様、又は擬似膜様結膜炎が見られ、これは、結膜の肉芽形成及び瞼球癒着形成(眼球結膜と眼瞼結膜との癒着)に至ることがある(2;3)。EKCにおいては、膜及び擬似膜の両方とも、瀰漫性で、微細な上層角膜炎から、上皮損傷、上皮下部の濁りに渡る、明瞭な角膜拡散を伴って現れる(2;3)。症例の20〜50%において、角膜の濁りは、数週から、数ヶ月、数年まで持続することがある(1;3)。この現象は、視力を著しく下げ、眩輝症状を招く(2)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在のところ、アデノウィルスに対する、特異的な、直接の抗ウィルス化学療法は無い。角膜の傷害を制限するためにコルチコステロイドを使用してもよいが、前述の副作用があるのみならず、ウィルスの完全除去を妨げる可能性がある。(3;4)
【課題を解決するための手段】
【0008】
我々は、ヒト・アデノウィルス治療において、特に、アデノウィルスによる角結膜炎の治療と予防目的のために、更には呼吸器病の治療において効果的な方法を発見した。それが治療目的のものであれ、予防目的のものであれ、アデノウィルスによる角結膜炎の治療は、局所投与によって実現することが可能である。呼吸器病の治療は、注入又は、鼻腔投与、即ち、噴霧又は鼻腔滴下によって実施してもよい。本明細書で用いる場合、「治療的処置」という表現は、既に病気に罹っている対象者に対する処置を意味する。本明細書で用いる「予防処置」という表現は、ウィルスに感染はされていないが、病気に罹りやすい、又は、病気に罹る可能性が高い状況にある、例えば、他の住人が既にその病気に感染している家庭にいる対象者に対する処置を意味する。我々はまた、インビトロにおいて、CTC−96が1、2、3、4、5、及び7型に対して効果があることを示し、かつ、表1に掲げたアデノウィルス性疾患に対するCTC−96の有効性を実証した。更に詳細には、我々は、化合物CTC−96の、抗アデノウィルス的な治療又は予防有効量を局所的に投与することによって、眼において、アデノウィルス性角結膜炎疾患の著しい低下を実現することが可能であることを発見した。
【0009】
本明細書で用いる場合、「治療的」という言葉は、既にアデノウィルスに感染している対象者を治療するために本発明の方法を用いることを意味する。本明細書で用いる場合、「予防的」という用語は、アデノウィルスに暴露される可能性のある対象者を、そのウィルスに対する感染から保護する、又は、そのウィルスに感染する確率を下げるために本発明の方法を用いることを意味する。
【0010】
化合物CTC−96は下記の構造を有する。
【0011】
【化1】

【0012】
ここで、R及びR1’はメチルであり、R及びR2’は水素であり、並びにR及びR3’はメチルであり、並びにX及びX’はそれぞれ
【0013】
【化2】

【0014】
であり、並びにQ’はBrである。
【0015】
CTC−96は、米国特許第5,756,491号に記載される方法によって調製してもよい。なお、この文書の内容を引用することにより本明細書に含める。
【0016】
一般に、この化合物は、水溶液として局所に投与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
我々は、アデノウィルス5型を用いて、ヒトのアデノウィルス感染をウサギの眼において再現することが可能であることを実証し、また、CTC−96を用いて優れた抗ウィルス活性と、結膜炎の治療を示した。これを、我々は独特と考える。なぜなら、このウィルス及び、眼の病理的現象に対する効果的な薬剤は無いからである。更に、我々は、組織培養でHeLa細胞において、アデノウィルス1、2、3、4、5、及び7型に対するCTC−96の効力を示した。上記のヒト・ウィルスは動物モデルでは育成されないものであるから、これは、アデノウィルスの広範な型に対するCTC−96の優れた効能を実証するものとなる。アデノウィルスのいくつかの血清型に対するCTC−96の効力を調べるために、下記の工程を実施した。
【0018】
1. 接種時Hela細胞は集密段階であった。
【0019】
2. 米国基準菌株保存機関(ATCC)由来、Ad1 Kmetz, Ad2 Wolf, Ad3 Holyfield, Ad4 Harris, Ad7a Josephのウィルス保存液(4 x 105 pfu/ml; 4 x 104/0.1 ml)の既知の濃度からウィルス希釈液を調製した。このウィルス接種は、約1.0の感染多重度(m.o.i.)でウィルス感染を実現した。
【0020】
3. 各Ad血清型100μlをHela細胞を含む培養物に接種した。
【0021】
4. 吸着期に500、250、100、50、10、及び0μg/mlのドキソビル濃度を希釈プロトコルに従って培養液にて調製した。
【0022】
5. ウィルスを37℃、5%CO・水蒸気雰囲気において1時間吸着させた。
【0023】
6. 吸着後、ウィルス接種体を全てのウェルから取り出し、各2ウェルに、500、250、100、50、10、及び0μg/ml濃度の1mlのドキソビルを上に重層した。
【0024】
7. プレートを37℃、5%CO・水蒸気雰囲気において24時間インキュベーションした。
【0025】
8. 24時間後、プレートを洗浄した。
【0026】
9. 各ウェルをドキソビル無添加の新鮮な組織培養液1mlで再び満たした。
【0027】
10. 細胞をウェルから掻き落とした。
【0028】
11. 次に、培養液及び細胞を−75℃に凍結させ力価評価に備えた。
【0029】
12. 各Ad血清型について、ドキソビル濃度及び薬剤無添加コントロールの二重サンプルを解凍し、力価評価を行った。
【0030】
13. ウィルス力価を各薬剤濃度において求めた。
【0031】
CTC−96は、抗ウィルス剤として相当の利点を有する。a)その独特の作用様式のために、CTC−96は、最近使用の薬剤に対して耐性を持つ、ヘルペス及びHIVウィルス突然変異株に対しても効果的である。b)本薬剤は、ヘルペスウィルスにおいて2種類の異なるウィルス標的に対して作用するので、CTC−96耐性突然変異株の発生は極めて稀と考えられること、及び、c)CTC−96は抗炎症性を持つので、本剤の使用は、ヘルペスウィルス及びアデノウィルス治療におけるステロイドの使用に取って代わることになる。ステロイドは、投与された部位の免疫反応を修飾し、病原体に対する組織の感受性を高める。
【0032】
効力実験
培養したアデノウィルス1、2、3、4、5、及び7型に対するCTC−96の効力
【0033】
CTC−96の抗アデノウィルス活性を、HeLa細胞、ヒト子宮頸ガン細胞系統(実験級アデノウィルスに対する通常の宿主)による標準細胞培養と、抗ウィルス・プラーク低下アッセイとによって評価した。CTC−96は、ウィルスを細胞感染前に薬物に暴露した場合、ウィルス成長に対して抑制(予防的)作用を持つ。
【0034】
図1は、アデノウィルス5型ウィルスにおいて、該ウィルスをHeLa細胞感染前にCTC−96に直接暴露した後の力価を示す。
【0035】
図1にグラフとして示したデータは下記のようにして得られた。各種濃度のCTC−96を、濃縮ヒト・アデノウィルス(アデノウィルス5型(Ad5))と混合し、37℃で60分インキュベートした。次に、分液を培養液にて500倍に希釈した。100μlの、この希釈試料にHela細胞を暴露して感染を誘発した。細胞単層を、37%、5%COにて24時間インキュベートし、次に、洗浄、掻き落とし、超音波破壊、遠心し、上清を連続希釈した。これら連続希釈液を、インディケータHeLa細胞単層の上にプレートし、60分間吸着させ、吸引し、メチルセルロース重層を細胞上にプレートし、次に細胞を37%で3日間インキュベートした。培養物を、1%メチレンブルーでカウンタ染色し、乾燥させ、プラークをカウントした。結果は、平均±SD(誤差バーが見えない場合、それらはデータ点内部に含まれる)で表す。
【0036】
CTC−96はまた、アデノウィルス感染細胞を、その後で該薬剤に暴露した場合ウィルス成長が抑制されることから見て取れるように、治療効果を持つ可能性がある。図2は、ヒト・アデノウィルス5型(Ad5)感染HeLa細胞をCTC−96に暴露した後に得られたウィルス力価を示す。これらのデータは下記のようにして得られた。アデノウィルスは、HeLa細胞単層に対して37%で60分間吸着させ、その上に、CTC−96の連続希釈液を単層に重層した。次に、単層を、37℃、5%COにて24時間インキュベートした。次に単層を洗浄、掻き落とし、超音波破壊、遠心し、上清を連続希釈した。これら連続希釈液を、インディケータHeLa細胞単層の上にプレートし、60分間吸着させ、吸引し、メチルセルロース重層を細胞上にプレートし、次に細胞を37%で3日間インキュベートした。培養物を、1%メチレンブルーでカウンタ染色し、乾燥させ、プラークをカウントした。結果は、平均±SD(誤差バーが見えない場合、それらはデータ点内部に含まれる)で表す。
【0037】
ヒト・アデノウィルス、アデノウィルス5型(Ad5)によって感染させたウサギ眼球の、3種類のCTC−96治療/投与処方による臨床結果、及び、プラークアッセイによるウィルス力価とを評価した。「1日目」に、我々の作製した、角結膜炎誘発のための結膜・角膜肉芽形成用プロトコルに従って、10pfuのアデノウィルスを導入することによって動物をヒト・アデノウィルス5型に感染させた。接種後8日目までに全ての動物において臨床的結膜炎が観察された。次に、動物を無作為にグループ分けし、下記の実験グループに、二重盲検試験においてCTC−96又はプラシーボを投薬した。
(1) プラシーボ(希釈液のみ)、1日9回、21日間(ウサギ4匹)
(2) CTC−96、50μg/ml、1日9回、21日間(ウサギ4匹)
(3) CTC−96、50μg/ml、1日6回、21日間(ウサギ4匹)
(4) CTW、25μg/ml、1日6回、21日間(ウサギ4匹)
【0038】
臨床的な病状進行と寛解を、最初の薬剤投与後1、3、7、10、13、18、21、24、28、及び31日目にスリットランプ顕微鏡観察によって評価した。角膜炎の重度は、臨床等級システム(5)を用いて定量した。
【0039】
25μg/ml及び50μg/mlの投与は、病気の重度の進行を阻止した。50μg/mlを1日6回又は9回投与21日間投与は、21日目までに臨床病状の完全寛解をもたらし、一方、プラシーボ治療動物は更に10日間症状を示し続けた。
【0040】
アデノウィルス誘発による角結膜炎の、CTC−96による治療の結果を図3に示す。図3のデータは下記のようにして得られた。我々の作製した、角結膜炎誘発のための結膜・角膜肉芽形成用プロトコルに従って、10pfuのアデノウィルスを導入することによってウサギをヒト・アデノウィルス5型に感染させた。接種後8日目に、CTC−96又はプラシーボを含む点眼薬による治療を開始した。基質の角膜炎について調べ、Wander等(5)の角膜疾患スケールに従って点数評価した。下記は、「結膜炎定量基準」である。
【0041】
結膜患部の面積 結膜炎の重度
0:正常角膜 0:正常結膜
+1:患部≦25% +1:軽度の結膜感染
+2:患部>25%,≦50% +2:中度の結膜感染/結膜水腫
+3:患部>50%、≦75% +3:重度の結膜感染/結膜水腫
+4:患部>75%、≦100% +4:擬似膜有り
【0042】
ヒト・アデノウィルス、アデノウィルス5型に感染させたウサギ眼球に対するCTC−96治療の効力について、HeLa細胞集密的単層に対して、涙液フィルム培養物を吸着させ、その後培養体からアデノウィルスを回収することによって評価した。50μg/mlのCTC−96を1日当たり6又は9回投与することによって、眼球に存在するウィルスの数は急激に減少し、13日目迄にはウィルスは検出されなくなったが、一方、プラシーボで治療した眼球では24日目までずっとウィルスが検出された。図4は、ウサギの眼をCTC−96又はプラシーボで治療した後のアデノウィルスの力価を示す。これらのデータは下記の処理手順によって得られたものである。我々の作製した、角結膜炎誘発のための結膜・角膜肉芽形成用プロトコルに従って、10pfuのアデノウィルスを導入することによってウサギをヒト・アデノウィルス5型に感染させた。接種後8日目に、CTC−96又はプラシーボを含む点眼薬による治療を開始した。涙液フィルムからのアデノウィルスの回収は、HeLa細胞の集密的単層におけるプラークアッセイによって評価した。データは、平均±SDで表す。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、細胞感染前にCTC−96暴露させた後のヒト・アデノウィルスの力価のグラフである。
【図2】図2は、ヒト・アデノウィルス感染細胞をCTC−96に暴露させた後のウィルス力価のグラフである。
【図3】図3は、アデノウィルスによって誘発された角結膜炎に対する、CTC−96による治療効果を示すグラフである。
【図4】図4は、アデノウィルスに感染したウサギ眼球に対する、CTC−96による治療後の、アデノウィルス力価を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノウィルスに感染した対象者の治療的処置法であって、CTC−96の抗アデノウィルス有効量を該対象者に投与することを含む治療法。
【請求項2】
前記アデノウィルス感染症は、アデノウィルス由来の角結膜炎である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記CTC−96は局所的に投与される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記アデノウィルス感染症は呼吸器感染症である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記CTC−96は鼻腔を通じて投与される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記CTC−96は、鼻腔噴霧又は点鼻によって投与される、請求項4記載の方法。
【請求項7】
アデノウィルスによる感染に対して感受性を持つ対象者の予防的処置法であって、CTC−96の、抗アデノウィルス予防有効量を該対象者に投与することを含む予防法。
【請求項8】
前記対象者が感受性を持つ感染症は角結膜炎である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記CTC−96は局所的に投与される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記対象者が感受性を持つ感染症は呼吸器感染症である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記CTC−96は鼻腔を通じて投与される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記CTC−96は、鼻腔噴霧又は点鼻によって投与される、請求項10記載の方法。
【請求項13】
アデノウィルスによって感染された対象者の治療的又は予防的処置法であって、CTC−96の抗アデノウィルス有効量を該対象者に対して投与することを含み、疾患は、急性発熱性咽頭炎、急性呼吸器病、急性出血性膀胱炎、流行性角結膜炎、胃腸炎、肝炎、髄膜脳炎、百日咳様症候群、咽頭結膜熱、小児肺炎、及び成人肺炎からなるグループから選ばれることを特徴とする、治療又は予防法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2007−530412(P2007−530412A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517826(P2006−517826)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/021218
【国際公開番号】WO2005/004817
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(505454306)レドックス ファーマスーティカル コーポレーション オーデュボン バイオメディカル サイエンス アンド テクノロジー パーク (2)
【Fターム(参考)】