説明

アニリン誘導体、並びに、これを用いる試料中の定量すべき成分の定量方法、定量用試薬及び定量用キット

【課題】試料中のビリルビンの影響、及び、試薬液等に共存するアジ化ナトリウム等のアジ化物による影響を受けにくい酸化発色剤等として有用なアニリン誘導体又はその塩を提供することにある。
【解決手段】下記の一般式(I)


(式中、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rはアミド置換アルキル基を表し、Rは水素原子又はフッ素原子を表し、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子、アルキル基又はアルコキシル基を表す)で表されるアニリン誘導体又はその塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニリン誘導体又はその塩、並びに、これを用いる試料中の定量すべき成分の定量方法、定量用試薬及び定量用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
疾病を診断するため、例えば血液、血漿、尿等の生体試料中に含まれる、種々の生体成分、例えばグルコース、総コレステロール、尿酸等の生体成分が定量されている。これら生体成分の定量方法としては、例えばオキシダーゼを用いて、試料中の生体成分を直接又は間接的に過酸化水素に変換し、ペルオキシダーゼ等の過酸化活性物質の存在下、生成した過酸化水素を酸化発色剤と反応させて色素を生成させ、生成した色素を光学的に測定することにより試料中に含まれる生体成分を定量する酵素学的定量方法があげられる。
【0003】
オキシダーゼにより生成した過酸化水素を過酸化活性物質の存在下に色素に変換する際に使用される酸化発色剤としては、例えばロイコ型発色試薬やカップリング型発色試薬等が知られている。ロイコ型発色試薬はそれ自体が酸化されて色素を生成する発色試薬である。カップリング型発色試薬は、2成分が酸化縮合反応して色素を生成する発色試薬であり、2つの成分を、別々の試薬容器中に含有させて保存できることから、定量用キットに汎用されている。カップリング型発色試薬における2つの成分は、4−アミノアンチピリン等のカップラーと、フェノール誘導体又はアニリン誘導体である。
【0004】
生成した色素の水溶液中での安定性が高い誘導体としては、N−スルホアルキルアニリン誘導体が報告されている(特許文献1参照)。また、高感度で長波長側の吸収極大を有する誘導体としては、p−フルオロアニリン誘導体が報告されている(特許文献2参照)。
しかしながら、酸化発色剤を用いた色素の形成反応は、試料中に含まれるビリルビンなどの還元性物質の影響を受けやすいという問題点が存在する。還元性物質の影響を回避する方法としては、例えば、過剰の4−アミノアンチピリンを添加する方法、フェロシアン化カリウムを添加する方法等が知られている。
【0005】
更に、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン ナトリウム(略名:HDAOS)、N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(略名:HDAPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(略名:DAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(略名:DAPS)等の3,5−ジアルコキシアニリン誘導体がビリルビンの影響を受けにくいことが報告されている(特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、これらのアニリン誘導体においては、酵素反応停止剤又は防腐剤等の目的で使用されるアジ化ナトリウムにより着色し、正確な測定ができない場合がある。アニリン誘導体であるN−(2−カルボキシエチル)−N−エチル−3−メトキシアニリンは、この影響を受けにくいことが報告されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特公昭57-27106号公報
【特許文献2】特開平5−262716号公報
【特許文献3】特開平10−165198号公報
【特許文献4】特開2000−319238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、試料中のビリルビンによる影響、及び、試薬液等に共存するアジ化ナトリウム等のアジ化物による影響を受けにくい酸化発色剤等として有用なアニリン誘導体又はその塩、並びに、これを用いる試料中の定量すべき成分の定量方法、定量用試薬及び定量用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記[1]〜[15]に関する。
[1] 下記の一般式(I)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Rは水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、Rはアミド置換アルキル基を表し、Rは水素原子又はフッ素原子を表し、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換のアルコキシル基を表し、ここで、R、R、R及びRからなる群より選ばれる少なくとも1つの基は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、残りの基のうち少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルコキシル基を表す)で表されるアニリン誘導体又はその塩。
【0011】
[2] R及びRの少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルコキシル基であり、R及びRの少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルキル基である、[1]に記載のアニリン誘導体又はその塩。
[3] Rが、置換若しくは非置換のアルコキシル基であり、Rが置換若しくは非置換のアルキル基である、[1]又は[2]に記載のアニリン誘導体又はその塩。
【0012】
[4] アミド置換アルキル基が、2−アミドエチル基である、[1]〜[3]のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩。
[5] 2−アミドエチル基が、2−(サクシニルアミノ)エチル基である、[4]に記載のアニリン誘導体又はその塩。
[6] Rが、水素原子である[1]〜[5]のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩。
【0013】
[7] 試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換し、又は、試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させ、過酸化活性物質の存在下、該過酸化水素を、[1]〜[6]のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩、及び、カップラーと反応させ、生成する色素を測定することを特徴とする試料中の定量すべき成分の定量方法。
【0014】
[8] カップラーが、4−アミノアンチピリンである、[7]記載の定量方法。
[9] 過酸化活性物質が、ペルオキシダーゼである、[7]又は[8]記載の定量方法。
[10] [1]〜[6]のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩、カップラー、過酸化活性物質、及び、試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換する試薬又は試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させる試薬を含有することを特徴とする試料中の定量すべき成分の定量用試薬。
【0015】
[11] カップラーが、4−アミノアンチピリンである[10]記載の定量用試薬。
[12]過酸化活性物質が、ペルオキシダーゼである[10]又は[11]記載の定量用試薬。
[13] 第1試薬及び第2試薬を含有する、試料中の定量すべき成分の定量用キットであって、[1]〜[6]のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩が第1試薬に含有され、カップラーが第2試薬に含有され、過酸化活性物質、及び、試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換する試薬又は試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させる試薬が、それぞれ第1試薬、第2試薬のいずれか又は両方に含有されることを特徴とする定量用キット。
【0016】
[14] カップラーが、4−アミノアンチピリンである[13]記載の定量用キット。
[15] 過酸化活性物質が、ペルオキシダーゼである[13]又は[14]記載の定量用キット。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、試料中のビリルビンによる影響、及び、アジ化ナトリウム等のアジ化物を含有する試薬による影響を受けにくい酸化発色剤等として有用なアニリン誘導体又はその塩、並びに、これを用いる試料中の定量すべき成分の定量方法、定量試薬及び定量用キットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のアニリン誘導体又はその塩は、下記の一般式(I)
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、Rは水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、Rはアミド置換アルキル基を表し、Rは水素原子又はフッ素原子を表し、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換のアルコキシル基を表し、ここで、少なくともR、R、R及びRからなる群より選ばれる二つの基は、置換若しくは非置換のアルキル基及び置換若しくは非置換のアルコキシル基を表す)で表されるアニリン誘導体又はその塩である。以下、一般式(I)で表されるアニリン誘導体又はその塩を、化合物(I)と称する。
【0021】
置換若しくは非置換のアルキル基及び置換若しくは非置換のアルコキシル基におけるアルキル基としては、例えば直鎖又は分岐状の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、3−メチル−1−ブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチル−1−プロピル基、1−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、4−メチル−1−ペンチル基、3,3−ジメチル−1−ブチル基、1,1−ジメチル−1−ブチル基等があげられる。
【0022】
置換アルキル基及び置換アルコキシル基における置換基としては、同一又は異なって、例えば置換数1〜3の、水酸基、アルコキシル基、アシルオキシ基、置換若しくは非置換のアミノ基、アミド基、アシル基、エステル基、カルボキシル基、シアノ基、シリル基等があげられる。置換アミノ基における置換基としては、例えば前述のアルキル基等があげられ、置換アミノ基がジアルキル置換アミノ基である場合、該2つのアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
アミド置換アルキル基としては、例えば2−アミドエチル基、3−アミドプロピル基、2−アミドプロピル基、4−アミドブチル基、2−アミドブチル基、3−アミドブチル基等があげられるが、2−アミドエチル基が好ましい。2−アミドエチル基としては、例えば2−アセトアミドエチル基、2−マロニルアミノエチル基、2−サクシニルアミノエチル基等があげられるが、水溶性官能基を有する2−マロニルアミノエチル基、2−サクシニルアミノエチル基等が好ましく、2−サクシニルアミノエチル基等がより好ましい。
【0024】
、R、R及びRからなる群より選ばれる少なくとも1つの基は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、残りの基のうち1つは置換若しくは非置換のアルコキシル基を表す。R、R、R及びRの組み合わせとしては、例えば第1表に示す組み合わせがあげられる。
【0025】
【表1】

【0026】
上記の組み合わせの中でも、R及びR(R及びR)の少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルコキシル基であり、かつ、R及びR(R及びR)の少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルキル基である組み合わせ(第1表で、番号1及び4以外の組み合わせ)が好ましい。また、R(R)が、置換若しくは非置換のアルコキシル基であり、かつ、R(R)が置換若しくは非置換のアルキル基である組み合わせ(第1表で、番号2、7、10、14、17、20、21、23及び24の組み合わせ)がより好ましい。さらに、R、R、R及びRが、それぞれ、置換若しくは非置換のアルコキシル基、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、水素原子である組み合わせ(第1表で、番号2の組み合わせ)が特に好ましい。
【0027】
塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、フマール酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩等の酸付加塩、例えばトリエチルアミン塩等の有機アミン付加塩、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の金属塩、アンモニウム塩等があげられる。
本発明の化合物(I)の具体例としては、N−[2−(サクシニルアミノ)エチル]−2−メトキシ−5−メチルアニリン(MASE)、N−エチル−N−[2−(サクシニルアミノ)エチル]−2−メトキシ−5−メチルアニリン(Et−MASE)等があげられる。
【0028】
本発明の化合物(I)は、実施例1、実施例2に記載の方法又は当該実施例に準じた方法により、製造することができる。すなわち、置換若しくは非置換のアルキル基及び置換若しくは非置換のアルコキシル基がベンゼン環上に置換された4位無置換若しくはフッ素置換アニリン(例えば、市販品)、又は、置換若しくは非置換のアルキル基及び置換若しくは非置換のアルコキシル基がベンゼン環上に置換された4位無置換若しくはフッ素置換N−アルキルアニリンを原料とし、アミド基含有アルキルハライドとの反応により、アニリン窒素原子上にアミド基含有アルキル基を1つ導入し、N−(アミド置換アルキル)アニリン化合物、又は、N−アルキル−N−(アミド置換アルキル)アニリン化合物を合成することができる。置換若しくは非置換のアルキル基及び置換若しくは非置換のアルコキシル基がベンゼン環上に置換された4位無置換若しくはフッ素置換N−アルキルアニリンは、置換若しくは非置換のアルキル基及び置換若しくは非置換のアルコキシル基がベンゼン環上に置換された4位無置換若しくはフッ素置換アニリンとアルキルハライドとの反応により、または、当該アニリンを(1)アニリン窒素のアシル化、(2)N−アシルアニリン窒素のアルキル化、(3)脱アシル化により得ることができる。
【0029】
アニリン窒素原子上へのアミド基含有アルキル基導入反応は、例えば、無溶媒又は有機溶媒中で行うことができる。有機溶媒は、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン等であるが、これに限定されない。反応温度は、例えば室温〜150℃であり、反応時間は、例えば10分〜20時間であるがこれに限定されない。
【0030】
アニリン窒素のアシル化は、N,N−無置換アニリン化合物とアシルハライド若しくは酸無水物とを、無溶媒又は有機溶媒中、塩基存在下で反応させることにより行うことができる。有機溶媒は、例えばジクロロメタン、クロロホルム等であるが、これに限定されない。アシルハライドは、例えばアセチルハライド、トリフルオロアセチルハライド等であるが、これに限定されない。酸無水物は、例えば無水酢酸、トリフルオロ酢酸無水物等であるが、これに限定されない。塩基は、例えばピリジン、トリエチルアミン、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等であるが、これに限定されない。反応温度は、例えば−78℃〜150℃であり、反応時間は、例えば10分〜20時間であるがこれに限定されない。
【0031】
N−アシルアニリン窒素のアルキル化は、上記反応で得たN−アシルアニリン化合物をアルキルハライドと、無溶媒又は有機溶媒中、塩基存在下で反応させることにより行うことができる。有機溶媒は、例えばアセトン、ジクロロメタン、クロロホルム等であるが、これに限定されない。塩基は、例えばピリジン、トリエチルアミン、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等であるが、これに限定されない。反応温度は、例えば−78℃〜150℃であり、反応時間は、例えば10分〜20時間であるがこれに限定されない。
【0032】
脱アシル化は、上記で得られたN−アシル−N−アルキルアニリン化合物に、無溶媒又は有機溶媒中、酸又は塩基を作用させることにより行うことができる。有機溶媒は、例えばメタノール、エタノール、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド等であるが、これに限定されない。酸は、例えば塩酸、臭化水素酸等であるが、これに限定されない。塩基は、例えばピリジン、トリエチルアミン、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等であるが、これに限定されない。反応温度は、例えば−78℃〜150℃であり、反応時間は、例えば10分〜20時間であるがこれに限定されない。
【0033】
本発明の試料中の定量すべき成分の定量方法は、試料中の定量すべき成分から直接又は間接的に過酸化水素を生成させ、生成する過酸化水素を、過酸化活性物質の存在下、化合物(I)及びカップラーと反応させ、生成する色素を測定することを特徴とする。
本定量方法における反応は、例えば10〜50℃で、好ましくは20〜40℃で、1〜60分間、好ましくは2〜30分間行う。化合物(I)の濃度は、0.05〜20mmol/Lが好ましく、0.1〜5mmol/Lがより好ましい。カップラーの濃度は、0.05〜20mmol/Lが好ましく、0.1〜5mmol/Lがより好ましい。また、過酸化活性物質の濃度は、過酸化活性物質としてペルオキシダーゼを使用する場合、1〜100kU/Lが好ましく、2〜50kU/Lがより好ましい。
【0034】
色素の定量は、例えば反応液の特定波長での吸光度を分光光度計により測定することにより行うことができる。
本発明の定量すべき成分の定量方法において使用される試料としては、例えばヒト又は動物の血液、血清、血漿、尿、精液、髄液、唾液、汗、涙、腹水、羊水等の体液、ヒト若しくは動物の膵臓、肝臓等の臓器、毛髪、皮膚、爪、筋肉、又は神経組織等の抽出液、ヒト若しくは動物の糞便の抽出液又は懸濁液、細胞の抽出液、植物の抽出液等があげられる。
【0035】
本発明における過酸化活性物質としては、例えばペルオキシダーゼ、モノフェノールモノオキシダーゼ等のペルオキシダーゼ様活性を持つ酵素類、ペルオキシダーゼ様活性を持つ金属錯体等があげられ、ペルオキシダーゼ様活性を持つ酵素類が好ましく、中でも、ペルオキシダーゼが好ましい。
本発明におけるカップラーとしては、例えば4−アミノアンチピリン又はその誘導体、フェニレンジアミン誘導体、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)等があげられるが、4−アミノアンチピリンが好ましい。
【0036】
本発明を用いて定量できる成分としては、酵素反応により直接若しくは間接的に過酸化水素に変換される成分、又は、酵素反応により直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させる成分であれば、特に制限はない。
酵素反応により直接過酸化水素に変換される成分としては、例えば1つの酵素反応により過酸化水素に変換されるようなオキシダーゼの基質等が挙げられる。本発明における、試料中の定量すべき成分を直接、過酸化水素に変換する試薬としては、例えば該オキシダーゼを含有する試薬等が挙げられる。
【0037】
酵素反応により間接的に過酸化水素に変換される成分としては、例えば2つ以上の酵素反応により過酸化水素に変換されるような酵素の基質等が挙げられる。本発明における、試料中の定量すべき成分を間接的に過酸化水素に変換する試薬としては、例えば該基質と反応する酵素、該基質が変換されて生成する物質を対応するオキシダーゼが存在する物質へ変換する酵素又は酵素とその基質、及び、該オキシダーゼを含有する試薬等が挙げられる。
【0038】
酵素反応により直接過酸化水素を生成させる成分としては、例えば1つの反応により過酸化水素を生成させるようなオキシダーゼ等が挙げられる。本発明における、試料中の成分から直接過酸化水素を生成させる試薬としては、例えば該オキシダーゼの基質を含有する試薬等が挙げられる。
酵素反応により間接的に過酸化水素を生成させる成分としては、例えば2つ以上の反応により過酸化水素を生成させるような酵素等が挙げられる。本発明における、試料中の成分から間接的に過酸化水素を生成させる試薬としては、例えば該酵素の基質、該酵素と該基質との反応により生成する物質を対応するオキシダーゼが存在する物質へ変換する酵素又は酵素とその基質、及び、該オキシダーゼを含有する試薬等が挙げられる。
【0039】
酵素反応により直接過酸化水素に変換される成分としては、例えばコリン、尿酸、グルコース、ピルビン酸、乳酸、グリセロール、ザルコシン、アシルCoA、キサンチン、フルクトシルアミノ酸、L−アスパラギン酸、遊離型コレステロール、高密度リポタンパク(HDL)中の遊離型コレステロール(HDL−FC)、低密度リポタンパク(LDL)中の遊離型コレステロール(LDL−FC)、超低密度リポタンパク(VLDL)中の遊離型コレステロール(VLDL−FC)、中間密度リポタンパク(IDL)中の遊離型リポタンパク(IDL−FC)、レムナントリポタンパク中の遊離型コレステロール、スモールデンス(small-dense)低密度リポタンパク(sdLDL)中の遊離型コレステロール(sdLDL−FC)等のオキシダーゼの基質が挙げられる。
【0040】
酵素反応により間接的に過酸化水素に変換される成分としては、例えばクレアチニン、クレアチン、シアル酸、総コレステロール(全てのリポタンパク中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:TC)、エステル型コレステロール、HDL中のコレステロール(HDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:HDL−C)、HDL中のエステル型コレステロール(HDL−EC)、LDL中のコレステロール(LDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:LDL−C)、LDL中のエステル型コレステロール(LDL−EC)、VLDL中のコレステロール(VLDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:VLDL−C)、VLDL中のエステル型コレステロール(VLDL−EC)、IDL中のコレステロール(IDL中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの:IDL−C)、IDL中のエステル型コレステロール(IDL−EC)、レムナントリポタンパク中のコレステロール、レムナントリポタンパク中のエステル型コレステロール、sdLDL中のコレステロール(sdLDL−C)、sdLDL中のエステル型コレステロール(sdLDL−EC)、トリグリセライド、L−アスパラギン酸、デンプン、マルトース、リン脂質、遊離脂肪酸、無機リン酸、グリコアルブミン、HbA1c等が挙げられる。
【0041】
酵素反応により直接過酸化水素を生成させる成分としては、例えばコリンオキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ(ウリカーゼ)、グルコースオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、グリセロールオキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、アシルCoAオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ポリアミンオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ等の各種オキシダーゼが挙げられる。
【0042】
酵素反応により間接的に過酸化水素を生成させる成分としては、例えばコリンエステラーゼ、グアナーゼ、γ−GOT,γ−GTP、N−アセチルグルコサミニダーゼ、ピルビン酸キナーゼ等が挙げられる。
定量すべき成分が、オキシダーゼが作用する基質の場合は、該基質と該基質のオキシダーゼとの反応により過酸化水素を生成させることにより、該基質を直接過酸化水素に変換することができる。
【0043】
定量すべき成分がオキシダーゼの場合は、該オキシダーゼの基質と該オキシダーゼとの反応により、該オキシダーゼから直接過酸化水素を生成させることができる。
定量すべき成分が、オキシダーゼが作用する基質でない場合には、該基質と、該基質と反応する酵素との反応により生成した物質を、対応するオキシダーゼが存在する物質へ変換した後、該対応するオキシダーゼが存在する物質と該オキシダーゼとの反応により過酸化水素を生成させることにより、該基質を間接的に過酸化水素に変換することができる。
【0044】
定量すべき成分がオキシダーゼ以外の酵素の場合は、該酵素と、該酵素の基質との反応により生成した物質を、対応するオキシダーゼが存在する物質へ変換した後、該対応するオキシダーゼが存在する物質と該オキシダーゼとの反応により過酸化水素を生成させることにより、該酵素から間接的に過酸化水素を生成させることができる。
試料中の定量すべき成分と、試料中の定量すべき成分を直接、過酸化水素に変換する試薬との組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせを挙げることができる。
・コリン:コリンオキシダーゼを含有する試薬
・尿酸:ウリカーゼを含有する試薬
・グルコース:グルコースオキシダーゼを含有する試薬
・ピルビン酸:ピルビン酸オキシダーゼ、及び、無機リンを含有する試薬
・乳酸:乳酸オキシダーゼを含有する試薬
・グリセロール:グリセロールオキシダーゼを含有する試薬
・ザルコシン:ザルコシンオキシダーゼを含有する試薬
・アシルCoA:アシルCoAオキシダーゼを含有する試薬
・キサンチン:キサンチンオキシダーゼを含有する試薬
・フルクトシルアミノ酸:フルクトシルアミノ酸オキシダーゼを含有する試薬
・L−アスパラギン酸:L−アスパラギン酸オキシダーゼ
・遊離型コレステロール:コレステロールオキシダーゼを含有する試薬
・各種リポタンパク中の遊離型コレステロール:コレステロールオキシダーゼを含有する試薬
なお、各種リポタンパクとは、HDL、LDL、VLDL、IDL、レムナントリポタンパク、sdLDL等をいう。以下、同様である。
【0045】
試料中の定量すべき成分と、試料中の定量すべき成分から直接、過酸化水素を生成させる試薬との組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせを挙げることができる。
・コリンオキシダーゼ:コリンを含有する試薬
・尿酸オキシダーゼ(ウリカーゼ):尿酸を含有する試薬
・グルコースオキシダーゼ:グルコースを含有する試薬
・ピルビン酸オキシダーゼ:ピルビン酸、及び、無機リンを含有する試薬
・乳酸オキシダーゼ:乳酸を含有する試薬
・グリセロールオキシダーゼ:グリセロールを含有する試薬
・ザルコシンオキシダーゼ:ザルコシンを含有する試薬
・アシルCoAオキシダーゼ:アシルCoAを含有する試薬
・キサンチンオキシダーゼ:キサンチンを含有する試薬
・フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ:フルクトシルアミノ酸を含有する試薬
・モノアミンオキシダーゼ:アリルアミンを含有する試薬
・ポリアミンオキシダーゼ:ポリアミンを含有する試薬
・コレステロールオキシダーゼ:遊離型コレステロールを含有する試薬
・コレステロールオキシダーゼ:各種リポタンパク中の遊離型コレステロールを含有する試薬
試料中の定量すべき成分と、試料中の定量すべき成分を間接的に過酸化水素に変換する試薬との組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせを挙げることができる。
・クレアチニン:クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、及び、ザルコシンオキシダーゼを含有する試薬
・クレアチン:クレアチナーゼ、及び、ザルコシンオキシダーゼを含有する試薬
・シアル酸:ノイラミニダーゼ、N−アセチルノイラミン酸アルドラーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、及び、無機リンを含有する試薬
・総コレステロール(全てのリポタンパク中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの):コレステロールエステラーゼ、及び、コレステロールオキシダーゼを含有する試薬
・各種リポタンパク中のコレステロール(各種リポタンパク中の遊離型コレステロールとエステル型コレステロールとを合わせたもの):コレステロールエステラーゼ、及び、コレステロールオキシダーゼを含有する試薬
・総エステル型コレステロール(全てのリポタンパク中のエステル型コレステロール):コレステロールエステラーゼ、及び、コレステロールオキシダーゼを含有する試薬
・各種リポタンパク中のエステル型コレステロール:コレステロールエステラーゼ、及び、コレステロールオキシダーゼを含有する試薬
・総トリグリセライド:リポプロテインリパーゼ、グリセロールキナーゼ、及び、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼを含有する試薬
・各種リポタンパク中のトリグリセライド:リポプロテインリパーゼ、グリセロールキナーゼ、及び、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼを含有する試薬
・総トリグリセライド:リポプロテインリパーゼ、及び、グリセロールオキシダーゼを含有する試薬
・各種リポタンパク中のトリグリセライド:リポプロテインリパーゼ、及び、グリセロールオキシダーゼを含有する試薬
・デンプン:アミラーゼ、及び、グルコースオキシダーゼを含有する試薬
・マルトース:アミラーゼ、及び、グルコースオキシダーゼを含有する試薬
・リン脂質:ホスホリパーゼD、及び、コリンオキシダーゼを含有する試薬
・遊離脂肪酸:アシルCoAシンテターゼ、及び、アシルCoAオキシダーゼを含有する試薬
・無機リン酸:イノシン、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、及び、キサンチンオキシダーゼを含有する試薬
・グリコアルブミン:プロテアーゼ、及び、ケトアミンオキシダーゼを含有する試薬
・HbA1c:プロテアーゼ、及び、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ若しくはフルクトシルペプチドオキシダーゼを含有する試薬
試料中の定量すべき成分と、試料中の定量すべき成分から間接的に過酸化水素を生成させる試薬との組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせを挙げることができる。
・コリンエステラーゼ:2,4−ジメトキシベンゾイルコリン、及び、コリンオキシダーゼを含有する試薬
・グアナーゼ:グアニン、キサンチンオキシダーゼ、及び、ウリカーゼを含有する試薬
・γ-GOP:L−アスパラギン酸、α−ケトグルタル酸、オキザロ酢酸脱炭酸酵素、ピルビン酸オキシダーゼ、及び、無機リンを含有する試薬
・γ-GTP:L−アラニン、α−ケトグルタル酸、ピルビン酸オキシダーゼ、及び、無機リンを含有する試薬
・N−アセチルグルコサミニダーゼ:p−ニトロフェニル−N−アセチルグルコサミニド、及び、N−アセチルグルコサミンオキシダーゼを含有する試薬
・ピルビン酸キナーゼ:ホスホエノールピルビン酸、ADP、及び、ピルビン酸オキシダーゼを含有する試薬
本発明の、試料中の定量すべき成分の定量用試薬は、化合物(I)、カップラー、過酸化活性物質、並びに、試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換する試薬又は試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させる試薬を含有することを特徴とする。
【0046】
本発明の定量用試薬は、キットの形態で保存、流通及び使用されてもよい。キットの形態としては特に制限は無く2試薬系、3試薬系等があげられるが、2試薬系が好ましい。
第1試薬と第2試薬とからなる2試薬系の定量用キットにおいては、化合物(I)とカップラーとは別々の容器に収納されたキットの形態が好ましい。すなわち、化合物(I)が第1試薬に含有される場合には、カップラーは第2試薬に含有され、化合物(I)が第2試薬に含有される場合には、カップラーは第1試薬に含有される形態が好ましい。
【0047】
試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換する試薬又は試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させる試薬は、第1試薬、第2試薬のいずれか又は両方に含有されてよい。過酸化活性物質は、第1試薬、第2試薬のいずれか又は両方に含有されてよい。
本発明の定量用試薬及び定量キットにおけるカップラー、試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換する試薬又は試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させる試薬、並びに、過酸化活性物質としては、それぞれ、前述のカップラー、前述の試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換する試薬又は試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させる試薬、並びに、前述の過酸化活性物質が挙げられる。
【0048】
本発明の試薬及びキットは、凍結乾燥された状態、予め水性媒体に溶解された状態、試験片、フィルム状等いかなる形態で提供されていてもよい。凍結乾燥された状態の試薬及びキットは、本発明の試料中の定量すべき成分の定量に際して、水性媒体に溶解されて使用される。
本発明の試薬及びキットには、必要に応じて、水性媒体、安定化剤、防腐剤、干渉物質消去剤、反応促進剤、界面活性剤等が含有されてもよい。水性媒体としては、例えば脱イオン水、蒸留水、緩衝液等があげられるが、緩衝液が好ましい。緩衝液のpHとしては、pH4.0〜10.0であり、pH6.0〜8.0が好ましい。緩衝液に用いる緩衝剤としては、例えばリン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、グッドの緩衝剤等があげられる。
【0049】
グッドの緩衝剤としては、例えば2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis−Tris)、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−モルホリノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、N−〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、2−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕エタンスルホン酸(HEPES)、3−〔N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ〕−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、N−〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)(POPSO)、3−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HEPPSO)、3−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕プロパンスルホン酸〔(H)EPPS〕、N−〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕グリシン(Tricine)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)、N−シクロヘキシル−3−アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CAPSO)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)等があげられる。
【0050】
緩衝液の濃度は測定に適した濃度であれば特に制限はされないが、0.001〜2.0mol/Lが好ましく、0.005〜1.0mol/Lがより好ましい。
安定化剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、シュークロース、塩化カルシウム、フェロシアン化カリウム、牛血清アルブミン(BSA)等があげられる。防腐剤としては、例えばアジ化ナトリウム、抗生物質等があげられる。干渉物質消去剤としては、例えばアスコルビン酸の影響を消去するためのアスコルビン酸オキシダーゼ等があげられる。反応促進剤としては、例えばコリパーゼ、ホスホリパーゼ等の酵素、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、等の塩類があげられる。界面活性剤としては、例えば非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等があげられる。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレン(POE)系界面活性剤等が挙げられる。
【0051】
本発明の化合物(I)は、これまで述べてきたように、試料中の定量すべき成分の定量に使用され得るが、本酵素学的定量法以外にも、例えばペルオキシダーゼを標識として用いた標識化抗体を利用した酵素免疫測定法や、血清中のヘモグロビンを過酸化水素若しくは過ヨウ素酸ナトリウムのような酸化性物質を用いて測定する場合等にも用いることができる。
【0052】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。
尚、本実施例、比較及び試験例においては、下記メーカーの試薬及び酵素を使用した。
PIPES(同仁化学研究所社製)、HEPES(BDH ラボラトリー社製)、4−アミノアンチピリン(埼京化成社製)、EMSE{N−エチル−N−[2−(サクシニルアミノ)エチル]−3−メチルアニリン;ダイトーケミックス社製}、DOSE{N−[2−(サクシニルアミノ)エチル]−3,5−ジメトキシアニリン ナトリウム;ダイトーケミックス社製}、HDAOS[N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン ナトリウム;同仁化学研究所社製]、ATP・二ナトリウム塩(協和発酵工業社製)、硫酸ナトリウム(関東化学社製)、カチオンBB(ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド;日本油脂社製)、デキストラン硫酸ナトリウム(分子量50万)(ファルマシア社製)、ウシ血清アルブミン(BSA;プロライアント社製)、フェロシアン化カリウム(関東化学社製)、アジ化ナトリウム(和光純薬工業社製)、エマルゲン709(POE高級アルコールエーテル;花王社製)、トリトンDF−16(POEオクチルフェニルエーテル;シグマ社製)、アデカトールPC−8(特殊フェノールエトキシレート;旭電化工業社製)、エマルゲンA−60(POEジスチレン化フェニルエーテル;花王社製)、エマルゲンA−90(POEジスチレン化フェニルエーテル;花王社製)、BLAUNON L205(POEラウリルアミン;青木油脂社製)、ペルオキシダーゼ(東洋紡績社製)、アスコルビン酸オキシダーゼ(旭化成社製)、リポプロテインリパーゼ(東洋紡社製)、グリセロールキナーゼ(東洋紡績社製)、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ(東洋紡績社製)、EST“Amano”2(コレステロールエステラーゼ;天野エンザイム社製)、CHO−PEL(コレステロールオキシダーゼ;キッコーマン社製)。
【実施例1】
【0053】
MASEの合成
(1)N−{2−[N−(2−メトキシ−5−メチルフェニル)アミノ]エチル}フタルイミド
2−メトキシ−5−メチルアニリン(25g;0.18mol;東京化成工業社製)のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(100mL;東京化成工業社製)に、炭酸カリウム(37.8g;0.274mol;和光純薬工業社製)及びN−(2−ブロモエチル)フタルイミド(46.3g;0.182mol;東京化成工業社製)を加え、溶液を約110℃で2.5時間加熱した。反応後、溶液を室温にまで放冷後、反応液を氷水に注ぎ、全体物を酢酸エチルで抽出した。得られた抽出液を無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)で乾燥後、硫酸ナトリウムをろ過により除去し、ろ液を減圧下で留去し、N−{2−[N−(2−メトキシ−5−メチルフェニル)アミノ]エチル}フタルイミドを含有する残渣(57g)を得た。
(2)N−(2−アミノエチル)−2−メトキシ−5−メチルアニリン
(1)で得た反応混合物(57g)をエタノール(100mL;和光純薬工業社製)に溶解し、ヒドラジン・1水和物(9.12g;0.182mol)を加え、混合液を約80℃で2時間加熱した。反応後、溶液を室温にまで放冷後、反応液を氷水に注ぎ、5mol/Lの塩酸(200mL)を注ぎ、全体物を酢酸エチルで抽出した。抽出後の水層を氷冷後、5mol/Lの水酸化ナトリウム(250mL)をゆっくりと添加した。添加後、全体物をジエチルエーテルで抽出し、得られた抽出液を飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄した。ジエチルエーテル抽出液を無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)で乾燥後、硫酸ナトリウムをろ過により除去し、ろ液を減圧下で留去し、N−(2−アミノエチル)−2−メトキシ−5−メチルアニリンを含有する残渣(30g)を得た。
(3)N−[2−(サクシニルアミノ)エチル]−2−メトキシ−5−メチルアニリン(MASE)
(2)で得た反応混合物(30g)をジクロロメタン(100mL;和光純薬工業社製)に溶解し、無水コハク酸(16.6g;0.166mol;東京化成工業社製)を添加し、混合液を約60℃で2時間過熱した。反応後、溶液を室温にまで放冷後、反応液を氷水に注ぎ、そこへ、5mol/Lの水酸化ナトリウム(200mL)を添加し、全体物をジクロロメタンで抽出した。抽出後の水層を氷冷し、5mol/Lの塩酸(250mL)をゆっくり注ぎ、全体物をジエチルエーテルで抽出した。抽出後のジエチルエーテル溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄した。ジエチルエーテル抽出液を無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)で乾燥後、硫酸ナトリウムをろ過により除去し、ろ液を減圧下で留去し、N−[(2−サクシニルアミノ)エチル]−2−メトキシ−5−メチルアニリン(MASE)(40g;0.143mol;通算収率78%)を無色アメ状物質として得た。
【0054】
H−NMR(300MHz;CDCl)δ:2.25(3H,s),2.49(1H,dd,J=6.5,6.5 Hz),2.69(1H,dd,J=6.5,6.5 Hz),3.30(1H,dd,J=6,6 Hz),3.52(1H,ddd,J=6,6,5.5 Hz),3.81(3H,s),6.13(1H,br s),6.46(1H,d,J=1 Hz),6.49(1H,dd,J=8,1 Hz),6.67(1H,d,J=8 Hz),6.75(1H,br s).
【実施例2】
【0055】
Et−MASEの合成
(1)2−メトキシ−5−メチルトリフルオロアセトアニリド
約−20℃に冷却した2−メトキシ−5−メチルアニリン(25g;0.18mol;東京化成工業社製)のピリジン溶液(50mL;東京化成工業社製)に、無水トリフルオロ酢酸(50mL;0.36mol)を滴下し、混合物を室温(25℃)にて2時間攪拌した。反応混合液を氷水にゆっくりと注いだ後、全体物をジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル抽出液を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ過により除去し、ろ液を減圧下で留去し、2−メトキシ−5−メチルトリフルオロアセトアニリドを含有する残渣(45g)を得た。
(2)1−[(N−エチル−N−トリフルオロアセチル)アミノ]−2−メトキシ−5−メチルベンゼン
(1)で得た2−メトキシ−5−メチルトリフルオロアセトアニリドを含有する残渣(45g)をアセトン(100mL;和光純薬工業社製)に溶解し、炭酸カリウム(37.8g;0.274mol;和光純薬工業社製)及びヨードエタン(30mL;0.37mol;東京化成工業社製)を加え、溶液を約110℃で2時間加熱した。反応後、溶液を室温にまで放冷後、反応液を氷水に注ぎ、全体物を酢酸エチルで抽出した。得られた抽出液を無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)で乾燥後、硫酸ナトリウムをろ過により除去し、ろ液を減圧下で留去し、1−[(N−エチル−N−トリフルオロアセチル)アミノ]−2−メトキシ−5−メチルベンゼンを含有する残渣(48g)を得た。
(3)2−メトキシ−5−メチル−N−エチルアニリン
(2)で得た1−[(N−エチル−N−トリフルオロアセチル)アミノ]−2−メトキシ−5−メチルベンゼンを含有する残渣(48g)をメタノール(100mL;和光純薬工業社製)に溶解し、炭酸カリウム(63g;0.46mol;和光純薬工業社製)を加え、溶液を室温(25℃)で5時間攪拌した。反応後、反応液を氷水に注ぎ、全体物をジエチルエーテルで抽出した。得られた抽出液を無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)で乾燥後、硫酸ナトリウムをろ過により除去し、ろ液を減圧下で留去し、2−メトキシ−5−メチル−N−エチルアニリンを含有する残渣(32g)を得た。この残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(酢酸エチル:n−ヘキサン=10:1)で精製し、2−メトキシ−5−メチル−N−エチルアニリン(28g;収率93%)を淡黄オイル状物質として得た。
(4)N−{2−[N−エチル−N−(2−メトキシ−5−メチルフェニル)アミノ]エチル}フタルイミド
(3)で得た2−メトキシ−5−メチル−N−エチルアニリン(28g;0.17mol)のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(100mL;東京化成工業社製)に、炭酸カリウム(35.1g;0.254mol;和光純薬工業社製)及びN−(2−ブロモエチル)フタルイミド(43.1g;0.170mol;東京化成工業社製)を加え、溶液を約110℃で2.5時間加熱した。反応後、溶液を室温にまで放冷後、反応液を氷水に注ぎ、全体物を酢酸エチルで抽出した。得られた抽出液を無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)で乾燥後、硫酸ナトリウムをろ過により除去し、ろ液を減圧下で留去し、N−{2−[N−エチル−N−(2−メトキシ−5−メチルフェニル)アミノ]エチル}フタルイミドを含有する残渣(58g)を得た。
(5)N−(2−アミノエチル)−N−エチル−2−メトキシ−5−メチルアニリン
(4)で得た反応混合物(58g)をエタノール(100mL;和光純薬工業社製)に溶解し、ヒドラジン・1水和物(8.5g;0.17mol)を加え、混合液を約80℃で2時間加熱した。反応後、溶液を室温にまで放冷後、反応液を氷水に注ぎ、5mol/Lの塩酸(200mL)を注ぎ、全体物を酢酸エチルで抽出した。抽出後の水層を氷冷後、5mol/Lの水酸化ナトリウム(250mL)をゆっくりと添加した。添加後、全体物をジエチルエーテルで抽出し、得られた抽出液を飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄した。ジエチルエーテル抽出液を無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)で乾燥後、硫酸ナトリウムをろ過により除去し、ろ液を減圧下で留去し、N−(2−アミノエチル)−N−エチル−2−メトキシ−5−メチルアニリンを含有する残渣(30g)を得た。
(6)N−エチル−N−[2−(サクシニルアミノ)エチル]−2−メトキシ−5−メチルアニリン(Et−MASE)
(5)で得た反応混合物(30g)をジクロロメタン(100mL;和光純薬工業社製)に溶解し、無水コハク酸(14.4g;0.144mol;東京化成工業社製)を添加し、混合液を約60℃で2時間過熱した。反応後、溶液を室温にまで放冷後、反応液を氷水に注ぎ、そこへ、5mol/Lの水酸化ナトリウム(200mL)を添加し、全体物をジクロロメタンで抽出した。抽出後の水層を氷冷し、5mol/Lの塩酸(250mL)をゆっくり注ぎ、全体物をジエチルエーテルで抽出した。抽出後のジエチルエーテル溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順に洗浄した。ジエチルエーテル抽出液を無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)で乾燥後、硫酸ナトリウムをろ過により除去し、ろ液を減圧下で留去し、N−エチル−N−[(2−サクシニルアミノ)エチル]−2−メトキシ−5−メチルアニリン(Et−MASE)[40 g;0.13 mol;(4)〜(6)の通算収率77%]を無色アメ状物質として得た。
【0056】
H−NMR(300MHz;CDCl)δ:0.99(3H,t,J=7 Hz),2.27(3H,s),2.48〜2.58(2H),2.62〜2.71(2H),3.07(2H,q,J=7 Hz),3.12(2H,t,J=6 Hz),3.31(2H,dt,J=4,6 Hz),6.78(1H,d,J=8 Hz),6.87(1H,dd,J=8,2 Hz),6.88(1H,d,J=2 Hz).
【実施例3】
【0057】
総トリグリセライド定量用キット
以下の第1試薬(試薬A)及び第2試薬(試薬a)からなる総トリグリセライド測定用キットを調製した。
第1試薬(試薬A)
PIPES(pH6.25) 50 mmol/L
MASE 0.3 g/L
ATP・二ナトリウム塩 2.5 g/L
グリセロールキナーゼ 1 kU/L
グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ 8 kU/L
アスコルビン酸オキシダーゼ 3 kU/L
エマルゲン709 0.1%
トリトンDF−16 0.067%
アデカトールPC−8 0.1%
第2試薬(試薬a)
PIPES(pH6.25) 10 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.5 g/L
ペルオキシダーゼ 20 kU/L
リポプロテインリパーゼ 1 kU/L
エマルゲンA−60 0.30%
エマルゲンA−90 0.35%
比較例1
以下の第1試薬(試薬B)及び第2試薬(試薬a)からなる総トリグリセライド測定用キットを調製した。
第1試薬(試薬B)
PIPES(pH6.25) 50 mmol/L
EMSE 0.3 g/L
ATP・二ナトリウム塩 2.5 g/L
グリセロールキナーゼ 1 kU/L
グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ 8 kU/L
アスコルビン酸オキシダーゼ 3 kU/L
エマルゲン709 0.1%
トリトンDF−16 0.067%
アデカトールPC−8 0.1%
第2試薬(試薬a)
PIPES(pH6.25) 10 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.5 g/L
ペルオキシダーゼ 20 kU/L
リポプロテインリパーゼ 1 kU/L
エマルゲンA−60 0.30%
エマルゲンA−90 0.35%
比較例2
以下の第1試薬(試薬C)及び第2試薬(試薬a)からなる総トリグリセライド測定用キットを調製した。
第1試薬(試薬C)
PIPES(pH6.25) 50 mmol/L
DOSE 0.3 g/L
ATP・二ナトリウム塩 2.5 g/L
グリセロールキナーゼ 1 kU/L
グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ 8 kU/L
アスコルビン酸オキシダーゼ 3 kU/L
エマルゲン709 0.1%
トリトンDF−16 0.067%
アデカトールPC−8 0.1%
第2試薬(試薬a)
PIPES(pH6.25) 10 mmol/L
4−アミノアンチピリン 0.5 g/L
ペルオキシダーゼ 20 kU/L
リポプロテインリパーゼ 1 kU/L
エマルゲンA−60 0.30%
エマルゲンA−90 0.35%
【実施例4】
【0058】
試料中の総トリグリセライドの定量
実施例3のキットを用いて、以下の手順により試料中の総トリグリセライドを定量した。
(1)検量線の作成
標準液として、生理食塩水(総トリグリセライド濃度:0.0mg/dL)及び血清(総トリグリセライド:228.0mg/dL)を用いて、実施例3のキットを用いて、日立7170S形自動分析装置により測定し、総トリグリセライド濃度と「吸光度」との間の関係を示す検量線を作成した。
【0059】
ここでの「吸光度」とは、以下の反応で測定された2つの吸光度(E1及びE2)を基に、E2からE1を差し引くことにより得られた値を表す。
反応セルへ標準液(2.5μL)と第1試薬(0.15mL)とを添加し37℃で5分間加温し、反応液の吸光度(E1)を主波長600nm、副波長700nmで測定し、次いで、この反応液に第2試薬(0.05mL)を添加しさらに37℃で5分間加温し、反応液の吸光度(E2)を主波長600nm、副波長700nmで測定した。
(2)ヒト血清検体における「吸光度」の測定
(1)の検量線の作成において用いた標準液の代わりにヒト血清検体(50検体)を用いる以外は(1)の「吸光度」の算出方法と同様の方法により、それぞれの検体に対して、「吸光度」を測定した。
(3)ヒト血清検体中の総トリグリセライド濃度の決定
(2)で測定した「吸光度」と、(1)で作成した検量線とから、各検体中の総トリグリセライド濃度を決定した。
【0060】
(2)の測定で使用したヒト血清検体(50検体)中の総トリグリセライド濃度を、総トリグリセライド定量用キットであるデタミナーL TGII(協和メデックス社製)を用いて同様に決定した。実施例3のキットを用いた測定における値とデタミナーL TGIIを用いた測定における値との間の相関を図1に示す。図1より明らかなように、実施例3のキットを用いることにより、ヒト血清検体中の総トリグリセライドを正確に定量できることが判明した。
【実施例5】
【0061】
HDL−C定量用キット
以下の第1試薬(試薬D)及び第2試薬(試薬b)からなるHDL−C測定用キットを調製した。
第1試薬(試薬D)
HEPES(pH7.6) 50 mmol/L
BSA 2 g/L
硫酸ナトリウム 5 g/L
デキストラン硫酸ナトリウム 1 g/L
カチオンBB 0.12 g/L
ペルオキシダーゼ 10 kU/L
MASE 0.3 g/L
第2試薬(試薬b)
MES(pH6.7) 50 mmol/L
BLAUNON L205 0.16 g/L
4−アミノアンチピリン 0.3 g/L
フェロシアン化カリウム 0.03 g/L
ペルオキシダーゼ 20 kU/L
CHO−PEL 1 kU/L
EST“Amano”2 100 kU/L
BSA 2 g/L
比較例3
以下の第1試薬(試薬E)及び第2試薬(試薬b)からなるHDL−C測定用キットを調製した。
第1試薬(試薬E)
HEPES(pH7.6) 50 mmol/L
BSA 2 g/L
硫酸ナトリウム 5 g/L
デキストラン硫酸ナトリウム 1 g/L
カチオンBB 0.12 g/L
ペルオキシダーゼ 10 kU/L
EMSE 0.3 g/L
第2試薬(試薬b)
MES(pH6.7) 50 mmol/L
BLAUNON L205 0.16 g/L
4−アミノアンチピリン 0.3 g/L
フェロシアン化カリウム 0.03 g/L
ペルオキシダーゼ 20 kU/L
CHO−PEL 1 kU/L
EST“Amano”2 100 kU/L
BSA 2 g/L
【実施例6】
【0062】
試料中のHDL−Cの定量
実施例5のキットを用いて、以下の手順により試料中のHDL−Cを定量した。
(1)検量線の作成
標準液として、生理食塩水(HDL−C:0mg/dL)及び血清(HDL−C:78.0mg/dL)を、実施例5のキットを用いて、日立7170S形自動分析装置により、HDL−C濃度と「吸光度」との間の関係を示す検量線を作成した。
【0063】
ここでの「吸光度」とは、以下の反応で測定された2つの吸光度(E1及びE2)を基に、E2からE1を差し引くことにより得られた値を表す。
反応セルへ標準液(2.0μL)と第1試薬(0.15mL)とを添加し37℃で5分間加温し、反応液の吸光度(E1)を主波長540nm、副波長700nmで測定し、次いで、この反応液に第2試薬(0.05mL)を添加しさらに37℃で5分間加温し、反応液の吸光度(E2)を主波長540nm、副波長700nmで測定した。
(2)ヒト血清検体における「吸光度」の測定
(1)の検量線の作成において用いた標準液の代わりにヒト血清検体(40検体)を用いる以外は(1)の「吸光度」の算出方法と同様の方法により、それぞれの検体に対して、「吸光度」を測定した。
(3)ヒト血清検体中のHDL−C濃度の決定
(2)で測定した「吸光度」と、(1)で作成した検量線とから、各検体中のHDL−C濃度を決定した。
【0064】
(2)の測定で使用したヒト血清検体(40検体)中のHDL−C濃度を、HDL−C定量用キットであるデタミナーL HDL−C K(協和メデックス社製)を用いて同様に決定した。(2)で決定した各検体中のHDL−C濃度とデタミナーL HDL−C Kを用いた測定により決定した各検体中のHDL−C濃度との間の相関を図2に示す。図2から明らかなように、両測定間で良好な相関関係が認められ、従って、実施例5のキットを用いることにより、検体中のHDL−Cを定量できることが判明した。
試験例1 ビリルビンの影響
実施例3及び比較例1のキットを用いて、以下の手順により、色原体によるビリルビンの影響抑制効果の相違を比較、検討した。
(1)ビリルビン添加試料の調製
ヒト血清(8mL)に、ビリルビン濃度が200mg/dLの干渉チェックA・ビリルビンC(国際試薬社製)(2mL)を混合し、ビリルビン添加試料(ビリルビンC:40mg/dL)を調製した。
(2)対照試料の調製
(1)で用いたヒト血清(8mL)と純水(2mL)とを混合して、対照試料を調製した。
(3)ビリルビンの影響
定量キットとして、実施例3及び比較例1のキットを用いて、検体として、(1)のビリルビン添加試料及び(2)の対照試料を用いて、実施例4に記載の方法と同様の方法により、それぞれの検体中の総トリグリセライド濃度を決定した。その結果を第2表に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
第2表から明らかなように、被酸化性発色試薬としてMASEを用いたキット(実施例3)においては、被酸化性発色試薬としてEMSEを用いたキット(比較例1)に比較して、ビリルビンの影響を受け難いことが判明した。
試験例2 アジ化ナトリウムに起因する試薬の着色
アジ化水素の発生源であるアジ化ナトリウム含有試薬及び本発明の測定キットの組み合わせにおける、気化して発生するアジ化水素の溶け込みによる測定試薬の発色、劣化の程度を確認した。
(1)アジ化ナトリウム含有試薬の調製
以下の成分からなるアジ化ナトリウム含有溶液を調製した。
【0067】
HEPES(pH7.0) 50 mmol/L
アジ化ナトリウム 0.5 g/L
(2)試薬の保存
実施例3で調製した試薬A及び比較例2で調製した試薬Cを、それぞれ試料カップ(自動分析機使用)に分注し、(1)で調製したアジ化ナトリウム含有試薬を底面に散布したフリージングラックに静置した状態で、ポリ袋(26.0mm×16.5mm;チャック付き)に入れ、チャックを閉めて密封し、10℃にて10日間保存した。なお、各試料カップの口に栓はしなかった。
(3)保存試薬の安定性の判定
保存開始時及び保存10日後に、試薬A及び試薬Cが発色しているか否かを試薬の吸収スペクトルを測定して判定した。
【0068】
試薬の吸収スペクトルの測定は、日立製作所社製U−3000分光光度計にて行い、実施例3の試薬A或いは比較例2の試薬C(3mL)を測光用キュベットに入れて測定した。測定波長は350nmから800nmまでの範囲であり、アジ化物による試薬の着色の色調から、500nmにおける吸光度を比較した。なお、それぞれ、アジ化ナトリウム含有試薬の無い状態で保存した試薬を吸光スペクトル測定の対照として用いた。
(4)安定性の判定結果
アジ化ナトリウム含有試薬の無い状態で保存した各試薬を対照として、アジ化ナトリウム含有試薬の存在下で保存した各試薬の500nmにおける吸光度を測定した結果を第3表に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
第3表より、比較例2の試薬Cは、保存10日後にして既に着色しているのに対して、本発明の化合物(I)を含有する実施例3の試薬Aは、保存10日後も着色が認められなかった。
以上から、本発明の化合物(I)を含有する定量用試薬では、アジ化ナトリウム含有試薬から気化して発生するアジ化水素が本発明の測定試薬に溶け込んでも試薬の劣化を防ぐことが出来ることが示された。
試験例3 ビリルビンの影響
実施例5及び比較例3のキットを用いて、以下の手順により、色原体によるビリルビンの影響抑制効果の相違を比較、検討した。
(1)ビリルビン添加試料の調製
ヒト血清(7mL)に、ビリルビン濃度が200mg/dLの干渉チェックA・ビリルビンC(国際試薬社製)(3mL)を混合し、ビリルビン添加試料(ビリルビンC:60mg/dL)を調製した。
(2)対照用試料の調製
(1)で用いたヒト血清(7mL)と純水(3mL)とを混合して、対照試料を調製した。
(3)ビリルビンの影響
定量キットとして、実施例5及び比較例3のキットを用いて、検体として、(1)のビリルビン添加試料及び(2)の対照試料を用いて、実施例6に記載の方法と同様の方法により、それぞれの検体中のHDL−C濃度を決定した。ただし、比較例3のキットを用いた測定においては、測定波長の主波長を600nmとした。その結果を第4表に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
第4表から明らかなように、被酸化性発色試薬としてMASEを用いたキット(実施例5)においては、被酸化性発色試薬としてEMSEを用いたキット(比較例3)に比較して、ビリルビンの影響を受け難いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明により、臨床診断分野において有用な新規アニリン誘導体又はその塩、試料中の定量すべき成分の定量用方法、定量試薬及び定量用キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例3のキットを用いた定量と、デタミナーL TGII(協和メデックス社製)を用いた定量との相関関係を示す図である。
【図2】実施例5のキットを用いた定量と、デタミナーL HDL−C K(協和メデックス社製)を用いた定量との相関関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)
【化1】

(式中、Rは水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、Rはアミド置換アルキル基を表し、Rは水素原子又はフッ素原子を表し、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換のアルコキシル基を表し、ここで、R、R、R及びRからなる群より選ばれる少なくとも1つの基は置換若しくは非置換のアルキル基を表し、残りの基のうち少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルコキシル基を表す)で表されるアニリン誘導体又はその塩。
【請求項2】
及びRの少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルコキシル基であり、R及びRの少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルキル基である、請求項1記載のアニリン誘導体又はその塩。
【請求項3】
が、置換若しくは非置換のアルコキシル基であり、Rが置換若しくは非置換のアルキル基である、請求項1又は2記載のアニリン誘導体又はその塩。
【請求項4】
アミド置換アルキル基が、2−アミドエチル基である、請求項1〜3のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩。
【請求項5】
2−アミドエチル基が、2−(サクシニルアミノ)エチル基である、請求項4記載のアニリン誘導体又はその塩。
【請求項6】
が、水素原子である請求項1〜5のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩。
【請求項7】
試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換し、又は、試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させ、過酸化活性物質の存在下、該過酸化水素を、請求項1〜6のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩、及び、カップラーと反応させ、生成する色素を測定することを特徴とする試料中の定量すべき成分の定量方法。
【請求項8】
カップラーが、4−アミノアンチピリンである、請求項7記載の定量方法。
【請求項9】
過酸化活性物質が、ペルオキシダーゼである、請求項7又は8記載の定量方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩、カップラー、過酸化活性物質、及び、試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換する試薬又は試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させる試薬を含有することを特徴とする試料中の定量すべき成分の定量用試薬。
【請求項11】
カップラーが、4−アミノアンチピリンである請求項10記載の定量用試薬。
【請求項12】
過酸化活性物質が、ペルオキシダーゼである請求項10又は11記載の定量用試薬。
【請求項13】
第1試薬及び第2試薬を含有する試料中の定量すべき成分の定量用キットであって、請求項1〜6のいずれかに記載のアニリン誘導体又はその塩が第1試薬に含有され、カップラーが第2試薬に含有され、過酸化活性物質、及び、試料中の定量すべき成分を直接若しくは間接的に過酸化水素に変換する試薬又は試料中の定量すべき成分から直接若しくは間接的に過酸化水素を生成させる試薬が、それぞれ第1試薬、第2試薬のいずれか又は両方に含有されることを特徴とする定量用キット。
【請求項14】
カップラーが、4−アミノアンチピリンである請求項13記載の定量用キット。
【請求項15】
過酸化活性物質が、ペルオキシダーゼである請求項13又は14に記載の定量用キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−37862(P2008−37862A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177575(P2007−177575)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000162478)協和メデックス株式会社 (42)
【Fターム(参考)】