説明

アノーサイトを含有する焼成物の製造方法。

【課題】 セメント混合材や、モルタル、コンクリート等の製造時の細骨材として有用なアノーサイト(CaO・Al・2SiO)を含有する焼成物を、別途のCa源を用いず、石炭灰のみから製造する。
【解決手段】 石炭灰として、950℃での強熱後の残分が、酸化物換算でSiOを34〜63質量%、Alを22〜42質量%、CaOを10〜35質量%含む石炭灰、特に好ましくはSiOを40〜55質量%、Alを27〜37質量%、CaOを15〜23質量%の石炭灰を用い、これを1000〜1400℃で0.5〜10時間程度焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCaO・Al・2SiOを20質量%以上含有する焼成物を得るため製造方法に関する。詳しくは、石炭灰のみを原料としてアノーサイト(CaO・Al・2SiO)を20質量%以上含有する焼成物を得る製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境問題と関連して、廃棄物、副産物等の有効利用は重要な課題となっている。セメント産業、セメント製造設備の特徴を生かし、セメント製造時に原料や燃料として廃棄物を有効利用あるいは処理を行うことは、安全かつ大量処分が可能という観点から有効とされている。
【0003】
廃棄物、副産物等の中で、石炭灰、都市ごみ焼却灰、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ等、特に石炭灰は、通常のセメントクリンカー組成に比べ、Al含有量が多い。そのためこのような廃棄物、副産物等の使用量を増加させた場合、セメントクリンカー成分のうち間隙相に当たる3CaO・Al含有量が増加することになり、セメント物性に影響が生じる。従って、セメント製造での廃棄物、副産物等の利用量は、Al成分の量により制約を受け、多量に使用できないという問題がある。
【0004】
そのようななか、上記石炭灰を主成分とし、Caを含む原料を副成分としてCaO・Al・2SiO(アノーサイト)を含有する焼成物を製造し、該焼成物をセメント混合材や細骨材とする技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4494743号公報
【特許文献2】特許第4456832号公報
【特許文献3】特開昭58−92490号公報、第4頁、第2表
【特許文献4】特開昭62―13490号公報、第3頁、表1
【特許文献5】特開平8−1127号公報、第3頁、表1
【特許文献6】特公昭62−19494号公報、第6頁左欄
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本化学会編、「石炭と石油」、第9版、大日本図書株式会社、昭和40年8月15日、p.57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的な石炭灰の構成成分の比率をアノーサイトと比較すると、Al及びSiOの割合が高い一方で、CaOの割合が低い(特許文献3〜5参照)。そのため通常は、石炭灰に対してCa含有原料を混合して焼成しなければアノーサイトを主に含む焼成物を得ることができず、ムライトを主に含む焼成物を生じてしまう。
【0008】
Ca含有原料としては石灰石が使用されることが多いが、より高度の環境問題対策として、原料の全てを副産物・廃棄物とすることが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。そして、石炭灰のなかにはCaOの割合が比較的高いものがある(特許文献6、非特許文献1参照)ことに着目し、このような石炭灰であれば、別途石灰石等のCa源を用いずともアノーサイトを含む焼成物を得られるのではないかと考え、さらに検討を進めた結果、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、950℃での強熱後の残分が、酸化物換算でSiOを34〜63質量%、Alを22〜42質量%、CaOを10〜35質量%含む石炭灰を、単独で、1000〜1400℃の温度で焼成する、アノーサイト(CaO・Al・2SiO)を20質量%以上含有する焼成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、廃棄物のみを原料として、セメント混合材や細骨材として有用なアノーサイトを20質量%以上含有する焼成物を得ることができる。従って、従来技術に比べてより多量の廃棄物処理が可能となり、環境問題対応策として高度な方法である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の製造方法においては、その成分として、950℃での強熱後の残分が、酸化物換算でSiOを34〜63質量%、Alを22〜42質量%、CaOを10〜35質量%含む石炭灰を用いる。この範囲を外れると、焼成してもアノーサイトが全く生じなかったり、生成量が微量であったりしてセメント混合材や細骨材として適当な物性を有さないものとなってしまう。
【0013】
ここで、950℃での強熱後の残分(以下、「強熱残分」と記す)とするのは、石炭灰が含む水分や未燃カーボン等を除去し、1000〜1400℃の温度で焼成した場合の化学組成に、より正確に反映させるためである。即ち、石炭灰によっては、上記水分や未燃カーボンが殆ど含まれていないものから、30wt%近く含むものまである。そのため、これらを除いた化学組成でなくては、十分にアノーサイトを生じさせる組成か否かを決定することはできない。
【0014】
よりアノーサイト含有量の高い焼成物を得るために、強熱残分がSiOを34〜63質量%、Alを22〜42質量%、CaOを12〜28質量%の石炭灰を用いることが好ましく、SiOを40〜55質量%、Alを27〜37質量%、CaOを15〜23質量%の石炭灰を用いることがより好ましい。
【0015】
またガラス相を少なくし、よりアノーサイトの生成量を高くするために、石炭灰としては、強熱残分中のアルカリ含有量(NaO+KO)が2.0質量%以下、特に、1.5質量%以下のものを用いることが好ましい。
【0016】
また同じくアノーサイトの生成割合を高くするという観点から、SiO、Al及びCaO以外の金属元素としては、強熱残分中にその合計が酸化物換算で15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0017】
なお石炭灰は、元の石炭の産地等により化学組成が異なる。そのため、強熱残分の化学組成が上記範囲に入っているか否かについては、各々の石炭灰をJI R5202「ポルトランドセメントの化学分析法」やJI R5204「セメントの蛍光X線分析法」などに準拠した方法により測定、確認すればよい。また、950℃での強熱は、JIS R5202中の「5.強熱減量の定量方法」に準じて行う。
【0018】
また本発明における石炭灰は、単一の排出元(例えば、火力発電所)や石炭産地の石炭灰を用いる必要はなく、異なる排出元や石炭産地の石炭灰を適宜混合し、上記組成範囲に入るように調製して用いることも可能である。
【0019】
本発明において、上記石炭灰の焼成温度は1000℃以上である。焼成温度が1000℃未満の場合には、アノーサイトの生成が不十分となる。より好ましい焼成温度は1150℃以上である。また焼成温度が1400℃を上回る場合には、原料が溶融、ガラス化するため、アノーサイトの結晶化が困難となる。従って焼成時の最高温度は1400℃以下であり、1350℃以下が好ましい。
焼成時間は、焼成温度にもよるが、一般的には0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間である。
【0020】
焼成方法は特に限定されず、上記温度を得られる装置であれば特に限定されないが、既存のポルトランドセメント製造設備を使用できるという観点からNSPキルンや、SPキルンに代表されるセメントキルン等の高温加熱が可能な装置が好適に使用できる。また、大量生産あるいは大量処理の観点からも当該セメント製造設備を用いることが好ましい。
【0021】
焼成物中のアノーサイトは、全体の20質量%以上含まれていればよいが、セメント混合材として使用する際の物性を考慮すると、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上が特に好ましい。一方、石炭灰を主原料とする特性上、100%アノーサイトとすることは困難であり、90質量%以下でよく、通常は80質量%以下がアノーサイトであれば十分である。
【0022】
本発明の製造方法で製造されたアノーサイトを含む焼生物は、ポルトランドクリンカーおよび石膏と共に粉砕、または個別に粉砕した後に混合することにより、水硬性組成物とすることができる。使用する石膏については、二水石膏、半水石膏、無水石膏等のセメント製造原料として公知の石膏が特に制限なく使用できる。石膏の添加量は、水硬性組成物中のSO量が1.5〜5.0質量%となるように添加することが好ましく、1.8〜3質量%となるような添加量がより好ましい。上記アノーサイトを含む焼成物、ポルトランドセメントクリンカーおよび石膏の粉砕方法については、公知の技術が特に制限なく使用できる。ポルトランドセメントクリンカーは、その製造方法、組成に特に制限なく公知のものが制限なく使用できる。
【0023】
また、該水硬性組成物には、更に高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ、炭酸カルシウム、石灰石等の混合材や粉砕助剤を適宜、添加混合、混合粉砕してもよい。また塩素バイパスダスト等を混合してもよい。
【0024】
当該水硬性組成物の粉末度は、特に制限されないが、2800〜4500cm/gに調整されることが好ましい。
【0025】
さらに必要に応じ、粉砕後に高炉スラグ、フライアッシュ等を混合し、高炉スラグセメント、フライアッシュセメント等にすることも可能である。
【0026】
むろん本発明の焼成物は、JIS規格外のセメントの製造原料や、セメント系固化材等の原料としてもよい。
【0027】
さらに本発明の製造方法で得られた焼成物は、ふるい法で粒径2.5mm以下になるまで粉砕することにより、モルタルやコンクリートを製造する際の細骨材とすることも可能である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0029】
用いた石炭灰は、日本国内の火力発電所から排出されたものである。この石炭灰の強熱残分の組成を表1に示す。化学組成は蛍光X線分析により求めた。なお強熱減量は22wt%であった。
【0030】
【表1】

【0031】
この石炭灰を、1200℃で0.5時間焼成し焼成物を得た。得られた焼成物を蛍光X線分析による化学組成と、粉末X線回折の内部標準を用いたリートベルト解析により含有されるアノーサイト量とを求めた。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
950℃での強熱後の残分が、酸化物換算でSiOを34〜63質量%、Alを22〜42質量%、CaOを10〜35質量%含む石炭灰を、単独で、1000〜1400℃の温度で焼成する、アノーサイト(CaO・Al・2SiO)を20質量%以上含有する焼成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法で、アノーサイトを20質量%以上含有する焼成物を得、その粉砕物と、ポルトランドセメントクリンカー及び石膏とを混合することを特徴とする水硬性組成物の製造方法。
【請求項3】
更に、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質原料及び石灰石から選ばれる少なくとも一種の混合材を混合する請求項2記載の水硬性組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1の製造方法でアノーサイトを20質量%以上含有する焼成物を得、これを粒径2.5mm以下(ふるい法)となるまで粉砕する細骨材の製造方法。

【公開番号】特開2012−236731(P2012−236731A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105797(P2011−105797)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】