説明

アノード支持基板及びこれを用いたアノード支持型セル

【課題】セルの発電性能低下を抑制しつつ、さらなるセル機械的強度の向上が可能なアノード支持基板及びこれを用いたアノード支持型セルを提供する。
【解決手段】アノード支持型セル1は、アノード支持基板111を含むアノード11と、カソード12と、アノード支持基板111とカソード12との間に配置された電解質層13と、を備える。電解質層13及びカソード12は、アノード支持基板111によって支持されている。アノード支持基板111は、導電成分と、ジルコニアを含む骨格成分とを含む。前記ジルコニアは、2〜11モル%の希土類金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を安定化剤として含み、さらにAl原子を、Zr原子に対するAl原子のモル比(Al/Zr)が0.10〜2.50となるように含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用のアノード支持基板と、当該アノード支持基板を用いたアノード支持型セルとに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、クリーンエネルギー源として注目されている。燃料電池のうち、電解質に固体のセラミックを使用している固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」と記載する。)は、作動温度が高いため排熱を利用でき、さらに高効率で電力を得ることができる等の長所を有しており、家庭用電源から大規模発電まで幅広い分野での活用が期待されている。
【0003】
SOFCは、基本構造として、カソード(空気極)とアノード(燃料極)との間にセラミックからなる電解質層が配置された構造を有する。例えば平型のSOFCは、カソード、電解質層及びアノードを重ね合わせたものを単セルとし、この単セルがインターコネクタを挟んで複数積み重ねられることによって高出力を得る。ここで、SOFCの発電性能を高めるためには、電解質層を緻密且つ薄肉化することが有効である。これは、電解質層には、発電源となる燃料ガスと空気との混合を確実に阻止する緻密性と、導電ロスを極力抑えることのできる優れたイオン伝導性が求められるためである。しかし、電解質層が薄いほど、セルを多数積層した場合の積層荷重によってセルが割れやすくなる。そこで、電解質層をより薄くするために、アノードを支持基板(アノード支持基板)としてセルの強度を維持するアノード支持型セルが提案されている。
【0004】
アノード支持型セルの良好な発電性能を確保するために、アノード支持基板には、導電性に加えて、十分なガス透過性が要求される。これは、アノード支持基板は、発電源となる燃料ガス及び空気と、燃料の酸化によって生成する排ガス(炭酸ガス及び水蒸気等)とを通過及び拡散させる必要があるからである。そこで、アノード支持基板は、多孔質のセラミック材料で形成されることによって、十分なガス透過性を確保している。他方、アノード支持基板には、高い機械的強度も要求される。しかし、多孔質材料で高い機械的強度を確保することは難しい。そこで、十分なガス透過性と高い機械的強度とを両立できるアノード支持基板の開発が進められている。例えば特許文献1には、アノード支持基板の材料を改良することによって得られる、十分なガス透過性と高い機械的強度とを備えたアノード支持基板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4580681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、SOFCの薄型化がさらに要求されており、アノード支持型セルにおいてもアノード支持基板の厚さを低減することが求められている。しかし、アノード支持基板の厚さを低減するとアノード支持基板自体の強度が低下するので、例えばセル組立時にアノード支持基板が割れてしまうという不具合が生じる。割れを有するアノード支持基板によって構成されたセルで発電が行われると、酸素と燃料(水素)とが燃焼反応に使用されてしまうので、出力が低下してしまう。したがって、アノード支持基板の厚さを低減するためには、アノード支持基板自体の強度をさらに向上させる必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、ガス透過性等の重要な特性は維持してセルの発電性能の低下を抑制しつつ、さらなるセルの機械的強度の向上が可能なアノード支持基板を提供することを目的とする。また、本発明は、そのアノード支持基板を用いたアノード支持型セルを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
SOFC用のアノード支持基板であって、
導電成分と骨格成分とを含み、
前記骨格成分がジルコニアを含み、
前記ジルコニアが、2〜11モル%の希土類金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を安定化剤として含み、さらにAl原子を、Zr原子に対するAl原子のモル比(Al/Zr)が0.10〜2.50となるように含む、
アノード支持基板を提供する。
【0009】
また、本発明は、
上記本発明のアノード支持基板と、
カソードと、
前記アノード支持基板と前記カソードとの間に配置された電解質層と、
を備え、
前記電解質層及び前記カソードが、当該アノード支持基板によって支持されている、
アノード支持型セルも提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアノード支持基板は、骨格成分として、希土類金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物で安定化されたジルコニアを含んでいる。このジルコニアには、Al原子が、Zr原子に対するAl原子のモル比(Al/Zr)が0.10〜2.50となるように、含まれている。このような骨格成分を含むことにより、本発明のアノード支持基板は、従来のアノード支持基板よりも高い機械的強度を実現できる。また、本発明のアノード支持基板では、アノード支持基板に必要な他の特性が維持できるので、セルの発電性能の低下も抑制できる。
【0011】
本発明のアノード支持型セルは、上記のような高い機械的強度を有するアノード支持基板を用いている。したがって、本発明のアノード支持型セルは、アノード支持基板の厚さを従来のものよりも低減した場合であっても、高いセル強度を維持できる。すなわち、本発明のアノード支持型セルによれば、セルの機械的強度を低下させることなく、薄型化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のアノード支持型セルの一実施形態を示す断面図である。
【図2】実施例1のセル及び比較例1のセルについて、電池性能評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアノード支持型セル及びアノード支持基板の実施の形態について、具体的に説明する。
【0014】
図1に、本実施の形態のアノード支持型セルの断面図を示す。本実施の形態のアノード支持型セル1は、アノード11と、カソード12と、アノード11とカソード12との間に配置された電解質層13と、を備えている。
【0015】
アノード11は、アノード支持基板111と、アノード支持基板111の電解質層13側の面上に配置されたアノード層112と、によって形成されている。なお、アノード支持基板111自体がアノードとして十分に作用し得る場合には、アノード層112が設けられない場合もある。電解質層13及びカソード12は、アノード支持基板111によって支持されている。
【0016】
アノード支持基板111は、導電成分と骨格成分とを含む材料によって形成されている。導電成分は、アノード支持基板111に導電性を付与するための成分である。骨格成分は、アノード支持基板111の骨格を形成する成分であり、アノード支持基板111として必要な強度を確保する上で重要な成分である。
【0017】
アノード支持基板111の骨格成分は、ジルコニアを含む。このジルコニアは、2〜11モル%の希土類金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を安定化剤として含む安定化ジルコニアであって、さらにAl原子を含んでいる。このジルコニアに含まれるAl原子の量は、Zr原子に対するAl原子のモル比(Al/Zr)が0.10〜2.50を満たす範囲内である。
【0018】
例えば、Sc、Y及びCe等の希土類金属の酸化物2.5〜15モル%を安定化剤として含む安定化ジルコニア、及び、Mg及びCa等のアルカリ土類金属の酸化物5〜20モル%を安定化剤として含む安定化ジルコニアが例示される。これらは、必要に応じて2種類以上を併用されることも可能である。これらの安定化ジルコニアの中で特に好ましいのは、3〜6モル%のイットリアで安定化されたジルコニア(YSZ)、及び、3〜6モル%のスカンジアで安定化されたジルコニア(ScSZ)である。
【0019】
この安定化ジルコニアに含まれるAl原子の量は、上記のとおり、Zr原子に対するAl原子のモル比(Al/Zr)が0.10〜2.50となる範囲内であり、好ましくは0.25〜2.00となる範囲内であり、より好ましくは0.50〜1.50となる範囲内である。安定化ジルコニアに添加されるAl原子源としては、アルミナ、水酸化アルミ及び塩化アルミ等が例示できる。例えば、アルミナが添加剤として使用される場合は、骨格成分全体に対してアルミナが5〜40質量%となるように添加されることが好ましく、7.5〜30質量%となるように添加されることがより好ましく、10〜25質量%となるように添加されることがさらに好ましい。
【0020】
特に好ましい例は、アノード支持基板111に含まれるジルコニアが、20質量%のアルミナが均一に分散された3〜6モル%のイットリアで安定化されたジルコニアである。
【0021】
本実施の形態のアノード支持基板111は、上記のような範囲でアルミナが添加された安定化ジルコニアを含むことにより、セルの高い機械的強度を実現できる。アルミナは、安定化ジルコニア中で均一に分散していることが望ましい。したがって、アルミナが均一に分散された安定化ジルコニア粉末を原料として用い、当該ジルコニウム粉末の焼結体によって、本実施の形態のアノード支持基板111が形成されることが好ましい。なお、アノード支持基板111においては、骨格成分の5質量%以上が、上記のような範囲でAl原子を含む安定化ジルコニアであることが好ましい。より好ましくは、アノード支持基板111の骨格成分が、上記のような範囲でAl原子を含む安定化ジルコニアからなることである。骨格成分は、Al原子を含む安定化ジルコニアの他に、Gd、Sm、Y等の希土類元素の酸化物等をドープしたセリア等を含んでいてもよい。
【0022】
アノード支持基板111の導電成分としては、ニッケル、コバルト、鉄、白金、パラジウム、ルテニウム等の金属;酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄のように燃料電池稼動時の還元性雰囲気で導電性金属に変化する金属酸化物;あるいはこれらの酸化物を2種以上含有するニッケルフェライトやコバルトフェライトのような複合金属酸化物、が挙げられる。これらは単独で使用されてもよいし、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用されてもよい。これらの中でも、金属ニッケル、金属コバルト、金属鉄及びこれらの酸化物が好ましい。
【0023】
導電成分と骨格成分との比率は、これらの合計を100質量%としたとき、導電成分と骨格成分との比(導電成分/骨格成分)を、30質量%/70質量%以上、80質量%/20質量%以下とすることが好ましく、40質量%/60質量%以上、70質量%/30質量%以下とすることがより好ましい。なお、ここでの導電成分の量は、導電成分が酸化物として存在するときの量に換算した量である。
【0024】
アノード支持基板111の厚さは、特に限定されないが、例えば100μm以上が好ましく、120μm以上がより好ましく、150μm以上がさらに好ましい。また、アノード支持基板111の厚さは、3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、1mm以下がさらに好ましく、500μm以下が特に好ましい。アノード支持基板111の厚さが上記範囲内であれば、アノード支持基板111の機械的強度とガス通過性とをバランス良く両立しやすくなる。
【0025】
アノード支持基板111の気孔率は、特に限定されないが、還元処理した後の気孔率としては、例えば10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。また、アノード支持基板111の気孔率は、50%以下が好ましく、45%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましい。アノード支持基板111の気孔率が上記範囲内であれば、アノード支持基板111の機械的強度とガス通過性とをバランス良く両立しやすくなる。
【0026】
なお、ここでいう気孔率とは、JIS R2205の「耐火れんがの見掛気孔率の測定方法」に準拠して求められる気孔率のことである。以降の気孔率も同様である。試料の見掛気孔率(P0)は、乾燥試料の質量(W1)、飽水試料の水中の質量(W2)、飽水試料の質量(W3)から、下記式(1)で算出される。
0={(W3−W1)/(W3−W2)}×100 ・・・(1)
【0027】
アノード層112は、アノード支持基板111と同様に、導電成分と骨格成分とを含む。アノード層112の導電成分は、アノード支持基板111の導電成分として例示された物質の中から適宜選択できる。アノード層112の骨格成分として用いることができる物質は、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、チタニア、窒化アルミニウム及びムライト等である。これらの中でも、安定化剤として希土類金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物が用いられた安定化ジルコニアが好適である。アノード支持基板111に用いられるアルミナが添加された安定化ジルコニアは、アノード層112の骨格成分としても使用可能である。
【0028】
アノード層112の厚さは、特に限定されないが、例えば5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、アノード層112の厚さは、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。アノード層112の厚さが上記範囲内であれば、電極反応が効率的に行われ、アノード支持型セルとした場合に、発電性能がより良好となる。
【0029】
電解質層13には、一般的なSOFCの電解質層が適用できるので、その材料は特に限定されない。詳しくは、電解質層13は、セラミック質を主成分として含む。セラミック質としては、通常、SOFCの電解質層の材料として用いられるものであれば特に限定されない。例えば、イットリア、セリア、スカンジア、イッテルビア等で安定化されたジルコニア;イットリア、サマリア、ガドリニア等でドープされたセリア;ランタンガレート、及びランタンガレートのランタン又はガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅等で置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物、等を使用することができる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、イットリア、スカンジア、イッテルビア等で安定化されたジルコニアが好適である。
【0030】
特に、セラミック質として、3モル%以上10モル%以下のイットリアで安定化されたジルコニア、4モル%以上12モル%以下のスカンジアで安定化されたジルコニア、8モル%以上12モル%以下のスカンジアで安定化されたジルコニア、4モル%以上15モル%以下のイッテルビアで安定化されたジルコニア、8〜12モル%のスカンジアと0.5〜5モル%のセリアで安定化されたジルコニアを用いることが好ましい。また、これらの安定化ジルコニアに、アルミナ、シリカ、チタニア等を焼結助剤や分散強化剤として添加した材料も好適に用いることができる。
【0031】
電解質層13の厚さは、特に限定されないが、例えば3μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。また、電解質層13の厚さは、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。電解質層13の厚さが上記範囲内であれば、アノード支持型セルとした場合に、ガスのクロスリークを防ぎつつも、発電性能がより良好となる。
【0032】
電解質層13の気孔率は、特に限定されないが、例えば10%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。電解質層13の気孔率が上記範囲内であれば、電解質層13の機械的強度が十分となるとともに、燃料ガスや空気のガスタイト性も良好となる。
【0033】
カソード12は、一般に、電子伝導性に優れ、酸化雰囲気下でも安定な、ペロブスカイト形酸化物が用いられる。具体的には、La0.8Sr0.2MnO3、La0.6Sr0.4CoO3、La0.6Sr0.4FeO3及びLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83等のランタンの一部をストロンチウムで置換したランタンマンガナイト、ランタンフェライト及びランタンコバルタイト等が好適に用いられる。また、カソード12にイオン伝導性を付与するために、Sc、Y及びCe等の希土類金属の酸化物やアルカリ土類金属酸化物を安定化剤として2.5〜15モル%で含む安定化ジルコニアや、希土類元素酸化物等をドープしたセリアを適宜混合することも可能である。
【0034】
カソード12の厚さは、特に限定されないが、例えば5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。また、カソード12の厚さは、80μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。カソード12の厚さが上記範囲内であれば、電極反応が効率的に行われ、アノード支持型セルとした場合に、発電性能がより良好となる。
【0035】
なお、本実施の形態のアノード支持型セル1は、電解質層13とカソード12とが隣接する構成を有する。しかし、本発明のアノード支持型セル1は、この構成に限定されず、電解質層13とカソード12との間にさらに別の層を含んでいてもよい。例えば、カソード12に用いられる材料によっては、電解質層13とカソード12との間にバリア層が設けられる場合がある。このバリア層は、セル作製時又は発電中の高温雰囲気下において、電解質層13とカソード12との間で起こる絶縁物質の生成を抑える効果、あるいは、発電を促進させる効果を期待できるものである。一般には、酸化物イオン伝導性を有する材料であり、Gd、Sm及びY等の希土類元素の酸化物等がドープされたセリアが用いられる。
【0036】
次に、アノード支持型セル1の製造方法について説明する。アノード支持型セル1を製造する方法の一例は、アノード11と電解質層13とを含む多層焼成体を作製する工程と、得られた多層焼成体を所定の形状に切断及び/又は打ち抜きする工程と、所定の形状に切断された多層焼成体において、アノード11と反対側の面にカソード12を作製する工程と、を含む方法である。
【0037】
多層焼成体は、
(1)アノード支持基板111用のグリーンシート上に、アノード層112用のグリーン層(アノード層112を設けない構成の場合は不要)と、電解質層13用のグリーン層と、バリア層を設ける構成の場合はバリア層用のグリーン層と、が順に積み重ねられた積層体を形成した後、これら全体を一括して焼成する方法、
又は、
(2)アノード支持基板111用のグリーンシートを焼成してアノード支持基板111を作製し、その上にアノード層112用のグリーン層(アノード層112を設けない構成の場合は不要)と、電解質層13用のグリーン層と、バリア層を設ける構成の場合はバリア層用のグリーン層と、が順に積み重ねられた積層体を形成した後、これらを焼成する方法、
を用いて作製できる。ここでは、(1)の方法を例に挙げて、多層焼成体の作製方法を説明する。
【0038】
まず、アノード支持基板111用のグリーンシートを準備する。アノード支持基板111用のグリーンシートは、原料粉末(導電成分の粉末及び骨格成分の粉末)と、気孔形成剤と、バインダー及び溶剤とを混合し、さらに必要に応じて分散剤及び可塑剤等を添加してスラリーを調製し、このスラリーをドクターブレード法、カレンダーロール法、押出し法等の任意の方法で所定の厚さを有するシート状に成形し、これを乾燥させて溶剤を揮発除去することによって、得られる。
【0039】
導電成分として使用可能な物質の例は、上記のとおりである。導電成分の粉末のサイズ等は、特に限定されない。しかし、導電成分の粉末は、平均粒径が0.2μm以上5μm以下であり、且つ、90体積%径が15μm以下であることが好ましく、平均粒径が0.3μm以上3μm以下であり、且つ、90体積%径が10μm以下であることがより好ましく、平均粒径が0.4μm以上2μm以下であり、且つ、90体積%径が8μm以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書における平均粒径とは、粒度分布から求められるメジアン径、すなわち体積累積が50%に相当する粒径(D50)のことである。また、90体積%径とは、粒度分布において、粒径が小さい側からの体積粒径が90%に相当する粒径(D90)のことである。ここで、本明細書において特定される粉末の粒径とは、レーザ回折散乱法に基づいて測定される粒径のことである。
【0040】
骨格成分には、例えば、2〜11モル%の希土類金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を安定化剤として含み、さらに、5〜40質量%のアルミナを添加剤として含む安定化ジルコニアの粉末を用いることができる。このようなアルミナを含む安定化ジルコニアの粉末は、例えば、共沈法又はPechini法等の方法によって作製できる。このような方法によって得られる安定化ジルコニアの粉末では、アルミナがより均一に分散されるので好ましい。
【0041】
骨格成分の粉末のサイズは、特に限定されない。しかし、骨格成分の粉末は、平均粒径が0.1μm以上3μm以下であり、且つ、90体積%径が6μm以下であることが好ましく、平均粒径が0.1μm以上1.5μm以下であって、且つ、90体積%径が3μm以下であることがより好ましく、平均粒径が0.2μm以上1μm以下であり、且つ、90体積%径が2μm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
気孔形成剤は、グリーンシート焼成時に焼失するものであればよく、その種類は限定されない。例えば、アクリル系樹脂等からなる架橋微粒子集合体;小麦粉、トウモロコシ澱粉(コーンスターチ)、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉等の天然有機質粉体;メラミンシアヌレート等の熱分解性もしくは昇華性の樹脂粉体;カーボンブラック及び活性炭等の炭素質粉体、等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
気孔形成剤の平均粒径は、0.5μm以上100μm以下が好ましく、3μm以上50μm以下がより好ましい。また。気孔形成剤の10体積%径(粒度分布において、粒径が小さい側からの体積粒径が10%に相当する粒径)は、0.1μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましい。
【0044】
気孔形成剤の添加量は、導電成分の粉末と骨格成分の粉末との合計100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。また、気孔形成剤の添加量は、導電成分の粉末と骨格成分の粉末との合計100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。気孔形成剤の使用量を上記範囲内とすることにより、焼成時の熱分解によって適度に気孔が形成され、アノード支持基板111のガス透過性及び機械的強度がより良好となる。
【0045】
バインダーは、特に限定されず、従来のアノード支持型セルの製造方法で公知となっている有機バインダーの中から適宜選択できる。有機バインダーとしては、例えば、エチレン系共重合体、スチレン系共重合体、アクリレート系及びメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ビニルブチラール系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロース等のセルロース類等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
溶媒は、特に限定されず、アルコール類、グリコールエーテル類、脂肪族炭化水素類、ケトン類、エステル類、芳香族炭化水素類等の多種の有機溶剤を使用できる。有機溶剤としては、具体的には、α−テルピネオール、ジヒドロターピネオール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、グリセリン、ポリエチレングリコール等のアルコール類;ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール等のグリコールエーテル類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ケロシン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;アセトン、2−ブタノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、ターピネオールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート等のエステル類;トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類、が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、塗工後の乾燥を早めるために、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、アセトン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等が好ましい。
【0047】
分散剤は、セラミック粉末の解膠や分散を促進するものである。分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム等の高分子電解質;クエン酸、酒石酸等の有機酸;イソブチレン又はスチレンと無水マレイン酸との共重合体及びそのアンモニウム塩あるいはアミン塩;ブタジエンと無水マレイン酸との共重合体及びそのアンモニウム塩、等が挙げられる。
【0048】
可塑剤は、アノード支持基板111に柔軟性を付与するものである。可塑剤としては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジトリデシル等のフタル酸エステル類;プロピレングリコール等のグリコール類やグリコールエーテル類;フタル酸系ポリエステル、アジピン酸系ポリエステル、セバチン酸系ポリエステル等のポリエステル類、が挙げられる。
【0049】
アノード支持基板111用のグリーンシート上に、アノード層112用のペーストを用いて、アノード層112用のグリーン層が形成される。アノード層112用のペーストは、原料粉末(導電成分の粉末及び骨格成分の粉末)と、気孔形成剤と、バインダー及び溶剤とを混合し、さらに必要に応じて分散剤及び可塑剤等を添加することによって、調製される。このペーストをアノード支持基板111用のグリーンシート上に、スクリーン印刷等の方法を用いて塗布し、これを乾燥させることによって、アノード層112用のグリーン層が形成される。なお、導電成分の粉末、骨格成分の粉末、気孔形成剤、バインダー、溶剤、分散剤及び可塑剤等については、アノード支持基板111用のグリーンシートを作製する際に用いられるものとして例示された物質の中から選択できるので、ここでは説明を省略する。
【0050】
アノード層112用のグリーン層の上に、電解質層13用のペーストを用いて、電解質層13用のグリーン層が形成される。電解質層13用のペーストは、少なくともセラミック質の原料となるセラミック粉末と溶媒とを混合して作製される。
【0051】
セラミック粉末は、特に限定されないが、例えば平均粒径が0.3μm以上0.7μm以下のものを用いることが好ましい。また、セラミック粉末としては、粒径分布の小さいものが好適である。具体的には、平均粒径が0.3μm以上0.7μm以下であり、且つ、90体積%径が1.2μm以下であるものが好ましく、平均粒径が0.4μm以上、0.6μm以下であり、且つ、90体積%径が1.0μm以下であるものがより好ましい。
【0052】
電解質層13用のペーストに用いられる溶媒は、特に限定されず、アノード支持基板111用のスラリーに用いられる溶媒として例示された物質の中から選択して使用することができる。溶媒は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
電解質層13用のペーストには、セラミック粉末及び溶媒に加えて、バインダー、分散剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤等を添加してもよい。バインダー、分散剤及び可塑剤は、成膜する電解質層13の材料に合わせて、アノード支持基板111用のスラリーの材料として例示された物質の中から選択して使用することができる。電解質層13用のペーストは、上記成分を適量混合することにより調製される。その際、各粒子を細かくしたり粒径を均一化したりするために、ボールミル等を用いて粉砕しつつ混合してもよい。また、各成分の添加の順番は特に制限されず、従来方法に従えばよい。
【0054】
電解質層13用のグリーン層上に、必要であればバリア層用のグリーン層を形成する。バリア層用のグリーン層も、アノード層112及び電解質層13と同様に、バリア層を構成する原料粉末を含むペーストを調製し、それを電解質層13用のグリーン層上に塗布し、乾燥させることによって形成できる。
【0055】
アノード支持基板111用のグリーンシート上に、アノード層112用のグリーン層と、電解質層13用のグリーン層と、バリア層を設ける構成の場合はバリア層用のグリーン層と、が順に積み重ねられることによって形成された積層体が、一括して焼成される。積層体の焼成温度は、特に限定されないが、1100℃以上が好ましく、1200℃以上がより好ましく、1250℃以上がさらに好ましい。また、焼成温度は、1500℃以下が好ましく、1400℃以下がより好ましく、1350℃以下がさらに好ましい。また、焼成時の焼成時間は、特に限定されないが、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。また、焼成時間は、10時間以下が好ましく、7時間以下がより好ましく、5時間以下がさらに好ましい。
【0056】
以上のような方法によって、多層焼成体が得られる。次に、得られた多層焼成体を所定の形状に切断及び/又は打ち抜きする。
【0057】
次に、所定の形状に切断された多層焼成体において、アノード11と反対側の面上に、カソード12を作製する。カソード12用のペーストを用いてカソード12用のグリーン層を形成し、それを焼成することによってカソード12が作製される。カソード12用のペーストは、カソード12を構成する原料粉末、バインダー及び溶媒と、必要により分散剤及び可塑剤等とを共に均一に混合することによって、調製される。バインダー、溶媒、分散剤及び可塑剤等は、アノード支持基板111用のスラリーの材料として例示された物質の中から選択して使用することができる。調製したペーストを、多層焼成体上にスクリーン印刷等により塗布し、乾燥させることによって、カソード12用のグリーン層が形成される。これを焼成することによって、カソード12が作製される。焼成温度は、特に限定されないが、800℃以上が好ましく、850℃以上がより好ましく、950℃以上がさらに好ましい。また、焼成温度は、1300℃以下が好ましく、1250℃以下がより好ましく、1200℃以下がさらに好ましい。また、焼成時の焼成時間は、特に限定されないが、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。また、焼成時間は、10時間以下が好ましく、7時間以下がより好ましく、5時間以下がさらに好ましい。
【0058】
以上のような方法によって、高い機械的強度を有するアノード支持型セル1を製造することができる。
【実施例】
【0059】
次に、本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
1. アノード支持型セルの製造
1−1.アノード支持基板用のグリーンシートの作製
導電成分として、酸化ニッケル(NiO、正同化学工業株式会社製)60質量部、
骨格成分として、20質量%のアルミナが添加されている3モル%イットリウム安定化ジルコニアの粉末(東ソー株式会社製、商品名「TZ3Y−20A」)40質量部、
気孔形成剤として、カーボンブラック(SECカーボン株式会社製、商品名「SGP−3」)10質量部、
バインダーとして、メタクリレート系共重合体(分子量:30,000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50質量%)30質量部、
可塑剤として、ジブチルフタレート2質量部、
溶媒として、トルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶媒80質量部、
をボールミルにより混合し、スラリーを調製した。得られたスラリーを使用し、ドクターブレード法によりシート状に成形し、70℃で5時間乾燥させた。これにより、厚さ300μmのアノード支持基板用のグリーンシートが得られた。
【0061】
1−2.アノード層用のペーストの作製
導電成分として、酸化ニッケル(NiO、キシダ化学株式会社製)36質量部、
骨格成分として、8モル%イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素化学工業株式会社製、商品名「HSY−8.0」)24質量部、
気孔形成剤として、カーボンブラック(SECカーボン株式会社製、商品名「SGP−3」)2質量部、
溶媒として、α−テルピネオール(和光純薬工業株式会社製)36質量部と、
バインダーとして、エチルセルロース(和光純薬工業株式会社製)4質量部、
可塑剤として、ジブチルフタレート(和光純薬工業株式会社製)6質量部、
分散剤として、ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤4質量部、
を乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質;アルミナ)を用いて解砕した。これにより、アノード層用のペーストが得られた。
【0062】
1−3.電解質層用のペーストの作製
セラミック粉末として、8モル%イットリウム安定化ジルコニア粉末(第一稀元素化学工業株式会社製、商品名「HSY−8.0」)60質量部、
バインダーとして、エチルセルロース(和光純薬工業株式会社製)5質量部、
溶媒として、α−テルピネオール(和光純薬工業株式会社製)40質量部、
可塑剤として、ジブチルフタレート(和光純薬工業社製)6質量部、
分散剤として、ソルビタン酸エステル系界面活性剤(三洋化成工業株式会社製、商品名「イオネットS−80」)5質量部、
を乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質;アルミナ)を用いて解砕した。これにより、電解質層用のペーストが得られた。
【0063】
1−4.バリア層用のペーストの作製
セラミック粉末として、10モル%ガドリニアがドープされているセリア粉末(阿南化成株式会社製)60質量部、
バインダーとして、エチルセルロース(和光純薬工業株式会社製)5質量部、
溶媒として、α−テルピネオール(和光純薬工業株式会社製)40質量部、
可塑剤として、ジブチルフタレート(和光純薬工業株式会社製)6質量部、
分散剤として、ソルビタン酸エステル系界面活性剤(三洋化成工業株式会社製、商品名「イオネットS−80」)5質量部、
を乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質;アルミナ)を用いて解砕した。これにより、バリア層用のペーストが得られた。
【0064】
1−5.アノード層用のグリーン層の形成
上記1−1で得られたアノード支持基板用のグリーンシート上に、上記1−2で得られた解砕後のアノード層用のペーストを、スクリーン印刷により厚さ20μmとなるように印刷した。これを100℃で30分間乾燥させることによって、アノード層用のグリーン層を形成した。
【0065】
1−6.電解質層用のグリーン層の形成
上記1−5で形成されたアノード層用のグリーン層上に、上記1−3で得られた解砕後の電解質層用のペーストを、スクリーン印刷により厚さ15μmとなるように印刷した。これを100℃で30分間乾燥させることによって、電解質層用のグリーン層を形成した。
【0066】
1−7.バリア層用のグリーン層の形成
上記1−6で形成された電解質層用のグリーン層上に、上記1−4で得られ解砕後のバリア層用のペーストを、スクリーン印刷により厚さ3μm以下となるように印刷した。これを100℃で30分間乾燥させることによって、バリア層用のグリーン層を形成した。
【0067】
1−8.焼成
バリア層用のペーストの乾燥後、上記で得たバリア層用のグリーン層、電解質層用のグリーン層、アノード層用のグリーン層が形成されたアノード支持基板用のグリーンシートを、強度試験用のセル作製用として焼成後の直径がφ50mmになるように打ち抜いた。電池性能評価用のセル作製用として焼成後の1辺が60mmの正方形になるように打ち抜いた。打ち抜いた後、それぞれを1300℃で2時間焼成して、以下の(1)及び(2)のハーフセルを作製した。
(1)φ50mmのアノード支持型ハーフセル(円形、強度試験用)10枚
(2)1辺60mmのアノード支持型ハーフセル(正方形、電池性能評価用)3枚
【0068】
1−9.カソード用のペーストの作製
ペロブスカイト型酸化物粉末La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83(アルドリッチ社製)60質量部、
溶媒として、α−テルピネオール(和光純薬工業株式会社製)36質量部、
バインダーとして、エチルセルロース(和光純薬工業株式会社製)4質量部、
可塑剤として、ジブチルフタレート(和光純薬工業株式会社社製)6質量部、
分散剤として、ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤4質量部、
を乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質;アルミナ)を用いて解砕した。これにより、カソード用のペーストが得られた。
【0069】
1−10.カソードの形成
上記1−8.で得られた(1)及び(2)のハーフセルのバリア層上に、スクリーン印刷により、
(1)強度試験用のセルには、直径がφ46mmの円形
(2)電池性能評価用のセルには、1辺1cmの正方形
となるように、上記1−9で得られたカソード用のペーストを塗布した。これを90℃で1時間乾燥させ、その後1000℃で2時間焼成した。これにより、アノード支持型セルが得られた。
【0070】
2. 強度試験
上記1−10の(1)で得られたφ50mmのアノード支持型セル10枚について、それぞれ、ASTM C1499−03に準ずる方法で強度試験を実施した。アノード支持型セル10枚について得られた強度試験結果の平均値を、強度として、表1に示す。
【0071】
3. 電池性能評価試験
アノード支持型セルの評価として、電流−電圧特性による電池性能評価試験を実施した。
上記1−10の(2)で得られたアノード支持型セル3枚を用いた。このアノード支持型セルに対し、先ず、アノードに100mL/分の窒素を、カソードに100mL/分の空気をそれぞれ供給しつつ、200℃/hの速度で測定温度(750℃)まで昇温した。昇温後、アノード及びカソードの出口側ガスについて、流量計を用いて流量を測定し、ガスの漏れが無いことを確認した。
次いで、水素6mL/分及び窒素194mL/分の加湿した混合ガスをアノードへ、400mL/分の空気をカソードへ供給した。10分以上経過後に起電力が発生し、漏れが無いことを再度確認した後、加湿水素を200mL/分の流量でアノードへ供給して、電流−電圧特性(IV)、電流−出力特性(IP)による電池性能評価試験を実施した。アノード支持型セル3枚のうちの1枚の結果を図1に示す。
【0072】
(比較例1)
実施例1の1−1のアノード支持基板用のグリーンシートの作製において、骨格成分に、「20質量%のアルミナが添加されている3モル%イットリウム安定化ジルコニアの粉末」の代わりに「3モル%イットリウム安定化ジルコニアの粉末」を用いた点以外は、全て実施例1と同様の方法でアノード支持型セルを作製した。得られた比較例1のアノード支持型セルについても、実施例1と同様に、強度試験及び電池性能評価試験を行った。
【0073】
(比較例2)
実施例1の1−1のアノード支持基板用のグリーンシートの作製において、骨格成分に、「20質量%のアルミナが添加されている3モル%イットリウム安定化ジルコニアの粉末」の代わりに「アルミナの粉末」を用いた点以外は、全て実施例1と同様の方法でアノード支持型セルを作製した。得られた比較例2のアノード支持型セルについても、実施例1と同様に、強度試験を行った。その結果、表1に示すように、比較例2のセルの強度は、実施例1及び比較例1のセルと比較して大幅に低かった。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示された結果から、アノード支持基板の骨格成分に、20質量%のアルミナを添加剤として含むイットリア安定化ジルコニアが用いられた場合、アルミナが添加されないジルコニアを用いる場合及びアルミナのみを用いる場合よりも、セルの機械的強度が大幅に上昇することが確認された。また、図1に示すように、電池の性能は、実施例1のセルは、比較例1のセルとほぼ同じであった。なお、比較例1のセルは、アノード支持基板の骨格成分として一般的な安定化ジルコニアが用いられている。すなわち、比較例1のセルは、従来の一般的な発電性能を有するアノード支持型セルである。したがって、実施例1のセルは、従来のセルの発電性能を維持しつつ、セルの強度のみが従来のセルよりも大幅に改善された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のアノード支持基板及びこれを用いたアノード支持型セルによれば、セルの発電性能低下を抑制しつつ、さらなる機械的強度の向上が可能となるので、例えばアノード支持基板の厚さを従来よりも低減した場合でも十分なセル強度を確保できる。したがって、本発明のアノード支持基板及びこれを用いたアノード支持型セルは、高い強度が要求されるSOFC及びさらなる厚さ低減が要求されるSOFCにも、好適に利用できる。
【符号の説明】
【0077】
1 アノード支持型セル
11 アノード
12 カソード
13 電解質層
111 アノード支持基板
112 アノード層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池用のアノード支持基板であって、
導電成分と骨格成分とを含み、
前記骨格成分がジルコニアを含み、
前記ジルコニアが、2〜11モル%の希土類金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を安定化剤として含み、さらにAl原子を、Zr原子に対するAl原子のモル比(Al/Zr)が0.10〜2.50となるように含む、
アノード支持基板。
【請求項2】
請求項1に記載のアノード支持基板と、
カソードと、
前記アノード支持基板と前記カソードとの間に配置された電解質層と、
を備え、
前記電解質層及び前記カソードが、前記アノード支持基板によって支持されている、
アノード支持型セル。


【図1】
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【図2】
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