説明

アノード溶解による構造物解体方法

【課題】既設のコンクリート構造物に対して簡単な方法でアノード溶解を行うことができ、しかも電解液の漏れや供給不足を防止することができる。
【解決手段】鉄骨1Aが埋設されている柱材1の補強コンクリート構造物の表面部位に電解液2を浸み込ませた吸水性部材からなる湿布3を接触させ、湿布3の引出し端3aを予め設置しておいた電解液貯留槽4内の電解液2に浸漬させ、鉄骨1Aと電解液貯留槽4内の電解液2との間に通電し、柱材1内を浸透した電解液2によって鉄骨1Aをアノード溶解させる構造物解体方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード溶解による構造物解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アノード溶解を利用して補強コンクリート構造物を部分的に脆弱化させて解体する方法は、シールド工事などの立坑に採用したものが例えば特許文献1に開示されている。
特許文献1には、シールド工事の発進立坑および到達立坑において、シールド掘削機の発進・到達箇所、すなわち破壊予定部位に構造物を構築する際に予め電解液を入れるためのスペースや装置を構築しておく方法であって、破壊予定部位に導電性の中空管からなる本体管及び本体管内に間隔を有して遊挿された電極部材とにより形成し、少なくとも本体管と電極部材との間に電圧を印加して本体管の内壁をアノード溶解して脆弱化させる方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−90473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のアノード溶解では、以下のような問題があった。
すなわち、アノード溶解させるには、電解液をその部分に接触させる必要があり、破壊予定位置が当初から決まっている場合には、構造物を構築する際に特許文献1のようにシールド工事の施工に伴う過程において、解体が必要な箇所に電解液を入れるためのスペースや装置を組み込んでおくことも可能である。ところが、建物等の建築物の場合にあっては、解体箇所を事前に予測して前記スペースや装置を備えておくことは困難であり、またそのような構造を躯体に装備するのもスペース的に問題があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、既設の補強コンクリート構造物のコンクリート内部に埋設される金属部材に対して簡単な方法でアノード溶解を行うことができるアノード溶解による構造物解体方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るアノード溶解による構造物解体方法では、鉄筋コンクリート又は鉄骨鉄筋コンクリートからなる補強コンクリート構造物を解体する際に用いられるアノード溶解による構造物解体方法であって、鉄筋又は鉄骨の金属部材が埋設されている補強コンクリート構造物の表面部位に電解液を浸み込ませた吸水性部材からなる保液材を接触させる工程と、保液材の一部を予め設置しておいた電解液貯留部内の電解液に浸漬させる工程と、金属部材と電解液貯留部内の電解液との間に通電し、補強コンクリート構造物内を浸透した電解液によって金属部材をアノード溶解させる工程とを有することを特徴としている。
【0007】
本発明では、鉄筋コンクリート又は鉄骨鉄筋コンクリートからなる補強コンクリート構造物における解体箇所の一部あるいは全体の部位に電解液を浸み込ませた保液材を接触させ、さらにその保液材の一部を電解液貯留部内の電解液に浸漬させておくことで、接触させた部位から補強コンクリート構造物の表面から内部に電解液が浸み込み、補強コンクリート構造物に埋め込まれている鉄筋や鉄骨の金属部材に達することになる。そのため、金属部材を陽極としてその金属部材と電解液貯留部内の電解液との間に電圧を印加して通電することで、アノード溶解により金属部材の腐食を促進させることができる。このとき、金属部材は腐食に伴って体積が膨張し、金属部材の周囲のコンクリートが割り裂かれるため、補強コンクリート構造物の解体を容易に行うことができる。
【0008】
また、解体させるコンクリート表面に保液材を例えば貼り付けるといった簡単な方法により施工することが可能となることから、補強コンクリート構造物の構築時に予め解体箇所にアノード溶解に必要な構造を組み込んでおく必要がなく、解体時に任意の箇所に保液材を接触させてアノード溶解を行うことができる。
【0009】
さらに、保液材は浸み込ませた電解液を保液する機能を有しており、コンクリートに接触している部分では保液材からコンクリートへ電解液を確実に浸透させることができ、コンクリートに接触していない部分では保液材で保液されて外部へ電解液が流出しない。そのため、保液材が接触しているコンクリート部分が破壊しても、保液材から電解液が漏れ出るのを抑制することができる。
そして、保液材をコンクリートの任意の箇所に接触させる方法であるので、解体や分離する形態に応じて適宜設けることが可能である。例えば、分離したい箇所に対して保液材を局所的に設けることで、その保液材の設置箇所において金属部材を腐食させて、部分的にコンクリート部材を脆弱化させることができる。また、補強コンクリート構造物の全体にわたって保液材を接触させることで、コンクリートと鉄筋等との分離を促して解体を容易にすることができる。
【0010】
しかも、保液材の一端が電解液貯留部内の電解液に浸かった状態となるので、毛細管現象により補強コンクリート構造物との接触部には常に電解液が供給された状態となり、電解反応により保液材から電解液が失われることがなく効果的なアノード溶解がされることになる。
さらにまた、保液材として吸水性部材を使用し、補強コンクリート構造物に対する接触部と電解液貯留部との距離を変更することが自在となるため、電解液貯留部をできるだけ解体対象となる補強コンクリート構造物の近くに配置することで、保液材の浸漬効率が良好となる利点がある。
【0011】
また、本発明に係るアノード溶解による構造物解体方法では、保液材は、シート状の湿布であることが好ましい。
【0012】
本発明では、保液材がシート状の湿布であるので、コンクリートに対して貼り付けたり、巻き付けて接触させることを容易に行うことができ、被接触部に凹凸等、複雑な形状であっても隙間無く接触させることが可能となり、アノード溶解の効果を高めることができる。
また、シート状であるので、運搬がし易く、狭小な空間であっても施工がし易く、作業効率の向上を図ることができる利点がある。
【0013】
また、本発明に係るアノード溶解による構造物解体方法では、電解液貯留部は、移動可能な水槽であることが好ましい。
【0014】
この場合、コンクリートに接触させた保液材の近くに電解液貯留部である水槽を移動させることができ、また水槽であるので電解液の供給も容易に行うことができる。
【0015】
また、本発明に係るアノード溶解による構造物解体方法では、鉄筋コンクリート又は鉄骨鉄筋コンクリートからなる補強コンクリート構造物を解体する際に用いられるアノード溶解による構造物解体方法であって、鉄筋又は鉄骨の金属部材が埋設されている補強コンクリート構造物の表面部位に可撓性及び導電性を有する接触用電極を接触させる工程と、補強コンクリート構造物に対して接触用電極を包含する袋状の電解液貯留部を設け、電解液貯留部内の電解液に接触用電極を浸漬させるとともに、電解液を補強コンクリート構造物内に浸透させる工程と、金属部材と電解液貯留部内の接触用電極との間に通電することによって金属部材をアノード溶解させる工程と、を有することを特徴としている。
【0016】
本発明では、鉄筋コンクリート又は鉄骨鉄筋コンクリートからなる補強コンクリート構造物における解体箇所の一部あるいは全体の部位に可撓性及び導電性を有する接触用電極を接触させ、その接触用電極を電解液貯留部内の電解液に浸漬させる。さらに、その電解液を補強コンクリート構造物の表面から内部に浸み込ませることで、補強コンクリート構造物に埋め込まれている鉄筋や鉄骨の金属部材に達することになる。そのため、金属部材を陽極としてその金属部材と電解液貯留部内の接触用電極との間に電圧を印加して通電することで、アノード溶解により金属部材の腐食を促進させることができる。このとき、金属部材は腐食に伴って体積が膨張し、金属部材の周囲のコンクリートが割り裂かれるため、補強コンクリート構造物の解体を容易に行うことができる。
【0017】
また、解体させるコンクリート表面に接触用電極を例えば貼り付けるといった簡単な方法により施工することが可能となることから、補強コンクリート構造物の構築時に予め解体箇所にアノード溶解に必要な構造を組み込んでおく必要がなく、解体時に任意の箇所に接触用電極および電解液貯留部を設置してアノード溶解を行うことができる。
【0018】
さらに、補強コンクリート構造物の接触用電極を接触させる部分には、電解液貯留部内に電解液が溜められているので、電解液を電解液貯留部からコンクリートへ確実に浸透させることができる。
そして、接触用電極をコンクリートの任意の箇所に接触させる方法であるので、解体や分離する形態に応じて適宜設けることが可能である。例えば、分離したい箇所に対して接触用電極を局所的に設けることで、その接触用電極の設置箇所において金属部材を腐食させて、部分的にコンクリート部材を解体することができる。また、補強コンクリート構造物の全体にわたって接触用電極を接触させることで、コンクリートと鉄筋等との分離を促してより解体を容易にすることができる。
【0019】
さらにまた、接触用電極を補強コンクリート構造物に直接、接触させることで、電極間の距離を短くすることができ、電極間に通電する電流効率を向上させることができる利点がある。
【0020】
また、本発明に係るアノード溶解による構造物解体方法では、電解液貯留部は高分子ポリマーからなり、電解液貯留部を補強コンクリート構造物に接触させた後、その電解液貯留部内に水分を含んだジェル状の高分子ポリマーを供給し、その後、電解液貯留部内に塩化ナトリウムを添加して液体化させることが好ましい。
【0021】
この場合、電解液貯留部内に高分子ポリマーを供給することで、電解液貯留部の設置作業の施工性を向上させることができる。そして、電解液貯留部内に塩化ナトリウムを添加することでジェル状の高分子ポリマーが液体化するので、これを電解液として使用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のアノード溶解による構造物解体方法によれば、既設の補強コンクリート構造物のコンクリート内部に埋設される金属部材に対して簡単な方法でアノード溶解を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態による構造物解体方法の図であって、柱材の切断を目的として、鉄骨鉄筋コンクリートからなる柱材を局部的にアノード溶解する方法を示す斜視図である。
【図2】図1に示す柱材においてアノード溶解による構造物解体方法の概要を模式的に示す図である。
【図3】他の実施の形態による構造物解体方法の図であって、金属部材からのコンクリートの分離を目的として、鉄骨鉄筋コンクリートからなる柱材を全体的にアノード溶解する方法を示す斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態による構造物解体方法の斜視図であって、図1に対応する図である。
【図5】図4に示す接触用電極の設置部分の拡大側断面図であって、(a)は電解液貯留部内にジェル状の高分子ポリマーを供給した図、(b)はさらに塩化ナトリウムを添加した状態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態によるアノード溶解による構造物解体方法について、図面に基づいて説明する。
【0025】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本実施の形態によるアノード溶解による構造物解体方法は、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の補強コンクリート構造物からなる柱材1を解体する際に用いられる。
すなわち、図2に示すように、本構造物解体方法は、鉄骨1A(金属部材)が埋設されている柱材1の表面部位に電解液2を浸み込ませた湿布3(保液材)を接触させ、湿布3の一部を予め設置しておいた電解液貯留槽4(電解液貯留部)内の電解液2に浸漬させ、鉄骨1Aと電解液貯留槽4内の電解液2との間に通電し、柱材1内を浸透した電解液2によって鉄骨1Aをアノード溶解させる方法である。
【0026】
湿布3は、シート状の吸水性部材からなり、柱材1に対して周方向に巻き付けている。なお、湿布3の巻き付けを固定するために、巻き付けた湿布3を例えば紐材によって縛ったり、粘着テープやクリップ等で固定するようにしても良い。
そして、巻き付けた湿布3の一部(引出し端3a)が柱材1の表面より外方に向けて引き出され、その引出し端3aが電解液貯留槽4内まで延ばされて電解液2に浸漬されている。この引出し端3aの引き出し長さ寸法は、電解液貯留槽4と柱材1との距離に応じて適宜設定することができる。
なお、湿布3の毛細管現象によって引出し端3aを介して電解液貯留槽4から電解液2を湿布3に浸透させる方法となるので、湿布3の柱材1との接触部よりも下方の位置に電解液貯留槽4を配置することが好ましい。
【0027】
また、解体対象の柱材1に埋設されている鉄骨1Aの露出部分と電解液貯留槽4内の電解液2とは、それぞれ直流電源5に接続される正極と負極とに接続されている。つまり、直流電源5のプラス側(陽極側)の電極5Aは鉄骨1Aに接続され、マイナス側(陰極側)の電極5Bを湿布3の引出し端3aが浸漬されている電解液貯留槽4内の電解液2に挿入されている。
【0028】
次に、上述した構成からなるアノード溶解による構造物解体方法について詳細に説明する。
図2に示すように、本構造物解体方法では、鉄骨鉄筋コンクリートからなる柱材1における解体箇所の一部の部位に電解液2を浸み込ませた湿布3保液材を接触させ、さらにその湿布3の引出し端3aを電解液貯留槽4内の電解液2に浸漬させておくことで、接触させた部位においては柱材1の表面から内部に電解液2が浸み込み、柱材1に埋め込まれている鉄骨1Aに達することになる。そのため、鉄骨1Aを陽極としてその鉄骨1Aと電解液貯留槽4内の電解液2との間に電圧を印加して通電することで、鉄骨1Aをアノード溶解させて腐食させることができる。このとき、鉄骨1Aは腐食に伴って体積が2倍以上に膨張し、鉄骨1Aの周囲のコンクリートが割り裂かれるため、柱材1の解体を容易に行うことができる。
例えば、モルタル被覆鉄筋の実施例では、初期において10Vで0.01Aの電流が通電し、鉄筋の腐食生成物による体積膨張により割れ裂けることが確認されている。
【0029】
また、解体させるコンクリート表面に湿布3を巻き付けるといった簡単な方法により施工することが可能となることから、柱材1などの補強コンクリート構造物の構築時に予め解体箇所にアノード溶解に必要な構造を組み込んでおく必要がなく、解体時に任意の箇所に湿布3を接触させてアノード溶解を行うことができる。
【0030】
さらに、湿布3は浸み込ませた電解液2を保液する機能を有しており、コンクリートに接触している部分では湿布3から柱材1のコンクリートへ電解液2を確実に浸透させることができ、コンクリートに接触していない部分では湿布3で保液されて外部へ電解液2が流出しない。そのため、湿布3が接触しているコンクリート部分が破壊しても、湿布3から電解液2が漏れ出るのを抑制することができる。
【0031】
そして、湿布3をコンクリートの任意の箇所に接触させる方法であるので、解体や分離する形態に応じて適宜設けることが可能である。図1に示すように、分離したい箇所に対して湿布3を局所的に設けることで、その湿布3の設置箇所において鉄骨1Aを腐食させてコンクリートを脆弱化させることができる。
また、図3に示すように、柱材1の全体にわたって湿布3を巻き付けて接触させ、直流電源5により通電させることで、コンクリートと鉄骨1Aとの分離を促して解体を容易にすることができる。
【0032】
しかも、湿布3の引出し端3aが電解液貯留槽4内の電解液2に浸かった状態となるので、毛細管現象により柱材1との接触部には常に電解液2が供給された状態となり、湿布3の電解反応により湿布3から電解液2が失われることがなく効果的なアノード溶解がされることになる。
さらにまた、湿布3として吸水性部材を使用し、柱材1に対する接触部と電解液貯留槽4との距離を変更することが自在となるため、電解液貯留槽4をできるだけ解体対象となる柱材1の近くに配置することで、電解液2の供給効率が良好となる利点がある。
【0033】
また、湿布3がシート状の湿布であるので、柱材1に対して貼り付けたり、巻き付けて接触させることを容易に行うことができ、被接触部に凹凸等、複雑な形状であっても隙間無く接触させることが可能となり、アノード溶解の効果を高めることができる。
また、シート状であるので、運搬がし易く、狭小な空間であっても施工がし易く、作業効率の向上を図ることができる利点がある。
【0034】
さらに、電解液貯留槽4が移動可能な水槽であることから、コンクリートに接触させた湿布3の近くに電解液貯留槽4を移動させることができ、また水槽であるので電解液2の供給も容易に行うことができる。
【0035】
上述のように本実施の形態によるアノード溶解による構造物解体方法では、既設の補強コンクリート構造物である柱材1のコンクリート内部に埋設される鉄骨1Aに対して簡単な方法でアノード溶解を行うことができる。
【0036】
次に、本発明の構造物のアノード溶解による構造物解体方法による他の実施の形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施の形態と異なる構成について説明する。
【0037】
(第2の実施の形態)
図4に示すように、第2の実施の形態によるアノード溶解による構造物解体方法は、鉄骨1Aが埋設されている柱材1の表面部位(ここでは、1つの角部)に可撓性及び導電性を有する接触用電極6を接触させ、柱材1に対して接触用電極6を包含する袋状の電解液保液体7(電解液貯留部)を設け、電解液保液体7内の電解液2に接触用電極6を浸漬させるとともに、電解液2を柱材1内に浸透させ、鉄骨1Aと電解液保液体7内の接触用電極6との間に通電することによって鉄骨1Aをアノード溶解させる方法である。
【0038】
接触用電極6は、例えば炭素繊維などの材料により形状変形自在に形成されたものであり、本実施の形態のように柱材1の角部に部分的に設けてもよいし、上述した第1のように周方向に巻き付けるように設けることも可能である。また、接触用電極6の形状についても帯状であることに限定されず、溶解対象となるコンクリート内の金属部材の設置範囲や形状に合わせて任意の電極形状に形成して使用することが可能である。
【0039】
電解液保液体7は、非透水性の部材からなり、接触用電極6を囲うように配置され、上端を除く部分(接続部7a)が柱材1の側面に対して液密に固着され、上端が開口部7bを形成している。
また、図5(a)に示すように、電解液保液体7を柱材1に貼り付けること等により接触させた後、その電解液保液体7内に水分を含んだジェル状の高分子ポリマーからなる電解液2Aを開口部7bから供給し、その後、電解液保液体7内に塩化ナトリウム(NaCl)を添加して液体化させる。ここで、図5(b)における符号2Bは液体化した電解液を示している。つまり、本実施の形態では、高分子ポリマーは、真水に対しては十分にその給水性能を発揮するが、塩分濃度が高まるにつれてその給水性能が低減する性質がある。例えば飽和食塩水に対する給水量は真水の6%程度まで激減する性質を利用したものである。
【0040】
本実施の形態の構造物解体方法では、図4に示すように、柱材1における解体箇所の一部の部位に接触用電極6を接触させ、その接触用電極6を電解液保液体7内の電解液2に浸漬させる。さらに、その電解液2を柱材1の表面から内部に浸み込ませることで、柱材1に埋め込まれている鉄骨1Aに達することになる。そのため、鉄骨1Aを陽極としてその鉄骨1Aと電解液保液体7内の接触用電極6との間に電圧を印加して通電することで、アノード溶解により鉄骨1Aの腐食を促進させることができる。このとき、鉄骨1Aは腐食に伴って発生した錆によって体積が膨張し、鉄骨1Aの周囲のコンクリートが割り裂かれるため、柱材1の解体を容易に行うことができる。
【0041】
また、解体させるコンクリート表面に接触用電極6を例えば貼り付けるといった簡単な方法により施工することが可能となることから、柱材1の構築時に予め解体箇所にアノード溶解に必要な構造を組み込んでおく必要がなく、解体時に任意の箇所に接触用電極6および電解液保液体7を設置してアノード溶解を行うことができる。
【0042】
さらに、柱材1の接触用電極6を接触させる部分には、電解液保液体7内に電解液2が溜められているので、電解液2を電解液保液体7からコンクリートへ確実に浸透させることができる。
そして、接触用電極6をコンクリートの任意の箇所に接触させる方法であるので、解体や分離する形態に応じて適宜設けることが可能である。すなわち、本第2の実施の形態のように、分離したい箇所に対して接触用電極6を局所的に設けることで、その接触用電極6の設置箇所において鉄骨1Aを腐食させて、部分的にコンクリート部材を解体することができる。なお、柱材1の全体にわたって接触用電極6を接触させることで、コンクリートと鉄骨1A等との分離を促して解体を容易にするようにしてもよい。
【0043】
さらにまた、接触用電極6を柱材1に直接、接触させることで、電極間の距離を短くすることができ、電極間に通電する電流効率を向上させることができる利点がある。
【0044】
また、図5(a)に示すように、電解液保液体7内に供給した電解液2Aにおけるジェル状の高分子ポリマーが、非透水性の電解液保液体7と柱材1との接続部7aに浸入することによってその接続部7aの隙間を止水することができる。その後、図5(b)に示すように、電解液保液体7内に塩化ナトリウムを添加することでジェル状の高分子ポリマーが液体化するので、これを電解液2Aとして使用することができる。しかも、ジェル状の高分子ポリマー(電解液2)を電解液保液体7内に供給する作業のみで前記接続部7aの止水性能を確保することができるので、止水作業の施工性を向上させることができる。
【0045】
以上、本発明によるアノード溶解による構造物解体方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では鉄骨鉄筋コンクリートからなる柱材1をアノード溶解の適用対象としているが、柱材1であることに制限されることはない。例えば、鉄筋コンクリート造(RC造)であってもよく、その部材も柱材に限らず、また形状、大きさに制限されることはなく、梁材、あるいはスラブ等の補強コンクリート構造物であってもかまわない。そして、直流電源5のプラス側の電極5Aを接続する箇所についても、鉄骨1Aであることに限定されず、金属部材である鉄筋であっても良い。
【0046】
また、本第1の実施の形態では保液材としてシート状の湿布3を採用しているが、これに限定されることはなく、所定の厚さ寸法を有する箱形状のものや、予め被接触部の形状に合わせて形成された部材を嵌め合わせるような部材を用いることも可能である。
【0047】
さらに、電解液貯留槽4の形状、容量、数量は、解体対象となる補強コンクリート構造物の位置、数量などに応じて適宜設定することができる。例えば、1つの電解液貯留槽4を複数の湿布3の引出し端3aで共通に使用しても良い。
【0048】
さらにまた、上述した第2の実施の形態の電解液保液体7(電解液貯留部)は、適宜な部材を用いることが可能であるが、少なくとも補強コンクリート構造物に対して接続される接続部7aから供給した電解液2を漏れ出さないように貯留できる機能を有している必要がある。
また、本第2の実施の形態では、電解液保液体7内にジェル状の高分子ポリマーを供給しているが、これは電解液保液体7の接続部7aの止水機能を高めるためであり、これに限らず一般的な電解液を電解液保液体7内に供給する方法であってもよい。
【0049】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 柱材(補強コンクリート構造物)
1A 鉄骨(金属部材)
2、2A、2B 電解液
3 湿布(保液材)
3a 引出し端
4 電解液貯留槽(電解液貯留部)
5 直流電源
5A プラス側の電極
5B マイナス側の電極
6 接触用電極
7 電解液保液体(電解液貯留部)
7a 接続部
7b 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート又は鉄骨鉄筋コンクリートからなる補強コンクリート構造物を解体する際に用いられるアノード溶解による構造物解体方法であって、
鉄筋又は鉄骨の金属部材が埋設されている前記補強コンクリート構造物の表面部位に電解液を浸み込ませた吸水性部材からなる保液材を接触させる工程と、
該保液材の一部を予め設置しておいた電解液貯留部内の電解液に浸漬させる工程と、
前記金属部材と前記電解液貯留部内の電解液との間に通電し、前記保液材から前記補強コンクリート構造物内を浸透した前記電解液によって前記金属部材をアノード溶解させる工程と、
を有することを特徴とするアノード溶解による構造物解体方法。
【請求項2】
前記保液材は、シート状の湿布であることを特徴とする請求項1に記載のアノード溶解による構造物解体方法。
【請求項3】
前記電解液貯留部は、移動可能な水槽であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアノード溶解による構造物解体方法。
【請求項4】
鉄筋コンクリート又は鉄骨鉄筋コンクリートからなる補強コンクリート構造物を解体する際に用いられるアノード溶解による構造物解体方法であって、
鉄筋又は鉄骨の金属部材が埋設されている前記補強コンクリート構造物の表面部位に可撓性及び導電性を有する接触用電極を接触させる工程と、
前記補強コンクリート構造物に対して前記接触用電極を包含する袋状の電解液貯留部を設け、該電解液貯留部内の電解液に前記接触用電極を浸漬させるとともに、該電解液を前記補強コンクリート構造物内に浸透させる工程と、
前記金属部材と前記電解液貯留部内の接触用電極との間に通電することによって前記金属部材をアノード溶解させる工程と、
を有することを特徴とするアノード溶解による構造物解体方法。
【請求項5】
前記電解液貯留部は非透水性の部材からなり、
前記電解液貯留部を前記補強コンクリート構造物に接触させた後、その電解液貯留部内に水分を含んだジェル状の高分子ポリマーを供給し、その後、前記電解液貯留部内に塩化ナトリウムを添加して液体化させることを特徴とする請求項4に記載のアノード溶解による構造物解体方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−32688(P2013−32688A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−140811(P2012−140811)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】