説明

アパタイトシ−ト及びその製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アパタイト粉体を抄造法を用いてシート化したアパタイトシート及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年セラミックス粉体を抄造技術を用いてシート化したセラミックスシート及びその製造方法が提案されている。それらのセラミックスシートの製造方法は、セラミックス粉体を原料として高分子の粉体定着剤を用いてセラミックス粉体をパルプに定着させてそれを抄造するという方法である。
【0003】この場合、セラミックス粉体がアパタイトである場合図2に示す如く、湿式合成したアパタイトを粉体原料とするためには次の手順が必要となる。即ち結晶化した水酸アパタイト(HAp)反応液からアパタイトを口過、洗浄、乾燥、そして微粉砕という操作を経てアパタイト粉体を造らなければならない。このような反応液からのアパタイトの固液分離のための手順に長時間を要する。更に、従来法で用いる高分子定着剤などの添加物は不純物の一つと考えられるため、化学、生化学分野でのアバタイトシートの利用を考えると問題となる。このように、従来技術を用いて湿式合成されたアパタイト粉体をシート化する場合には種々の問題点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の諸問題点を解消し、アパタイトの合成時にパルプの表面にアパタイトを結晶化・付着させ、アパタイト−繊維複合体を造り、抄造法を用いてアパタイトが繊維に付着したアパタイトシート及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、表面にアパタイト粒子が結晶化・付着した繊維がシート状に形成されているアパタイトシート、並びにアパタイトの湿式合成段階で反応液に繊維を混入させ、繊維表面上にアパタイトを結晶化・付着させ、アパタイト−繊維複合体を造り、それを抄造法を用いてシート化するアパタイトシートの製造方法を特徴としている。なおアパタイト合成段階で、アパタイトを結晶化・付着させる繊維としては、木材パルプ繊維、竹繊維、わら繊維、ジンピ繊維などを利用することが可能である。また繊維の叩角度を調整しても用いることができる。
【0006】
【作用】本発明では、アパタイトを湿式合成する段階で繊維上にアパタイトを結晶化・付着させるため、アパタイト粒子を繊維に定着させるための高分子定着剤を使う必要がない。反応液中のアパタイト−繊維複合体を抄造法を用いてシート化するため、アパタイト粒子を口過、洗浄、乾燥、微粉砕するという手順が大幅に省略可能である。また、湿式合成段階でのアパタイトの合成濃度を変えることにより繊維表面へのアパタイトの付着量を調節することが可能となり、アパタイトの配合量を任意に調節したアパタイトシートを自由に得ることができる。
【0007】アパタイトの湿式合成は、カルシウムイオン溶液に、リン酸イオン溶液を滴下することにより行われる。その際、反応液のpH、温度を調節することにより合成されるアパタイトの特性が変化することはよく知られている。しかし、カルシウムイオン溶液に繊維を入れることにより、アパタイトの結晶化・付着を繊維表面で行わせるという方法は初めての技術である。この方法は、従来法によるアパタイトの繊維への定着の状況とは異なり、繊維表面をアパタイトが被覆して、あたかも、アパタイト−繊維複合体が形成されたような形となる。アパタイト粒子が繊維表面に付着する量は、カルシウムイオン溶液のカルシウムイオン濃度とリン酸溶液のリン酸濃度を調節することにより、任意に繊維1グラム当たり0.8グラムまで調節できる。また、反応液のpH、温度条件を調節することによっても、アパタイトの付着量を調節できる。従って、所望のアパタイトシートを得るためにはこれらの条件を定めておけばよい。
【0008】
【実施例】0.5M硝酸カルシウム溶液1000mlにパルプ(NBKP、SR30)を混入させ、pH8,温度50℃の条件で、1.0Mリン酸水素ニアンモニウム溶液300mlを滴下しアパタイト−パルプ複合体を合成した。このアパタイト−パルプ複合体をシートマシンを使って、坪量20g/m2のシートを抄造した結果、アパタイトがパルプ1グラム当たり、0.8グラム定着したアパタイトシートを製造することができた。パルプを合成段階で混入させないで合成したアパタイトをパルプと配合して抄造した場合はアパタイトの定着量はパルプ1グラム当たり0.1グラムであった。上記本発明実施例のフローシートを図1に示す。この図1中、HApは水酸アパタイトを示す。
【0009】
【発明の効果】以上述べて来た如く、本発明によれば、アパタイト粉体を湿式合成すると同時にパルプ表面にアパタイト粒子を結晶化・定着させ、高分子定着剤を使用することなく、アパタイトが任意の量配合されたアパタイトシートを製造することが可能である。そしてこれらのアパタイトシートは、繊維とアパタイトの他には不純物がないため、化学、生化学分野での分析用口紙などへの利用ができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施例によるHApシートの製造方法を示すフローシートである。
【図2】従来方法によるHApシートの製造方法のフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アパタイト粉体が繊維上に結晶化・付着したシート状構造体から成ることを特徴とするアパタイトシート。
【請求項2】 アパタイトの湿式合成段階で繊維上にアパタイトを結晶化・付着させることにより、アパタイト−繊維複合体を合成した後、それを抄造することを特徴とするアパタイトシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】第2776998号
【登録日】平成10年(1998)5月1日
【発行日】平成10年(1998)7月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−68842
【出願日】平成3年(1991)3月8日
【公開番号】特開平7−88819
【公開日】平成7年(1995)4月4日
【審査請求日】平成8年(1996)6月24日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【上記1名の復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 教晴
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【上記1名の代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 教晴 (外1名)
【参考文献】
【文献】特開 昭63−100006(JP,A)
【文献】特開 昭59−68204(JP,A)
【文献】特開 平3−16955(JP,A)