説明

アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌由来の発症防御抗原である新規組換え蛋白

【課題】アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌に対して、有効でかつ安全性に優れた免疫化抗原である蛋白、および該蛋白を用いた非ヒト動物の免疫化方法、ならびに前記蛋白を調製するのに好適に使用されるモノクローナル抗体、およびハイブリドーマを提供する。
【解決手段】特定の塩基配列またはアミノ酸配列から作製され、かつ受託番号がFERM P−21060であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体(MAb)Hpg8C1Cと反応し、抗アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体免疫血清に含まれる血清型特異的赤血球凝集抑制(HI)抗体を吸収することを特徴とする組換え蛋白、ならびにこの組換え蛋白を非ヒト動物の皮下又は筋肉内に投与して血清型特異的HI抗体価を誘導することを特徴とする非ヒト動物、特に鳥類の免疫化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アビバクテリウム・パラガリナラム(Avibacterium paragallinarum)C型菌の感染防御抗原である赤血球凝集素(以下「HA」という。)に存在する免疫原性の高いエピトープをコードする遺伝子領域を特定し組換え蛋白として得ることであり、この蛋白を用いて非ヒト動物、特に鳥類を免疫化する方法に関するものである。菌名はこれまでヘモフィルス・パラガリナラム(Haemophilus paragallinarum)と呼ばれていたが、Blackallらが再分類し、アビバクテリウム・パラガリナルム(Avibacterium paragallinarum)と呼ぶことを提唱し正式名称となっている。(例えば、非特許文献1を参照。)
【背景技術】
【0002】
アビバクテリウム・パラガリナラムは、伝染性コリーザと呼ばれる家禽の呼吸器伝染病の原因菌である。症状は鼻汁の漏出、顔面の腫脹、流涙等であり致死率は低いが、他の感染症を併発した場合には重症化する。養鶏産業においては産卵開始の遅延、産卵率の低下による大きな経済的損失を引き起こす伝染病である。血清型についてはPageが凝集反応に基づいて3つの型が存在することを報告し、それぞれA、B、C型と呼ばれる(例えば、非特許文献2を参照。)。これらの血清型間の交差免疫が成立しないことがKumeらの報告によって明らかにされている(例えば、非特許文献3、4、5、6を参照。)。
【0003】
アビバクテリウム・パラガリナラム全菌体を鶏に接種すると、赤血球凝集抑制(HI)抗体の産生が促され、このHI抗体価と防御効果とが相関することから赤血球凝集素(HA)が重要な防御抗原であると考えられている。Kumeらは、A型菌にはHA−L(易熱性、トリプシン感受性)、HA−HL(易熱性、トリプシン耐性)、HA−HS(耐熱性、トリプシン耐性)の3種類のHAが存在し、このうち感染防御に関与するのは血清型特異性のあるHA−Lのみであることを報告している。YamaguchiとIritaniはA型菌のHAをタイプ1HA(易熱性、蛋白分解酵素感受性)及びタイプ2HA(易熱性、蛋白分解酵素耐性)の2種類に分類した(例えば非特許文献7を参照。)。KumeらのHA−L及びHA−HLは、それぞれIritaniらのタイプ1HA及びタイプ2HAに相当すると考えられている。C型菌においては、易熱性、トリプシン感受性のHA抗原が存在し、A型菌とは抗原性が異なるHAであることが報告されている(例えば非特許文献8を参照。)。また、YamaguchiらはHA性を欠如したC型菌変異株の感染防御能が変異前と比較して明らかに低下したことから、C型菌特異的なHA抗原が病原性と免疫原性に重要な役割を果たしていることを報告している(例えば非特許文献9を参照。)。このようにアビバクテリウム・パラガリナラムの感染防御抗原はHAがその重要な役割を担うことが報告されている。
【0004】
アビバクテリウム・パラガリナラムA型菌のHA遺伝子のクローニングについては、Takagiらがヘモフィルス・パラガリナラム(Haemophilus paragallinarum)A型菌(アビバクテリウム・パラガリナラムと同じ)221株のゲノムDNAから2.57キロベースペア(以下「kbp」と記す。)の遺伝子断片をクローニングし、この組換え大腸菌が弱い防御活性を持つことを報告したが、塩基配列が報告されていないために詳細は不明である(例えば非特許文献10を参照。)。Hobbらは、Takagiらが作製したモノクローナル抗体(以下「MAb」と記す。)を用いてA型菌5株、B型菌2株、C型菌4株、計11株から1kbp程の遺伝子断片をクローニングし遺伝子配列を解析したが、それらの蛋白の免疫原性は確認していない(例えば非特許文献11を参照。)。Tokunagaらはアビバクテリウム・パラガリナラムA型菌221株のゲノムDNAから8,930ベースペア(以下「bp」と記す。)の遺伝子断片をクローニングし、その塩基配列を報告している(例えば特許文献1を参照。)。この遺伝子断片には6.1kbpのORFが含まれ、このORF中に含まれる3.5kbpの遺伝子断片と4.1kbpの遺伝子断片を挿入した組換え大腸菌の菌体破砕液をそれぞれ10羽の鶏に免疫した各10羽の鶏のうち7羽が攻撃に対して防御したことを報告した。山元らは、ヘモフィルス・パラガリナラムA型菌221株のゲノムDNAから2,016bpのHPA2.0をクローニングし、この遺伝子断片から作製した組換え蛋白を免疫した10羽の鶏のうち10羽が攻撃に対して発症防御を示したことを報告している(例えば特許文献3を参照。)。
【0005】
アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌のHA遺伝子のクローニングについては、Tokunagaらが、ヘモフィルス・パラガリナラムC型菌53−47株のゲノムDNAから13.5kbpの遺伝子断片をクローニングし,そのうちの7,486bpの遺伝子配列を解析した。この遺伝子領域内に2,039アミノ酸からなるORFが存在し、このORFがA型菌の2,042アミノ酸からなるORFと遺伝子間相同性がおよそ80%であったことを報告した(例えば特許文献2を参照。)。また、このORF全長を発現した組換え蛋白が精製抗原を免疫して得られたHI活性を有する抗モルモット血清と反応したことを報告している。しかし、この組換え蛋白の鶏に対する免疫原性は確認されていない。
【0006】
上記のようにアビバクテリウム・パラガリナラムC型菌のHAをコードする遺伝子に関係した報告があるが、リコンビナントワクチンの抗原に応用可能な免疫原性を有する組換え蛋白とそれをコードする遺伝子領域は未知である。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,919,080号 B2 明細書
【特許文献2】特開2004−57078号公報
【特許文献3】特開2005−218414号公報
【非特許文献1】J.Syst.Evol.Microbiol,2005,55,p353−362
【非特許文献2】American Journal of Veterinary Reseach, 1962, 23, p85−95
【非特許文献3】The Japanease Journal of Veterinary Science, 1978, 40, p65−73
【非特許文献4】American Journal of Veterinary Research, 1980, 41, p97−100
【非特許文献5】American Journal of Veterinary Research, 1980, 41, p757−760
【非特許文献6】The Japanease Journal of Veterinary Science, 1980, 42, p673−680
【非特許文献7】The Japanease Journal of Veterinary Science, 1980, 42, p709−711
【非特許文献8】American Journal of Veterinary Research, 1982, 43, p1311−1314
【非特許文献9】Avian Diseases, 1993, 37, p970−976
【非特許文献10】The Journal of Veterinary Medical Science, 1991, 53(5),p917−920
【非特許文献11】Microbiology, 2002, 148, p2171−2179
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アビバクテリウム・パラガリナラム不活化全菌体を用いたワクチンは注射局所の腫脹等の一過性の副作用が生じる場合があり、養鶏産業の生産性に悪影響を及ぼすことから、副作用の少ないワクチンが望まれている。その解決策の1つとしてリコンビナントワクチンの開発が容易に思いつくが、その主成分となる組換え抗原を作製するために必要な遺伝子配列もしくはアミノ酸配列については、A型菌ではいくつかの報告があるものの、C型菌については報告されていない。本菌は血清型間に交差性が認められないことから、組換え抗原はそれぞれの血清型について開発する必要があり、A型菌の知見は殆ど参考にならない。さらに、実用性の面から1回の接種で免疫を付与することができる強い免疫原性を有する組換え蛋白の開発が望まれている。
したがって、本発明の課題は、アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌に対して、有効でかつ安全性に優れた免疫化抗原である蛋白、および該蛋白を用いた非ヒト動物の免疫化方法を提供することにある。また、前記蛋白を調製するのに好適に使用されるモノクローナル抗体、及びハイブリドーマを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこれらの課題を解決するために種々の検討を行った結果、1回接種で十分な免疫を付与する組換え蛋白をコードする遺伝子領域を特定してリコンビナントワクチンに応用可能な組換え蛋白を作出するに至った。すなわち、配列番号1で示された塩基配列またはアミノ酸配列から作製され、かつ受託番号がFERM P−21060であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体(MAb)Hpg8C1Cと反応し、抗アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体免疫血清に含まれる血清型特異的赤血球凝集抑制(HI)抗体を吸収することを特徴とする組換え蛋白である。
【0010】
本発明の第二は、配列番号1で示された塩基配列またはアミノ酸配列から作製され、かつ受託番号がFERM P−21060であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体(MAb)Hpg8C1Cと反応し、抗アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体免疫血清に含まれる血清型特異的赤血球凝集抑制(HI)抗体を吸収することを特徴とする組換え蛋白を、非ヒト動物に投与することを特徴とする非ヒト動物の免疫化方法である。非ヒト動物は鳥類であることが好ましい。
【0011】
本発明の第三は、上記モノクローナル抗体を産生する受託番号がFERM P−21060であるハイブリドーマHpg8C1Cとこれにより産生されるモノクローナル抗体である。本モノクローナル抗体を用いることによって、上記配列番号1に示した組換え蛋白に含まれるエピトープの特定が可能となり、組換え蛋白の免疫原性を確認することができる。本モノクローナル抗体はアビバクテリウム・パラガリナラムA型菌とは反応せずC型菌に特異的に反応し、高いHI活性を有し、アビバクテリウム・パラガリナラムA型菌には反応せずC型菌と特異的に反応し、可溶化(2%SDS存在下で100℃5分感作)抗原とは反応せず、高いHI活性を有し、塩基配列とアミノ酸配列を配列番号1に示した組換え蛋白HPC5.5と反応し、かつ配列番号1の塩基配列の5’末端が333bpもしくはN末のアミノ酸配列が111個欠損したHPC5.1とは反応しないという特徴を有する抗体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組換え蛋白をワクチン抗原として利用し、この分野における公知の技術を用いてアジュバントと混合してリコンビナントワクチンを作製し、非ヒト動物の筋肉内または皮下に投与して非ヒト動物を免疫化することによってアビバクテリウム・パラガリナラムC型菌を原因とする鶏伝染性コリーザを予防する効果が得られる。このリコンビナントワクチン接種による副作用は従来の鶏伝染性コリーザワクチンよりも弱いという利点を有し、例えば、産卵率等の養鶏産業の生産性に寄与することが期待できる。
したがって、本発明は、前記組換え蛋白を筋肉内または皮下投与して鳥類を免疫化する方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の組換え蛋白は、配列番号1で示された塩基配列から作製される、または配列番号1で示されたアミノ酸配列から作製され、かつ受託番号がFERM P−21060であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体(MAb)Hpg8C1Cと反応し、抗アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体免疫血清に含まれる血清型特異的赤血球凝集抑制(HI)抗体を吸収することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の組換え蛋白は、MAb Hpg8C1Cと反応し、抗アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体免疫血清に含まれるHI抗体を吸収する物性を有するものであれば、前記配列番号1で示された塩基配列において1もしくは数個の塩基配列が欠失、置換もしくは付加されていてもよく、前記配列番号1で示されたアミノ酸配列においても、1もしくは数個のアミノ酸配列が、欠失、置換もしくは付加されていてもよい。
【0015】
前記アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌としては、例えば、アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌KA株が挙げられるが、これは日本国内で分離された株であり、株式会社微生物化学研究所が製造販売する伝染性コリーザワクチンに用いられている菌株である。本発明においては、前記アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌は、微生物学的に同一のものであればよく、株名等は特に限定されるものではない。
【0016】
本発明で使用されるモノクローナル抗体(MAb)Hpg8C1Cは、アビバクテリウム・パラガリナラムA型菌には反応せずC型菌と特異的に反応し、可溶化(2%SDS存在下で100℃5分感作)抗原とは反応せず、高いHI活性を有し、塩基配列とアミノ酸配列を配列番号1に示した組換え蛋白HPC5.5と反応し、かつ配列番号1の塩基配列の5’末端が333bpもしくはN末のアミノ酸配列が111個欠損したHPC5.1とは反応しないという特徴を有する抗体である。本発明においてはこのMAb Hpg8C1Cとの反応性を見ることで所望の組換え蛋白を効率的に選択することができる。なお、MAbは以下のようにして作製することができる。
【0017】
MAbは例えば、免疫材料としてアビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体を常法に従って動物に接種するかまたは動物細胞と接触させてインビボまたはインビトロで免疫化することで抗体産生細胞を得、この抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させて得られるハイブリドーマの培養上清を得ることで製造することができる。または、ヌードマウスやプリスタンを投与したマウスの腹腔内にハイブリドーマを接種し、腹水を採取して精製することによっても製造することができる。MAbのスクリーニングは前記ハイブリドーマの培養上清を試料としてHI抗体価測定によって行う。実施例に示すように、組換え蛋白HPC5.5とHPC5.1を用いたELISA試験を併用することによってより効率的なスクリーニングが可能となる。MAbの特異性は、A型菌HA抗原を用いたHI試験においてHI活性を示さず、イムノドットブロット法でA型菌と反応しないこと、2%SDS存在下で100℃5分感作して可溶化処理した抗原とは反応しないことによって確認される。HI試験とイムノドットブロット法は後述の実施例に記載の方法を用いて実施することができる。
【0018】
前記抗体産生細胞の由来は、特に限定されず、マウス、ラット、ウマ、ウサギ等の動物の脾細胞の中から、ミエローマとの適合性等を考慮して適宜選択して用いることができるが、好ましくはマウス由来の脾細胞である。
【0019】
前記抗体産生細胞と融合されるミエローマ細胞としては、マウス、ラット、ウマ、ヤギ、ウサギ等に由来するものが挙げられる。好ましくは前記抗体産生細胞と同種の動物に由来するものであることが望ましい。例えば、抗体産生細胞がマウスの脾細胞に由来する場合、その融合の相手としては、マウスから得られた骨髄腫株化細胞等のミエローマ細胞を用いることが好ましい。なお、前記抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、公知の方法、例えば、Nature 256,495−497(1975)に記載の方法、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 7,5122−5126(1981)に記載の方法またはこれらに準ずる方法によって行うことができる。抗体産生細胞とミエローマ細胞とが融合し、抗体産生能および増殖能を獲得したハイブリドーマの選択は、通常の選択用培地を用いる培養によって行うことができる。
【0020】
上記の方法で得られるハイブリドーマのうち、アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌に特異的な高いHI活性を有し、塩基配列とアミノ酸配列を配列番号1に示した組換え蛋白HPC5.5と反応し、かつ配列番号1の塩基配列の5’末端が333bpもしくはN末のアミノ酸配列が111個欠損したHPC5.1とは反応しないMAb Hpg8C1Cを産生するハイブリドーマ「Mouse−Mouse hybridoma Hpg8C1C」を平成18年10月11日付けにて独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託し、受託番号「FERM P−21060」が付されている。本発明では、この受託番号が付されたハイブリドーマを用いることで、MAb Hpg8C1Cを効率よく得ることができる。
【0021】
また、本発明の組換え蛋白は、抗アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体免疫血清に含まれる血清型特異的赤血球凝集抑制(HI)抗体を吸収する。
【0022】
前記抗アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体免疫血清は、非ヒト動物、例えばニワトリ、モルモット、ウサギ、マウス、ラット等をC型菌不活化全菌体で免疫して得られた抗血清であればよく、動物種や菌株を特に限定するものではない。また、本発明の組換え蛋白が前記HI抗体を吸収することは、後述の実施例に記載の方法に準じて確認することができる。
【0023】
前記特徴を有する本発明の組換え蛋白は、例えば、前記MAbのエピトープをコードするゲノムDNAのスクリーニングを行った後、免疫原性の確認等して組換え蛋白を特定することで調製することができる。各工程を以下に説明する。
【0024】
[MAbのエピトープをコードするゲノムDNAのスクリーニング]
抗体スクリーニングが可能なラムダファージベクターに、制限酵素処理によって断片化したゲノムDNA断片を挿入して、ゲノムDNAライブラリーを作製し、プラーク上に発現させた組換え蛋白をMAbを用いてスクリーニングを行う。ゲノムDNAの制限酵素処理は、5〜10kbpのサイズの断片が多く含まれるように調整することが好ましく、5×106個ほどのプラークをスクリーニングして陽性クローンが得られない場合には、ゲノムDNAライブラリーを再度作製してスクリーニングを行う。
【0025】
[組換え蛋白の特定]
図1に示したように、様々な長さのゲノムDNA断片を大腸菌発現系のプラスミドにサブクローニングして組換え大腸菌を作製し、組換え蛋白を発現させ、分離精製して、MAbとの反応をイムノドットブロット法で解析する。また、アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体に対するHI抗体価が640倍ほどの抗血清(ポリクローナル抗体)を用意し、各組換え蛋白と反応させた後に遠心除去し、組換え蛋白のHI抗体吸収能を測定する。表1のHPC5.5のように吸収操作によって640倍の抗体価を20倍に低下させるHI抗体吸収能を有し、かつ多くのMAbと反応する組換え蛋白を選択する。ポリクローナル抗体は、アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体を接種した動物から得られる免疫血清であればよく、不活性化方法、動物の種類や免疫血清の採取方法等について特に限定はない。
【0026】
[組換え蛋白の免疫原性の確認]
ワクチン抗原としての有効性を確認する為に、前記の組換え蛋白に適当なアジュバントを加えた試作ワクチンを作製して鶏に免疫する。免疫前と免疫4週後にHI抗体価を測定し、免疫4週後にアビバクテリウム・パラガリナラムC型菌の強毒株を鼻腔内に接種して攻撃する。HI抗体価が免疫前と比較して上昇していることと、組換え蛋白免疫群の発症防御率が100%であることを確認する。また抗原の安全性を確認するために、不活化全菌体抗原と組換え蛋白を用いた試作ワクチンを作製し、鶏に免疫してその注射局所における副反応を観察し比較して、組換え抗原の安全性が不活化全菌体抗原よりも優れていることを確認する。
【0027】
[組換え蛋白の製造]
本発明の組換え蛋白は、例えば、前記配列番号1で示される塩基配列またはその改変塩基配列をプラスミドベクターに挿入し、これを用いて組換え大腸菌を作製し、組換え蛋白の発現を誘導し、組換え蛋白を分離精製することによって本発明の組換え蛋白を大量に得ることができる。分離精製方法としては、公知の方法であれば特に限定はない。なお、得られた組換え蛋白は、前記と同様に免疫原性を確認する。
【0028】
以上のようにして得られる本発明の組換え蛋白は、非ヒト動物のワクチンとして使用することができる。前記組換え蛋白をワクチン抗原として使用する場合は、常套手段に従って、その有効量を非ヒト動物に皮下または筋肉内に投与して血清型特異的HI抗体を誘導することで行うことができる。
【0029】
本発明の組換え蛋白をワクチン抗原として使用する場合、アジュバント等と混合したワクチン組成物とするのが好ましい。
【0030】
前記ワクチン組成物に用いられるアジュバントとしては、油性アジュバントを含むのが好ましい。油性アジュバントは、ワクチン、特に動物用ワクチンのアジュバントとして好適に用いられている。本発明に用いられる油性アジュバントを用いたオイルワクチンのタイプとしては、任意の油中水(W/O)型エマルション、水中油(O/W)型エマルション及びW/O/W型エマルションが含まれ、これらは重篤な副作用を起こすことなく動物に投与し得る。通常、エマルションは、水、塩水又は緩衝液(例えば、リン酸緩衝食塩水)から形成し得る水相、油相、及び1種以上の乳化剤からなり、公知の方法に従ってこれらの成分を安定なエマルションが得られるように十分に混合する。O/W型エマルション又はW/O型エマルションの製造方法は、油相と水相の相対比率及びそれらの正確な性質に関連して、適当なタイプの乳化剤を適切に選択することを含む。乳化剤によって促進され得るエマルションのタイプは、その親水性基と親油性基のバランス、HLB値として知られている油と水の相対親和性によって示される。
【0031】
適当な油の例としては、鉱物、動物、魚または植物由来の任意の代謝性油、精製または化学改質形態の代謝性油を用い得る。
魚由来の油としては、タラ肝油、サメ肝油のような代謝性油を含んでいるもの、スクアレンのような魚油由来のテルペノイド誘導体が挙げられる。動物油の由来としては、牛、豚、鶏等が挙げられる。植物油の例としては、落花生油、大豆油、椰子油、オリーブ油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、コーン油等が含まれる。
【0032】
本発明で使用できる乳化剤としては、脂肪酸置換したソルビタン界面活性剤、例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート等、並びにポリオキシエチレンソルビタンのモノエステル及びトリエステルを含む一連の界面活性剤等が挙げられる。
【0033】
前記ワクチン組成物において、W/O型エマルションの連続相中の油成分の量や、水相の量および乳化剤の量は、該ワクチン組成物中に本発明の組換え蛋白が均一に混合できる量であればよく、特に限定はない。
【0034】
また、Freund’s incomplete adjuvant等の市販のアジュバントに本発明の組換え蛋白を混合して、ワクチン組成物を調製してもよい。
【0035】
また、前記ワクチン組成物には、免疫化する動物に応じて、他の免疫可能な抗原を含有させてもよい。
【0036】
前記ワクチン組成物を注射剤とする場合には、無菌の水性または非水性の、溶液剤、懸濁剤および乳濁剤を含有してもよい。水性の溶液剤や懸濁剤には、例えば注射剤用蒸留水および生理食塩水が含まれる。非水性の溶液剤、懸濁剤には、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのような製薬学的に許容されるアルコール類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルのような界面活性剤が含まれる。このような水性、非水性の組成物はこれらの添加剤以外に湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、分散剤、安定価剤(例えばラクトース)、溶解補助剤(例えばグルタミン酸やアスパラギン酸等)等の補助剤や防腐剤を含有してもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合または照射によって無菌化される。これらはまた無菌の固体組成物として製造し、使用前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解して使用する形態をとることもできる。
【0037】
本発明の組換え蛋白の投与量は被検体である非ヒト動物の日齢、体重、投与ルート、アジュバントの種類等によって異なり、これらを考慮して適宜設定されるが、例えば、鶏等の鳥類であれば皮下または筋肉内に通常10μg〜100μg、好ましくは30μg〜60μgを通常1回投与すれば有効である。したがって公知のワクチンに比べてコスト的に優れ、また、ワクチンによる副作用を引き起こす可能性も低くなるという利点がある。投与量は予防目的やその他の種々の条件によって変動するので、上記投与量範囲より少ない量で十分な場合もある。
【0038】
本発明の組換え蛋白は、安全で低毒性であるので、非ヒト動物中でも家禽等の鳥類に対して好適に投与することができる。
【実施例】
【0039】
次に本発明の組換え蛋白の製造方法について詳細に説明する。なお、以下の製造方法は一例であって、本明細書に開示する発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0040】
実施例1(組換え蛋白の製造)
[アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌に特異的なHI活性を有するモノクローナル抗体および該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの作製]
アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌(以下C型菌という)のHAをコードする遺伝子を同定するために、該C型菌KA株不活化全菌体でマウスを免疫し、常法に従ってMAbを作製した。
【0041】
C型菌KA株不活化全菌体を2×109CFU/mLとFreund’s incomplete adjuvant(Difco社製)を50%含むように免疫原を調整し、7週令の雌のBALB/cマウスの背部皮下に3週毎に2回、0.1mL注射した。2回目を注射した3週後に、1×108CFUの不活化C型菌KA株を含むPBSをおよそ50μL静脈内注射し、3日後にマウスの脾細胞と骨髄腫細胞を常法に従って融合し、ハイブリドーマを作製した。得られたハイブリドーマの培養上清を該C型菌HA抗原を用いたHI試験によってスクリーニングし、限界希釈法によってクローニングした。これを3回繰り返した結果5つのハイブリドーマが得られ、これをあらかじめプリスタンで処理したマウスの腹腔内に接種して腹水を採取し、精製してそれぞれのMAb Hpg8C1C、Hpg11E11B、Hpg4G8B、Hpg24E4D、Hpg10D1Aが得られた。モノクローナル抗体の蛋白量1mgあたりのHI抗体価は、MAb Hpg8C1Cは4,571、Hpg11E11Bは1,143、Hpg4G8Bは3,556、Hpg24E4Dは3,200、Hpg10D1Aは1,600であった。免疫グロブリンのアイソタイプは24E4D、11E11B、10D1AがIgG1であり、8C1C、4G8BがIgG2aであった。
【0042】
これらのモノクローナル抗体は全てイムノドットブロットとHI試験によってA型菌221株とは反応せず、かつC型菌S1株、modesto株と反応することが確認され、C型菌に特異的であると考えられた。
【0043】
HI試験方法は、HA抗原に「コリーザA型HA抗原NP」または「コリーザC型HA抗原NP」(日本ファーマシー株式会社製)を用い、プロトコールに従って実施した。イムノドットブロットはおよそ100μLの各株の培養液をPVDF膜に染み込ませ、1%ゼラチン加TweenPBSでブロッキングし、HRP標識したMAbを反応させて発色させた。
【0044】
また、これら5種の精製MAbをHRP標識した抗体を作製し、競合ELISA試験を行ったところ、Hpg4G8Bと24E4D、11E11Bと10D1Aがそれぞれ同じエピトープを認識することが確認され、Hpg8C1Cの場合を加えて少なくとも3つの異なるエピトープの存在が示された。
【0045】
[MAbを用いたHA遺伝子のクローニング]
次に、C型菌KA株から抽出した染色体遺伝子を制限酵素Sau3AIで5kb〜10kbほどの比較的長い遺伝子断片が多く含まれるように部分消化し、「ZAP Express Vector」(Stratagene社製:La Jolla、Calif.)のBamHIサイトに連結し、「Gigapack III Gold Packaging Extract」(Stratagene社製)を用いてインビトロパッケージングを行い、得られた組換えファージを大腸菌に感作させ、寒天平板上にファージプラークを作らせた。このファージプラークをあらかじめIPTG(isopropylthiogalactoside)をしみ込ませたニトロセルロース膜に転写し、一次スクリーニングに抗C型菌KA株免疫ウサギ血清と反応させ、陽性プラークを選択し、二次スクリーニングとして前記の5つのMAb(Hpg8C1C,11E11B,4G8B,24E4D,10D1A)を混合した抗体を用いた。
【0046】
その結果一つのファージクローンが得られ、ExAssistヘルパーファージ・大腸菌XLOLRシステム(Stratagene社製)を用いてファージミドを作製した。挿入遺伝子配列を解析したところ、およそ4.8kbpの遺伝子断片であり、ジーンバンクに登録されている配列と比較したところ、Tokunagaらの報告しているアビバクテリウム・パラガリナラムC型菌53−47株のHA遺伝子(GenBank Accession No.AR303126)と99%以上の高い相同性が認められた。
【0047】
[大腸菌を用いた組換え蛋白の発現とエピトープ解析]
この挿入遺伝子断片とTokunagaらの配列をもとにPCRプライマーを設計した。具体的には、図1に示したようにhpc4.8の5’末端領域を延長した5,157、5,490bpの遺伝子断片hpc5.1、hpc5.5と、hpc5.5の3’末端を欠失させたhpc3.2とhpc2.5を作製し、これら5つの遺伝子断片をpColdIIベクター(タカラバイオ社)に挿入し、大腸菌BL21株を形質転換して組換え大腸菌を作出した。各組換え大腸菌から常法により発現させた組換え蛋白は、そのほとんどが不溶性の封入体として発現された。そこで、発現を誘導した組換え大腸菌培養液を遠心、濃縮し、公知の方法によって菌体を破砕し、その遠心沈渣を4%TritonX100加PBSで懸濁し、室温で30分震盪感作後にさらに遠心分離した。得られた沈渣をPBSで再浮遊させ、粗精製組換え蛋白を得た(なお、粗精製前後の組換え蛋白HPC5.5の状態を図2に示す)。これらの粗精製組換え蛋白と上記5つのMAbの反応パターンをイムノドットブロット法を用いて解析し、各エピトープをコードする領域を特定した。その結果を図1に示す。イムノドットブロット法は、PVDFメンブランに上記の方法で作製した粗精製組換え蛋白およそ80μgをアプライし、以降は前記の方法で行った。
【0048】
図1の結果より、MAb8C1Cは組換え蛋白HPC5.5と反応し、HPC5.1とは反応しないことが示され、これらの組換え蛋白を用いることによってより簡便にMAb8C1Cを選択することが可能になることが判明した。そこで以下の実験を行った。アビバクテリウムC型菌のゲノムDNAを鋳型としてPCRを実施しhpc5.1とhpc5.5を増幅し、これらを発現用プラスミドベクターpColdII(タカラバイオ社)に挿入して、宿主大腸菌E.coli BL21株を形質転換して組換え大腸菌を作製し、組換え蛋白を誘導して前記の方法で分離精製した。得られた粗精製組換え蛋白を1ウェルあたり3μgELISAプレートに固相化し、1%ゼラチン加TweenPBSでブロッキングした後にハイブリドーマ「Mouse−Mouse hybridoma Hpg8C1C」(FERM P−21060)の培養上清をサンプルとしてアプライ、3回洗浄し、二次抗体としてHRP標識した抗マウスIgG抗体を反応させた後に3回洗浄し、ジアミノベンジジン発色液で発色させ、波長492nmで吸光度を測定してELISA試験を実施した。結果としてはハイブリドーマ「Mouse−Mouse hybridoma Hpg8C1C」(FERM P−21060)の培養上清(ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体Hpg8C1C)は組換え蛋白HPC5.5とは強い反応を示し、組換え蛋白HPC5.1とは反応しないことが確認された。
【0049】
[HI抗体関連エピトープの解析]
また、上記のようにして得られる各組換え蛋白のC型菌KA株全菌体免疫血清に含まれるHI抗体を吸収する能力を比較した。
【0050】
従来のワクチン抗原に用いられる不活化全菌体を免疫した場合に誘導されるHI抗体と各組換え蛋白との反応を比較し、HI関連エピトープを解析するために、HI抗体吸収試験を実施した。まず、C型菌KA株の不活化全菌体をニワトリに免疫して得られたHI抗体価640倍の血清を20倍希釈した。次に上記のようにして得られた5種類の粗精製組換え蛋白100μL(総蛋白量はおよそ0.2mg)を遠心分離して上清を除きペレットとし、20倍希釈した血清100μLで再浮遊し、37℃で1時間震盪感作した。これを遠心分離し、吸収操作を5回繰り返した後に遠心上清のHI抗体価を測定した。
その結果、表1に示したようにHPC5.5が顕著にHI抗体を吸収した成績が得られ、MAb Hpg8C1Cが認識するエピトープがHI抗体を強く誘導するエピトープであることが示唆された。
【0051】
また、各組換え蛋白とアビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体にSDSを2.0W/V%加えて、沸騰水浴中で100℃5分間熱処理したところ、全ての組換え蛋白において前記の5つのMAbと反応する性質が消失したことから、可溶化抗原とは反応しないことがわかる。つまり図1右側に示したドットブロットの結果で、陽性と判定されていたところがすべて陰性となった。したがって、これら5つのMAbのエピトープが構造依存性のエピトープであることが示唆された。また、前記5つのMAbのエピトープについて、通常の可溶化抗原を用いたウェスタンブロッティングによる解析は不可能であることが確認された。
【0052】
得られた結果より、HI抗体を十分に吸収する組換え蛋白HPC5.5とこれを発現させるために必要な遺伝子配列hpc5.5を特定した。なお、前記hpc5.5の塩基配列とHPC5.5のアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。また、HPC5.1の塩基配列は配列番号1の塩基配列の5’末端が333bp欠損したものであり、そのアミノ酸配列は配列番号1のN末のアミノ酸配列が111個欠損したものである。
【0053】
【表1】

【0054】
次に本発明の組換え蛋白であるHPC5.5の特性を以下のようにして調べた。
【0055】
[組換え蛋白の免疫原性]
HPC5.5、HPC5.1、各組換え蛋白のHI抗体誘導能と発症防御能を確認するために、鶏発症防御試験を実施した。1ドーズ0.5mLに各粗精製組換え蛋白を60μgとFreund’s incomplete adjuvant(Difco社)を50%含む試作ワクチンを作製し、各群8羽の5週齢SPF鶏の脚部筋肉内に注射した。また、対照群として遺伝子断片を挿入していないプラスミドによって形質転換した大腸菌の菌対破砕液を接種した群を設けた。免疫前と免疫後4週目に採血しHI抗体価を測定した。4週目の採血直後にアビバクテリウム・パラガリナラムC型菌KA株を1.1×108CFUを含む菌液0.2mLを鼻腔内投与によって攻撃し、1週間臨床観察した。結果は表2に示したように対照群以外の2群にHI抗体価の上昇が認められ、群毎の幾何平均値はHPC5.5接種群が比較的高かった。また強毒株を鼻腔内へ攻撃した後に、対照群の鶏は全羽発症し鼻汁の漏出や顔面の腫脹、流涙という伝染性コリーザの典型的な症状を示した。発症防御率はHPC5.5免疫群が最も高く100%の防御能を示し、ワクチン抗原として最も適していることが示され、リコンビナントワクチンに応用可能な組換え蛋白であることがわかる。なお、表2のHI抗体価は各群8羽の幾何平均値を示す。
【0056】
【表2】

【0057】
[組換え蛋白の安全性]
HPC5.5とC型菌KA株不活化全菌体の安全性を比較するために、オイルアジュバントとFreund’s incomplete adjuvant(Difco社)を50%含む2つの試作ワクチンを各群10羽の鶏の脚部筋肉内に0.5mL接種して注射局所の腫脹度を観察した。HPC5.5を含む試作ワクチンは、上記の免疫原性試験と同一のものを用いた。また該C型菌不活化全菌体を含む試作ワクチンは、抗原以外はHPC5.5試作ワクチンと同一の組成とし、不活化全菌体抗原は0.5×108CFU/ドーズとした。この抗原量は市販ワクチン中に含まれる通常の量よりやや少ない量である。接種後7日目から35日目までの注射局所の腫脹度をスコア化して記録した。以下にスコアの基準を示す。0.5=肉眼所見で腫脹は認めないが、触診によりわずかな腫脹を認める。1.0=肉眼所見で腫脹が認められ、触診で明らかな腫脹を認める。2.0=肉眼所見で明らかな腫脹を認め、触診では重度な腫脹を認める。臨床症状において跛行を認める。3.0=肉眼所見で重度の腫脹を認め、触診ではピンポン球のような腫脹を呈し、臨床症状において重度の跛行を認める。結果は図3に示した。図3はスコア値を群毎の平均値として示したグラフであり、不活化全菌体免疫群よりHPC5.5免疫群が明らかに低く推移し、従来のワクチン抗原よりも安全性が高いことが確認された。
図3の結果から、HPC5.5を用いた試作ワクチンの注射局所の腫脹度は、不活化全菌体を用いた試作ワクチンよりも明らかに軽度であることが示され、HPC5.5は従来のワクチン抗原である不活化全菌体よりも安全性の高いワクチン抗原であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明を利用してアビバクテリウム・パラガリナラムC型菌を原因とする鶏伝染性コリーザのリコンビナントワクチンを開発することができる。このリコンビナントワクチンは、現在市販ワクチンに使用されている不活化全菌体抗原と比較して接種動物の注射局所の副反応が低いという利点を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、実施例1で得られた遺伝子断片の模式図、およびモノクローナル抗体を用いたイムノドットブロット法による各組換え蛋白の解析の結果を示す図である。
【図2】図2は、粗精製前後の組換え蛋白HPC5.5のSDS−PAGE像を示す。
【図3】図3は、実施例1で得られた組換え蛋白HPC5.5とC型不活化全菌体の注射局所の腫脹度の比較の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示された塩基配列から作製され、かつ受託番号がFERM P−21060であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体(MAb)Hpg8C1Cと反応し、抗アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体免疫血清に含まれる血清型特異的赤血球凝集抑制(HI)抗体を吸収することを特徴とする組換え蛋白。
【請求項2】
配列番号1で示されたアミノ酸配列で構成され、かつ受託番号がFERM P−21060であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体(MAb)Hpg8C1Cと反応し、抗アビバクテリウム・パラガリナラムC型菌不活化全菌体免疫血清に含まれる血清型特異的赤血球凝集抑制(HI)抗体を吸収することを特徴とする組換え蛋白。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組換え蛋白を非ヒト動物の皮下又は筋肉内に投与して血清型特異的HI抗体を誘導することを特徴とする非ヒト動物の免疫化方法。
【請求項4】
非ヒト動物が鳥類であることを特徴とする請求項3記載の免疫化方法。
【請求項5】
受託番号がFERM P−21060であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体Hpg8C1C。
【請求項6】
受託番号がFERM P−21060であるハイブリドーマ。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−156317(P2008−156317A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349688(P2006−349688)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(591193370)株式会社微生物化学研究所 (14)
【Fターム(参考)】