アブレーションデバイス
【課題】照射部を対象組織に対して位置決めした状態で、焦点を移動させて高密度焦点式超音波(HIFU)を照射することができるアブレーションデバイスを提供する。
【解決手段】生体組織を高密度焦点式超音波により焼灼するアブレーションデバイス1は、開口を有するハウジング21と、ハウジング内に配置されて開口から高密度焦点式超音波を照射するHIFU振動子22とを有する照射部11と、ハウジングを生体組織に固定する吸引部12と、高密度焦点式超音波の焦点位置を生体組織の深さ方向に移動させる焦点調節部とを備えることを特徴とする。
【解決手段】生体組織を高密度焦点式超音波により焼灼するアブレーションデバイス1は、開口を有するハウジング21と、ハウジング内に配置されて開口から高密度焦点式超音波を照射するHIFU振動子22とを有する照射部11と、ハウジングを生体組織に固定する吸引部12と、高密度焦点式超音波の焦点位置を生体組織の深さ方向に移動させる焦点調節部とを備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象組織を焼灼する際に用いるアブレーションデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動きの少ない臓器の癌治療などを目的に、体外から高密度焦点式超音波(High intensity focused ultrasound: HIFU)を照射して対象組織をアブレーション(焼灼)する高密度焦点式超音波療法が知られている。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
一方、心房細動等の不整脈を治療する一方法として、心臓にデリバリーしたカテーテルを用いて異常興奮している一部組織を焼灼して沈静化させるカテーテルアブレーションが行われており、このアブレーションにHIFUを用いることが検討されている。
【0004】
心臓は、拍動や呼吸等により絶えず動いているため、焼灼しようとする対象組織も絶えず動いているので、特許文献1に記載の装置をそのまま適用しても、心臓の対象組織に対して的確にアブレーションを行うことは困難である。
この問題を解決するために、特許文献2には、バルーンを用いてアブレーションデバイスを組織に対して位置決めする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4292326号
【特許文献2】特表2006−518648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、対象組織の動きに対して位置決めすることはできても、その状態におけるHIFUの焦点位置は固定されているため、必ずしも焼灼したい位置に焦点が合っているとは限らない。焦点がずれている場合は、HIFUの出力を上げることで狙った位置を焼灼することは可能であるが、周囲の本来焼灼すべきでない組織まで焼灼してしまう。
本来焼灼すべきでない組織まで焼灼してしまうと、手技後の心機能が過度に低下し、患者の予後等に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0007】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、照射部を対象組織に対して位置決めした状態で、焦点を移動させてHIFUを照射することができるアブレーションデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生体組織を高密度焦点式超音波により焼灼するアブレーションデバイスであって、開口を有するハウジングと、前記ハウジング内に配置されて前記開口から前記高密度焦点式超音波を照射するHIFU振動子とを有する照射部と、前記ハウジングを前記生体組織に固定する固定部と、前記高密度焦点式超音波の焦点位置を前記生体組織の深さ方向に移動させる焦点調節部とを備えることを特徴とする。
【0009】
前記固定部は、前記生体組織との間に密閉空間を形成して前記生体組織と接触する接触部材と、前記密閉空間を陰圧にする陰圧機構とを有してもよいし、膨張および収縮可能なバルーンを有してもよい。
【0010】
前記焦点調節部は、一方の端部が前記HIFU振動子に対して固定された駆動軸と、前記ハウジングに対して前記駆動軸を進退させる駆動部とを有してもよい。
【0011】
前記照射部において、前記開口は前記ハウジングの長手方向に平行な面に形成され、前記ハウジングの内部先端側に、前記高密度焦点式超音波の照射方向を変化させる反射部材が配置されてもよい。
【0012】
本発明のアブレーションデバイスは、長尺の挿入部をさらに備え、前記照射部および前記固定部が前記挿入部の先端側に設けられてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアブレーションデバイスによれば、照射部を対象組織に対して位置決めした状態で、対象組織の深さ方向に焦点を移動させてHIFUを照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態のアブレーションデバイスの概略構成を示す図である。
【図2】同アブレーションデバイスの挿入部先端側を一部断面で示す図である。
【図3】同アブレーションデバイスの使用時の動作を示す図である。
【図4】同アブレーションデバイスの変形例における使用時の動作を示す図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係るアブレーションデバイスの先端側を示す拡大図である。
【図6】図5のA−A線における断面図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係るアブレーションデバイスの先端側を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第一実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
図1は、本実施形態のアブレーションデバイス1の概略構成を示す図である。アブレーションデバイス1は、対象の生体組織をHIFUにより焼灼するものであり、図1に示すように、HIFUを照射する照射部(後述)を有する長尺の挿入部10と、照射部を駆動する駆動部30と、照射部に接続される超音波送受波回路31および高周波電源32と、装置全体の制御を行うコンピュータ(制御部)40と、術者が操作する操作部50とを備えている。
【0016】
挿入部10は可撓性を有しており、後述する焼灼時において、心臓の拍動に追随して変形および変位することができる。挿入部10の具体的構成としては、公知のアブレーションカテーテルと同様の構成を採用することができる。
【0017】
図2は、挿入部10の先端側を一部断面で示す図である。挿入部10の先端部には、HIFUを照射する照射部11と、照射部11を心臓に対して固定するための吸引部(固定部)12とが設けられている。照射部11は、先端側に開口を有するハウジング21と、ハウジング21内に配置されたHIFU振動子(以下、単に「振動子」と称する。)22と、HIFU振動子22を移動させる駆動軸23とを備えている。
【0018】
ハウジング21は、金属等により先端側が開口した略円筒形に形成されており、先端開口が挿入部10の先端と面一(略面一を含む)となるように挿入部10に取り付けられている。ハウジング21の基端側の底面21Aには、ハウジング21の内腔に対して音響媒体を供給および回収する供給管路24および回収管路25が開口している。供給管路24および回収管路25は、挿入部10内を通って挿入部10の基端側まで延びている。
【0019】
振動子22は、ケーシング26に収められた状態でハウジング21の内腔に配置されている。振動子22は、球面上の音響放射面22Aを有しており、照射されたHIFU等の超音波を所定の焦点に収束するよう照射することができる。音響放射面22A状には図示しない整合層が形成されており、基端側の背面には図示しないバッキング層が設けられている。振動子については、所定の焦点にHIFUを収束照射することができるものであれば、その具体的構成に特に制限はないため、例えば公知の音響レンズを備え、当該音響レンズにより超音波を収束する構成をとってもよい。
【0020】
駆動軸23は、ハウジングの底面21Aを貫通してケーシング26に接続されている。したがって、駆動軸23を軸線方向に進退することにより、ケーシング26およびケーシング26に収容された振動子22をハウジング21内で挿入部10の軸線方向に移動させることができる。駆動軸23が挿通された底面21Aの穴には、図示しないOリング等が取り付けられており、駆動軸23とハウジング21との間を水密に保っている。駆動軸23内には、図示しない配線が延びており、当該配線によって、振動子22と後述する切替器とが接続されている。
また、駆動軸23には、図示しないエンコーダ等の変位量検出手段が設けられており、駆動軸23の進退量は、随時コンピュータ40に送信される。
【0021】
吸引部12は、挿入部10の先端側に設けられた吸引パッド(接触部材)13と、吸引パッド13に接続された吸引管路14とを有する。吸引パッド13は、ゴムやエラストマー等により略ドーナツ状に形成されており、挿入部10を先端側から見たときに、ハウジング21の先端側を囲むように配置されている。吸引パッド13の先端側の面には、環状かつ断面形状が樋状の吸引溝13Aが設けられている。
【0022】
吸引管路14は、吸引パッド13を厚さ方向に貫通する貫通孔13Bの基端側開口と連通されており、挿入部10内を通って基端側に延びている。貫通孔13Bの先端側の開口は、吸引溝13Aに形成されており、吸引溝13Aと貫通孔13Bとは連通している。
【0023】
駆動部30はモータ等の公知の機構を有し、図1に示すように挿入部10の基端側に設けられている。駆動部30と駆動軸23とにより、HIFUの焦点位置を移動させる焦点調節部が構成されている。
超音波送受波回路31は、後述する超音波減衰量推定のための検査用超音波を送受信するものであり、高周波電源32は、組織焼灼のためのHIFUを発生させるものである。超音波送受波回路31および高周波電源32は、切替器33を介して配線34により振動子22と接続されている。したがって、切替器33を操作することにより、振動子22に送信される超音波を選択的に切り替えることが可能である。
【0024】
吸引管路14、供給管路24、回収管路25は、それぞれ独立して配管等によりポンプ35に接続されている。ポンプ35には、図示しない音響媒体供給源が接続されており、吸引管路14、供給管路24、回収管路25に対してそれぞれ独立に吸引、流体の供給、および回収を行うことができる。吸引管路14と、ポンプ35とにより、吸引溝13A内を陰圧にする陰圧機構が形成されている。
【0025】
コンピュータ40は、駆動部30、超音波送受波回路31、高周波電源32、切替器33、およびポンプ35と接続されている。コンピュータ40は、操作部50を介した術者の操作又は所定のプログラムに基づいて、接続された各機構の動作を制御する。コンピュータ40は、モニター41と接続されており、アブレーションデバイス1各部の情報や照射部11により取得された各種情報をモニター41に表示することができる。
操作部50は、例えばペダル51とキーボード52等を有し、操作することによりコンピュータ40に命令を送ることができる。操作部50には、他の公知の各種インターフェースが備えられてもよい。
【0026】
上記のように構成された本実施形態のアブレーションデバイス1の使用時の動作について、心筋組織の焼灼を行う場合を例にとり説明する。
まず術者は、患者の胸壁に穴を開けてトラカールやガイディングカテーテル等の導入器具を挿入し、胸腔へのアクセス経路を確立する。次に、アブレーションデバイス1を挿入部10の先端側から導入器具に挿入する。そして、別途胸腔内に挿入した胸腔鏡等の観察手段により挿入部10の先端を観察しながら、心臓のうち焼灼する対象部位付近まで挿入部10の先端を進める。対象部位の特定は、公知の心臓マッピング等により行う。
【0027】
挿入部10の先端が対象部位に到達したら、術者は、対象部位を覆う心嚢膜に挿入部10の先端面を押し当てて吸引パッド13を心嚢膜に密着させる。これにより、心嚢膜と吸引パッド13との間に位置する吸引溝13Aが密閉空間となる。この状態で操作部50を操作してポンプ35により吸引管路14の吸引を行うと、吸引溝13A内が陰圧となり、挿入部10の先端が心嚢膜に密着保持される。これにより、ハウジング21が心臓に対して固定され、照射部11が心臓に対して位置決めされる。
【0028】
続いて、術者は供給管路24から音響媒体Amを供給し、図3に示すようにハウジング21の内腔に充填する。音響媒体Amとしては、生理食塩水(生食)等の流体を好適に用いることができる。挿入部10の先端は吸引部12により心嚢膜に密着されているため、ハウジング21の先端開口から音響媒体Amが漏れることはない。音響媒体Amの充填をスムーズに行うために、適宜回収管路25からハウジング21内の空気等を吸引排出してもよい。ハウジング21の内腔が概ね音響媒体Amで満たされると、振動子22から好適に超音波を照射可能な状態となる。
【0029】
次に術者は、対象部位の深さ方向における組織評価を行う。切替器33を操作して超音波送受波回路31と振動子22とを接続し、振動子22から比較的弱い観察用の超音波を対象部位に照射し、反射波を振動子22で受信する。観察用の超音波を照射する際は、駆動部30を操作して照射部11を前進させ、焦点を徐々に対象部位の深部に向かって移動させながら照射する。心嚢膜における心外膜および心内膜の位置では、その前後で音響インピーダンスに大きな差があるため、エコー信号が大きくなるため、アウトプットが大きく変化するポイントをとらえることにより、心外膜および心内膜の位置を確認することができる。なお、照射部11を進退させるときに、回収管路25からハウジング21内の音響媒体Amを回収しつつ、供給管路24から音響媒体Amをハウジング21内に供給するとスムーズに進退させることができる。
【0030】
心筋組織のように厚さ方向にわたってほぼ均質な構造を有する組織を対象とする場合、厚さ方向にわたってほぼ均一な音響インピーダンスを持つと仮定する(すなわち、振動子22の焦点位置における超音波強度は組織中での減衰がなければ一定となると仮定される。)ことにより、容易に組織内における超音波減衰量を推定することができる。すなわち、心筋内において超音波が進む深さ方向に離間した少なくとも2点の焦点位置超音波受波信号強度を取得すれば、心筋内における超音波減衰量を推定することができる。ここで、受波信号に基づいて求められる減衰は、送信時と受信時の両者の減衰が加算されていることに注意する。
【0031】
心筋組織における超音波減衰量の推定値を取得したら、対象部位の深さ方向各位置における焦点位置信号強度を設定し、これに基づいて、深さ方向各位置において振動子22に供給されるHIFUのエネルギー強度が算出、決定される。本実施形態では、深さ方向にわたって焦点位置信号強度が一定となるように、深さ方向各位置において振動子22に供給されるHIFUのエネルギー強度が決定される。この算出および決定は、コンピュータ40が所定のプログラムに基づいて行ってもよい。
【0032】
HIFUのエネルギー強度が決定されたら、術者は駆動軸23を操作して、照射部11を挿入部10に対して前進させ、焼灼する深さより深い位置まで照射部11の焦点を移動させてから、焦点を徐々に手元側に移動させる。焦点が焼灼位置に来たら、術者は切替器33を操作して高周波電源32と照射部11とを接続し、ペダル51を操作する等の所定の操作を行うと、振動子22から焦点に収束するようにHIFUが照射され、焼灼位置の心筋組織が焼灼される。
【0033】
焼灼中、心臓は拍動しているが、HIFUが照射される挿入部10の先端は吸引部12によって心臓に固定されているため、焼灼部位に対する照射部11の位置が拍動によってぶれることはなく、振動子22の焦点が高精度に位置決めされた状態でHIFUが照射される。照射部11を後退させながら焼灼することで、照射されたHIFUが焼灼により物性の変化した組織を通過することがなく、常に設定したエネルギー量に近いHIFUを照射して組織焼灼を行うことができる。
【0034】
焼灼したい組織が心筋の深さ方向の所定範囲にわたっている場合は、HIFUを照射しながら駆動軸23を駆動する。これにより、心筋組織を貫壁性に焼灼したり、深さ方向に離間した複数の部位を焼灼したりするなど、所望のパターンで焼灼を行うことができる。
【0035】
本実施形態のアブレーションデバイス1によれば、照射部11のハウジング21を心臓に対して固定する吸引部12を備えるため、心臓等の絶えず動いている組織を対象とした場合でも、振動子22の焦点が対象組織に高度に位置決めされる。さらに、焦点調節部を備えることにより、HIFUの焦点位置を対象組織の深さ方向に移動させることができ、より正確に狙った部位を焼灼することができる。したがって、焼灼すべき部位の周辺に存在する焼灼すべきでない組織まで焼灼することを防ぎ、焼灼処置後に心機能が過度に低下する等の事態を抑制し、患者のQOLを改善することができる。
【0036】
また、切替器33および超音波送受波回路31を備えるため、HIFUの照射前に超音波減衰量を推定することで、より適切なエネルギー量となるようにHIFUを照射することができる。
【0037】
本実施形態においては、吸引パッドと吸引管路とを有する吸引部により照射部が対象組織に位置決めされる例を説明したが、固定部の構成はこれには限定されない。
図4に示す変形例のアブレーションデバイス1Aでは、吸引パッド13とほぼ同様の材質および形状の接触パッド15が挿入部10の先端に取り付けられているが、吸引管路は存在しない。アブレーションデバイス1Aでは、挿入部10の先端を心臓Htに押し付けてから、ハウジング21内を音響媒体Amで満たす。その後、ポンプ35を操作して供給管路24Aおよび回収管路25から音響媒体Amを吸引すると、ハウジング21内が陰圧となり、心臓Htに対して固定される。
【0038】
この変形例では、照射部11の一部であるハウジング21、供給管路24A、および回収管路25が固定部を兼ねるため、より構造を簡素化することができる。なお、このような構成をとる場合、供給管路および回収管路の一方をハウジング21の先端開口の近くに連通させると、上述の吸引固定を効果的に行うことができる。図4では供給管路24Aがハウジング21の先端開口の近くに連通しているが、これに代えて回収管路が先端開口の近くに連通されてもよい。また、接触パッド15は、ハウジング21の先端開口周囲を水密に保つために設けられているが、先端開口の水密が保たれていれば、接触パッド15はなくても構わない。
【0039】
次に、本発明の第二実施形態について、図5および図6を参照して説明する。本実施形態のアブレーションデバイス51と上述のアブレーションデバイス1との異なるところは、照射部および固定部の構造である。なお、以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0040】
図5は、アブレーションデバイス61の先端側を示す断面図であり、図6は、図5のA−A線における断面図である。図5および図6に示すように、照射部62のハウジング63は、長手方向に直交する断面が略半円形に形成されており、曲面状の第一外周面63Aと平面状の第二外周面63Bとを有する。ハウジング62の先端に開口はなく、第二外周面63Bの一部に開口63Cが形成されている。開口63Cには、音響窓膜64が取り付けられ、ハウジング63内に供給された音響媒体Amが開口からハウジング外に漏れないように密封されている。音響窓膜64は、ポリエーテルブロックアミドやシリコーン等の高分子材料を用いて形成することができ、振動子22から照射される超音波を透過できる程度の薄さに形成される。
【0041】
ハウジング63内の先端側には、振動子22から照射される超音波の方向を変化させるミラー(反射部材)65が配置されている。振動子22から照射された超音波はミラー65に反射されて開口63Cから出射し、所定の焦点Fに収束する。ミラー65は、図示しない角度調整機構を有し、操作部50を介して角度調整機構を操作することにより、開口から出射される超音波の向きを一定範囲で調節することができる。
【0042】
ハウジング63の第一外周面63Aには、バルーン66が取り付けられている。バルーン66にはバルーン66内に流体を供給および回収するチューブ67が接続されている。チューブ67は、挿入部10に沿って基端側に延び、ポンプおよび流体供給源(いずれも不図示)と接続されている。
【0043】
本実施形態のアブレーションデバイス61は、スペース等の理由により焼灼部位の面に対して垂直にアプローチすることが困難な場合に好適に使用することができる。以下、剣状突起下から心臓にアプローチし、心嚢膜内に挿入部10を進めて心筋組織を焼灼する場合を例にとり、アブレーションデバイス61の使用時の動作について説明する。
【0044】
術者は第一実施形態と同様の操作で、剣状突起付近の胸壁に胸腔へのアクセス経路を確立する。胸腔鏡等で観察しながら心嚢膜を切開し、アブレーションデバイス61の挿入箇所を形成する。その後、導入器具を通してアブレーションデバイス61を胸腔内に挿入し、挿入部10先端の照射部62を心嚢膜内に挿入して焼灼部位付近まで進める。
【0045】
照射部62が焼灼部位付近に到達したら、術者は開口63Cを心筋組織に向けた状態で挿入部10を保持し、ポンプ35を操作してバルーン66に流体を送り込んで膨張させる。図5に示すように、バルーン66は開口63Cと反対側で心嚢膜Pcに向かって膨張し、その結果、開口63Cを心筋組織Mtに押し付けて密着させ、照射部62を位置決めする。その後は、第一実施形態と概ね同様の手順で焼灼部位の焼灼を行う。必要に応じてミラー65の角度を調節してもよい。
焼灼処置が終了したら、術者はポンプ35を操作し、チューブ67からバルーン66内の流体を回収して収縮させ、アブレーションデバイス61を心嚢膜外に抜去し、切開箇所を縫合する。
【0046】
本実施形態のアブレーションデバイス61においても、第一実施形態同様、振動子22の焦点を対象組織に高度に位置決めした状態でHIFUの焦点位置を移動しながら焼灼を行うことができる。
また、固定部として機能するバルーン66およびチューブ67を備え、照射部63が、側方に開口63Cを有するハウジング63およびミラー65を有しているため、心嚢膜内のように、焼灼部位の深さ方向に充分なスペースがない場合であっても、照射部を好適に位置決めして手技を行うことができる。
【0047】
さらに、開口63Cに柔軟な音響窓膜64が取り付けられているため、心筋組織Mt等の対象組織の表面形状に追従して変形し、照射部63と対象組織との密着性を向上することができる。
【0048】
次に、本発明の第三実施形態について、図7を参照して説明する。本実施形態のアブレーションデバイス71と上述の各実施形態のアブレーションデバイスとの異なるところは、照射部の構成である。
【0049】
図7は、アブレーションデバイス71の先端側を示す断面図である。照射部72のハウジング73は、第二実施形態同様、側方に開口73Cを有する。開口73Cの周囲には、固定部75が設けられている。固定部75は、吸引パッド76および吸引管路77を備えており、第一実施形態の吸引部と概ね同様の構造を有する。
【0050】
図7に示すように、アブレーションデバイス71における振動子78は、板状の複数の振動素子78Aがハウジング73の長手方向に整列されたアレイ構造を有している。各振動素子78Aは、それぞれ切替器33に接続されており、独立して超音波を送受信することができる。各振動素子78Aと切替器とを接続する配線は、ケーブル79としてまとめられて基端側に延びている。
照射部72は、駆動軸を備えず、アブレーションデバイス71としても駆動部を備えていない。したがって、振動子78は、ハウジング73内において移動しない。また、ハウジング73には、回収管路25がなく、代わりに過剰な音響媒体Amが排出される排出口73Aが形成されている。
【0051】
上記のように構成されたアブレーションデバイス71の使用時の動作について説明する。
固定部75を用いてハウジング73の開口73Cが心臓Htに密着するように照射部72を位置決め固定するまでの動作は、概ね第一実施形態と同様である。
振動子22から超音波を照射する際は、各振動素子78Aに印加する駆動電圧の位相を変化させることにより、焦点位置を心臓Htの深さ方向に移動させることができる。また深さ方向を維持したまま、振動素子78Aの整列方向(ハウジングの長手方向と同一)に一定範囲焦点位置を移動させることも可能である。このように、本実施形態では、振動子78自体が焦点調節部の機能を発揮する構成となっている。
【0052】
本実施形態のアブレーションデバイス71においても、振動子22の焦点を対象組織に高度に位置決めした状態で、HIFUの焦点位置を対象組織の深さ方向に移動させて焼灼を行うことができる。
【0053】
また、照射部72がアレイ構造を有する振動子78を有するため、振動子78自体を移動せずに焦点位置を移動することができる。このため、振動子を移動させる機構が必要なく、構成を簡素化したり、挿入部を小径化したりすることができる。
【0054】
ただし、振動子78において焦点位置を移動する場合は、振動子自体を進退させる第一および第二実施形態と異なり、振動子と焦点位置との距離が変化するため、焦点位置に収束した超音波エネルギーの大きさそのものが焦点位置の移動に伴って変化することに注意する。したがって、超音波減衰量の推定値に基づいて各振動素子に印加する駆動電圧の大きさを設定する場合、振動子と焦点位置との距離と収束した超音波エネルギーの大きさとの関係をテーブル化する等によりコンピュータ40に記憶させるなどして、これを反映した設定が行われるように演算を行うのが好ましい。
【0055】
本実施形態において、振動子における各振動素子の形状および配列態様は様々に変更することができる。例えば、直径の異なる複数のリング状の振動素子を同心円状に配置してもよいし、ハウジングの開口側から見て、複数の振動素子が格子状に配列されてもよい。各振動素子の形状および配列態様を様々に設定することで、焦点位置の調節可能方向や調節可能範囲を様々に設定することができる。
【0056】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0057】
例えば、第二実施形態の音響窓膜が第一実施形態や第三実施形態におけるハウジングの開口に取り付けられてもよいし、第二実施形態におけるバルーンおよびチューブに代えて、第一実施形態の吸引部と同様の構造を有する固定部が備えられてもよい。
【0058】
また、本発明のアブレーションデバイスの対象組織は、心臓のように絶えず動くものには限定されない。したがって、HIFUを用いた従来のがん治療が行われる組織や器官を対象とし、照射部の焦点を厚さ方向に制御して、よりピンポイントに組織焼灼を行うことも可能である。これにより、患者のQOLや生命予後を改善することが期待できる。
【符号の説明】
【0059】
1、1A、51、71 アブレーションデバイス
10 挿入部
11 照射部
12 吸引部(固定部)
13 吸引パッド(接触部材)
21、63、73 ハウジング
22、78 HIFU振動子
23 駆動軸
30 駆動部
63C、73C 開口
65 ミラー(反射部材)
66 バルーン
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象組織を焼灼する際に用いるアブレーションデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動きの少ない臓器の癌治療などを目的に、体外から高密度焦点式超音波(High intensity focused ultrasound: HIFU)を照射して対象組織をアブレーション(焼灼)する高密度焦点式超音波療法が知られている。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
一方、心房細動等の不整脈を治療する一方法として、心臓にデリバリーしたカテーテルを用いて異常興奮している一部組織を焼灼して沈静化させるカテーテルアブレーションが行われており、このアブレーションにHIFUを用いることが検討されている。
【0004】
心臓は、拍動や呼吸等により絶えず動いているため、焼灼しようとする対象組織も絶えず動いているので、特許文献1に記載の装置をそのまま適用しても、心臓の対象組織に対して的確にアブレーションを行うことは困難である。
この問題を解決するために、特許文献2には、バルーンを用いてアブレーションデバイスを組織に対して位置決めする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4292326号
【特許文献2】特表2006−518648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、対象組織の動きに対して位置決めすることはできても、その状態におけるHIFUの焦点位置は固定されているため、必ずしも焼灼したい位置に焦点が合っているとは限らない。焦点がずれている場合は、HIFUの出力を上げることで狙った位置を焼灼することは可能であるが、周囲の本来焼灼すべきでない組織まで焼灼してしまう。
本来焼灼すべきでない組織まで焼灼してしまうと、手技後の心機能が過度に低下し、患者の予後等に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0007】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、照射部を対象組織に対して位置決めした状態で、焦点を移動させてHIFUを照射することができるアブレーションデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生体組織を高密度焦点式超音波により焼灼するアブレーションデバイスであって、開口を有するハウジングと、前記ハウジング内に配置されて前記開口から前記高密度焦点式超音波を照射するHIFU振動子とを有する照射部と、前記ハウジングを前記生体組織に固定する固定部と、前記高密度焦点式超音波の焦点位置を前記生体組織の深さ方向に移動させる焦点調節部とを備えることを特徴とする。
【0009】
前記固定部は、前記生体組織との間に密閉空間を形成して前記生体組織と接触する接触部材と、前記密閉空間を陰圧にする陰圧機構とを有してもよいし、膨張および収縮可能なバルーンを有してもよい。
【0010】
前記焦点調節部は、一方の端部が前記HIFU振動子に対して固定された駆動軸と、前記ハウジングに対して前記駆動軸を進退させる駆動部とを有してもよい。
【0011】
前記照射部において、前記開口は前記ハウジングの長手方向に平行な面に形成され、前記ハウジングの内部先端側に、前記高密度焦点式超音波の照射方向を変化させる反射部材が配置されてもよい。
【0012】
本発明のアブレーションデバイスは、長尺の挿入部をさらに備え、前記照射部および前記固定部が前記挿入部の先端側に設けられてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアブレーションデバイスによれば、照射部を対象組織に対して位置決めした状態で、対象組織の深さ方向に焦点を移動させてHIFUを照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態のアブレーションデバイスの概略構成を示す図である。
【図2】同アブレーションデバイスの挿入部先端側を一部断面で示す図である。
【図3】同アブレーションデバイスの使用時の動作を示す図である。
【図4】同アブレーションデバイスの変形例における使用時の動作を示す図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係るアブレーションデバイスの先端側を示す拡大図である。
【図6】図5のA−A線における断面図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係るアブレーションデバイスの先端側を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第一実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
図1は、本実施形態のアブレーションデバイス1の概略構成を示す図である。アブレーションデバイス1は、対象の生体組織をHIFUにより焼灼するものであり、図1に示すように、HIFUを照射する照射部(後述)を有する長尺の挿入部10と、照射部を駆動する駆動部30と、照射部に接続される超音波送受波回路31および高周波電源32と、装置全体の制御を行うコンピュータ(制御部)40と、術者が操作する操作部50とを備えている。
【0016】
挿入部10は可撓性を有しており、後述する焼灼時において、心臓の拍動に追随して変形および変位することができる。挿入部10の具体的構成としては、公知のアブレーションカテーテルと同様の構成を採用することができる。
【0017】
図2は、挿入部10の先端側を一部断面で示す図である。挿入部10の先端部には、HIFUを照射する照射部11と、照射部11を心臓に対して固定するための吸引部(固定部)12とが設けられている。照射部11は、先端側に開口を有するハウジング21と、ハウジング21内に配置されたHIFU振動子(以下、単に「振動子」と称する。)22と、HIFU振動子22を移動させる駆動軸23とを備えている。
【0018】
ハウジング21は、金属等により先端側が開口した略円筒形に形成されており、先端開口が挿入部10の先端と面一(略面一を含む)となるように挿入部10に取り付けられている。ハウジング21の基端側の底面21Aには、ハウジング21の内腔に対して音響媒体を供給および回収する供給管路24および回収管路25が開口している。供給管路24および回収管路25は、挿入部10内を通って挿入部10の基端側まで延びている。
【0019】
振動子22は、ケーシング26に収められた状態でハウジング21の内腔に配置されている。振動子22は、球面上の音響放射面22Aを有しており、照射されたHIFU等の超音波を所定の焦点に収束するよう照射することができる。音響放射面22A状には図示しない整合層が形成されており、基端側の背面には図示しないバッキング層が設けられている。振動子については、所定の焦点にHIFUを収束照射することができるものであれば、その具体的構成に特に制限はないため、例えば公知の音響レンズを備え、当該音響レンズにより超音波を収束する構成をとってもよい。
【0020】
駆動軸23は、ハウジングの底面21Aを貫通してケーシング26に接続されている。したがって、駆動軸23を軸線方向に進退することにより、ケーシング26およびケーシング26に収容された振動子22をハウジング21内で挿入部10の軸線方向に移動させることができる。駆動軸23が挿通された底面21Aの穴には、図示しないOリング等が取り付けられており、駆動軸23とハウジング21との間を水密に保っている。駆動軸23内には、図示しない配線が延びており、当該配線によって、振動子22と後述する切替器とが接続されている。
また、駆動軸23には、図示しないエンコーダ等の変位量検出手段が設けられており、駆動軸23の進退量は、随時コンピュータ40に送信される。
【0021】
吸引部12は、挿入部10の先端側に設けられた吸引パッド(接触部材)13と、吸引パッド13に接続された吸引管路14とを有する。吸引パッド13は、ゴムやエラストマー等により略ドーナツ状に形成されており、挿入部10を先端側から見たときに、ハウジング21の先端側を囲むように配置されている。吸引パッド13の先端側の面には、環状かつ断面形状が樋状の吸引溝13Aが設けられている。
【0022】
吸引管路14は、吸引パッド13を厚さ方向に貫通する貫通孔13Bの基端側開口と連通されており、挿入部10内を通って基端側に延びている。貫通孔13Bの先端側の開口は、吸引溝13Aに形成されており、吸引溝13Aと貫通孔13Bとは連通している。
【0023】
駆動部30はモータ等の公知の機構を有し、図1に示すように挿入部10の基端側に設けられている。駆動部30と駆動軸23とにより、HIFUの焦点位置を移動させる焦点調節部が構成されている。
超音波送受波回路31は、後述する超音波減衰量推定のための検査用超音波を送受信するものであり、高周波電源32は、組織焼灼のためのHIFUを発生させるものである。超音波送受波回路31および高周波電源32は、切替器33を介して配線34により振動子22と接続されている。したがって、切替器33を操作することにより、振動子22に送信される超音波を選択的に切り替えることが可能である。
【0024】
吸引管路14、供給管路24、回収管路25は、それぞれ独立して配管等によりポンプ35に接続されている。ポンプ35には、図示しない音響媒体供給源が接続されており、吸引管路14、供給管路24、回収管路25に対してそれぞれ独立に吸引、流体の供給、および回収を行うことができる。吸引管路14と、ポンプ35とにより、吸引溝13A内を陰圧にする陰圧機構が形成されている。
【0025】
コンピュータ40は、駆動部30、超音波送受波回路31、高周波電源32、切替器33、およびポンプ35と接続されている。コンピュータ40は、操作部50を介した術者の操作又は所定のプログラムに基づいて、接続された各機構の動作を制御する。コンピュータ40は、モニター41と接続されており、アブレーションデバイス1各部の情報や照射部11により取得された各種情報をモニター41に表示することができる。
操作部50は、例えばペダル51とキーボード52等を有し、操作することによりコンピュータ40に命令を送ることができる。操作部50には、他の公知の各種インターフェースが備えられてもよい。
【0026】
上記のように構成された本実施形態のアブレーションデバイス1の使用時の動作について、心筋組織の焼灼を行う場合を例にとり説明する。
まず術者は、患者の胸壁に穴を開けてトラカールやガイディングカテーテル等の導入器具を挿入し、胸腔へのアクセス経路を確立する。次に、アブレーションデバイス1を挿入部10の先端側から導入器具に挿入する。そして、別途胸腔内に挿入した胸腔鏡等の観察手段により挿入部10の先端を観察しながら、心臓のうち焼灼する対象部位付近まで挿入部10の先端を進める。対象部位の特定は、公知の心臓マッピング等により行う。
【0027】
挿入部10の先端が対象部位に到達したら、術者は、対象部位を覆う心嚢膜に挿入部10の先端面を押し当てて吸引パッド13を心嚢膜に密着させる。これにより、心嚢膜と吸引パッド13との間に位置する吸引溝13Aが密閉空間となる。この状態で操作部50を操作してポンプ35により吸引管路14の吸引を行うと、吸引溝13A内が陰圧となり、挿入部10の先端が心嚢膜に密着保持される。これにより、ハウジング21が心臓に対して固定され、照射部11が心臓に対して位置決めされる。
【0028】
続いて、術者は供給管路24から音響媒体Amを供給し、図3に示すようにハウジング21の内腔に充填する。音響媒体Amとしては、生理食塩水(生食)等の流体を好適に用いることができる。挿入部10の先端は吸引部12により心嚢膜に密着されているため、ハウジング21の先端開口から音響媒体Amが漏れることはない。音響媒体Amの充填をスムーズに行うために、適宜回収管路25からハウジング21内の空気等を吸引排出してもよい。ハウジング21の内腔が概ね音響媒体Amで満たされると、振動子22から好適に超音波を照射可能な状態となる。
【0029】
次に術者は、対象部位の深さ方向における組織評価を行う。切替器33を操作して超音波送受波回路31と振動子22とを接続し、振動子22から比較的弱い観察用の超音波を対象部位に照射し、反射波を振動子22で受信する。観察用の超音波を照射する際は、駆動部30を操作して照射部11を前進させ、焦点を徐々に対象部位の深部に向かって移動させながら照射する。心嚢膜における心外膜および心内膜の位置では、その前後で音響インピーダンスに大きな差があるため、エコー信号が大きくなるため、アウトプットが大きく変化するポイントをとらえることにより、心外膜および心内膜の位置を確認することができる。なお、照射部11を進退させるときに、回収管路25からハウジング21内の音響媒体Amを回収しつつ、供給管路24から音響媒体Amをハウジング21内に供給するとスムーズに進退させることができる。
【0030】
心筋組織のように厚さ方向にわたってほぼ均質な構造を有する組織を対象とする場合、厚さ方向にわたってほぼ均一な音響インピーダンスを持つと仮定する(すなわち、振動子22の焦点位置における超音波強度は組織中での減衰がなければ一定となると仮定される。)ことにより、容易に組織内における超音波減衰量を推定することができる。すなわち、心筋内において超音波が進む深さ方向に離間した少なくとも2点の焦点位置超音波受波信号強度を取得すれば、心筋内における超音波減衰量を推定することができる。ここで、受波信号に基づいて求められる減衰は、送信時と受信時の両者の減衰が加算されていることに注意する。
【0031】
心筋組織における超音波減衰量の推定値を取得したら、対象部位の深さ方向各位置における焦点位置信号強度を設定し、これに基づいて、深さ方向各位置において振動子22に供給されるHIFUのエネルギー強度が算出、決定される。本実施形態では、深さ方向にわたって焦点位置信号強度が一定となるように、深さ方向各位置において振動子22に供給されるHIFUのエネルギー強度が決定される。この算出および決定は、コンピュータ40が所定のプログラムに基づいて行ってもよい。
【0032】
HIFUのエネルギー強度が決定されたら、術者は駆動軸23を操作して、照射部11を挿入部10に対して前進させ、焼灼する深さより深い位置まで照射部11の焦点を移動させてから、焦点を徐々に手元側に移動させる。焦点が焼灼位置に来たら、術者は切替器33を操作して高周波電源32と照射部11とを接続し、ペダル51を操作する等の所定の操作を行うと、振動子22から焦点に収束するようにHIFUが照射され、焼灼位置の心筋組織が焼灼される。
【0033】
焼灼中、心臓は拍動しているが、HIFUが照射される挿入部10の先端は吸引部12によって心臓に固定されているため、焼灼部位に対する照射部11の位置が拍動によってぶれることはなく、振動子22の焦点が高精度に位置決めされた状態でHIFUが照射される。照射部11を後退させながら焼灼することで、照射されたHIFUが焼灼により物性の変化した組織を通過することがなく、常に設定したエネルギー量に近いHIFUを照射して組織焼灼を行うことができる。
【0034】
焼灼したい組織が心筋の深さ方向の所定範囲にわたっている場合は、HIFUを照射しながら駆動軸23を駆動する。これにより、心筋組織を貫壁性に焼灼したり、深さ方向に離間した複数の部位を焼灼したりするなど、所望のパターンで焼灼を行うことができる。
【0035】
本実施形態のアブレーションデバイス1によれば、照射部11のハウジング21を心臓に対して固定する吸引部12を備えるため、心臓等の絶えず動いている組織を対象とした場合でも、振動子22の焦点が対象組織に高度に位置決めされる。さらに、焦点調節部を備えることにより、HIFUの焦点位置を対象組織の深さ方向に移動させることができ、より正確に狙った部位を焼灼することができる。したがって、焼灼すべき部位の周辺に存在する焼灼すべきでない組織まで焼灼することを防ぎ、焼灼処置後に心機能が過度に低下する等の事態を抑制し、患者のQOLを改善することができる。
【0036】
また、切替器33および超音波送受波回路31を備えるため、HIFUの照射前に超音波減衰量を推定することで、より適切なエネルギー量となるようにHIFUを照射することができる。
【0037】
本実施形態においては、吸引パッドと吸引管路とを有する吸引部により照射部が対象組織に位置決めされる例を説明したが、固定部の構成はこれには限定されない。
図4に示す変形例のアブレーションデバイス1Aでは、吸引パッド13とほぼ同様の材質および形状の接触パッド15が挿入部10の先端に取り付けられているが、吸引管路は存在しない。アブレーションデバイス1Aでは、挿入部10の先端を心臓Htに押し付けてから、ハウジング21内を音響媒体Amで満たす。その後、ポンプ35を操作して供給管路24Aおよび回収管路25から音響媒体Amを吸引すると、ハウジング21内が陰圧となり、心臓Htに対して固定される。
【0038】
この変形例では、照射部11の一部であるハウジング21、供給管路24A、および回収管路25が固定部を兼ねるため、より構造を簡素化することができる。なお、このような構成をとる場合、供給管路および回収管路の一方をハウジング21の先端開口の近くに連通させると、上述の吸引固定を効果的に行うことができる。図4では供給管路24Aがハウジング21の先端開口の近くに連通しているが、これに代えて回収管路が先端開口の近くに連通されてもよい。また、接触パッド15は、ハウジング21の先端開口周囲を水密に保つために設けられているが、先端開口の水密が保たれていれば、接触パッド15はなくても構わない。
【0039】
次に、本発明の第二実施形態について、図5および図6を参照して説明する。本実施形態のアブレーションデバイス51と上述のアブレーションデバイス1との異なるところは、照射部および固定部の構造である。なお、以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0040】
図5は、アブレーションデバイス61の先端側を示す断面図であり、図6は、図5のA−A線における断面図である。図5および図6に示すように、照射部62のハウジング63は、長手方向に直交する断面が略半円形に形成されており、曲面状の第一外周面63Aと平面状の第二外周面63Bとを有する。ハウジング62の先端に開口はなく、第二外周面63Bの一部に開口63Cが形成されている。開口63Cには、音響窓膜64が取り付けられ、ハウジング63内に供給された音響媒体Amが開口からハウジング外に漏れないように密封されている。音響窓膜64は、ポリエーテルブロックアミドやシリコーン等の高分子材料を用いて形成することができ、振動子22から照射される超音波を透過できる程度の薄さに形成される。
【0041】
ハウジング63内の先端側には、振動子22から照射される超音波の方向を変化させるミラー(反射部材)65が配置されている。振動子22から照射された超音波はミラー65に反射されて開口63Cから出射し、所定の焦点Fに収束する。ミラー65は、図示しない角度調整機構を有し、操作部50を介して角度調整機構を操作することにより、開口から出射される超音波の向きを一定範囲で調節することができる。
【0042】
ハウジング63の第一外周面63Aには、バルーン66が取り付けられている。バルーン66にはバルーン66内に流体を供給および回収するチューブ67が接続されている。チューブ67は、挿入部10に沿って基端側に延び、ポンプおよび流体供給源(いずれも不図示)と接続されている。
【0043】
本実施形態のアブレーションデバイス61は、スペース等の理由により焼灼部位の面に対して垂直にアプローチすることが困難な場合に好適に使用することができる。以下、剣状突起下から心臓にアプローチし、心嚢膜内に挿入部10を進めて心筋組織を焼灼する場合を例にとり、アブレーションデバイス61の使用時の動作について説明する。
【0044】
術者は第一実施形態と同様の操作で、剣状突起付近の胸壁に胸腔へのアクセス経路を確立する。胸腔鏡等で観察しながら心嚢膜を切開し、アブレーションデバイス61の挿入箇所を形成する。その後、導入器具を通してアブレーションデバイス61を胸腔内に挿入し、挿入部10先端の照射部62を心嚢膜内に挿入して焼灼部位付近まで進める。
【0045】
照射部62が焼灼部位付近に到達したら、術者は開口63Cを心筋組織に向けた状態で挿入部10を保持し、ポンプ35を操作してバルーン66に流体を送り込んで膨張させる。図5に示すように、バルーン66は開口63Cと反対側で心嚢膜Pcに向かって膨張し、その結果、開口63Cを心筋組織Mtに押し付けて密着させ、照射部62を位置決めする。その後は、第一実施形態と概ね同様の手順で焼灼部位の焼灼を行う。必要に応じてミラー65の角度を調節してもよい。
焼灼処置が終了したら、術者はポンプ35を操作し、チューブ67からバルーン66内の流体を回収して収縮させ、アブレーションデバイス61を心嚢膜外に抜去し、切開箇所を縫合する。
【0046】
本実施形態のアブレーションデバイス61においても、第一実施形態同様、振動子22の焦点を対象組織に高度に位置決めした状態でHIFUの焦点位置を移動しながら焼灼を行うことができる。
また、固定部として機能するバルーン66およびチューブ67を備え、照射部63が、側方に開口63Cを有するハウジング63およびミラー65を有しているため、心嚢膜内のように、焼灼部位の深さ方向に充分なスペースがない場合であっても、照射部を好適に位置決めして手技を行うことができる。
【0047】
さらに、開口63Cに柔軟な音響窓膜64が取り付けられているため、心筋組織Mt等の対象組織の表面形状に追従して変形し、照射部63と対象組織との密着性を向上することができる。
【0048】
次に、本発明の第三実施形態について、図7を参照して説明する。本実施形態のアブレーションデバイス71と上述の各実施形態のアブレーションデバイスとの異なるところは、照射部の構成である。
【0049】
図7は、アブレーションデバイス71の先端側を示す断面図である。照射部72のハウジング73は、第二実施形態同様、側方に開口73Cを有する。開口73Cの周囲には、固定部75が設けられている。固定部75は、吸引パッド76および吸引管路77を備えており、第一実施形態の吸引部と概ね同様の構造を有する。
【0050】
図7に示すように、アブレーションデバイス71における振動子78は、板状の複数の振動素子78Aがハウジング73の長手方向に整列されたアレイ構造を有している。各振動素子78Aは、それぞれ切替器33に接続されており、独立して超音波を送受信することができる。各振動素子78Aと切替器とを接続する配線は、ケーブル79としてまとめられて基端側に延びている。
照射部72は、駆動軸を備えず、アブレーションデバイス71としても駆動部を備えていない。したがって、振動子78は、ハウジング73内において移動しない。また、ハウジング73には、回収管路25がなく、代わりに過剰な音響媒体Amが排出される排出口73Aが形成されている。
【0051】
上記のように構成されたアブレーションデバイス71の使用時の動作について説明する。
固定部75を用いてハウジング73の開口73Cが心臓Htに密着するように照射部72を位置決め固定するまでの動作は、概ね第一実施形態と同様である。
振動子22から超音波を照射する際は、各振動素子78Aに印加する駆動電圧の位相を変化させることにより、焦点位置を心臓Htの深さ方向に移動させることができる。また深さ方向を維持したまま、振動素子78Aの整列方向(ハウジングの長手方向と同一)に一定範囲焦点位置を移動させることも可能である。このように、本実施形態では、振動子78自体が焦点調節部の機能を発揮する構成となっている。
【0052】
本実施形態のアブレーションデバイス71においても、振動子22の焦点を対象組織に高度に位置決めした状態で、HIFUの焦点位置を対象組織の深さ方向に移動させて焼灼を行うことができる。
【0053】
また、照射部72がアレイ構造を有する振動子78を有するため、振動子78自体を移動せずに焦点位置を移動することができる。このため、振動子を移動させる機構が必要なく、構成を簡素化したり、挿入部を小径化したりすることができる。
【0054】
ただし、振動子78において焦点位置を移動する場合は、振動子自体を進退させる第一および第二実施形態と異なり、振動子と焦点位置との距離が変化するため、焦点位置に収束した超音波エネルギーの大きさそのものが焦点位置の移動に伴って変化することに注意する。したがって、超音波減衰量の推定値に基づいて各振動素子に印加する駆動電圧の大きさを設定する場合、振動子と焦点位置との距離と収束した超音波エネルギーの大きさとの関係をテーブル化する等によりコンピュータ40に記憶させるなどして、これを反映した設定が行われるように演算を行うのが好ましい。
【0055】
本実施形態において、振動子における各振動素子の形状および配列態様は様々に変更することができる。例えば、直径の異なる複数のリング状の振動素子を同心円状に配置してもよいし、ハウジングの開口側から見て、複数の振動素子が格子状に配列されてもよい。各振動素子の形状および配列態様を様々に設定することで、焦点位置の調節可能方向や調節可能範囲を様々に設定することができる。
【0056】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0057】
例えば、第二実施形態の音響窓膜が第一実施形態や第三実施形態におけるハウジングの開口に取り付けられてもよいし、第二実施形態におけるバルーンおよびチューブに代えて、第一実施形態の吸引部と同様の構造を有する固定部が備えられてもよい。
【0058】
また、本発明のアブレーションデバイスの対象組織は、心臓のように絶えず動くものには限定されない。したがって、HIFUを用いた従来のがん治療が行われる組織や器官を対象とし、照射部の焦点を厚さ方向に制御して、よりピンポイントに組織焼灼を行うことも可能である。これにより、患者のQOLや生命予後を改善することが期待できる。
【符号の説明】
【0059】
1、1A、51、71 アブレーションデバイス
10 挿入部
11 照射部
12 吸引部(固定部)
13 吸引パッド(接触部材)
21、63、73 ハウジング
22、78 HIFU振動子
23 駆動軸
30 駆動部
63C、73C 開口
65 ミラー(反射部材)
66 バルーン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を高密度焦点式超音波により焼灼するアブレーションデバイスであって、
開口を有するハウジングと、前記ハウジング内に配置されて前記開口から前記高密度焦点式超音波を照射するHIFU振動子とを有する照射部と、
前記ハウジングを前記生体組織に固定する固定部と、
前記高密度焦点式超音波の焦点位置を前記生体組織の深さ方向に移動させる焦点調節部と、
を備えることを特徴とするアブレーションデバイス。
【請求項2】
前記固定部は、前記生体組織との間に密閉空間を形成して前記生体組織と接触する接触部材と、前記密閉空間を陰圧にする陰圧機構とを有することを特徴とする請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項3】
前記固定部は、膨張および収縮可能なバルーンを有することを特徴とする請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項4】
前記焦点調節部は、一方の端部が前記HIFU振動子に対して固定された駆動軸と、前記ハウジングに対して前記駆動軸を進退させる駆動部とを有することを特徴とする請求項2または3に記載のアブレーションデバイス。
【請求項5】
前記照射部において、
前記開口は前記ハウジングの長手方向に平行な面に形成され、
前記ハウジングの内部先端側に、前記高密度焦点式超音波の照射方向を変化させる反射部材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項6】
長尺の挿入部をさらに備え、
前記照射部および前記固定部が前記挿入部の先端側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項1】
生体組織を高密度焦点式超音波により焼灼するアブレーションデバイスであって、
開口を有するハウジングと、前記ハウジング内に配置されて前記開口から前記高密度焦点式超音波を照射するHIFU振動子とを有する照射部と、
前記ハウジングを前記生体組織に固定する固定部と、
前記高密度焦点式超音波の焦点位置を前記生体組織の深さ方向に移動させる焦点調節部と、
を備えることを特徴とするアブレーションデバイス。
【請求項2】
前記固定部は、前記生体組織との間に密閉空間を形成して前記生体組織と接触する接触部材と、前記密閉空間を陰圧にする陰圧機構とを有することを特徴とする請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項3】
前記固定部は、膨張および収縮可能なバルーンを有することを特徴とする請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項4】
前記焦点調節部は、一方の端部が前記HIFU振動子に対して固定された駆動軸と、前記ハウジングに対して前記駆動軸を進退させる駆動部とを有することを特徴とする請求項2または3に記載のアブレーションデバイス。
【請求項5】
前記照射部において、
前記開口は前記ハウジングの長手方向に平行な面に形成され、
前記ハウジングの内部先端側に、前記高密度焦点式超音波の照射方向を変化させる反射部材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【請求項6】
長尺の挿入部をさらに備え、
前記照射部および前記固定部が前記挿入部の先端側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアブレーションデバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−187257(P2012−187257A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52864(P2011−52864)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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