説明

アポトーシスの検出に適した化合物

【課題】アポトーシスが生体内で生じていることを可視化するために用いられる物質を提供する。
【解決手段】一般式(I-a)で代表される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アポトーシスの検出に適した化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
アポトーシスとは、生理的条件下で細胞が自ら引き起こす細胞死のことである。癌化した細胞も通常はアポトーシスで排除されるが、何らかの原因によりその機序が働かなくなると悪性腫瘍へと成長する。脳梗塞等の虚血性疾患並びにアルツハイマー病及びパーキンソン病等の神経変性疾患においては、アポトーシスにより神経細胞の脱落が起こっていると考えられている(非特許文献1、2及び3)。また、脳梗塞を治療する際に血栓溶解剤を投与して脳の血流を元に戻してもアポトーシスが生じ、やはり神経細胞が脱落する(非特許文献1、4及び5)。
【0003】
アポトーシスが生じる機構については、ミトコンドリア外膜上に存在する種々のタンパク質が互いに結合してホモダイマーやヘテロダイマーを形成することでアポトーシスを抑制又は誘導することが知られており、これらのタンパク質を利用してアポトーシスを制御する研究が行われてきた(非特許文献1及び6)。
【0004】
アポトーシスの制御は、癌治療や虚血性疾患及び神経変性疾患における治療につながる。例えば、癌細胞でアポトーシスを積極的に生じさせる抗癌剤は癌治療に用いられている。また、アポトーシスを抑制するアポトーシス抑制剤は、虚血性疾患や神経変性疾患における神経細胞の脱落を阻止するために用いられる。疾患の治療においては、これらの薬剤が生体内で有効に作用しているかどうかを評価することが重要であり、この評価を可能にするための技術が求められている。
【非特許文献1】田熊一敞、日本薬理学雑誌、127巻、349〜354頁(2006年)
【非特許文献2】Graeber MB. et al.、Brain Pathol.、12巻、385〜390頁(2002年)
【非特許文献3】Mattson MP、Nat Rev Mol Cell Biol.、1巻、120〜129頁(2000年)
【非特許文献4】Dirnagl U. et al.、Trends Neurosci.、22巻、391〜397頁(1999年)
【非特許文献5】Benchoua A. et al.、J Neurosci.、21巻、7127〜7134頁(2001年)
【非特許文献6】Beauparlant P. et al.、Curr.Opin.Drug.Discov.Dev.、6巻(2)、179〜187頁(2003年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アポトーシス制御を利用した薬剤の薬効を評価するために、被験者の生体内で生じているアポトーシスを可視化することが有効であると考えられる。従って、本発明の目的の一つは、アポトーシスが生体内で生じていることを可視化するために用いられる物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記一般式(I)で表される化合物を提供する。
【化1】


(式(I)中、Xはヨウ素原子又は臭素原子であり、Yは水酸基又はメトキシ基である。)
【0007】
式(I)で表される化合物はアポトーシスが生じている細胞に集積する傾向がある。また、式(I)で表される化合物により放出されるポジトロンはすぐに電子と結合してγ線(消滅放射線)を放出するため、このγ線を陽電子放出型断層撮影装置(以下、「PET」という)で測定することにより、式(I)で表される化合物の体内分布を定量的かつ経時的に画像化することができる。従って上記式(I)で表される化合物を用いることで、被験者の生体内でアポトーシスが生じている部位を経時的に可視化できる。
【0008】
本発明は下記一般式(II)で表される化合物を提供する。
【化2】


(式(II)中、Xはヨウ素原子又は臭素原子であり、Yは水酸基又はメトキシ基である。)
【0009】
式(II)で表される化合物をポジトロン核種で標識することにより、効率良く式(I)で表される化合物を提供することができる。
【0010】
式(I)で表される化合物は、アポトーシスの検出用試薬として有用である。該アポトーシスの検出用試薬によれば、簡便に生体中のアポトーシスが生じている部位を検出することができる。
【0011】
式(I)で表される化合物は、抗癌剤の薬効評価用試薬としても用いられる。該抗癌剤の薬効評価用試薬によれば、癌細胞でアポトーシスが生じているかどうかを患者が生存した状態で検出することができるために、癌患者に適用して抗癌剤の薬効評価をすることができる。
【0012】
式(I)で表される化合物は、アポトーシス抑制剤の評価用試薬としても有用である。アポトーシス抑制剤は虚血性疾患や神経変性疾患等における神経脱落を予防するのに用いられる。アポトーシス抑制剤の上記評価用試薬によれば、アポトーシス抑制剤により生体中でアポトーシスが効果的に抑制されているかどうかを経時的に評価することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アポトーシスが生体内で生じていることを可視化するために用いられる物質が提供される。更に、アポトーシス検出用試薬、抗癌剤の薬効評価試薬及びアポトーシス抑制剤の薬効評価用試薬が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の化合物は、下記一般式(I):
【化3】


(式(I)中、Xはヨウ素原子又は臭素原子であり、Yは水酸基又はメトキシ基である。)で表され、より具体的には、
下記一般式(I−a);
【化4】


で表されるN−{2−クロロ−5−(4−[18F]フルオロフェニルスルホニル)フェニル}−5−クロロ−2−ヒドロキシ−3−ヨードベンズアミド(以下「[18F]FBHI」という)、
下記一般式(I−b);
【化5】


で表されるN−{2−クロロ−5−(4−[18F]フルオロフェニルスルホニル)フェニル}−3−ブロモ−5−クロロ−2−ヒドロキシベンズアミド(以下「[18F]FBHB」という)、
下記一般式(I−c);
【化6】


で表されるN−{2−クロロ−5−(4−[18F]フルオロフェニルスルホニル)フェニル}−5−クロロ−3−ヨード−2−メトキシベンズアミド(以下「[18F]FBMI」という)、及び、
下記一般式(I−d);
【化7】


で表されるN−{2−クロロ−5−(4−[18F]フルオロフェニルスルホニル)フェニル}−3−ブロモ−5−クロロ−2−メトキシベンズアミド(以下「[18F]FBMB」という)である。
【0015】
下記一般式(II)で表される化合物(以下、「化合物(II)」という)は、上記一般式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」という)の前駆体である。
【化8】


(式(II)中、Xはヨウ素原子又は臭素原子であり、Yは水酸基又はメトキシ基である。)
【0016】
化合物(I)は化合物(II)から、下記反応式(III)を経て合成できる。
【化9】


(式(III)中、Xはヨウ素原子又は臭素原子であり、Yは水酸基又はメトキシ基である。)
【0017】
化合物(II)は実施例1に記載の方法で化学合成でき、化合物(I)は実施例2に記載の方法で化学合成できる。
【0018】
化合物(I)は、生体に投与した場合、アポトーシスが生じている細胞に集積する傾向がある。また、化合物(I)により放出されるポジトロンはすぐに電子と結合してγ線を放出するため、このγ線をPETで測定することにより、化合物(I)の体内分布を定量的に画像化することができる。したがって、化合物(I)を用いることで、被験者の生体内でアポトーシスが生じている部位を検出し、その度合い、変化を経時的に可視化できる。
【0019】
化合物(I)は、アポトーシスの検出用試薬として有用である。ここで、本発明のアポトーシス検出用試薬は、化合物(I)を含み、生体に投与されると、生体中の化合物(I)から放出されるγ線をPETで計測することにより、アポトーシスが生じている部位を検出できる。
【0020】
化合物(I)は、抗癌剤の薬効評価用試薬としても有用である。ここで、「抗癌剤の薬効評価用試薬」とは、生体に投与された抗癌剤がその薬効により生体中の癌細胞をアポトーシスで消失させる機能が働いているかどうかを評価する試薬である。本発明の抗癌剤の薬効評価用試薬は化合物(I)を含むため、抗癌剤で治療中の生体に投与すると、癌細胞でアポトーシスが生じていれば、患部に化合物(I)が集積する。集積した化合物(I)から放出されるγ線をPETで計測することにより、癌細胞でアポトーシスが生じているかどうかを判断できる。従って、抗癌剤が効いているかどうかを本発明の抗癌剤の薬効評価用試薬により判断できる。
【0021】
上記抗癌剤の薬効評価用試薬に含まれる化合物(I)として、[18F]FBMB又は[18F]FBMIが好ましい。これらの化合物は、特に癌細胞で生じるアポトーシスに対して集積する傾向がある。
【0022】
化合物(I)は、アポトーシス抑制剤の評価用試薬として使用できる。ここで、「アポトーシス抑制剤の評価用試薬」とは、生体に投与されたアポトーシス抑制剤によってアポトーシスが該生体内の標的部で抑制されているかどうかを、評価する試薬である。アポトーシス抑制剤を生体に投与し、該アポトーシス抑制剤の薬効が標的部で有効であれば、標的部でアポトーシスが抑制される。そこで本発明のアポトーシス抑制剤の評価用試薬を該生体に投与し、PET計測をすると、本発明のアポトーシス抑制剤は化合物(I)を含むにもかかわらず、γ線が該標的部から放出されていないこと、すなわち、化合物(I)が標的部に集積していないことがわかる。化合物(I)が集積していないことから、アポトーシスが抑制されており、アポトーシス抑制剤の薬効が有効であることを判断できる。逆にアポトーシス抑制剤が標的部で有効に作用していなければ、本発明の評価剤に含まれる化合物(I)が標的部に集積することから、アポトーシスが生じていること、すなわちアポトーシス抑制剤が効いていないことを判断できる。
【0023】
アポトーシス抑制剤の薬効評価用試薬に含まれる化合物(I)として、[18F]FBHB又は[18F]FBHIが好ましい。これらの化合物は、特に神経変性疾患、虚血性疾患で生じるアポトーシスに対して集積する傾向がある。アポトーシス抑制剤は神経変性疾患や虚血性疾患で生じる神経細胞の脱落の予防に主に用いられ、そのような神経変性疾患や虚血性疾患におけるアポトーシス抑制剤の薬効評価用試薬は有効である。
【0024】
上記アポトーシス検出用試薬、上記抗癌剤の薬効評価用試薬又は上記アポトーシス抑制剤の薬効評価用試薬は、例えば、化合物(I)を任意の緩衝液に溶解することにより製造することができる。かかる場合、当該試薬は溶液として提供され、上記の緩衝成分の他、界面活性剤、防腐剤、安定化剤等のその他の成分を含有させることもできる。投与方法は、通常、静脈内投与である。
【0025】
また、上記アポトーシス検出用試薬、上記抗癌剤の薬効評価用試薬又は上記アポトーシス抑制剤の薬効評価用試薬の対象として、ヒトを含む動物の脳、器官、臓器、組織、細胞等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。また、本発明の化合物(I)を用いてPET測定を行うに際し、その測定方法は特に制限されず、公知の方法に準じて実施することができる。
【実施例】
【0026】
(実施例1)化合物(II)の化学合成
(1−1a)[18F]FBHIの前駆体の化学合成
18F]FBHIの前駆体であるN−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−5−クロロ−2−ヒドロキシ−3−ヨードベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(下記式(IV)中に示す化合物(II−a))を以下のように作製した。下記式(IV)に、合成スキームを示す。
【化10】

【0027】
上記式(IV)において、まず化合物(3H−I)を以下のように作製した。ジムロート冷却管及び温度計を取り付けた300mL4つ口コルベンに、5−クロロサリチル酸30.0g(0.17mol)及び酢酸150mLを仕込み加熱撹拌した。この懸濁溶液中に塩化ヨウ素32.0g(0.18mol)の酢酸溶液90mLを1.5時間かけて滴下し、100℃にて5時間撹拌した。この溶液を室温まで放冷後、5%亜硫酸ナトリウム水溶液400mLへ投入した。この溶液を30分間撹拌後、析出した白色結晶を濾取した。この結晶を減圧乾燥し、25gの粗精製物を得た。酢酸180mLにて再結晶を行い、上記式(IV)中に示す化合物(3H−I)14g(収率27%)を得た。
【0028】
ジムロート冷却管を取り付けた100mLナスコルベンに、室温で、化合物(3H−I)3.87g(13mmol)、下記式(VIII)中に示す化合物(7)4.00g(13mmol)及びトルエン50mLを入れ、90℃に加熱し、均一溶液とした。この溶液にPOCl2.0g(13mmol)/トルエン5.0mLを滴下した。18時間加熱還流後、全ての溶媒を留去し、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/アセトン=10/1)で精製し、上記式(IV)中に示す化合物(9H-I)1.3g(収率17%)を得た。
【0029】
100mLナスコルベンに、室温で、化合物(9H−I)1.3g(2.2mmol)を脱水ジクロロメタン50mLに溶解した。この溶液にトリフルオロメタンスルホン酸メチル0.40g(2.42mmol)×2回/脱水ジクロロメタン5mLを加えて、室温で20時間攪拌した。析出物を濾過し、濾物をジクロロメタン10mLで洗浄し、真空乾燥することにより、[18F]FBHIの前駆体であるN−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−5−クロロ−2−ヒドロキシ−3−ヨードベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(上記式(IV)中に示す化合物(II−a))0.70g(収率42%、純度99%)を得た。
【0030】
(1−1b)[18F]FBHBの前駆体の化学合成
18F]FBHBの前駆体であるN−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−3−ブロモ−5−クロロ−2−ヒドロキシベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(下記式(V)中に示す化合物(II−b))を以下のように作製した。下記式(V)に、合成スキームを示す。
【化11】

【0031】
上記式(V)において、まず化合物(1)を以下のように作製した。メカニカルスターラー、ジムロート冷却管、温度計を取り付けた1L4つ口コルベンに、室温で5−クロロサリチル酸50.0g(289.7mmol)とメタノール500mLを入れ、攪拌しながら、濃硫酸3mLを添加した。この溶液を15分かけて内温72℃まで昇温、還流状態とし、同温にて攪拌した。14時間後、この溶液を室温まで冷却し、溶媒留去を行うと無色固体が得られた。この固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製することにより無色固体として上記式(V)中に示す化合物(1)41.8g(収率77%、純度99.5%)を得た。
【0032】
メカニカルスターラー、ジムロート冷却管、温度計を取り付けた50mL四つ口コルベンに、室温で、化合物(1)15.0g(80.4mmol)、40%HBr−酢酸溶液9mL及び酢酸9mLを入れ、攪拌しながら、60℃に加温した。この溶液に、NaClO3.5g/蒸留水20mLを5分かけて滴下すると、臭素の発生が確認され、固体が析出した。溶液を8時間加熱した後、得られた固体を濾取することにより、淡黄色固体として上記式(V)中に示す化合物(2−Br)22.4g(収率105%)を得た。
【0033】
メカニカルスターラー、ジムロート冷却管、温度計を取り付けた300mL4つ口コルベンに、化合物(2−Br)22.4g(84.4mmol)、メタノール100mL及び2N水酸化ナトリウム水溶液100mLを入れ、攪拌した。この溶液を15分かけて還流状態とし、同温にて攪拌した。24時間後、この溶液を室温まで冷却し、液量を1/5まで濃縮した。この溶液に6N塩酸50mLを加え、pH2程度にした。析出している固体を濾別し、水100mLで洗浄し、真空乾燥することにより、無色結晶として上記式(V)中に示す化合物(3H−Br)18.3g(収率83%)を得た。
【0034】
ジムロート冷却管を取り付けた1Lナスコルベンに、室温で、化合物(3H−Br)7.50g(29.8mmol)、下記式(VIII)中に示す化合物(7)9.36g(30.1mmol)及びトルエン500mLを入れ、90℃に加熱し、均一溶液とした。この溶液にPOCl10mL/トルエン100mLを1時間かけて滴下した。この溶液を24時間加熱還流後、全ての溶媒を留去し、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で分離し、濃縮後、得られた固体をクロロホルム/メタノールから再結晶することにより、無色固体として上記式(V)中に示す化合物(9H−Br)3.24g(収率20%、純度98%)を得た。
【0035】
300mLナスコルベンに、室温で、化合物(9H−Br)3.02g(5.55mmol)を脱水ジクロロメタン200mLに溶解した。この溶液にトリフルオロメタンスルホン酸メチル1.00g/脱水ジクロロメタン1mLを加えて、室温で26時間攪拌した。析出物を濾過し、濾物を熱したテトラヒドロフラン(THF)40mLに溶解し、ジクロロメタン10mLを加えて、静置し、析出した固体を濾過し、THF10mLで洗浄した後、真空乾燥することで無色固体として[18F]FBHBの前駆体であるN−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−3−ブロモ−5−クロロ−2−ヒドロキシベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(上記式(V)中に示す化合物(II−b))1.38g(収率35%、純度99%)を得た。
【0036】
(1−1c)[18F]FBMIの前駆体の化学合成
18F]FBMIの前駆体であるN−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−5−クロロ−3−ヨード−2−メトキシベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(下記式(VI)中に示す化合物(II−c))を以下のように作製した。下記式(VI)に、合成スキームを示す。
【化12】

【0037】
上記化学式(VI)において化合物(1)を、上記(1−1b)[18F]FBHBの前駆体の化学合成における化合物(1)の合成と同様の方法で合成した。こうして合成した化合物(1)37.3g(199.9mmol)を、ヨウ化ナトリウム30.4g(202.8mmol)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)400mLと共に、室温で、メカニカルスターラー、ジムロート冷却管、温度計を取り付けた1L4つ口コルベンに入れ、攪拌しながら、クロラミン−T n水和物45.6g(200.3mmol)を45分かけてこの溶液に添加した。この溶液を室温にて1.5時間攪拌した後、氷水2Lと飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液100mLに注ぎ込み、酢酸エチル4Lで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、有機層を溶媒留去した。得られた黄色固体と黄色油状物に90%メタノール200mLを加え、15分攪拌した。析出した固体を濾過し、メタノール200mLで2回洗浄した後、真空乾燥することにより、無色結晶として上記式(VI)中に示す化合物(2−I)42.1g(収率83%)を得た。
【0038】
メカニカルスターラー、ジムロート冷却管、温度計を取り付けた2L4つ口コルベンに、室温で、化合物(2−I)35.0g(112.0mmol)、炭酸カリウム55.2g(399.4mmol)及びアセトン1.3Lを入れ、攪拌しながら、ジメチル硫酸26.9g(213.3mmol)を添加した。この溶液を15分かけて還流状態とし、同温にて攪拌した。14時間後、この溶液を室温まで冷却し、析出している固体を濾別し、濾液を濃縮した。得られた赤色油状物40.0gをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製することにより、橙色油状物として上記式(VI)に示す化合物(3−I)34.3g(収率94%、純度98%)を得た。
【0039】
メカニカルスターラー、ジムロート冷却管、温度計を取り付けた1L四つ口コルベンに、室温で、化合物(3−I)30.0g(91.9mmol)、エタノール300mL及び2N水酸化ナトリウム水溶液300mLを入れ、攪拌した。この溶液を15分かけて還流状態とし、同温にて攪拌した。4時間後、この溶液を室温まで冷却し、濃塩酸40mLを加え、溶液をpH2程度にした。析出している固体を濾別し、真空乾燥することにより、無色結晶として上記式(VI)中に示す化合物(4−I)23.9g(収率83%)を得た。
【0040】
ジムロート冷却管を取り付けた100mLナスコルベンに、室温で、化合物(4−I)2.91g(9.31mmol)、塩化チオニル4.0mL及びトルエン30mLを入れた。この溶液にDMF5滴を加えて、100℃で4時間、加熱攪拌した。この溶液を室温まで冷却し、溶媒を留去することで、中間体を黄色油状物として得た。この中間体を脱水THF50mLに溶解し、下記式(VIII)に示す化合物(7)2.91g(9.31mmol)を添加した。トリエチルアミン1.56mLを滴下して、室温で4時間攪拌した。この溶液を水100mLに注ぎ込み、クロロホルム300mLで抽出し、有機層を水100mLで2回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒留去し、無色固体を得た。この固体にエーテル100mLを加えて5分間超音波洗浄を行い、析出物を濾過、真空乾燥することにより、無色固体として上記式(VI)に示す化合物(9−I)3.84g(収率68%、純度99%)を得た。
【0041】
300mLナスコルベンに、室温で、化合物(9−I)3.02g(4.99mmol)を脱水ジクロロメタン150mLに溶解した。この溶液にトリフルオロメタンスルホン酸メチル1.00g/脱水ジクロロメタン1mLを加えて、室温で26時間攪拌した。析出物を濾過し、濾物をジクロロメタン20mLで洗浄後、真空乾燥することにより、無色固体として[18F]FBMIの前駆体であるN−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−5−クロロ−3−ヨード−2−メトキシベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(上記式(VI)中に示す、化合物(II−c))2.59g(収率67%、純度99%)を得た。
【0042】
(1−1d)[18F]FBMBの前駆体の化学合成
18F]FBMBの前駆体であるN−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−3−ブロモ−5−クロロ−2−メトキシベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(下記式(VII)中に示す化合物(II−d))は以下のように作製した。下記式(VII)に、合成スキームを示す。
【化13】

【0043】
上記式(VII)において化合物(2−Br)を、上記(1−1b)[18F]FBHBの前駆体の化学合成における化合物(2−Br)の合成と同様の方法で合成した。こうして合成した化合物(2−Br)30.0g(0.11mol)と共に炭酸カリウム46.9g(0.34mol)及びアセトン1.3Lを、メカニカルスターラー、ジムロート冷却管、温度計を取り付けた2L四つ口コルベンに室温で入れ、攪拌しながら、ジメチル硫酸27.1g(0.21mol)を添加した。この溶液を15分かけて還流状態とし、同温にて攪拌した。14時間後、この溶液を室温まで冷却し、析出している固体を濾別し、濾液を濃縮した。得られた赤色油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製することにより、橙色油状物として上記式(VII)中に示す化合物(3−Br)28.4g(収率90%)を得た。
【0044】
メカニカルスターラー、ジムロート冷却管、温度計を取り付けた1L4つ口コルベンに、室温で、化合物(3−Br)25.6g(91.9mmol)、エタノール300mL及び2N水酸化ナトリウム水溶液300mLを入れ、攪拌した。この溶液を15分かけて還流状態とし、同温にて攪拌した。4時間後、この溶液を室温まで冷却し、濃塩酸40mLを加え、溶液をpH2程度にした。析出している固体を濾別し、真空乾燥することにより無色結晶として上記式(VII)中に示す化合物(4−Br)19.5g(収率80%)を得た。
【0045】
ジムロート冷却管を取り付けた100mLナスコルベンに、室温で、化合物(4−Br)2.47g(9.31mmol)及び塩化チオニル4.0mL、トルエン30mLを入れた。この溶液にDMF5滴を加えて、100℃で4時間、加熱攪拌した。この溶液を室温まで冷却し、溶媒を留去することで、中間体を黄色油状物として得た。この中間体を脱水THF50mLに溶解し、下記式(VIII)中に示す化合物(7)を2.91g(9.31mmol)添加した。この溶液にトリエチルアミン1.56mLを滴下して、室温で4時間攪拌した。この溶液を水100mLに注ぎ込み、クロロホルム300mLで抽出し、有機層を水100mLで2回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒留去し、無色固体を得た。この固体にエーテル100mLを加えて5分間超音波洗浄を行い、析出物を濾過、真空乾燥することにより、無色固体として上記式(VII)中に示す化合物(9−Br)2.95g(収率60%、純度99%)を得た。
【0046】
300mLナスコルベンに、室温で、化合物(9−Br)2.63g(4.99mmol)を脱水ジクロロメタン150mLに溶解した。この溶液にトリフルオロメタンスルホン酸メチル1.00g/脱水ジクロロメタン1mLを加えて、室温で26時間攪拌した。析出物を濾過し、濾物をジクロロメタン20mLで洗浄後、真空乾燥することにより、[18F]FBMBの前駆体として、無色固体のN−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−3−ブロモ−5−クロロ−2−メトキシベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩(上記式(VII)中に示す化合物(II−d))1.80g(収率50%、純度99%)を得た。
【0047】
なお、上記[18F]FBHBの前駆体、[18F]FBMIの前駆体及び[18F]FBMBの前駆体を作製する際に用いた化合物(7)は下記式(VIII)で示す合成スキームにより作製した。
【化14】

【0048】
上記式(VIII)に示す化合物(5)は以下のようにして合成した。メカニカルスターラー、ジムロート冷却管、温度計を取り付けた1L4つ口コルベンに、室温で、4−クロロ−3−ニトロベンゼンスルホニルクロリド50.0g(195mmol)及びフルオロベンゼン200mLを入れ、攪拌しながら、無水塩化アルミニウム30.0g(224.8mmol)を30分かけて添加した。この溶液を50℃に加温しながら18時間反応させた。この溶液を室温まで冷却し、氷水500mLに注ぎ込み、濃塩酸100mLを加えて攪拌した。この溶液を酢酸エチル1Lで抽出し、有機層を水500mLで洗浄後、飽和重曹水500mL及び水500mLで洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒留去し、赤色固体を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4/1)で精製することにより、橙色油状物として上記式(VIII)に示す化合物(5)34.6g(収率56%、純度92%)を得た。
【0049】
メカニカルスターラー、ジムロート冷却管、温度計を取り付けた500mL4つ口コルベンに、室温で、化合物(5)10.5g(33.3mmol)、エタノール160mL、酢酸160mL及び蒸留水80mLを入れ、攪拌しながら、60℃に加温した。この溶液に還元鉄13.0g(232.8mmol)を13回に分けて添加し、さらに同温で10分間攪拌した。この溶液に濃塩酸1mLを添加後、70℃で2時間加熱すると原料の消失が確認された。この溶液を室温まで冷却し、氷水1Lに注ぎ込み、飽和重曹水500mLで中和し、酢酸エチル1Lで抽出し、有機層を水500mLで3回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒留去し、黄白色固体を得た。ヘキサン100mLを加えて5分間超音波洗浄を行い、析出物を濾過、真空乾燥することにより、無色固体として上記式(VIII)中に示す化合物(6)9.34g(収率98%、純度92%)を得た。
【0050】
ジムロート冷却管、温度計を取り付けた100mL4つ口コルベンに、室温で、化合物(6)9.00g(31.5mmol)及びヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)75mLを入れ、160℃で20時間、加熱攪拌した。この溶液を室温まで冷却し、氷水500mLに注ぎ込み、酢酸エチル1.5Lで抽出し、有機層を水500mLで3回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒留去し、褐色油状物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製し、濃縮後に得られた固体にヘキサン50mLを加えて5分間超音波洗浄を行い、析出物を濾過、真空乾燥することにより、無色固体として上記式(VIII)中に示す化合物(7)7.30g(収率75%、純度99%)を得た。こうして得られた化合物(7)を、[18F]FBHBの前駆体、[18F]FBMIの前駆体及び[18F]FBMBの前駆体の化学合成に用いた。
【0051】
(実施例2)化合物(I)の化学合成
(2−1)[18F]の作製
サイクロトロン(HM−18、住友重機械工業製)にて18MeVに加速した陽子を20μAの電流値で、18O−HOおよそ2mLを封入したターゲット水に照射して、18O(p,n)18F核反応により[18F]を生成させた。ターゲット水中で[18F]は[18F]F−の化学形で存在する。生成された[18F]F−を含むターゲット水を自動合成装置に導入した。[18F]F−を含むターゲット水をHe圧でトラップ用イオン交換樹脂カラムを通過させて、[18F]F−イオンを樹脂に吸着させた。この樹脂に0.5mgKCO水溶液0.5mLを導入して[18F]F−イオンを脱着し、反応容器に[18F]KF水溶液として回収した。反応容器内の[18F]KF水溶液に3mgの4,7,13,16,21,24−Hexaoxa−1,10−diazabicyclo[8,8,8]hexacosane(商品名:Kryptofix(商標)222、メルク社)を含むアセトニトリル2mL(Kryptofix3mg/アセトニトリル2mL)を加えてHe気流下に加熱して5分間共沸脱水し、アセトニトリル1mLを追加して2分間共沸脱水を続けた。さらにアセトニトリル1mLを追加して乾固するまで共沸脱水し、真空ポンプで90秒間減圧留去し、90秒間Heパージを行って系内の水分を完全に除き、残渣を室温付近まで冷却した。
【0052】
(2−2a)[18F]FBHIの合成
(2−1)で得た残渣に、上記(1−1a)で合成した[18F]FBHIの前駆体N−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−5−クロロ−2−ヒドロキシ−3−ヨードベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩4mg/DMSO0.3mL溶液を加え、100℃で10分間フッ素化を行い、反応終了後、生成物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の移動相として用いるものと同じ溶媒で希釈し、Sep−Pak Plus Alumina Nカラムで未反応の[18F]F−イオンを取り除き、溶出液をHPLCにて精製した。カラムとしてμBonda−Pak C18(カラム内径7.8mm、カラム長300mm、Waters社)、移動相としてアセトニトリル/0.1M酢酸ナトリウム/酢酸=400/600/1を用い、流速6mL/min、検出波長254nmで分取を行った。[18F]FBHIのフラクションを25μLのTween80を添加したナスコルベンに分取し、加熱減圧下でHPLCの溶媒を留去した。さらに残渣を注射用生理食塩水に再溶解し、無菌バイアルに[18F]FBHIを回収した。
【0053】
(2−2b)[18F]FBHBの合成
上記(2−1)と同様にサイクロトロン(HM−18、住友重機械工業製)にて18O−HOを用いて生成させた[18F]F−を含むターゲット水を自動合成装置に導入した。[18F]F−を含むターゲット水をHe圧でトラップ用イオン交換樹脂カラムを通過させて、[18F]F−イオンを樹脂に吸着させた。この樹脂にTetrabutylammonium hydrogen carbonate水溶液/アセトニトリル(1/1)溶液0.5mLを導入して[18F]F−イオンを樹脂から脱着し、反応容器に回収した。反応容器内の[18F]水溶液にアセトニトリル2mLを加え、He気流下加熱して5分間共沸脱水した。アセトニトリル1mLを追加して2分間共沸脱水を続けた。さらにアセトニトリル1mLを追加して乾固するまで共沸脱水し、真空ポンプで90秒間減圧留去し、Heパージを90秒間行って系内の水分を完全に除き、残渣を室温付近まで冷却した。この残渣に、[18F]FBHBの前駆体として上記(1−1b)で合成したN−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−3−ブロモ−5−クロロ−2−ヒドロキシベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩0.5mg/DMSO0.3mL溶液を加え、100℃で10分間フッ素化を行った。フッ素化後、HPLCの移動相としてアセトニトリル/0.1M酢酸ナトリウム/酢酸=350/650/1を用いたこと以外は上記(2−2a)[18F]FBHIの合成と同様にHPLCで精製して[18F]FBHBを得た。
【0054】
(2−2c)[18F]FBMIの合成
(2−1)で得た残渣に、[18F]FBMIの前駆体として上記(1−1c)で合成したN−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−5−クロロ−3−ヨード−2−メトキシベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩4mg/DMSO0.3mL溶液を加え、HPLCの移動相としてアセトニトリル/0.1M酢酸ナトリウム/酢酸=580/420/1を用いたこと以外は上記(2−2a)[18F]FBHIの合成と同様にして[18F]FBMIを得た。
【0055】
(2−2d)[18F]FBMBの合成
(2−1)で得た残渣に、[18F]FBMBの前駆体として上記(1−1d)で合成したN−{2−クロロ−5−(4−トリメチルアンモニウムフェニルスルホニル)フェニル}−3−ブロモ−5−クロロ−2−メトキシベンズアミド トリフルオロメタンスルホン酸塩4mg/DMSO0.3mL溶液を加え、HPLCの移動相としてアセトニトリル/0.1M酢酸ナトリウム/酢酸=580/420/1を用いたこと以外は上記(2−2a)[18F]FBHIの合成と同様にして[18F]FBMBを得た。
【0056】
(2−3)化合物(I)の分析
得られた[18F]FBHI、[18F]FBHB、[18F]FBMI及び[18F]FBMBを逆相HPLCで定性分析を行った。定性分析は、カラムとしてInertsil ODS−3(カラム内径4.6mm、カラム長150mm、GLサイエンス社)、移動相としてアセトニトリル/30mM酢酸アンモニウム/酢酸=500/500/2を用い、流速2mL/min、検出波長230nmの条件で行った。結果を表1に示す。
【表1】

【0057】
(実施例3)細胞増殖能の異なる癌細胞を移植したマウスを用いた実験
癌細胞にはヒト子宮頚癌細胞HeLaである、strain:15S3D(HeLa−K)とJCRB9004(HeLa−B)を用いた。HeLa−Kは5×10個、HeLa−Bは2×10個を、メスBALB/cA Jcl−nuヌードマウス(HeLa−K:6週齢、HeLa−B:4又は6週齢)の大腿皮下に移植した。HeLa−K移植マウスは移植2週間後、HeLa−B移植マウスは4週間又は2週間後に、それぞれ8週齢となったところで実験に用いた。
【0058】
担癌マウスにおける化合物(I)の集積と腫瘍組織の増殖速度の関係を見るために、腫瘍の大きさを連日計測した。倍加時間(doubling time:DT)の計算は、Schwartzの提案した計算式:DT=t×log2(V1/V0)にて算出した。なおtは腫瘍体積がV0(mm)からV1(mm)になるまでの日数を示し、腫瘍体積(mm)は、腫瘍の長径及び幅をもとに計算式:1/2×長径(mm)×(幅)(mm)で計算した。
【0059】
18F]FBHI、[18F]FBHB、[18F]FBMI又は[18F]FBMBの生理食塩水溶液0.3mLをマウスの尾静脈より投与し、60分後にマウスを断頭屠殺し、血液、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、大腿骨、筋肉、腫瘍、小腸、消化管、膵臓、脳を採取した。臓器重量及び放射能を測定し、各化合物の集積量を求めた。
【0060】
HeLa−K及びHeLa−B腫瘍組織の体積の増加曲線を図1に示す。このように、同じHeLa細胞でも、継代条件により、その増殖に違いがあることが確認され、HeLa−K腫瘍の方がHeLa−B腫瘍よりも増殖が早かった。HeLa−B腫瘍組織のサイズがHeLa−Kの腫瘍組織のサイズとほぼ同じとなるHeLa−B移植後4週目と、移植後の日数をHeLa−Kと同一にしたHeLa−B移植後2週目の2つの条件で実験を行った。
【0061】
図2に、HeLa−K腫瘍組織とHeLa−B腫瘍組織への[18F]FBHI、[18F]FBHB、[18F]FBMI及び[18F]FBMBの単位体重あたりの投与量に対する集積量であるSUVを示す。なお、SUVは以下の式により算出した。
SUV=(組織中の放射能(Bq)/組織重量(g))/(トレーサーの投与量(Bq)/体重(g))
ここで、HeLa−B腫瘍組織のサイズがHeLa−Kの腫瘍組織のサイズとほぼ同じとなるHeLa−B移植後4週目と、移植後の日数をHeLa−Kと同一にしたHeLa−B移植後2週目の2つの条件の間で、HeLa−B腫瘍組織におけるSUVはデータに差がなかったため、図2には移植後2週目のデータのみ示した。
【0062】
図3に、HeLa−K移植マウスとHeLa−B移植マウスでの、[18F]FBHI、[18F]FBHB、[18F]FBMI及び[18F]FBMBの血液への集積に対する腫瘍への集積の比(化合物(I)の腫瘍SUV/化合物(I)の血液SUV)を示す。ここで、HeLa−B腫瘍組織のサイズがHeLa−Kの腫瘍組織のサイズとほぼ同じとなるHeLa−B移植後4週目と、移植後の日数をHeLa−Kと同一にしたHeLa−B移植後2週目の2つの条件の間で、HeLa−B移植マウスにおける集積比はデータに差がなかったため、図3には移植後2週目のデータのみ示した。
【0063】
図2及び図3で示すように、細胞増殖速度の速いHeLa−K腫瘍組織への化合物(I)の集積がHeLa−B腫瘍組織への化合物(I)の集積より低かった。特に[18F]FBMI及び[18F]FBMBで、HeLa−K腫瘍組織とHeLa−B腫瘍組織との差が大きかった。細胞増殖が遅いことはアポトーシスが積極的に生じていると考えられ、逆に細胞増殖が速いことはアポトーシスが生じている割合が低いと考えられる。HeLa−K腫瘍組織よりもアポトーシスが積極的に生じていると考えられるHeLa−B腫瘍組織への化合物(I)の集積が高いことを示す結果となった。
【0064】
(実施例4)抗癌剤投与マウスを用いた実験
ヒト子宮頚癌細胞HeLa(strain:15S3D)細胞5×10個を、6週齢のメスBALB/cA Jcl−nuヌードマウスの大腿皮下に移植し担癌マウスを作製した。移植後2週間目に抗癌剤として、シスプラチン(CDDP)2mg/kg又はCDDP6mg/kgを含む生理食塩溶液を腹腔内に投与し、抗癌剤投与マウスを2群作製した。コントロールの担癌マウスには抗癌剤を含まない生理食塩溶液を腹腔内に投与した。
【0065】
図4に抗癌剤を投与された担癌マウスの腫瘍体積(mm)の変化を示す。癌を移植して2週間後にCDDP投与を行い、さらに最初の投与から7日後に再度投与を行った。図4にはCDDPを最初に投与した日を第0日として示してある。CDDP2mg/kg投与群は、8匹中7匹が第4〜5日に死亡した。CDDP6mg/kg投与群は第4日まで腫瘍体積が減少し、その後再び増加し始めた。2回目の投与で再び減少したが、やはり2回目投与から4日(第11日)の後に再び腫瘍体積の増加が見られた。CDDP2mg/kg投与群はコントロールに対して腫瘍体積の減少があまり見られなかった。
【0066】
第2日に上記担癌マウスをプラナーイメージング装置(PPIS)に固定し、[18F]FBHI、[18F]FBHB、[18F]FBMI又は[18F]FBMBの生理食塩水溶液0.3mLを尾静脈より投与し、プラナー画像を得た。化合物投与から65分後にマウスを断頭屠殺し、血液、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、大腿骨、筋肉、腫瘍、小腸、消化管、膵臓、脳を採取した。臓器重量、及び放射能を測定し、各化合物の集積(SUV)を求めた。
【0067】
図5は上記担癌マウスの腫瘍への[18F]FBHI、[18F]FBHB、[18F]FBMI及び[18F]FBMBの集積(SUV)を示している。[18F]FBHIは腫瘍への集積が低く、抗癌剤治療による集積の増加が見られなかった。[18F]FBHBも腫瘍への集積が低かったが、CDDP6mg/kg投与群では他の群より若干高かった。[18F]FBMIは、CDDP投与量と比例して腫瘍への集積が高くなる傾向にあった。[18F]FBMBはCDDP投与で集積の増加が見られ、その増加の割合はCDDP6mg/kg>CDDP2mg/kgであった。
【0068】
図6に上記担癌マウスの写真と、コントロール、CDDP2mg/kg群及びCDDP6mg/kg群マウスの[18F]FBMBのプラナー画像写真を示す。マウス写真において右大腿部の丸く囲んだ部分が腫瘍部位である。プラナー画像においても腫瘍部位への[18F]FBMBの集積が見られた。
【0069】
(実施例5)脳虚血ラットを用いた実験
麻酔下のラットの中大脳動脈を露出させ、ローズベンガル試薬を投与し、光を血管外部より照射し、照射位置の血管内部に血栓を作った。こうして、脳虚血ラットを作製した。虚血から24時間後に化合物(I)を投与した。化合物(I)の投与から30分及び90分後に断頭屠殺し、脳を取り出し、2mm厚の脳スライス片を作製した。脳スライス片を染色し、その後イメージングプレートを用いて脳スライス片の放射能分布を画像化した。また、関心領域における化合物(I)の集積を求めた。
【0070】
図7に脳虚血ラットの脳スライス片の染色写真及び[18F]FBHIの集積画像を示す。脳スライス片の染色写真で赤い部位は、細胞の活性があるために染色されている部位で、白い部分は虚血により細胞死を起こしたために染色されなかった部位(虚血部位)である。集積画像では、放射能量が高い部位から低い部位の色が、赤-オレンジ-黄-黄緑-緑-青-藍で表されている。脳スライス片の写真と集積画像を対応させると、[18F]FBHIの集積が高い部分(集積画像中、赤−オレンジの部分)が虚血部位周辺にあることがわかる。
【0071】
虚血部位及び虚血部位周辺部(虚血側)と、虚血を起こしていない反対側の脳の対応する部位(正常側)とを関心領域として設定し、化合物(I)の関心領域への集積比(虚血側への化合物(I)の集積(SUV)/正常側への化合物(I)の集積(SUV))を求めた。結果を図8に示す。いずれの化合物においても、アポトーシスが生じていることが予見される虚血側への集積が正常側への集積よりも高くなっていた。また、化合物(I)同士で比較すると、上記集積比は[18F]FBHI及び[18F]FBHBが、[18F]FBMI及び[18F]FBMBに対して高くなっていた。
【0072】
(実施例6)脳虚血サルを用いた実験
サルに塩酸ケタミン及び硫酸アトロピンを筋肉内投与して麻酔導入した。口腔内にリドカインを噴霧して局所表面麻酔を施し、気管内挿管し、NO:O=0.7:0.3(L/min)+イソフルレン(0.8〜0.3%)又はNO:O=1.4:0.6(L/min)+イソフルレン(0.8〜0.3%)で麻酔を開始した。筋弛緩剤である臭化パンクロニウムを、0.05mg/kg/h(静脈内投与)又は0.1mg/kg/2h(筋肉内投与)を追加して麻酔を維持した。上記麻酔下で片側眼球を摘出し、硬膜を露出し、中大脳動脈を確保し、以下のようにして中大脳動脈の閉塞を行った。手術用実体顕微鏡下で中大脳動脈を露出し、2個の動脈瘤クリップを用いて、クリップ間に出来る限り多くの側枝が含まれる様に留意した。3時間閉塞を行った後、クリップを外して再潅流を行った。中大脳動脈を再灌流する際は、直視下又は手術用実体顕微鏡下でクリップを外した。こうして、大脳半球の片側が虚血側、その反対側が正常側の脳虚血サルモデルを作製した。
【0073】
再潅流を開始した3時間後に[18F]FBHI又は[18F]FDGを投与してPET計測を行った。[18F]FDGは細胞の活性が高い部分に集積する化合物である。再潅流から3日後及び7日後に[18F]FDGのPET計測を行った。
【0074】
図9に脳虚血サルの再潅流後の脳スライス片の[18F]FBHI及び[18F]FDGの集積画像を示す。再潅流から3時間後、[18F]FBHIでは虚血側に高い集積が観察された。一方[18F]FDGでは再潅流から3時間後、虚血側と正常側で集積の差が観察されなかった。再潅流から3日後及び7日後、虚血側で[18F]FDGの集積の低下が観察された。[18F]FBHIは、神経細胞の活性が数日後に低下する部位に高く集積した。この結果から、アポトーシスにより神経細胞の脱落が生じる部位を、[18F]FBHIを用いて検出できることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の化合物(I)によれば、生体内で生じているアポトーシスを検出することが可能となる。また、[18F]FBMI及び[18F]FBMBは腫瘍縮退におけるアポトーシスの検出に有効であると考えられ、抗癌剤の評価試薬として使用できる。一方、[18F]FBHI及び[18F]FBHBは神経系のアポトーシス検出に有効であると考えられ、虚血性疾患におけるアポトーシス抑制剤の評価試薬として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】HeLa−K及びHeLa−B腫瘍組織の体積の増加曲線を示したグラフである。
【図2】腫瘍組織への化合物(I)の集積を示したグラフである。
【図3】化合物(I)の血液への集積に対する腫瘍への集積の比を示したグラフである。
【図4】抗癌剤治療マウスの治療経過日数と腫瘍体積の関係を示したグラフである。
【図5】抗癌剤治療マウスの腫瘍への化合物(I)の集積を示したグラフである。
【図6】担癌マウスの写真と、抗癌剤治療マウスの[18F]FBMBのプラナー画像の写真である。
【図7】脳虚血ラットの脳スライス片の染色写真及び[18F]FBHIの集積画像の写真である。
【図8】脳虚血ラットの脳における化合物(I)の正常側への集積に対する虚血側への集積の比を示したグラフである。
【図9】脳虚血サルの再潅流後の脳スライス片の[18F]FBHI及び[18F]FDGの集積画像の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物。
【化1】


(式(I)中、Xはヨウ素原子又は臭素原子であり、Yは水酸基又はメトキシ基である。)
【請求項2】
下記一般式(II)で表される化合物。
【化2】


(式(II)中、Xはヨウ素原子又は臭素原子であり、Yは水酸基又はメトキシ基である。)
【請求項3】
請求項1に記載の化合物を含む、アポトーシスの検出用試薬。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物を含む、抗癌剤の薬効評価用試薬。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物を含む、アポトーシス抑制剤の評価用試薬。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−24172(P2010−24172A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186378(P2008−186378)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】