説明

アポトーシス誘導剤

この発明は、少なくとも1種のアポトーシス誘導物質と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する少なくとも1種の物質とを含む剤、組成物および生成物、これらの1または2以上を用いたアポトーシスを誘導するための、または増殖性疾患を処置するための方法、発現させるタンパク質をコードする核酸分子と、望まないタンパク質の発現を阻害する核酸分子とを含む核酸構築物、ならびに、望まないタンパク質の発現を阻害しながら、細胞内で所望のタンパク質を発現させる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、その内容の全体が本明細書に援用される、2008年4月11日に出願された米国仮出願第61/044061号に対する利益を主張する。
【0002】
本発明は、アポトーシスを誘導するための剤、組成物および生成物、該剤、組成物または生成物を用いたアポトーシスを誘導するためのまたは増殖性疾患を処置するための方法、発現させるタンパク質をコードする核酸分子と、望まないタンパク質の発現を阻害する核酸分子とを含む核酸構築物、および、望まないタンパク質の発現を阻害しながら、細胞内で望ましいタンパク質を発現させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
p53は、最も重要な腫瘍抑制遺伝子の1つである。ヒトの全てのがんほぼ半数で、p53はp53遺伝子における突然変異の直接的な結果として不活性化される(Hollstein et al., Science 1991; 253:49-53、Levine et al., Nature 1991; 351:453-6)。他のがんでは、p53はウイルス腫瘍タンパク質との会合により、またはp53シグナル伝達ネットワークに関与している遺伝子の変化の結果として不活性化されている(Vogelstein et al., Nature 2000; 408:307-10)。さらに、p53の変異または欠失は予後不良および化学療法や放射線に対する耐性に関連している(Clarke et al., Oncogene 1994; 9:1767-73、Merritt et al., Cancer Res 1994; 54:614-7、Poeta et al., N Engl J Med 2007; 357:2552-61、Patocs et al., N Engl J Med 2007; 357:2543-51)。
【0004】
ベクター媒介性のp53の遺伝子導入は、効果的ながん療法になる可能性があると考えられている。実際、アデノウイルス媒介性のp53遺伝子治療の臨床試験は、頭頸部がん(第III相)、非小細胞肺がん(第II相)、乳がん(第II相)および食道がん(第II相)を有する患者で進行中である(INGN 201: Ad-p53, Ad5CMV-p53, adenoviral p53, p53 gene therapy--introgen, RPR/INGN 201. Drugs R D 2007; 8:176-87)。しかしながら、p53の遺伝子導入は、必ずしも全てのがんについて良好な治療成果を有するというわけではない(Roth et al., Nat Med 1996; 2:985-91、Swisher et al., J Natl Cancer Inst 1999; 91:763-71、Nemunaitis et al., J Clin Oncol 2000; 18:609-22)。したがって、p53による遺伝子治療のさらなる改良が必要である。
【0005】
p53の活性化は、様々な細胞ストレス、例えばDNA損傷、癌遺伝子活性化、紡錘体損傷および低酸素症などによって誘導される。活性化されたp53は複数の遺伝子(その多くはDNA修復、細胞周期停止およびアポトーシスに関与している)をトランス活性化する(Riley et al., Nat Rev Mol Cell Biol 2008; 9:402-12)。細胞種およびストレスの強度に応じて、p53の活性化は細胞周期停止か、またはアポトーシスを誘導する(Zhang et al., Environ Health Perspect 2007; 115:653-8)。しかしながら、細胞が細胞周期停止に至るのか、またはアポトーシスに至るのかを調整する正確なメカニズムは、依然不明である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的の1つは、従来のp53の遺伝子導入に耐性のがんにおいても良好な治療成果を保証する生成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
今回、p53による遺伝子治療の結果が、p53を標的とする細胞周期停止に関与する遺伝子、例えば、p21(el-Deiry et al., Cell 1993; 75:817-25, Dulic et al., Cell 1994; 76:1013-23, Deng et al., Cell 1995; 82:675-84, Brugarolas et al., Nature 1995; 377:552-7)などの発現の同時阻害によって顕著に改善することが明らかとなった。細胞周期停止に関与する遺伝子が抗アポトーシス的に機能することによりゲノムの完全性を回復する方向に働くことは知られていた(Chan et al., Genes Dev 2000; 14:1584-8、Waldman et al., Nat Med 1997; 3:1034-6、Waldman et al., Nature 1996; 381:713-6)。他方、かかる遺伝子がまた細胞増殖を阻害し、これが腫瘍抑制を導くという証拠もある。実際、腫瘍感受性は、p21−ヌルマウスで増大しており(Van Nguyen et al., J Exp Med 2007; 204:1453-61、Poole et al., Oncogene 2004; 23:8128-34、Martin-Caballero et al., Cancer Res 2001; 61:6234-8、Barboza et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2006; 103:19842-7)、p21欠損マウスは、発癌物質への暴露後、より悪性皮膚腫瘍を発症しやすい(Topley et al., Proc Natl Acad Sci U S A 1999; 96:9089-94、Philipp et al., Oncogene 1999; 18:4689-98)。
【0008】
ガンマ照射を一回行った後、p21欠損マウスはより多くの腫瘍を発症し、その腫瘍の転移能は増大している(Jackson et al., Cancer Res 2003; 63:3021-5)。さらに、p21の抑制が細胞周期進行を誘導し、その結果、細胞増殖の増大をもたらすことが示されている(van de Wetering et al., Cell 2002; 111:241-50, Gartel et al., Cancer Res 2005; 65:3980-5)。したがって、p21の抑制は、腫瘍進行のリスクを増大すると考えられている。これらを合わせ考えると、p53による遺伝子治療の結果に対する、細胞周期停止に関与する遺伝子の抑制の効果は予測不能であった。このため、細胞周期停止遺伝子の抑制がp53誘導性の腫瘍抑制を強化することを示す今回の知見は驚くべきものである。
【0009】
したがって、1つの側面において、本発明は、少なくとも1種のアポトーシス誘導物質と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する少なくとも1種の物質とを含む剤、組成物または生成物を提供する。
一態様において、アポトーシス誘導物質は、アポトーシス誘導タンパク質および/またはこれをコードする核酸分子である。
一態様において、アポトーシス誘導タンパク質は、p53ファミリーのタンパク質である。
一態様において、アポトーシス阻害物質は、アポトーシス誘導物質によって誘導される。
一態様において、アポトーシス阻害物質は、細胞周期停止に関与するタンパク質、ユビキチンリガーゼおよびp53ファミリータンパク質のドミナントネガティブ変異体からなる群から選択される。
一態様において、細胞周期停止に関与するタンパク質は、p21、SFN、Gadd45およびp300からなる群から選択される。
一態様において、ユビキチンリガーゼは、MDM2である。
【0010】
一態様において、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質は、アポトーシス阻害物質の発現を阻害する核酸分子またはこれをコードする核酸である。
一態様において、アポトーシス阻害物質の発現を阻害する核酸分子は、アンチセンス核酸、リボザイム、アプタマーおよびRNAiエフェクターからなる群から選択される。
一態様において、アポトーシス誘導タンパク質および/またはこれをコードする核酸分子と、アポトーシス阻害物質の発現および/またはの活性を阻害する物質とは、単一物質として存在する。
一態様において、剤、組成物または生成物は、アポトーシス誘導タンパク質をコードする核酸分子と、アポトーシス阻害物質の発現を阻害する核酸分子とを含む単一のベクターまたは単一の核酸構築物として形成される。
【0011】
一態様において、アポトーシス誘導タンパク質をコードする核酸分子と、アポトーシス阻害物質の発現を阻害する核酸分子とは、同じ制御配列、例えば1または2以上のプロモーターや1または2以上のエンハンサーなどと、作動可能に連結している。
一態様において、アポトーシス誘導タンパク質をコードする核酸分子と、アポトーシス阻害物質の発現を阻害する核酸分子とは、単一の一次転写物として発現される。
一態様において、アポトーシス誘導タンパク質をコードする核酸分子と、アポトーシス阻害物質の発現を阻害する核酸分子とは、コシストロニックに発現される。
別の態様において、アポトーシス誘導タンパク質および/またはこれをコードする核酸分子と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質とは、別々の物質として存在する。
一態様において、剤、組成物または生成物は、増殖性疾患を処置するためのものである。
一態様において、増殖性疾患は、良性腫瘍または悪性腫瘍、過形成、ケロイド、クッシング症候群、原発性アルドステロン症、紅板症、真性多血症、白板症、肥厚性瘢痕、扁平苔癬と黒子症からなる群から選択される。
【0012】
別の側面において、本発明は、細胞のアポトーシスを誘導するための方法であって:
(a)上記の剤、組成物または生成物を提供すること、および
(b)前記剤、組成物または生成物を細胞内に導入すること
を含む方法を提供する。
一態様において、剤、組成物または生成物は、アポトーシス誘導タンパク質をコードする核酸分子と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する核酸分子とを有するベクター、またはアポトーシス誘導タンパク質をコードする核酸分子を有するベクターと、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する核酸分子を有するベクターとからなる一組のベクターからなる群から選択される。
【0013】
別の側面において、本発明は:
発現させるタンパク質をコードする核酸分子、および
望まないタンパク質の発現を阻害する核酸分子
を含む核酸構築物を提供する。
一態様において、発現させるタンパク質は、アポトーシス誘導タンパク質である。
一態様において、アポトーシス誘導タンパク質は、p53ファミリーのタンパク質である。
一態様において、望まないタンパク質は、アポトーシス阻害タンパク質である。
一態様において、アポトーシス阻害タンパク質は、細胞周期停止に関与するタンパク質、ユビキチンリガーゼおよびp53ファミリータンパク質のドミナントネガティブ変異体からなる群から選択される。
一態様において、発現させるタンパク質をコードする核酸分子と、望まないタンパク質の発現を阻害する核酸分子とは、同じ制御配列、例えば1または2以上のプロモーターや1または2以上のエンハンサーなどに、作動可能に連結している。
一態様において、発現させるタンパク質をコードする核酸分子と、望まないタンパク質の発現を阻害する核酸分子とは、単一の一次転写産物として発現される。
一態様において、発現されるタンパク質をコードする核酸分子と、望まないタンパク質の発現を阻害する核酸分子とは、コシストロニックに発現される。
【0014】
別の側面において、本発明は、上記の核酸構築物を含むベクターを提供する。
別の側面において、本発明は、望まないタンパク質の発現を阻害しながら、細胞内で所望のタンパク質を発現させるための方法であって:
(a)上記の核酸構築物またはベクターを提供すること、および、
(b)前記核酸構築物および/またはベクターを細胞内に導入すること
を含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の剤、組成物、生成物または方法を用いることにより、アポトーシス誘導タンパク質のみによる処置に耐性を有する細胞、例えば腫瘍細胞にアポトーシスを誘導することが可能となり、医学および獣医学領域における大いなる貢献が期待できる。さらに、本発明の核酸構築物またはベクターは、望まないタンパク質の発現を阻害しながら、細胞内で所望のタンパク質を発現させることを可能にするが、これは、多くの用途、特に望まないタンパク質が所望のタンパク質の発現によって誘導される場合に有用たり得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、3種の異なるp21特異的pre−miRNA、miR−p21A、BおよびCの折畳まれた構造を示した図である。ヒトp21ターゲティング配列と一致する二本鎖RNAは、太字で示してある(miR-p21A: 5' AUAGGGUGCCCU-UC-UUCUUGUG 3', 3' AUCCCACGGGA--AAGAACAC 5'、miR-p21B: 5' AGCUGCCUGAG-GU-AGAACUAG 3', 3' UCGACGGACUC--UCUUGAU 5'、miR-p21A: 5' AAUACUCCAAG-UA-CACUAAGC 3', 3' UUAUGAGGUUC--GUGAUUCG 5')。
【図2】図2は、人工miRNAによるp21発現の抑制を示した図である。HEK293細胞を、3種の異なるp21特異的人工miRNA(それぞれmiR-p21A、BおよびC)をコードするmiRNA発現プラスミドpcDNA6.2-miR-p21A、pcDNA6.2-miR-p21BおよびpcDNA6.2-miR-p21Cでトランスフェクトした。細胞はまた、対照プラスミドpcDNA6.2-miR-control(miR-control)でトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、全細胞溶解物を、抗p21抗体および抗アクチン抗体を用いたウエスタンブロットで分析した。
【0017】
【図3】図3は、アドリアマイシン(ドキソルビシン)で処理した細胞におけるp21発現の人工miRNAによる抑制を示した図である。HCT116細胞を、pcDNA6.2-miR-p21A、BおよびCの混合物(miR-p21mix)または対照ベクター(miR-control)でトランスフェクトした。24時間後、培地を0.5マイクログラム/mlのアドリアマイシンを含む、または含まない新鮮な培地と交換した。トランスフェクションの24時間後に、全細胞溶解物を、抗p53抗体、抗p21抗体および抗アクチン抗体を用いたウエスタンブロットで分析した。
【0018】
【図4】図4は、p53発現ベクターで処理した細胞におけるp21発現の人工miRNAによる抑制を示した図である。HEK293細胞を、示した量のpCMV-Tag2-FLAG-p53(FLAG-p53)と、miR-p21A、BおよびCのタンデムアレイ(miR-p21)をコードするpcDNA6.2-miR-p21または対照ベクター(miR-control)とでコトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、全細胞溶解物を、抗p53抗体、抗FLAG抗体、抗p21抗体および抗アクチン抗体を用いたウエスタンブロットで分析した。
【0019】
【図5】図5は、本例で用いたプラスミドベクターの概略図である。ベクターは、親プラスミドpcDNA6.2-GW/miRから生成した。FLAGエピトープのために配列を含むp53のORFを、複数のmiRNAのクラスターの5’側に挿入した。したがって、例えば、pcDNA6.2-p53/miR-p21は、CMVプロモーターの制御下で、FLAGタグ化p53タンパク質と3種の異なるp21特異的miRNAの、1つの一次転写物でのコシストロニックな発現を可能にする。
【0020】
【図6】図6は、単一のプラスミドベクターを用いたp53の発現およびp21誘導の抑制を示した図である。HEK293細胞を、示したベクター(図5に記載のベクター)でトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、全細胞溶解物を、抗p53抗体、抗p21抗体および抗アクチン抗体を用いたウエスタンブロットで分析した。
【0021】
【図7】図7は、アドリアマイシンで処理した細胞における、単一のプラスミドベクターを用いたp53の発現およびp21誘導の抑制を示した図である。SW480およびp53(−/−)HCT116細胞を、示したベクターでトランスフェクトした(レーン1および5:pcDNA6.2-p53/miR-p21、レーン2および6:pcDNA6.2-p53/miR-control、レーン3および7:pcDNA6.2-miR-p21、レーン4および8:pcDNA6.2-miR-control)。(+)および(−)は、それぞれ、p53およびmiR−p21発現の存在および欠如を示す。24時間後、培地を0.5マイクログラム/mlのアドリアマイシンを含む(レーン1〜4)または含まない(レーン5〜8)新鮮な培地と交換し、細胞をさらに24時間インキュベートした。全細胞溶解物は、抗p53、抗p21抗体および抗アクチン抗体を用いたウエスタンブロットで分析した。
【0022】
【図8】図8は、p53をp21特異的miRNAと共に発現する種々の量の組換えアデノウイルスで処理した細胞における、p53の発現およびp21誘導の抑制を示した図である。p53(−/−)HCT116細胞を、示したmoiでAd-p53/miR-p21(レーン1、3、5および7)またはAd-p53/miR-control(レーン2、4、6および8)に感染させた。感染の24時間後に、全細胞溶解物を、抗p53抗体、抗p21抗体および抗アクチン抗体を用いたウエスタンブロットで分析した。
【0023】
【図9】図9は、p53をp21特異的miRNAと共に発現する組換えアデノウイルスで処理した細胞における、p53の発現およびp21誘導の抑制(上位3レーン)、ならびに、示したmRNAの発現(下位5レーン)を示した図である。p53(−/−)HCT116細胞を、100のmoiで、示した組換え体アデノウイルスに感染させた。感染の48時間後に、全細胞溶解物を、抗p53抗体、抗アクチンおよび抗p21抗体を用いたウエスタンブロットで分析した。ベクター由来のmiRNA、p21およびGAPDHのmRNA発現は、RT−PCRによっても分析した。Target A-B:miR−p21AおよびBの標的部位(1327〜1493)を含む。Target C:miR−p21Cの標的部位(1525〜1677)を含む。ORF:ORF(523〜778)を含む。位置番号は、p21のmRNA配列に基づく(GenBankアクセッション番号:NM_000389)。
【0024】
【図10】図10は、p53をp21特異的miRNAと共に発現する組換えアデノウイルスで処理した細胞における、p21誘導の抑制を示した図である。p53(−/−)HCT116細胞を、100のmoiで、Ad-p53/miR-p21またはAd-p53/miR-controlに感染させた。感染の24時間後に、抗FLAGウサギポリクローナル抗体(赤)、抗p21マウスモノクローナル抗体(緑)および4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI(青))を用いて免疫蛍光染色を行った。
【0025】
【図11】図11は、p53をp21特異的miRNAと共に発現する組換えアデノウイルスで処理した種々の細胞における、p53の発現およびp21誘導の抑制を示した図である。HLF細胞、Hep3B細胞およびDLD1細胞を、200のmoiで、示した組換えアデノウイルスに感染させた(レーン1、5および9:Ad-p53/miR-p21、レーン2、6および10:Ad-p53/miR-control、レーン3、7および11:Ad-mock/miR-p21、レーン4、8および12:Ad-mock/miR-control)。感染の24時間後に、全細胞溶解物を、抗p53抗体、抗p21抗体および抗アクチン抗体を用いたウエスタンブロットによって分析した。
【0026】
【図12】図12は、p53をp21特異的miRNAと共に発現する組換えアデノウイルスで処理した種々の細胞のうち、アポトーシスを起した細胞の割合を示した図である。HLF細胞、Hep3B細胞およびDLD1細胞を、示した組換えアデノウイルスに感染させ、感染の48時間後にフローサイトメトリーで分析した。sub−G1にある細胞のパーセンテージを示した(上)。また、3つの独立した実験の平均も示した(下)。エラーバーは標準誤差を示し、p値はスチューデントのt検定により計算した。
【0027】
【図13】図13は、p53をp21特異的miRNAと共に発現する組換えアデノウイルスで処理した細胞における、p53の発現およびp21誘導の抑制を示した図である。SW480細胞は、200のmoiで、示したアデノウイルスに感染させた(レーン1および5:Ad-p53/miR-p21、レーン2および6:Ad-p53/miR-control、レーン3および7:Ad-mock/miR-p21、レーン4および8:Ad-mock/miR-control)。24時間後、培地を、0.5マイクログラム/mlのアドリアマイシンを含む(レーン1〜4)または含まない(レーン5〜8)新鮮な培地と交換し、細胞をさらに24時間インキュベートした。全細胞溶解物を、抗p53抗体、抗p21抗体および抗アクチン抗体を用いたウエスタンブロットで分析した。
【0028】
【図14】図14は、p53をp21特異的miRNAと共に発現する組換えアデノウイルスで処理した細胞における、カスパーゼ3活性を示した図である。カスパーゼ3活性は、アデノウイルス感染症の72時間後に分析した。それぞれ、アドリアマイシンで処理したおよび処理しなかった細胞は、それぞれグレーおよび黒のバーで示してある。カスパーゼ3活性は、Ad-mock/miR-controlに感染させ、アドリアマイシンで処理した細胞に対して正規化した。
【0029】
【図15】図15は、p53をp21特異的miRNAと共に発現する組換えアデノウイルスで処理した細胞のうち、アポトーシスを起した細胞の割合を示した図である。細胞DNA含量は、フローサイトメトリーで分析した。sub−G1にある細胞のパーセンテージを示した(上)。また、3つの独立した実験の平均も示した(下)。エラーバーは標準誤差を示し、p値はスチューデントのt検定により計算した。
【0030】
【図16】図16は、in vivo異種移植片腫瘍形成モデルにおける、アデノウイルスによるp53とp21特異的miRNAとの共発現の治療効果を示した図である。SW480およびDLD1細胞を、ヌードマウスに皮下注射した。腫瘍体積が100mmに達したときに、示したアデノウイルスベクターを、第0日、第1日および第2日(矢印で示す)に、直接腫瘍に注射した。Ad-p53/miR-p21(黒丸)、Ad-p53/miR-control(白丸)、Ad-mock/miR-p21(黒四角)およびAd-mock/miR-control(白四角)。データは、アデノウイルスを注射した3つの独立した腫瘍の平均体積を表す。各々の腫瘍の体積は1として設定した第0日の体積との比較で表した。エラーバーは標準誤差を示し、p値はスチューデントのt検定により計算した。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書中に別記のないかぎり、本発明に関して用いられる科学的および技術的用語は、当業者に通常理解されている意味を有するものとする。一般的に、本明細書中に記載された細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝子、タンパク質および核酸化学ならびにハイブリダイゼーションに関して用いられる用語およびその技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものとする。一般的に、別記のないかぎり、本発明の方法および技術は、当該技術分野においてよく知られた慣用の方法に従って、本明細書中で引用され、議論されている種々の一般的な、および専門的な参考文献に記載されたとおりに行われる。かかる文献としては、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) および Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3d ed., Cold Spring Harbor Press (2001); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates (1992, および2000の補遺); Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology - 4th Ed., Wiley & Sons (1999); Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1990); および Harlow and Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1999)などが挙げられ、これらの全ては、その全体を本明細書に援用する。
【0032】
酵素反応および精製技術は、製造者の仕様書に従い、当該技術分野において通常なされているとおりに、または本明細書に記載のとおりに行うものとする。本明細書中に記載された分析化学、合成有機化学ならびに医薬品化学および薬化学に関して用いられる用語、ならびにその実験手順および技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものである。標準的な技術を、化学合成、化学分析、薬剤の製造、製剤および送達、ならびに対象の処置に用いるものとする。
【0033】
ここで、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に別様に指示しないかぎり、複数の指示対象を含むよう用いることとする。例または別様に示されている場合を除き、本出願で用いる成分、反応条件などを表す全ての数は、全ての場合において用語「約」で修飾されるものと解される。したがって、反対のことが示されないかぎり、この出願に記載の数的パラメーターは近似値であり、本発明により得ようとする所望の特性に応じて変動し得る。さらに、特に別記しないかぎり、用語「タンパク質」、「ペプチド」および「ポリペプチド」は互換的に用いるものとする。
【0034】
本発明において、アポトーシス誘導物質と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質とを含む剤、組成物または生成物が提供される。
【0035】
本明細書で用いる場合、アポトーシス誘導物質は、細胞にアポトーシスを誘導することができる任意の物質を含み、限定されずに、少なくとも1種の小分子、および/またはタンパク質および該タンパク質をコードする核酸分子を包含する。アポトーシスを誘導することができる小分子は、限定されずに、ドキソルビシン、プラチナ錯体、例えばカルボプラチン、シスプラチンおよびネダプラチンなどを含む。一態様において、本発明で用いるアポトーシス誘導小分子は、以下に定義するアポトーシス誘導タンパク質の誘導を介してアポトーシスを誘導する。
【0036】
本発明で用いるアポトーシス誘導タンパク質は、限定されずに、p53ファミリータンパク質、例えばp53、p63、p73など、およびそのアイソフォーム、キメラおよび機能的断片を含む。ヒトp53、p63およびp73の核酸配列は、それぞれ、アクセッション番号NM_000546、NM_003722およびNM_005427としてGenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から入手できる。p53の核酸配列はまた、配列番号9として本明細書に示してある。他の動物の配列もまた、公的に利用可能なデータベース、例えばGenBankなどで見出すことができる:NM_001003210(イヌのp53)、NM_001009294(ネコのp53)、XM_545249(イヌのp63)、AY069989(イヌのp73)。
【0037】
p53ファミリーのタンパク質は、主にスプライシングにより様々なアイソフォーム、例えばp53ベータ、ガンマ、p73アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、シータ、ゼータ、イータ、p63アルファ、ベータ、ガンマなどとして存在し、その全ては本発明で用いるアポトーシス誘導タンパク質に含まれる。さらに、p53ファミリーのタンパク質は高度に相同な領域、すなわち、タンパク質の機能に関与するトランス活性化領域(TA)、DNA結合性領域(DBD)およびオリゴマー形成領域(OD)を共有する。(例えば、Stiewe, Nat Rev Cancer. 2007;7(3):165-8などを参照)。したがって、本発明で用いるアポトーシス誘導タンパク質はまた、トランス活性化領域、DNA結合領域およびオリゴマー形成領域を含むp53ファミリーのタンパク質の機能的断片も含む。機能的断片の機能性は、p53の場合には、全長タンパク質によって通常誘導される遺伝子、例えばp21、SFN、Gadd45、BTG2、CAV1、DUSP5、EGFR、HGF、MET、PCNA、PLAGL1、SESN1、SH2D1A、TGFA、PCBP4、RRM2B、STEAP3、ARID3A、C13orf15、CCNG1、CCNK、DDB2、DDIT4、GML、GPX1、HRAS、IBRDC2、MET、MSH2、PLK2、RB1、S100A2、TP53i3、TRIM22およびVCANを検出することによってアッセイすることができる。
【0038】
本発明で用いるアポトーシス誘導タンパク質はまた、p53ファミリーのキメラタンパク質(JP 2000-354488 A参照)を含む。これらのキメラタンパク質は、任意の単一のp53ファミリーの成員のトランス活性化領域、任意の単一の同じもしくは他のp53ファミリーの成員のDNA結合領域、および任意の単一の同じもしくは他のp53ファミリーの成員のオリゴマー形成領域を含む。これらのキメラに用いる各領域は、p53ファミリーの同じタンパク質または異なるタンパク質に由来してもよい。例えば、キメラタンパク質は、p53トランス活性化領域、p63のDNA結合性領域、およびp73のオリゴマー形成領域などを含んでもよい。
【0039】
本明細書で用いる場合、アポトーシス誘導タンパク質は:
i)前記アポトーシス誘導タンパク質のアミノ酸配列において、1個もしくは2個以上、または1個もしくは数個の変異を有するが、依然アポトーシスを誘導することができるポリペプチド、
ii)前記アポトーシス誘導タンパク質、その相補鎖またはその断片をコードする核酸分子とストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸分子によってコードされ、アポトーシスを誘導することができるポリペプチド、および、
iii)前記アポトーシス誘導タンパク質のアミノ酸配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%相同であり、アポトーシスを誘導することができるポリペプチド
からなる群から選択されるその機能的変異体を含むものとする。
【0040】
同様に、アポトーシス誘導タンパク質をコードする核酸分子は:
i)前記アポトーシス誘導タンパク質をコードするヌクレオチド配列において、1個もしくは2個以上、または1個もしくは数個の変異を有するが、依然アポトーシスを誘導することができるポリペプチドをコードする核酸分子、
ii)前記アポトーシス誘導タンパク質をコードする核酸分子、その相補鎖またはその断片とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、アポトーシスを誘導することができるポリペプチドをコードする核酸分子、および、
iii)前記アポトーシス誘導タンパク質をコードするヌクレオチド配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%相同であり、アポトーシスを誘導することができるポリペプチドをコードする核酸分子
からなる群から選択されるその機能的変異体を含むものとする。
【0041】
本明細書で用いる用語「ストリンジェントな条件」は、当該技術分野で周知のパラメータを指す。核酸のハイブリダイゼーションのためのパラメータは、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3d ed., Cold Spring Harbor Press (2001)やAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates (1992)などの標準的なプロトコルに記載されている。
【0042】
具体的には、本明細書で用いるストリンジェントな条件は、3.5×SSC、フィコール0.02%、ポリビニルピロリドン0.02%、ウシ血清アルブミン0.02%、NaHPO 25mM(pH7)、SDS0.05%およびEDTA2mMを含むハイブリダイゼーションバッファによる、65℃でのハイブリダイゼーションを意味する。上記成分のうち、SSCはpH7の0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウムであり、SDSはドデシル硫酸ナトリウムであり、EDTAはエチレンジアミン四酢酸である。ハイブリダイゼーション後、DNAをトランスファーしたメンブレンを、室温にて2×SSCで、次いで68℃までの温度にて0.1〜0.5×SSC/0.1×SDSで洗浄する。あるいは、ストリンジェントなハイブリダイゼーションは、市販のハイブリダイゼーションバッファ、例えば、ExpressHyb(R)緩衝溶液(Clontech Corp.製)等を用いて、メーカーによって記載されたハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を利用してもよい。
【0043】
同程度のストリンジェンシーをもたらす、利用可能な他の条件、試薬等があるが、当業者はかかる条件を熟知していると考えられるため、本明細書にはこれらに関する具体的な記載はない。しかしながら、対象となる核酸分子もしくはタンパク質の変異体をコードする核酸のホモログや対立遺伝子が明確に同定されるよう、条件を操作することは可能である。
【0044】
本発明で用いるアポトーシス誘導物質のアポトーシス誘導特性は、限定されずに、候補物質有りまたは無しでのアポトーシスの程度またはアポトーシスを起こしている細胞の割合を比較することを含む、任意の適切な方法で評価することができる。アポトーシスの程度は、例えば、カスパーゼ3活性の測定などによって評価することができ、アポトーシスを起こしている細胞の割合は、例えば、sub−G1にある細胞の割合の測定(例参照)などによって評価することができる。
【0045】
本明細書で用いる場合、アポトーシス阻害物質は細胞においてアポトーシスを阻害することができる任意のタンパク質を含む。一態様において、アポトーシス阻害物質は、アポトーシス誘導タンパク質、上記で定義したp53ファミリータンパク質ならびにそのアイソフォーム、キメラおよび機能的断片によって誘導されるアポトーシスを阻害する物質である。したがって、この態様のアポトーシス阻害物質は、細胞周期停止に関与するタンパク質、ユビキチンリガーゼおよびp53ファミリータンパク質のドミナントネガティブ変異体からなる群から選択することができる。
【0046】
細胞周期停止に関与するタンパク質は、限定されずに、p21(NM_000389)、SFN(ストラチフィン、14−3−3シグマ、NM_006142)、Gadd45(NM_001924)、p300(EP300、NM_001429)、BTG2(TIS21、NM_006763)、CAV1(NM_001753)、DUSP5(NM_004419)、EGFR(NM_005228)、HGF(SF、NM_000601)、MET(NM_000245)、PCNA(NM_002592)、PLAGL1(ZAC、BC074814)、SESN1(PA26、AF033120)、SH2D1A(SAP、NM_002351)、TGFA(NM_003236)、PCBP4(NM_020418)、RRM2B(NM_015713)、STEAP3(NM_001008410)、ARID3A(E2FBP1、NM_005224)、C13orf15(RGC32、NM_014059)、CCNG1(NM_004060)、CCNK(NM_003858)、DDB2(NM_000107)、DDIT4(REDD1、NM_019058)、GML(NM_002066)、GPX1(NM_000581)、HRAS(c−Ha−Ras、NM_176795)、IBRDC2(NM_182757)、MET(NM_000245)、MSH2(NM_000251)、PLK2(SNK、NM_006622)、RB1(NM_000321)、S100A2(NM_005978)、TP53i3(Pig3、NM_004881)、TRIM22(Staf50、NM_006074)、VCAN(CSPG2、NM_004385)を含む(Riley et al., Nat Rev Mol Cell Biol. 2008;9(5):402-12、特にその補足情報を参照。括弧内の番号は、GenBankアクセッション番号を示す)。一態様において、細胞周期停止に関与するタンパク質は、p21、SFN、Gadd45およびp300からなる群から選択される。
【0047】
本発明で用いるユビキチンリガーゼは、限定されずにMDM2(GenBankアクセッション番号:NM_002392、NM_006878、NM_006879、NM_006881、NM_006882)を含む。本発明で用いるp53ファミリータンパク質のドミナントネガティブ変異体は、トランス活性化領域、DNA結合領域および/またはオリゴマー形成領域、特にDNA結合領域に変異を有するp53ファミリータンパク質の変異体を含む。一態様において、p53ファミリータンパク質のドミナントネガティブ変異体は、限定されずに、以下の変異を有するヒトp53を含む:G117E、P152T、T155I、R156P、R175H、P177S、P177F、P177H、H179Y、E180K、R181G、R181H、N239S、S241T、S241F、C242Y、G244S、G245S、G245D、M246L、P250L、L257P、D259V、R273C、R273H、V274F、G279E、G279V、G279R、D281N、D281E、R282Q、E286K(Willis et al., Oncogene 2004; 23:2330-8、Blagosklonny et al., Faseb J 2000; 14:1901-7、Monti et al., Oncogene 2002; 21:1641-8参照)。
【0048】
一態様において、アポトーシス阻害物質は、アポトーシス誘導物質の作用によって誘導される。かかるアポトーシス阻害物質の例は、限定されずに、p21、SFN、Gadd45、BTG2、CAV1、DUSP5、EGFR、HGF、MET、PCNA、PLAGL1、SESN1、SH2D1A、TGFA、PCBP4、RRM2B、STEAP3、ARID3A、C13orf15、CCNG1、CCNK、DDB2、DDIT4、GML、GPX1、HRAS、IBRDC2、MET、MSH2、PLK2、RB1、S100A2、TP53i3、TRIM22およびVCANを含み、これらの全てはp53によって誘導される。
【0049】
本発明で用いるアポトーシス阻害物質のアポトーシス阻害特性は、限定されずに、アポトーシス条件下における、候補物質有りまたは無しでのアポトーシスの程度またはアポトーシスを起こしている細胞の割合を比較することを含む、任意の適切な方法で評価することができる。アポトーシス条件は、限定されずに、アポトーシス誘導刺激、例えば照射などへの暴露、アポトーシス誘導物質、例えばドキソルビシンやプラチナ錯体などによる処置、アポトーシス誘導タンパク質、例えばp53ファミリータンパク質などの発現を含む。アポトーシスの程度は、例えば、カスパーゼ3活性の測定などによって評価することができ、アポトーシスを起こしている細胞の割合は、例えば、sub−G1にある細胞の割合の測定(例参照)などによって評価することができる。
【0050】
したがって、本発明で用いるアポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質は、限定されずに、上記で定義したアポトーシス阻害物質の発現を阻害する核酸分子、例えば、該アポトーシス阻害物質に対するアンチセンス核酸、リボザイム、アプタマーおよびRNAiエフェクター(例えば、miRNA、shRNAとsiRNAなど)、ならびにかかる核酸分子をコードする核酸分子等を含む。
一態様において、アポトーシス阻害物質の活性を阻害する物質は、限定されずに、アポトーシス阻害物質に結合する物質、例えば、抗体、アポトーシス阻害物質のドミナントネガティブ変異体、アポトーシス阻害物質のアンタゴニスト(例えば、アポトーシス阻害物質の標的やレセプターと結合する物質等)などを含む。
アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質の能力は、慣用の手法、例えば、被験物質有りまたは無しでのアポトーシス阻害物質の発現および/または活性を比較することなどによって評価することができ、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性が、被験物質の存在下で、被験物質が存在しない場合と比べて増大している場合、当該被験物質はアポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質とみなされる。
【0051】
RNAiエフェクターは、RNA干渉(RNAi)によって標的遺伝子の発現を阻害する物質である。RNAiは特定の標的遺伝子の抑制の広く使われている技術である(Hannon et al., Nature 2002; 418:244-51、Rana et al., Nat Rev Mol Cell Biol 2007; 8:23-36)。RNAiエフェクターは、限定されずに、短鎖干渉RNA(siRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)およびマイクロRNA(miRNA)を含む。siRNAは、細胞に直接トランスフェクトすることができる二本鎖RNAオリゴヌクレオチドである。ベクターベースの発現系により発現されるshRNAは、5’キャップおよびポリAテールのないG−N18−ループ−N’18−Cといった短い長さの構造を有する(Brummelkamp et al., Science 2002; 296:550-3、Paddison et al., Genes Dev 2002; 16:948-58、Paul et al., Nat Biotechnol 2002; 20:505-8)。転写物の長さが厳密に制御されなければならないshRNAの発現のためには、転写物の長さを制御することができるpolIIIプロモーターが好ましい。miRNAは第3の種類のRNAiシステムであり、コード遺伝子の転写物のように5’キャップおよびポリAテールを有する長いmRNA(pri−miRNA)として転写される(Ambros et al., Nature 2004; 431:350-5、Ambros et al., Cell 2001; 107:823-6)。したがって、polIIやpolIIIなどの種々のプロモーターを、ベクターによるmiRNAの発現に利用できる。
【0052】
miRNAには、複数の有利な特徴がある。まず、pre−miRNA挿入部位がコード配列の3’UTRにくるように、ORFをmiRNAベクターに組み込むことができる。PolIIプロモーターは、対象となるタンパク質と、哺乳類細胞内で特定の標的遺伝子を抑制するために設計された人工のmiRNAとのコシストロニック発現を可能にする。このシステムを用いて、アポトーシス誘導タンパク質、例えばp53等と、アポトーシス阻害タンパク質特異的miRNAとを、単一のベクターから同時に発現することが可能である。このようにして、アポトーシス誘導タンパク質の発現がない状態における、アポトーシス阻害タンパク質の抑制から生じる可能性のあるネガティブな効果を回避することができる。例えば、p53ファミリータンパク質の発現がない状態における、細胞周期停止に関与するタンパク質によるがん細胞増殖のリスクを回避することが可能である。
【0053】
miRNAの第2の利点は、単一の核酸構築物またはベクターに複数のmiRNA配列をタンデムで挿入できることである。この機能により、単一の構築物から複数のmiRNAのコシストロニック発現が可能となる。実際、いくつかの内因性miRNAが、PolIIプロモーターにより駆動され、長い一次転写物においてクラスターで発現している。したがって、相乗効果を達成するために、異なるmiRNA配列を単一のベクターに挿入することが可能である。第3の利点は、miRNAプラスミドベクターが組換えアデノウイルスベクターに容易に転換できることであり、これにより、治療用の多目的システムが提供される。
特定のタンパク質のためのmiRNAは、データベースまたはそのアクセッション番号から得たその塩基配列に基づき、InvitrogenからのBLOCK-iT RNAi Designer(https://rnaidesigner.invitrogen.com/rnaiexpress/)を用いて設計することができる。
【0054】
別のタイプのRNAiシステムとして、特開2003-219893号公報に記載の、標的遺伝子の発現を阻害するDNAとRNAとからなる2本鎖ポリヌクレオチドを挙げることができる。このポリヌクレオチドは、2本鎖の一方がDNAで、他方がRNAであるDNA/RNAハイブリッドであっても、同じ鎖の一部がDNAで、他の部分がRNAであるDNA/RNAキメラであってもよい。かかるポリヌクレオチドは、好ましくは19〜25ヌクレオチド、より好ましくは19〜23ヌクレオチド、さらに好ましくは19〜21ヌクレオチドからなり、DNA/RNAハイブリッドの場合は、センス鎖がDNAであり、アンチセンス鎖がRNAであるものが好ましく、また、DNA/RNAキメラの場合は、2本鎖ポリヌクレオチドの上流側の一部がRNAであるものるものが好ましい。かかるポリヌクレオチドは、自体公知の化学合成法に従って、任意の配列を有するものを作製することが可能である。
【0055】
p53ファミリータンパク質のドミナントネガティブ変異体の発現を阻害する核酸分子の場合には、核酸分子はタンパク質のコード領域を標的としてもよいが、タンパク質の非翻訳領域、特にp53ファミリーmRNAの3’UTRを標的とし、全ての内因性ドミナントネガティブタンパク質を特異的にノックダウンする一方、本発明の剤、組成物または生成物から発現される、コード領域だけを含むであろう外因性の野生型p53ファミリータンパク質を無傷のままとすることができる。
【0056】
本明細書で用いる場合、アポトーシス阻害物質の発現を阻害する核酸分子は:
i)前記アポトーシス阻害物質の発現を阻害する核酸分子のヌクレオチド配列において、1個もしくは2個以上、または1個もしくは数個の変異を有するが、依然アポトーシス阻害物質の発現を阻害することができる核酸分子、
ii)前記アポトーシス阻害物質の発現を阻害する核酸分子、その相補鎖またはその断片とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、アポトーシス阻害物質の発現を阻害することができる核酸分子、および、
iii)前記アポトーシス阻害物質の発現を阻害する核酸分子のヌクレオチド配列と少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%相同であり、アポトーシス阻害物質の発現を阻害することができる核酸分子
からなる群から選択されるその機能的変異体を含むものとする。
【0057】
本発明において、アポトーシス誘導物質とアポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質とは、任意の形で組み合わせることができる。一態様において、アポトーシス阻害物質は、アポトーシス誘導物質によって誘導されるアポトーシスを阻害する。例えば、アポトーシス誘導物質がp53である場合、アポトーシス阻害物質は、p53に関連した細胞周期停止に関与するタンパク質(例えば、p21、SFN、Gadd45、p300、BTG2、CAV1、DUSP5、EGFR、HGF、MET、PCNA、PLAGL1、SESN1、SH2D1A、TGFA、PCBP4、RRM2B、STEAP3、ARID3A、C13orf15、CCNG1、CCNK、DDB2、DDIT4、GML、GPX1、HRAS、IBRDC2、MET、MSH2、PLK2、RB1、S100A2、TP53i3、TRIM22およびVCANなど)、p53に関連したユビキチンリガーゼ(例えば、MDM2など)、およびp53ファミリータンパク質のドミナントネガティブ変異体からなる群から選択することができる。
【0058】
本発明の剤、組成物または生成物は、少なくとも1種のアポトーシス誘導物質と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する少なくとも1種の物質を含んでもよい。例えば、本発明の剤、組成物または生成物は、少なくとも1種のp53ファミリータンパク質および/またはそれをコードする核酸分子を含んでもよい。一態様において、本発明の剤、組成物または生成物は、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質として、細胞周期停止に関与するタンパク質の発現および/または活性を阻害する少なくとも1種の物質を含む。別の態様において、本発明の剤、組成物または生成物は、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質として、細胞周期停止に関与するタンパク質の発現および/または活性を阻害する少なくとも1種の物質に加え、ユビキチンリガーゼおよび/またはp53ファミリータンパク質のドミナントネガティブ変異体の発現および/または活性を阻害する少なくとも1種の物質を含む。
【0059】
一態様において、本発明の剤、組成物または生成物は、p21、SFN、Gadd45および/またはp300の発現および/または活性を阻害する少なくとも1種の物質を含む。別の態様において、本発明の剤、組成物または生成物は、p21、SFN、Gadd45および/またはp300の発現および/または活性を阻害する少なくとも1種の物質に加え、MDM2のおよび/またはp53ファミリータンパク質のドミナントネガティブ変異体の発現および/または活性を阻害する少なくとも1種の物質を含む。
【0060】
本発明の剤、組成物または生成物は、アポトーシス誘導物質として、または増殖性疾患の処置のために用いることができる。本明細書で用いる場合、増殖性疾患は異常な細胞増殖が関与する任意の状態を意味するものとし、限定されずに、良性または悪性腫瘍、過形成症、ケロイド、クッシング症候群、原発性アルドステロン症、紅板症、真性多血症、白板症、過形成瘢痕、扁平苔癬および黒子症を含む。この態様において、本発明の剤、組成物または生成物は、対応する疾患を処置するのに有用な他の作用物質、例えば抗腫瘍剤、抗炎症剤、ビタミンなどをさらに含んでもよい。
【0061】
本発明で用いることのできる抗腫瘍剤は、限定されずに、アルキル化剤(例えば、イホスファミド、ニムスチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、メルファランおよびラニムスチン等)、代謝拮抗剤(例えば、ゲムシタビン、エノシタビン、シタラビン、テガフール/ウラシル、テガフール/ギメラシル/オテラシル配合剤、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキセートおよびメルカプトプリン等)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ミトキサントロンおよびマイトマイシンC等)、アルカロイド(例えば、エトポシド、イリノテカン、ビノレルビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ビンクリスチン、ビンデシンおよびビンブラスチン等)、ホルモン療法剤(例えば、アナストロゾール、タモキシフェン、トレミフェン、ビカルタミド、フルタミドおよびエストラムスチン等)、プラチナ錯体(例えば、カルボプラチン、シスプラチンおよびネダプラチン等)、血管新生阻害剤(例えば、サリドマイド、ネオバスタットおよびベバシズマブ等)、L−アスパラギナーゼなどを含む。
【0062】
本発明で用いることのできる抗炎症剤は、限定されずに、ステロイド系抗炎症薬(例えば、プレドニゾロン、ベクロメタソン、ベタメタゾン、フルチカゾン、デキサメタゾンおよびヒドロコルチゾン等)、非ステロイド系抗炎症薬(例えば、アセチルサリチル酸、ロキソプロフェン、アセトアミノフェン、ケトプロフェン、チアプロフェン酸、スプロフェン、トルメチン、カルプロフェン、ベノキサプロフェン、ピロキシカム、ベンジダミン、ナプロキセン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ジフルニサルおよびアザプロパゾン)、炎症性サイトカインの発現を阻害する物質(例えば、炎症性サイトカイン遺伝子に対するアンチセンス核酸、リボザイム、アプタマーおよびRNAiエフェクター等)、および炎症性サイトカインの活性を阻害する物質(例えば、炎症性サイトカインに対する抗体および炎症性サイトカインレセプターのレセプターアンタゴニスト等)を含む。
本発明で用いることのできるビタミンは、限定されずに、VA(レチノール)、VB(チアミン)、VB(リボフラビン)、VB(ナイアシン)、VB(パントテン酸)、VB(ピリドキシン)、VB(ビオチン)、VB(葉酸)、VB12(シアノコバラミン)、VC(アスコルビン酸)、VD(カルシフェロール)、VE(トコフェロール)およびVK(フィロキノン)、ならびにこれらの誘導体およびアナログを含む。
【0063】
本発明の剤、組成物または生成物はその用途およびそれに含まれる作用物質、すなわち、アポトーシス誘導物質と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質、および任意の作用物質に応じて任意の好適な形態で提示されてもよい。例えば、全て作用物質が、好適なキャリア、例えば、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、マイクロスフェアおよびナノスフェアなどに含有されてもよく、および/または、付着していてもよい。かかる形態は、少なくとも1種の物質が小分子またはポリペプチドである場合に特に好適である。全ての作用物質が核酸分子である場合、これらを少なくとも1つの核酸構築物またはベクターに組み込むことが可能である。かかる場合、核酸分子は、発現が同じ制御配列(例えば1または2以上のプロモーターまたは1または2以上のエンハンサー)によって制御されるように、単一の発現カセット中にタンデムに配置されてもよい。一態様において、核酸分子は、単一の一次転写物として発現されてもよい。一態様において、核酸分子は、コシストロニックに発現されてもよい。
【0064】
本明細書で用いる場合、「ベクター」は異なる遺伝子環境間を移送するため、または宿主細胞内で発現を行うために、所望の核酸分子を消化またはライゲーションにより導入することができる任意の核酸を意味する。ベクターは典型的にはDNAから構成されるが、RNAベクターを用いることもできる。ベクターはプラスミド、ファージミドおよびウイルスゲノムを含むが、これらに限定されるべきではない。クローニングベクタは自律的に、またはゲノムへの統合の後、宿主細胞で複製することができ、1または2以上のエンドヌクレアーゼ制限部位によってさらに特徴づけられる。ベクターはこれらの部位で決定可能な方法で切断され、所望の核酸配列をそこに連結することができ、そして、新しい組換えベクターはそれによって標的核酸分子を宿主内で複製することができる。プラスミドの場合、宿主細菌内でプラスミドのコピー数が増えることにより、所望の核酸分子が任意の回数複製されてもよく、または、複製は、宿主が細胞分割によって再生する前に、宿主につき1回のみ行われてもよい。ファージの場合、複製は溶菌相の間に活発に行われてもよくまたは、溶原相の間に受動的に行われてもよい。
【0065】
発現ベクターに関して、所望の核酸配列が消化およびライゲーションにより、制御配列に作動可能に連結されるようにそこに挿入され、そして転写物として発現される。
本発明で用いる遺伝子は1または2以上の遺伝子から構成されてもよく、それが2または3以上の遺伝子から構成される場合、これらの遺伝子は単一の発現ベクターに挿入されてもよいし2または3以上のベクターに別々に挿入されてもよい。
発現ベクターは、ベクターによって形質転換もしくはトランスフェクトされたまたはされていない細胞を同定するために好適な1または2以上のマーカー配列をさらに含んでもよい。マーカーは、例えば、抗生物質または他の化合物に対する耐性もしくは感受性を増大もしくは低減するタンパク質をコードする遺伝子、その活性が当該技術分野で標準的な分析方法により検出可能な酵素(例えばベータガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼまたはアルカリホスファターゼ)をコードする遺伝子、および形質転換もしくはトランスフェクトされた細胞、宿主、コロニー、またはプラークの表現型に視覚的な影響を与える遺伝子などを含む。好ましい発現ベクターは、自律的な複製、および、ベクターが作動可能に連結しているDNAセグメントに存在する構造遺伝子産物の発現を可能にするベクターである。
【0066】
本明細書においては、コード配列および制御配列は、当該コード配列の発現または転写が、当該制御配列の影響または支配下にあるように位置される様式において連結されている場合、「作動可能に」連結されているということとする。もし当該コード配列を機能的なタンパク質に翻訳することが望まれる場合には、2つのDNA配列は、もし5’制御配列におけるプロモーターによる誘導の結果、当該コード配列の転写が生じ、またもし当該2つのDNA配列の間の連結の性質が、(1)フレームシフト突然変異を誘導する結果とならず、(2)当該コード配列の転写を指示するための当該プロモーターの能力を妨害せず、あるいは(3)タンパク質に翻訳されるべき対応するRNA転写物の能力を妨害しない場合には、「作動可能に」連結されているといわれる。したがってプロモーター領域は、もし当該プロモーター領域が、結果として得られる転写物が所望のタンパク質またはポリペプチドに翻訳されるように、そのDNA配列を転写できれば、作動可能にコード配列に連結されていることになる。
【0067】
本発明において有用なベクターは、所望により、例えば哺乳動物、微生物、ウイルス、または昆虫遺伝子から誘導される適当な転写または翻訳制御配列と機能的に連結された、上記で定義したアポトーシス誘導タンパク質およびアポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質をコードしている核酸分子を含む。かかる制御配列は、遺伝子発現において調節的役割を有する配列、例えば転写プロモーターまたはエンハンサー、転写を調節するためのオペレーター配列、メッセンジャーRNA内部のリボゾーム結合部位をコードしている配列、ならびに、転写、翻訳開始または転写終了を調節する適切な配列を包含する。
【0068】
遺伝子発現に必要な制御配列の詳細な性質は、生物種または細胞種によって異なってもよいが、一般的には、少なくとも、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などの、各々転写および翻訳の開始に関与する5’非転写、および5’非翻訳配列を含み得る。特に、かかる5’非転写制御配列は、作動可能に連結された遺伝子の転写調節のためのプロモーター配列を含む、プロモーター領域を含み得る。制御配列はまた、エンハンサー配列か、または所望の上流のアクチベーター配列を含んでもよい。本発明のベクターは、任意に5’リーダーまたはシグナル配列を含んでもよい。適切なベクターの選択および設計は、当業者の能力および自由裁量の範囲内にある。
【0069】
特に有用な制御配列は、種々の哺乳動物、ウイルス、微生物、および昆虫遺伝子由来のプロモーター領域を包含する。このプロモーター領域は、対象となる遺伝子の転写の開始を指令し、そして対象となる遺伝子を含むDNAの全ての転写をもたらす。有用なプロモーター領域は、CAGプロモーター、レトロウイルスのdLTRプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー/プロモーター領域、RSVのLTRプロモーター、lacプロモーター、およびアデノウイルスから単離されたプロモーターを包含するが、真核生物、原核生物、ウイルス、または微生物細胞での遺伝子発現に有用な、当業者に公知の他の任意のプロモーターを用いることもできる。
【0070】
真核生物細胞内で、遺伝子およびタンパク質を発現するのにとりわけ有用なその他のプロモーターは、哺乳動物細胞プロモーター配列およびエンハンサー配列、例えばポリオーマウイルス、アデノウイルス、SV40ウイルス、およびヒトサイトメガロウイルスから誘導されるものを包含する。典型的にはSV40などのウイルスのウイルス複製起点に隣接して見出される、ウイルスの初期および後期プロモーターが、特に有用である。特定の有用なプロモーターの選択は、その細胞系、および、特定の細胞系内部で対象となるタンパク質または核酸を発現させるために使用する核酸構築物についての、他の様々なパラメータに依存する。さらに、本発明において有用な充分高いレベルで、標的細胞に遺伝子を発現させることが知られている任意のプロモーターを選択することができる。
【0071】
したがって、本発明の核酸構築物は、プロモーター配列またはプロモーターおよびエンハンサー配列のいずれかと作動可能に連結し、さらにmRNAの終止およびポリアデニル化を指令するポリアデニル化配列に機能的に連結した、対象となる核酸分子の様々な型を包含する。本発明の核酸構築物は、所望の細胞内部でのその構築物の効率的な複製および発現を可能にするその他の遺伝子配列を含み得る。かかる配列は、ウイルス遺伝子等から誘導されるイントロンを包含し得る。
【0072】
本発明の剤、組成物または生成物は、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、たとえば、限定することなく、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、腫瘍内、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(たとえば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年などを参照)。
【0073】
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。
【0074】
本発明の別の側面において、アポトーシス誘導物質と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質とを細胞に導入する工程を含む、アポトーシス誘導法が提供される。この方法はin vitro、ex vivoまたはin vivoで行うことができる。したがって、細胞は対象から単離されていてもよく、または対象内に存在していてもよい。
本発明の別の側面において、治療有効量のアポトーシス誘導物質と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質とを、それを必要とする対象に投与する工程を含む、増殖性疾患を処置する方法が提供される。
【0075】
本発明のこれらの側面において、ここで用いるアポトーシス誘導物質、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質、ならびに増殖性疾患の意味は、本発明の剤、組成物および生成物に関して上記で定義したとおりである。
一態様において、アポトーシス誘導物質と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する物質とは、上記で定義した本発明の剤、組成物および生成物のいずれかに含まれている。
【0076】
さらに、前記方法における導入手法は限定されず、任意の既知の導入手法、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、超音波導入法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターなど)を利用する方法、またはマイクロインジェクション法などを用いることができる。
【0077】
増殖性疾患を処置する方法において、本発明の剤、組成物または生成物は、単独で、または、対応する疾患の処置に有用な他の作用物質、例えば、上記で例示した抗がん剤、抗炎症剤、ビタミン等と組み合わせて投与してもよい。併用投与の場合、本発明の剤、組成物または生成物は、他の作用物質の投与の前か、これと同時か、またはその後に投与してもよい。
【0078】
ここでいう有効量は、標的疾患の発症を抑制するか、その徴候を軽減するか、またはその進行を防止する量であり、好ましくは、標的疾患の発症を予防するか、標的疾患を治癒させる量である。投与による利益を上回る副作用を引き起こさない量もまた好ましい。かかる量は、培養細胞等を用いたin vitro試験により、またはモデル動物、例えば、マウス、ラット、イヌまたはブタ等における試験によって適宜決定することができ、かかる試験法は当業者によく知られている。
【0079】
本発明の方法によって投与される作用物質の投薬量は、用いる薬物のタイプに依存する。本発明の方法で使用される作用物質、剤、組成物または生成物の投薬量は、当業者に知られているか、または、上述の試験等によって適宜決定される。例えば、アデノウイルスベクターの場合、用量範囲は、ヒト対象1人あたり、1×10〜1×1014、または1×10〜1×1013、または1×10〜1×1012、または1×10〜1×1011、または1×10〜1×1010のプラーク形成単位(p.f.u.)であってもよい。
【0080】
本発明の方法において投与する医薬の具体的な投薬量は、処置を要する対象に関する種々の条件、たとえば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得、上記の典型的用量と異なることもあるが、かかる場合であっても、これらの方法はなお本発明の範囲に含まれる。
【0081】
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、たとえば、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、直腸、腫瘍内、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる医薬の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、たとえば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。
【0082】
本発明の方法において、用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、疾患の処置が企図される場合には、典型的には同疾患に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。
【0083】
また、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全てのタイプの予防的および/または治療的介入を包含するものとする。たとえば、疾患が増殖性疾患の場合、「処置」の用語は、その進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、疾患の発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0084】
上述の剤、組成物、生成物および方法は、アポトーシスを、アポトーシス誘導タンパク質によるアポトーシスに抵抗性の細胞に誘導する場合に、特に有利に用いることができる。
【0085】
発明の別の側面において:
発現させるタンパク質をコードする核酸分子、および
望まないタンパク質の発現を阻害する核酸分子
を含む核酸構築物が提供される。
一態様において、発現させるタンパク質は、上記で定義したアポトーシス誘導タンパク質である。一態様において、アポトーシス誘導タンパク質は、好ましくはp53ファミリーのタンパク質である。一態様において、望まないタンパク質は、上記で定義したアポトーシス阻害タンパク質である。一態様において、アポトーシス阻害タンパク質は、上記で定義した、細胞周期停止に関与するタンパク質、ユビキチンリガーゼ、およびp53ファミリータンパク質のドミナントネガティブ変異体からなる群から選択される。一態様において、発現させるタンパク質をコードする核酸分子と、望まないタンパク質の発現を阻害する核酸分子とは、同じ制御配列(例えば、1または2以上のプロモーターおよび1または2以上のエンハンサー等)に、作動可能に連結している。一態様において、発現させるタンパク質をコードする核酸分子と望まないタンパク質の発現を阻害する核酸分子とは、単一の一次転写物として発現される。一態様において、発現させるタンパク質をコードする核酸分子と望まないタンパク質の発現を阻害する核酸分子とは、コシストロニックに発現される。好ましい態様において、核酸分子は、発現が同じプロモーターによって制御されるように、単一の発現カセット内にタンデムに配置してもよい。これらの構成は、いずれか一方の核酸分子のみの発現が有害な作用を有し得る場合に有利である。
【0086】
本発明の別の側面において、上記で定義した核酸構築物を含むベクターが提供される。ここで用いることができるベクターの様々な詳細は上記で論じた。
発明の別の側面において:
(a)上記で定義した、発現させるタンパク質をコードする核酸分子と、タンパク質の発現を阻害する核酸分子とを含む核酸構築物を含むベクターを提供すること、および
(b)前記ベクターを細胞に導入すること
を含む、望まないタンパク質の発現を阻害しながら、細胞内で所望のタンパク質を発現させる方法が提供される。
【0087】
本発明のこれらの側面は、発現させることを望むタンパク質を発現させながら、同時に望まないタンパク質の発現を抑制するために、特に望まないタンパク質が、同じ細胞内で所定のタンパク質の発現によって誘導されるときに、特に有利に用いられる。
【0088】
本発明は以下の例を参照することにより詳細に説明されるが、本発明の範囲はこれらの例によって制限されない。
【実施例】
【0089】
材料と方法
細胞培養
ヒト胎児腎臓細胞系HEK293は、理研細胞バンク(筑波、日本)から得た。結直腸癌細胞系DLD−1およびSW480、および肝細胞癌細胞系Hep3Bは米国タイプカルチャーコレクション(Manassas, VA)から購入した。肝細胞癌細胞系HLFは、Health Science Research Resource Bank(大阪、日本)からのものである。HCT116(p53−/−)細胞は、Bert Vogelstein博士(ジョンズホプキンス大学)によって寄贈された。HEK293細胞は、10%ウシ胎仔血清(FCS)加ダルベッコ改変イーグル培地で培養した。SW480細胞は、10%のFCSを含むLeibovitz L-15培地で培養した。他の全ての細胞系は、10%のFCSを含むRPMI−1640培地で培養した。
【0090】
プラスミド
ヒトp21mRNAの3’非翻訳領域(UTR)を標的とする3種のpre−miRNA配列は、オンラインツールInvitrogen's RNAi Designer(http://www.invitrogen.com)を用いて設計した。作成したpre−miRNA配列は、内因性のマウスmiR−155の模倣物として設計した。3種の異なるp21特異的pre−miRNAおよび対照配列に対応する二本鎖DNAオリゴヌクレオチドを、親ベクターpcDNA6.2-GW/miR(Invitrogen)に個々にクローニングし、pcDNA6.2-miR-p21A、pcDNA6.2-miR-p21B、pcDNA6.2-miR-p21CおよびpcDNA6.2-miR-controlをそれぞれ生成した。
【0091】
また、3種のp21 pre−miRNAを、複数回の連結により1個のプラスミドにタンデムにクローニングし、複数のmiRNAのコシストロニック発現を可能にするpcDNA6.2-miR-p21を生成した。簡潔に述べると、オーバーハングを有するDNAインサートを、切断された状態で提供されるベクターにライゲーションすることにより、5’側にBamHIサイト、3’側にBglIIサイトを作出する。BglIIサイトの3’側のXhoIサイトを用い、BamHIおよびXhoIによって消化されたインサートを、ベクター内のすでにライゲーションされたDNAインサートの3’側に、BglIIおよびXhoIによって連結する。このプロセスを繰り返すことにより、複数のインサートをタンデムに挿入することが可能である(例えば、http://tools.invitrogen.com/content/sfs/manuals/blockit_miRNAexpressionvector_man.pdfのhttpのユーザマニュアル、特に「pre−miRNAの連結」を参照)。
【0092】
p53のFLAGエピトープ融合タンパク質のための発現ベクター(pCMV-Tag2-FLAG-p53)は、pCMV-Tag2-FLAG(Stratagene, La Jolla, CA)から、ヒトp53遺伝子のコード領域の両側のBamHIサイトを用いて生成した。ヒトp53遺伝子のコード領域は、SalIを用いてpcDNA6.2-p53/miR-p21およびpcDNA6.2-p53/miR-controlにクローニングし、それぞれpcDNA6.2-miR-p21およびpcDNA6.2-miR-controlを生成した(図5に示す)。作製したpre−miRNAのオリゴヌクレオチド配列およびプラスミド構築のために用いた隣接フランキング領域は、以下のとおりであった:
【0093】
【表1】

【0094】
組換えアデノウイルス
組換えアデノウイルスは、ViraPower Adenoviral Expression System(Invitrogen)を用いて、メーカーの指示に従って作製した。簡潔に述べると、pcDNA6.2-GW/miRベースの各発現ベクターの組換え領域を、トランスファーベクターpDONR221を用いたin vitro組換え反応で、Gateway Vector pAd/CMV/V5-DESTにトランスファーした。このようにしてpAd/CMV/V5-DESTから生成した組換えアデノウイルスプラスミドで、コンピテントDH5α(東洋紡、東京、日本)を形質転換した。選択後、DH5αの単一のクローンを単離し、拡張した。組換えアデノウイルスプラスミドを精製し、次いで293A細胞にトランスフェクトした。293A細胞に十分な細胞変性効果が認められた後、アデノウイルスをAdeno-X Virus Purification Kit(クロンテック、滋賀、日本)を用いて精製した。組換えアデノウイルスAd-p53/miR-21、Ad-p53/miR-control、Ad-mock/miR-p21およびAd-mock/miR-controlが、pcDNA6.2-p53/miR-21、pcDNA6.2-p53/miR-control、pcDNA6.2-miR-p21およびpcDNA6.2-miR-controlからそれぞれ生成された。全ての挿入配列は、ヌクレオチドシーケンシングにより確認した。組換えアデノウイルスの構築に関する詳細情報は、本発明者らから要求に応じて入手可能である。
【0095】
p.f.u.表示でのアデノウイルス力価は、HEK293細胞の感染後のプラーク形成アッセイで決定した。感染多重度(moi)は、感染した細胞の総数に対する、p.f.u.の総数の比率として定義した。実験の再現性を確認するために、重複サンプルからアデノウイルスを滴定した。
【0096】
ウエスタンブロット解析
抗p21(Ab−1)マウスモノクローナル抗体はCalbiochem(Darmstadt, Germany)から購入し、抗アクチンマウスモノクローナル抗体はChemicon(Billerica, MA)からのものであり、抗FLAG M2マウスモノクローナル抗体はSigma-Aldrich(St. Louis, MO)からのものであり、抗p53(DO−1)マウスモノクローナル抗体はSanta Cruz Biotechnology(Santa Cruz, CA)からのものであった。全細胞溶解物を、4℃にてRIPAバッファ(150mMのNaCl、1%のNP40、0.5%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1%のSDS、50mMのトリスHCl、pH8.0)で抽出した。サンプルをSDS−PAGEで分画し、Immobilon-Pメンブレン(Millipore, Billerica, MA)にトランスファーした。免疫反応性タンパク質を、増強化学発光(ECL)(Amersham, Piscataway, NJ)を用いて検出した。
【0097】
免疫蛍光顕微鏡検査
p53(−/−)HCT116細胞を、ポリ‐L‐リジン(PLL)被覆カバースリップ(旭テクノグラス、船橋、日本)で増殖させた。4%のパラホルムアルデヒドで固定後、細胞を抗FLAGウサギポリクローナル抗体(Sigma-Aldrich)および抗p21マウスモノクローナル抗体(Calbiochem)とともに4℃で一晩インキュベートした。Alexa Fluor488標識ヤギ抗マウスIgGおよびAlexa Fluor594標識ヤギ抗ウサギIgG(Invitrogen)とのインキュベーションの後、カバースリップを蛍光顕微鏡(キーエンス、東京、日本)で調査した。
【0098】
フローサイトメトリー
細胞(1×10)を、6穴プレートに播種した。播種の24時間後、1%FCS添加培地1ml中、10分おきに短く撹拌しながら、細胞を精製ウイルスとともにインキュベートした。フローサイトメトリーのため、感染後の種々の時間に、細胞をトリプシン処理により回収し、遠心分離によってペレット化した。ペレット化した細胞を90%の冷エタノールで固定し、RNアーゼA(500単位/ml)で処理し、次いでヨウ化プロピジウム(50mg/ml)で染色した。サンプルを、FACSCaliburフローサイトメーター(BD Bioscience, San Jose, CA)で分析した。実験は少なくとも3反復し、各サンプルにつき50,000イベントを分析した。データは、FlowJoソフトウェア(Tree Star, Ashland, OR)を用いて分析した。併用治療については、感染の24時間後に、細胞を0.5マイクログラム/mlのドキソルビシンで処理し、次いで24時間に、フローサイトメトリーにより上述のとおりに分析した。
【0099】
RT−PCR
総RNAは、細胞系からTrizol試薬を用いてメーカー(Invitrogen)による指示に従って抽出した。cDNAは、2mgの総RNAによる、SuperScript Preamplification System(Invitrogen)を用いた逆転写によって得た。各PCRは94℃、2分の最初の変性工程と、その後の、94℃で30秒、58℃で30秒および72℃で30秒の30サイクル(miRNA、p21用)および25サイクル(GAPDH用)を伴った。オリゴヌクレオチドプライマー配列は以下のとおりであった:
miRNA:5’−CTTGCTGAAGGCTGTATGC−3’(フォワード、配列番号10)、5’−TGGGCCATTTGTTCCATGTG−3’(リバース、配列番号11),
標的A−B:5’−GGGAAGGGACACACAAGAAGAA−3’(フォワード、配列番号12)、5’−CCATCATATACCCCTAACACAGAGATAA−3’(リバース、配列番号13),
標的C:5’−CACTAACGTTGAGCCCCTGG−3’(フォワード、配列番号14)、5’−CTAGGTGGAGAAACGGGAACC−3’(リバース、配列番号15),
ORF:5’−CTGGAGACTCTCAGGGTCGAA−3’(フォワード、配列番号16)、5’−GATGTAGAGCGGGCCTTTGA−3’(リバース、配列番号17)
GAPDH:5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC 3’(フォワード、配列番号18)、5’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA−3’(リバース、配列番号19)。
PCR産物は、1.5%アガロースゲル上での電気泳動によって分離した。
【0100】
カスパーゼ3活性の決定
カスパーゼ3活性は、カスパーゼ3アッセイキット(Biovision, Mountain View, CA)を用いた比色アッセイにより、メーカーの指示に従って決定した。このキットは、pニトロアニリドで標識された合成テトラペプチドを利用する。簡潔に述べると、細胞を、キットとともに提供された細胞溶解バッファで溶解した。上清を収集し、ジチオスレイトールと基質とを含む反応バッファとともに、37℃でインキュベートした。カスパーゼ3活性を、マイクロプレートリーダーを利用して、405nmでの吸光度の変化を測定することにより決定した。
【0101】
動物モデル
全ての動物は、特定病原体フリー条件下で維持し、札幌医科大学の動物実験委員会によって定められたガイドラインに従って取り扱った。定着腫瘍を処置する効果を評価するため、24匹の雌性BALB/cヌードマウスに2×10のSW480またはDLD1細胞を両脇腹に皮下注射した(s.c.)。腫瘍サイズが100mmに達したら、マウスに1×10p.f.u(100マイクロリットルのPBS中)の示したアデノウイルスを、第0日、第1日および第2日の合計3回、直接腫瘍内注射した。各処置群につき3匹のマウスを用いた。マウスにおける腫瘍形成は、4週までモニターした。腫瘍体積は、等式V(mm)=a×b2/2(式中、「a」は最長径を示し、「b」は垂直直径である)で計算した。
【0102】
例1:p53の発現と単一のプラスミドベクターによるp21誘導の抑制
p21mRNAの3’非翻訳領域(UTR)を標的とする3種の異なる人工pre−miRNA配列(miR−p21A、BおよびC)を設計した(図1)。pre−miRNA配列は、内因性のマウスmiR−155の模倣物として設計した。その構造は以下の3つの部分からなる:(i)p21 3’UTRにおける標的部位と完全に相補的な21ヌクレオチドのコア配列、(ii)マウスmiR−155に由来する、ターミナルループを形成するための19ヌクレオチドの配列、および(iii)より効果的なノックダウンをもたらす短い内部ループを形成するために2ヌクレオチド(位置9および10)を取り除いたセンス標的配列。pre−miRNAはプラスミドベクターpcDNA6.2-GW/miRに個々にクローニングし、そこにおいて、作製したpre−miRNAの発現はヒトサイトメガロウイルス(CMV)即時初期プロモーターによって駆動される。
【0103】
HEK293細胞では、p21発現の基底レベルは、各miRNAベクターを個別に利用したトランスフェクションにより抑制された(図2)。内因性p53の活性化に続くp21発現の誘導も、p21特異的miRNAによって抑制されたか否かを明らかにするために、野生型p53がアドリアマイシンでの処理によって活性化するHCT116大腸癌細胞に、3種のmiRNAベクターの混合物をトランスフェクトした。アドリアマイシンに応答したp21遺伝子発現の誘導は、対照miRNAベクターでトランスフェクトした細胞において明らかだったが、それはp21特異的miRNAベクターの混合物でトランスフェクトした細胞では抑制された(図3)。
【0104】
これらの実験で用いた親miRNAプラスミドは、Pol IIプロモーターが、1つの一次転写物における複数のmiRNAのコシストロニック発現を可能にするという点でユニークであり、これにより、単一のベクターを用いた複数の標的配列のノックダウンが可能となる。3種のp21特異的miRNAが、単一のベクターから発現されたときに相乗的に機能する否かを明らかにするために、これらの3種のmiRNAをpcDNA6.2-GW/miRにタンデム配列でクローニングし、pcDNA6.2-miR-p21を生成した。次いで、全3種のmiRNAの組合わせた発現が、外因性p53の過剰発現によって誘導されるp21の誘導を抑制することができるか否かを検討した。p53を過剰発現させたHEK293細胞において、p21の誘導はpcDNA6.2-miR-p21のコトランスフェクションにより抑制された(図4)。
【0105】
複数のベクターが関与するコトランスフェクションにおいては、全てのベクターが、各細胞に等しい効率でトランスフェクトされない可能性がある。このため、ある細胞ではp53がp21の抑制なしに過剰発現されるかも知れず、一方別の細胞では、p21が、外因性p53の発現なしに抑制される可能性がある。複数の報告が、p21抑制が細胞周期停止の抑制解除を介して細胞増殖を増強し(van de Wetering et al., Cell 2002; 111:241-50、Gartel et al., Cancer Res 2005; 65:3980-5)、腫瘍形成を誘導する(Van Nguyen et al., J Exp Med 2007; 204:1453-61、Poole et al., Oncogene 2004; 23:8128-34、Martin-Caballero et al., Cancer Res 2001; 61:6234-8、Barboza et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2006; 103:19842-7、Topley et al., Proc Natl Acad Sci U S A 1999; 96:9089-94、Philipp et al., Oncogene 1999; 18:4689-98、Jackson et al., Cancer Res 2003; 63:3021-5)ことを示している。がん細胞増殖を増強することを回避するために、p21の抑制とp53の過剰発現とが各細胞内で同時に誘導されることが有利であろう。
【0106】
Pol IIプロモーターを利用した親miRNAベクターシステムのユニークな特徴は、miRNA挿入部位がタンパク質コード配列の3’非翻訳領域(UTR)内となるようにして、タンパク質コード配列がベクターに組込まれることである。この特徴は、対象となるタンパク質と、特定の標的遺伝子を抑制する人工miRNAのコシストロニックな発現を可能にする。p53遺伝子のコード領域を、複数のp21特異的miRNAのクラスターまたは対照miRNA配列の上流に挿入し、それぞれpcDNA6.2-p53/miR-p21またはpcDNA6.2-p53/miR-controlを生成した(図5)。HEK293細胞において、pcDNA6.2-p53/miR-p21のトランスフェクションは、p53を発現し、p21の誘導を完全に阻害するのに十分であった(図6)。大腸癌細胞SW480およびp53(−/−)HCT116において、pcDNA6.2-p53/miR-p21のトランスフェクションは、アドリアマイシンの存在下でさえも、p53の発現とp21誘導の抑制とをもたらした(図7)。
【0107】
例2:p53およびp21特異的miRNAを発現する単一のアデノウイルスによるin vitroでのアポトーシス誘導の増強
p53および/またはmiR−p21発現プラスミドに基づく複数種のアデノウイルスベクターを作製した。アデノウイルスベクターがプラスミドベクターと同様に機能するか否かを試験するため、p53(−/−)HCT116細胞に、p53のみを発現するアデノウイルス(Ad-p53/miR-control)、または、p53と複数のp21特異的miRNAのクラスターの両方を発現するアデノウイルス(Ad-p53/miR-p21)を感染させた。p53タンパク質レベルは、Ad-p53/miR-controlまたはAd-p53/miR-p21での感染の後、用量依存的に増加した。しかしながら、トランスフェクション実験の結果と同様に、Ad-p53/miR-p21での細胞の感染は、p21誘導の効果的な抑制をもたらした(図8および9)。p53の発現およびp21誘導の抑制はまた、免疫蛍光法染色によっても確認された(図10)。
【0108】
アデノウイルス感染のアポトーシスへの影響を明らかにするために、肝細胞癌細胞系HLF(変異型p53を保有)およびHep3B(p53ヌル)、ならびに結腸直腸癌細胞系DLD1(変異型p53を保有)にアデノウイルスを感染させた。ウエスタンブロット分析により、これらの細胞でp53が発現され、p21の誘導が抑制されたことが確認された(図11)。細胞をフローサイトメトリーで検討したところ、Ad-p53/miR-p21に感染させた細胞は、Ad-p53/miR-controlに感染させた細胞と比べて、有意に大きなsub−G1画分を有していた(図12)。なお、sub−G1画分はアポトーシス細胞死の指標である。
【0109】
p53が変異している全てのがん細胞が、外因性p53媒介性のアポトーシスに感受性であるというわけではない。先の研究において、我々はSW480結直腸癌細胞がアデノウイルス媒介性のp53遺伝子導入のアポトーシス効果に比較的耐性を有することを示した(Sasaki et al., Mol Cancer Ther 2008; 7:779-87)。p53と、p21特異的miRNAと組合わせ発現が、SW480細胞の外因性p53により誘導されるアポトーシスに対する感染性を増大させるか否かを明らかにするために、アデノウイルスに感染させた細胞のsub−G1画分およびカスパーゼ3活性を、アドリアマイシンの存在下または不在下で測定した(図13〜15)。p53の発現およびp21誘導の抑制は、ウエスタンブロットによって確認した(図13)。Ad-p53/miR-p21による細胞の感染は、Ad-p53/miR-controlに感染させた細胞と比較して、カスパーゼ3活性(図14)およびsub−G1画分にある細胞数(図15)を増大させた。
【0110】
例3:p53およびp21特異的miRNAのアデノウイルス媒介性発現のin vivoでの治療効果
p53の発現およびp21の抑制のアポトーシスに対するin vitroでの効果がin vivoでの治療効果と相関するか否かを明らかにするために、今回の新規組合わせアデノウイルスベクターの、腫瘍形成の異種移植片モデルにおける活性を検討した。SW480およびDLD1細胞を、ヌードマウスに皮下注射した。腫瘍体積が一定のサイズに達したときに、アデノウイルスを、第0日、第1日および第2日に、腫瘍内に直接注射した(図16、矢印)。調査期間中、Ad-p53/miR-p21を注射したSW480由来の腫瘍およびDLD1由来の腫瘍のいずれも、Ad-p53/miR-controlを注射した腫瘍より体積が小さかった(図16)。また、Ad-mock/miR-p21の注射が、Ad-mock/miR-controlの注射と比較して、SW480由来の腫瘍の腫瘍体積の増大をもたらしたことに注目されたい。これらの結果は、p53の過剰発現がない状態におけるp21の抑制が、ある種のがんにおいて腫瘍進行のリスクを増大させることを示すものであり、効果的で安全ながん治療のためには、腫瘍細胞内で、p21の抑制を、p53の発現と同時に誘導すべきことを示唆している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のアポトーシス誘導物質と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する少なくとも1種の物質とを含む生成物。
【請求項2】
アポトーシス誘導物質が、アポトーシス誘導タンパク質および/またはこれをコードする核酸分子である、請求項1に記載の生成物。
【請求項3】
アポトーシス誘導タンパク質が、p53ファミリーのタンパク質である、請求項2に記載の生成物。
【請求項4】
アポトーシス阻害物質が、アポトーシス誘導物質によって誘導される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項5】
アポトーシス阻害物質が、細胞周期停止に関与するタンパク質、ユビキチンリガーゼおよびp53ファミリータンパク質のドミナントネガティブ変異体からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項6】
アポトーシス誘導タンパク質および/またはこれをコードする核酸分子と、アポトーシス阻害物質の発現および/または活性を阻害する少なくとも1種の物質とが、単一物質として存在する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項7】
アポトーシス誘導タンパク質をコードする核酸分子と、アポトーシス阻害物質の発現を阻害する物質をコードする核酸分子とを含む、単一のベクターまたは単一の核酸構築物を含む、請求項6に記載の生成物。
【請求項8】
増殖性疾患を処置するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の生成物。
【請求項9】
細胞のアポトーシスを誘導する方法であって:
(a)請求項1〜8のいずれか一項に記載の生成物を提供すること、および
(b)細胞内に前記生成物を導入すること
を含む、前記方法。
【請求項10】
発現させるタンパク質をコードする核酸分子、および
望まないタンパク質の発現を阻害する核酸分子
を含む、核酸構築物。
【請求項11】
発現させるタンパク質がアポトーシス誘導タンパク質である、請求項10に記載の核酸構築物。
【請求項12】
望まないタンパク質がアポトーシス阻害タンパク質である、請求項10または11に記載の核酸構築物。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか一項に記載の核酸構築物を含むベクター。
【請求項14】
望まないタンパク質の発現を阻害しながら、細胞内で所望のタンパク質を発現させる方法であって:
(a)請求項10〜12のいずれか一項に記載の核酸構築物および/または請求項13に記載のベクターを提供すること、および
(b)細胞内に前記核酸構築物および/または前記ベクターを導入すること
を含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2011−516542(P2011−516542A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503566(P2011−503566)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【国際出願番号】PCT/JP2009/001701
【国際公開番号】WO2009/125607
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(511031618)LSIPファンド運営合同会社 (1)
【Fターム(参考)】