説明

アミダーゼおよび3−アミノカルボン酸エステルを製造するためのその使用

本発明は、一般式(I)(式中、R1はアルキル、アルコキシアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘタリールを表し、R2はアルキル、シクロアルキルまたはアリールを表す)の光学活性な3-アミノカルボン酸エステル化合物およびそのアンモニウム塩の製造方法に関し、該方法では、一般式(I.b)(式中、R1およびR2は上記で定義した通りであり、R3は水素、アルキル、シクロアルキル、またはアリールである)の単純N-アシル化3-アミノカルボン酸エステルのエナンチオマー混合物を、請求項1に記載のポリペプチドを添加することによりエナンチオ選択的脱アシル化に供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規アミダーゼならびに光学活性な3-アミノカルボン酸エステル化合物およびその誘導体を製造するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
不斉合成(すなわち、キラル基がプロキラル基から生成され、それにより立体異性体生成物(エナンチオマーまたはジアステレオマー)が不均等な量で形成される反応)は、時には特定の光学活性異性体のみが治療上活性であるので、主に製薬産業では非常に重要になっている。これに関して、活性化合物の光学活性中間体もまた、徐々に重要になっている。これは、3-アミノカルボン酸エステル(式I)およびその誘導体にも当てはまる:
【化1】

【0003】
したがって、一般式Iの光学活性化合物を製造するための有効な合成ルートに対する大きなニーズがある。
【0004】
WO 97/41214には、アミノアシラーゼ活性を有し、リパーゼまたはエステラーゼ活性は有しない生体触媒が記載されている。
【0005】
WO 2008/003761には、光学活性な3-アミノカルボン酸エステルの製造方法が記載され、該方法では、一方のエナンチオマーが富化された単純N-アシル化3-アミノカルボン酸エステルのエナンチオマー混合物を、酸性塩形成物質を添加することにより、脱アシル化およびそれに続く結晶化によるさらなるエナンチオマー富化に供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、光学活性な3-アミノカルボン酸エステルおよびその誘導体を製造するための簡便かつしたがって経済的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、一般式(I):
【化2】

【0008】
[式中、
R1は、アルキル、アルコキシアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘタリールを表し、
R2は、アルキル、シクロアルキルまたはアリールを表す。]
の光学活性な3-アミノカルボン酸エステル化合物およびそのアンモニウム塩の製造方法であって、一般式(I.b):
【化3】

【0009】
[式中、
R1およびR2は上記の意味を有し、R3は水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールを表す。]
の単純N-アシル化3-アミノカルボン酸エステルのエナンチオマー混合物を、請求項1または2に記載のポリペプチドを添加することにより、エナンチオ選択的脱アシル化に供する、上記方法により、上記課題が解決されることが見出された。
【0010】
本発明はさらに、一般式(I’):
【化4】

【0011】
[式中、
R1は、アルキル、アルコキシアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘタリールを表し、
R2は、水素、カチオン当量M+、アルキル、シクロアルキルまたはアリールを表す。]
の光学活性な3-アミノカルボン酸エステル化合物およびその誘導体の製造方法に関し、該方法では、
(a)一般式(I.1):
【化5】

【0012】
[式中、
R1およびR2は上記の意味を有する。]
のβ-ケトエステルを、
(a1)アミド化触媒の存在下で、式R3-C(O)NH2(式中、R3は上記の意味を有する)の少なくとも1種のカルボン酸アミドと、または
(a2)アンモニアおよび続いて式R3-C(O)X(式中、Xはハロゲンまたは式OC(O)R4(式中、R4はR3についての上記の意味を有する)の残基を表す)のカルボン酸誘導体と
反応させ、一般式(I.a):
【化6】

【0013】
[式中、
R1、R2およびR3は上記の意味を有する。]
の対応するN-アシル化α不飽和(Z)-3-アミノカルボン酸エステルを取得し、
(b)この反応で得られたエナミド(I.a)を水素化に供し、一般式(I.b):
【化7】

【0014】
[式中、
R1、R2およびR3は上記の意味を有する。]
の単純N-アシル化β-アミノカルボン酸エステルのエナンチオマー混合物を取得し、
(c)水素化で得られた化合物(I.b)のエナンチオマー混合物を、アミダーゼ活性を有するポリペプチドを添加することにより、エナンチオ選択的脱アシル化に供し、得られた3-アミノカルボン酸エステルのアンモニウム塩(1つの立体異性体に関して富化されている)を単離し、かつ
(d)任意により、単離されたアンモニウム塩を3-アミノカルボン酸エステルに変換し、かつ
(e)任意により、3-アミノカルボン酸エステルを、遊離の3-アミノカルボン酸またはその塩に変換する。
【0015】
本発明はさらに、以下のポリペプチド:
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
(b)配列番号2に対して少なくとも96%、好ましくは98%、特に好ましくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド
から選択される、アミダーゼ活性を有するポリペプチドに関する。
【0016】
本発明はさらに、以下のポリペプチド:
(c)配列番号4のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
(d)配列番号4に対して少なくとも80%、好ましくは85、88%、90%、特に好ましくは92%、94%、96%、98%、99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド
から選択される、アミダーゼ活性を有するポリペプチドに関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】3-アセチルアミノ-3-フェニル-プロピオン酸エチルエステルの形成を、反応時間および温度の関数として示すグラフである。
【図2】3-アミノ-3-フェニル-プロピオン酸エチルエステルの濃度を示すグラフである。
【図3】ラセミ化合物またはエナンチオマー富化基質を用いた反応の比較を示すグラフである。
【図4】富化されたS-AAPEEの反応を示すグラフである。
【図5】3-アセチルアミノ酪酸メチルエステル、3-アミノ酪酸メチルエステル、および酵素なしの対照の濃度の変動を示すグラフである。LU8676は、ロドコッカス・エリスロポリス野生型株を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の文脈では、「キラル化合物」とは、キラル軸、キラル平面またはらせん形状を有する、少なくとも1個のキラル中心(すなわち、少なくとも1個の不斉原子、例えば、少なくとも1個の不斉炭素原子またはリン原子)を有する化合物である。「キラル触媒」との用語は、少なくとも1個の不斉配位子を有する触媒を含む。
【0019】
「アキラル化合物」とは、キラルでない化合物である。
【0020】
「プロキラル化合物」とは、少なくとも1個のプロキラル中心を含む化合物を意味する。「不斉合成」とは、少なくとも1個のプロキラル中心を有する化合物から、少なくとも1個のキラル中心、キラル軸、キラル平面またはらせん形状を有する化合物が生成される反応を表し、ここで、立体異性体生成物は、不均等な量で形成される。
【0021】
「立体異性体」とは、同じ組成を有するが、3次元空間で異なる原子配置を有する化合物である。
【0022】
「エナンチオマー」とは、鏡像の相手として互いに関連する立体異性体である。不斉合成で達成された「エナンチオマー過剰率」(ee)は、以下の式:
ee[%] = (R-S)/(R+S)*100
から見出すことができる。RおよびSは、双方のエナンチオマーについてのCIP規則の記述子であり、不斉原子の絶対配置を表す。エナンチオマーとして純粋な化合物(ee=100%)は、「ホモキラル化合物」としても知られる。
【0023】
本発明の方法は、特定の立体異性体に関して富化された生成物をもたらす。達成される「エナンチオマー過剰率」(ee)は、通常、少なくとも95%、好ましくは少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%である。
【0024】
「ジアステレオマー」とは、互いにエナンチオマーでない立体異性体である。
【0025】
本発明の範囲に包含される化合物中にはさらなる不斉原子が存在しうるが、本明細書中で提示される立体異性体という概念は、特に明確に記載しない限り、化合物IまたはI’中の不斉β-炭素原子に対応する、それぞれの化合物の炭素原子を意味する。さらなる立体中心が存在する場合、本発明の文脈での命名には反映されない。
【0026】
本明細書中、以下では、「アルキル」との表現は、直鎖および分岐鎖アルキル基を含む。好ましくは、アルキル基は、直鎖または分岐鎖C1〜C20-アルキル基、好ましくはC1〜C12-アルキル基、特に好ましくはC1〜C8-アルキル基、極めて特に好ましくはC1〜C6-アルキル基である。アルキル基の例は、特に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、2-ペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、2-ヘキシル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1-エチルブチル、2-エチルブチル、1-エチル-2-メチルプロピル、n-ヘプチル、2-ヘプチル、3-ヘプチル、2-エチルペンチル、1-プロピルブチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、2-メチルヘプチル、ノニル、デシル、2-プロピルヘプチルである。
【0027】
「アルキル」との表現はまた、置換アルキル基も含み、これは一般的に、シクロアルキル基、アリール基、ヘタリール基、ハロゲン基、COORf基、COO-M+基およびNE1E2基(式中、Rfは水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールを表し、M+はカチオン当量を表し、E1およびE2は互いに独立に、水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールを表す)から選択される1、2、3、4または5個、好ましくは1、2または3個、特に好ましくは1個の置換基を担持することができる。
【0028】
「アルコキシアルキル」との表現は、アルコキシ残基に連結された直鎖および分岐鎖アルキル基を含む。アルコキシ残基もまた、直鎖または分岐鎖であることができる。好ましくは、アルコキシアルキル基は、C1〜C12-アルコキシ残基、特に好ましくはC1〜C6-アルコキシ残基に連結された、直鎖または分岐鎖C1〜C20-アルキル基、好ましくはC1〜C12-アルキル基、特に好ましくはC1〜C8-アルキル基、極めて特に好ましくはC1〜C6-アルキル基である。アルキル基の例は、上記で言及したものであり、アルコキシ基の例は、特に、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシである。アルコキシアルキル基の例は、特に、メトキシメチル、エトキシメチル、エトキシエチル、エトキシプロピルである。
【0029】
「アルケニル」との表現は、少なくとも1箇所のC=C二重結合を未だ有する直鎖および分岐鎖アルキル基を含む。好ましくは、アルケニル基は、1箇所のC=C二重結合を有する直鎖C1〜C20-アルキル基である。アルケニル基の例は、特に、1-プロペニル、1-ブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニルである。
【0030】
「シクロアルキル」との表現は、本発明の意味では、非置換および置換シクロアルキル基の両方、好ましくはC3〜C8-シクロアルキル基(シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロヘプチルなど)を含み、これらは、置換に関して、一般的に、好ましくはアルキルおよびアルキルについて言及した置換基から選択される1、2、3、4または5個、好ましくは1、2または3個、特に好ましくは1個の置換基を有することができる。
【0031】
「ヘテロシクロアルキル」との表現は、本発明の意味では、一般的に4〜7個、好ましくは5または6個の環原子を有し、環炭素原子のうち1または2個が、好ましくは酸素、窒素および硫黄の元素から選択されるヘテロ原子により置き換えられている飽和脂環式基を含み、これは任意により置換されていることができ、置換に関して、これらのヘテロ脂環式基は、アルキル、シクロアルキル、アリール、COORf、COO-M+およびNE1E2、好ましくはアルキル(式中、Rfは水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールを表し、M+はカチオン当量を表し、E1およびE2は互いに独立に、水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールを表す)から選択される1、2または3個、好ましくは1または2個、特に好ましくは1個の置換基を有することができる。これらのヘテロ脂環式基の例として、ピロリジニル、ピペリジニル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、オキサゾリジニル、モルホリジニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、イソキサゾリジニル、ピペラジニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、ジオキサニルに言及することができる。
【0032】
「アリール」との表現は、本発明の意味では、非置換および置換アリール基を含み、好ましくは、フェニル、トリル、キシリル、メシチル、ナフチル、フルオレニル、アントラセニル、フェナントレニルまたはナフタセニル、特に好ましくはフェニルまたはナフチルを表し、これらのアリール基は、置換に関して、一般的に、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基またはハロゲン基から選択される1、2、3、4または5個、好ましくは1、2または3個、特に好ましくは1個の置換基を有することができる。
【0033】
「ヘタリール」との表現は、本発明の意味では、非置換または置換ヘテロシクロ芳香族基、好ましくは、ピリジル基、キノリニル基、アクリジニル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、インドリル基、プリニル基、インダゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、1,2,3-トリアゾリル基、1,3,4-トリアゾリル基およびカルバゾリル基を含み、これらのヘテロシクロ芳香族基は、置換に関して、一般的に、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、カルボキシ基、カルボキシレート基、-SO3H基、スルホネート基、NE1E2基、アルキレン-NE1E2基またはハロゲン基(式中、E1およびE2は上記の意味を有する)から選択される1、2または3個の置換基を有することができる。
【0034】
「アルキル」、「シクロアルキル」、「アリール」、「ヘテロシクロアルキル」および「ヘタリール」との表現についての上記の説明は、「アルコキシ」、「シクロアルコキシ」、「アリールオキシ」、「ヘテロシクロアルコキシ」および「ヘタリールオキシ」との表現について、対応して適用される。
【0035】
「アシル」との表現は、本発明の意味では、一般的に2〜11個、好ましくは2〜8個の炭素原子を有するアルカノイル基またはアロイル基を表し、例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、2-エチルヘキサノイル基、2-プロピルヘプタノイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基またはトリフルオロアセチル基を表す。
【0036】
「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素、好ましくはフッ素、塩素および臭素を表す。
【0037】
M+は、カチオン当量、すなわち、一価カチオンまたは多価カチオンの電荷の単一正電荷成分を表す。これには、例えば、Li、Na、K、CaおよびMgが含まれる。
【0038】
本発明の方法は、既に記載した通り、一般式(I)の光学活性な化合物の製造およびその誘導体の製造を可能にする。
【0039】
R1は、好ましくは、C1〜C6-アルキル、1-C3〜C6-アルケニル、またはC6〜C14-アリールを表し、これは、最初に言及した通り、任意により置換されていることができる。特に、R1は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、1-プロペニル、1-ヘプテニル、またはフェニル、特にメチルおよびフェニルを表す。
【0040】
R2は、好ましくは、非置換または置換C1〜C6-アルキル、C3〜C7-シクロアルキルまたはC6〜C14-アリールを表す。特に好ましいR2残基は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、トリフルオロメチル、シクロヘキシル、フェニルおよびベンジルである。
【0041】
R2’は、水素、M+、およびR2について記載した意味を表す。
【0042】
R3は、水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリール、特に水素、メチル、エチル、トリフルオロメチル、ベンジルおよびフェニルを表す。
【0043】
本発明に従えば、アミダーゼの添加により、化合物(I.b)のエナンチオマー混合物をエナンチオ選択的脱アシル化に供し、1つの立体異性体に関して富化された、得られた3-アミノカルボン酸エステルのアンモニウム塩を単離する。
【0044】
脱アシル化に用いられる一般式(I.b)の化合物の異性体混合物が、対応するエナンチオマーも、またはキラルなβ-ケトエステルから出発してジアステレオマーも、無視できない量で含むことが、本発明の方法の特徴である。したがって該方法は有利には、例えばエナミドの通常の不斉水素化によって前駆体化合物から得ることができる、一般式(I.b)の化合物の異性体混合物から出発して、一般式(I)の光学活性な化合物の製造を可能にする。
【0045】
本方法ステップでは通常、同じモル比で複数のエナンチオマーを含むか、または一方のエナンチオマーについて既に富化されているエナンチオマー混合物を用いる。これらの混合物のee値は、好ましくは75%超、特に好ましくは90%超である。エナミド(I.a)の水素化のために選択した条件に依存して、ラセミ化合物または一方のエナンチオマーについて既に富化された混合物が生成される。一方のエナンチオマーについて既に富化された混合物を取得するために、通常、例えばWO 2008/003761(その記載は参照により本明細書中に明示的に組み入れられる)に記載されたものなどのエナンチオ選択的水素化法が選択される。
【0046】
好ましくは、脱アシル化は、20〜40℃、特に好ましくは20〜30℃の温度で行なう。反応は、通常は、水性バッファー中で行なう。
【0047】
本発明はさらに、以下に記載したステージ(a)〜(c)ならびに任意により(d)および(e)を含む方法に関する。
【0048】
ステージ(a)
本発明の方法のステージ(a)の一実施形態では、式(I.1)のβ-ケトエステルを、反応水を除去して、アミド化触媒の存在下で、式R3-C(O)NH2の少なくとも1種のカルボン酸アミドと反応させ、式(I.a)の3-アミノカルボン酸エステルを形成させる(ステップa.1)。
【0049】
好ましくは、ステップa.1では、式R3-C(O)NH2のカルボン酸アミドは、アセトアミド、プロピオン酸アミド、安息香酸アミド、ホルムアミドまたはトリフルオロアセトアミド、特に、安息香酸アミドまたはアセトアミドである。
【0050】
ステップa.1に好適な溶媒は、水を含む低沸点共沸混合物を形成するものであり、そこから、当業者に公知の分離技術(例えば、共沸蒸留)により反応水を除去することができる。特に、溶媒は、芳香族(トルエン、ベンゼンなど)、ケトン(メチルイソブチルケトンまたはメチルエチルケトンなど)、およびハロアルカン(クロロホルムなど)である。好ましくは、トルエンを用いる。
【0051】
好適なアミド化触媒は、例えば、酸(p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸など)である。好ましくは、p-トルエンスルホン酸を用いる。
【0052】
方法ステップa.1での反応は、好ましくは20〜110℃、特に好ましくは60〜90℃の温度で行なう。特に好ましくは、温度は、標準温度・標準気圧(S.T.P.)での用いる溶媒の沸点より高い。
【0053】
方法ステップa.1は、通常、0.01〜1.5bar、特に0.1〜0.5barの圧力で行なう。任意により、ステップa.1で得られたアミノカルボン酸エステルを、当業者に公知の通常の方法(例えば、蒸留)による精製に供することができる。
【0054】
別の実施形態では、式(I.1)のβ-ケトエステルを、アンモニア水と、続いて式R3-C(O)Xのカルボン酸誘導体と反応させ、N-アシル化β-不飽和(Z)-3-アミノカルボン酸エステル(I.a)を形成させる(式中、Xはハロゲンまたは式OC(O)R4の残基を表し、R4はR3についての上記の意味を有する)(ステップa.2)。
【0055】
好ましくは、カルボン酸誘導体は、カルボン酸塩化物(式中、Xは塩素を表し、R3は上記の意味を有する)、またはカルボン酸無水物(式中、XはOC(O)R4を表し、R4は好ましくはR3と同じ意味を有する)であり、特に好ましくは、カルボン酸誘導体は、塩化アセチル、塩化ベンゾイルまたは無水酢酸である。
【0056】
ステップa.2でのアシル化は、好ましくは20〜120℃の温度で、特に好ましくは60〜90℃の温度で行なう。
【0057】
ステップa.2でのアシル化は、極性溶媒または極性溶媒と非極性溶媒との混合物中で行ない、好ましくは、極性溶媒は、式R3COOHのカルボン酸または第3級アミンであり、ハロアルカンおよび芳香族は非極性溶媒として特に好適であり、特に好ましくは酢酸またはトリエチルアミンを溶媒として用いる。
【0058】
ステップa.2でのアシル化は、触媒を用いて行なうことができ、これは、触媒量かつ化学量論的の両方で用いることができ、あるいは、溶媒として、第3級アミンなどの非求核塩基が好ましく、特に好ましくは、トリエチルアミンおよび/またはジメチルアミノピリジン(DMAP)である。
【0059】
任意により、ステップa.1およびa.2では、(Z)-3-アミノカルボン酸エステルは、(E)-3-アミノカルボン酸エステルと任意によりさらなるアシル化生成物とを含む混合物として得られるであろう。この場合、式(I.a)の(Z)-3-アミノカルボン酸エステルは、当業者に公知の方法により単離されるであろう。好ましい方法は、蒸留による分離である。
【0060】
ステージ(b)
ステージ(a)で取得された式(I.a)のα-不飽和(Z)-3-アミノカルボン酸エステル化合物を、続いて、任意によりキラル水素化触媒の存在下で、水素化(任意によりエナンチオ選択的水素化)に供することができ、これにより一般式(I.b)の単純N-アシル化β-アミノカルボン酸エステルのラセミ化合物または一方のエナンチオマーについて富化されたエナンチオマー混合物が得られる。
【0061】
好ましくは、元素周期表の第8族〜第11族の遷移金属の少なくとも1種の錯体(配位子として少なくとも1種のキラルなリン原子含有化合物を含む)を、ステージ(b)で水素化触媒として用いる。
【0062】
水素化のために、好ましくはキラル水素化触媒を用い、これは、所望の異性体について優勢的に用いられるα-不飽和N-アシル化3-アミノカルボン酸エステル(I.a)を水素化することが可能である。ステージ(b)で得られる式(I.b)の化合物は、不斉水素化後に、好ましくは少なくとも75%、特に好ましくは少なくとも90%のee値を有する。しかしながら、そのような高いエナンチオマー純度は、本発明の方法では多くの場合に必要でなく、なぜなら、本発明の方法によれば、引き続く脱アシル化ステップでさらなるエナンチオマー富化が行なわれるからである。しかしながら、好ましくは、化合物(I.b)のee値は少なくとも75%である。
【0063】
好ましくは、本発明の方法は、少なくとも1000:1、特に好ましくは少なくとも5000:1、特に少なくとも15000:1の基質/触媒比(s/c)でのエナンチオ選択的水素化を可能にする。
【0064】
好ましくは、下記の配位子のうち少なくとも1種を含む第8族、第9族または第10族の金属の錯体を、不斉水素化のために用いる。好ましくは、遷移金属は、Ru、Rh、Ir、PdまたはPtから選択される。RhおよびRuに基づく触媒が特に好ましい。Rh触媒が特に好ましい。
【0065】
配位子として用いる含リン化合物は、好ましくは、二座および多座ホスフィン、亜ホスフィン酸、亜ホスホン酸、ホスホルアミダイトおよび亜リン酸化合物から選択される。
【0066】
以下の式の化合物:
【化8】

【0067】
またはそのエナンチオマー(式中、Arは任意により置換されていてもよいフェニル、好ましくはトリルまたはキシリルを表す)から選択される少なくとも1個の配位子を有する触媒が、水素化のために好ましい。
【0068】
上記のクラスの化合物の二座化合物が特に好ましい。P-キラル化合物(DuanPhos、TangPhosまたはBinapineなど)が特に好ましい。
【0069】
少なくとも1個のリン原子を介して遷移金属に配位している好適なキラル配位子は、当業者に公知であり、例えば、Chiral Quest((Princeton) Inc., Monmouth Junction, NJ)から市販されている。上記のキラル配位子の例の命名は、それらの販売名に対応している。
【0070】
キラルな遷移金属錯体は、不安定または準安定配位子を含む、好適な配位子と金属の錯体との反応により、当業者に公知の方法で取得することができる(例えば、Uson, Inorg. Chim. Acta 73, 275 1983、EP-A-0 158 875、EP-A-437 690)。この場合、Pd2(ジベンジリデンアセトン)3、Pd(OAc)2(Ac=アセチル)、RhCl3、Rh(OAc)3、[Rh(COD)Cl]2、[Rh(COD)OH]2、[Rh(COD)OMe]2(Me=メチル)、Rh(COD)acac、Rh4(CO)12、Rh6(CO)16、[Rh(COD)2)]X、Rh(acac)(CO)2(acac=アセチルアセトナト(acetylacetonato))、RuCl3、Ru(acac)3、RuCl2(COD)、Ru(COD)(メタリル)2、Ru(Ar)I2およびRu(Ar)Cl2(Ar=アリール、非置換および置換)、[Ir(COD)Cl]2、[Ir(COD)2]X、Ni(アリル)Xなどの錯体を、プレ触媒として用いることができる。COD(=1,5-シクロオクタジエン)の代わりに、NBD(=ノルボルナジエン)を用いることも可能である。[Rh(COD)Cl]2、[Rh(COD)2)]X、Rh(acac)(CO)2、RuCl2(COD)、Ru(COD)(メタリル)2、Ru(Ar)Cl2(Ar=アリール、非置換および置換)、およびCODの代わりにNBDを用いる対応する系が好ましい。[Rh(COD)2)]Xおよび[Rh(NBD)2)]Xが特に好ましい。
【0071】
Xは、一般的には不斉合成において不安定な、当業者に公知のいずれかのアニオンであり得る。Xの例は、Cl-、Br-またはI-、BF4-、ClO4-、SbF6-、PF6-、CF3SO3-、BAr4-などのハロゲンである。BF4-、PF6-、CF3SO3-、SbF6-が、Xとして好ましい。
【0072】
キラルな遷移金属錯体は、実際の水素化反応前に反応容器中でその場で生成することができ、または別個に生成し、単離してから用いることができる。少なくとも1個の溶媒分子が、遷移金属錯体に付加される場合がある。錯体調製のための一般的な溶媒(例えば、メタノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン等)は、当業者に公知である。
【0073】
少なくとも1種の不安定または準安定配位子と併せたホスフィン、亜ホスフィン酸、亜ホスホン酸、ホスホルアミダイトおよび亜リン酸-金属または金属-溶媒-錯体は好適なプレ触媒であり、それから水素化条件下で実際の触媒が生成される。
【0074】
本発明の方法の水素化ステップ(ステップb)は、通常、-10〜150℃の温度で、好ましくは0〜120℃で、特に好ましくは10〜70℃で行なう。
【0075】
水素圧は、0.1bar〜600barの範囲で変えることができる。好ましくは、0.5〜20bar、特に好ましくは1〜10barの圧力範囲内である。
【0076】
当業者に公知の不斉水素化のためのすべての溶媒が、エナミド(I.a)の水素化反応のための溶媒として好適である。好ましい溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルキルアルコール、およびトルエン、THF、酢酸エチルである。特に好ましくは、酢酸エチルまたはTHFを、本発明の方法で溶媒として用いる。
【0077】
上記の水素化触媒(または水素化プレ触媒)は、好適な様式で(例えば、アンカー基として好適な官能基を介した連結、吸着、グラフト等により、ガラス、シリカゲル、合成樹脂、ポリマー支持体等の好適な支持体上に)固定化することもできる。そうすると、固相触媒としての使用にも好適である。有利には、これらの方法により、触媒消耗をさらに低減することができる。上記の触媒は、固相触媒の形態で、例えば、上記のような固定化後に、連続反応にも好適である。
【0078】
別の実施形態では、ステージbでの水素化を、連続的に行なう。連続的水素化は、1つの反応ゾーンで、または好ましくは数個の反応ゾーンで行なうことができる。数個の反応ゾーンは、数個の反応器により、または1個の反応器内の分離した異なる領域により形成することができる。数個の反応器を用いる場合、それらは同じものでも、異なっていることもできる。各場合で、反応器は、同じかもしくは異なる混合特性を有し、かつ/または内部部品によって1回以上再分割することができる。反応器は、いずれかの様式で(例えば、並列または直列に)互いに連結することができる。
【0079】
水素化のための好適な耐圧反応器は、当業者に公知である。これには、気液反応のための一般的な通常の反応器、例えば、管状反応器、シェルアンドチューブ反応器、撹拌反応器、ガス循環反応器、気泡塔反応器等が含まれ、これは任意により、内部部品により満たされているかまたは再分割することができる。
【0080】
ステップ(c)
方法ステップ(c)では、水素化で得られた化合物(I.b)のエナンチオマー混合物を、アミダーゼ活性を有するポリペプチドを添加することにより、エナンチオ選択的脱アシル化に供し、1つの立体異性体に関して富化された、得られた3-アミノカルボン酸エステルのアンモニウム塩を単離する。アミダーゼ活性を有するポリペプチドは、精製酵素として、部分的に精製された粗抽出物として、またはアミダーゼを含有する生存微生物もしくは死滅微生物の形態で用いることができる。好ましいアミダーゼは、配列番号2もしくは4の一次構造を有するもの、または数個のアミノ酸(好ましくは1〜20個、特に好ましくは1〜10個のアミノ酸)の挿入、欠失もしくは置換により得られる配列番号2もしくは4の変異体である。
【0081】
反応は、通常は、水性バッファー中で行なう。得られた反応生成物は、通常の方法により精製および単離することができる。
【0082】
ステップ(d)
所望であれば、アミダーゼ反応によるエナンチオマー富化脱アシル化で単離したアンモニウム塩を、さらなる処理に供することができる。つまり、例えば、式(I)の光学活性な化合物を取り出すために、結晶化生成物を好適な塩基(好ましくは、NaHCO3、NaOH、KOH)と接触させることが可能である。好適な手順では、脱アシル化生成物を、水に溶解または懸濁し、続いて、塩基の添加によりpHを約8〜12、好ましくは約10に調整する。遊離の3-アミノカルボン酸エステルを単離するために、好適な有機溶媒(例えば、メチルブチルエーテルなどのエーテル)、炭化水素もしくは炭化水素混合物(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどのアルカン、もしくはアルカン混合物)、ナフサもしくは石油エーテル、または芳香族(トルエンなど)を用いて、塩基性溶液または懸濁液を抽出することが可能である。好ましい抽出剤はトルエンである。この手順では、ee値も維持しながら、3-アミノ酸エステルを、ほとんど定量的に取得することができる。
【0083】
ステップ(e)
任意により、当業者に公知の方法を用いて、3-アミノカルボン酸エステルを誘導体化することができる。考えられる誘導体化には、例えば、エステルの鹸化または光学活性アルコールへのカルボキシル炭素原子の立体選択的還元が含まれる。
【0084】
したがって、本発明の式(I’)の化合物の誘導体は、例えば、3-アミノカルボン酸エステルのアンモニウム塩、R2’が水素である遊離カルボン酸、R2’がM+である遊離カルボン酸の塩、および光学活性な3-アミノアルコールを含む。
【0085】
本発明はさらに、アミダーゼ反応を触媒することができ、かつ以下の一次構造(アミノ酸配列):
配列番号2
または配列番号2に対して少なくとも96%、好ましくは98%、特に好ましくは99%の同一性を有するポリペプチド配列、
配列番号4
または配列番号4に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、特に好ましくは少なくとも95%の同一性を有するポリペプチド配列
を含むポリペプチドに関する。
【0086】
以下のモデル反応は、本発明の意味でのアミダーゼ反応として理解される:
【化9】

【0087】
[式中、
各場合で、R1およびR3はメチルを表し、R2はエチルを表す]。
【0088】
以下の反応条件を選択した:
200μl 細胞
50μl 1M KH2PO4バッファー、pH7.0
1〜10g/L 基質(ラセミ化合物またはSエナンチオマー富化)
740μl H2O。
【0089】
細胞の培養については、実施例2を参照されたい。
【0090】
配列番号2のアミダーゼは、例えば、ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)DSM 19590からのクローニングにより単離することができる。
【実施例】
【0091】
実施例1:ロドコッカス・エクイ(Rhodococcus equi)由来のアミダーゼのクローニング
ロドコッカス・エクイ由来のS選択的アミダーゼのコード領域を、以下のオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRにより増幅した:
【化10】

【0092】
Mke 973 GTCAGATGGATCCTCATGGCACTTCTTC
Mke 959 ATCTCCTCTGCGATCTCGTTG
Mke 972 GTTCACGATCAAGGACCTCACCGACGTC
Mke 912 GCCGTGGTAGGCCCAGTTGTTGTAGCGGCC
Mke 913 CGACGTCCTCATCTCGCCGACCCTCGC
Mke 904 CTACGCCACAGGACGACGGTCCGCCCACGG
Mke 974 CTGGTCCCCACTGCGTCGGTAGGTGATC
【0093】
クローニング用の対応する切断部位を挿入するために、このようにして得られた配列を、以下のプライマーを用いた別のPCRで増幅した:
5'-GGGATACTCATATGAGTACATCGGATCCGGG-3'
3'-GAGTCTCAAGCTTACGCCACCGGTCGACGATCC-5'
【0094】
ロドコッカス・エクイは土壌分離株であり、3-アセチルアミノ-3-フェニル-プロピオン酸エチルエステルについてのスクリーニングから単離された。この株は、DSMZで検査された。この株は、受託番号第19590号としてDSMに寄託された。
【0095】
ゲノムDNAは、Qiagenキットを用いて取得した:
ロドコッカス・エクイ由来の染色体DNAを単離するために、細菌培養物を30mlのFP培地に植菌し、30℃で一晩インキュベートした。
【0096】
培養物を5000×gで遠心し、22μlのRNase A溶液をB1バッファーの11mlのアリコートに添加した。細胞ペレットを、それぞれ11mlのRNase含有B1バッファーに再懸濁した。続いて、300mlのリゾチーム原液(100mg/ml)および500μlのプロテイナーゼK原液(20mg/ml)を添加し、細胞を溶解させるために、37℃で30分間インキュベートした。その間に、QIAGEN Genomic-tip 500/Gを10mlのQBTバッファーで平衡化した。透明溶解液をカラムにアプライし、通過させた。続いて、カラムを15mlのQCバッファーで2回洗浄した。最後に、5mlのQFバッファーを用いて、ゲノムDNAを溶出させた。次に、イソプロパノールで染色体DNAを沈殿させ、ガラス棒を用いてTEバッファー中に移した。
【0097】
増幅した遺伝子を、制限酵素NdeIおよびHindIIIで切断し、ラムノース誘導性プロモーターを有するpDHEベクターのマルチクローニング部位にライゲーションした。このベクターを、TG1細胞(DSMZ 6056)で発現させた。
【0098】
この株を、最小培地で37℃にてフェドバッチとして培養した。細胞を、150g/lの生物乾物を含む生物湿物として、試験で用いた。酵素比活性は、50U/g生物乾物(BDM)であった。
【0099】
実施例2:ロドコッカス・エクイの野生型株を用いた3-アミノ-3-フェニル-プロピオン酸エチルエステルの調製
【化11】

【0100】
(a)細胞の調製:
FP培地に細胞を植菌する。細胞を、28℃、180rpmでインキュベートする。20時間の増殖後、1g/lの3-アセチルアミノ-3-フェニル-プロピオン酸エチルエステルの溶液を用いて野生型株を誘導し、さらに7時間インキュベートする。細胞を溶解させ、粗抽出物を活性試験で用いる。
【0101】
(b) 3-アセチルアミノ-3-フェニル-プロピオン酸エチルエステルの反応:
バッファー(100mM KH2PO4 pH7)中で、1g/lの3-アセチルアミノ-3-フェニル-プロピオン酸エチルエステル(AAPEE)およびxμl(表1を参照されたい)の無細胞粗抽出物(表1を参照されたい)を28℃または40℃で一晩インキュベートする。
【0102】
アミンの形成またはアミドの分解を、HPLCにより測定する。エナンチオ選択性の測定のために、サンプルをキラルGCにより測定する。
【表1】

【0103】
結果:
図1は、3-アセチルアミノ-3-フェニル-プロピオン酸エチルエステルの形成を、反応時間および温度の関数として示す。
【0104】
図2から見て取れるように、3-アミノ-3-フェニル-プロピオン酸エチルエステルの濃度は、約24時間後に最大値に達している。その後、形成されたアミンも分解される。40℃での反応は開始時により速く進むが、28℃よりも早く減衰する。
【0105】
分析:
アキラルHPLC
カラム: Onyx Monolith C18、50*4.6 mm、Phenomenex社
移動相A: 20 mM KH2PO4 pH2.5
移動相B: アセトニトリル
流速: 1.5ml/分
炉温: 45℃
注入量: 2μl
勾配: 0.0分 20%B
0.5分 20%B
0.6分 80%B
1.2分 80%B
1.3分 20%B
2.0分 20%B
検出: UV 210nm
保持時間: 出発物質 1.49分
生成物 0.74分
【0106】
キラルGC:
溶媒: アセトニトリル
誘導体化: 約100μl溶液
+300μl TFAA(トリフルオロ酢酸無水物)
100℃で約30分間静置
GC条件:
カラム: 25 m Lipodex G 0.25 mm 内径 0.25μm FD
炉内プログラム: 80 / 10 / 2 / 180 / 10 / 700
注入: 250℃にて濃度に応じて1〜5μl
検出器: 250℃にてFID
担体ガス: ヘリウム16.7 PSI、流速1.6ml/分、スプリット100:1
【0107】
比較:ラセミ化合物基質との反応vs.富化基質との反応
試験条件:500mM AAPPEE(ラセミ化合物/富化基質)
100mM KH2PO4 pH7.0
25g/l(生物乾物)発酵器排出物由来の細胞(ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)由来のクローン化酵素)
30℃
【0108】
図3は、ラセミ化合物またはエナンチオマー富化基質を用いた反応の比較を示す。
【0109】
20g/lまでの3-アセチルアミノ-3-フェニル-プロピオン酸メチルエステル(AAPEE)を反応させた。ラセミ化合物基質を用いる場合、Sエナンチオマーの富化が得られる(ee約94%)。しかしながら、既に富化された基質を用いる場合(ee約80%)、ee>99%を達成することができる。
【0110】
分離用4L調製
4L調製:
130mM AAPPEE
100mM KH2PO4 pH7.0
34g/L BDM細胞(ロドコッカス・エリスロポリス由来のクローン化酵素)
30℃、5時間
【0111】
調製:
60ml/102g H3PO4(85%)を入れた反応器をpH3.0に設定する。最終重量は4113g/4150mlであった。調合物を遠心し(5000*g、20分)、ペレットを200mLで洗浄した。透明な若干黄色の上清が得られた(最終重量3804g)。
【0112】
最初に、出発物質とまだ存在する出発物質合成からの副生成物とを分離するために、上清を3×1400mlの2-ブタノールで抽出した。続いて、10℃で、20%NaOHを用いてpH10に調整し、1500mlの2-ブタノールを用いた抽出および引き続く真空下での溶媒留去により、アミノ酸エステルを単離した。23.0gのほとんどエナンチオマーとして純粋な(99.3%ee)アミノエステルを、若干黄色の油として取得した。化学純度は98%超(GC)である。
【0113】
図4は、富化されたS-AAPEEの反応を示す。
【0114】
実施例3:3-アミノ酪酸メチルエステルの調製
野生型株ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)をアミダーゼ(配列番号4)として用いた。このアミダーゼは、当業者が精通している遺伝子操作法により、例えば、好適な宿主系(例えば、大腸菌)での配列番号3の核酸の発現によって、生成することができる。
【化12】

【0115】
実施は、実施例2と同様である。
【0116】
分析:
アキラルHPLC
カラム: Luna C8(2)、150*3.0 mm、Phenomenex社
移動相A: 10 mM KH2PO4 pH2.5
移動相B: アセトニトリル
流速: 1.0ml/分
炉温: 40℃
注入量: 1μl
勾配: 0.0分 0%B
7.0分 30%B
10分 30%B
1.2分 80%B
1.3分 20%B
2.0分 20%B
検出: UV 200nm
保持時間: 出発物質 4.35分
生成物 1.13分
【0117】
キラルGC
カラム: Hydrodex-β-6-TBDM、25*0.25 mm、フィルム厚16μm M&N
温度プログラム: 90℃、15分、10℃、10分、160℃、15分
検出器: FID
保持時間: 出発エナンチオマー1 21.46分
(出発物質のみ)
【0118】
【表2】

【0119】
図5は、3-アセチルアミノ酪酸メチルエステル、3-アミノ酪酸メチルエステル、および酵素なしの対照の濃度の変動を示す。LU8676は、ロドコッカス・エリスロポリス野生型株を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のポリペプチド:
(a)配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
(b)配列番号2に対して少なくとも96%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド
から選択される、アミダーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
以下のポリペプチド:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および
(b)配列番号4に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド
から選択される、アミダーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
一般式(I):
【化1】

[式中、
R1は、アルキル、アルコキシアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘタリールを表し、
R2は、アルキル、シクロアルキルまたはアリールを表す。]
の光学活性な3-アミノカルボン酸エステル化合物およびそのアンモニウム塩の製造方法であって、一般式(I.b):
【化2】

[式中、
R1およびR2は上記の意味を有し、R3は水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールを表す。]
の単純N-アシル化3-アミノカルボン酸エステルのエナンチオマー混合物を、請求項1または2に記載のポリペプチドを添加することにより、エナンチオ選択的脱アシル化に供する、上記方法。
【請求項4】
一般式(I’):
【化3】

[式中、
R1は、アルキル、アルコキシアルキル、アルケニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘタリールを表し、
R2は、水素、カチオン当量M+、アルキル、シクロアルキルまたはアリールを表す。]
の光学活性な3-アミノカルボン酸エステル化合物およびその誘導体の製造方法であって、
(a)一般式(I.1):
【化4】

[式中、
R1およびR2は上記の意味を有する。]
のβ-ケトエステルを、
(a1)アミド化触媒の存在下で、式R3-C(O)NH2(式中、R3は上記の意味を有する)の少なくとも1種のカルボン酸アミドと、または
(a2)アンモニアおよび続いて式R3-C(O)X(式中、Xはハロゲンまたは式OC(O)R4(式中、R4はR3についての上記の意味を有する)の残基を表す)のカルボン酸誘導体と
反応させ、一般式(I.a):
【化5】

[式中、
R1、R2およびR3は上記の意味を有する。]
の対応するN-アシル化α-β-不飽和(Z)-3-アミノカルボン酸エステルを取得し、
(b)この反応で得られたエナミド(I.a)を水素化に供し、一般式(I.b):
【化6】

[式中、
R1、R2およびR3は上記の意味を有する。]
の単純N-アシル化β-アミノカルボン酸エステルのエナンチオマー混合物を取得し、
(c)水素化で得られた化合物(I.b)のエナンチオマー混合物を、請求項1に記載のポリペプチドを添加することにより、エナンチオ選択的脱アシル化に供し、1つの立体異性体に関して富化された得られた3-アミノカルボン酸エステルのアンモニウム塩を単離し、かつ
(d)任意により、単離されたアンモニウム塩を3-アミノカルボン酸エステルに変換し、かつ
(e)任意により、3-アミノカルボン酸エステルを、遊離の3-アミノカルボン酸またはその塩に変換する、
上記方法。
【請求項5】
式(I.1)のβ-ケトエステルを、反応水を除去して、アミド化触媒の存在下で、式R3-C(O)NH2の少なくとも1種のカルボン酸アミドと反応させて、式(I.a)の3-アミノカルボン酸エステルを形成させる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
脱アシル化が、反応媒体としての水性バッファー中で行なわれる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
水素化(b)が、元素周期表の第8族〜第11族の遷移金属の少なくとも1種の錯体を含みかつ配位子として少なくとも1種のキラルなリン原子含有化合物を含む水素化触媒の存在下で行なわれる、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
R1がフェニルを表し、R2およびR3が請求項2に記載した意味を有する、請求項3または4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−505710(P2013−505710A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530267(P2012−530267)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064098
【国際公開番号】WO2011/036233
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】